2020年06月12日

●「WHO事務局長は時間稼ぎに協力」(EJ第5266号)

 テドロス事務局長は、緊急事態宣言を発出した2020年1月
30日の記者会見で次のようにいっています。
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 1.WHOは新型肺炎の発生を制御する中国の能力に対して
   自信を持っている。
 2.緊急事態宣言が発出されても、中国への渡航や交易を制
   限する必要はない。
 3.だが医療体制の整備が遅れている国への感染拡大防止の
   支援は必要である。
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 このようにいくら「中国寄り」と批判されても全く怯むことな
く、手放しで中国を礼賛しています。
 これによって中国は大助かりです。これを受けて、1月31日
付の「環境時報」と、中央テレビ局CCTVのニュースは、次の
ように報道しています。これは、中国の情勢に詳しい遠藤誉氏に
よる情報提供です。
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◎WHOは何といったか
 WHOは確かに緊急事態宣言を出したものの、しかしそれは決
して中国に対して自信がないことの表れではない。それどころか
全くその逆で、テドロスは「中国が疫病の感染予防に対して行っ
ている努力とその措置は前代未聞なほど素晴らしい」とさえ言っ
ているのだ。さらにテドロスは、中国は感染予防措置に関して、
「新しいスタンダード」を世界に先んじて打ち出すことに成功し
ているとさえ言っている。
◎中央テレビ局CCTVニュース
 たしかにWHOは緊急事態宣言を出したが、しかしこれはあく
までも中国以外の国での感染拡大を防止するために出されたもの
で、WHO事務局長はむしろ中国が現在行っている予防対策とあ
らゆる措置を高く評価し、「歴史上、ここまで立派にやった例は
ない」とまで断言し、中国を絶賛している。
                  https://bit.ly/2AS8Iwo ─────────────────────────────
 テドロス事務局長は、中国のための時間稼ぎに協力していたと
いえます。2020年1月といえば、新型コロナウイルスの感染
元は中国の武漢であり、感染者数も死者数も、すべて中国が中心
だったはずです。この状況を変えるきっかけになったのは、1月
23日の武漢市のロックダウンです。これによって、感染者数は
少しずつ押さえ込まれ、死者数も減っていったのです。そして、
3月になって、感染の中心地が中国ではなく、ヨーロッパに移る
と、すかさずパンデミックを宣言し、「中国武漢発のウイルス」
という印象を弱めることに成功しています。テドロス事務局長は
この中国の時間稼ぎに最大限の協力をしたのです。
 つまり、中国は、ヨーロッパでの感染の拡大を待ち、それらの
国に大量の医療物資や医師団を派遣するなど、まさに「放火犯が
消防士」に変身したかのような活動を行い、一帯一路に賛同する
国々を中心に支援を拡大したのです。それによって「中国寄り」
の国を増やして行こうという戦略です。テドロス事務局長は、こ
ういう状況になるように中国に協力して時間を稼ぎ、そのうえで
3月11日にパンデミックを宣言したのです。
 実は中国にとって一番重要だったのは、WHOが1月22日の
緊急委員会で、緊急事態宣言(PHEIC)の発出を先送りして
いることです。これに関連するのは、1月23日午前10時から
の武漢市のロックダウンです。
 1月22日に習近平主席は、フランスのマクロン大統領やドイ
ツのメルケル首相と電話会談を行っています。そこで習近平首席
は、次のことを訴えたそうです。
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 中国は感染発生以来、予防制御の措置を周到に行い、WHOな
どにも速やかに情報を提供している。中国は、国際社会と協力し
て、対策を取る考えである。       ──習近平国家主席
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 いうまでもなく、フランスやドイツはWHOの有力国であり、
発言力が強い国です。習近平主席が、それら2つの国のトップに
直接訴えたかったのは、「どうか、今回は緊急事態宣言を出さな
いでほしい」ということです。すべてうまくテドロス事務局長が
仕切ると思うものの、念のため、それらの有力国に根回しをした
ものと思われます。
 問題は、昨日のEJで述べているように、武漢市のロックダウ
ンの「通告」と「実行」には8時間もの時間差があることです。
このことを指摘しているのも中国分析の第1人者である遠藤誉氏
です。それでは、武漢市のロックダウンはいつ通告されたかとい
うと、1月23日午前2時5分に通告されていますが、その実行
は、午前10時からです。実行までに8時間もあります。ロック
ダウンの内容は、武漢市政府のウェブサイトに表示されたもので
すが、これを見たら、あなたは、武漢市に留まりますか、それと
も脱出しますか。
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 新型コロナウイルス感染による肺炎の流行を防御することを全
面的に遂行し、効果的にウイルスの伝染経路を遮断し、疫病の蔓
延を断固阻止し、人民群衆の生命安全と健康を確保するために、
ここに以下のことを通告する。
 2020年1月23日10時を以て、全市のバス、地下鉄、フ
ェリーボート、長距離旅客輸送を含む公共交通を全て、暫定的に
停止する。特殊な原因がない限り、市民は武漢を離れてはならな
い。武漢から外部に移動する飛行場や列車の駅は暫時封鎖する。
いつごろ回復するかは追って通知する。広大なる市民と旅客の理
解と協力を求める!         https://bit.ly/2AcL9P7
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         ──[『コロナ』後の世界の変貌/010]

≪画像および関連情報≫
 ●WHOの中国賛美「過剰」/テドロス氏、政治家の側面
  ―元法律顧問
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   【ベルリン時事】世界保健機関(WHO)の元法律顧問、
  ジネーブ国際開発高等研究所のジャンルカ・ブルチ非常勤教
  授は4月28日、時事通信の電話インタビューに応じ、新型
  コロナウイルスをめぐるWHOの中国賛美について、「過剰
  だ」と苦言を呈した。テドロス事務局長については、前任者
  より「政治家の側面」が強く、危機対応の手法にもそれが現
  れていると分析した。主なやりとりは以下の通り。
  ―中国への配慮で対応が遅れたと批判がある。
   WHOは警察ではなく、(加盟国の)調査権限はない。通
  常はNGOなど民間情報源も使うが、情報統制されている中
  国では、難しかった。情報提供の協力確保のため、友好姿勢
  に徹したのかもしれない。とはいえ繰り返される中国賛辞に
  は驚いた。理由を臆測したくないが、少々過剰だった。
  ―テドロス氏とチャン前事務局長の違いは?
   テドロス氏はエチオピアで保健相や外相を歴任し、政治家
  の側面が強い。チャン氏は政治のバックグラウンドはなかっ
  た。過小評価されていることであるが、このため、テドロス
  氏はトランプ米大統領など、大物政治家にコンタクトを取り
  やすい。
  ―WHOと政治の関係は?
   国連機関は政治的であるのは避けられない。緊急事態宣言
  は専門家委員会の助言に基づくが、政治的意味合いも強く、
  純粋に技術的なことと捉えるのは幻想だ。対象国の国民を驚
  かせないようにする必要がある。テドロス氏が1月末の宣言
  前に中国の習近平国家主席に会ったことを批判されたが、必
  要なことだった。        https://bit.ly/2YhTglq
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中国・武漢鉄道駅前.jpg
中国・武漢鉄道駅前
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(2) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする