2020年06月25日

●「フリーパスの中国からの入国規制(EJ第5275号)

 ひとつ謎があります。中国政府は、1月23日に武漢市を閉鎖
しています。それに加えて、24日には、中国国内での団体旅行
を禁じ、さらに3日後の27日には、中国から海外ヘの団体旅行
を禁じています。
 このことを踏まえて、次の日の28日から日本政府は、武漢市
にいる日本人を対象に、緊急避難のための政府特別チャーター機
を飛ばしています。日本政府は、この第1便を含めて2月17日
まで、計5便のチャーター機を飛ばし、日本人やその家族の中国
人も含めて826人を日本に受け入れています。そのうちの13
人が新型コロナウイルスの感染者と認定されています。
 つまり、その時点で日本政府は、武漢にいることは感染のリス
クが高く、感染した場合、十分な医療を受けられる保障もないの
で、中国政府と交渉して、826人を日本に戻したのです。それ
だけのことをやっておきながら、1月23日から月末まで、日本
は門戸を開いて中国人を受け入れています。これは、大きな謎と
いえます。不思議なことに、メディアも、中国人の入国を規制す
べきであるとの主張をあまりしていないのです。
 普通の国であれば、中国政府が武漢を封鎖した23日の時点か
少し遅れても中国が海外への団体旅行を禁じた27日の時点で、
中国人の入国を制限するはずです。中国政府自身が海外旅行を禁
じているのですから、やるのは当然のことです。実際に、北朝鮮
ロシア、オーストラリア、フィリピン、香港、タイ、台湾、モン
ゴルなど、多数の国や地域が、中国滞在歴のある外国人の入国を
全面停止しています。それなのに、日本はなぜフリーパスで中国
人を受け入れていたのでしょうか。
 注目すべきは、香港と台湾です。いずれも感染地の中国に隣接
し、普段は中国本土と人間の交流が大量にあります。まして香港
は、行政権限こそ異なるものの、中国の一部であり、中国との人
の往来はきわめて盛んです。
 その香港は、1月28日には、中国からの団体、個人いずれも
原則として、すべての人間の入境を止めています。台湾でも、1
月中旬から、中国の湖北省に滞在した人の来訪を止め、2月に入
ると、中国本土の住民の流入をすべて止めています。その結果、
香港と台湾の感染者は非常に少ないのです。もし、日本も23日
の中国政府の武漢封鎖の時点で入国を制限していれば、感染者は
もっと少なかったと思われます。
 この間の事情について、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の
古森義久氏は、次のように述べています。
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 日本は、他の多くの国や地域がすでにとっていた厳しい水際で
のウイルス侵入防止措置の波には、あえて乗り遅れたといえる。
「あえて」というのは、この爆発的な感染症の広がりを日本では
官民ともにその公表の当初から熟知していたからだ。そのうえ日
本国内での実際の感染者発生がみな「武漢→日本」という直線的
な経路で起きていたことも、周知の事実だったからだ。
 他の多くの諸国が中国滞在者の入国を拒否した段階でも、そし
て、中国滞在者の入国こそが日本での感染拡大の主要因であるこ
とが明確になっ段階でも、日本は中国からの入国は無制限のまま
だったのである。
 日本政府は2月冒頭にやっと「最近まで武漢のある湖北省内に
滞在していた外国人」を入国拒否の対象とした。2月12日から
は、湖北省に加えて隣接の浙江省の滞在者も入国拒否の対象に含
めた。だがその時点では、中国の他の地域から日本にくる人たち
への規制はなにもなかった。ウイルス感染症はすでに中国全域に
広がっていたのに、だった。
 だがその部分的な「拒否」も空港での入国希望者の自己申告に
頼る場合が多く、現実はザル規制だった。私はその時期に成田空
港から帰国、入国した複数の知人たちに入国管理の実態を尋ねて
みた。すると、「湖北省、浙江省での滞在」という規制要件も入
国者が口頭でイエスか、ノーかを申告するだけだったという。そ
れでは規制がないことに等しいではないか。  ──古森義久著
           『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす/
      非常事態で問われる国家のあり方』/ビジネス社刊
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 驚くべきことです。古森氏によると、「湖北省/浙江省での滞
在歴のある人」の入国を拒否するといっても、入国のさい、入国
審査の係員がそのことを口頭で質問し、「ノー」といえば、入国
できてしまうのです。これではザル規制であり、日本政府は本気
で感染者の入国を阻止する気はなかったということになります。
1月下旬だけで、中国から日本へ34万人は入国しており、その
うちのかなりの人数が北海道に向い、北海道での感染拡大を引き
起こしています。今や北海道は、中国人の最大の人気のスポット
になっているからです。
 米国はどうだったでしょうか。トランプ政権は、日本と同様に
1月中はまったく規制せず、中国からの入国を受け入れていたの
です。そこに少し油断があったといえます。1月末に中国からの
外国人の入国をすべて禁止するというきわめて厳しい措置をとっ
ていますが、このときはすでに遅く、多くの中国からの外国人が
米国に入国してしまっていたのです。
 これらの人々が2月〜3月にかけて、ニューヨーク市などで、
大感染を引き起こすことになります。米国をはじめとする西欧の
諸国は、マスクを付ける習慣はなく、一度感染してしまうと、と
めどもなく感染が拡大してしまうのです。
 4月になって、ワシントンポスト紙の報道でわかったことです
が、1月〜2月にかけて、トランプ大統領は、情報機関から新型
コロナウイルスについて繰り返し警告を受けていましたが、トラ
ンプ大統領は、新型コロナウイルスがパンデミック化する可能性
を軽視する発言を繰り返していたことがわかったのです。そこに
大きな油断があったといえます。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/019]

≪画像および関連情報≫
 ●対策早ければ死者半分 米大推計、トランプ氏反発
  ―─新型コロナ
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   【ワシントン時事】米国で「社会的距離」などの対策が、
  1週間早く講じられていれば、死者は半分以下に抑えられて
  いた。米コロンビア大の研究チームが新型コロナウイルスに
  関する研究報告で推計を公表した。対応の遅れが感染拡大を
  もたらしたと解釈できる内容で、トランプ大統領は反発して
  いる。
   同大チームは「米国内の感染拡大が本格化した2月から対
  策が始まった3月中旬まで」と、「対策開始から5月上旬ま
  で」の感染拡大ペースを郡単位で調べた。とりわけ都市部で
  「社会的距離などの対策によって、ウイルス拡散が大幅に減
  少した」と結論付けた。
   その上で、5月3日時点で約6万5000人だった死者数
  について、対策開始が1週間早ければ、55%少ない約2万
  9000人にとどまり、感染者数も62%少なかったと試算
  した。2週間早い3月初めに対策を講じていれば、死者は約
  6分の1の1万1000人余りだったと推計している。
   トランプ政権は当初、新型コロナの影響を楽観していた。
  景気に悪影響を及ぼす経済活動規制などの措置に後ろ向きで
  野党民主党から「対策が後手に回った」と批判されている。
   5月20日に公開されたコロンビア大の推計を聞いたトラ
  ンプ氏は21日、記者団に「私は誰が考えるよりも早く、反
  対を押し切って(感染が最初に拡大した)中国からの入国禁
  止を決めた」と反論。「コロンビア大は非常にリベラルだ」
  と述べ、政治的な意図があると訴えた。ベトナム戦争をはる
  かに上回る米国人が死亡する事態を前にして、神経質になっ
  ている。            https://bit.ly/3dkuaaT
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空港での検疫体制は万全だったか.jpg
空港での検疫体制は万全だったか
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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