2020年07月30日

●「ファーウェイの封じ込めは可能か」(EJ第5298号)

 米政府による在ヒューストン中国領事館閉鎖事件について、も
う少し述べることにします。日本としても今後の中国との向き合
い方について、熟慮する必要があるからです。
 前にも述べたように、今回の中国領事館閉鎖は、米国政府とし
ては、よくよくのことがあってのことだと思います。そうでなけ
れば、いきなり領事館を閉鎖するなどという乱暴なことはしない
はずです。それほど、中国の情報スバイ行為は、度を超していた
ものと考えられます。
 領事館閉鎖について、当該領事館のスタッフは「証拠を示せ」
といっていましたが、米国からすれば、証拠は山ほどあるようで
す。そんなものを米政府が公表するはずがないことを踏まえたう
えで、国内向けに「証拠を示せ」といっているのです。
 今回の件に関係して、中国軍との関係を隠して不正にビザを取
得して入国し、大学などで、研究活動に従事していた中国人3人
と、在サンフランシスコ中国領事館に逃げ込んだ中国人女性研究
者の身柄を拘束したことを米国司法省は明らかにしています。こ
れらの4人は、米研究機関にいる中国人のスパイに、どのような
情報を盗むべきかを具体的に指示し、米国の捜査の手からどのよ
うにして逃れるかなどについて指導する立場のスタッフとみられ
ヒューストンの総領事館がスパイ活動の拠点となっていたことを
示しています。法律によって、国民総スパイ化を進めている中国
では、おそらく今後も、このような活動をやめないものと考えら
れます。これでは、他国から非難を浴びて当然です。
 中国との関係の温度差を計る指標として、米国のトランプ政権
が求める「5G」からの中国通信機器大手の為華技術(ファーウ
ェイ)の排除についての対応があります。既に指摘しているよう
に、英国はこれまで条件付きで認めてきた「5G」からのファー
ウェイ排除を決めています。
 といっても、すぐ排除はできず、最長2028年までに排除す
ることになります。ファーウェイの機器を使う通信会社に対して
は、事業許可を3〜8年しか与えないという方法で、ファーウェ
イ製品の完全排除を行うのです。
 問題はフランスの意向です。フランスのマクロン政権は、トラ
ンプ米政権とは水と油の関係で、これまでファーウェイを排除し
ないと公的に宣言し、その一方で情報漏洩などのリスクを見極め
ようとしてきたのです。しかし、中国による新型コロナウイルス
発生後の攻撃的な発言、香港の自治侵害、ウイグル族への弾圧疑
惑などが相次ぎ、ファーウェイ排除に関して、英国と同様に20
28年までの排除を決めています。これによって、中国の関係は
確実に悪化します。
 なぜ、「5G」がそれほど重要なのかについて、渡邊哲也氏が
宮崎正弘氏との対談で語っています。
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渡邊哲也:「G」というのはゼネレーション、世代という意味で
 す。1Gが昔あったショルダーフォン、アナログ電話、2Gが
 デジタル携帯、3Gとなると、iモードやEZWEBなどの通
 信ができる携帯、そして4Gが今のスマートフォンです。それ
 で、5Gがどういうものか簡単にいうと、これまで片側相互通
 行だったのが、一気に片側100車線程度まで広げる、という
 規模になります。
宮崎正弘:率直にいって個人ユーザーなら4Gで十分でしょう。
渡邊哲也:そうです。したがって5Gというのは電話ばかりでは
 なく、デジタルによる新たな社会インフラ構築のことです。自
 動運転、スマートグリッドと呼ばれる電力の効率化、医療の遠
 隔操作を可能とします。(一部略)
宮崎正弘:中国はそれを悪用して超管理社会を作ろうとしている
 わけだ。
渡邊哲也:ですから、逆に言えば、5Gの世界は通信ネットワー
 クテロの危険性の増大を意味します。アメリカはファーウェイ
 排除の口実として個人情報の保護やスパイ活動を問題視してい
 ますが、本当はサイバーテロです。個人の情報なんて盗まれた
 ところで大した問題ではないけれど、ネットワークが破壊され
 ればAIの自動運転による自動物流が止まる、電力も止まる。
 下手なミサイル1発撃つよりよほど効果的で、国家の機能を止
 める破壊力を持ちうる。だからこそ、5Gにファーウェイを使
 うなと各国に圧力をかけている。──宮崎正弘/渡邊哲也共著
    『コロナ大恐慌/中国を世界が排除する』/ビジネス社
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 これに関連して「ファイブ・アイズ」というものがあります。
これは、西側の諜報機関同盟のことです。米国のCIA、英国の
M16をはじめとした西側の情報機関の連携のことで、カナダ、
オーストラリア、ニュージーランドの5ヶ国のことを「ファイブ
アイズ」といっているのです。フランスは入っていないのですが
フランスと日本を加える案もあります。
 しかし、ファーウェイを本当に締め出すことは、本当に可能な
のでしょうか。
 ファーウェイは意外に強く、有利なポジションを占めているの
です。もし、西側陣営からファーウェイを閉め出すと、5Gのネ
ットワークは、ファーウェイ、ノキア(フィンランド)、エリク
ソン(スウェーデン)の3陣営の争いになりますが、基地局から
端末生産まで一貫生産しているのはファーウェイだけなのです。
ノキアは基地局をNECやサムソンに、エリクソンは富士通に委
ねているし、端末は各携帯キャリアが生産しています。一貫した
構造をとっているのは、ファーウェイだけです。
 つまり、5Gの世界では、既にファーウェイが有利なポジショ
ンにいるので、ファーウェイに勝つには、6Gにおいて、主導権
を取るしかないのです。そのためには、西側がお互いに協力体制
を取る必要があります。日本企業は、6Gに向けて既に動き出し
ており、NTTは6Gの世界標準「IOWN(アイオン)」を提
唱しています。  ──[『コロナ』後の世界の変貌/042]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ締め出し、米通信機器業界に再編機運も
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  [ニューヨーク/1月24日ロイター]米政府が中国の通信
  機器大手、華為技術(ファーウェイ)を締め付ける結果、同
  社をサプライヤーとして取引してきた企業にとっては、真空
  地帯が生まれるかもしれない。米政府はこの機を捉えて、ま
  るで通信機器業界におけるM&A(合併・買収)仲介役にな
  ることができるという誘惑に駆られても不思議ではない。
   だが、中国企業バッシングの空気が米政府を「その気」に
  させようとも、政府が企業同士のマッチングを仕切るという
  のは、「見栄え」のよい対応とは言えない。トランプ米政権
  はファーウェイを市場から完全には締め出していないが、同
  社が米国の顧客から利益を得るのは難しくなった。一部の例
  外を除くと、米企業は海外でファーウェイに部品を供給する
  ことができず、国内で次世代通信規格5Gのネットワークを
  構築する際にファーウェイ機器を使うこともできない。
   ロイターは24日、米商務省がファーウェイに新たな規制
  を計画していたが、一部米政府機関の反対で導入を見送った
  と報じた。ファーウェイは5G機器の分野で世界屈指のメー
  カーで、製品価格が比較的安いサプライヤーである以上、こ
  れは驚きではない。こうしたことから、通信機器市場での、
  ファーウェイの優位後退に乗じて、米政府や政府機関が特定
  企業に国内の5G向けサプライチェーン強化のための新たな
  提携模索や、中国系企業が手放さざるを得なくなった技術資
  産の買収を検討するよう、提案する気になるかもしれない。
                  https://bit.ly/2BAhqQK
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中国総領事館から中国退去.jpg
中国総領事館から中国退去 

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする