2020年06月18日

●「なぜ米国がテドロスに怒ったのか」(EJ第5270号)

1月22日、WHOは、緊急委員会を開いたものの、中国に配
慮して緊急事態宣言(PHEIC)を見送っています。テドロス
事務局長のこの判断が、新型コロナウイルスが世界に拡散し、3
月11日のパンデミックにいたるのです。
 そのとき、米国ではこの新型コロナウイルスの感染に関しては
まったく無風の状態だったのです。米国のワシントン州で、新型
コロナウイルスの感染者が確認されたのは、WHOの緊急委員会
の前日の21日のことですから、きっと米国民は、その感染者は
武漢からの帰国者だろうぐらいの感覚だったと考えられます。
 2020年1月30日、WHOは緊急事態宣言を発出していま
すが、1月28日に、急遽習近平主席に呼び出されて、テドロス
事務局長は、中国に飛んでいます。おそらくそこで、習主席とは
1月30日の緊急事態宣言について打ち合わせがなされたものと
思われます。したがって、1月30日の緊急事態宣言のさいの彼
の中国への配慮は、次のように異常なものであったのです。
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 中国側は、前例のない疫病の拡大に対して、前例のない対応を
している。オープンかつ透明性のある情報開示をしているし、新
記録と言えるほどの短期間で病原体を突き止め、WHOや各国に
ウイルスの遺伝子配列情報を進んでシェアしている。宣言の理由
は、中国で発生したからではなく、他の国々で発生していること
だ。緊急事態宣言をしたからといって、中国との取引や旅行を取
りやめる理由はない。    ──テドロス事務局長の発言から
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 テドロス事務局長の発言を分析すると、中国での感染者が減り
はじめる2月中旬までは、楽観論をいい続けて、中国での感染者
が下火になったことが周知された後になると、一転して、悲愴な
表情で「世界全体でパンデミックを封じ込めなければならない」
といいはじめています。テドロス事務局長は、パンデミック宣言
に向けて、次のように述べています。
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    We have a simple message to all countries−
    test, test, test.
 私たちがすべての国に伝えるべき唯一のことは、検査あるのみ
ということだ。すべての国が、罹患の疑いのある患者を検査でき
るようにしなければならない。目隠しされたままで、このパンデ
ミックは戦えない。          ──テドロス事務局長
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 1月30日のWHOの緊急事態宣言によって、日本は、武漢市
のある中国・湖北省滞在の外国人の入国を拒否すると、安倍首相
は表明しています。実施は2月1日からです。
 1月31日、米国は、国務省が中国全土への渡航禁止を決め、
中国訪問者の入国拒否を発表しています。アレックス・アザー保
健福祉長官は「公衆衛生に関する緊急事態」を宣言し、過去14
日以内に中国を訪れた米国人に対し、帰国後14日間の隔離を義
務づけています。つまり、中国への人の出と、中国からの人の入
りの両方を禁じたのです。この措置に関し、中国は不満を訴えた
ほどです。これらの措置は非常に素早く行われ、トランプ大統領
は、2月10日のニューハンプシャーでの集会で、次のように、
楽観的なメッセージを送っています。
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 4月に暖かくなったら、コロナウイルスの影響はなくなるだろ
う。すべてはうまくいくだろう。    ──トランプ米大統領
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 2月中旬までは、米国は何もかも好調だったのです。2月12
日の米国株式市場で、ダウ工業株30週平均は、2万9551ド
ルを付け、史上最高値を記録しています。3万ドルまであと一歩
のところにきていたのです。
 しかし、2月25日、この株高はCDC(アメリカ疾病予防管
理センター)のナンシー・メッソニエ博士が、「コロナウイルス
が米国全土に拡散している可能性がある」との警告を出すに及ん
で、変調をもたらすことになります。
 この米国の株価に関連して、WBS解説キャスターの滝田洋一
氏は、自著のなかで、ニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教
授の2月26日の「マーケットは依然慢心」という警告を紹介し
ています。ルービニ教授は「ドクター・ドゥーム(破滅)博士」
の異名がある少し異色の経済学者です。
 ヌリエル・ルービニ教授によると、相場下落があっても、マー
ケットは慢心をしているとして、次のように述べています。
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@まず感染(エピデミック)は中国国内に限定され、グローバル
 な大流行(パンデミック)にはならない。
A次に感染は1〜3月期末までにピークを迎え、中国経済や世界
 経済に大きな打撃をもたらさない。
Bそして景気はいったん落ち込んでもX字型に回復し、4〜6月
 期以降は力強い成長軌道に乗る。
Cさらに金融・財政政策の担当者は、市場と経済を支えるために
 早期に強力な政策を講じるであろう。    ──滝田洋一著
        『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
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 ヌリエル・ルービニ教授は、これら4つは、いずれも誤りであ
るといっています。実際に@は、パンデミックになっているし、
Aについては、3月になっても収まっていないし、中国経済や世
界経済に大ダメージを与えています。BのV字回復など、ナンセ
ンスそのものです。
 しかし、Cについては、幸いなことに、ルービニ博士は見通し
を誤っています。各国の中央銀行は、疾風怒涛の早わざをみせて
いるからです。いずれにしても、2月26日という早い時点での
ルービニ教授の的確な見通しは見事なものであるといえます。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/014]

≪画像および関連情報≫
 ●ヌリエル・ルービニ教授「新型コロナにより10年間の景気
  低迷が訪れる」
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   ニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授が、新型コロ
  ナウイルスのために世界が10年間の景気低迷を経験するだ
  ろうと予測した。新興経済国は回復が先進国よりも早いだろ
  うが、米中の葛藤により困難に直面するだろうと明らかにし
  た。英国BBCとのインタビューで5月22日(現地時間)
  彼は「世界的な金融危機の間に、生産量が急減するまで約3
  年かかった」とし、「しかし、今回は3年はもちろん、3か
  月もかからなかった。3週間ですべてが自由落下した」と語
  った。彼は今年の経済が良くなるといっても「貧死状態」が
  続いて「U字型」や「L字型」の経済回復を示すことになる
  と予想した。U字型回復とは、成長の勢いが落ちて底を打ち
  その状態で、相当期間停滞すれば回復するというモデルであ
  る。L字型は、U字型よりもっと悪い状態で経済成長が急落
  し、低成長または無成長が長期間続く状況をいう。ヌリエル
  ・ルービニ教授は、このL字型の状況を「大大恐慌」と呼ん
  できた。ヌリエル・ルービニ教授は、ウイルスと闘うために
  めに世界各国が大規模な封鎖政策を行ってきた結果、多くの
  雇用が無くなり、消費者もいなくなったと説明した。ただ、
  し、アジアの新興国は、他の先進国より成長率が高くなると
  伝えた。しかし、米中の葛藤により、両国の間で選択を余儀
  なくされ、困難な状況に置かれるだろうと予測した。
                  https://bit.ly/30NVQ5m
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ヌリエル・ルービニ教授.jpg
 ヌリエル・ルービニ教授.
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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