2020年04月01日

●「ブキャナン思想に染まる経済学者」(EJ第5218号)

 米国の財政学者、ジェームズ・M・ブキャナンの著書に『財政
赤字の政治経済学』という本があります。ブキャナンは、この本
に書かれている理論で、1986年にノーベル経済学賞を受賞し
ています。どのような理論でしょうか。
 政治家は選挙で選ばれるので、人気取りのため、公共事業など
の「バラマキ」に走りがちになって、その結果、財政赤字が拡大
してしまう──要するに、ケインズ経済学の欠点を指摘する理論
といえます。「借金はよくないもの」というのは世界共通の「常
識」、国の財政には財政規律を守ることが必要であり、それなり
の説得力があったので、次のようなことが先進国のエリートたち
の「常識」になっているのです。
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 民衆の主張や要求を一切無視して「財政規律」を守ることが、
国全体を守る上で、とても大切な「道徳的に正しい行為である」
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
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 そして今や、このブキャナン思想が、先進国の政府、OECD
やIMFなどの国際機関の基本的な運営方針になっています。と
くに日本では、政治家、官僚、学者といったインテリ層が、この
ブキャナン思想に汚染されています。藤井聡教授にいわせると、
「住民達は皆バカで、そんな住民が好きな財政拡大は不道徳なも
のだ」とまでいっています。
 なお、ブキャナンは財政均衡論者であり、日本は財政法第4条
で原則として国債発行を禁止し、均衡財政を法律の条文に書いて
います。完全に日本はブキャナン思想に染まっています。加えて
日本では、田中角栄の「金権政治」やロッキード事件などが起こ
り、ますますブキャナン思想が根付いてしまったのです。
 これに関して、昨日のEJの関連情報でご紹介した「経済コラ
ムマガジン」には次のような興味あることが書いてあります。
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 橋本・小泉首相の話に戻る。両者は決して経済が強いと定評の
ある政治家ではない。党内では両者はともに厚生族として活動し
ており、両者は厚生大臣の経験者である。特に小泉氏は厚生大臣
しか閣僚経験がない。また、橋本内閣の財政改革路線も、橋本首
相自身ではなく、梶山静六官房長官(この政治家も経済に弱かっ
た)が強引に進めていたのが実状である。
 しかし、筆者が考える橋本・小泉首相の最も重要な共通点は、
両者がともに「慶応大学」の出身者という点である。「何をばか
なことを」と思われる方が随分いると想われるが、これが結構大
事なことである。慶応大学は割りとはっきり特定の経済理論に傾
倒している。大学全体にJ・M・ブキャナンの影響を強く受けて
いるのである。ブキャナンは公共経済学者で、86年にノーベル
経済学賞を受賞したえらい学者である。そして日本のブキャナン
の研究の第一人者が、以前慶応大学経済学部長で、現在千葉商科
大学長の加藤寛氏(故人)である。
 橋本元首相はどれだけ加藤寛氏の影響があったかはっきりしな
いが、行政改革委員会や政府税調の要職にあった加藤寛氏と相当
の接触があったものと想像される。一方、小泉氏は、はっきりと
学生時代は加藤寛氏の授業を熱心に聴講していたとテレビで発言
していた。             https://bit.ly/33X1npY
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 「経済コラムマガジン」の著者が指摘するように、最悪の時期
に消費税の3%〜5%の増税をして、日本のデフレを深刻化させ
たのは橋本龍太郎首相率いる橋本政権です。増税の翌年から、日
本は長期デフレに突入しています。
 2001年からの小泉純一郎首相率いる小泉政権は、国債発行
に30兆円枠を設け、国債をその枠以下に絞るなど歳出を抑制し
たものの、そのため、景気対策が疎かになり、デフレを一層深化
させた内閣であるといえます。「民間が出来ることは民間にまか
せる」という旗印の下で、小さい政府を目指し、郵政民営化を中
心に民営化を推進した内閣です。
 ちなみに、ブキャナンの著した『財政赤字の政治経済学』は、
政治学者であるリチャード・E・ワグナーとの共著になっていま
す。ブキャナンは、必然的に財政赤字が膨らむケインズ経済学を
政治的側面から分析するために、ワグナーと共同研究を行ったの
です。そのため、この本で述べられている考え方は、「ブキャナ
ン・ワグナーの定理」とも呼ばれています。
 しかし、このブキャナン・ワグナーの定理が主張された頃の米
国は、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争と続く戦争によ
るによる財政赤字の積み重ねで経済は疲弊し、貿易赤字と財政赤
字が増え続けていた時代であり、インフレが続いていたのです。
それでもなお、政治家は選挙に勝つために歳出を抑えることがで
きず、歳出を増やす政策を、取り続けざるをえなかったといえま
す。また、金利も高くなり、民間と政府が資金を奪いあうクラウ
ディングアウトの状態にあったのです。クラウディングアウトと
は、大量の国債発行で市中金利が上がり、それによって民間の資
金需要が抑えられることをいいます。
 こういう状況になれば、だれでもケインズ経済学に疑問を抱き
否定したくなるはずです。そういう状況で、ブキャナン・ワグナ
ーの定理が出てきているのです。しかし、1979年版の『財政
赤字の政治経済学』では、次の指摘が加えられます。
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 需要不足の経済状態から脱出するための理想的な経済政策は、
政府貨幣発行を財源とする赤字予算を組むことである。
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 驚くべきことですが、ブキャナンは、政府貨幣発行に言及して
います。ブキャナンを信奉するのであれば、もっとブキャナン思
想について勉強すべきであると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/059]

≪画像および関連情報≫
 ●現代貨幣理論批判の分類と反論をわかりやすく解説する
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   もっともポピュラーな現代貨幣理論(MMT)批判です。
  現代貨幣理論(MMT)を実施すると、ハイパーインフレに
  なる!というものです。
   この批判には、重要な要素があります。ジェームズ・M・
  ブキャナンの「赤字の民主主義ケインズが遺したもの」を、
  批判理論の根底にしています。赤字の民主主義とはなにか?
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  【赤字の民主主義】
   民主主義で一度、財政赤字を認めると永続して拡大する。
  なぜなら、民主主義において「与えられるなら、与えてもら
  いたい」という国民の動機が、原動力となる。一度財政政策
  をすると、延々と財政政策が求められるようになる。
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   ブキャナンが提唱したのは、上記のような理論です。が、
  この理論。大きな見落としがあります。「民主主義ではない
  資本主義国家も、赤字を拡大し続ける」という事実です。じ
  つは民主主義は関係ありません。「資本主義それ自体が永続
  的に、負債を拡大し続ける」経済形態なのです。実際にアメ
  リカや日本、自国通貨建ての世界の先進国で、国債発行額が
  増え続けていない国家は存在しません。
                  https://bit.ly/3dyvQPo
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慶応義塾大学出身の2人の首相.jpg
慶応義塾大学出身の2人の首相

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする