「抗原検査」という言葉が出てきましたが、PCR検査、抗体検
査とはどう違うのかについて、説明しておきます。
「抗原」とは何でしょうか。
「抗原」というのは、生体内に侵入して抗体をつくらせ、その
抗体とだけ結合して反応する物質で、細菌毒素・菌体成分や多く
の異種タンパク質がこれに該当します。
抗原検査自体はインフルエンザの簡易検査と同じです。鼻咽頭
から検体を採取し、ウイルスに特有の物質とくっつく物質が入っ
た液体に入れると、数分で結果は出ます。検査精度はPCR検査
と比べると若干劣るものの、判定が早く出る点が最大のメリット
であるといえます。
政府は5月9日、新型コロナウイルスを患者の検体から、15
〜30分で検出する「抗原検査」のキットを13日に薬事承認し
保険適用とすることを決めています。開発会社は「富士レビオ」
(東京)です。
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部は、この「抗原
検査」をどのように活用しようとしているのでしょうか。それを
示しているガイドラインの図を添付ファイルにしてあります。添
付ファイルを見てください。簡単に説明します。
感染が疑われる場合、最初に抗原検査を実施します。PCR検
査は受検のハードルは高いですが、抗原検査であれば、多くの人
が検査を受けられます。これによって「陽性」が出ると、その人
は間違いなく、新型コロナ感染症の感染者であり、入院措置また
は宿泊医療による隔離が行われます。
問題は、抗原検査の結果が「陰性」だった場合です。「陰性」
だったといっても感染していないとはいえないからです。そうい
う場合は、医師の判断により、PCR検査を受けるべきかどうか
が決められます。この場合、医師がどういう基準でPCR検査を
受検させるのかがはっきりしませんが、おそらく無症状の人は、
きっと外されると思います。
しかし、5月25日のEJ第5252号の台湾疾病コントロー
ルセンターのレポートでは、無症状の感染者ほど感染力が強いと
いう結果が出ており、もし、その人が感染者であった場合、多く
の二次感染者を出すことになります。
小林慶一郎氏と玉川徹氏の対談では、国民全員に「抗原検査」
をするという話が出ていましたが、この検査で「陰性」になって
も、同じことがいえます。つまり、「感染者でない」とはいえな
いわけです。そのため、小林慶一郎氏も「あくまで理想論であり
感染者を100%判定できる検査方法があれば」とかなり厳しい
前提条件をつけています。そういう意味では、抗原検査はもちろ
んのこと、PCR検査といえども、その精度は100%ではない
のですが、現状一番正確に判定できる検査法は、PCR検査しか
ないのです。
もっとも「抗原検査」が役立つ場面があります。ある特定エリ
アにおいてクラスターが発生し、かなりの数の濃厚接触者がいる
場合、急いで感染者を特定したいとき、抗原検査は威力を発揮し
ます。判定に時間がかからないからです。
もうひとつ明るいニュースがあります。それは、検体に唾液を
使うPCR検査です。PCR検査には、検体を鼻の奥から採取す
るときに、医師らが感染するリスクがあります。そのため、医師
らは厳重に防護服に身を包み、慎重に検体を採取することになり
ます。手間がかかるし、リスクもあるので、だから、一般のクリ
ニックではできないのです。
しかし、検体が唾液であれば、検体採取を被検者自身ができる
し、自分で採取して郵送もできるので便利です。これにより、大
勢の人のPCR検査が可能になります。しかも、検査の精度は一
般のPCR検査と変わりないし、判定時間も短て済みます。20
20年5月16日付の日本経済新聞は、この唾液によるPCR検
査について、次のように伝えています。
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タカラバイオは、唾液から新型コロナウイルスの感染の有無を
調べるPCR検査用検査試薬を発売する。厚生労働省の認可など
を経て発売は早くて5月末になる見通し。鼻や喉から粘液を採取
する検査は医療従事者のサポートが必要だが、唾液による採取は
簡単で自分でもできるという。自宅で採取して検査場所に郵送す
るような使い方も可能になりそうだ。本格的に普及すれば、検査
機会の拡充につながりそうだ。
厚労省は唾液を検体に使うPCR検査法を5月中にも認める公
算だ。タカラバイオは国内で初めて唾液を用いる検査試薬を発売
する見通し。既に月200万検体分の量産体制を整えている。唾
液による検体の採取の利点は2次感染のリスクが少ないことだ。
PCR検査には現在、鼻の奥の粘液が使用されているが、検体を
取る際にせきやくしゃみが出やすく、医療従事者に感染する危険
性がある。唾液の場合は、専用の容器に吐き出すだけで採取でき
る。PCR検査では検体に含まれるコロナウイルスの遺伝子を増
幅して感染の有無を判断する。タカラバイオが開発した試薬は唾
液に含まれる不純物を取り除かなくても遺伝子を増幅でき、約1
時間で検査結果が判明するという。 https://bit.ly/3cY2CJb ─────────────────────────────
この唾液によるPCR検査は画期的であり、これを使えば、国
民全員を検査することも不可能ではないといえます。しかも厚労
省は5月中にも認可する方針であるといいます。
もし、台湾やドイツの指摘する無症状感染者の感染力が強いと
いうことになると、その無症状感染者をいかにして見つけるかが
重要になります。これは、ほとんど不可能に近いですが、それを
可能にする方法が、国民全体のPCR検査しかないということに
なります。これを実行するには、時間とコストの高いカベがあり
ますが、工夫すれば、国民全員を検査しなくても効果的な方法は
あると思います。 ──[消費税は廃止できるか/095]
≪画像および関連情報≫
●コロナ感染者隔離のための検査は「地獄への道」/岩村充氏
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新型コロナウイルス禍に出口らしきものが見え始めたとた
ん、国民全体をPCR法その他で検査し、感染が疑われる人
を隔離することで経済を立て直そうという提言が出てきた。
(小黒一正・関山健『新型コロナ・V字回復プロジェクト〜
「全国民に検査」を次なるフェーズの一丁目一番地に』)。
提言は、今の日本の問題は、ウイルス禍に対するに「命か
経済か」の二者択一から離れられないでいるところにあると
する。だから、ここで大きな経済資源を投じて国民全体を検
査する体制を整備し感染者を完全に隔離する体制を整えれば
非感染とされた人は安心して経済活動にいそしめるはずだ。
つまり「命も経済も」という出口があるはずだ、そう主張す
るのである。
だが、すでに反論として書いたように(『「自由」を危機
にさらす(「全員PCR検査法査論」の罠)、筆者はこれに
反対である。理由は、検査と隔離だけでは感染爆発を止めら
れないだけでなく、こうした提言が実施されたときに生じる
自由あるいは、人権への危機を予感せざるをえないからであ
る。今回は、やや具体的に説明しよう。あなたが何かのきっ
かけで、新型ウイルスへの感染を心配する状況に至ったとす
る。すでにウイルス感染症への特効薬のようなものが開発さ
れていて、それを処方してもらえばウイルスが完治する、あ
るいは、完治とまで行かなくても、軽症化すると知っていた
らぜひ検査を受けたいと望むだろう。検査結果が陰性なら安
心するだろうし、陽性なら、薬を処方してもらえるはずだか
らだ。 https://bit.ly/3bXLqC4
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●添付ファイルの図の出典/https://bit.ly/2AXQxFJ
厚労省の示した検査のガイドライン