2020年04月02日

●「巧妙に緊縮政策をとった小泉政権」(EJ第5219号)

 ブキャナンの思想というのは、エリート意識をくすぐるところ
があります。政治家というものは、選挙で選ばれる存在であり、
どうしても国民に痛みを強いる政策は実施を躊躇ってしまうもの
です。その点、ある意味において、それを比較的上手にやったの
は、小泉政権であると思います。小泉首相は、国民に対して、国
民が一番気にしていた増税をしないことを約束しています。
─────────────────────────────
 自民党の総裁任期は3年あるが、その間に消費税の税率を上
 げる環境にはない。 ──2003年9月22日/小泉首相
─────────────────────────────
 やや微妙な表現ですが、国民にとっては「自分の任期中は消費
増税はしない」と約束したのと同じであり、国民にとって好感を
もって受け止められています。
 そのうえで、国債の発行と公共事業について、次のことを宣言
しています。これは、明らかに、緊縮経済政策をとることを国民
に宣言したのと同じです。
─────────────────────────────
  国債発行額30兆円以下とし、公共事業は10%削減する
                      ──小泉首相
─────────────────────────────
 「バラマキはやらず、国債発行を制限する」──このように赤
字国債の発行を少しでも制限するという宣言は、かっこよいし、
増税と違って国債発行の制限は、国民にとって直接的な痛みにつ
ながるわけではないので、受け入れ易いのです。もちろん、国債
発行が制限されると、それだけ政府支出が制限されることになる
ので、国民にとっても大いに関係のあることですが、直接的では
ないので許容できるのです。
 このようにして、小泉政権は結局のところ、国債発行に一定の
ブレーキをかけ、任期中、緊縮財政を押し通したのですが、国民
の人気は上々の内閣だったといえます。そして、自らの政治目標
である郵政の民営化を成し遂げると、意外に早く身を引いたので
す。引き際も実に見事なものでした。
 ある政治目標を達成する場合、その財源を国債を発行して求め
るのと、増税に求めるのとでは、大きな違いがあります。例えば
「予算が100兆円を突破し、国の債務残高が増えている」とい
われても一般の国民にはピンときませんが、その一方で、増税を
するといわれると、それは直接的な痛みになるので、多くの人は
強硬に反対します。消費税が反対されるのは、人々が自由にお金
を使う余地を小さくするからです。このように目的は同じである
にもかかわらず、財源を調達する方法が異なることによって人々
の反応は異なってきます。
 ブキャナンは、このことを「財政錯覚」と呼んだのです。この
言葉は、民主主義国家の財政が、赤字続きの状態に陥り易く、財
政規律が緩みがちになるという関連性を考えるさいに、よく使わ
れる言葉です。
 確かに「バラマキ」をやるよりも、緊縮政策をとる方が外向き
には見栄えがよいので、ブキャナン思想の信奉者が多いのです。
赤字国債を発行するとか、財政出動をせよとかいうと、何か不道
徳のようなことをいっているような気がして、気がひけます。
 その点、日本の財政は危機的状況にあり、国の借金を減らすた
めに、何とか手を打たなければならないというように、緊縮を唱
えている方が、まともな人物に見えるものです。
 ですから、いくら財政を拡大しても大丈夫だと堂々と主張する
MMTなどは、きわめて不道徳なものとみなされてしまうわけで
す。この現象について、藤井聡京都大学大学院教授は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 ブキャナン理論は、インテリ達の「選民思想」をくすぐるとい
う特徴がある。つまり、ブキャナン理論を信じておきさえすれば
「他の人々は皆概して愚かだけど、俺の言う通り緊縮をやれば、
それで国が救われるんだ」と考えることができ、自らを選民の地
位に位置付けることが可能となるのである。
 だから、MMT的財政拡大論を耳にした途端、彼らが即座にM
MTを否定したくなるのは、自分自身の虚栄心を満足させるため
でもあったのだ。つまり彼らは、自分がインテリであると思われ
るために、さらに言うなら、他者からインテリであることを疑わ
れないようにするためだけに、単なるポーズで国債発行を不道徳
呼ばわりしているのである。      ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 この問題は、日本がなぜ25年もの間、デフレから脱却できな
いでいることにも関係があります。日本では、ある政権が、勇断
をもって巨額の財政出動をしても、必ずといってもよいほど、そ
の後、増税などの緊縮政策を行い、せっかくの財政拡大の効果を
潰しています。
 2012年暮れに政権を民主党から奪還した自民党政権は20
13年から、アベノミクス第1の矢として「異次元な金融緩和」
と第2の矢としての「機動的な財政出動」を実施して、何とか景
気を少し上向きにさせたものの、2014年4月に5%〜8%へ
の消費増税でそれを潰し、そのダメージが癒えていない2019
年10月に重ねて8%〜10%への消費増税によって、GDPを
大幅に押し下げる大ダメージを与えています。これは、それほど
日本の政府の中枢や経済学者に、ブキャナン思想の持ち主が多い
ということを意味しています。
 そこに予期していなかった新型コロナウイルスの蔓延による経
済のダメージが重なって、経済は想定を超える深刻な事態に陥っ
ています。今こそ緊急にして大幅な財政措置が必要なときですが
こんなときでも、財政出動には反対のブレーキは効いていて、政
府は真に思い切った措置がとれないでいるようです。
           ──[消費税は廃止できるか/060]

≪画像および関連情報≫
 ●三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』
  ───────────────────────────
   MMTという黒船襲来を受け、いわゆるリフレ派の論客が
  口を揃えたように、「MMTなど採用したら、インフレ率を
  制御できなくなる」と、ヒステリックに叫んでいる光景は滑
  稽極まりない。そもそも、いわゆるリフレ派は「デフレ脱却
  =インフレ」を目指したのではなかったのか。
   もっとも、いわゆるリフレ派が主流派経済学の傍流である
  ことを理解すれば、彼らの奇妙な行動の理由が分かる。主流
  派経済学は、とにかく「財政政策」が嫌いなのである。
   というわけで、いわゆるリフレ派を含む主流派経済学者た
  ちは、日本国内で「MMTで財政を拡大し、日本がインフレ
  になると、インフレ率上昇を制御できなくなる」と、財政民
  主主義を全否定する発言を繰り返す。政府の財政の決定権は
  我々日本国民が保持している。我々が主権者として財政政策
  を定める権利は、憲法で保障されているのだ。インフレ率が
  健全な範囲を超えて上昇していく局面になったならば、国民
  が主権に基づき政府の財政規模を縮小すれば済む話である。
  「そんなことができるはずがない! 有権者は我がままだ」
  と、ブキャナンさながらに主張する非・民主主義者は、早々
  に日本国から立ち去って欲しい。何しろ、彼らは自分たちが
  憲法違反丸出しの発言を繰り返していることを自覚できない
  ほどの愚者なのである。     http://exci.to/2WUAQrI
  ───────────────────────────

小泉純一郎元首相.jpg
小泉純一郎元首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする