2020年07月01日

●「米国はなぜ感染を防げなかったか」(EJ第5279号)

 3月に入ってからの米国における新型コロナウイルスの感染拡
大について、30年以上ワシントンに在住している古森義久氏の
本から、探ってみることにします。
 「首都のワシントンから見るアメリカが一夜にして変わった」
──このようにいうと、誇張に聞こえるかもしれないが、自然な
感覚でそれは突如として起きたと古森義久氏はいいます。東海岸
の首都ワシントンDCからみると、新型コロナウイルスの感染拡
大は、米国北西部の西海岸のワシントン州で起きている遠くの出
来事という感覚だったのです。
 それが3月の上旬になると、少しずつ、しかし、着実に、一定
方向に変わりはじめ、そして、そのスピートが一気に上がったの
です。ワシントンDCで初めての感染者が出たのは、3月7日の
ことです。その人は、都心部のジョージタウン地区にあるキリス
ト教会の牧師だったのです。したがって、教会で信徒たちと多く
の接触の機会があり、感染者が広がったのです。
 連邦議会でも上院議員に感染者が出たのです。そのため、議会
関連の公聴会や集会が中止や延期になるなど、影響がではじめて
います。そして、3月11日にWHOはパンデミックを宣言し、
トランプ大統領による国家非常事態の宣言が行われます。
 ところで、日本では、とても不思議な現象があります。国会は
「3密」の見本のような場所です。しかも、最近までマスクすら
つけずに議論していたのです。しかるに、日本の国会議員でコロ
ナウイルスの感染者になった人はなぜかいないのです。聞いたこ
とがあるでしょうか。外国では、英国のジョンソン首相がかかっ
ていますし、他国の多くの議員も罹患しています。なぜ、日本の
国会議員は、感染者にならないのでしょうか。
 それはさておき、3月上旬の首都ワシントンでの感染者は合計
5人だったのです。しかし、それから18日後の3月25日にな
ると、同じ首都の感染者は1000人を超えてしまったのです。
オーバーシュートです。拡大のスピードが非常に早いのです。こ
れを米国全体で見ると、次のようになります。
─────────────────────────────
    1月21日 ・・         1(0)
    2月20日 ・・        14(0)
    2月29日 ・・        24(1)
    3月 5日 ・・      175(12)
    3月 8日 ・・      495(22)
    3月11日 ・・     1203(38)
    3月13日 ・・     2160(50)
    3月17日 ・・     5656(96)
    3月18日 ・・    7999(118)
    3月28日 ・・ 101657(1581)
                   括弧内の数字は死亡者
         ──古森義久著/『新型コロナウイルスが世
界を滅ぼす/非常事態で問われる国家のあり方』/ビジネス社刊
─────────────────────────────
 ここで考えてみるべきことがあります。米国は、名目国内総生
産(GDP)が世界一の経済大国であり、ニューヨークは、世界
で最も繁栄している都市です。それに加えて、これも世界一とい
われる米疾病対策センター(CDC)を有しており、その医療レ
ベルは非常に高い国です。
 その米国がなぜ新型コロナウイルスの感染を押さえ込めなかっ
たのでしょうか。その原因は2つあります。
─────────────────────────────
     @大統領が専門家の意見を信用しないこと
     ACDCの予算と人員を削減していること
─────────────────────────────
 @について考えます。
 トランプ大統領は、ビジネスマンとしての自分の能力を過信し
大統領就任直後から、米国の利益を最優先する「アメリカ・ファ
ースト(米国第一)」を掲げて、あらゆる分野の専門家の意見を
軽視する傾向があります。
 しかし、ウイルスには国境はなく、全人類の敵であるので、こ
れまでの米国は、世界60ヶ国以上に職員を派遣し、各国の専門
家とも交流を重ねながら、資金も拠出して、世界の牽引役となっ
てきたのです。
 トランプ政権以前の米国はそのスタンスを守ってきています。
2002年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が中国を襲った
とき、CDCの専門家40人を現地に派遣して支援していますし
H7N9型のインフルエンザが中国で発生したときは、米中が共
同研究を実施し、中国の開発したワクチンが米国側に提供されて
います。こういう問題で国と国とが争うのは、人類にとって不幸
なことだからです。
 続いてAについて考えます。
 しかし、トランプ政権の下では、国際保健分野は冷遇されてい
ます。トランプ政権は、CDCの予算と人員を削減し、エボラ出
血熱対策の教訓から設けられている国家安全保障会議(NSC)
のパンデミック担当チームも2018年には解体されています。
そんなものにカネをかけるのは、無駄だと考えているからです。
 このことに追い打ちをかけたのは通商分野での米中衝突です。
中国のCDCにも米国の専門家のポストが用意されているのです
が、トランプ政権の現在は空席のままです。しかし、武漢で新型
コロナウイルスの感染が広がったとき、米国は専門家派遣を中国
に打診していますが、中国側に断られています。
 こういう情報もあります。米CDCは、新型コロナウイルス用
の検査キットを開発しましたが、その検査キットに不備があり、
国内感染を防ぐことができなかったといいます。「アメリカ・フ
ァースト」では、こういうとき、国際的な連携がうまくいかなく
なり、結局は自国のマイナスになることが多いのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/023]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカと中国/パンデミック下の暗闘/その2
  ───────────────────────────
   「新冷戦」とも呼ばれるアメリカと中国の覇権争い。新型
  コロナウイルスの感染拡大の責任追及を巡り、情報戦が激し
  さを増す中、中国は、各国への医療支援を積極的に活用する
  「マスク外交」に乗り出している。これに懸念を強めるアメ
  リカ国内では、中国経済からの切り離し=デカップリングを
  求める声と米中の2大国の協力を促す声が交錯している。
   中国の外交官や国営メディアの英語版のツイッター上には
  中国から輸送された大量の医療物資が各国に到着した場面を
  撮影した画像や、受け入れ国の喜びの声であふれている。中
  国政府は4月10日、これまでに127の国に医療物資を輸
  送、11の国に医療チームを派遣したと発表。輸出した物資
  はマスク38億6000万枚、防護服3700万着、人工呼
  吸器1万6000台など総額で102億人民元、日本円で、
  1500億円余りに上るとしている。中国政府の、いわゆる
  「マスク外交」だ。
   中国のプロパガンダを監視するアメリカ国務省のガブリエ
  ル特使は、中国の情報戦の重点がこの「マスク外交」の宣伝
  に移ったと指摘する。「中国政府は当初は『ウイルスの発生
  源がアメリカ』という偽情報を各地で発信したもののアフリ
  カで否定的な反応が相次ぐなど功を奏さなかった。このため
  中国の情報発信は、中国政府の行動の賛美へと変わった」。
                  https://bit.ly/31kWFTr
  ───────────────────────────

米中の新冷戦.jpg
米中の新冷戦
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2020年07月02日

●「米国の感染者急増/経済再規制か」(EJ第5280号)

 6月26日のことです。ニューヨーク・タイムズ紙の集計によ
ると、米国では、4万5千人の感染者が確認されています。これ
は、3日連続で過去最高を記録しています。
 添付ファイルをご覧ください。米国の感染者数は、4月に一度
ピークを迎えています。これに対して、外出規制などの措置によ
り、感染者数は4月から5月にかけて減少をはじめたものの、米
国は6月に経済活動を再開しています。そうすると、米国のグラ
フは再び急上昇をはじめたのです。新たな感染者を比較的抑え込
んでいる欧州諸国とは対照的です。
 このグラフは、米国の焦りをあらわしています。トランプ政権
としては、11月の大統領選挙勝利に向けて、少しでも早く経済
を回復させたいという焦りがあるのです。
 これを受けて26日、トランプ政権の新型コロナウイルス・タ
スクフォースは会見を開いていますが、場所はホワイトハウスで
はなく、保健福祉省で、トランプ大統領は欠席です。この会見で
新型コロナウイルス対策の責任者であるペンス副大統領は、次の
発言をしています。
─────────────────────────────
 テキサス、フロリダ、アリゾナなどの州で、感染者が増えてい
ることは確かだが、医療態勢が整備されたこともあり、死者数は
減っている。多くの命を失った2ヶ月前に戻ると考える人もいる
が、それよりはだいぶいい状況だ。また、新規感染者の約半数が
重症化しにくい35歳未満の若者であるということは、ある程度
勇気づけられるニュースだ。       ──ペンス副大統領
             2020年6月28日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 このペンス副大統領の発言にも焦りが見られます。感染者の約
半数が若者でよかったといっていますが、そんなことはありえな
いです。この発言に対して、会見の場にいた国立アレルギー感染
症研究所のファウチ所長は次のようにクギをさしています。
─────────────────────────────
 若者であっても、感染すれば、知らぬ間に感染を広げる役割を
担うことになる。   ──国立アレルギー研究所ファウチ所長
─────────────────────────────
 若者の感染者の多くが無症状です。ということは、市中にはそ
ういう無症状の若者の感染者が多くいて、家族をはじめ、周辺の
人に自覚のないまま感染させていることを意味しています。これ
がこのウイルスの怖いところです。
 6月25日、米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッ
ドフィールド所長は、米国のアメリカの新型ウイルス感染者数は
実際は報告数の10倍以上とみられるという衝撃的な発表を行っ
ています。その根拠について、レッドフィールド所長は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 根拠として、ウイルス検査は症状が出ている人に限定されてい
る。3月から5月にかけて使われた診断方法では、おそらく10
%程度しか確認できていない。米国民の5〜8%が新型ウイルス
にさらされた。社会的距離を保ち、マスク着用と手洗いに努める
ようにしてほしい。秋と冬に向かう時期に、これらは非常に、非
常に重要な防御策となる。  ──CDCレッドフィールド所長
                  https://bbc.in/2BLqVMJ
─────────────────────────────
 米国の感染者数は、28日に250万人を超えており、レッド
フィールド所長の予測では、米国の市中には、10倍の2500
万人の無症状の感染者がいることになります。
 南部のテキサス州は、米国のなかでロックダウンを一番早く解
除し、経済活動を再開した州ですが、25日に5996人の新規
感染者が確認され、グレッグ・アボット知事(共和党)は、経済
活動の規制を一部復活させています。バーの営業を停止し、レス
トランの収容人数を50%減らす知事令を出しています。
 同じ南部フロリダ州は、26日、1日8942人の感染者が判
明し、同州のデサンティス知事は、バーでのアルコールの提供な
どを禁止しています。気温が上がり、エアコンを求めて屋内に入
る人が増えていることなどが原因とみています。
 このように米国では、テキサス州やフロリダ州のように、1日
当りの感染者数が過去最高を記録する州が続出しています。アラ
バマ、アリゾナ、カルフォルニア、ミシシッピ、ミズーリ、ネバ
ダ、オクラホマ、サウスカロライナ、ワイオミングなどです。ま
さに感染爆発です。これでは、本格的な経済再開など、とても困
難な情勢です。しかし、これは、11月の大統領選に大きな影響
を与えることになります。
 感染のモデルを考えてみます。新型コロナウイルスは感染して
も無症状のまま治ってしまう人が多いといわれます。そういう人
は若い人が多いと推定されます。その無症状の感染者が、自覚の
ないままに誰かに感染させているのです。その場合、感染者のう
ち、症状の出る人がどのくらいの割合なのか、無症状の感染者の
感染の強さがどのくらいなのか、何もわかっていないのです。
 台湾疾病コントロールセンターからもたらされた情報がありま
す。この情報については、5月25日のEJ第5252号で取り
上げていますが、新型コロナウイルスに感染した100人とその
濃厚接触者2671人のデータです。次のデータは、2次感染者
22人が感染した時期を示しています。これによると、症状が出
る前の感染が10人とかなり多いのです。
─────────────────────────────
            症状が出る前 ・・ 10人
         発症日から3日以内 ・・  9人
    発症日から4日目ないし5日目 ・・  3人
         5日目以降の感染者 ・・  なし
─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/024]

≪画像および関連情報≫
 ●米で新型コロナ感染者が再急増11日当たり4万人超え
  最多更新続く
  ───────────────────────────
   アメリカでは、新型コロナウイルスの感染者が再び急増し
  ていて1日当たりの感染者の数が4万人を超え、連日、最多
  を更新しています。これを受けて、ペンス副大統領は、近く
  予定していた秋の大統領選挙に向けたイベントの一部を延期
  することを明らかにしました。
   ジョンズ・ホプキンズ大学のまとめによりますと、アメリ
  カで26日に確認された新たな感染者の数は、前の日から、
  5000人余り増えて4万5255人と初めて4万人を超え
  2日連続して、これまでで最も多くなっています。
   なかでも南部フロリダ州では、1日の新たな感染者がおよ
  そ9000人に上り、観光地として知られるマイアミのビー
  チは、来月4日の独立記念日の前日から閉鎖されることにな
  りました。また、テキサス州は1日の新たな感染者がおよそ
  5000人、西部アリゾナ州もおよそ3400人に上り、い
  ずれも急増しています。
   ペンス副大統領は、フロリダ州とアリゾナ州で秋の大統領
  選挙に向けたイベントを近く行う予定でしたが、こうした状
  況を受けて延期することを決めました。選挙陣営は、ウイル
  スの感染に対する「念のための警戒」と説明していて、ペン
  ス副大統領は2つの州を訪問して、知事との会談などは予定
  どおり行う見通しだとしています。
                  https://bit.ly/385pLYv
  ───────────────────────────

人口10万人あたりの新型コロナウイルスの新たな感染者数.jpg
人口10万人あたりの新型コウイルスのロナ新たな感染者数
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2020年07月03日

●「無症状の感染者が感染を拡大する」(EJ第5281号)

 昨日のEJでご紹介した台湾疾病コントロールセンターのデー
タについて改めて考えてみることにします。テレビなどのメディ
アがどこも取り上げないからです。なお、この情報は、名古屋大
学名誉教授、小島勢二氏から伝えられたものです。
 PCR検査を受けて、新型コロナウイルスが陽性と診断された
人が100人います。この陽性の感染者100人の、濃厚接触者
2671人についての追跡調査です。そのうちの2次感染者は、
22人(0・8%)。感染歴のデータを再現します。
─────────────────────────────
            症状が出る前 ・・ 10人
         発症日から3日以内 ・・  9人
    発症日から4日目ないし5日目 ・・  3人
         5日目以降の感染者 ・・  なし
    ―――――――――――――――――――――
                      22人
─────────────────────────────
 まず、2次感染者22人では、軽症患者よりも重症患者に接触
した人の方が、感染リスクが高かったことが確認されています。
重症患者を診るのは、医療感染者ということになりますが、濃厚
接触者2671人のうち、697人は医療関係者です。
 これに対して、濃厚接触者2671人のうち、無症状の患者に
接触した人は91人いましたが、そのなかから、2次感染をした
人はいなかったといいます。
 問題は感染歴です。2次感染した22人のうち、約半数の10
人は症状が出る前の感染歴があり、9人は症状が出てから3日以
内、3人は発症日から4日目ないし5日目であり、5日以降につ
いては、感染者はゼロです。
 ここでわからないのは、無症状感染者の場合、どういう状況に
なったら、他の人に感染させるのかということです。他の人に感
染させられるかどうかは、ウイルスの量に関係があるようです。
 名古屋大学名誉教授、小島勢二氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ウイルスが感染した時に症状がでるには、一定以上のウイルス
量が必要である。新型コロナウイルスについても、海外からリア
ルタイムPCR法でウイルスの量を測定した研究が数多く報告さ
れている。
 これらの研究によると、症状の発症前後が最も多量のウイルス
が検出され、感染から1週間を境に、ウイルス量は急速に減少す
る。台湾からの報告と合わせると、新型コロナウイルスが他人に
感染するには一定のウイルス量が必要で、発症から1週間経てば
この値を下回ると想像される。    https://bit.ly/2Zhu5Qm
─────────────────────────────
 つまり、こういうことです。新型コロナウイルスに感染しても
ウイルスの量が少ないと、症状も出ないし、他の人に感染もさせ
ないのです。それでは、そのウイルスの量はどのように計測する
のでしょうか。PCR検査でウイルス量は計れるのでしょうか。
 現在、一般的に「PCR検査」と呼ばれている検査法は、正確
には「PCR法」といい、目に見えないウイルスの遺伝子を特殊
な装置を使い、目的の遺伝子を増加させることによって、見えれ
ば陽性、見えなければ陰性と判定するものであり、ウイルスの量
を計測する検査法ではありません。
 ウイルスの量を計測するには、PCR法を発展させた「定量検
査」というものがあり、「リアルタイムPCR」と呼ばれていま
す。この検査では、PCRの1サイクルで目的のウイルスのDN
Aは2倍になるので、これを繰り返すことによって、DNAがあ
る量に達すると、増やしたDNAがその量に達するのに何サイク
ル回したかがわかれば、最初に存在するDNAの量を推定できる
のです。この方法であれば、ウイルスの量を測定できます。
 話が難しくなってきたので論点を整理します。人による違いや
年齢による違いは当然ありますが、新型コロナウイルスに感染し
ても、ウイルスの量がある一定の量に達するまではいっさい症状
は出ず、そのまま無症状のまま治ってしまう人もいます。
 こうした無症状感染者の体内のウイルス量がある一定の量に達
すると、咳や発熱の症状が出てきます。そういう症状が出る前の
数日の間は、体内のウイルス量が増えて、他の人に感染可能にな
ります。台湾のデータによる2次感染者22人のうち、10人は
無症状感染者から感染しています。症状が出ていないので本人は
無自覚のまま10人に感染させています。このケースを「A」と
します。
 続いて、感染者に症状が出てから、5日目まではウイルスの量
も増大し、非常に感染させやすくなります。このケースを「B」
とします。重傷者のウイルス量はもちろん多いです。
 このケースBについては、本人に咳や発熱の症状があるので、
常識的には本人も用心するし、第3者も警戒するので、感染には
抑止がかかります。それでも12人が感染しているのです。しか
し、症状が出てから5日以上経つと、ウイルスの量は減少するの
で、それ以後は、感染者が1人も出ていないのです。
 新型コロナウイルスについて、診断時から時間を負うごとに分
離培養を行ったドイツからの報告によると、診断直後は高い確率
でウイルスを分離できたものの、日を経るごとにウイルスの量が
減少し、発症から8日目以降は、検査した全員において分離する
ことができなかったのです。
 この情報が正しいとすると、新型コロナウイルスに感染しない
ためには、ケースA、すなわち、無症状であるが、実はウイルス
に感染している人をいかにして発見するかにかかっていることに
なります。もちろん本人も無症状であるので、感染していること
はわかっていないので、発見はとても困難を極めます。
 本人すら自覚しない無症状の感染者を把握するには、国民の全
員の検査以外に方法はありません。そのためには検査方法の改革
が必要です。   ──[『コロナ』後の世界の変貌/025]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナ感染症:WHOはなぜ「無症状の感染者は感染さ
  せにくい」と発言したのか
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス(COVID−19、以下、新型コロ
  ナ感染症)の感染メカニズムが少しずつわかってきたが、症
  状が軽かったり、無症状だったりする感染者から感染するか
  どうかで議論に混乱が生じている。これまでに出た論文から
  この問題の真偽について考える(この記事は2020/06
  11時点の情報に基づいて書いています)
   WHO(世界保健機関)が6月8日のメディア・ブリーフ
  ィングで、「無症状の人が他の人へ感染せるのはとても珍し
  い」と述べた。するとこの発言に対し、世界中の専門家から
  異議が唱えられた。WHOは対応に追われたが、この発言は
  新型コロナ感染症の感染拡大対策を根底からくつがえすかも
  しれないからだ。
   我々が発熱や、長引く咳、倦怠感といった症状を起こして
  いなくても、外出を自粛してテレワークをし、いわゆる「3
  密」を避けたり、ソーシャル・ディスタンシングをとり、手
  指衛生やマスクの装着に神経質になっているのはもしかした
  ら自分が感染してウイルスをもっているかもしれなかったり
  同じような人に接触する危険性があるからに他ならない。ま
  た、医療現場でも無症状(不顕性)感染者が患者さんとして
  来院することに注意し、医療関係者も自らがそうであるリス
  クを恐れながらウイルスに対峙してきた。6月8日のWHO
  の発言は、こうしたことを否定する危険性がある。では、無
  症状の感染者からは感染するのだろうか。
                  https://bit.ly/38c0trO
  ───────────────────────────

PCR検査風景.jpg
PCR検査風景

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2020年07月06日

●「マスクの効果を見直す必要がある」(EJ第5282号)

 なぜ、マスクをするのか。なぜ、人と社会的距離をとるのか。
それは、自分を含めて、誰も自分が新型コロナウイルスの感染者
である可能性を否定できないからです。実は、このことは、案外
理解されていないと思います。以下、このウイルスについて、わ
かってきたことについて書きます。
 ある人が新型コロナウイルスに感染したとします。感染当初は
ウイルスの量が少ないので、症状は出ませんが、ウイルス量があ
る一定の量に達すると、咳や発熱などの症状が出てきます。問題
は、その症状が出る何日か前から、このウイルスは人に対する感
染力を持つことです。感染できるだけのウイルスの量に達したか
らです。このことは当の感染者はもとより、他人がそれを知る由
もありません。だから、このウイルスは防御しにくいし、きわめ
て厄介なのです。
 この無症状感染者のほとんどは、その後のウイルスの量が症状
を起こす一定のレベルに達することなく、そのまま治ってしまう
人が多いのです。ウイルスの量と発症や感染との関係については
ウイルスの量を計測できる「リアルタイムPCR」という測定法
によるいくつもの論文が出ているようです。
 さて、症状が出た感染者について述べます。感染者の年齢、健
康状態による違いはありますが、重症化する人と軽症の人に分か
れます。重症化する人は、ウイルス量が継続的に増加しているの
で、感染力はきわめて高いのです。したがって、重傷者を診る医
師は、感染しないよう厳重に防護する必要があります。
 しかし、軽症の患者はどうかというと、1週間も経てば、ウイ
ルスの量が減り、他の人に感染させる恐れはなくなります。これ
は台湾やドイツからの報告によって確認されています。かつて日
本では、軽症患者は、病院以外のホテルなどに隔離し、PCR検
査で、2回連続して陰性にならなければ隔離を解かない方針でし
たが、この必要はまったくなかったことになります。
 以上のことを前提とすると、マスクをつけて人と社会的距離を
とるのは、人に自分の飛沫を浴びせたり、人から飛沫を浴びない
ためです。しかし、マスクをしている人のほとんどは、人からの
感染を防ぐためにやっており、自分が他の人に移さないためと考
えている人は少ないと思います。まさか自分が既に感染者である
と考えている人は少ないからです。
 米国のトランプ大統領がマスクをしないことに非難が集まって
います。マスクの有効性はわかっているのに、国のリーダーがマ
スクをしないのは問題があると、クオモニューヨーク州知事が批
判していますが、トランプ氏は馬耳東風です。
 こんな話があります。トランプ氏の対抗馬になる可能性の高い
バイデン氏は、5月下旬のメモリアルデーに黒いマスクをして姿
を現しています。トランプ氏は、このバイデン氏に「天気のいい
屋外でマスクを着用するのはかなり異常」と、その写真を添付し
てツイートしたところ、バイデン氏は、トランプ大統領が公のイ
ベントにもマスクを着用しないことについて「本当のバカ」と批
判したのです。
 もっとも、欧米人がマスクをしないのは、文化の違いもありま
す。コラムニストのサンドラ・ヘフェリン氏は、日本と欧米人の
違いについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 欧米人は主に「口」で表情を作るので、顔の下半分が見えない
と、相手の表情が分からず怖い、不気味だと感じる傾向があるよ
うです。そのため、「顔の下半分」を隠すのは、相手に対して失
礼であり、礼儀に欠けている、というとらえ方をする欧米人が多
かったのです。
 逆に日本では「サングラスは失礼」だと考える人が多いです。
筆者が日本に来たばかりの頃、プールサイドにあるカフェでアル
バイトをしていたのですが、屋外であったためにまぶしくてサン
グラスをしていたら、「サングラスで接客をするのは失礼」と怒
られました。ただし、サングラスを外すと、まぶしくて目を開け
ていられなかったため、「目が弱いんです」と説明をし、サング
ラスをしてもよいことになりました。この時に、「日本ではサン
グラスをするのは『失礼』に当たるんだ」と知って、目からうろ
こが落ちる思いでした。       https://bit.ly/3gb4Xl9
─────────────────────────────
 確かに、欧米では鼻と口を隠すのは、不審者、悪漢、ドロボー
と相場が決まっており、目を隠しても、鼻や口元を隠さないもの
です。しかし、日本では、サングラスをしている人を怪しい人、
不審者とする傾向が、かつてはあったと思います。アメリカン・
コミックスに登場するスーパーヒーロー「バットマン」は、目と
鼻は隠していますが、口元は出しています。文化の違いであるこ
とは明らかです。
 問題は、無症状感染者──本人は感染しているとは考えていな
い無症状感染者──からの感染をいかにして防ぐかです。はっき
りしていることは、そういう感染者を発見するのは不可能である
ということです。そうであるとすると、方法は、家に閉じこもる
か、外に出掛けるときはマスクをするか、どちらかしかないので
す。そういう意味において、マスクは最小必要限度不可欠です。
どこにそういう感染者がいるか、だれもわからないからです。
 日本人の外出のさいのマスク装着率はほぼ100%です。こん
な国は、日本しかないと思います。今や外出に際してマスクを装
着することは、エチケットになっているからです。日本の感染者
数が、欧米諸国に比して明らかに少ないのは、案外マスク装着に
あるのではないかと思います。
 意外ですが、WHOはマスクをあまり重視しているように見え
ないことです。発熱や咳のある人は、マスクをするべきであると
いっています。これは不可解な話です。現在のWHOは、無症状
感染者による無自覚感染というものを重視していないのでしょう
か。どうやら、現在のWHOはあまり頼りにならないようです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「マスクは無意味」の議論にもう意味がない理由
  ───────────────────────────
   4月1日、安倍晋三首相が国内の約5000万の世帯に、
  ガーゼマスクを2枚ずつ配布することを発表した。この対策
  に対して異論を唱える人たちが多い中、「このタイミングで
  配るのはどうかとか、1世帯2枚でいいのかといった議論は
  あるかと思いますが、洗って使い回せるマスクでしょ。すご
  くいいと思います」。
   こう持論を展開するのが、独立行政法人国立病院機構東京
  病院呼吸器センターの永井英明医師。日本感染症学会指導医
  日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医などを持つ、呼吸器
  感染症治療のプロフェッショナルだ。永井医師は、現在の新
  型コロナウイルス感染症に対するマスクの扱いについて、疑
  問に思うことが多いという。
   「例えば、WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイル
  ス感染症の症状、とくに咳がある人やその人の世話をする人
  だけマスクを使うように呼びかけています。しかし、本当は
  すべての人がマスクを使ったほうがいいはずです」
   厚生労働省は、新型コロナウイルスに関するQ&Aのなか
  でマスクについて「自身の予防用にマスクを着用することは
  混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所
  では一つの感染予防策と考えられます」としている。
                  https://bit.ly/31B7gK7
  ───────────────────────────

バットマン.jpg
バットマン
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2020年07月07日

●「コロナウイルスの感染者増大傾向」(EJ第5283号)

 東京都を中心に、神奈川、埼玉、千葉で、新型コロナウイルス
の感染者が再び増加傾向にあります。7月3日の東京都の感染者
は124人ですが、年代別の感染者は次の通りです。
─────────────────────────────
          感染者          感染者
   10代     4人   40代     9人
   20代    60人   50代     6人
   30代    37人   60代     4人
              70代以上     4人
   ───────────────────────
                   合計 124人
             ──2020年7月4日/朝日新聞
─────────────────────────────
 これによると、10代〜30代を合わせると101人になり、
全体の78%を占めています。この現象をどのように判断すべき
でしょうか。ここまで検証してきたことをベースに考えると、次
のようにいえると思います。
 若い人の場合、たとえコロナに感染しても、発症する人は少な
く、そのまま治ってしまうケースが多いのです。発症するかどう
かを決めるのは、体内のウイルスの量によって左右されます。ウ
イルスの量がある一定の量に達すると、咳や発熱などの症状が出
てくるので、この状態のときにPCR検査を受けると、陽性と判
定される可能性が高いのです。
 問題は、どういう状況のときに他の人に移す感染力を持つかで
す。発症のおよそ3日ほど前から、このウイルスは感染力を持つ
といわれます。その約3日間は、本人に自覚はなく、その人と接
触した人にウイルスを感染させる可能性があります。そのことは
他人はもちろんのこと、本人もわからないのです。
 こんなケースも考えられます。ウイルスに感染して、咳や発熱
などの症状が出ても、PCR検査を受けなかったり、検査を希望
しても、受けられなかった場合──このケースはいまでもあると
いわれる──若い人の場合、治ってしまうケースも多いのです。
しかし、このケースでは、発症の出る前後から発症後1週間程度
は、他の人に感染させてしまう可能性が高いのでが、実際問題と
してこの状態の若者を発見することはきわめて困難です。誰が感
染者かわからないので、お互いにマスクをして、社会的距離をと
る以外方法はないと思います。日本人は、他国に比べると、マス
クに関しては、ほぼ徹底されているので、これによる感染者の抑
制効果は相当効いていると思います。
 124人の感染経路を調べると、次のようになっています。
─────────────────────────────
              ◎感染経路
         夜の街    58人
         会食     18人
         職場      6人
         施設      5人
         家庭      2人
        その他      9人
         不明     26人
        ───────────
               124人
             ──2020年7月4日/朝日新聞
─────────────────────────────
 感染経路を見ると、「夜の街」と「会食」を合わせると、6割
を占めています。いずれも、マスクが使えず、どうしても「密」
になりやすい環境です。こういう環境に、感染力を持つ人が1人
でも入り込むと、感染が拡大してしまいます。いくら入店時に体
温チェックをしたり、手の消毒をしたりしても、感染を防ぐこと
は困難です。
 そこで、東京都の小池知事は、政府の緊急事態宣言に合わせて
4月に東京としての緊急事態措置を発令し、都民には徹底した外
出自粛、事業者には、休業要請、営業時間短縮、施設使用、イベ
ントの使用制限などを実施したのです。こういう都の要請に応じ
た事業者には、都から一定の協力金が支払われています。
 つまり、東京都は、店舗側には休業要請を出して店を閉めさせ
都民には、外出自粛を呼び掛けるという両方に制限をかけたので
す。それでも強制ではないので、店を開く事業者もあるし、そう
いう店に出向く都民はいるとはいうものの、人の流れを止めたこ
とで、1日の感染者数をなんとか1桁台に押さえ込むことに一応
成功しています。
 しかし、外出自粛を解き、休業要請を元に戻せば、感染者は再
び増大することは確実です。このEJの原稿は4日に執筆してい
ますが、感染者数は明らかに増加傾向にあります。再び緊急事態
措置を発令し、人の流れを止めることは、大規模なオーバーシュ
ートでも起こらない限り、できないと思います。このようにこの
コロナ禍はなかなか厄介であり、かなり長引く恐れがあります。
 ここで知っておくべきことがあります。毎日、東京都が夕方頃
に発表している感染者数は、東京都が各保健所から聞き取り、集
計したものに過ぎず、正確な数字ではないのです。そのため、そ
の後、随時、更新・修正されています。東京都は別に各保健所か
ら提出された発生届と確定日別に整理したものを「確定日付けに
よる陽性者数」としてウェブサイトに公開しています。
 つまり、保健所は、ある日に陽性として確定した人の数を都に
報告していますが、その人は検査を受けた日には感染していたの
ですから、その日を「確定日」としているわけです。これによる
と、毎日の報告数よりも、確定日の陽性者数の方が多い傾向が目
立っています。例えば、6月9日の発表数は12人ですが、確定
日別陽性者数は25人と倍増しているのです。ほとんどは確定日
の方が多いといえます。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/027]

≪画像および関連情報≫
 ●PCR検査増やせ大合唱の謎
  ───────────────────────────
  ・相変わらずテレビでは「PCR検査増やせ」報道が多い。
  ・「国民全員にPCR検査を」と主張する専門家もワイド
   ショーに出演。
  ・100万人当り感染者率と死亡率が断トツに低い日本は、
   成功例ではないのか。
   前記事で「PCR検査増やせ派」がメディアを中心に勢力
  を増し続けている現状を指摘した。その後、自分が現役時代
  に関わっていたBSフジLIVE「プライムニュース」に、
  本庶佑京都大学大学院特別教授がゲストとして出演した回、
  (2020年4月22日放送)で「PCR検査を増やせ」と
  の趣旨の発言をしたとことを同番組の記事で知って驚いた。
  タイトルは、「PCR検査の数断然足りない」・・・ノーベ
  ル賞本庶佑教授が語るコロナ対策「検査は大学研究室でもで
  きる」だ。本庶氏の主張は明確で、医療現場の感染拡大を防
  がねばならない、ということだ。その上で、「私が一番心配
  していること。戦争でいうと一つの小隊がころっとやられる
  状況。             https://bit.ly/2Z20FXD
  ───────────────────────────

東京都の新規感染者数/7月4日.jpg
 
東京都の新規感染者数/7月4日
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2020年07月08日

●「コロナにより米経済はどうなるか」(EJ第5284号)

 今回のEJのタイトルは「『コロナ』後の世界の変貌」ですが
最近は「ポストコロナ」ではなく、「ウイズコロナ」というよう
になってきています。現在の状況を見ると、よほど強力なワクチ
ンでも開発されない限り、コロナを完全に抑え込むことは不可能
のようです。したがって、これからの世界は、「つねにコロナは
身近にいる」という前提の下に、あらゆることをやっていかなけ
ればならないのです。それが「ウイズコロナ」です。
 コロナによる経済の落ち込みが懸念されます。とくに失業率の
悪化が心配です。これについて、中国に詳しい評論家の宮崎正弘
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 失業率が1パーセント悪化すると、日本では自殺者が、1年に
2000名増える。中国では、GDPが1パーセント下がると、
5000万人が失業する。失業が増えると、真っ先に不要となる
のは外国人労働者。ついで時給が下がり、正社員にはなれず、派
遣社員の雇用もしない方向に経営者は傾く。アルバイトで生活し
て学費を稼いできた学生は悲鳴をあげ、学生ローンに走った。消
費は大きく減退する。            ──宮崎正弘著
『WHAT NEXT/コロナ以後全予測/次に何が起こるか』
                        ハート出版
─────────────────────────────
 現在は、日本をはじめとする世界主要国では、政府が国民に現
金を配付しています。一般的にこのような大判振る舞いが続くと
インフレになるはずですが、経済の実体はデフレ基調です。どう
なっているのでしょうか。
 今回のコロナ禍は、リーマンショックや大恐慌とも比較して論
じられます。リーマンショックとの違いについて考えてみます。
リーマンショックのときは、住宅ローンが商品化され、欧州の投
資家が大量に保有しているという状況において、大手証券会社が
破綻し、カネの流れが止まったのです。これに対して今回のコロ
ナ禍は、人とモノの流れが止まっています。この違いについて、
滝田洋一氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 もちろん危機発生のメカニズムは異なる。リーマンの際は、ま
ず大手証券会社が破綻し、お金が流れなくなったことで、企業活
動が止まり、世界的な需要蒸発が起きた。今回の危機は順番が逆
である。外出自粛、店舗の営業停止、国境の封鎖。感染拡大を防
ぐ一連の措置が、企業の売り上げ急減を招き、資金繰りをぎゅっ
と締め付ける。そして金融が急収縮している。
 いま必要なのは、資金の供給だ。米連邦準備理事会(FRB)
は、数兆ドル(数百兆円)規模の巨額の資金を金融市場に流し込
んでいる。                 ──滝田洋一著
        『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
─────────────────────────────
 世界大恐慌は、一般的には、1929年から1934年の5年
間といわれていますが、実際の経済回復には、10年の歳月を要
しています。1929年の米国のGDPは1044億ドルですが
それが1000億ドル台に戻るのには、10年かかっています。
なお、「←」の1933年からは、フランクリン・ルーズベルト
氏が大統領に就任し、ニューディール政策を行い、米国経済の回
復に力を尽くしています。
─────────────────────────────
◎大恐慌時代の米国GDPと失業率の変化
               GDP     失業率
   1929年   1044億ドル    3・2%
   1930年    911億ドル    8・7%
   1931年    763億ドル   15・9%
   1932年    583億ドル   23・6%
   1933年    560億ドル   24・9% ←
   1934年    650億ドル   21・7%
   1935年    725億ドル   20・1%
   1936年    827億ドル   16・9%
   1937年    908億ドル   14・3%
   1938年    852億ドル   19・0%
   1939年    911億ドル   17・2%
   1940年   1066億ドル   14・6%
                      ──菊池英博著
       『金融大恐慌と金融システム』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 このコロナ禍で世界経済は一体どうなるでしょうか。
 2008年のリーマンショック直後の米国のGDPは、マイナ
ス8%だったのです。この数字はウォール街では一大衝撃になっ
て、ウォール街全体が冷え込んだといいます。しかし、今回のコ
ロナ禍は、そんなものでは到底済まない落ち込みになると予想さ
れます。世界の株式市場は、まさに底が抜けたようになり、3月
18日にダウ平均株価は、一時2319ドル安の1万8017ド
ルに下落し、トランプ大統領が就任した2017年1月20日の
終値である1万9827ドルを大きく下回ったのです。トランプ
相場は、これによって吹っ飛んでしまったかたちです。次の日の
19日、米国の感染者数は、遂に1万人を突破しています。
 4月25日、米国予算局は、当初マイナス28%と予測してい
た数値を大幅に下方修正して、2020年度第2・四半期(4月
〜6月)のGDPを「マイナス39・6%」と予測しています。
実に40%のマイナス成長です。
 世界一の投資家、ウォーレン・バフェット氏が率いる「バーク
シャー・ハサウェイ」は、「ウイルスの感染拡大によって世界は
変わる」として、保有していた米航空株を全部損切りで売却した
と発表しています。これにより同社の最終損益は、5兆円の赤字
になるといわれています。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/028]

≪画像および関連情報≫
 ●【新型コロナ】米経済崩壊への最悪のシナリオ、これから
  3カ月で何が起こるのか
  ───────────────────────────
   人口800万で全米第1位のニューヨーク市やその他の大
  都市で新型コロナウイルスが大流行し、感染者数は、累計約
  19万人、死者数は約3900人(米ジョンズ・ホプキンズ
  大学調べ)を突破して中国やイタリア、スペイン、英国をし
  のぐ「世界一の新型肺炎震源地」になった米国。各州や自治
  体が感染拡大予防を目的とする外出禁止令を次々と発令する
  中、世界一巨大な「米国経済」という列車に急ブレーキがか
  かる。経済のロックダウンによる失業率は最終的に1930
  年代初頭の大恐慌時の24%を優に超えると予想される。米
  議会は国民への現金給付など2兆ドル(約240兆円)規模
  の過去最大の経済対策法を成立させたが、現時点のデータや
  専門家の見解では、「医療危機から生じる金融危機」という
  最悪のシナリオを覚悟すべきかもしれない。
   トランプ大統領が2016年11月の大統領選挙で勝利し
  てから右肩上がりであった米株価は、コロナショックで「ト
  ランプ相場」の上昇分がすべて消えうせた。その後いくらか
  回復しているものの、ペンス副大統領が主張するような「米
  経済のファンダメンタルズは依然として強いため、チャレン
  ジを乗り切れば再び大躍進できる」との見方は少数派にとど
  まる。             https://bit.ly/2VOmuYt
  ───────────────────────────

ウォーレン・バフェット氏.jpg
ウォーレン・バフェット氏
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2020年07月09日

●「米国はコロナ禍にどう対応したか」(EJ第5285号)

 コロナ禍が一挙に顕在化した3月の一連の米国の経済対策につ
いて、WBSの滝田洋一氏の意見を参照にご紹介します。
 米国経済の深刻さをあらわす事実があります。3月の新規失業
保険申請者数が990万人、ほぼ1000万人に達していること
です。急速な雇用市場の悪化です。その結果、4月3日に発表さ
れた米国の失業率は4・4%、2月の3・5%から、0・9ポイ
ントも跳ね上がったのです。いや、これでも過小評価で、現在の
米国の失業率の実勢は10%に近いともいわれています。
 米国の失業者の対応について、WBSの滝田洋一氏は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 失業者の増加に対しては、雇用そのものを積み増す公共投資が
浮上している。トランプ大統領は「2兆ドル規模のインフラ投資
で雇用の再建が必要だ」と主張し始めた。1930年代のルーズ
ベルト大統領のニューディールを思わせる公共投資政策である。
 ペロシ下院議長も「次は高速通信網や水道インフラの整備など
を盛り込むべきだ」と強調。民主党の十八番である公共投資にト
ランプ大統領が乗ったことで、民主党も共和党もなくなった。
                      ──滝田洋一著
        『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
─────────────────────────────
 これに対して、日本の日銀総裁に当るFRBのパウエル議長は
どのように対応したでしょうか。
 3月15日、FRBは17日と18日に予定していたFOMC
(連邦公開市場委員会)を前倒しして開き、緊急利下げを行って
います。フェデラルファンド金利を1%引き下げ、0〜0・25
%とする決断を行ったのです。これは、2008年12月に実施
したゼロ金利政策の復活です。
 それに加えて、量的緩和として国債5000憶ドルと住宅ロー
ン担保証券(MBS)2000億ドルを合わせて、7000億ド
ルを買い入れすることを決めています。
 トランプ大統領は、株価を上げるための利下げを求め、ことあ
るごとにFRBに「パウエル議長を解任する権限がある」と、プ
レッシャーをかけていたのですが、パウエル議長は、頑としてト
ランプ大統領の要請を無視していたのです。それだけにトランプ
大統領は、今回のパウエル議長の素早い決断を高く評価し、「金
融当局におめでとうといいたい」といっています。このFRBの
決断について、滝田洋一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 パウエル議長はFOMC後の記者会見で「市場の流動性に強い
ストレス」と指摘した。3月16日、日本銀行も18〜19日に
開く予定だった金融政策決定会合を前倒しし、追加の金融緩和を
決めた。カギとなるのは株式を購入するための上場投資信託(E
TF)の買い入れ増額だった。それまでの年6兆円を年12兆円
に倍増したのである。      ──滝田洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 FRBの決断はこれだけではないのです。3月23日になると
FRBは、連銀法13条(第3項)の発動に踏み切っています。
連銀法13条(第3項)とは何でしょうか。これには、少し説明
が必要になります。
 米国の中央銀行制度は「連邦準備制度」といわれ、ワシントン
D.C.にある「連邦準備制度理事会/FRB」が全国に散在する
連邦準備銀行(連銀)を統括しています。その連銀の通常の貸出
対象は銀行だけですが、この条項を発動すると、銀行以外の金融
機関や企業、ファンドなどに対しても、融資ができるようになり
ます。そのため「伝家の宝刀」といわれているのです。
 2008年のリーマンショックのときも連銀法13条を発動し
ています。まさに「何でもやる」という姿勢です。具体的には、
雇用主、消費者、企業へのお金の流れを支援するために新たな基
金を発足させ、銀行を後押しするとともに、FRB自身もお金を
出そうというのです。滝田洋一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 大手の雇用主のためには、FRBが社債の購入に踏み切ること
にした。社債の購入はベン・バーナンキ、ジャネット・イエレン
の2人のFRB議長経験者によるアドバイスである。米国ではこ
ういう時の当局者の結束は固い。通常の中央銀行の仕事は、金融
システム維持のための「最後の貸し手」である。それに対し、今
のFRBは、コロナで止まった経済を動かす「最初の貸し手」と
なったのだ。(中略)
 果たして米議会で3月27日に成立した大型経済対策には、F
RBが新たに4兆ドル相当の社債購入や融資ができるような仕組
みが組み込まれた。コロナで打撃を被った企業に資金提供する基
金を立ち上げる。この基金の貸し倒れに備えて財務省は4250
億ドルの資本を拠出する。大型経済対策のための法律の条文には
「企業や州政府、地方政府などへの貸出を支援する金融システム
に流動性を供給する目的で、FRBにより設立された基金あるい
はプログラム」とある。その流動性供給の手段のなかに、「発行
体からの債務やその他株式の直接買い入れ」という文言があるの
が目を引く。          ──滝田洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 「1ドルの損失吸収力、つまり資本があれば、10ドルの融資
が可能である」──これはFRBのパウエル議長の言葉です。こ
のように、米国は財務省とFRBの役割分担が明確になっていま
す。財務省はリスクを吸収する資本部分、FRBは焦げ付きの恐
れのない負債部分の面倒をみるという分担です。
 滝田洋一氏は、これら米国の一連のコロナとの戦いのための対
策は、政府と中央銀行が一体となったまさにマネーのバラマキ、
すなわち、へりコプターマネーと同様であるといっています。そ
の成否はコロナとの戦いの期間にかかっているといわれます。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/029]

≪画像および関連情報≫
 ●米4800億ドルの追加対策合意/中小企業の給与補填増額
  ───────────────────────────
  【ワシントン/河浪武史】トランプ米政権と与野党の議会指
  導部は4月21日、4840億ドル(約52兆円)の追加の
  新型コロナウイルス対策で最終合意した。中小企業の雇用対
  策などに3700億ドルの追加資金を用意し、医療体制の整
  備にも1000億ドル強を投じる。上院は関連法案を同日可
  決。下院も23日に通過する方向だ。これまでの3回の経済
  対策と合わせ、財政出動は3兆ドルに迫る。
   トランプ大統領は21日の記者会見で「中小企業に追加資
  金を供給するため、迅速に関連法を成立させる。その後は、
  すぐに『経済対策第4弾』の議論に入るつもりだ」と表明し
  た。同席したムニューシン財務長官は「これまでの中小企業
  の資金支援で既に3000万人の雇用維持につながった」と
  政策効果を強調した。
   追加対策の柱は、中小企業への資金支援の拡大だ。3月末
  に成立した2・2兆ドルの経済対策には、中小企業の給与支
  払いを補填する3500億ドルの雇用対策を盛り込んだ。今
  回はさらに3100億ドルを追加。資金規模は6600億ド
  ルと当初の1・9倍に増える。中小の雇用対策費は開始2週
  間で上限に達して受け付けを停止していた。追加資金を用意
  して早期に支援を再開する。https://s.nikkei.com/38tPr1b
  ───────────────────────────

FRBパウエル議長.jpg
FRBパウエル議長
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2020年07月10日

●「コロナで変わる世界10大リスク」(EJ第5286号)

 ユーラシア・グループというシンクタンクがあります。毎年年
初に「世界10大リスク」というものを発表していて、その内容
について、全世界の政治や経済の関係者たちが注目しています。
2020年についても1月初めに発表されましたが、3月19日
になって、グローバル・リスクの評価を変更しています。
─────────────────────────────
 ◎世界10大リスク/2020
   1.不正!誰が米国を統治するか      ↑
   2.超大国間デカップリング        ↑↑
   3.米中関係               ↑↑
   4.頼りにならない多国籍企業       ――
   5.モディ政権が推し進めるインドの変貌  ↑
   6.地政学的変動下にある欧州       ――
   7.政治VS気候変動の経済学       ↓↓
   8.シーア派の高揚            ――
   9.不満が渦巻く中南米          ↑↑
  10.トルコ                ↑
 ◎リスク記号の説明
  ↑ :リスクが高まる    ↓↓:リスクが大幅に減る
  ↑↑:リスクが大幅に高まる ──:リスク変わらず
  ↓ :リスクが減る       https://bit.ly/2BUpqvT
                      ──滝田洋一著
        『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
─────────────────────────────
 第1位に「不正!米国を統治するか」が上がっています。ユー
ラシア・グループによると、米国の国内政治をこれまでトップに
したことはないそうです。それは、これまでの米国の政治制度・
枠組みが世界で最も強固であり、強靭なものであったからです。
なぜ、「不正!」が付いているのでしょうか。これについて、ユ
ーラシア・グループーは、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 制度・枠組上の制約は、トランプ大統領を(これまでの大統領
たちと同じように)その公約の大部分を断念することを余儀なく
させてきたが、彼が国を分断するのを、止めることはできなかっ
た。国家たるものが、これほど二極化した状態のまま、先に進む
ことが可能なのだろうか?下院はトランプの弾劾を可決したが、
上院の裁判で彼は無罪になると予想される。こうした動きの結果
11月の大統領選挙の正統性は、次のようにして、失われるだろ
う。すなわち、民主党は、大統領を法を超越した存在にするため
に弾劾案が政治的にもみ消されたと感じる一方で、トランプは、
弾劾手続が、もはや有効な政治的制約手段でなくなったので、選
挙結果に干渉する力を得たと感じるようになる。
                 https://bit.ly/2BUpqvT
─────────────────────────────
 問題は、第2位と第3位の米中関係です。この項目を「リスク
が大幅に高まる」としています。第2位の「超大国間デカップリ
ング」は、貿易にプラスして、5Gに代表される先端技術分野で
の米中のせめぎ合いだったのですが、新型コロナの流行は、この
分断を加速させる結果になったのです。これに関して、ユーラシ
ア・グループは次のように説明しています。
─────────────────────────────
 すでに米中間における技術・人材・投資の有益な流れを混乱さ
せているこのデカップリングは、米中紛争の中心にある一握りの
戦略的技術分野(半導体、クラウドコンピューティング、5G)
を超えて、より広範な経済活動へと拡大していく。市場規模が5
兆ドルに達する世界のテクノロジー産業全体のみならず、メディ
アやエンターテインメントから学術研究に至るまで、他の多くの
産業や機関にも影響を与え、ビジネス、経済、そして文化におけ
る深く解消し難い分裂をつくりだしていく。
                 https://bit.ly/2BUpqvT
─────────────────────────────
 第3位の「米中関係」も「リスクが大幅に高まる」深刻な問題
です。2019年の「世界10大リスク」では、「米中関係」は
2位にランクされていたのです。その理由としては、2018年
暮れに、カナダ当局が米国の要請を受けて、中国通信機器最大手
である華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責
任者(CFO)を逮捕したからです。この問題は現在も決着して
いないのです。
 今回の新型コロナに関連して、「米中関係」は一層深刻化して
います。これについて、WBSの滝田洋一氏は、次のようにコメ
ントしています。
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 米中両国ともに今回の爆発的な感染拡大を、新たな地政学的な
さや当てと見なしている。米国は今回の感染症を、「中国ウイル
ス」と呼び、それを引き起こした中国を非難する。一方、中国は
コロナの早期封じ込めに成功したとして、それを自らの統治シス
テムの正当化に用いている。中国は金融や医薬品の提供を通じた
「コロナ外交」を仕掛けている。
 20年11月の大統領選が近づくにつれて、受け身に立たされ
ているトランプ大統領は中国非難を強めるだろう。対する中国は
米ジャーナリストの追放に象徴される、強権的な報復に打って出
ようとしている。米中間の緊張の高まりとともに、鳴り物入りで
喧伝された米中貿易合意の履行にも疑問符が付く。米中通商協議
の第2段階など思いも寄らない。華為技術(ファーウェイ)など
中国のハイテク企業に対する米国の取り扱いや香港、台湾問題は
対立激化の火種である。「たとえコロナ・パンデミック」が終息
したとしても、米中は新たな冷戦に突入しているであろう。
                ──滝田洋一著の前掲書より
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         ──[『コロナ』後の世界の変貌/030]

≪画像および関連情報≫
 ●今年の世界最大のリスクは「米大統領選」 米企業が予測
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   米コンサルティング会社ユーラシアグループは1月6日、
  2020年の「世界のリスク」トップ10を発表した。1位
  には「米大統領選」がランキング。政府や議会、司法への信
  頼が揺らぐなか、選挙結果が有権者に受け入れられず混乱す
  る可能性を指摘した。
   リーダーなき世界を「Gゼロ時代」と名付けて注目された
  国際政治学者イアン・ブレマー氏が社長を務める同社は、年
  初にその年の世界政治や経済に深刻な影響を及ぼしそうな事
  象を予測している。米国内政を1位にあげるのは初めてとい
  う。ブレマー氏はトランプ米大統領の弾劾(だんがい)やロ
  シアなどによる選挙干渉の可能性をあげ、「多くの人が『不
  正を仕組まれた』と感じる前代未聞の選挙になる」と懸念。
  トランプ氏の勝敗にかかわらず訴訟が起こされ、政治的空白
  が生まれる恐れがあるとして、その状況を「米国版ブレグジ
  ット」と評した。
   2位と3位には、米中経済の分離(デカップリング)の拡
  大と、米中対立の激化をあげた。先進国で分断が進む現状や
  気候変動とともに、「数十年間、グローバル化が機会を生み
  出し、貧困を減らし、平和をもたらしてきたが、2020年
  は国際政治の転換点になる」としている。
                  https://bit.ly/3fdSyg3
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WBS/滝田洋一氏.jpg
WBS/滝田洋一氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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