2020年07月16日

●「一帯一路構想はコロナで崩壊寸前」(EJ第5290号)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、嫌中現象が拡大しつ
つあります。これについて、中国海洋石油の元CEOの博成玉氏
は「この状態は1〜2年続く」と予測していますが、今回のコロ
ナ禍はそんな程度では終らないと考えられます。
 ハーバード大学の調査チームによると、この災禍の完全な収束
には、二次感染、三次感染が起きるので、ワクチンが開発される
ことが必要条件であり、そのためには2024年を待たなければ
ならないというのです。
 目下習近平政権が鋭意進める「一帯一路計画」は、コロナ禍に
よって、どうなるでしょうか。中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏
と渡邊哲也氏は、一帯一路について次のように述べています。
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宮崎正弘:中国経済は、貿易戦争で明らかになった米中の全面対
 立で、ただでさえ悲鳴を上げていたところに、武漢コロナの大
 災禍が加わり、崩壊寸前です。中国を中心とした世界的なサプ
 ライチェーンが見直さざるをえず、日本、韓国、台湾のみなら
 ず、アジア一帯がおかしくなる。つまり、一帯一路の頓挫はも
 はや決定的となった。
渡邊哲也:一帯一路は全滅でしょうね。
宮崎正弘:ヒトの出入りが止まれば、自ずとモノの流れも滞る。
 次はカネの流れも止まる。
渡遵哲也:実際、サプライチェーンの麻痺は物流の麻痺へと拡大
 しています。たとえば、工場が止まれば工場に入るはずの資材
 の搬入も止まり、倉庫に荷物があふれていく。結果的に、上流
 の物流が止まり、モノは身動きが取れなくなってしまう。中国
 近海には、そのような貨物船が多数停泊中で、輸出のための荷
 物も動かなくなっている状況です。一部の税関も機能が停止し
 たままであるため、モノの出入国ができなくなっています。そ
 してモノが止まれば必然的にカネも止まる。中国では感染拡大
 を防ぐために人が集まったり会食したりすることを制限する動
 きが出ており、その影響が飲食業やサービス業を直撃していま
 す。すでに、北京市の有名カラオケ店が破産手続きに入ること
 が報じられているほどです。  ──宮崎正弘/渡邊哲也共著
    『コロナ大恐慌/中国を世界が排除する』/ビジネス社
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 1月17日〜18日にかけて、習近平主席は、ミャンマーを初
めて訪問し、アウンサン・スーチーミャンマー国家顧問との間で
「中国・ミャンマー経済回廊」の一環のインフラ建設協力に署名
していたのです。
 1月17日〜18日といえば、武漢でコロナウイルスの感染が
拡大し、その押さえ込みに、国のトップとして全力を尽くさなけ
ればならない重大なときであるのに、「一帯一路」の署名のため
に、のんびりとミャンマーを訪問していたのです。このせいで、
中国国内でのコロナ対応への初動が遅れたのではないかと批判さ
れているのです。その翌週の1月23日、武漢市は突如封鎖され
ています。
 この習近平主席が主導する巨大経済圏構想「一帯一路」につい
ては、インフラ開発の名の下に参加国が重い借金を背負わされ、
計画が遅れたり頓挫したりする事態も生じています。
 具体的にいうと、エチオピア〜ジブチ鉄道は棚上げとなり、マ
レーシア〜シンガポール間高速鉄道プロジェクトは中止、パキス
タンの政権交代に伴う一帯一路事業の見直しなど、2018年以
来、計画の頓挫が続いているのです。欧米諸国からは、返済見込
みのない事業に多額の融資をして相手国を借金漬けにして支配す
るやり方を「債務の罠」とか、「中国式植民地主義」などと非難
されてイメージも地に落ちています。それに加えて、今回のコロ
ナ禍です。
 6月19日時点で16万人以上が感染しているパキスタンでは
一帯一路を象徴する620億ドル(約6兆6200億円)規模の
巨大インフラ事業「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」計画
が大きく遅れています。パキスタンは、中国からの300億ドル
(約3兆2000億円)の融資について、返済期間の延長を要請
しています。
 中国の一帯一路計画と、新型コロナウイルスの影響について、
中国の事情に詳しい福島香織氏は次のように述べています。
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 一帯一路戦略全体については、ロイター通信が一帯一路に参画
する10企業以上のハイレベル幹部たちに取材したところ、新型
コロナ肺炎の影響でかなり支障が出ている。一帯一路沿線国家の
インフラ建設現場への労働者派遣ができず、また中国国内の工場
運営や物流もコロナ肺炎の流行によって阻害されているため、一
帯一路建設に必要な中国からの輸入資材が届いてないことから、
各地で一帯一路関連建設が棚上げ状態になっているという。
 中国国営中鉄国際集団がインドネシアで60億ドル投資した高
速鉄道建設計画がその一例だ。140キロに及ぶこの高速鉄道建
設工事は、首都ジャカルタと紡績工業都市のバンドンをつなぐ予
定だが、中鉄国際集団の匿名の幹部によれば、新型コロナ肺炎の
影響をうけて、社内で新型コロナ肺炎監視チームがつくられてお
り、春節休みに帰国していた社員らがインドネシアに戻らないよ
うに監督しているという。このため、100人以上のエンジニア
や管理部門の人員がインドネシアに戻れず、工事が中断せざるを
得ない状況らしい。またインドネシアは今月はじめから中国から
の航空便を全面的に暫定停止。過去14日間に中国滞在歴のある
人の入国を禁止した。        https://bit.ly/3fuZ826
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 結局のところ、一帯一路の本質は何かといえば、金による買収
モデルであり、新興国をはじめ、貧しい国への投資と政治家や有
力者に対する資金援助なのです。しかし、地元の雇用は生まず、
それが原因で、地元住民との対立は避けられなかったのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/034]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナで狂う中国「一帯一路」、労働者不足の影響
  じわり
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   中国の習近平国家主席が進める、広域経済圏構想「一帯一
  路」はこれまで、同国の影響力を世界中に見せつけるための
  策と見なされてきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡
  大は、この構想がいかに同国からの問題の輸出につながるか
  を示している。
   感染拡大の影響で、中国が国外で進めるインフラ建設や投
  資計画には遅れが生じている。検疫措置によって中国人労働
  者は他国の建設現場に行けず、国外プロジェクトを担当する
  中国企業は深刻な労働力不足に直面している。中国人労働者
  が自覚症状のないまま新たな現場でウイルスをまき散らしか
  ねないとの懸念も高まっている。
   新型コロナは既に総工費55億ドル(約5800憶円)の
  インドネシア高速鉄道計画など複数のプロジェクトに影響を
  与えている。インドネシアのルフット調整相(海事・投資担
  当)は5日、一帯一路の旗艦プロジェクトであるジャカルタ
  とバンドンを結ぶ高速鉄道プロジェクトが遅延に直面しそう
  だと述べた。300人以上の労働者が中国で足止めされてい
  るという。隣のマレーシアでは、総工費104億ドルの東海
  岸鉄道の建設に従事している約200人の中国人労働者のう
  ち、12人が新型コロナ発生地である武漢市の出身だ。彼ら
  はマレーシアに再入国することが許されていない。
                  https://bit.ly/3j3wTte
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中国の「一帯一路構想」.jpg
中国の「一帯一路構想」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする