いのない事実です。しかし、中国政府は、何も証拠を示さずに、
それを公然と否定しています。中国は自分たちにとって不利なこ
とは認めない国です。ところで、武漢とは、どういう都市なので
しょうか。武漢には行ったことがないので、北京に駐在していた
こともある古森義久氏の文章をお借りして、ご紹介することにし
ます。無駄のない非常に適切な紹介であると思います。
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武漢の人口は2019年の時点で千百万人ほどだった。中国の
主要都市のなかでは重慶の二千八百万人、上海の二千四百万人、
北京の千八百万人などにくらべても、それほどは劣らない住民の
多い都市なのだ。中国全体の各都市では人口に関して武漢は十数
位となる。ちなみに東京都の人口は千三百九十万人ほどである。
武漢より三百万人ほどしか多くない。武漢市を中心とする湖北省
の人口は五千九百万人ほど、日本の総人口のおよそ半分である。
一方、面積でみると、湖北省が日本全体の半分ぐらい、武漢市
だけの面積はちょうど北海道に匹敵する。つまり、武漢は、北海
道ほどの広さの地域に、東京都並みの人口が住んでいるというこ
となのだ。やはり中国は面積も人口も巨大なのである。
──小森義久著
『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす/
非常事態で問われる国家のあり方』/ビジネス社刊
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もうひとつ頭に入れておくべきことがあります。それは、20
20年の中国の春節の期間です。それは、1月24日から30日
までです。もし、WHOが1月22日の緊急委員会で、緊急事態
宣言を出していれば、世界各国は中国からの旅行者を入国拒否す
るはずなので、新型コロナウイルスの世界拡散を相当防止できた
はずです。しかし、WHOは中国からの強い要請を受けて、この
時点での緊急事態宣言を見送っています。
これを中国側から見ると、春節で、中国から海外へ旅行に出よ
うとしている膨大な旅行者を足止めをするのではなく、黙ってそ
のまま送り出しています。とくに武漢市からの海外旅行者につい
ては、感染者も相当含まれると思われるのに、この時点ではどこ
の国も、空港などで厳しい防御対策をとっていないので、感染は
世界中に拡がってしまうことになります。中国政府は、それを承
知のうえで、WHOに働きかけて、緊急事態宣言の発出を見送っ
たのです。とくに国際機関であるWHOとしては、絶対にやって
はいけないことです。
1月23日の中国政府による武漢市封鎖は、通告から実施まで
8時間以上の時間があり、その間に、大勢の人が武漢市から脱出
してしまったことについて、古森義久氏は、産経新聞での同僚で
中国の事情に詳しい戸板記者の報告として情報を把握しており、
次のように伝えています。
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その武漢全域の閉鎖という情報が事前にもれて、広がった。閉
鎖が実際に実行される1月23日午前10時の数10時間前に、
その情報が市民側に伝わってしまったのだ。
矢板記者の報告によると、その結果、23日の未明から早朝に
かけて多数の武漢市民が市外へと脱出する動きが起きた。無数の
老若男女が鉄道の駅、空港、高速道路などに殺到し、大混乱が起
きた。矢板記者の知人の共産党幹部も家族とともに23日未明に
自動車で武漢を抜け出して、隣接する江西省の親戚の家に逃げた
という。その幹部はその後、インターネットで逃亡の様子を自慢
げに公開していたが、各地で「逃亡武漢人」への批判が高まると
あわててそれを削除してしまった。
武漢市が周辺の地域から隔離され、市内にいる人間はだれひと
り他の地域に行けないとなれば、しかもその隔離の期限がどれほ
ど長くなるかもわからないとなれば、逃げ出したいと思う人たち
が多数いても、ふしぎはないだろう。
──小森義久著の前掲書より
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古森義久氏によると、遠藤誉氏が指摘した武漢市封鎖の通告と
実施の約8時間の時間差に気がついて、武漢市から脱出した市民
は、約500万人以上としています。これは、後になって、武漢
市長が、記者会見で明らかにしています。実に500万人以上の
武漢市民が、武漢から逃げ出したのです。
振り返ってみると、昨年の12月1日から今年の1月20日ま
での約50日間、新型コロナウイルスについて、中国政府として
は、一切公式な国際的対応をしていないのです。これでは、事実
を隠蔽していたと批判されても、仕方がないといえます。習近平
国家主席にとっては、どうしても春節が始まるまでは、本当のこ
とはいえないと考えていたものと思われます。しかし、テドロス
事務局長は、それがわかっていたはずです。
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最近の中国の風潮では、この旧正月の休みに海外を旅する人た
ちも何十万、何百万という単位となっていた。武漢の市民たちの
間でも当然、同じ傾向があった。だから結果として、コロナウイ
ルス感染の確率の高い武漢の人たちが隔離の直前にどっと洪水の
ように流出していったのである。いまからみれば、この人たちこ
そが、新型コロナウイルスをグローバルに感染させた最大の容疑
者集団だった。武漢市内でそれまで激しい勢いで広がっていたウ
イルス、それに対してなんの防疫措置もとられなかった異様な環
境、その環境のなかで暮らしていた五百万の人々・・。感染の中
国全土から他の諸国への爆発的な広がりは、ごく自然な成り行き
となったのである。この武漢脱出の感染の疑いの濃い人たちがそ
の後、日本や韓国や、あるいはヨーロッパの諸国にまで避難して
いったことが明らかとなった。 ──小森義久著の前掲書より
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──[『コロナ』後の世界の変貌/013]
≪画像および関連情報≫
●武漢の新型コロナウイルス情報を「隠蔽」したのは誰か(渡
辺真理子・学習院大学経済学部教授)
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4月に入ってから米トランプ政権が、中国が新型コロナウ
イルスの発生を隠蔽したと追及を強めている。これは機密情
報なども絡む可能性があり、真相はなかなかわからない。し
かし、公開された情報から、官僚機構がこの新型感染症発生
の情報をどう扱ったのか、ある程度見えてくる。
中国の中央集権は塊問題」という課題を抱えている。ここ
で、「条」は貫徹する、「塊」はブロックするという意味で
あるが、中央政府による垂直的なコントロールと地方政府の
裁量のせめぎあいを示す言葉として定着している。この問題
は、中国のあらゆる政策に出没する。そもそも、ケ小平がス
タートした改革開放も条塊問題の調整だった。中央のコント
ロールよりも、地方政府の裁量を高めてインセンティブを生
み、地方間の競争を通じて、経済発展を達成した。そのため
に、本来は議会である人民代表大会の管轄である徴税権が、
長らく地方政府に「授権」されてきた。
地方政府による保護主義で市場のゆがみが発生したが、経
済発展に貢献した。しかし、習近平政権は、徴税権を地方政
府から人民代表大会に戻す決定をしている。実際、地方が収
集する情報をなかなか把握できない中央政府がじれて独自の
情報収集体制を構築することはままある。国内総生産(GD
P)の集計を行う国家統計局はその形をとっている。
https://bit.ly/2UN1nFk
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古森義久産経新聞ワシントン駐在客員特派員