2020年07月20日

●「藤井聡太新棋聖誕生に考えること」(EJ第5292号)

ジャーナル」(第5292号)をお届けします。
 今朝のEJは、思うところがあって、テーマとは直接関係はあ
りませんが、将棋の藤井聡太七段の「棋聖」位獲得の快挙につい
て、書くことにします。私自身、藤井七段のお蔭で、スマホによ
る「将棋観戦」を人生のひとつの楽しみして覚えたからです。
 私自身は将棋はルールを知る程度で詳しくはないし、最近では
指すことはありませんが、藤井七段のタイトル戦は、開始から最
後まで、感想戦を含めて、ABEMA・TVをスマホをつけっぱ
なしにして、毎回視聴しています。最近は「観る将」といって、
こういう見方をしている人は多いらしく、18日の日本経済新聞
の朝刊は、次のように報道しています。
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 新たなスターの登場とともに、AIの普及は将棋観戦の楽しみ
も広げた。多くの将棋対局を中継するインターネットテレビ「A
BEMA(アベマ)」は、「先手56%〜後手44%」といった
AIによる評価値を映し出し、形勢判断は一目瞭然。自分では指
さない「観る将」と呼ばれるファンの開拓に貢献している。
 アベマの20年上半期人気番組トップ10は、アイドルグルー
プ「乃木坂46」の番組などに続き、将棋中継が5、6、8位に
ランクイン。新棋聖が誕生した棋聖戦第4局は視聴数は600万
を超えた。     ──2020年7月18日/日本経済新聞
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 意外に知られていないことですが、藤井聡太七段は、いつも試
合会場にはリックを背負ってきますが、そのなかには複数社の新
聞が入っているのです。自分のことが載った新聞を持ち歩いてい
るのではなく、その日の朝刊をリックに入れています。
 現在、20代の若者の新聞の購読率はわずか8%(2015年
現在)であり、17歳の藤井聡太七段が新聞を読んでいるとは誰
も信じないでしょう。7月18日付の日本経済新聞の「春秋」に
次の記事があります。
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 デビューから無敗の29連勝。前人未踏の新記録を打ち立てた
のが中学の制服姿が初々しい藤井聡太さんだった。連勝が止まっ
た際のコメントが凄い。朝日新聞の取材に「まだ実力的に及びま
せん。むしろこのあたりで『平均への回帰』が起こるのではない
かと」。保険料の算出などに登場する統計学の概念に触れ、今の
成績はサンプルが少なく、本物と評価できないと謙遜したのだ。
理詰めのリアリストだ」。    ──2020年7月18日付
                       日本経済新聞
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 17日のことです。朝日新聞記者に感想を問われた藤井七段は
「醍醐味」という言葉を口にしています。これまでも、「実力か
らすると、『望外の結果』」といい、「『僥倖』としかいいよう
がない」と答えています。とてもじゃないが、17歳の少年の使
う語彙ではあり得ない。それは、日頃から新聞をていねいに読ん
でいる成果であると思います。母親の裕子さんによると、小学校
高学年で、司馬遼太郎「竜馬がゆく」や沢木耕太郎「深夜特急」
などを読破しているといいます。
 将棋の戦法のことは詳しくはわかりませんが、新聞によると、
今回の棋聖戦は次の戦法で戦われています。
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               渡邊棋聖   藤井七段
   第1局 ・・・・ 矢倉    ●      〇
   第2局 ・・・・ 矢倉    ●      〇
   第3局 ・・ 角換わり    〇      ●
   第4局 ・・・・ 矢倉    ●      〇
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 「矢倉」というのは王将をがっちり固める戦法であり、中原誠
16世名人や、米長邦雄永世棋聖が得意とした戦法で、米長邦雄
氏は、矢倉のことを「将棋の純文学である」という明言を残して
います。渡邊棋聖はこの「矢倉」を得意とし、藤井七段は「角換
わり」を得意とするのですが、第3局は「角換わり」で戦ってな
ぜか敗れています。加藤一二三・九段は、渡邊棋聖に「矢倉」の
力比べで勝っているのは、藤井聡太七段の今後にとってプラスで
あるといっています。
 2020年7月18日付、朝日新聞の社説「『感想戦』に学び
たい」は、なかなか感動的です。
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 新聞を愛読し、「僥倖」「望外」といった言葉を使いこなす高
校生棋士が、若者らしさを一番感じさせるのは負けた時だ。投了
後に両者が一緒に対局をふり返って、勝因、敗因などを分析する
「感想戦」では、何度もため息をつき、うなだれる。藤井新棋聖
は、多くの有力棋士と同じく、この感想戦を大切にしてきた。
 かつて好きな言葉を聞かれて「感想戦は敗者のためにある」と
答えた。「感想戦という行為自体が他(の世界)では珍しいと思
う」。おとといの対局後も、相手の渡邊明棋聖(棋王/王将)と
30分ほどの感想戦に臨んだ。
 それぞれの場面で自分が何を考えたのかを語り合い、より良い
一手があったのかを共同作業で探究する。人工知能(AI)でも
すべてを解明することはできないといわれる将棋の奥深さと、そ
こに一歩でも近づこうという熱意。悔しい負けを喫したばかりの
渡辺棋聖が、ていねいな言葉づかいで19歳下の藤井新棋聖に意
見を請うシーンには、胸を打つものがあった。
     ──2020年7月18日付、朝日新聞「社説」より
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 もうひとつ心に残る話があります。「将棋の神様にもし会えた
ら、何をお願いしますか」と聞かれた藤井聡太七段は次のように
答えています。「一局、お手合わせをお願いしたい」。なかなか
いえる言葉ではないです。藤井新棋聖が、既に2勝している「王
位」戦でもタイトルを獲得することを願っています。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/036]

≪画像および関連情報≫
 ●藤井新棋聖誕生!/現役棋士・真田圭一八段が考えるタイト
  ル獲得決め手となった一手とは
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   藤井聡太七段(17)渡邊明棋聖(棋王、王将)に挑んだ
  第91期棋聖戦五番勝負の第4局が7月16日、関西将棋会
  館(大阪市福島区)で指され、後手の藤井七段が勝利。3勝
  1敗でシリーズを制し、17歳11か月の史上最年少で初タ
  イトルを獲得した。この第4局の藤井七段の戦いぶりについ
  て、25歳でタイトル戦・竜王戦の挑戦経験がある真田圭一
  八段(47)に聞いた。
   まずは藤井新棋聖、タイトル獲得おめでとうございます。
  第4局も期待に違わぬ大熱戦となりました。この対局も非常
  にハイレベルの戦いになりましたが、藤井将棋の特徴がよく
  出た一局だったと思います。
   彼の最大の長所は、悪い手を指さないこと。常にすごい手
  を指すわけではないですが、自らバランスを崩す手は決して
  指さない。簡単なようですが、タイトルホルダー相手でも先
  に崩れない。これはすごい手を一手指して勝つより実は相当
  に大変で、真の実力がないとできないことです。若さとか勢
  いとかの要素は極めて少なく、実力を発揮してのタイトル獲
  得と評していいと思います。難解な第4局でしたが、勝因と
  なった手を挙げれば、終盤の82手目、△86桂と打った局
  面だと思います。飛車をタダで取られてしまうので指しにく
  い手ですが、好手でした。タイトル獲得がかかった一戦でし
  たが、一局を通してプレッシャーを感じさせない内容で素晴
  らしかったと思います。     https://bit.ly/2ZE1wxH
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藤井聡太新棋聖誕生!.jpg
藤井聡太新棋聖誕生!
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする