2020年07月01日

●「米国はなぜ感染を防げなかったか」(EJ第5279号)

 3月に入ってからの米国における新型コロナウイルスの感染拡
大について、30年以上ワシントンに在住している古森義久氏の
本から、探ってみることにします。
 「首都のワシントンから見るアメリカが一夜にして変わった」
──このようにいうと、誇張に聞こえるかもしれないが、自然な
感覚でそれは突如として起きたと古森義久氏はいいます。東海岸
の首都ワシントンDCからみると、新型コロナウイルスの感染拡
大は、米国北西部の西海岸のワシントン州で起きている遠くの出
来事という感覚だったのです。
 それが3月の上旬になると、少しずつ、しかし、着実に、一定
方向に変わりはじめ、そして、そのスピートが一気に上がったの
です。ワシントンDCで初めての感染者が出たのは、3月7日の
ことです。その人は、都心部のジョージタウン地区にあるキリス
ト教会の牧師だったのです。したがって、教会で信徒たちと多く
の接触の機会があり、感染者が広がったのです。
 連邦議会でも上院議員に感染者が出たのです。そのため、議会
関連の公聴会や集会が中止や延期になるなど、影響がではじめて
います。そして、3月11日にWHOはパンデミックを宣言し、
トランプ大統領による国家非常事態の宣言が行われます。
 ところで、日本では、とても不思議な現象があります。国会は
「3密」の見本のような場所です。しかも、最近までマスクすら
つけずに議論していたのです。しかるに、日本の国会議員でコロ
ナウイルスの感染者になった人はなぜかいないのです。聞いたこ
とがあるでしょうか。外国では、英国のジョンソン首相がかかっ
ていますし、他国の多くの議員も罹患しています。なぜ、日本の
国会議員は、感染者にならないのでしょうか。
 それはさておき、3月上旬の首都ワシントンでの感染者は合計
5人だったのです。しかし、それから18日後の3月25日にな
ると、同じ首都の感染者は1000人を超えてしまったのです。
オーバーシュートです。拡大のスピードが非常に早いのです。こ
れを米国全体で見ると、次のようになります。
─────────────────────────────
    1月21日 ・・         1(0)
    2月20日 ・・        14(0)
    2月29日 ・・        24(1)
    3月 5日 ・・      175(12)
    3月 8日 ・・      495(22)
    3月11日 ・・     1203(38)
    3月13日 ・・     2160(50)
    3月17日 ・・     5656(96)
    3月18日 ・・    7999(118)
    3月28日 ・・ 101657(1581)
                   括弧内の数字は死亡者
         ──古森義久著/『新型コロナウイルスが世
界を滅ぼす/非常事態で問われる国家のあり方』/ビジネス社刊
─────────────────────────────
 ここで考えてみるべきことがあります。米国は、名目国内総生
産(GDP)が世界一の経済大国であり、ニューヨークは、世界
で最も繁栄している都市です。それに加えて、これも世界一とい
われる米疾病対策センター(CDC)を有しており、その医療レ
ベルは非常に高い国です。
 その米国がなぜ新型コロナウイルスの感染を押さえ込めなかっ
たのでしょうか。その原因は2つあります。
─────────────────────────────
     @大統領が専門家の意見を信用しないこと
     ACDCの予算と人員を削減していること
─────────────────────────────
 @について考えます。
 トランプ大統領は、ビジネスマンとしての自分の能力を過信し
大統領就任直後から、米国の利益を最優先する「アメリカ・ファ
ースト(米国第一)」を掲げて、あらゆる分野の専門家の意見を
軽視する傾向があります。
 しかし、ウイルスには国境はなく、全人類の敵であるので、こ
れまでの米国は、世界60ヶ国以上に職員を派遣し、各国の専門
家とも交流を重ねながら、資金も拠出して、世界の牽引役となっ
てきたのです。
 トランプ政権以前の米国はそのスタンスを守ってきています。
2002年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が中国を襲った
とき、CDCの専門家40人を現地に派遣して支援していますし
H7N9型のインフルエンザが中国で発生したときは、米中が共
同研究を実施し、中国の開発したワクチンが米国側に提供されて
います。こういう問題で国と国とが争うのは、人類にとって不幸
なことだからです。
 続いてAについて考えます。
 しかし、トランプ政権の下では、国際保健分野は冷遇されてい
ます。トランプ政権は、CDCの予算と人員を削減し、エボラ出
血熱対策の教訓から設けられている国家安全保障会議(NSC)
のパンデミック担当チームも2018年には解体されています。
そんなものにカネをかけるのは、無駄だと考えているからです。
 このことに追い打ちをかけたのは通商分野での米中衝突です。
中国のCDCにも米国の専門家のポストが用意されているのです
が、トランプ政権の現在は空席のままです。しかし、武漢で新型
コロナウイルスの感染が広がったとき、米国は専門家派遣を中国
に打診していますが、中国側に断られています。
 こういう情報もあります。米CDCは、新型コロナウイルス用
の検査キットを開発しましたが、その検査キットに不備があり、
国内感染を防ぐことができなかったといいます。「アメリカ・フ
ァースト」では、こういうとき、国際的な連携がうまくいかなく
なり、結局は自国のマイナスになることが多いのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/023]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカと中国/パンデミック下の暗闘/その2
  ───────────────────────────
   「新冷戦」とも呼ばれるアメリカと中国の覇権争い。新型
  コロナウイルスの感染拡大の責任追及を巡り、情報戦が激し
  さを増す中、中国は、各国への医療支援を積極的に活用する
  「マスク外交」に乗り出している。これに懸念を強めるアメ
  リカ国内では、中国経済からの切り離し=デカップリングを
  求める声と米中の2大国の協力を促す声が交錯している。
   中国の外交官や国営メディアの英語版のツイッター上には
  中国から輸送された大量の医療物資が各国に到着した場面を
  撮影した画像や、受け入れ国の喜びの声であふれている。中
  国政府は4月10日、これまでに127の国に医療物資を輸
  送、11の国に医療チームを派遣したと発表。輸出した物資
  はマスク38億6000万枚、防護服3700万着、人工呼
  吸器1万6000台など総額で102億人民元、日本円で、
  1500億円余りに上るとしている。中国政府の、いわゆる
  「マスク外交」だ。
   中国のプロパガンダを監視するアメリカ国務省のガブリエ
  ル特使は、中国の情報戦の重点がこの「マスク外交」の宣伝
  に移ったと指摘する。「中国政府は当初は『ウイルスの発生
  源がアメリカ』という偽情報を各地で発信したもののアフリ
  カで否定的な反応が相次ぐなど功を奏さなかった。このため
  中国の情報発信は、中国政府の行動の賛美へと変わった」。
                  https://bit.ly/31kWFTr
  ───────────────────────────

米中の新冷戦.jpg
米中の新冷戦
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする