2020年07月01日

●「米国はなぜ感染を防げなかったか」(EJ第5279号)

 3月に入ってからの米国における新型コロナウイルスの感染拡
大について、30年以上ワシントンに在住している古森義久氏の
本から、探ってみることにします。
 「首都のワシントンから見るアメリカが一夜にして変わった」
──このようにいうと、誇張に聞こえるかもしれないが、自然な
感覚でそれは突如として起きたと古森義久氏はいいます。東海岸
の首都ワシントンDCからみると、新型コロナウイルスの感染拡
大は、米国北西部の西海岸のワシントン州で起きている遠くの出
来事という感覚だったのです。
 それが3月の上旬になると、少しずつ、しかし、着実に、一定
方向に変わりはじめ、そして、そのスピートが一気に上がったの
です。ワシントンDCで初めての感染者が出たのは、3月7日の
ことです。その人は、都心部のジョージタウン地区にあるキリス
ト教会の牧師だったのです。したがって、教会で信徒たちと多く
の接触の機会があり、感染者が広がったのです。
 連邦議会でも上院議員に感染者が出たのです。そのため、議会
関連の公聴会や集会が中止や延期になるなど、影響がではじめて
います。そして、3月11日にWHOはパンデミックを宣言し、
トランプ大統領による国家非常事態の宣言が行われます。
 ところで、日本では、とても不思議な現象があります。国会は
「3密」の見本のような場所です。しかも、最近までマスクすら
つけずに議論していたのです。しかるに、日本の国会議員でコロ
ナウイルスの感染者になった人はなぜかいないのです。聞いたこ
とがあるでしょうか。外国では、英国のジョンソン首相がかかっ
ていますし、他国の多くの議員も罹患しています。なぜ、日本の
国会議員は、感染者にならないのでしょうか。
 それはさておき、3月上旬の首都ワシントンでの感染者は合計
5人だったのです。しかし、それから18日後の3月25日にな
ると、同じ首都の感染者は1000人を超えてしまったのです。
オーバーシュートです。拡大のスピードが非常に早いのです。こ
れを米国全体で見ると、次のようになります。
─────────────────────────────
    1月21日 ・・         1(0)
    2月20日 ・・        14(0)
    2月29日 ・・        24(1)
    3月 5日 ・・      175(12)
    3月 8日 ・・      495(22)
    3月11日 ・・     1203(38)
    3月13日 ・・     2160(50)
    3月17日 ・・     5656(96)
    3月18日 ・・    7999(118)
    3月28日 ・・ 101657(1581)
                   括弧内の数字は死亡者
         ──古森義久著/『新型コロナウイルスが世
界を滅ぼす/非常事態で問われる国家のあり方』/ビジネス社刊
─────────────────────────────
 ここで考えてみるべきことがあります。米国は、名目国内総生
産(GDP)が世界一の経済大国であり、ニューヨークは、世界
で最も繁栄している都市です。それに加えて、これも世界一とい
われる米疾病対策センター(CDC)を有しており、その医療レ
ベルは非常に高い国です。
 その米国がなぜ新型コロナウイルスの感染を押さえ込めなかっ
たのでしょうか。その原因は2つあります。
─────────────────────────────
     @大統領が専門家の意見を信用しないこと
     ACDCの予算と人員を削減していること
─────────────────────────────
 @について考えます。
 トランプ大統領は、ビジネスマンとしての自分の能力を過信し
大統領就任直後から、米国の利益を最優先する「アメリカ・ファ
ースト(米国第一)」を掲げて、あらゆる分野の専門家の意見を
軽視する傾向があります。
 しかし、ウイルスには国境はなく、全人類の敵であるので、こ
れまでの米国は、世界60ヶ国以上に職員を派遣し、各国の専門
家とも交流を重ねながら、資金も拠出して、世界の牽引役となっ
てきたのです。
 トランプ政権以前の米国はそのスタンスを守ってきています。
2002年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が中国を襲った
とき、CDCの専門家40人を現地に派遣して支援していますし
H7N9型のインフルエンザが中国で発生したときは、米中が共
同研究を実施し、中国の開発したワクチンが米国側に提供されて
います。こういう問題で国と国とが争うのは、人類にとって不幸
なことだからです。
 続いてAについて考えます。
 しかし、トランプ政権の下では、国際保健分野は冷遇されてい
ます。トランプ政権は、CDCの予算と人員を削減し、エボラ出
血熱対策の教訓から設けられている国家安全保障会議(NSC)
のパンデミック担当チームも2018年には解体されています。
そんなものにカネをかけるのは、無駄だと考えているからです。
 このことに追い打ちをかけたのは通商分野での米中衝突です。
中国のCDCにも米国の専門家のポストが用意されているのです
が、トランプ政権の現在は空席のままです。しかし、武漢で新型
コロナウイルスの感染が広がったとき、米国は専門家派遣を中国
に打診していますが、中国側に断られています。
 こういう情報もあります。米CDCは、新型コロナウイルス用
の検査キットを開発しましたが、その検査キットに不備があり、
国内感染を防ぐことができなかったといいます。「アメリカ・フ
ァースト」では、こういうとき、国際的な連携がうまくいかなく
なり、結局は自国のマイナスになることが多いのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/023]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカと中国/パンデミック下の暗闘/その2
  ───────────────────────────
   「新冷戦」とも呼ばれるアメリカと中国の覇権争い。新型
  コロナウイルスの感染拡大の責任追及を巡り、情報戦が激し
  さを増す中、中国は、各国への医療支援を積極的に活用する
  「マスク外交」に乗り出している。これに懸念を強めるアメ
  リカ国内では、中国経済からの切り離し=デカップリングを
  求める声と米中の2大国の協力を促す声が交錯している。
   中国の外交官や国営メディアの英語版のツイッター上には
  中国から輸送された大量の医療物資が各国に到着した場面を
  撮影した画像や、受け入れ国の喜びの声であふれている。中
  国政府は4月10日、これまでに127の国に医療物資を輸
  送、11の国に医療チームを派遣したと発表。輸出した物資
  はマスク38億6000万枚、防護服3700万着、人工呼
  吸器1万6000台など総額で102億人民元、日本円で、
  1500億円余りに上るとしている。中国政府の、いわゆる
  「マスク外交」だ。
   中国のプロパガンダを監視するアメリカ国務省のガブリエ
  ル特使は、中国の情報戦の重点がこの「マスク外交」の宣伝
  に移ったと指摘する。「中国政府は当初は『ウイルスの発生
  源がアメリカ』という偽情報を各地で発信したもののアフリ
  カで否定的な反応が相次ぐなど功を奏さなかった。このため
  中国の情報発信は、中国政府の行動の賛美へと変わった」。
                  https://bit.ly/31kWFTr
  ───────────────────────────

米中の新冷戦.jpg
米中の新冷戦
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2020年07月02日

●「米国の感染者急増/経済再規制か」(EJ第5280号)

 6月26日のことです。ニューヨーク・タイムズ紙の集計によ
ると、米国では、4万5千人の感染者が確認されています。これ
は、3日連続で過去最高を記録しています。
 添付ファイルをご覧ください。米国の感染者数は、4月に一度
ピークを迎えています。これに対して、外出規制などの措置によ
り、感染者数は4月から5月にかけて減少をはじめたものの、米
国は6月に経済活動を再開しています。そうすると、米国のグラ
フは再び急上昇をはじめたのです。新たな感染者を比較的抑え込
んでいる欧州諸国とは対照的です。
 このグラフは、米国の焦りをあらわしています。トランプ政権
としては、11月の大統領選挙勝利に向けて、少しでも早く経済
を回復させたいという焦りがあるのです。
 これを受けて26日、トランプ政権の新型コロナウイルス・タ
スクフォースは会見を開いていますが、場所はホワイトハウスで
はなく、保健福祉省で、トランプ大統領は欠席です。この会見で
新型コロナウイルス対策の責任者であるペンス副大統領は、次の
発言をしています。
─────────────────────────────
 テキサス、フロリダ、アリゾナなどの州で、感染者が増えてい
ることは確かだが、医療態勢が整備されたこともあり、死者数は
減っている。多くの命を失った2ヶ月前に戻ると考える人もいる
が、それよりはだいぶいい状況だ。また、新規感染者の約半数が
重症化しにくい35歳未満の若者であるということは、ある程度
勇気づけられるニュースだ。       ──ペンス副大統領
             2020年6月28日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 このペンス副大統領の発言にも焦りが見られます。感染者の約
半数が若者でよかったといっていますが、そんなことはありえな
いです。この発言に対して、会見の場にいた国立アレルギー感染
症研究所のファウチ所長は次のようにクギをさしています。
─────────────────────────────
 若者であっても、感染すれば、知らぬ間に感染を広げる役割を
担うことになる。   ──国立アレルギー研究所ファウチ所長
─────────────────────────────
 若者の感染者の多くが無症状です。ということは、市中にはそ
ういう無症状の若者の感染者が多くいて、家族をはじめ、周辺の
人に自覚のないまま感染させていることを意味しています。これ
がこのウイルスの怖いところです。
 6月25日、米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッ
ドフィールド所長は、米国のアメリカの新型ウイルス感染者数は
実際は報告数の10倍以上とみられるという衝撃的な発表を行っ
ています。その根拠について、レッドフィールド所長は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 根拠として、ウイルス検査は症状が出ている人に限定されてい
る。3月から5月にかけて使われた診断方法では、おそらく10
%程度しか確認できていない。米国民の5〜8%が新型ウイルス
にさらされた。社会的距離を保ち、マスク着用と手洗いに努める
ようにしてほしい。秋と冬に向かう時期に、これらは非常に、非
常に重要な防御策となる。  ──CDCレッドフィールド所長
                  https://bbc.in/2BLqVMJ
─────────────────────────────
 米国の感染者数は、28日に250万人を超えており、レッド
フィールド所長の予測では、米国の市中には、10倍の2500
万人の無症状の感染者がいることになります。
 南部のテキサス州は、米国のなかでロックダウンを一番早く解
除し、経済活動を再開した州ですが、25日に5996人の新規
感染者が確認され、グレッグ・アボット知事(共和党)は、経済
活動の規制を一部復活させています。バーの営業を停止し、レス
トランの収容人数を50%減らす知事令を出しています。
 同じ南部フロリダ州は、26日、1日8942人の感染者が判
明し、同州のデサンティス知事は、バーでのアルコールの提供な
どを禁止しています。気温が上がり、エアコンを求めて屋内に入
る人が増えていることなどが原因とみています。
 このように米国では、テキサス州やフロリダ州のように、1日
当りの感染者数が過去最高を記録する州が続出しています。アラ
バマ、アリゾナ、カルフォルニア、ミシシッピ、ミズーリ、ネバ
ダ、オクラホマ、サウスカロライナ、ワイオミングなどです。ま
さに感染爆発です。これでは、本格的な経済再開など、とても困
難な情勢です。しかし、これは、11月の大統領選に大きな影響
を与えることになります。
 感染のモデルを考えてみます。新型コロナウイルスは感染して
も無症状のまま治ってしまう人が多いといわれます。そういう人
は若い人が多いと推定されます。その無症状の感染者が、自覚の
ないままに誰かに感染させているのです。その場合、感染者のう
ち、症状の出る人がどのくらいの割合なのか、無症状の感染者の
感染の強さがどのくらいなのか、何もわかっていないのです。
 台湾疾病コントロールセンターからもたらされた情報がありま
す。この情報については、5月25日のEJ第5252号で取り
上げていますが、新型コロナウイルスに感染した100人とその
濃厚接触者2671人のデータです。次のデータは、2次感染者
22人が感染した時期を示しています。これによると、症状が出
る前の感染が10人とかなり多いのです。
─────────────────────────────
            症状が出る前 ・・ 10人
         発症日から3日以内 ・・  9人
    発症日から4日目ないし5日目 ・・  3人
         5日目以降の感染者 ・・  なし
─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/024]

≪画像および関連情報≫
 ●米で新型コロナ感染者が再急増11日当たり4万人超え
  最多更新続く
  ───────────────────────────
   アメリカでは、新型コロナウイルスの感染者が再び急増し
  ていて1日当たりの感染者の数が4万人を超え、連日、最多
  を更新しています。これを受けて、ペンス副大統領は、近く
  予定していた秋の大統領選挙に向けたイベントの一部を延期
  することを明らかにしました。
   ジョンズ・ホプキンズ大学のまとめによりますと、アメリ
  カで26日に確認された新たな感染者の数は、前の日から、
  5000人余り増えて4万5255人と初めて4万人を超え
  2日連続して、これまでで最も多くなっています。
   なかでも南部フロリダ州では、1日の新たな感染者がおよ
  そ9000人に上り、観光地として知られるマイアミのビー
  チは、来月4日の独立記念日の前日から閉鎖されることにな
  りました。また、テキサス州は1日の新たな感染者がおよそ
  5000人、西部アリゾナ州もおよそ3400人に上り、い
  ずれも急増しています。
   ペンス副大統領は、フロリダ州とアリゾナ州で秋の大統領
  選挙に向けたイベントを近く行う予定でしたが、こうした状
  況を受けて延期することを決めました。選挙陣営は、ウイル
  スの感染に対する「念のための警戒」と説明していて、ペン
  ス副大統領は2つの州を訪問して、知事との会談などは予定
  どおり行う見通しだとしています。
                  https://bit.ly/385pLYv
  ───────────────────────────

人口10万人あたりの新型コロナウイルスの新たな感染者数.jpg
人口10万人あたりの新型コウイルスのロナ新たな感染者数
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2020年07月03日

●「無症状の感染者が感染を拡大する」(EJ第5281号)

 昨日のEJでご紹介した台湾疾病コントロールセンターのデー
タについて改めて考えてみることにします。テレビなどのメディ
アがどこも取り上げないからです。なお、この情報は、名古屋大
学名誉教授、小島勢二氏から伝えられたものです。
 PCR検査を受けて、新型コロナウイルスが陽性と診断された
人が100人います。この陽性の感染者100人の、濃厚接触者
2671人についての追跡調査です。そのうちの2次感染者は、
22人(0・8%)。感染歴のデータを再現します。
─────────────────────────────
            症状が出る前 ・・ 10人
         発症日から3日以内 ・・  9人
    発症日から4日目ないし5日目 ・・  3人
         5日目以降の感染者 ・・  なし
    ―――――――――――――――――――――
                      22人
─────────────────────────────
 まず、2次感染者22人では、軽症患者よりも重症患者に接触
した人の方が、感染リスクが高かったことが確認されています。
重症患者を診るのは、医療感染者ということになりますが、濃厚
接触者2671人のうち、697人は医療関係者です。
 これに対して、濃厚接触者2671人のうち、無症状の患者に
接触した人は91人いましたが、そのなかから、2次感染をした
人はいなかったといいます。
 問題は感染歴です。2次感染した22人のうち、約半数の10
人は症状が出る前の感染歴があり、9人は症状が出てから3日以
内、3人は発症日から4日目ないし5日目であり、5日以降につ
いては、感染者はゼロです。
 ここでわからないのは、無症状感染者の場合、どういう状況に
なったら、他の人に感染させるのかということです。他の人に感
染させられるかどうかは、ウイルスの量に関係があるようです。
 名古屋大学名誉教授、小島勢二氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ウイルスが感染した時に症状がでるには、一定以上のウイルス
量が必要である。新型コロナウイルスについても、海外からリア
ルタイムPCR法でウイルスの量を測定した研究が数多く報告さ
れている。
 これらの研究によると、症状の発症前後が最も多量のウイルス
が検出され、感染から1週間を境に、ウイルス量は急速に減少す
る。台湾からの報告と合わせると、新型コロナウイルスが他人に
感染するには一定のウイルス量が必要で、発症から1週間経てば
この値を下回ると想像される。    https://bit.ly/2Zhu5Qm
─────────────────────────────
 つまり、こういうことです。新型コロナウイルスに感染しても
ウイルスの量が少ないと、症状も出ないし、他の人に感染もさせ
ないのです。それでは、そのウイルスの量はどのように計測する
のでしょうか。PCR検査でウイルス量は計れるのでしょうか。
 現在、一般的に「PCR検査」と呼ばれている検査法は、正確
には「PCR法」といい、目に見えないウイルスの遺伝子を特殊
な装置を使い、目的の遺伝子を増加させることによって、見えれ
ば陽性、見えなければ陰性と判定するものであり、ウイルスの量
を計測する検査法ではありません。
 ウイルスの量を計測するには、PCR法を発展させた「定量検
査」というものがあり、「リアルタイムPCR」と呼ばれていま
す。この検査では、PCRの1サイクルで目的のウイルスのDN
Aは2倍になるので、これを繰り返すことによって、DNAがあ
る量に達すると、増やしたDNAがその量に達するのに何サイク
ル回したかがわかれば、最初に存在するDNAの量を推定できる
のです。この方法であれば、ウイルスの量を測定できます。
 話が難しくなってきたので論点を整理します。人による違いや
年齢による違いは当然ありますが、新型コロナウイルスに感染し
ても、ウイルスの量がある一定の量に達するまではいっさい症状
は出ず、そのまま無症状のまま治ってしまう人もいます。
 こうした無症状感染者の体内のウイルス量がある一定の量に達
すると、咳や発熱の症状が出てきます。そういう症状が出る前の
数日の間は、体内のウイルス量が増えて、他の人に感染可能にな
ります。台湾のデータによる2次感染者22人のうち、10人は
無症状感染者から感染しています。症状が出ていないので本人は
無自覚のまま10人に感染させています。このケースを「A」と
します。
 続いて、感染者に症状が出てから、5日目まではウイルスの量
も増大し、非常に感染させやすくなります。このケースを「B」
とします。重傷者のウイルス量はもちろん多いです。
 このケースBについては、本人に咳や発熱の症状があるので、
常識的には本人も用心するし、第3者も警戒するので、感染には
抑止がかかります。それでも12人が感染しているのです。しか
し、症状が出てから5日以上経つと、ウイルスの量は減少するの
で、それ以後は、感染者が1人も出ていないのです。
 新型コロナウイルスについて、診断時から時間を負うごとに分
離培養を行ったドイツからの報告によると、診断直後は高い確率
でウイルスを分離できたものの、日を経るごとにウイルスの量が
減少し、発症から8日目以降は、検査した全員において分離する
ことができなかったのです。
 この情報が正しいとすると、新型コロナウイルスに感染しない
ためには、ケースA、すなわち、無症状であるが、実はウイルス
に感染している人をいかにして発見するかにかかっていることに
なります。もちろん本人も無症状であるので、感染していること
はわかっていないので、発見はとても困難を極めます。
 本人すら自覚しない無症状の感染者を把握するには、国民の全
員の検査以外に方法はありません。そのためには検査方法の改革
が必要です。   ──[『コロナ』後の世界の変貌/025]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナ感染症:WHOはなぜ「無症状の感染者は感染さ
  せにくい」と発言したのか
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス(COVID−19、以下、新型コロ
  ナ感染症)の感染メカニズムが少しずつわかってきたが、症
  状が軽かったり、無症状だったりする感染者から感染するか
  どうかで議論に混乱が生じている。これまでに出た論文から
  この問題の真偽について考える(この記事は2020/06
  11時点の情報に基づいて書いています)
   WHO(世界保健機関)が6月8日のメディア・ブリーフ
  ィングで、「無症状の人が他の人へ感染せるのはとても珍し
  い」と述べた。するとこの発言に対し、世界中の専門家から
  異議が唱えられた。WHOは対応に追われたが、この発言は
  新型コロナ感染症の感染拡大対策を根底からくつがえすかも
  しれないからだ。
   我々が発熱や、長引く咳、倦怠感といった症状を起こして
  いなくても、外出を自粛してテレワークをし、いわゆる「3
  密」を避けたり、ソーシャル・ディスタンシングをとり、手
  指衛生やマスクの装着に神経質になっているのはもしかした
  ら自分が感染してウイルスをもっているかもしれなかったり
  同じような人に接触する危険性があるからに他ならない。ま
  た、医療現場でも無症状(不顕性)感染者が患者さんとして
  来院することに注意し、医療関係者も自らがそうであるリス
  クを恐れながらウイルスに対峙してきた。6月8日のWHO
  の発言は、こうしたことを否定する危険性がある。では、無
  症状の感染者からは感染するのだろうか。
                  https://bit.ly/38c0trO
  ───────────────────────────

PCR検査風景.jpg
PCR検査風景

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2020年07月06日

●「マスクの効果を見直す必要がある」(EJ第5282号)

 なぜ、マスクをするのか。なぜ、人と社会的距離をとるのか。
それは、自分を含めて、誰も自分が新型コロナウイルスの感染者
である可能性を否定できないからです。実は、このことは、案外
理解されていないと思います。以下、このウイルスについて、わ
かってきたことについて書きます。
 ある人が新型コロナウイルスに感染したとします。感染当初は
ウイルスの量が少ないので、症状は出ませんが、ウイルス量があ
る一定の量に達すると、咳や発熱などの症状が出てきます。問題
は、その症状が出る何日か前から、このウイルスは人に対する感
染力を持つことです。感染できるだけのウイルスの量に達したか
らです。このことは当の感染者はもとより、他人がそれを知る由
もありません。だから、このウイルスは防御しにくいし、きわめ
て厄介なのです。
 この無症状感染者のほとんどは、その後のウイルスの量が症状
を起こす一定のレベルに達することなく、そのまま治ってしまう
人が多いのです。ウイルスの量と発症や感染との関係については
ウイルスの量を計測できる「リアルタイムPCR」という測定法
によるいくつもの論文が出ているようです。
 さて、症状が出た感染者について述べます。感染者の年齢、健
康状態による違いはありますが、重症化する人と軽症の人に分か
れます。重症化する人は、ウイルス量が継続的に増加しているの
で、感染力はきわめて高いのです。したがって、重傷者を診る医
師は、感染しないよう厳重に防護する必要があります。
 しかし、軽症の患者はどうかというと、1週間も経てば、ウイ
ルスの量が減り、他の人に感染させる恐れはなくなります。これ
は台湾やドイツからの報告によって確認されています。かつて日
本では、軽症患者は、病院以外のホテルなどに隔離し、PCR検
査で、2回連続して陰性にならなければ隔離を解かない方針でし
たが、この必要はまったくなかったことになります。
 以上のことを前提とすると、マスクをつけて人と社会的距離を
とるのは、人に自分の飛沫を浴びせたり、人から飛沫を浴びない
ためです。しかし、マスクをしている人のほとんどは、人からの
感染を防ぐためにやっており、自分が他の人に移さないためと考
えている人は少ないと思います。まさか自分が既に感染者である
と考えている人は少ないからです。
 米国のトランプ大統領がマスクをしないことに非難が集まって
います。マスクの有効性はわかっているのに、国のリーダーがマ
スクをしないのは問題があると、クオモニューヨーク州知事が批
判していますが、トランプ氏は馬耳東風です。
 こんな話があります。トランプ氏の対抗馬になる可能性の高い
バイデン氏は、5月下旬のメモリアルデーに黒いマスクをして姿
を現しています。トランプ氏は、このバイデン氏に「天気のいい
屋外でマスクを着用するのはかなり異常」と、その写真を添付し
てツイートしたところ、バイデン氏は、トランプ大統領が公のイ
ベントにもマスクを着用しないことについて「本当のバカ」と批
判したのです。
 もっとも、欧米人がマスクをしないのは、文化の違いもありま
す。コラムニストのサンドラ・ヘフェリン氏は、日本と欧米人の
違いについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 欧米人は主に「口」で表情を作るので、顔の下半分が見えない
と、相手の表情が分からず怖い、不気味だと感じる傾向があるよ
うです。そのため、「顔の下半分」を隠すのは、相手に対して失
礼であり、礼儀に欠けている、というとらえ方をする欧米人が多
かったのです。
 逆に日本では「サングラスは失礼」だと考える人が多いです。
筆者が日本に来たばかりの頃、プールサイドにあるカフェでアル
バイトをしていたのですが、屋外であったためにまぶしくてサン
グラスをしていたら、「サングラスで接客をするのは失礼」と怒
られました。ただし、サングラスを外すと、まぶしくて目を開け
ていられなかったため、「目が弱いんです」と説明をし、サング
ラスをしてもよいことになりました。この時に、「日本ではサン
グラスをするのは『失礼』に当たるんだ」と知って、目からうろ
こが落ちる思いでした。       https://bit.ly/3gb4Xl9
─────────────────────────────
 確かに、欧米では鼻と口を隠すのは、不審者、悪漢、ドロボー
と相場が決まっており、目を隠しても、鼻や口元を隠さないもの
です。しかし、日本では、サングラスをしている人を怪しい人、
不審者とする傾向が、かつてはあったと思います。アメリカン・
コミックスに登場するスーパーヒーロー「バットマン」は、目と
鼻は隠していますが、口元は出しています。文化の違いであるこ
とは明らかです。
 問題は、無症状感染者──本人は感染しているとは考えていな
い無症状感染者──からの感染をいかにして防ぐかです。はっき
りしていることは、そういう感染者を発見するのは不可能である
ということです。そうであるとすると、方法は、家に閉じこもる
か、外に出掛けるときはマスクをするか、どちらかしかないので
す。そういう意味において、マスクは最小必要限度不可欠です。
どこにそういう感染者がいるか、だれもわからないからです。
 日本人の外出のさいのマスク装着率はほぼ100%です。こん
な国は、日本しかないと思います。今や外出に際してマスクを装
着することは、エチケットになっているからです。日本の感染者
数が、欧米諸国に比して明らかに少ないのは、案外マスク装着に
あるのではないかと思います。
 意外ですが、WHOはマスクをあまり重視しているように見え
ないことです。発熱や咳のある人は、マスクをするべきであると
いっています。これは不可解な話です。現在のWHOは、無症状
感染者による無自覚感染というものを重視していないのでしょう
か。どうやら、現在のWHOはあまり頼りにならないようです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「マスクは無意味」の議論にもう意味がない理由
  ───────────────────────────
   4月1日、安倍晋三首相が国内の約5000万の世帯に、
  ガーゼマスクを2枚ずつ配布することを発表した。この対策
  に対して異論を唱える人たちが多い中、「このタイミングで
  配るのはどうかとか、1世帯2枚でいいのかといった議論は
  あるかと思いますが、洗って使い回せるマスクでしょ。すご
  くいいと思います」。
   こう持論を展開するのが、独立行政法人国立病院機構東京
  病院呼吸器センターの永井英明医師。日本感染症学会指導医
  日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医などを持つ、呼吸器
  感染症治療のプロフェッショナルだ。永井医師は、現在の新
  型コロナウイルス感染症に対するマスクの扱いについて、疑
  問に思うことが多いという。
   「例えば、WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイル
  ス感染症の症状、とくに咳がある人やその人の世話をする人
  だけマスクを使うように呼びかけています。しかし、本当は
  すべての人がマスクを使ったほうがいいはずです」
   厚生労働省は、新型コロナウイルスに関するQ&Aのなか
  でマスクについて「自身の予防用にマスクを着用することは
  混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所
  では一つの感染予防策と考えられます」としている。
                  https://bit.ly/31B7gK7
  ───────────────────────────

バットマン.jpg
バットマン
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2020年07月07日

●「コロナウイルスの感染者増大傾向」(EJ第5283号)

 東京都を中心に、神奈川、埼玉、千葉で、新型コロナウイルス
の感染者が再び増加傾向にあります。7月3日の東京都の感染者
は124人ですが、年代別の感染者は次の通りです。
─────────────────────────────
          感染者          感染者
   10代     4人   40代     9人
   20代    60人   50代     6人
   30代    37人   60代     4人
              70代以上     4人
   ───────────────────────
                   合計 124人
             ──2020年7月4日/朝日新聞
─────────────────────────────
 これによると、10代〜30代を合わせると101人になり、
全体の78%を占めています。この現象をどのように判断すべき
でしょうか。ここまで検証してきたことをベースに考えると、次
のようにいえると思います。
 若い人の場合、たとえコロナに感染しても、発症する人は少な
く、そのまま治ってしまうケースが多いのです。発症するかどう
かを決めるのは、体内のウイルスの量によって左右されます。ウ
イルスの量がある一定の量に達すると、咳や発熱などの症状が出
てくるので、この状態のときにPCR検査を受けると、陽性と判
定される可能性が高いのです。
 問題は、どういう状況のときに他の人に移す感染力を持つかで
す。発症のおよそ3日ほど前から、このウイルスは感染力を持つ
といわれます。その約3日間は、本人に自覚はなく、その人と接
触した人にウイルスを感染させる可能性があります。そのことは
他人はもちろんのこと、本人もわからないのです。
 こんなケースも考えられます。ウイルスに感染して、咳や発熱
などの症状が出ても、PCR検査を受けなかったり、検査を希望
しても、受けられなかった場合──このケースはいまでもあると
いわれる──若い人の場合、治ってしまうケースも多いのです。
しかし、このケースでは、発症の出る前後から発症後1週間程度
は、他の人に感染させてしまう可能性が高いのでが、実際問題と
してこの状態の若者を発見することはきわめて困難です。誰が感
染者かわからないので、お互いにマスクをして、社会的距離をと
る以外方法はないと思います。日本人は、他国に比べると、マス
クに関しては、ほぼ徹底されているので、これによる感染者の抑
制効果は相当効いていると思います。
 124人の感染経路を調べると、次のようになっています。
─────────────────────────────
              ◎感染経路
         夜の街    58人
         会食     18人
         職場      6人
         施設      5人
         家庭      2人
        その他      9人
         不明     26人
        ───────────
               124人
             ──2020年7月4日/朝日新聞
─────────────────────────────
 感染経路を見ると、「夜の街」と「会食」を合わせると、6割
を占めています。いずれも、マスクが使えず、どうしても「密」
になりやすい環境です。こういう環境に、感染力を持つ人が1人
でも入り込むと、感染が拡大してしまいます。いくら入店時に体
温チェックをしたり、手の消毒をしたりしても、感染を防ぐこと
は困難です。
 そこで、東京都の小池知事は、政府の緊急事態宣言に合わせて
4月に東京としての緊急事態措置を発令し、都民には徹底した外
出自粛、事業者には、休業要請、営業時間短縮、施設使用、イベ
ントの使用制限などを実施したのです。こういう都の要請に応じ
た事業者には、都から一定の協力金が支払われています。
 つまり、東京都は、店舗側には休業要請を出して店を閉めさせ
都民には、外出自粛を呼び掛けるという両方に制限をかけたので
す。それでも強制ではないので、店を開く事業者もあるし、そう
いう店に出向く都民はいるとはいうものの、人の流れを止めたこ
とで、1日の感染者数をなんとか1桁台に押さえ込むことに一応
成功しています。
 しかし、外出自粛を解き、休業要請を元に戻せば、感染者は再
び増大することは確実です。このEJの原稿は4日に執筆してい
ますが、感染者数は明らかに増加傾向にあります。再び緊急事態
措置を発令し、人の流れを止めることは、大規模なオーバーシュ
ートでも起こらない限り、できないと思います。このようにこの
コロナ禍はなかなか厄介であり、かなり長引く恐れがあります。
 ここで知っておくべきことがあります。毎日、東京都が夕方頃
に発表している感染者数は、東京都が各保健所から聞き取り、集
計したものに過ぎず、正確な数字ではないのです。そのため、そ
の後、随時、更新・修正されています。東京都は別に各保健所か
ら提出された発生届と確定日別に整理したものを「確定日付けに
よる陽性者数」としてウェブサイトに公開しています。
 つまり、保健所は、ある日に陽性として確定した人の数を都に
報告していますが、その人は検査を受けた日には感染していたの
ですから、その日を「確定日」としているわけです。これによる
と、毎日の報告数よりも、確定日の陽性者数の方が多い傾向が目
立っています。例えば、6月9日の発表数は12人ですが、確定
日別陽性者数は25人と倍増しているのです。ほとんどは確定日
の方が多いといえます。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/027]

≪画像および関連情報≫
 ●PCR検査増やせ大合唱の謎
  ───────────────────────────
  ・相変わらずテレビでは「PCR検査増やせ」報道が多い。
  ・「国民全員にPCR検査を」と主張する専門家もワイド
   ショーに出演。
  ・100万人当り感染者率と死亡率が断トツに低い日本は、
   成功例ではないのか。
   前記事で「PCR検査増やせ派」がメディアを中心に勢力
  を増し続けている現状を指摘した。その後、自分が現役時代
  に関わっていたBSフジLIVE「プライムニュース」に、
  本庶佑京都大学大学院特別教授がゲストとして出演した回、
  (2020年4月22日放送)で「PCR検査を増やせ」と
  の趣旨の発言をしたとことを同番組の記事で知って驚いた。
  タイトルは、「PCR検査の数断然足りない」・・・ノーベ
  ル賞本庶佑教授が語るコロナ対策「検査は大学研究室でもで
  きる」だ。本庶氏の主張は明確で、医療現場の感染拡大を防
  がねばならない、ということだ。その上で、「私が一番心配
  していること。戦争でいうと一つの小隊がころっとやられる
  状況。             https://bit.ly/2Z20FXD
  ───────────────────────────

東京都の新規感染者数/7月4日.jpg
 
東京都の新規感染者数/7月4日
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●「米CDCはなぜ機能しなかったか」(EJ第5304号)

 米国CDC(疾病予防管理センター)といえば、「BSL4」
の実験室を持つ感染症に対する世界一の知見を有する研究センタ
ーとして有名ですが、新型コロナウイルス感染拡大という肝心か
なめなときに、世界のリーダーシップをとる活躍をしていないと
思います。昨日のEJに続き、なぜ、機能不全になったのかにつ
いての話を続けます。
 2020年8月6日付の新聞は、次の注目すべき記事を報道し
ています。
─────────────────────────────
◎米厚生長官が台湾訪問へ/断交後最高位/対中強硬姿勢の一環
 ・米厚生省は4日、アザール厚生長官が近く台湾を訪問すると
  発表した。米閣僚の台湾訪問は6年ぶりで、同省によると、
  1979年の台湾断交以来、最高位の閣僚の訪問になるとい
  う。台湾の外交部(外務省)によると、蔡英文総統との会談
  も予定されている。 ──2020年8月6日付、朝日新聞
◎米厚生長官、台湾訪問へ 総統と会談、関係強化
 ・【台北=中村裕】台湾の外交部(外務省)は5日、米国のア
  ザー厚生長官が近く台湾を訪問し、蔡英文総統と会談すると
  発表した。今後、数日以内に訪問するとし、歓迎の意を示し
  た。米国は1979年に台湾と断交して以降、最高位の高官
  の訪問としている。──2020年8月6日付日本経済新聞
─────────────────────────────
 日本の厚生労働大臣に当る米国の大臣は「保健福祉長官」。現
職はアレックス・アザー氏が務めています。しかし、このアザー
保健福祉長官の姿が久しくニュースから消えていたのです。それ
が、8月6日になって、アザー長官が突然台湾を訪問するという
ニュースが報道されたのです。これはこれで米中の対立がさらに
一段と激しくなるニュースですが、EJでは、今回は、それはさ
ておき、アレックス・アザー長官に注目します。
 現在、トランプ大統領の下で、タスクフォースを率いるのは、
マイク・ペンス副大統領。メディア担当は、ジェローム・アダム
ス公衆衛生局長であって、アザー保健福祉長官は公式会見には姿
を見せていない。米メディアは「トランプ大統領の怒りを買って
外された」と報道しましたが、これに対して、トランプ大統領は
ツイッターで、次のように否定しています。
─────────────────────────────
 それは、フェイクニュースだ。彼は、大変立派な仕事をして
 いる。          ──ドナルド・トランプ大統領
─────────────────────────────
 情報によると、このアザー長官は、正義感で大統領に楯突くタ
イプの人物ではないのです。何とか大統領のお気に入りになりた
いと思っている。大統領に嫌われることを心から恐れている人物
の1人。日本にもそういう官僚はたくさんいます。
 そのため長官就任後は、CDCのロバート・レッドフィールド
所長や、「メディケア・メディケイド・サービシズセンター」の
シーマ・パーマ所長らと激しく衝突したといいます。素人の大統
領が要求する無理難題を押し通そうとしたからです。
 しかし、CDCは検査キットで大ミスを犯し、アザー長官は、
トランプ大統領に一喝を食っています。そしてトランプ大統領は
「暖かくなれば病原体は奇跡のように消えてなくなる」という独
自の主張をゴリ押しし、その主張に異を唱え、対策強化を主張す
るCDC幹部を片っ端から、罷免したのです。
 アザー長官は、1月末に、全米向けに「緊急事態宣言」を発出
していますが、これによって、検査キット、ワクチン審査の認可
のハードルが一緒に跳ね上がったのです。米保健行政の官僚主義
がそうさせたのです。それ以来、アザー長官は公式の場から姿を
消してしまったのです。保健福祉長官が先頭に立って、最も活躍
しなければならないときにそうなったのです。
 トランプ大統領の最大の失敗は、ルイジアナ州ニューオーリン
ズでの「マルディグラ(肥沃な火曜日)」と呼ばれる謝肉祭を2
月下旬に強行したことです。マルティグラは、全世界から数十万
人の規模の観光客の集まる「3密」の権化のようなイベントであ
り、当然世界最大級のクラスターが発生し、人口500万人未満
のニューオーリンズで、死者は1000人を超えたのです。
 このように、世界最高の医療産業・学界を擁する米国が、世界
最悪の新型コロナウイルス感染国になる──あってはならない話
です。それは、トランプ大統領が、自己の再選のため、無責任な
行動をしたことが原因であるといえます。
 トランプ政権になってから、コロナが起きる前から、保健・衛
生行政全般のトップに、いかがわしい人物が続々と起用されてい
ます。これに関する『選択』の記事をください。
─────────────────────────────
 2017年初頭のことだ。元凶は、保健福祉長官に起用された
トム・プライス元下院議員だ。医師出身で、下院では予算委員会
の委員長を務めるほどの大物にのしあがった。彼は、米下院で出
世する過程で、悪癖を身につけた。医療関係法案を提出し、成立
のめどが立った直後に、関連企業の株を買うというインサイダー
取引である。これを何度も繰り返した。
 医療業界にとっては最も操りやすいタイプだ。新政権誕生時に
保健福祉長官候補になった。上院の指名投票では、民主党から激
しい反発を招き、僅差でやっと就任。ところが、長官就任後は出
張に政府専用機をたびたび使って問題化した。最後は大統領自身
の怒りを買い事実上解任された。このプライス氏がCDC局長候
補に引っ張ってきたのが、地元ジョージア州のブレンダ・フィッ
ツ・ジェラルド氏である。彼女も医師だが、本職は「アンチエイ
ジング・クリニック」経営。その後、州政界に入って、「医療行
政のプロ」を看板に保健行政のトップにまで出世した。
              ──『選択』/2020年5月号
─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/048]

≪画像および関連情報≫
 ●世界最強の感染症対策機関を持つ米国が世界最大の感染国に
  なった理由
  ───────────────────────────
   世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスだが、1
  つ気になることがある。それは米疾病管理予防センター(C
  DC)という「世界最強の感染症対策機関」を持つ米国が、
  世界最大の感染国になっていることだ。
   4月20日現在、世界の感染者数は238万人を超え、う
  ち米国は74万人(死者4万人)以上で世界全体の3分の1
  近くを占めている。なぜこんなことになっているのかと言え
  ば、その責任の大半はトランプ大統領の失策と無能さにある
  と言っても過言ではない。
   今年1月末、中国の武漢で感染が拡大していた頃、ホワイ
  トハウスには新型コロナについて警鐘を鳴らす報告書が情報
  機関などから上っていた。ところがトランプ大統領はそれを
  軽視し、「暖かくなる4月にはウイルスは消えてなくなる」
  などと、記者団に話していた。
   その結果、初動対応が大幅に遅れ、感染者が十分に把握で
  きず、感染経路の追跡や感染者の隔離などを徹底できずに、
  感染を拡大させてしまったのである。感染拡大のもう1つの
  主要因はウイルス検査の遅れだが、これもトランプ大統領の
  失策と無関係ではない。トランプ政権は世界保健機関(WH
  O)が各国に提供した検査キットを使用せず、米疾病管理予
  防センター(CDC)が独自に開発した検査キットを使うこ
  とを決定した。         https://bit.ly/2DH149K
  ───────────────────────────

アレックス・アザー米保健福祉長官.jpg
アレックス・アザー米保健福祉長官
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2020年07月08日

●「コロナにより米経済はどうなるか」(EJ第5284号)

 今回のEJのタイトルは「『コロナ』後の世界の変貌」ですが
最近は「ポストコロナ」ではなく、「ウイズコロナ」というよう
になってきています。現在の状況を見ると、よほど強力なワクチ
ンでも開発されない限り、コロナを完全に抑え込むことは不可能
のようです。したがって、これからの世界は、「つねにコロナは
身近にいる」という前提の下に、あらゆることをやっていかなけ
ればならないのです。それが「ウイズコロナ」です。
 コロナによる経済の落ち込みが懸念されます。とくに失業率の
悪化が心配です。これについて、中国に詳しい評論家の宮崎正弘
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 失業率が1パーセント悪化すると、日本では自殺者が、1年に
2000名増える。中国では、GDPが1パーセント下がると、
5000万人が失業する。失業が増えると、真っ先に不要となる
のは外国人労働者。ついで時給が下がり、正社員にはなれず、派
遣社員の雇用もしない方向に経営者は傾く。アルバイトで生活し
て学費を稼いできた学生は悲鳴をあげ、学生ローンに走った。消
費は大きく減退する。            ──宮崎正弘著
『WHAT NEXT/コロナ以後全予測/次に何が起こるか』
                        ハート出版
─────────────────────────────
 現在は、日本をはじめとする世界主要国では、政府が国民に現
金を配付しています。一般的にこのような大判振る舞いが続くと
インフレになるはずですが、経済の実体はデフレ基調です。どう
なっているのでしょうか。
 今回のコロナ禍は、リーマンショックや大恐慌とも比較して論
じられます。リーマンショックとの違いについて考えてみます。
リーマンショックのときは、住宅ローンが商品化され、欧州の投
資家が大量に保有しているという状況において、大手証券会社が
破綻し、カネの流れが止まったのです。これに対して今回のコロ
ナ禍は、人とモノの流れが止まっています。この違いについて、
滝田洋一氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 もちろん危機発生のメカニズムは異なる。リーマンの際は、ま
ず大手証券会社が破綻し、お金が流れなくなったことで、企業活
動が止まり、世界的な需要蒸発が起きた。今回の危機は順番が逆
である。外出自粛、店舗の営業停止、国境の封鎖。感染拡大を防
ぐ一連の措置が、企業の売り上げ急減を招き、資金繰りをぎゅっ
と締め付ける。そして金融が急収縮している。
 いま必要なのは、資金の供給だ。米連邦準備理事会(FRB)
は、数兆ドル(数百兆円)規模の巨額の資金を金融市場に流し込
んでいる。                 ──滝田洋一著
        『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
─────────────────────────────
 世界大恐慌は、一般的には、1929年から1934年の5年
間といわれていますが、実際の経済回復には、10年の歳月を要
しています。1929年の米国のGDPは1044億ドルですが
それが1000億ドル台に戻るのには、10年かかっています。
なお、「←」の1933年からは、フランクリン・ルーズベルト
氏が大統領に就任し、ニューディール政策を行い、米国経済の回
復に力を尽くしています。
─────────────────────────────
◎大恐慌時代の米国GDPと失業率の変化
               GDP     失業率
   1929年   1044億ドル    3・2%
   1930年    911億ドル    8・7%
   1931年    763億ドル   15・9%
   1932年    583億ドル   23・6%
   1933年    560億ドル   24・9% ←
   1934年    650億ドル   21・7%
   1935年    725億ドル   20・1%
   1936年    827億ドル   16・9%
   1937年    908億ドル   14・3%
   1938年    852億ドル   19・0%
   1939年    911億ドル   17・2%
   1940年   1066億ドル   14・6%
                      ──菊池英博著
       『金融大恐慌と金融システム』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 このコロナ禍で世界経済は一体どうなるでしょうか。
 2008年のリーマンショック直後の米国のGDPは、マイナ
ス8%だったのです。この数字はウォール街では一大衝撃になっ
て、ウォール街全体が冷え込んだといいます。しかし、今回のコ
ロナ禍は、そんなものでは到底済まない落ち込みになると予想さ
れます。世界の株式市場は、まさに底が抜けたようになり、3月
18日にダウ平均株価は、一時2319ドル安の1万8017ド
ルに下落し、トランプ大統領が就任した2017年1月20日の
終値である1万9827ドルを大きく下回ったのです。トランプ
相場は、これによって吹っ飛んでしまったかたちです。次の日の
19日、米国の感染者数は、遂に1万人を突破しています。
 4月25日、米国予算局は、当初マイナス28%と予測してい
た数値を大幅に下方修正して、2020年度第2・四半期(4月
〜6月)のGDPを「マイナス39・6%」と予測しています。
実に40%のマイナス成長です。
 世界一の投資家、ウォーレン・バフェット氏が率いる「バーク
シャー・ハサウェイ」は、「ウイルスの感染拡大によって世界は
変わる」として、保有していた米航空株を全部損切りで売却した
と発表しています。これにより同社の最終損益は、5兆円の赤字
になるといわれています。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/028]

≪画像および関連情報≫
 ●【新型コロナ】米経済崩壊への最悪のシナリオ、これから
  3カ月で何が起こるのか
  ───────────────────────────
   人口800万で全米第1位のニューヨーク市やその他の大
  都市で新型コロナウイルスが大流行し、感染者数は、累計約
  19万人、死者数は約3900人(米ジョンズ・ホプキンズ
  大学調べ)を突破して中国やイタリア、スペイン、英国をし
  のぐ「世界一の新型肺炎震源地」になった米国。各州や自治
  体が感染拡大予防を目的とする外出禁止令を次々と発令する
  中、世界一巨大な「米国経済」という列車に急ブレーキがか
  かる。経済のロックダウンによる失業率は最終的に1930
  年代初頭の大恐慌時の24%を優に超えると予想される。米
  議会は国民への現金給付など2兆ドル(約240兆円)規模
  の過去最大の経済対策法を成立させたが、現時点のデータや
  専門家の見解では、「医療危機から生じる金融危機」という
  最悪のシナリオを覚悟すべきかもしれない。
   トランプ大統領が2016年11月の大統領選挙で勝利し
  てから右肩上がりであった米株価は、コロナショックで「ト
  ランプ相場」の上昇分がすべて消えうせた。その後いくらか
  回復しているものの、ペンス副大統領が主張するような「米
  経済のファンダメンタルズは依然として強いため、チャレン
  ジを乗り切れば再び大躍進できる」との見方は少数派にとど
  まる。             https://bit.ly/2VOmuYt
  ───────────────────────────

ウォーレン・バフェット氏.jpg
ウォーレン・バフェット氏
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2020年07月09日

●「米国はコロナ禍にどう対応したか」(EJ第5285号)

 コロナ禍が一挙に顕在化した3月の一連の米国の経済対策につ
いて、WBSの滝田洋一氏の意見を参照にご紹介します。
 米国経済の深刻さをあらわす事実があります。3月の新規失業
保険申請者数が990万人、ほぼ1000万人に達していること
です。急速な雇用市場の悪化です。その結果、4月3日に発表さ
れた米国の失業率は4・4%、2月の3・5%から、0・9ポイ
ントも跳ね上がったのです。いや、これでも過小評価で、現在の
米国の失業率の実勢は10%に近いともいわれています。
 米国の失業者の対応について、WBSの滝田洋一氏は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 失業者の増加に対しては、雇用そのものを積み増す公共投資が
浮上している。トランプ大統領は「2兆ドル規模のインフラ投資
で雇用の再建が必要だ」と主張し始めた。1930年代のルーズ
ベルト大統領のニューディールを思わせる公共投資政策である。
 ペロシ下院議長も「次は高速通信網や水道インフラの整備など
を盛り込むべきだ」と強調。民主党の十八番である公共投資にト
ランプ大統領が乗ったことで、民主党も共和党もなくなった。
                      ──滝田洋一著
        『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
─────────────────────────────
 これに対して、日本の日銀総裁に当るFRBのパウエル議長は
どのように対応したでしょうか。
 3月15日、FRBは17日と18日に予定していたFOMC
(連邦公開市場委員会)を前倒しして開き、緊急利下げを行って
います。フェデラルファンド金利を1%引き下げ、0〜0・25
%とする決断を行ったのです。これは、2008年12月に実施
したゼロ金利政策の復活です。
 それに加えて、量的緩和として国債5000憶ドルと住宅ロー
ン担保証券(MBS)2000億ドルを合わせて、7000億ド
ルを買い入れすることを決めています。
 トランプ大統領は、株価を上げるための利下げを求め、ことあ
るごとにFRBに「パウエル議長を解任する権限がある」と、プ
レッシャーをかけていたのですが、パウエル議長は、頑としてト
ランプ大統領の要請を無視していたのです。それだけにトランプ
大統領は、今回のパウエル議長の素早い決断を高く評価し、「金
融当局におめでとうといいたい」といっています。このFRBの
決断について、滝田洋一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 パウエル議長はFOMC後の記者会見で「市場の流動性に強い
ストレス」と指摘した。3月16日、日本銀行も18〜19日に
開く予定だった金融政策決定会合を前倒しし、追加の金融緩和を
決めた。カギとなるのは株式を購入するための上場投資信託(E
TF)の買い入れ増額だった。それまでの年6兆円を年12兆円
に倍増したのである。      ──滝田洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 FRBの決断はこれだけではないのです。3月23日になると
FRBは、連銀法13条(第3項)の発動に踏み切っています。
連銀法13条(第3項)とは何でしょうか。これには、少し説明
が必要になります。
 米国の中央銀行制度は「連邦準備制度」といわれ、ワシントン
D.C.にある「連邦準備制度理事会/FRB」が全国に散在する
連邦準備銀行(連銀)を統括しています。その連銀の通常の貸出
対象は銀行だけですが、この条項を発動すると、銀行以外の金融
機関や企業、ファンドなどに対しても、融資ができるようになり
ます。そのため「伝家の宝刀」といわれているのです。
 2008年のリーマンショックのときも連銀法13条を発動し
ています。まさに「何でもやる」という姿勢です。具体的には、
雇用主、消費者、企業へのお金の流れを支援するために新たな基
金を発足させ、銀行を後押しするとともに、FRB自身もお金を
出そうというのです。滝田洋一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 大手の雇用主のためには、FRBが社債の購入に踏み切ること
にした。社債の購入はベン・バーナンキ、ジャネット・イエレン
の2人のFRB議長経験者によるアドバイスである。米国ではこ
ういう時の当局者の結束は固い。通常の中央銀行の仕事は、金融
システム維持のための「最後の貸し手」である。それに対し、今
のFRBは、コロナで止まった経済を動かす「最初の貸し手」と
なったのだ。(中略)
 果たして米議会で3月27日に成立した大型経済対策には、F
RBが新たに4兆ドル相当の社債購入や融資ができるような仕組
みが組み込まれた。コロナで打撃を被った企業に資金提供する基
金を立ち上げる。この基金の貸し倒れに備えて財務省は4250
億ドルの資本を拠出する。大型経済対策のための法律の条文には
「企業や州政府、地方政府などへの貸出を支援する金融システム
に流動性を供給する目的で、FRBにより設立された基金あるい
はプログラム」とある。その流動性供給の手段のなかに、「発行
体からの債務やその他株式の直接買い入れ」という文言があるの
が目を引く。          ──滝田洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 「1ドルの損失吸収力、つまり資本があれば、10ドルの融資
が可能である」──これはFRBのパウエル議長の言葉です。こ
のように、米国は財務省とFRBの役割分担が明確になっていま
す。財務省はリスクを吸収する資本部分、FRBは焦げ付きの恐
れのない負債部分の面倒をみるという分担です。
 滝田洋一氏は、これら米国の一連のコロナとの戦いのための対
策は、政府と中央銀行が一体となったまさにマネーのバラマキ、
すなわち、へりコプターマネーと同様であるといっています。そ
の成否はコロナとの戦いの期間にかかっているといわれます。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/029]

≪画像および関連情報≫
 ●米4800億ドルの追加対策合意/中小企業の給与補填増額
  ───────────────────────────
  【ワシントン/河浪武史】トランプ米政権と与野党の議会指
  導部は4月21日、4840億ドル(約52兆円)の追加の
  新型コロナウイルス対策で最終合意した。中小企業の雇用対
  策などに3700億ドルの追加資金を用意し、医療体制の整
  備にも1000億ドル強を投じる。上院は関連法案を同日可
  決。下院も23日に通過する方向だ。これまでの3回の経済
  対策と合わせ、財政出動は3兆ドルに迫る。
   トランプ大統領は21日の記者会見で「中小企業に追加資
  金を供給するため、迅速に関連法を成立させる。その後は、
  すぐに『経済対策第4弾』の議論に入るつもりだ」と表明し
  た。同席したムニューシン財務長官は「これまでの中小企業
  の資金支援で既に3000万人の雇用維持につながった」と
  政策効果を強調した。
   追加対策の柱は、中小企業への資金支援の拡大だ。3月末
  に成立した2・2兆ドルの経済対策には、中小企業の給与支
  払いを補填する3500億ドルの雇用対策を盛り込んだ。今
  回はさらに3100億ドルを追加。資金規模は6600億ド
  ルと当初の1・9倍に増える。中小の雇用対策費は開始2週
  間で上限に達して受け付けを停止していた。追加資金を用意
  して早期に支援を再開する。https://s.nikkei.com/38tPr1b
  ───────────────────────────

FRBパウエル議長.jpg
FRBパウエル議長
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2020年07月10日

●「コロナで変わる世界10大リスク」(EJ第5286号)

 ユーラシア・グループというシンクタンクがあります。毎年年
初に「世界10大リスク」というものを発表していて、その内容
について、全世界の政治や経済の関係者たちが注目しています。
2020年についても1月初めに発表されましたが、3月19日
になって、グローバル・リスクの評価を変更しています。
─────────────────────────────
 ◎世界10大リスク/2020
   1.不正!誰が米国を統治するか      ↑
   2.超大国間デカップリング        ↑↑
   3.米中関係               ↑↑
   4.頼りにならない多国籍企業       ――
   5.モディ政権が推し進めるインドの変貌  ↑
   6.地政学的変動下にある欧州       ――
   7.政治VS気候変動の経済学       ↓↓
   8.シーア派の高揚            ――
   9.不満が渦巻く中南米          ↑↑
  10.トルコ                ↑
 ◎リスク記号の説明
  ↑ :リスクが高まる    ↓↓:リスクが大幅に減る
  ↑↑:リスクが大幅に高まる ──:リスク変わらず
  ↓ :リスクが減る       https://bit.ly/2BUpqvT
                      ──滝田洋一著
        『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
─────────────────────────────
 第1位に「不正!米国を統治するか」が上がっています。ユー
ラシア・グループによると、米国の国内政治をこれまでトップに
したことはないそうです。それは、これまでの米国の政治制度・
枠組みが世界で最も強固であり、強靭なものであったからです。
なぜ、「不正!」が付いているのでしょうか。これについて、ユ
ーラシア・グループーは、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 制度・枠組上の制約は、トランプ大統領を(これまでの大統領
たちと同じように)その公約の大部分を断念することを余儀なく
させてきたが、彼が国を分断するのを、止めることはできなかっ
た。国家たるものが、これほど二極化した状態のまま、先に進む
ことが可能なのだろうか?下院はトランプの弾劾を可決したが、
上院の裁判で彼は無罪になると予想される。こうした動きの結果
11月の大統領選挙の正統性は、次のようにして、失われるだろ
う。すなわち、民主党は、大統領を法を超越した存在にするため
に弾劾案が政治的にもみ消されたと感じる一方で、トランプは、
弾劾手続が、もはや有効な政治的制約手段でなくなったので、選
挙結果に干渉する力を得たと感じるようになる。
                 https://bit.ly/2BUpqvT
─────────────────────────────
 問題は、第2位と第3位の米中関係です。この項目を「リスク
が大幅に高まる」としています。第2位の「超大国間デカップリ
ング」は、貿易にプラスして、5Gに代表される先端技術分野で
の米中のせめぎ合いだったのですが、新型コロナの流行は、この
分断を加速させる結果になったのです。これに関して、ユーラシ
ア・グループは次のように説明しています。
─────────────────────────────
 すでに米中間における技術・人材・投資の有益な流れを混乱さ
せているこのデカップリングは、米中紛争の中心にある一握りの
戦略的技術分野(半導体、クラウドコンピューティング、5G)
を超えて、より広範な経済活動へと拡大していく。市場規模が5
兆ドルに達する世界のテクノロジー産業全体のみならず、メディ
アやエンターテインメントから学術研究に至るまで、他の多くの
産業や機関にも影響を与え、ビジネス、経済、そして文化におけ
る深く解消し難い分裂をつくりだしていく。
                 https://bit.ly/2BUpqvT
─────────────────────────────
 第3位の「米中関係」も「リスクが大幅に高まる」深刻な問題
です。2019年の「世界10大リスク」では、「米中関係」は
2位にランクされていたのです。その理由としては、2018年
暮れに、カナダ当局が米国の要請を受けて、中国通信機器最大手
である華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責
任者(CFO)を逮捕したからです。この問題は現在も決着して
いないのです。
 今回の新型コロナに関連して、「米中関係」は一層深刻化して
います。これについて、WBSの滝田洋一氏は、次のようにコメ
ントしています。
─────────────────────────────
 米中両国ともに今回の爆発的な感染拡大を、新たな地政学的な
さや当てと見なしている。米国は今回の感染症を、「中国ウイル
ス」と呼び、それを引き起こした中国を非難する。一方、中国は
コロナの早期封じ込めに成功したとして、それを自らの統治シス
テムの正当化に用いている。中国は金融や医薬品の提供を通じた
「コロナ外交」を仕掛けている。
 20年11月の大統領選が近づくにつれて、受け身に立たされ
ているトランプ大統領は中国非難を強めるだろう。対する中国は
米ジャーナリストの追放に象徴される、強権的な報復に打って出
ようとしている。米中間の緊張の高まりとともに、鳴り物入りで
喧伝された米中貿易合意の履行にも疑問符が付く。米中通商協議
の第2段階など思いも寄らない。華為技術(ファーウェイ)など
中国のハイテク企業に対する米国の取り扱いや香港、台湾問題は
対立激化の火種である。「たとえコロナ・パンデミック」が終息
したとしても、米中は新たな冷戦に突入しているであろう。
                ──滝田洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/030]

≪画像および関連情報≫
 ●今年の世界最大のリスクは「米大統領選」 米企業が予測
  ───────────────────────────
   米コンサルティング会社ユーラシアグループは1月6日、
  2020年の「世界のリスク」トップ10を発表した。1位
  には「米大統領選」がランキング。政府や議会、司法への信
  頼が揺らぐなか、選挙結果が有権者に受け入れられず混乱す
  る可能性を指摘した。
   リーダーなき世界を「Gゼロ時代」と名付けて注目された
  国際政治学者イアン・ブレマー氏が社長を務める同社は、年
  初にその年の世界政治や経済に深刻な影響を及ぼしそうな事
  象を予測している。米国内政を1位にあげるのは初めてとい
  う。ブレマー氏はトランプ米大統領の弾劾(だんがい)やロ
  シアなどによる選挙干渉の可能性をあげ、「多くの人が『不
  正を仕組まれた』と感じる前代未聞の選挙になる」と懸念。
  トランプ氏の勝敗にかかわらず訴訟が起こされ、政治的空白
  が生まれる恐れがあるとして、その状況を「米国版ブレグジ
  ット」と評した。
   2位と3位には、米中経済の分離(デカップリング)の拡
  大と、米中対立の激化をあげた。先進国で分断が進む現状や
  気候変動とともに、「数十年間、グローバル化が機会を生み
  出し、貧困を減らし、平和をもたらしてきたが、2020年
  は国際政治の転換点になる」としている。
                  https://bit.ly/3fdSyg3
  ───────────────────────────

WBS/滝田洋一氏.jpg
WBS/滝田洋一氏
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2020年07月13日

●「東京都民全員のPCR検査が必要」(EJ第5287号)

 東京都では、新型コロナウイルスの感染者が拡大しつつありま
す。東京都では、9日に224人、10日には243人のPCR
検査による陽性者が確認されています。
 この原稿は、11日に執筆していますが、さらに感染者が増え
るかどうかわからない状態で書いています。これを受けて東京都
の小池知事は、次のように呼びかけています。
─────────────────────────────
 近隣の県で感染者が増えています。不要不急の他県への移動は
ご遠慮いただきたい。          ──小池東京都知事
─────────────────────────────
 小池知事としては当然の他県への移動自粛要請です。東京由来
の感染者が、埼玉、千葉、神奈川などの首都圏に拡大しては困る
からです。
 しかし、安倍首相、菅官房長官、西村コロナ担当大臣は、次の
ように小池氏の発言を事実上否定しています。
─────────────────────────────
◎安倍首相
 高い緊張感を持って感染状況を注視している。会食の場などに
よる集団感染も確認されており、3つの密を避けるなど、若い皆
さんも含めて感染リスクを避ける行動を徹底していただきたい。
◎菅官房長官
 医療提供体制がひっ迫している状況にはない。直ちに再び緊急
事態宣言を発出する状況に該当するとは考えていない。
◎西村コロナ担当大臣
 ある程度感染源がわかっているので、国の方針はこれまで通り
都道府県をまたぐ移動は自由に行えるが、小池知事の発言は体調
が不調の人は外出や移動を自粛していただくという意味である。
─────────────────────────────
 安倍首相は、「感染状況を注視している」とまるで他人事のよ
うなコメントをしており、「3つの密を避けるように」と国民に
責任を押し付けています。当事者意識がないようです。
 菅官房長官は、医療提供体制に話をすりかえ、それをもって、
たとえ200人を超える感染者が出ても、緊急事態宣言を発出す
る状況にないことを強調しています。
 西村大臣にいたっては、小池知事のいう「不要不急の他県への
移動自粛」は、熱など体調に違和感がある人には、外出や移動を
控えてもらう」という意味であって、都道府県をまたぐ移動は自
由に行ってよいと小池発言を修正しています。
 ところで政府が「余裕がある」とする医療提供体制ですが、こ
れが胸をはるほどのことでないことがわかっています。7月10
日付の「リテラ」によると、東京都の医療提供体制について、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 これまで政府は、「医療体制に余裕がある」という立場を取り
つづけているが、東京都が現在確保しているベッド数は1000
床。対して7月9日時点で、入院患者数は441人と、6月20
日の204人から倍以上も増加している。昨日の東京都のモニタ
リング会議でも、坂本哲也・帝京大学医学部附属病院院長が「だ
いぶ逼迫してきている状態」と認めていた。
 さらに、9日放送の「ニュース23」(TBS)によると、都
の関係者は、入院患者数が増加しているのは「“夜の街”で感染
が拡大している若者たちが病院に入院していることにある」と説
明。東京都では無症状者や軽症者を受け入れるホテルの多くが、
6月末で契約が終了、今月末にも終了するホテルもあるとした。
そのため無症状者や軽症者をホテルでなく、病院に入院させざる
を得なくなっているのだ。実際、同番組の取材に対し、東京都の
新型コロナ連絡調整担当の課長はカメラの前でこう語っている。
 「すべてを受け入れるのが難しくなってきたなと。病院もたし
かに逼迫していると思うんですけども、ホテルのほうも逼迫して
いるというのがいまの状況です」。つまり、病院も、さらには軽
症者を受け入れるホテルも、ともに余裕がない、というのだ。
                  https://bit.ly/3fkEUrw ─────────────────────────────
 なぜ、政府は、連日感染者が過去最高を記録するという目の前
で起きている重大な危険な兆候を無視するのでしょうか。
 その理由は、はっきりしています。それは、経済を活性化させ
るため、「GoToキャンペーン」を8月から実施するつもりだ
からです。政府としては、コロナ対応で失敗し、経済が落ち込ん
でしまった状態では、選挙には到底勝てないからです。そのため
政府として自粛要請は絶対出したくないからです。
 中国の武漢市は、4月8日に都市封鎖が解除されています。し
かし、職場復帰などのために、PCR検査を受けた人のなかから
無症状の感染者の発覚が続き、5月にひとつの団地で、新たに6
人の感染者が確認されたことを機に、武漢市は、「社会の中の恐
怖を取り除く」ことを目的として全員検査に踏み切っています。
たった6人の感染者が出ただけで、武漢市民全員検査をやってい
るのです。200人を超える感染者が連日出ているのに何もしな
い日本とは大変な違いです。
 武漢市民全員のPCR検査で、約990万人を調べ、300人
に陽性反応が出ましたが、全員が無症状だったといいます。もし
この300人を放置すれば、この300人を中心として、多くの
感染者が出たことでしょう。これで誰もが安心して、日々の生活
を送れるようになったといいます。
 日本政府がいまやるべきことは、新型コロナウイルスに関する
不安感を国民から取り除くことです。感染を封じ込めることは不
可能ではありません。「ウイズコロナ」というような誤魔化しを
することなく、せめて東京都だけでも、全件検査を行い、無症状
の感染者を隔離することです。そうしない限り、国民の不安は、
けっして解消しないでしょう。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/031]

≪画像および関連情報≫
 ●小池都知事、200人超に「2週間前の一人一人の行動が...」
  →ネット「2週間前の対策が誤りだったと...」
  ───────────────────────────
   東京都の小池百合子知事は、新型コロナウイルスの新規感
  染者数について、「2週間前の一人一人の行動がこのような
  形で数字となって表れている」と2020年7月10日にコ
  メントした。
   東京都では9日に224人が、10日には243人の感染
  者がそれぞれ新たに確認され、1日に確認された数としては
  2日連続で過去最多を更新した。「ステイホームをそのまま
  続けていただくというよりは...」
   小池都知事は定例会見の中でも確認された人数について、
  「243人と聞いております」と説明した。また、記者から
  経済活動の再開に伴い感染者が出続けていることに関して都
  民へのメッセージを求められると、その中で「皆様方に改め
  て申し上げますと、今出ている数字もやはり2週間前の一人
  一人の行動がこのような形で数字となって表れているという
  ことは、これはずっと変わらないわけですね」と強調。また
  緊急事態宣言中の外出自粛要請を指してか、「あの時ステイ
  ホームなどで本当にご協力いただいた。これをまた、ステイ
  ホームをそのまま続けていただくというよりは、皆さんが気
  を付けていただき、事業者としても気を付けていただき、経
  営者としても気を付けていただいて、新しい日常を作ってい
  くという、その過程でございます」https://bit.ly/2W6JX7B
  ───────────────────────────

東京都の感染者/日別.jpg
東京都の感染者/日別

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2020年07月14日

●「コロナ禍を予告した映画多く存在」(EJ第5288号)

 2020年1月〜3月まで、新型コロナウイルスの感染者が世
界中に拡大するなか、カナダでは、あるテレビ映画がカナダTV
Aネットワークによって放映され、「ジャスト・タイムリー」と
話題になっています。
 実はこの映画が撮影されたのが、2019年で、中国で最初の
感染者が発見されるよりも前なのです。しかし、その内容は、現
在の世界の現状を“予言”していたかのように正確で、リアルな
描写の数々に、誰もが驚かずにはいられない映画です。この映画
は7月には日本にも配信されており、その予告編(日本語対応)
をご紹介します。
─────────────────────────────
     映画『アウトブレイク/感染拡大』予告編
           1分19秒  https://bit.ly/2ZkaekH ─────────────────────────────
 実は、この『アウトブレイク』という題名の映画は、1995
年に米国でも制作制作されているのです。ダスティン・ホフマン
主演の映画ですが、これはパンデミック映画の古典的地位を占め
ていると、映画評論家が批評しています。これについても、英語
ですが予告編があるので、ご覧ください。
─────────────────────────────
       映画『アウトブレイク』予告編
           2分25秒  https://bit.ly/3gVGCAh ─────────────────────────────
 もうひとつあります。映画『コンティジェン』です。この映画
は、中国起源のウイルスがコウモリから子豚に感染し、中華レス
トランのコックへ感染。そのコックと握手した人物が米国にウイ
ルスを持ち込み、パンデミックとなってスーパーを襲撃、都市封
鎖が実施される。武漢ウイルスの感染ルートに酷似している点が
不気味です。予告編は次の通りです。
─────────────────────────────
       映画『コンティジョン』予告編
            1分02秒 https://bit.ly/2CuP8ac ─────────────────────────────
 映画『コンティジェン』のキャッチコピーは、映画の内容もさ
ることながら、なかなか強烈です。「【恐怖】はウイルスより早
く感染する」というのです。
 映画『コンティジェン』について、ノンフィクション作家の川
添恵子氏は、「悪夢は予告されていた」というレポートで、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 ウイルスよりも「恐怖」のほうが、人を支配する、特別かつ確
実な「感染力」を持った“魔物”ではないかと。捕捉すると、直
接会わなくても「恐怖」は「感染力」がある。 ──川添恵子氏
              『WiLL』/2020年8月号
─────────────────────────────
 いずれも、現在の事態をまるで予測したような映画ですが、こ
ういう映画は比較的作り易いといえます。政府として、ウイルス
への最初の対応を誤ってしまうと、こうなってしまうことが十分
予測できるからです。そういう意味で、いわゆる、この種のパン
デミック映画は、そういう事態にならないための啓蒙映画である
といえます。
 英国人の著名コラムニストに、マーチン・ウルフ氏という人が
います。世界銀行のエコノミストなどを経て1987年にフィナ
ンシャル・タイムズに入社しています。経済政策の間違いが第2
次世界大戦を招いたとの問題意識から経済に関心を持ち、一貫し
て経済問題について執筆し、現在最も影響力のあるジャーナリス
トとされ、その論評、発言は各国の財務相や中央銀行総裁も注目
するといいます。
 そのマーチン・ウルフ氏は、今回のコロナ禍について、フィナ
ンシャル・タイムズ紙に次のように書いています。
─────────────────────────────
 これは、第2次世界大戦以降、世界が対峙する圧倒的に最大の
危険であり、1930年代の大恐慌以来、最大の経済的惨事だ。
世界は大国が分裂し、政府の上層部が恐ろしいほど無能な状態で
この瞬間を迎えた。我々はいずれこの局面を通り過ぎるが、その
先には何が待ち受けているのか。多くのことが依然、不透明だが
重要な不確実性のひとつは、近視眼的な指導者たちがこの世界的
な脅威にどう対応するかにかかっている。   ──宮崎正弘著
        『──次に何が起きるか/WHAT NEXT
             /コロナ以後全予測』/ハート出版
─────────────────────────────
 マーチン・ウルフ氏が、今回のコロナ禍を世界大恐慌に次ぐ最
大の経済的惨事になると予測したのは、「(米中)の大国が分裂
し、政府の上層部が、恐ろしいほど無能な状態で、この瞬間を迎
えたからである」としています。
 とくに米国のトランプ大統領は、次の言葉に代表されるように
あまりにも事態を楽観視していたといえます。3月の段階での大
統領の発言です。
─────────────────────────────
     イースター(4月12日)までに解決する
              ──トランプ米大統領
─────────────────────────────
 しかし、米国を筆頭に欧米で死者が戦争並みの犠牲を超えてい
ることを知って、ウォール街も経済学者も愕然とします。それま
での被害者想定を4月初旬までトランプ大統領と同様にきわめて
楽観的に診ていたのです。
 米国の死者は、その時点で朝鮮戦争での犠牲者を超えていたし
それどころか、被害は、香港風邪の規模をはるかにオーバーし、
チェルノブイリを超え、広島の原爆犠牲者を超えたのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/032]

≪画像および関連情報≫
 ●世界経済に「大遮断」の危機/マーティン・ウルフ氏
  ───────────────────────────
   国際通貨基金(IMF)は4月14日に発表した最新の世
  界経済見通しの中で、世界の現状を「グレート・ロックダウ
  ン」と表現した。だが、筆者は現状を踏まえると、むしろ、
  「グレート・シャットダウン(大遮断)」と呼んだ方がよい
  と考える。そもそも今の惨状はロックダウン(都市封鎖)が
  根本の原因ではないし、封鎖を強行していなかったとしても
  世界経済は崩壊していただろうし、封鎖を解除しても経済の
  崩壊は続くかもしれないからだ。
   呼び方はともかく、これだけははっきりしている。これは
  第2次世界大戦後、世界が直面する最大の危機であり、19
  80年代の大恐慌以降、最大の経済的惨事だ。しかも世界は
  大国間の溝が深まり、多くの国の政府の高いレベルが恐ろし
  い無能ぶりをさらけ出す中で、この危機を迎えている。この
  危機はいずれ終わるが、その後、どんな世界が待ち受けるの
  か――。
   IMFは、今年1月時点では迫り来る厄災に気づいていな
  かった。中国が他国に全く情報を伝えていなかっただけでな
  く、自国政府内でも、適切に情報交換をしていなかったため
  だ。おかげで我々はパンデミック(世界的な大流行)のただ
  中にあり、甚大な被害を受けている。
                  https://amba.to/3iZ3JeK
  ───────────────────────────

マーティン・ウルフ氏.jpg
マーティン・ウルフ氏

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2020年07月15日

●「コロナ禍で何が起こりつつあるか」(EJ第5289号)

 今回のコロナ禍で、何が起こりつつあるか考えてみます。コロ
ナ禍による大変化の筆頭は、中国に対する印象の悪化です。少し
オーバーにいえば、全世界が中国を敵視しはじめるという変貌が
国際環境で起きているのです。国際外交におけるかつての中国へ
の注目、期待は薄れ、中国熱は雲散霧消しつつあります。
 2020年4月22日に発表された米国人を対象とするビュー
リサーチ調査は、次のような結果になっています。
─────────────────────────────
 ◎あなたは中国が好きですか、嫌いですか
  ・嫌いです ・・・・・・・・ 66%
  ・好きです ・・・・・・・・ 26%
 ◎あなたは習近平が正しい方向の政治をしていると思いますか
  ・正しいとは思わない ・・・ 71%
  ・正しいと思う    ・・・ 22%
                      ──宮崎正弘著
        『──次に何が起きるか/WHAT NEXT
             /コロナ以後全予測』/ハート出版
─────────────────────────────
 中国の未来に、これまで大きな期待をかけてきたのは、ほかな
らぬ米国なのです。米国がサポートを続ければ、中国は必ず民主
化するし、米国と中国による「G2関係」が築けると本気で考え
ていた中国びいき──パンダハガーがたくさんいたのです。いわ
ゆる親中派です。
 クリントン元大統領をはじめ、ゼーリック元国務副長官、ニク
ソンの忍者外交を主導したキッシンジャー元国務長官、カーター
政権でのブレジンスキー安全保障担当補佐官など、親中派の政治
家はたくさんいたのです。なかでも、ゼーリック元国務副長官に
いたっては、大の反日家で、中国を「競合相手」ではなく、「責
任あるステークホルダー」としても持ち上げるほどの親中派だっ
たといいます。
 しかし、このコロナ禍によって、親中派は激減し、様変わりを
きたしています。5月27日、上院本会議では「ウイグル人権法
案」を全会一致で可決しています。下院では、昨年師走に同法案
を407対1の賛成多数で可決しています。そして、6月17日
トランプ大統領は、この法案に署名しています。
 このように、中国を排除するための米国の法制度が多くなって
おり、それは中国を一歩一歩追い詰めています。このまま行くと
中国はあらゆる面で追い詰められ、将棋でいうところの詰んだ状
態になってしまいます。グローバリズムは、ヒト、モノ、カネの
移動の自由化であるので、中国を市場から排除するためには、こ
こに壁をつくればよいことになります。
 中国共産党の幹部が一番怖がっているのは自国民です。恐いか
ら弾圧するのです。彼らは、共産党の体制が崩壊することも予測
し、外国、とくに米国に資金や財産を移しています。習近平主席
の親族も米国にいるといわれます。もちろん米国はそれらをすべ
て把握しており、香港のようなことが起きると、そうした中国人
の財産を凍結したりします。
 中国排除の米国の法制度の概況について、経済評論家の渡邊哲
也氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 まずヒトですが、大統領令によるIEEPA法で米国国内での
経済活動を制限できます。モノは商務省の輸出管理であるEAR
(輸出管理税別)とECRA(輸出管理現代化法)があり、制裁
はエンティティリスト、カネは財務省のOFAC(外国資産管理
宅)規制によるSDNリストで、資金調達や融資を含む金融取引
が即時に停止されます。
 たとえば、SDNリストでカネの制限を掛ければドルを必要と
する海外展開をしている企業は即死します。ファーウェイを例に
とると、TSMCからのSOCの輸入、日本からの基幹部品の輸
入が停止した時点で、製品の生産ができなくなり、取引先との契
約も切れ、従業員の雇用も継続できなくなる。(中略)
 基本的に最先端の半導体やプログラムの基本部分は米国企業が
特許を保有しており、米国原産技術が含まれています。そして、
それを利用した再輸出も規制対象ですから、台湾だけでなく、日
本企業もその影響を受けることになります。違反すればドル決済
ができなくなり、輸出企業は破綻することになります。どちらに
しても、SOCが手に入らなくなれば、製品は作れません。世界
各国ファーウェイを採用しても、製品の生産が停止するので、い
つまで待ってもネットワークが完成しないことになりそうです。
                ──宮崎正弘/渡邊哲也共著
    『コロナ大恐慌/中国を世界が排除する』/ビジネス社
─────────────────────────────
 博成玉という中国人がいます。中国海洋石油(CNOOC)と
シノペックのCEOを務めた人物です。ティラーソン前国務長官
とは親しい関係といわれます。その博成玉氏が『財訊』という雑
誌の最新号で、アフター・コロナについて、次のように述べてい
ます。米国をよく知る、なかなか冷静な分析です。
─────────────────────────────
 コロナ以後の国際環境は中国にとって冷風、そのうえに米国が
繰り出した悪玉論の蔓延で地政学的環境はさらに中国の立場を悪
化するだろう。コロナはブラックスワンだったのだ。中国への冷
視は、向こう1、2年はおさまらない匂いがする。
   ──博成玉氏/──宮崎正弘・渡邊哲也共著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで「ブラックスワン」とは、あってはならないことが起き
ることを意味しています。マーケットにおいて、予想ができず、
起きたときの衝撃が大きい事象のことを「ブラックスワン」とい
うのです。今回の新型コロナウイルス禍は、まさにブラックスワ
ンそのものだったといえます。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/033]

≪画像および関連情報≫
 ●新型肺炎で「反中感情」が世界に広がる根本理由
  ───────────────────────────
   日本ではツイッターのハッシュタグで「#中国人は日本に
  来るな」がトレンド入りした。シンガポールでは、何万人も
  の住民が中国人の入国を禁止するよう政府に求める請願書に
  署名した。
   香港、韓国、ベトナムではレストランなどが中国本土から
  の客を歓迎しないという張り紙を出し、フランスの地方紙は
  トップページに「黄色警報」という見出しを掲載。カナダの
  トロント郊外では、保護者らが最近中国から帰国した家庭の
  子どもについて17日間学校を休ませるよう求めた。
   中国を中心に新型コロナウイルスの感染が急速に拡大して
  いることで、世界各地でパニックが広がり、一部であからさ
  まな反中感情が生じている。
   世界保健機関(WHO)は1月30日に「国際的に懸念さ
  れる公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、アメリカ国務省は中
  国への渡航自粛を勧告するなど、当局は危機の封じ込めを急
  いでいる。しかし、感染拡大に対する不安が、ゼノフォビア
  (外国人嫌悪)を助長している。パニック拡大の波は時に実
  際的な懸念をはるかに上回っている。中国の経済力と軍事力
  の増大がアジアの隣国や西側のライバル国を不安にさせる中
  コロナウイルスは中国本土の人々に対する潜在的な偏見をあ
  おっている。          https://bit.ly/2We66k6
  ───────────────────────────

ゼーリック元国務副長官.jpg
ゼーリック元国務副長官

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2020年07月16日

●「一帯一路構想はコロナで崩壊寸前」(EJ第5290号)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、嫌中現象が拡大しつ
つあります。これについて、中国海洋石油の元CEOの博成玉氏
は「この状態は1〜2年続く」と予測していますが、今回のコロ
ナ禍はそんな程度では終らないと考えられます。
 ハーバード大学の調査チームによると、この災禍の完全な収束
には、二次感染、三次感染が起きるので、ワクチンが開発される
ことが必要条件であり、そのためには2024年を待たなければ
ならないというのです。
 目下習近平政権が鋭意進める「一帯一路計画」は、コロナ禍に
よって、どうなるでしょうか。中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏
と渡邊哲也氏は、一帯一路について次のように述べています。
─────────────────────────────
宮崎正弘:中国経済は、貿易戦争で明らかになった米中の全面対
 立で、ただでさえ悲鳴を上げていたところに、武漢コロナの大
 災禍が加わり、崩壊寸前です。中国を中心とした世界的なサプ
 ライチェーンが見直さざるをえず、日本、韓国、台湾のみなら
 ず、アジア一帯がおかしくなる。つまり、一帯一路の頓挫はも
 はや決定的となった。
渡邊哲也:一帯一路は全滅でしょうね。
宮崎正弘:ヒトの出入りが止まれば、自ずとモノの流れも滞る。
 次はカネの流れも止まる。
渡遵哲也:実際、サプライチェーンの麻痺は物流の麻痺へと拡大
 しています。たとえば、工場が止まれば工場に入るはずの資材
 の搬入も止まり、倉庫に荷物があふれていく。結果的に、上流
 の物流が止まり、モノは身動きが取れなくなってしまう。中国
 近海には、そのような貨物船が多数停泊中で、輸出のための荷
 物も動かなくなっている状況です。一部の税関も機能が停止し
 たままであるため、モノの出入国ができなくなっています。そ
 してモノが止まれば必然的にカネも止まる。中国では感染拡大
 を防ぐために人が集まったり会食したりすることを制限する動
 きが出ており、その影響が飲食業やサービス業を直撃していま
 す。すでに、北京市の有名カラオケ店が破産手続きに入ること
 が報じられているほどです。  ──宮崎正弘/渡邊哲也共著
    『コロナ大恐慌/中国を世界が排除する』/ビジネス社
─────────────────────────────
 1月17日〜18日にかけて、習近平主席は、ミャンマーを初
めて訪問し、アウンサン・スーチーミャンマー国家顧問との間で
「中国・ミャンマー経済回廊」の一環のインフラ建設協力に署名
していたのです。
 1月17日〜18日といえば、武漢でコロナウイルスの感染が
拡大し、その押さえ込みに、国のトップとして全力を尽くさなけ
ればならない重大なときであるのに、「一帯一路」の署名のため
に、のんびりとミャンマーを訪問していたのです。このせいで、
中国国内でのコロナ対応への初動が遅れたのではないかと批判さ
れているのです。その翌週の1月23日、武漢市は突如封鎖され
ています。
 この習近平主席が主導する巨大経済圏構想「一帯一路」につい
ては、インフラ開発の名の下に参加国が重い借金を背負わされ、
計画が遅れたり頓挫したりする事態も生じています。
 具体的にいうと、エチオピア〜ジブチ鉄道は棚上げとなり、マ
レーシア〜シンガポール間高速鉄道プロジェクトは中止、パキス
タンの政権交代に伴う一帯一路事業の見直しなど、2018年以
来、計画の頓挫が続いているのです。欧米諸国からは、返済見込
みのない事業に多額の融資をして相手国を借金漬けにして支配す
るやり方を「債務の罠」とか、「中国式植民地主義」などと非難
されてイメージも地に落ちています。それに加えて、今回のコロ
ナ禍です。
 6月19日時点で16万人以上が感染しているパキスタンでは
一帯一路を象徴する620億ドル(約6兆6200億円)規模の
巨大インフラ事業「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」計画
が大きく遅れています。パキスタンは、中国からの300億ドル
(約3兆2000億円)の融資について、返済期間の延長を要請
しています。
 中国の一帯一路計画と、新型コロナウイルスの影響について、
中国の事情に詳しい福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 一帯一路戦略全体については、ロイター通信が一帯一路に参画
する10企業以上のハイレベル幹部たちに取材したところ、新型
コロナ肺炎の影響でかなり支障が出ている。一帯一路沿線国家の
インフラ建設現場への労働者派遣ができず、また中国国内の工場
運営や物流もコロナ肺炎の流行によって阻害されているため、一
帯一路建設に必要な中国からの輸入資材が届いてないことから、
各地で一帯一路関連建設が棚上げ状態になっているという。
 中国国営中鉄国際集団がインドネシアで60億ドル投資した高
速鉄道建設計画がその一例だ。140キロに及ぶこの高速鉄道建
設工事は、首都ジャカルタと紡績工業都市のバンドンをつなぐ予
定だが、中鉄国際集団の匿名の幹部によれば、新型コロナ肺炎の
影響をうけて、社内で新型コロナ肺炎監視チームがつくられてお
り、春節休みに帰国していた社員らがインドネシアに戻らないよ
うに監督しているという。このため、100人以上のエンジニア
や管理部門の人員がインドネシアに戻れず、工事が中断せざるを
得ない状況らしい。またインドネシアは今月はじめから中国から
の航空便を全面的に暫定停止。過去14日間に中国滞在歴のある
人の入国を禁止した。        https://bit.ly/3fuZ826
─────────────────────────────
 結局のところ、一帯一路の本質は何かといえば、金による買収
モデルであり、新興国をはじめ、貧しい国への投資と政治家や有
力者に対する資金援助なのです。しかし、地元の雇用は生まず、
それが原因で、地元住民との対立は避けられなかったのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/034]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナで狂う中国「一帯一路」、労働者不足の影響
  じわり
  ───────────────────────────
   中国の習近平国家主席が進める、広域経済圏構想「一帯一
  路」はこれまで、同国の影響力を世界中に見せつけるための
  策と見なされてきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡
  大は、この構想がいかに同国からの問題の輸出につながるか
  を示している。
   感染拡大の影響で、中国が国外で進めるインフラ建設や投
  資計画には遅れが生じている。検疫措置によって中国人労働
  者は他国の建設現場に行けず、国外プロジェクトを担当する
  中国企業は深刻な労働力不足に直面している。中国人労働者
  が自覚症状のないまま新たな現場でウイルスをまき散らしか
  ねないとの懸念も高まっている。
   新型コロナは既に総工費55億ドル(約5800憶円)の
  インドネシア高速鉄道計画など複数のプロジェクトに影響を
  与えている。インドネシアのルフット調整相(海事・投資担
  当)は5日、一帯一路の旗艦プロジェクトであるジャカルタ
  とバンドンを結ぶ高速鉄道プロジェクトが遅延に直面しそう
  だと述べた。300人以上の労働者が中国で足止めされてい
  るという。隣のマレーシアでは、総工費104億ドルの東海
  岸鉄道の建設に従事している約200人の中国人労働者のう
  ち、12人が新型コロナ発生地である武漢市の出身だ。彼ら
  はマレーシアに再入国することが許されていない。
                  https://bit.ly/3j3wTte
  ──────────────────────────

中国の「一帯一路構想」.jpg
中国の「一帯一路構想」
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2020年07月17日

●「米国の金融制裁で孤立化する中国」(EJ第5291号)

 今回のコロナ災禍にさいして、北京大学のエコノミストが次の
主張をしています。中国政府は、この主張をどのように受け止め
たのでしょうか。
─────────────────────────────
 日本政府は、国民1人1人に対して10万円を支給する。米国
政府も、1200ドルから2000ドルの現金を支給する。これ
に倣って中国政府は国民全員に千元(15万円)を支給せよ。
                      ──宮崎正弘著
        『──次に何が起きるか/WHAT NEXT
             /コロナ以後全予測』/ハート出版
─────────────────────────────
 宮崎正弘氏によると、中国という国は、莫大な軍拡予算を確保
しても、国民の生活を守るという意識は希薄であるといいます。
今回のコロナ災禍で、中国国民の生活は本当のところ、どうなっ
ているのでしょうか。宮崎正弘氏の本に基づいて考えてみます。
 日本各地でよく見かける中国の旅行団、個人旅行者は、そのほ
とんどが、中国の中産階級の都市部生活者です。相当羽ぶりがよ
さそうにみえますが、その実体はどうなのでしょうか。
 4月22日の中国人民銀行(中央銀行)の発表によると、全土
の都市部生活者、およそ3万世帯の財務内容は、全世帯の56・
5%が住宅ローンなどの借金を抱えていることが明らかになって
います。宮崎正弘氏は、彼らの生活に関して、次のように紹介し
ています。
─────────────────────────────
 背伸びしてマイカーを持ち、子供にピアノを買い、スマホは新
型を追いかけ、通信費の支払いにも事欠くと、贅沢品を忌避する
のではなく食事を削るのだ。この統計はコロナ以前のことであり
それ以後は想像を絶する惨状だろう。げんにコロナの元凶となっ
た湖北省ではGDPはマイナス40パーセントを示している。調
査結果に戻ると、家庭の借財の59・1パーセントが不動産で、
全家庭の20・4パーセントしか金融資産をもっていないことが
分かった。中間層といわれる中国の都会人の大半が、実は安定収
入を欠き、小口の現金にも事欠き、ほかの財産となるようなもの
がない。このような家庭が都会生活者の中産階級の実態だった。
可処分所得は平均11691元(18万円)で、それも全世帯の
3・9パーセントしかないという。(中略)
 借金でマンションを買い、マイカーを買い、ツァーで日本やイ
タリアに観光旅行に行くのも借金。さぁ支払いになると、ローン
残高の巨額に震えて、生活不安に怯える。それが中国の中産階級
の実像だった。これから中国人の海外旅行もマイカーも、ピアノ
も「突然死」を迎える。日本のインバウンド業界の期待する中国
人ツァーの再来は考えにくい。  ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 今回のコロナ災禍による景気後退に対して、中国政府は、一応
家賃延長、支払い猶予、償還時期の延長などの政策を表明し、中
小企業の支払い補助に1・8兆元(27兆円)、物価安定に38
億元(570億円)、失業保険対策にも予算をつけると表明して
いますが、とくにそれ以上の措置を取る予定はないようです。
 それに加えて、米国で7月14日にトランプ大統領が署名して
成立した「香港自治法案」があります。中国の「香港国家安全維
持法」の制定や香港での抗議デモ弾圧に関与した政府当局者につ
いて、資産凍結や米国への入国制限といった制裁を科すという内
容ですが、どのくらい影響があるかは、この法律をどのように運
用するかにかかっています。
 問題は、そういう当局者と「かなり大きな取引」がある金融機
関も制裁の対象になります。その金融機関が米国銀行から融資を
受けたり、ドル決済に関わったりすることを止めることもできる
のです。そうなると、香港の世界的な金融センターとしての将来
性に対する不透明感が一段と強まってきます。
 つまり、この法律は、中国の大手銀行への金融制裁の道を開く
可能性があり、米国当局は、米銀との取引の禁ずる次の8つの手
法を明らかにしています。
─────────────────────────────
 1.米銀による融資の禁止  4.米国内の視察凍結
 2.外貨取引の禁止     5.米国からの投融資制限
 3.貿易決済の禁止     6.米国からの物品輸出制限
         ──2020年7月16日付、日本経済新聞
                      7、8項目不明
─────────────────────────────
 基軸通貨であるドルの封じ込めは、中国への強烈なる脅しにな
ります。そのため、制裁発動までには1年間の猶予を金融機関に
与えることになっています。これに対して中国政府は、次のよう
な反対の声明を発表しています。
─────────────────────────────
 香港と中国内政に対する乱暴な干渉であり、中国政府は断固反
対する。国安法に反対する米国の試みは、永遠に実現不可能であ
り、もし米国が押し通すなら中国は必ずやり返す。──中国政府
           ──2020年16日付、朝日新聞より
─────────────────────────────
 中国としては、「米国がどのような手を打とうとも、中国は香
港への統治強化を緩めない」といっていますが、この強硬姿勢で
ことを進めると、米国が主導する「中国封じ」が国際社会に広が
り、中国が孤立してしまうこともあります。
 そのため、中国は、アジアを中心に切り崩しを図っています。
国連人権理事会は、6月、英国の呼びかけで、国安法への懸念を
示す共同声明に27ヶ国が賛成しましたが、アジアから加わって
のは日本だけだったのです。韓国もこの声明には加わってはいま
せん。しかし、米国は自国第一で動いており、追従する国は以前
よりは少なくなっています。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/035]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ「香港国家安全法」を各国が支持するのか?メディアが
  報じない思惑
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスの感染拡大に世界が頭を悩ませるなか
  中国と周辺諸国との間で緊張が高まっている。東シナ海では
  尖閣諸島を巡って日中の間で緊張が走り、南シナ海では中国
  の内海化政策が進んでいる。また、新型コロナウイルスの発
  生源や香港国家安全維持法を巡って、中国と米国、オースト
  ラリアなど欧米諸国との間ではこれまで以上に関係が冷え込
  んでいる。さらに中国とインドの国境付近でも衝突が発生し
  45年ぶりに死者が出る事態となり、両国の緊張も高まって
  いる。そのような中、6月30日、スイス・ジュネーブで第
  44回国連人権理事会が開催された。同会合では、香港国家
  安全維持法に対する審議が行われ、反対する国と賛成する国
  で意見が分かれた。
   反対する国は、日本を始め、オーストラリア、カナダ、フ
  ランス、ドイツ、スウェーデン、スイス、イギリスなどの、
  27か国で、欧米諸国が圧倒的多数となった。ちなみに、米
  国はトランプ政権になってから国連人権理事会から脱退して
  いる。賛成する国は、中国を始め、カンボジア、キューバ、
  エジプト、イラン、イラク、パキスタン、北朝鮮などの53
  か国だった。同法を巡って、日本の多くのメディアは自由や
  民主主義が奪われる香港への悲観的な見方、米国や英国の懸
  念的なコメントを流すしかしておらず、これについて大々的
  に報じていない。        https://bit.ly/3ftIXSu
  ───────────────────────────

「香港自治法案」を発表するトランプ大統領.jpg
「香港自治法案」を発表するトランプ大統領
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2020年07月20日

●「藤井聡太新棋聖誕生に考えること」(EJ第5292号)

ジャーナル」(第5292号)をお届けします。
 今朝のEJは、思うところがあって、テーマとは直接関係はあ
りませんが、将棋の藤井聡太七段の「棋聖」位獲得の快挙につい
て、書くことにします。私自身、藤井七段のお蔭で、スマホによ
る「将棋観戦」を人生のひとつの楽しみして覚えたからです。
 私自身は将棋はルールを知る程度で詳しくはないし、最近では
指すことはありませんが、藤井七段のタイトル戦は、開始から最
後まで、感想戦を含めて、ABEMA・TVをスマホをつけっぱ
なしにして、毎回視聴しています。最近は「観る将」といって、
こういう見方をしている人は多いらしく、18日の日本経済新聞
の朝刊は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 新たなスターの登場とともに、AIの普及は将棋観戦の楽しみ
も広げた。多くの将棋対局を中継するインターネットテレビ「A
BEMA(アベマ)」は、「先手56%〜後手44%」といった
AIによる評価値を映し出し、形勢判断は一目瞭然。自分では指
さない「観る将」と呼ばれるファンの開拓に貢献している。
 アベマの20年上半期人気番組トップ10は、アイドルグルー
プ「乃木坂46」の番組などに続き、将棋中継が5、6、8位に
ランクイン。新棋聖が誕生した棋聖戦第4局は視聴数は600万
を超えた。     ──2020年7月18日/日本経済新聞
─────────────────────────────
 意外に知られていないことですが、藤井聡太七段は、いつも試
合会場にはリックを背負ってきますが、そのなかには複数社の新
聞が入っているのです。自分のことが載った新聞を持ち歩いてい
るのではなく、その日の朝刊をリックに入れています。
 現在、20代の若者の新聞の購読率はわずか8%(2015年
現在)であり、17歳の藤井聡太七段が新聞を読んでいるとは誰
も信じないでしょう。7月18日付の日本経済新聞の「春秋」に
次の記事があります。
─────────────────────────────
 デビューから無敗の29連勝。前人未踏の新記録を打ち立てた
のが中学の制服姿が初々しい藤井聡太さんだった。連勝が止まっ
た際のコメントが凄い。朝日新聞の取材に「まだ実力的に及びま
せん。むしろこのあたりで『平均への回帰』が起こるのではない
かと」。保険料の算出などに登場する統計学の概念に触れ、今の
成績はサンプルが少なく、本物と評価できないと謙遜したのだ。
理詰めのリアリストだ」。    ──2020年7月18日付
                       日本経済新聞
─────────────────────────────
 17日のことです。朝日新聞記者に感想を問われた藤井七段は
「醍醐味」という言葉を口にしています。これまでも、「実力か
らすると、『望外の結果』」といい、「『僥倖』としかいいよう
がない」と答えています。とてもじゃないが、17歳の少年の使
う語彙ではあり得ない。それは、日頃から新聞をていねいに読ん
でいる成果であると思います。母親の裕子さんによると、小学校
高学年で、司馬遼太郎「竜馬がゆく」や沢木耕太郎「深夜特急」
などを読破しているといいます。
 将棋の戦法のことは詳しくはわかりませんが、新聞によると、
今回の棋聖戦は次の戦法で戦われています。
─────────────────────────────
               渡邊棋聖   藤井七段
   第1局 ・・・・ 矢倉    ●      〇
   第2局 ・・・・ 矢倉    ●      〇
   第3局 ・・ 角換わり    〇      ●
   第4局 ・・・・ 矢倉    ●      〇
─────────────────────────────
 「矢倉」というのは王将をがっちり固める戦法であり、中原誠
16世名人や、米長邦雄永世棋聖が得意とした戦法で、米長邦雄
氏は、矢倉のことを「将棋の純文学である」という明言を残して
います。渡邊棋聖はこの「矢倉」を得意とし、藤井七段は「角換
わり」を得意とするのですが、第3局は「角換わり」で戦ってな
ぜか敗れています。加藤一二三・九段は、渡邊棋聖に「矢倉」の
力比べで勝っているのは、藤井聡太七段の今後にとってプラスで
あるといっています。
 2020年7月18日付、朝日新聞の社説「『感想戦』に学び
たい」は、なかなか感動的です。
─────────────────────────────
 新聞を愛読し、「僥倖」「望外」といった言葉を使いこなす高
校生棋士が、若者らしさを一番感じさせるのは負けた時だ。投了
後に両者が一緒に対局をふり返って、勝因、敗因などを分析する
「感想戦」では、何度もため息をつき、うなだれる。藤井新棋聖
は、多くの有力棋士と同じく、この感想戦を大切にしてきた。
 かつて好きな言葉を聞かれて「感想戦は敗者のためにある」と
答えた。「感想戦という行為自体が他(の世界)では珍しいと思
う」。おとといの対局後も、相手の渡邊明棋聖(棋王/王将)と
30分ほどの感想戦に臨んだ。
 それぞれの場面で自分が何を考えたのかを語り合い、より良い
一手があったのかを共同作業で探究する。人工知能(AI)でも
すべてを解明することはできないといわれる将棋の奥深さと、そ
こに一歩でも近づこうという熱意。悔しい負けを喫したばかりの
渡辺棋聖が、ていねいな言葉づかいで19歳下の藤井新棋聖に意
見を請うシーンには、胸を打つものがあった。
     ──2020年7月18日付、朝日新聞「社説」より
─────────────────────────────
 もうひとつ心に残る話があります。「将棋の神様にもし会えた
ら、何をお願いしますか」と聞かれた藤井聡太七段は次のように
答えています。「一局、お手合わせをお願いしたい」。なかなか
いえる言葉ではないです。藤井新棋聖が、既に2勝している「王
位」戦でもタイトルを獲得することを願っています。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/036]

≪画像および関連情報≫
 ●藤井新棋聖誕生!/現役棋士・真田圭一八段が考えるタイト
  ル獲得決め手となった一手とは
  ───────────────────────────
   藤井聡太七段(17)渡邊明棋聖(棋王、王将)に挑んだ
  第91期棋聖戦五番勝負の第4局が7月16日、関西将棋会
  館(大阪市福島区)で指され、後手の藤井七段が勝利。3勝
  1敗でシリーズを制し、17歳11か月の史上最年少で初タ
  イトルを獲得した。この第4局の藤井七段の戦いぶりについ
  て、25歳でタイトル戦・竜王戦の挑戦経験がある真田圭一
  八段(47)に聞いた。
   まずは藤井新棋聖、タイトル獲得おめでとうございます。
  第4局も期待に違わぬ大熱戦となりました。この対局も非常
  にハイレベルの戦いになりましたが、藤井将棋の特徴がよく
  出た一局だったと思います。
   彼の最大の長所は、悪い手を指さないこと。常にすごい手
  を指すわけではないですが、自らバランスを崩す手は決して
  指さない。簡単なようですが、タイトルホルダー相手でも先
  に崩れない。これはすごい手を一手指して勝つより実は相当
  に大変で、真の実力がないとできないことです。若さとか勢
  いとかの要素は極めて少なく、実力を発揮してのタイトル獲
  得と評していいと思います。難解な第4局でしたが、勝因と
  なった手を挙げれば、終盤の82手目、△86桂と打った局
  面だと思います。飛車をタダで取られてしまうので指しにく
  い手ですが、好手でした。タイトル獲得がかかった一戦でし
  たが、一局を通してプレッシャーを感じさせない内容で素晴
  らしかったと思います。     https://bit.ly/2ZE1wxH
  ───────────────────────────

藤井聡太新棋聖誕生!.jpg
藤井聡太新棋聖誕生!
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2020年07月21日

●「どさくさ紛れの中国の仕掛けとは」(EJ第5293号)

 これほどの時間が経過しても、その正体を明確に捉えることが
できない新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中がパニックに
陥っています。日本も例外ではなく、東京都をはじめとして日本
全国に感染者は蔓延しつつあります。
 無症状の感染者が感染を拡大しているというのですから、始末
が悪いです。だれが感染者かわからないので、人と会って話すこ
と自体がリスクであり、マスク、ソーシャルディスタンス、手洗
いが不可欠になり、飲食店などは、そのため多くの客を入れるこ
とができず、破綻に瀕ししつつありま0">す。
 2020年7月17日、午後3時現在の新型コロナウイルスの
感染者と死亡者のベスト10は、次のようになっています。
─────────────────────────────
              感染者数    死亡者数
       米国  3576157  138358
     ブラジル  2012151   76668
      インド  1003832   25602
      ロシア   751612   11920
      ペルー   341586   12615
    南アフリカ   324221    4669
     メキシコ   324041   37574
       チリ   323698    7290
       英国   294116   45204
      イラン   267062   13608
    ──────────────────────
       中国    83613    4634
                  https://bit.ly/3hceWqO
─────────────────────────────
 もともと新型コロナウイルスの発生地は、中国は認めませんが
中国の武漢市です。しかし、現在の米国の感染者数は、357万
6157人、死亡者数は13万8358人であるのに対し、中国
の感染者数は8万3613人、死亡者数は4634人です。この
数字が正しい数字であるかは不明ですが、死亡者数については、
中国は米国の30分の1です。もし、新型コロナウイルスが生物
兵器であったなら、事実上使えない核兵器などより、はるかに強
力な兵器であるといえます。
 何らかの事情で、武漢市においてウイルスが発生したことは確
かです。ところが、中国はこの情報を隠蔽し、身内の事務局長の
いるWHOの協力も得て、何とか人から人への感染の事実を隠蔽
し通したものと考えられます。しかし、その1ヶ月間に中国の春
節の旅行団は世界中の街を訪れ、感染を拡大させています。ここ
までは、これまでの検討でほぼ間違いないと思います。
 世界中の国がウイルスの感染対策に追われるなか、中国はウイ
ルスをほぼ押さえ込み、余裕を取り戻します。世界中に医療団を
送り込んだり、マスクや医療用品を届けたり、販売したりして、
外交上有利なポジションを築きます。まさに放火犯が消防士の役
割を演じたといえます。
 彼らのやったことは、それだけではないのです。いわゆるどさ
くさに紛れて、南シナ海や東シナ海で、軍事演習を行うなど、軍
事面でも好き勝手に振る舞ったのです。日本の尖閣諸島の領海や
接続水域には、40日以上にわたって、連日中国公船の接近侵入
を繰り返し、それは現在もまだ続いています。
 5月20日のことですが、米国のマルコ・ルビオ上院議員を筆
頭に、トム・ティルス、ベン・サッセ、ジョン・コーニョン、ト
ム・コットン、ミット・ロムニーらの共和党の上院議員と、民主
党のジェフ・メークレイ議員らがムニューヒン財務長官に書簡を
送り、次の緊急対策をとるよう求めたのです。
─────────────────────────────
 米国の中小企業で、ハイテク、宇宙開発、エネルギー分野の枢
要部品を製造するなどしている企業が、コロナ災禍により、経営
がふらついている隙を衝いて、中国資本に狙われている。至急対
策を講ずる必要がある。
 とくにコロナ以後、株価が下落して、資金調達に難儀をきたし
ている企業を、中国政府のファンドに支えられた中国資本が民間
ファンドを装って買収攻勢をかける傾向が見られる。
                      ──宮崎正弘著
        『──次に何が起きるか/WHAT NEXT
             /コロナ以後全予測』/ハート出版
─────────────────────────────
 こういう傾向は、米国だけでなく、EUやオートスラリア、イ
ンドなどでも見られるのです。
─────────────────────────────
◎エレン・ロード米国務次官
 中国資本が巧妙に米国の軍需産業の中小企業買収に動いている
のは深刻な安全保障の問題である。
◎マレグレッタ・ヴェスタヤーEU競争委員会コミッショナー
 中国関連株の投資を抑制しなければならない。また中国資本が
EU域内のヘルス、バイオ、医薬品企業の買収に動いていること
に警戒すべきである。
◎ジョシュ・フライデンバーグオーストラリア財務長官
 オーストラリア企業で、経営難に陥ったところが中国のカネに
狙われている。オーストラリアは法改正が必要となった。
                ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 5月20日には、米上院で、「外国企業説明責任法」が可決さ
れ、下院に送致され成立しています。この法律は、ウォール街に
上場している怪しげな中国企業のあり方を問うものです。会計報
告、企業報告の不透明な情報公開を続ける企業に対しては、強制
的に上場廃止ができる内容になっています。当局は会計検査を義
務付け、3年しても改善が見られない企業を対象としています。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/037]

≪画像および関連情報≫
 ●中国企業、検査拒否なら米上場廃止 上院が法案可決
  ───────────────────────────
  【ニューヨーク=宮本岳則】米上院本会議は5月20日、米
  国に上場する外国企業に経営の透明性を求める法案を可決し
  た。外国政府の支配下にないことを証明するよう求めるほか
  米規制当局による会計監査状況の検査を義務付ける。3年間
  検査を拒否した場合は上場廃止となる。中国企業の「締め出
  し」につながりかねない内容で、米国の対中強硬姿勢が一段
  と強まる。
   このほど上院で可決した法案「外国企業説明責任法」は、
  2019年に共和党と民主党の議員が超党派で提出したもの
  で、20日に全会一致で可決した。下院が可決しトランプ大
  統領が署名すれば成立する。
   法案は名指しはしていないものの、事実上、中国を念頭に
  置いたものだ。提案者の1人、民主党のクリス・ヴァン・ホ
  レン上院議員は声明で「中国企業は長年、米国の開示ルール
  を無視し、投資家を誤解させる情報を出してきた」と批判し
  た。法案によると、米国に上場する外国企業は政府の支配下
  にないことを証明しなければならない。米株式市場には電子
  商取引(EC)大手のアリババ集団やインターネット検索最
  大手の百度(バイドゥ)、中国のネットサービス大手、騰訊
  控股(テンセント)系の音楽配信サービス会社など中国の有
  力民間企業が多数上場する。https://s.nikkei.com/2CtYXFV
  ───────────────────────────


米国に上場している中国企業に圧力.jpg

米国に上場している中国企業に圧力 


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2020年07月22日

●新型コロナ19年10月から流行」(EJ第5294号)

 2020年6月4日のことです。米国のABCニュースは、次
のタイトルのニュースを報道しています。
─────────────────────────────
 衛星データは、コロナウイルスが以前に中国を襲った可能性
 を示唆している。       ──ハーバード大学医学部
        ジョン・ブラウンスタイン教授の研究チーム
 河添恵子著『習近平が隠したコロナの正体/それは生物兵器
                    だった』/WAC
─────────────────────────────
 どういう調査かというと、2018年10月と2019年10
月の「商業衛星画像」を分析したところ、2019年の夏の終わ
りから秋にかけて、武漢市の5ヶ所の主要な病院の周辺地域で車
両数が2018年10月よりも67%も多くなっている事実がわ
かったというものです。つまり、2019年10月には、それら
の武漢市周辺では、病院を出入りする車両が多くあり、病院を利
用する何かが起きていたのではないかというわけです。
 さらに同時期の中国の検索エンジン「百度/パイドウ」での検
索キーワードが、新型コロナウイルスの特徴である「咳」や「下
痢」「発熱」などであるケースが激増していたことです。つまり
武漢市の新型コロナウイルスの感染は、2919年12月ではな
く、2019年10月ではないかと分析できるのです。
 そうであったとしたら、WHOのテドロス事務局長は、おそら
く中国のウイルスに関する情報をかなり早い時点から知っており
中国に協力したものと思われます。
 ノンフィクションライターで、この問題を鋭意調査している河
添恵子氏は、近著の「おわりに/2019年夏、すでに起きてい
たのか」で、次のように興味深いことを書いています。
─────────────────────────────
 私は武漢ウイルスをさまざまな角度から追究していくなかで、
12月というより、「もっと以前から漏れていたのでは?」と考
えていました。日本でも昨秋、「なかなか治らない不可解な肺炎
が流行っている」と医師が語っていたことを聞いていました。さ
らに、昨秋から、顕著に増えていた死因が「肺炎による死」だっ
たことも葬儀関係者からのオフレコ話として、教えてもらってい
ました。武漢市には約200社の日本企業が進出しており、人々
の往来は頻繁だったのです。
 ならば、日本にも同時期、武漢ウイルスが入ってきていた可能
性は捨てきれません。さて、私は、ブラウンスタイン教授の研究
チームが選んだ武漢市の5つの主要病院、@天祐医院、A湖北省
婦幼保健院、B武漢大学中南医院、C武漢中心医院、D武漢協和
医院を、いつもの通りグーグルマップで確認しでみました。
 まず、@CDは、本書で名前が登場する病院です。そして@A
Bは、同市に二ヶ所ある「中国科学院武漢病毒(ウイルス)研究
所」のなかの「新しいラボ」ではなく、長江の東側、武昌区にあ
る「古いラボ」に極めて近い場所にある病院です。とすると、武
昌区にある「古いラボ」が発生源!?
                ──河添恵子著の前掲書より
─────────────────────────────
 新型コロナウイルスが人工のものであるか、遺伝子操作された
ものであるか、あるいは、そうでないかについては、意見が分か
れています。
 HIVの発見で有名なリュック・モンタニエ(フランスの生理
・医学ノーベル賞受賞者/2008年)博士は、武漢ウイルスを
「人工ウイルス」とほぼ断定しています。そのため、中国武漢の
生物化学兵器研究所から漏れた説が欧米では、確実視されるよう
になっています。ポンペオ国務長官が、しきりに「確実な証拠を
もっている」と発言しているのは、これに基づいているものと思
われます。
 コロラド大学の社祖健(アンソニー・トゥー)名誉教授は、武
漢ウイルスはHIVの配列に酷似しているため、人工の遺伝子が
人工的に混入され、人に感染しやすくなった可能性があるとして
います。この説については、中国科学院ウイルス研究所の石正麗
研究員が、論文でそのことを示唆しています。この論文は既に削
除され、石正麗氏研究員も5月下旬まで行方不明だったのです。
 しかし、米国の国家情報長官室は、「ウイルスは人工のもので
も遺伝子操作されたものでもない」としており、その起源に関し
ては目下調査中というスタンスです。また、フランスのパスツー
ル研究所も人工説には疑問を呈しており、それをはっきりさせる
ためにも、中国政府に対して、西側調査団を武漢の研究所に受け
入れての調査を求めていますが、中国政府は拒否しています。
 毒素や生物化学を研究している研究所から、人工ウイルスが意
図せずして、外部に漏れるということはあり得ることです。上記
の社祖健(アンソニー・トゥー)名誉教授は、河添恵子氏に対し
て、こんな話をしてくれたそうです。
─────────────────────────────
 1979年、スヴェルドロフスクの住民が多数(一説には68
名)死亡した事件がありました。ソ連当局は「腐った羊肉を食べ
たことで、炭疽菌が蔓延し、住民が死亡した」と発表しました。
しかしアメリカは「生物兵器研究所から漏れたのだろう」と推測
しました。ソ連崩壊後に、科学者を現地に派遣して調査をしまし
た。結果はアメリカの予想通り。事件は、生物兵器研究所からの
炭疽菌の漏洩でした。空調のパイプが詰まっていて、炭疽菌が別
のところから漏れ出てしまい、住民が亡くなったというのが真実
だったのです。         ──河添恵子著の前掲書より
─────────────────────────────
 生物兵器など人道的に絶対に許されるものではありませんが、
もし新型コロナウイルスが生物兵器であった場合、その破壊力は
すさまじいものがあります。世界中がこのウイルスひとつで現に
完全に世界中がパニックになっているからです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/038]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナ、19年夏に発生していた可能性・研究
  ───────────────────────────
  【ワシントンAFP=時事】中国・武漢市内の病院の訪問者
  数、および新型コロナウイルス感染症(COVID−19)
  の症状に関する同市からのインターネット検索数の急増から
  2019年8月には新型コロナウイルスの流行が始まってい
  た可能性があることが分かった。米ボストン大学とハーバー
  ド大学の研究チームの予備調査で示唆された。
   査読のある専門誌にはまだ掲載されていない今回の研究論
  文は、比較的新しい分野である「デジタル伝染病学」に基づ
  いている。ボストン大のイレーン・ゾイジー氏率いる研究チ
  ームは、2018年1月から2020年4月に撮影した武漢
  市の衛星写真111枚を分析。また、中国のインターネット
  検索エンジン百度で特定の症状が検索された頻度も調べた。
   研究チームによると、武漢市内の病院の駐車場に止められ
  た車の数が「2019年8月から急増し始め」、その数は、
  「2019年12月にピークを迎えた」という。
   また百度については、「せき」の検索数は例年のインフル
  エンザの流行に合わせて増加していたため、よりCOVID
  −19に特有の症状とされる「下痢」の検索数を調べた。こ
  の結果、8月に増加がみられたことが分かった。これはこれ
  までのインフルエンザの流行時期にはみられなかった現象で
  あるとともに、せきの検索データとも異なったという。
                  https://bit.ly/3eIHE0V
  ───────────────────────────

社祖健コロラド大学名誉教授.jpg
社祖健コロラド大学名誉教授

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2020年07月27日

●「どこからも同情されない国になる」(EJ第5295号)

 沖縄県・尖閣諸島周辺での中国海警局の武装公船などの侵入が
続いており、22日で「100日」連続です。世界中が中国発の
新型コロナウイルス対策で必死になっているスキを見て、中国は
尖閣諸島に毎日堂々と公船を乗り入れているのです。
 5日のことですが、中国公船が30時間以上領海侵犯し、外交
ルートを通じて「釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の中国領海で
日本漁船を操業させないよう管理すべきだ」と主張してきていま
す。つまり、日本の実効支配を弱めようとしてきているのです。
安倍政権に支配されている日本のメディアは、ニュースを積極的
に伝えませんが、このままいくととんでもないことになります。
 これに対して、21日、エスパー米国防長官は、英・国際戦略
研究所で講演し、このことを次のように批判しています。
─────────────────────────────
 中国は、東シナ海と南シナ海で攻撃的な行動を続けている。日
本の施政下にある尖閣諸島周辺海域で、侵入の回数と時間を増や
している。             ──エスパー米国防長官
             2020年7月22日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 中国を止めるには、尖閣海域を封鎖する必要があります。その
ためには、米軍の射撃練習場になっている尖閣諸島・大正島など
に、日本が自衛隊の軍事拠点を作り、米軍とともに軍事演習を行
えばいいのです。そうすると、中国は太平洋に出る手段を失うこ
とになります。もはや習近平国家主席の日本国賓招待などは、も
し決行すれば、日本中で超大デモが起き、日本は大恥をかくこと
になります。
 どのように考えても、現在の中国にとって、現在の時点で武力
にものをいわせて尖閣諸島を占拠すれば、中国は完全に世界から
孤立します。コロナ災禍で、中国は世界中から信頼を失っていま
す。米軍も日米安全保障条約上、日米両軍が総力を挙げて、島の
奪還に動かざるを得なくなります。
 しかし、中国にも人物がいるようです。中国軍部の代表的なタ
カ派である中国攻防大学戦略研究所の戴旭教授です。この人は、
10年前に「2010年インターネット9大風雲児」と呼ばれ、
故郷の河南省では「河南の三傑」の1人ともいわれています。
 戴旭教授は、「中国が米国について思いもよらなかった4つの
こと」というタイトルで講演を行っていますが、中央日報のサイ
トから、その4つとは何かについて、要約・整理してお伝えする
ことにします。
─────────────────────────────
 戴氏が話す最初の「中国が米国について思いもよらなかったこ
と」は、中国に対する米国の怨恨がこれほどまでに大きかったと
いうことだ。これによると、トランプ米大統領は、中国に対して
少しの好感さえ持っていない。トランプ氏は中国を「貿易テロリ
スト」「グローバル経済侵略者」「詐欺師」「こそ泥」「ルール
破壊者」などと呼んでいるが、これは中国が、夢にも思っていな
かったことだ。
 中国の第二の「思いもよらなかったこと」は、米国のやり方が
情け容赦のない非常に手厳しいものだったということだ。米国政
府の中国バッシングが少しの談判の余裕も与えず、そして電撃的
に行われるとは、中国官僚や専門家のほとんどが予測できなかっ
た。米中貿易が密接に絡み合い、長い歳月をかけて形成されたも
ので、中国は米国の気が触れない限り、中国産製品に対する関税
を2000億ドル(約21兆4000億円)も追加で課すわけが
ないと考えたが、米国は中国に対して相次いで強硬姿勢を取り、
中国の予想をはるかに超えた。
 第三のことは、中国がこのように米国から不利益を被っている
にも関わらず、中国に同情や支持を示す国が一つもないという点
だ。多くの国々が米国の貿易政策に反対しながらも、これによる
最大被害者である中国の味方になって反米戦線を構築しようとい
う国はない。中国は今まで世界各国に援助を惜しんでこなかった
し、援助を受けた国々もまた中国から多くの利益を持っていった
が、いざ重要な時期には中国と共に行動する国がない。
 第四のことは、中国バッシングのために米国国内が一糸乱れず
統一戦線を構築した点だ。米国の共和党と民主党は事あるごとに
対立しながらも、中国に対する政策だけは完全に統一された立場
を見せている。特に驚くのは、米議会で中国のために話をしよう
という政治家がたった一人もいないということだ。
            ──中央日報/中央日報日本語版より
                  https://bit.ly/2E4eFb7 ─────────────────────────────
 この戴旭教授の講演は、本当の意味での中国の反省であるかど
うかわかりませんが、そのように考えている有名人がいるという
ことは、わるいことではないと思います。要するに、中国は米国
という国を間違ってとらえていたということになります。戴旭教
授は、この講演で、「米国に対する新しい認識」についても触れ
ていますが、これについては、次のサイトを参照してください。
─────────────────────────────
  ◎米国にやられてもわれわれに同情する国はない(2)
   米国に対する新しい認識  https://bit.ly/2ZOxd7P
─────────────────────────────
 上記の「米国に対する新しい認識」でも述べられていることで
すが、戴旭教授は、中国政府に対して、「米国は戦略のプロであ
り、一度米国から『敵』という烙印を押されると、反テロ戦争で
見せたように、米国は、すべての手段を動員して最後まで追いか
けてくる恐さがある」と、米国という国に対して、警戒心をあら
わにしています。さらに、たとえトランプ大統領が選挙で交代し
ても、「米国を偉大にする」という核心戦略は不変であるとも述
べています。本当に中国は、そうあって欲しいし、尖閣において
も、いまのようなことはやめて欲しいものです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/039]

≪画像および関連情報≫
 ●徹底的な隔離はなぜ実行できたのか/中国の「大衆を動かす
  仕組み」の底力
  ───────────────────────────
   中国に「居民委員会(居委会)」と呼ばれる組織がある。
  日本で言えば町内会とか、町の自治会みたいな位置づけの組
  織だが、もちろん社会主義体制なので、その性格は大いに異
  なる。いわば中国という国の政策を実行するための、住民の
  代表で組織された実働部隊である。今回の新型コロナウイル
  スに感染症の蔓延で、事実上の「全国民自宅軟禁」の政策を
  実行し、感染の拡大阻止を実現するうえで最も大きな役割を
  担ったのが、この「居委会」だと思う。
   居委会は、中国という国の「いざ」という時の底力、権力
  体制のすさまじさを、まざまざと見せつけた。表舞台ではあ
  まり目立たないが、この居委会を手がかりに、中国社会の仕
  組みについて今回は考えてみたい。
   中国国内の感染拡大が落ち着きを見せ、経済活動が動き始
  めたのとは逆に、日本では感染爆発の危機が叫ばれるように
  なって、日本にいたビジネスパーソン、大学が休みになった
  留学生などが中国に戻る例が私の周囲にも増えてきた。空港
  によって扱いは多少違うが、例えば上海の場合、それらの人
  たちは国籍を問わず、中国入国後は14日間の自宅もしくは
  指定ホテルでの隔離の対象となる(注:その後、上海では日
  本からの渡航者は14日間の隔離対象から除外された。他の
  主要感染国からの渡航者は、3月26日現在、同措置が継続
  中)。             https://bit.ly/2CE8NVA
   ──────────────────────────

エスパー米国防長官.jpg
エスパー米国防長官
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●「米政府による中国総領事館の閉鎖」(EJ第5296号)

 7月21日、米国政府は驚くべき行動を起こしています。突然
ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を通告し、当総領事館の3日
以内の閉鎖と職員の撤収を求めたのです。22日、この件に関し
ポンペオ国務長官は次のように述べています。この情報は、新聞
記事よりも詳細な情報の一部です。全文を読みたいときはURL
をクリックすれば読むことができます。
─────────────────────────────
 中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした
政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの
新たな圧政に勝利しなくてはならない。
 米国や他の自由主義諸国の政策は中国の後退する経済をよみが
えらせたが、中国政府はそれを助けた国際社会の手にかみついた
だけだった。中国に特別な経済待遇を与えたが、中国共産党は西
側諸国の企業を受け入れる対価として人権侵害に口をつぐむよう
強要しただけだった。
 中国は貴重な知的財産や貿易機密を盗んだ。米国からサプライ
チェーンを吸い取り、奴隷労働の要素を加えた。世界の主要航路
は国際通商にとって安全でなくなった。
 今日の中国は国内でより独裁主義的となり、海外ではより攻撃
的に自由への敵意をむき出しにしている。トランプ大統領は言っ
てきた。「もうたくさんだ」と。https://s.nikkei.com/3jA36Zx
─────────────────────────────
 米国政府がここまでやるのは、よくよくのことです。なぜ、南
部テキサス州ヒューストンなのかについて、スティウェル国務次
官補(東アジア太平洋担当)は、米南部にはハイテク、宇宙など
の重要産業があり、そのため、中国軍による知的財産窃盗の「震
源地」になっていたといっています。スティウェル氏は、中国の
窃盗行為がここ半年間で急増しているのは、新型コロナウイルス
のワクチン開発競争も関係していると述べています。
 この突然の中国総領事館の閉鎖に対して、中国政府は猛反発し
ており、中国の米国の在外公館の閉鎖を検討しているものと思わ
れます。米国の在外公館は中国内に7か所あり、なかでも千数百
人のスタッフがいる香港総領事館の縮小や閉鎖を検討していると
いう情報もあります。
 当然中国政府としては、米国による一方的な中国総領事館の閉
鎖に対しては、相応の報復措置をとってくるものと思われ、米中
関係はさらに悪化することは確実です。加えて中国は、米国のみ
ならず、英国との関係も悪化しつつあるのです。
 このところボリス・ジョンソン首相率いる英国政府が中国政府
によるウイグル族への人権侵害を激しく批判しはじめています。
ウイグル族の人権侵害に関しては、トランプ米大統領が先月「ウ
イグル人権法案」に署名し、成立させていますが、英国もこれと
歩調を合わせています。
 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を引き起
こしながら、香港の「一国二制度」を奪い、軍事的覇権を強める
中国の習近平政権に対し、米英両国が「人権」というカードで米
英両国が足並みを揃えて対峙するかたちをとっています。これは
中国にとって大変な脅威です。
 それだけではないのです。香港市民が持つ「英国海外市民(B
NO)旅券」に関しても、中国政府は「有効性を認めない」とい
う声明を出しています。「英国海外市民(BNO)旅券」という
のは、1997年の香港返還以前に生まれた香港市民の持つ旅券
のことですが、英国政府は、この旅券の保有者に関し、7月22
日に次の声明を出しています。
─────────────────────────────
 BNO旅券の保有者とその扶養親族に対し、2021年1月か
ら特別ビザを発行する。この特別ビザで英国に5年間住むと、英
国の永住権が与えられ、その1年後に市民権も得られる。
                    ──英国政府の発表
─────────────────────────────
 英国政府は、中国の新型コロナウイルスの初期対応に不信感を
高めており、それに加えて、香港の旧宗主国として、中国の「国
家安全維持法」の施行に香港の基本的人権が侵害されるとの懸念
から、BNO旅券の保有者とその扶養親族に対し、救済策を打ち
出したものと思われます。
 なお、英国は既に香港政府と結んだ犯罪人の引き渡し条約の停
止を表明し、香港住民の英国への移住の促進や、次世代通信規格
「5G」分野での中国のファーウェイの排除などを打ち出すなど
反中政策を相次ぎ打ち出しているのです。
 こうした米国や英国の対応について、中国事情に詳しい石平氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人権や民主主義の本家である英国の果敢な対応は、歴史的な一
歩だ。高く評価する。次は、フランスやドイツなど欧州の他の先
進国の姿勢が問われる。これまで尻込みしていた国が反発して報
復に出れば、かえって国際社会から見放されるだろう。
      ──石平氏/2020年7月21日発行/夕刊フジ
─────────────────────────────
 ヒューストンの中国総領事館は、米国政府から閉鎖を通告され
ると、すぐ機密文書を燃やして処分したようです。それも相当大
量の文書を処分したようで、消防隊まで出動しています。火事と
間違えるほどですから、大変な量を処分したことになります。と
ころで、なぜ、焼却という方法を選んだのでしょうか。
 デジタルデータの消去は、相当注意しても、復元される可能性
が高いし、データ通信はもっとリスクがあります。結局、焼却し
てしまうのが、一番安全な方法と思われます。したがって、大量
の書類を焼却したということは、見られては困る文書がたくさん
あった証拠ともいえます。このように、中国への包囲網は拡大し
つつあります。これに対して、中国はどう対応しようとしている
のでしょうか。  ──[『コロナ』後の世界の変貌/040]

≪画像および関連情報≫
 ●米の中国総領事館閉鎖/スパイ活動のほか「米への敵対
  行為」が原因か
  ───────────────────────────
   米国務省のオルタガス報道官は7月22日、米政府がテキ
  サス州ヒューストンの中国総領事館に対して、72時間以内
  に閉鎖するよう通告したと発表した。報道官は声明で「米国
  の知的財産と米国民の個人情報を守るため」「中国による主
  権の侵害や米国民への脅迫を容認しない」と強調した。中国
  総領事館の閉鎖は、1979年に米国が中国共産党政権と国
  交を樹立して以来、初めてのことだ。
   デイビッド・スティルウェル国務次官補はニューヨーク・
  タイムズ紙に対して、在ヒューストン中国総領事館の蔡偉総
  領事と中国人外交官2人を、ヒューストン空港で現行犯逮捕
  したと語った。総領事らは、偽の身分証明書を使って、中国
  人訪問客を中国国際航空(エアチャイナ)の中国行きチャー
  ター機に乗せようとしたという。
   スティルウェル国務次官補は、在ヒューストン中国総領事
  館は、中国軍のスパイ活動の拠点だと指摘した。中国軍が中
  国人留学生を米大学に送りこみ、情報を窃盗している。さら
  に、同氏は、過去6カ月、中国当局による米科学分野の研究
  での窃盗が加速化していると述べ、中共ウイルス(新型コロ
  ナウイルス)のワクチン開発と関連していると考えている。
  中国総領事館はこれまでにも、エアチャイナを利用して、米
  国にいる諜報員の中国逃亡を手伝ったことがある。
                  https://bit.ly/2WOH9w2
  ───────────────────────────
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2020年07月28日

●「米政府による中国総領事館の閉鎖」()


7月21日、米国政府は驚くべき行動を起こしています。突然
ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を通告し、当総領事館の3日
以内の閉鎖と職員の撤収を求めたのです。22日、この件に関し
ポンペオ国務長官は次のように述べています。この情報は、新聞
記事よりも詳細な情報の一部です。全文を読みたいときはURL
をクリックすれば読むことができます。
─────────────────────────────
 中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした
政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの
新たな圧政に勝利しなくてはならない。
 米国や他の自由主義諸国の政策は中国の後退する経済をよみが
えらせたが、中国政府はそれを助けた国際社会の手にかみついた
だけだった。中国に特別な経済待遇を与えたが、中国共産党は西
側諸国の企業を受け入れる対価として人権侵害に口をつぐむよう
強要しただけだった。
 中国は貴重な知的財産や貿易機密を盗んだ。米国からサプライ
チェーンを吸い取り、奴隷労働の要素を加えた。世界の主要航路
は国際通商にとって安全でなくなった。
 今日の中国は国内でより独裁主義的となり、海外ではより攻撃
的に自由への敵意をむき出しにしている。トランプ大統領は言っ
てきた。「もうたくさんだ」と。https://s.nikkei.com/3jA36Zx
─────────────────────────────
 米国政府がここまでやるのは、よくよくのことです。なぜ、南
部テキサス州ヒューストンなのかについて、スティウェル国務次
官補(東アジア太平洋担当)は、米南部にはハイテク、宇宙など
の重要産業があり、そのため、中国軍による知的財産窃盗の「震
源地」になっていたといっています。スティウェル氏は、中国の
窃盗行為がここ半年間で急増しているのは、新型コロナウイルス
のワクチン開発競争も関係していると述べています。
 この突然の中国総領事館の閉鎖に対して、中国政府は猛反発し
ており、中国の米国の在外公館の閉鎖を検討しているものと思わ
れます。米国の在外公館は中国内に7か所あり、なかでも千数百
人のスタッフがいる香港総領事館の縮小や閉鎖を検討していると
いう情報もあります。
 当然中国政府としては、米国による一方的な中国総領事館の閉
鎖に対しては、相応の報復措置をとってくるものと思われ、米中
関係はさらに悪化することは確実です。加えて中国は、米国のみ
ならず、英国との関係も悪化しつつあるのです。
 このところボリス・ジョンソン首相率いる英国政府が中国政府
によるウイグル族への人権侵害を激しく批判しはじめています。
ウイグル族の人権侵害に関しては、トランプ米大統領が先月「ウ
イグル人権法案」に署名し、成立させていますが、英国もこれと
歩調を合わせています。
 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を引き起
こしながら、香港の「一国二制度」を奪い、軍事的覇権を強める
中国の習近平政権に対し、米英両国が「人権」というカードで米
英両国が足並みを揃えて対峙するかたちをとっています。これは
中国にとって大変な脅威です。
 それだけではないのです。香港市民が持つ「英国海外市民(B
NO)旅券」に関しても、中国政府は「有効性を認めない」とい
う声明を出しています。「英国海外市民(BNO)旅券」という
のは、1997年の香港返還以前に生まれた香港市民の持つ旅券
のことですが、英国政府は、この旅券の保有者に関し、7月22
日に次の声明を出しています。
─────────────────────────────
 BNO旅券の保有者とその扶養親族に対し、2021年1月か
ら特別ビザを発行する。この特別ビザで英国に5年間住むと、英
国の永住権が与えられ、その1年後に市民権も得られる。
                    ──英国政府の発表
─────────────────────────────
 英国政府は、中国の新型コロナウイルスの初期対応に不信感を
高めており、それに加えて、香港の旧宗主国として、中国の「国
家安全維持法」の施行に香港の基本的人権が侵害されるとの懸念
から、BNO旅券の保有者とその扶養親族に対し、救済策を打ち
出したものと思われます。
 なお、英国は既に香港政府と結んだ犯罪人の引き渡し条約の停
止を表明し、香港住民の英国への移住の促進や、次世代通信規格
「5G」分野での中国のファーウェイの排除などを打ち出すなど
反中政策を相次ぎ打ち出しているのです。
 こうした米国や英国の対応について、中国事情に詳しい石平氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人権や民主主義の本家である英国の果敢な対応は、歴史的な一
歩だ。高く評価する。次は、フランスやドイツなど欧州の他の先
進国の姿勢が問われる。これまで尻込みしていた国が反発して報
復に出れば、かえって国際社会から見放されるだろう。
      ──石平氏/2020年7月21日発行/夕刊フジ
─────────────────────────────
 ヒューストンの中国総領事館は、米国政府から閉鎖を通告され
ると、すぐ機密文書を燃やして処分したようです。それも相当大
量の文書を処分したようで、消防隊まで出動しています。火事と
間違えるほどですから、大変な量を処分したことになります。と
ころで、なぜ、焼却という方法を選んだのでしょうか。
 デジタルデータの消去は、相当注意しても、復元される可能性
が高いし、データ通信はもっとリスクがあります。結局、焼却し
てしまうのが、一番安全な方法と思われます。したがって、大量
の書類を焼却したということは、見られては困る文書がたくさん
あった証拠ともいえます。このように、中国への包囲網は拡大し
つつあります。これに対して、中国はどう対応しようとしている
のでしょうか。  ──[『コロナ』後の世界の変貌/040]

≪画像および関連情報≫
 ●米の中国総領事館閉鎖/スパイ活動のほか「米への敵対
  行為」が原因か
  ───────────────────────────
   米国務省のオルタガス報道官は7月22日、米政府がテキ
  サス州ヒューストンの中国総領事館に対して、72時間以内
  に閉鎖するよう通告したと発表した。報道官は声明で「米国
  の知的財産と米国民の個人情報を守るため」「中国による主
  権の侵害や米国民への脅迫を容認しない」と強調した。中国
  総領事館の閉鎖は、1979年に米国が中国共産党政権と国
  交を樹立して以来、初めてのことだ。
   デイビッド・スティルウェル国務次官補はニューヨーク・
  タイムズ紙に対して、在ヒューストン中国総領事館の蔡偉総
  領事と中国人外交官2人を、ヒューストン空港で現行犯逮捕
  したと語った。総領事らは、偽の身分証明書を使って、中国
  人訪問客を中国国際航空(エアチャイナ)の中国行きチャー
  ター機に乗せようとしたという。
   スティルウェル国務次官補は、在ヒューストン中国総領事
  館は、中国軍のスパイ活動の拠点だと指摘した。中国軍が中
  国人留学生を米大学に送りこみ、情報を窃盗している。さら
  に、同氏は、過去6カ月、中国当局による米科学分野の研究
  での窃盗が加速化していると述べ、中共ウイルス(新型コロ
  ナウイルス)のワクチン開発と関連していると考えている。
  中国総領事館はこれまでにも、エアチャイナを利用して、米
  国にいる諜報員の中国逃亡を手伝ったことがある。
                  https://bit.ly/2WOH9w2
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中国総領事館閉鎖を告げるポンペオ国務長官.jpg

中国総領事館閉鎖を告げるポンペオ国務長官
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2020年07月29日

●「中国による成都米国総領事館閉鎖」(EJ第5297号)

 中国外務省は、米国政府によるヒューストンの中国総領事館の
閉鎖への対抗策として、24日正午に在成都米国領事館の設置取
り消しを発表しました。この成都総領事館は、1985年に設置
されましたが、管轄地域のなかにチベット自治区が含まれるので
中国としては、実際のところ、真っ先に閉鎖したかった総領事館
だったと考えられます。
 中国外交当局関係者は「成都の米国外交官は、特にチベットの
軍事活動に関心を示してきた」と指摘しています。汪副報道官は
会見で、ふさわしくない活動に従事する米国の外交官が成都にい
たと強調しています。「米国だって、やっているじゃないか」と
いいたいのでしょう。
 どうしてこのようなことになったのでしょうか。ポンペオ米国
務長官は、敵意をむき出しにして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 歴代の政策当局者は、中国が繁栄すれば自由で友好的な国にな
ると予測したが、関与は変化をもたらさなかった。習近平(シー
チンピン)総書記は失敗した全体主義イデオロギーの信奉者だ。
レーガン大統領はソ連について「信用するが検証せよ」としたが
中国共産党については「信用せず、検証せよ」だ。
                   ──ポンペオ国務長官
      2020年7月25日付、朝日新聞/「時時刻刻」
─────────────────────────────
 ポンペオ国務長官は、「中国が繁栄すれば自由で友好的な国に
なる」といっていましたが、中国に自由世界への門戸を開く努力
をしたのは、クリントン元大統領です。EJでも、2017年に
「米中戦争の可能性」のなかで取り上げているので、その一節を
再現します。中国は米国の好意を裏切ったのです。
─────────────────────────────
 クリントン元大統領は、中国に相応の市場開放を確約させるこ
となく、米国が市場を大幅に開放すれば、経済的に大きなダメー
ジを受けることは最初からわかっていたのです。中国のWTO加
盟を認めることはそれを意味しているのです。
 WTOに加盟すれば貿易は増大する。そうなれば中国は民主主
義国へと変化せざるを得ない──クリントン元大統領はそのよう
に考えたのです。確かに世界の人口の5分の1を擁する巨大な市
場が開かれれば、米国にも大きな利益がもたらされます。そして
中国が民主国家になれば、合わせて平和がもたらされるに違いな
いと考えたのです。
 しかし、中国は、あらゆる機会をとらえて自由貿易システムを
操作し、それによって利益を最大化することによって、自国経済
のみを発展させたのです。そして、米国経済に深刻なダメージを
与えたのです。「経済的関与が民主化と平和を促進する」という
考え方は、中国には通じなかったのです。
        ──2017年5月29日/EJ第4529号
                  https://bit.ly/2ZXxtS1 ─────────────────────────────
 中国がソ連の場合と違う点は、ソ連は自由世界の外にいたけれ
ども、中国は既に内側にいることです。したがって、ソ連のよう
に中国を封じ込めると、世界経済全体が大きなダメージを受ける
ことになります。そのため、1国では対処できず、自由主義の側
が団結して本気で中国を変えないと、中国が自由主義の側を変え
ることになってしまうことになります。ポンペオ国務長官の演説
は、そのことを訴えているのだと思います。
 今回の米国の中国総領事館の閉鎖は、トランプ大統領の11月
の大統領選のパフォーマンスであるという意見もありますが、中
国の知識人は「そうではない」といっています。対米関係の北京
の専門家は、次の指摘をしています。
─────────────────────────────
 大統領選が終わるまでの我慢だという意見もあるが、どちらが
勝っても米中関係が元に戻る可能性は低いだろう。我々はその前
提で、対米政策を考える必要がある。
      2020年7月25日付、朝日新聞/「時時刻刻」
─────────────────────────────
 そもそも社会主義国が自由主義国のなかで経済活動を営むこと
には無理があるのです。アリババの対米投資は、2018年には
12億ドルになっていましたが、シリコンバレーからの撤退を決
めています。子会社による米決済企業の買収が、CFIUS(対
米外交投資委員会)によって阻止され、後退を余儀なくされたの
です。米国では無理なのです。
 これに関連して、渡邊哲也氏と宮崎正弘氏は、次のようにやり
とりしています。
─────────────────────────────
渡邊哲也:結局、マルコ・ルビオなどは、中国企業をウォールス
 トリートから完全に追い出せと言ってしまっている。なぜかと
 いうと、中国の場合、法律で会計資料や会計データを国外に持
 ち出せないのです。
宮崎正弘:無茶苦茶なのだよね。よく今まで許してきた。それに
 してもフロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員の活躍は目覚
 ましい。かれはキューバ系です。
渡邊哲也:資料を持ち出せないということは、監査ができないわ
 けだから、それを上場させていること自体がおかしい、という
 のが、マルコ・ルビオの論説なのです。
                ──宮崎正弘/渡邊哲也共著
    『コロナ大恐慌/中国を世界が排除する』/ビジネス社
─────────────────────────────
 社会主義の国が自由主義の国のルールでうまくやっていけない
ように、その逆もうまくいかないのです。米中貿易戦争の激化で
GAFAが中国事業の拡大に大きなネックが生じてきているのも
そこに無理があるからなのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/041]

≪画像および関連情報≫
 ●中国・成都の米総領事館の閉鎖を通知/米国への対抗措置
  ───────────────────────────
   中国政府は7月24日、アメリカ政府がテキサス州ヒュー
  ストンにある中国総領事館の閉鎖を命じたことに対抗して、
  四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖するようアメリカ
  側に通知したと発表し、両国の関係悪化は深刻さを増してい
  ます。中国外務省は、内陸部の四川省成都にあるアメリカ総
  領事館の設置許可を取り消し、一切の業務を停止するよう、
  24日午前、アメリカ側に通知したと発表しました。
   これについて汪文斌報道官は24日の記者会見で、「アメ
  リカ側が21日に突然、テキサス州ヒューストンにある中国
  総領事館の閉鎖を要求してきた。これは国際法や国際関係の
  基本原則に違反し、両国関係を著しく破壊するものだ」と強
  く非難したうえで、アメリカ総領事館の閉鎖は「いわれのな
  い行為への正当な対応だ」として、対抗措置であることを明
  らかにしました。
   そして、今回の措置に至った責任について、「完全にアメ
  リカ側にある」と指摘し、ヒューストンの中国総領事館の閉
  鎖を撤回し、両国関係を正常な状態に戻すよう求めました。
  また、「成都のアメリカ総領事館員の中には、その資格と異
  なる活動をしている人がいて、中国の内政に干渉し、中国の
  安全や利益を損なっている」と指摘し、アメリカ側をけん制
  しました。一方、アメリカのポンペイオ国務長官が23日の
  演説で、習近平国家主席を名指しして、「全体主義のイデオ
  ロギーの信奉者だ」などと強く非難したことについて、汪報
  道官は、「中国共産党と中国の社会制度を悪意をもって攻撃
  したものだ。事実をねじ曲げ、イデオロギー的な偏見に満ち
  ている」と激しく反発するなど、両国の関係悪化は深刻さを
  増しています。         https://bit.ly/32VyrQu
  ───────────────────────────

中国が米総領事館閉鎖を通知.jpg
中国が米総領事館閉鎖を通知 
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2020年07月30日

●「ファーウェイの封じ込めは可能か」(EJ第5298号)

 米政府による在ヒューストン中国領事館閉鎖事件について、も
う少し述べることにします。日本としても今後の中国との向き合
い方について、熟慮する必要があるからです。
 前にも述べたように、今回の中国領事館閉鎖は、米国政府とし
ては、よくよくのことがあってのことだと思います。そうでなけ
れば、いきなり領事館を閉鎖するなどという乱暴なことはしない
はずです。それほど、中国の情報スバイ行為は、度を超していた
ものと考えられます。
 領事館閉鎖について、当該領事館のスタッフは「証拠を示せ」
といっていましたが、米国からすれば、証拠は山ほどあるようで
す。そんなものを米政府が公表するはずがないことを踏まえたう
えで、国内向けに「証拠を示せ」といっているのです。
 今回の件に関係して、中国軍との関係を隠して不正にビザを取
得して入国し、大学などで、研究活動に従事していた中国人3人
と、在サンフランシスコ中国領事館に逃げ込んだ中国人女性研究
者の身柄を拘束したことを米国司法省は明らかにしています。こ
れらの4人は、米研究機関にいる中国人のスパイに、どのような
情報を盗むべきかを具体的に指示し、米国の捜査の手からどのよ
うにして逃れるかなどについて指導する立場のスタッフとみられ
ヒューストンの総領事館がスパイ活動の拠点となっていたことを
示しています。法律によって、国民総スパイ化を進めている中国
では、おそらく今後も、このような活動をやめないものと考えら
れます。これでは、他国から非難を浴びて当然です。
 中国との関係の温度差を計る指標として、米国のトランプ政権
が求める「5G」からの中国通信機器大手の為華技術(ファーウ
ェイ)の排除についての対応があります。既に指摘しているよう
に、英国はこれまで条件付きで認めてきた「5G」からのファー
ウェイ排除を決めています。
 といっても、すぐ排除はできず、最長2028年までに排除す
ることになります。ファーウェイの機器を使う通信会社に対して
は、事業許可を3〜8年しか与えないという方法で、ファーウェ
イ製品の完全排除を行うのです。
 問題はフランスの意向です。フランスのマクロン政権は、トラ
ンプ米政権とは水と油の関係で、これまでファーウェイを排除し
ないと公的に宣言し、その一方で情報漏洩などのリスクを見極め
ようとしてきたのです。しかし、中国による新型コロナウイルス
発生後の攻撃的な発言、香港の自治侵害、ウイグル族への弾圧疑
惑などが相次ぎ、ファーウェイ排除に関して、英国と同様に20
28年までの排除を決めています。これによって、中国の関係は
確実に悪化します。
 なぜ、「5G」がそれほど重要なのかについて、渡邊哲也氏が
宮崎正弘氏との対談で語っています。
─────────────────────────────
渡邊哲也:「G」というのはゼネレーション、世代という意味で
 す。1Gが昔あったショルダーフォン、アナログ電話、2Gが
 デジタル携帯、3Gとなると、iモードやEZWEBなどの通
 信ができる携帯、そして4Gが今のスマートフォンです。それ
 で、5Gがどういうものか簡単にいうと、これまで片側相互通
 行だったのが、一気に片側100車線程度まで広げる、という
 規模になります。
宮崎正弘:率直にいって個人ユーザーなら4Gで十分でしょう。
渡邊哲也:そうです。したがって5Gというのは電話ばかりでは
 なく、デジタルによる新たな社会インフラ構築のことです。自
 動運転、スマートグリッドと呼ばれる電力の効率化、医療の遠
 隔操作を可能とします。(一部略)
宮崎正弘:中国はそれを悪用して超管理社会を作ろうとしている
 わけだ。
渡邊哲也:ですから、逆に言えば、5Gの世界は通信ネットワー
 クテロの危険性の増大を意味します。アメリカはファーウェイ
 排除の口実として個人情報の保護やスパイ活動を問題視してい
 ますが、本当はサイバーテロです。個人の情報なんて盗まれた
 ところで大した問題ではないけれど、ネットワークが破壊され
 ればAIの自動運転による自動物流が止まる、電力も止まる。
 下手なミサイル1発撃つよりよほど効果的で、国家の機能を止
 める破壊力を持ちうる。だからこそ、5Gにファーウェイを使
 うなと各国に圧力をかけている。──宮崎正弘/渡邊哲也共著
    『コロナ大恐慌/中国を世界が排除する』/ビジネス社
─────────────────────────────
 これに関連して「ファイブ・アイズ」というものがあります。
これは、西側の諜報機関同盟のことです。米国のCIA、英国の
M16をはじめとした西側の情報機関の連携のことで、カナダ、
オーストラリア、ニュージーランドの5ヶ国のことを「ファイブ
アイズ」といっているのです。フランスは入っていないのですが
フランスと日本を加える案もあります。
 しかし、ファーウェイを本当に締め出すことは、本当に可能な
のでしょうか。
 ファーウェイは意外に強く、有利なポジションを占めているの
です。もし、西側陣営からファーウェイを閉め出すと、5Gのネ
ットワークは、ファーウェイ、ノキア(フィンランド)、エリク
ソン(スウェーデン)の3陣営の争いになりますが、基地局から
端末生産まで一貫生産しているのはファーウェイだけなのです。
ノキアは基地局をNECやサムソンに、エリクソンは富士通に委
ねているし、端末は各携帯キャリアが生産しています。一貫した
構造をとっているのは、ファーウェイだけです。
 つまり、5Gの世界では、既にファーウェイが有利なポジショ
ンにいるので、ファーウェイに勝つには、6Gにおいて、主導権
を取るしかないのです。そのためには、西側がお互いに協力体制
を取る必要があります。日本企業は、6Gに向けて既に動き出し
ており、NTTは6Gの世界標準「IOWN(アイオン)」を提
唱しています。  ──[『コロナ』後の世界の変貌/042]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ締め出し、米通信機器業界に再編機運も
  ───────────────────────────
  [ニューヨーク/1月24日ロイター]米政府が中国の通信
  機器大手、華為技術(ファーウェイ)を締め付ける結果、同
  社をサプライヤーとして取引してきた企業にとっては、真空
  地帯が生まれるかもしれない。米政府はこの機を捉えて、ま
  るで通信機器業界におけるM&A(合併・買収)仲介役にな
  ることができるという誘惑に駆られても不思議ではない。
   だが、中国企業バッシングの空気が米政府を「その気」に
  させようとも、政府が企業同士のマッチングを仕切るという
  のは、「見栄え」のよい対応とは言えない。トランプ米政権
  はファーウェイを市場から完全には締め出していないが、同
  社が米国の顧客から利益を得るのは難しくなった。一部の例
  外を除くと、米企業は海外でファーウェイに部品を供給する
  ことができず、国内で次世代通信規格5Gのネットワークを
  構築する際にファーウェイ機器を使うこともできない。
   ロイターは24日、米商務省がファーウェイに新たな規制
  を計画していたが、一部米政府機関の反対で導入を見送った
  と報じた。ファーウェイは5G機器の分野で世界屈指のメー
  カーで、製品価格が比較的安いサプライヤーである以上、こ
  れは驚きではない。こうしたことから、通信機器市場での、
  ファーウェイの優位後退に乗じて、米政府や政府機関が特定
  企業に国内の5G向けサプライチェーン強化のための新たな
  提携模索や、中国系企業が手放さざるを得なくなった技術資
  産の買収を検討するよう、提案する気になるかもしれない。
                  https://bit.ly/2BAhqQK
  ───────────────────────────

中国総領事館から中国退去.jpg
中国総領事館から中国退去 

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2020年07月31日

●「『新しいラボ』地図上からの消滅」(EJ第5299号)

 新型コロナウイルスは、どこから来たのでしょうか。その感染
元はどこかということです。中国の武漢市といわれていますが、
中国が曖昧な態度をとっているので、このことを明らかにする必
要があります。この件に関して、2020年4月14日付、ワシ
ントンポスト紙は気になるニュースを伝えています。それについ
て、次の「ワシントン共同」の記事をご覧ください。
─────────────────────────────
【ワシントン共同】米紙ワシントン・ポストは14日、米当局者
が2018年に中国湖北省武漢市の中国科学院武漢ウイルス研究
所を訪問後、同研究所が行っていた、コウモリのコロナウイルス
研究の危険性に警鐘を鳴らす公電を米国務省に送っていたと伝え
た。新型コロナウイルスが同研究所から漏えいした証拠はないが
トランプ政権内でこの公電が再び注目を集めているという。
 同紙によると、在中国米大使館員らは18年1月に研究所を数
回視察。公電には研究内容に関し「コウモリのコロナウイルスが
人に感染し、SARSのような病気を引き起こす可能性を強く示
唆している」と明記していたという。 https://bit.ly/39GsRTj ─────────────────────────────
 中国に詳しいノンフィクション作家の河添恵子氏の本によると
ワシントン・ポスト紙は、同研究所を「新しいラボ」と呼び、次
のように伝えています。
─────────────────────────────
◎彼らの「新しいラボ」は、高度封じ込めの実験室を安全に操作
 するために必要な訓練を受けた技術者と研究者が、深刻なほど
 不足している。
◎ラボには、大規模な管理上の弱点があり、深刻な健康上のリス
 クをもたらす危険性があり、ワシントンが関与するよう・・・
                  ──河添恵子著/WAC
『習近平が隠蔽したコロナの正体/それは生物兵器だった!?』
─────────────────────────────
 要するに、この情報は、2018年1月19日に、駐中国の環
境・科学・健康部門の米国の大使館員が外電で伝えたものの一部
ですが、実際に2020年になってコロナウイルスの感染が拡大
したので、ワシントンポスト紙がそれを報道したのです。
 ところで、ここでいう「新しいラボ」とは何でしょうか。
 中国の武漢市には、2つのウイルス研究所があるのですが、も
ともとあったのは、武漢市武昌区にある研究所です。1958年
に設立され、「中国科学院武漢病毒(ウイルス)研究所」という
のが正式名称です。
 この武昌区の研究所は、今回のウイルスの発生元とされる華南
海鮮卸売市場とは、長江を隔てて、東南方向に約12キロ離れた
地点にあります。したがって、米国の大使館員が指摘した「新し
いラボ」というのはこの研究所のことではありません。
 もうひとつの研究所は武漢市郊外の江夏区にあります。海鮮卸
売市場からは、南へ直線距離で32キロほど離れた位置にありま
す。この研究所は2015年1月に建設工事を終えており、官制
メディアは、少なくとも数年前までは、この研究所を次のように
呼んでいたのです。
─────────────────────────────
   ◎武漢国家生物安全(バイオ・セーフティ)実験室
    武漢市江夏区中国科学院武漢病毒研究所鄭店園区
    ヂェンディエン・サイエンスパーク
─────────────────────────────
 つまり、「新しいラボ」とは、この研究所のことです。最近で
は、この新しいラボは、上記の名称から「中国科学院武漢病毒研
究所」へと変更され、明らかにこの「新しいラボ」を中心の研究
所にするつもりのようです。実は、このラボの設立にはフランス
が深く関与しているのです。4月中旬のことですが、フランスの
エマニュエル・マクロン大統領は英紙フィナンシャル・タイムズ
(FT)紙記者とのインタビューで、次のように述べています。
─────────────────────────────
  われわれが知らないことが起きているのは明らかである
                 ──マクロン仏大統領
─────────────────────────────
 この研究所とフランスの関係は、来週のEJで述べるとして、
この「新しいラボ」の異変についてお知らせすることからはじめ
ることにします。河添恵子氏によると、新しいラボ、すなわち、
江夏区に新設された研究所は、2020年1月下旬の時点では、
グーグルマップで確認することができたのですが、現在は地図上
からは、完全に消滅しています。
 添付ファイルの2枚の地図(グーグルマップ)は、河添恵子氏
の本に出ていたものです。上の地図は、今年の1月下旬に河添氏
自身が確認した地図であり、これには、武昌区の研究所も江夏区
の研究所も確かに存在しています。
 しかし、下の地図は、同じ場所をグーグルマップで検索したも
のですが、現在では江夏区のいわゆる「新しいラボ」は、完全に
消滅しています。中国では、中国共産党が都合が悪いと判断した
ものは、何でも隠蔽してしまうことは、珍しいことではありませ
んが、存在を消したということは、その研究所の存在を知られた
くないという国家の意思が働いています。
 河添恵子氏は、これに加えて、武漢の2つの研究所のトップ人
事についても次のように触れています。
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 若い女性研究者だった王延軼氏(1981年生まれ)が、20
18年後半から、中国科学院病毒研究所の所長に抜擢されたこと
だ。バイオ・ハザード・レベル4に対応するP4実験室も備わる
「新しいラボ」(江夏区)と武昌区のウイルス研究所を統括する
所長だと考えられる。      ──河添恵子著の前掲書より
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         ──[『コロナ』後の世界の変貌/043]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナは武漢研究所から出た?
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   新型コロナウイルスが中国の武漢にある生物学の研究所か
  ら流出したという疑惑が米国などで再び強まっている。今回
  はSNSではなく、ドナルド・トランプ政権内で公式に提起
  されたものだ。トランプ大統領は15日(現地時間)の定例
  ブリーフィングで、新型コロナウイルスが初めて広がった中
  国武漢の研究所に同ウイルスが由来する可能性を調査してい
  ると述べた。彼は新型コロナウイルスが武漢のウイルス研究
  所に由来するという主張があるとの質問に「我々は今起きて
  いる残酷な状況に対して非常に徹底した調査を行っている」
  と答えた。トランプはコロナ禍勃発以降、中国責任論を主張
  してきたが、同ウイルスが中国の研究所由来だと具体的に言
  及したのは今回が初めてだ。   https://bit.ly/2Dhqdri
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 ●図出典/河添恵子著の前掲書より

地図上から消滅した「新しいラボ」.jpg
地図上から消滅した「新しいラボ」
 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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