2020年07月29日

●「中国による成都米国総領事館閉鎖」(EJ第5297号)

 中国外務省は、米国政府によるヒューストンの中国総領事館の
閉鎖への対抗策として、24日正午に在成都米国領事館の設置取
り消しを発表しました。この成都総領事館は、1985年に設置
されましたが、管轄地域のなかにチベット自治区が含まれるので
中国としては、実際のところ、真っ先に閉鎖したかった総領事館
だったと考えられます。
 中国外交当局関係者は「成都の米国外交官は、特にチベットの
軍事活動に関心を示してきた」と指摘しています。汪副報道官は
会見で、ふさわしくない活動に従事する米国の外交官が成都にい
たと強調しています。「米国だって、やっているじゃないか」と
いいたいのでしょう。
 どうしてこのようなことになったのでしょうか。ポンペオ米国
務長官は、敵意をむき出しにして、次のように述べています。
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 歴代の政策当局者は、中国が繁栄すれば自由で友好的な国にな
ると予測したが、関与は変化をもたらさなかった。習近平(シー
チンピン)総書記は失敗した全体主義イデオロギーの信奉者だ。
レーガン大統領はソ連について「信用するが検証せよ」としたが
中国共産党については「信用せず、検証せよ」だ。
                   ──ポンペオ国務長官
      2020年7月25日付、朝日新聞/「時時刻刻」
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 ポンペオ国務長官は、「中国が繁栄すれば自由で友好的な国に
なる」といっていましたが、中国に自由世界への門戸を開く努力
をしたのは、クリントン元大統領です。EJでも、2017年に
「米中戦争の可能性」のなかで取り上げているので、その一節を
再現します。中国は米国の好意を裏切ったのです。
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 クリントン元大統領は、中国に相応の市場開放を確約させるこ
となく、米国が市場を大幅に開放すれば、経済的に大きなダメー
ジを受けることは最初からわかっていたのです。中国のWTO加
盟を認めることはそれを意味しているのです。
 WTOに加盟すれば貿易は増大する。そうなれば中国は民主主
義国へと変化せざるを得ない──クリントン元大統領はそのよう
に考えたのです。確かに世界の人口の5分の1を擁する巨大な市
場が開かれれば、米国にも大きな利益がもたらされます。そして
中国が民主国家になれば、合わせて平和がもたらされるに違いな
いと考えたのです。
 しかし、中国は、あらゆる機会をとらえて自由貿易システムを
操作し、それによって利益を最大化することによって、自国経済
のみを発展させたのです。そして、米国経済に深刻なダメージを
与えたのです。「経済的関与が民主化と平和を促進する」という
考え方は、中国には通じなかったのです。
        ──2017年5月29日/EJ第4529号
                  https://bit.ly/2ZXxtS1 ─────────────────────────────
 中国がソ連の場合と違う点は、ソ連は自由世界の外にいたけれ
ども、中国は既に内側にいることです。したがって、ソ連のよう
に中国を封じ込めると、世界経済全体が大きなダメージを受ける
ことになります。そのため、1国では対処できず、自由主義の側
が団結して本気で中国を変えないと、中国が自由主義の側を変え
ることになってしまうことになります。ポンペオ国務長官の演説
は、そのことを訴えているのだと思います。
 今回の米国の中国総領事館の閉鎖は、トランプ大統領の11月
の大統領選のパフォーマンスであるという意見もありますが、中
国の知識人は「そうではない」といっています。対米関係の北京
の専門家は、次の指摘をしています。
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 大統領選が終わるまでの我慢だという意見もあるが、どちらが
勝っても米中関係が元に戻る可能性は低いだろう。我々はその前
提で、対米政策を考える必要がある。
      2020年7月25日付、朝日新聞/「時時刻刻」
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 そもそも社会主義国が自由主義国のなかで経済活動を営むこと
には無理があるのです。アリババの対米投資は、2018年には
12億ドルになっていましたが、シリコンバレーからの撤退を決
めています。子会社による米決済企業の買収が、CFIUS(対
米外交投資委員会)によって阻止され、後退を余儀なくされたの
です。米国では無理なのです。
 これに関連して、渡邊哲也氏と宮崎正弘氏は、次のようにやり
とりしています。
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渡邊哲也:結局、マルコ・ルビオなどは、中国企業をウォールス
 トリートから完全に追い出せと言ってしまっている。なぜかと
 いうと、中国の場合、法律で会計資料や会計データを国外に持
 ち出せないのです。
宮崎正弘:無茶苦茶なのだよね。よく今まで許してきた。それに
 してもフロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員の活躍は目覚
 ましい。かれはキューバ系です。
渡邊哲也:資料を持ち出せないということは、監査ができないわ
 けだから、それを上場させていること自体がおかしい、という
 のが、マルコ・ルビオの論説なのです。
                ──宮崎正弘/渡邊哲也共著
    『コロナ大恐慌/中国を世界が排除する』/ビジネス社
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 社会主義の国が自由主義の国のルールでうまくやっていけない
ように、その逆もうまくいかないのです。米中貿易戦争の激化で
GAFAが中国事業の拡大に大きなネックが生じてきているのも
そこに無理があるからなのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/041]

≪画像および関連情報≫
 ●中国・成都の米総領事館の閉鎖を通知/米国への対抗措置
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   中国政府は7月24日、アメリカ政府がテキサス州ヒュー
  ストンにある中国総領事館の閉鎖を命じたことに対抗して、
  四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖するようアメリカ
  側に通知したと発表し、両国の関係悪化は深刻さを増してい
  ます。中国外務省は、内陸部の四川省成都にあるアメリカ総
  領事館の設置許可を取り消し、一切の業務を停止するよう、
  24日午前、アメリカ側に通知したと発表しました。
   これについて汪文斌報道官は24日の記者会見で、「アメ
  リカ側が21日に突然、テキサス州ヒューストンにある中国
  総領事館の閉鎖を要求してきた。これは国際法や国際関係の
  基本原則に違反し、両国関係を著しく破壊するものだ」と強
  く非難したうえで、アメリカ総領事館の閉鎖は「いわれのな
  い行為への正当な対応だ」として、対抗措置であることを明
  らかにしました。
   そして、今回の措置に至った責任について、「完全にアメ
  リカ側にある」と指摘し、ヒューストンの中国総領事館の閉
  鎖を撤回し、両国関係を正常な状態に戻すよう求めました。
  また、「成都のアメリカ総領事館員の中には、その資格と異
  なる活動をしている人がいて、中国の内政に干渉し、中国の
  安全や利益を損なっている」と指摘し、アメリカ側をけん制
  しました。一方、アメリカのポンペイオ国務長官が23日の
  演説で、習近平国家主席を名指しして、「全体主義のイデオ
  ロギーの信奉者だ」などと強く非難したことについて、汪報
  道官は、「中国共産党と中国の社会制度を悪意をもって攻撃
  したものだ。事実をねじ曲げ、イデオロギー的な偏見に満ち
  ている」と激しく反発するなど、両国の関係悪化は深刻さを
  増しています。         https://bit.ly/32VyrQu
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中国が米総領事館閉鎖を通知.jpg
中国が米総領事館閉鎖を通知 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする