2020年04月01日

●「ブキャナン思想に染まる経済学者」(EJ第5218号)

 米国の財政学者、ジェームズ・M・ブキャナンの著書に『財政
赤字の政治経済学』という本があります。ブキャナンは、この本
に書かれている理論で、1986年にノーベル経済学賞を受賞し
ています。どのような理論でしょうか。
 政治家は選挙で選ばれるので、人気取りのため、公共事業など
の「バラマキ」に走りがちになって、その結果、財政赤字が拡大
してしまう──要するに、ケインズ経済学の欠点を指摘する理論
といえます。「借金はよくないもの」というのは世界共通の「常
識」、国の財政には財政規律を守ることが必要であり、それなり
の説得力があったので、次のようなことが先進国のエリートたち
の「常識」になっているのです。
─────────────────────────────
 民衆の主張や要求を一切無視して「財政規律」を守ることが、
国全体を守る上で、とても大切な「道徳的に正しい行為である」
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 そして今や、このブキャナン思想が、先進国の政府、OECD
やIMFなどの国際機関の基本的な運営方針になっています。と
くに日本では、政治家、官僚、学者といったインテリ層が、この
ブキャナン思想に汚染されています。藤井聡教授にいわせると、
「住民達は皆バカで、そんな住民が好きな財政拡大は不道徳なも
のだ」とまでいっています。
 なお、ブキャナンは財政均衡論者であり、日本は財政法第4条
で原則として国債発行を禁止し、均衡財政を法律の条文に書いて
います。完全に日本はブキャナン思想に染まっています。加えて
日本では、田中角栄の「金権政治」やロッキード事件などが起こ
り、ますますブキャナン思想が根付いてしまったのです。
 これに関して、昨日のEJの関連情報でご紹介した「経済コラ
ムマガジン」には次のような興味あることが書いてあります。
─────────────────────────────
 橋本・小泉首相の話に戻る。両者は決して経済が強いと定評の
ある政治家ではない。党内では両者はともに厚生族として活動し
ており、両者は厚生大臣の経験者である。特に小泉氏は厚生大臣
しか閣僚経験がない。また、橋本内閣の財政改革路線も、橋本首
相自身ではなく、梶山静六官房長官(この政治家も経済に弱かっ
た)が強引に進めていたのが実状である。
 しかし、筆者が考える橋本・小泉首相の最も重要な共通点は、
両者がともに「慶応大学」の出身者という点である。「何をばか
なことを」と思われる方が随分いると想われるが、これが結構大
事なことである。慶応大学は割りとはっきり特定の経済理論に傾
倒している。大学全体にJ・M・ブキャナンの影響を強く受けて
いるのである。ブキャナンは公共経済学者で、86年にノーベル
経済学賞を受賞したえらい学者である。そして日本のブキャナン
の研究の第一人者が、以前慶応大学経済学部長で、現在千葉商科
大学長の加藤寛氏(故人)である。
 橋本元首相はどれだけ加藤寛氏の影響があったかはっきりしな
いが、行政改革委員会や政府税調の要職にあった加藤寛氏と相当
の接触があったものと想像される。一方、小泉氏は、はっきりと
学生時代は加藤寛氏の授業を熱心に聴講していたとテレビで発言
していた。             https://bit.ly/33X1npY
─────────────────────────────
 「経済コラムマガジン」の著者が指摘するように、最悪の時期
に消費税の3%〜5%の増税をして、日本のデフレを深刻化させ
たのは橋本龍太郎首相率いる橋本政権です。増税の翌年から、日
本は長期デフレに突入しています。
 2001年からの小泉純一郎首相率いる小泉政権は、国債発行
に30兆円枠を設け、国債をその枠以下に絞るなど歳出を抑制し
たものの、そのため、景気対策が疎かになり、デフレを一層深化
させた内閣であるといえます。「民間が出来ることは民間にまか
せる」という旗印の下で、小さい政府を目指し、郵政民営化を中
心に民営化を推進した内閣です。
 ちなみに、ブキャナンの著した『財政赤字の政治経済学』は、
政治学者であるリチャード・E・ワグナーとの共著になっていま
す。ブキャナンは、必然的に財政赤字が膨らむケインズ経済学を
政治的側面から分析するために、ワグナーと共同研究を行ったの
です。そのため、この本で述べられている考え方は、「ブキャナ
ン・ワグナーの定理」とも呼ばれています。
 しかし、このブキャナン・ワグナーの定理が主張された頃の米
国は、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争と続く戦争によ
るによる財政赤字の積み重ねで経済は疲弊し、貿易赤字と財政赤
字が増え続けていた時代であり、インフレが続いていたのです。
それでもなお、政治家は選挙に勝つために歳出を抑えることがで
きず、歳出を増やす政策を、取り続けざるをえなかったといえま
す。また、金利も高くなり、民間と政府が資金を奪いあうクラウ
ディングアウトの状態にあったのです。クラウディングアウトと
は、大量の国債発行で市中金利が上がり、それによって民間の資
金需要が抑えられることをいいます。
 こういう状況になれば、だれでもケインズ経済学に疑問を抱き
否定したくなるはずです。そういう状況で、ブキャナン・ワグナ
ーの定理が出てきているのです。しかし、1979年版の『財政
赤字の政治経済学』では、次の指摘が加えられます。
─────────────────────────────
 需要不足の経済状態から脱出するための理想的な経済政策は、
政府貨幣発行を財源とする赤字予算を組むことである。
─────────────────────────────
 驚くべきことですが、ブキャナンは、政府貨幣発行に言及して
います。ブキャナンを信奉するのであれば、もっとブキャナン思
想について勉強すべきであると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/059]

≪画像および関連情報≫
 ●現代貨幣理論批判の分類と反論をわかりやすく解説する
  ───────────────────────────
   もっともポピュラーな現代貨幣理論(MMT)批判です。
  現代貨幣理論(MMT)を実施すると、ハイパーインフレに
  なる!というものです。
   この批判には、重要な要素があります。ジェームズ・M・
  ブキャナンの「赤字の民主主義ケインズが遺したもの」を、
  批判理論の根底にしています。赤字の民主主義とはなにか?
  ───────────────────────────
  【赤字の民主主義】
   民主主義で一度、財政赤字を認めると永続して拡大する。
  なぜなら、民主主義において「与えられるなら、与えてもら
  いたい」という国民の動機が、原動力となる。一度財政政策
  をすると、延々と財政政策が求められるようになる。
  ───────────────────────────
   ブキャナンが提唱したのは、上記のような理論です。が、
  この理論。大きな見落としがあります。「民主主義ではない
  資本主義国家も、赤字を拡大し続ける」という事実です。じ
  つは民主主義は関係ありません。「資本主義それ自体が永続
  的に、負債を拡大し続ける」経済形態なのです。実際にアメ
  リカや日本、自国通貨建ての世界の先進国で、国債発行額が
  増え続けていない国家は存在しません。
                  https://bit.ly/3dyvQPo
  ───────────────────────────

慶応義塾大学出身の2人の首相.jpg
慶応義塾大学出身の2人の首相

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月02日

●「巧妙に緊縮政策をとった小泉政権」(EJ第5219号)

 ブキャナンの思想というのは、エリート意識をくすぐるところ
があります。政治家というものは、選挙で選ばれる存在であり、
どうしても国民に痛みを強いる政策は実施を躊躇ってしまうもの
です。その点、ある意味において、それを比較的上手にやったの
は、小泉政権であると思います。小泉首相は、国民に対して、国
民が一番気にしていた増税をしないことを約束しています。
─────────────────────────────
 自民党の総裁任期は3年あるが、その間に消費税の税率を上
 げる環境にはない。 ──2003年9月22日/小泉首相
─────────────────────────────
 やや微妙な表現ですが、国民にとっては「自分の任期中は消費
増税はしない」と約束したのと同じであり、国民にとって好感を
もって受け止められています。
 そのうえで、国債の発行と公共事業について、次のことを宣言
しています。これは、明らかに、緊縮経済政策をとることを国民
に宣言したのと同じです。
─────────────────────────────
  国債発行額30兆円以下とし、公共事業は10%削減する
                      ──小泉首相
─────────────────────────────
 「バラマキはやらず、国債発行を制限する」──このように赤
字国債の発行を少しでも制限するという宣言は、かっこよいし、
増税と違って国債発行の制限は、国民にとって直接的な痛みにつ
ながるわけではないので、受け入れ易いのです。もちろん、国債
発行が制限されると、それだけ政府支出が制限されることになる
ので、国民にとっても大いに関係のあることですが、直接的では
ないので許容できるのです。
 このようにして、小泉政権は結局のところ、国債発行に一定の
ブレーキをかけ、任期中、緊縮財政を押し通したのですが、国民
の人気は上々の内閣だったといえます。そして、自らの政治目標
である郵政の民営化を成し遂げると、意外に早く身を引いたので
す。引き際も実に見事なものでした。
 ある政治目標を達成する場合、その財源を国債を発行して求め
るのと、増税に求めるのとでは、大きな違いがあります。例えば
「予算が100兆円を突破し、国の債務残高が増えている」とい
われても一般の国民にはピンときませんが、その一方で、増税を
するといわれると、それは直接的な痛みになるので、多くの人は
強硬に反対します。消費税が反対されるのは、人々が自由にお金
を使う余地を小さくするからです。このように目的は同じである
にもかかわらず、財源を調達する方法が異なることによって人々
の反応は異なってきます。
 ブキャナンは、このことを「財政錯覚」と呼んだのです。この
言葉は、民主主義国家の財政が、赤字続きの状態に陥り易く、財
政規律が緩みがちになるという関連性を考えるさいに、よく使わ
れる言葉です。
 確かに「バラマキ」をやるよりも、緊縮政策をとる方が外向き
には見栄えがよいので、ブキャナン思想の信奉者が多いのです。
赤字国債を発行するとか、財政出動をせよとかいうと、何か不道
徳のようなことをいっているような気がして、気がひけます。
 その点、日本の財政は危機的状況にあり、国の借金を減らすた
めに、何とか手を打たなければならないというように、緊縮を唱
えている方が、まともな人物に見えるものです。
 ですから、いくら財政を拡大しても大丈夫だと堂々と主張する
MMTなどは、きわめて不道徳なものとみなされてしまうわけで
す。この現象について、藤井聡京都大学大学院教授は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 ブキャナン理論は、インテリ達の「選民思想」をくすぐるとい
う特徴がある。つまり、ブキャナン理論を信じておきさえすれば
「他の人々は皆概して愚かだけど、俺の言う通り緊縮をやれば、
それで国が救われるんだ」と考えることができ、自らを選民の地
位に位置付けることが可能となるのである。
 だから、MMT的財政拡大論を耳にした途端、彼らが即座にM
MTを否定したくなるのは、自分自身の虚栄心を満足させるため
でもあったのだ。つまり彼らは、自分がインテリであると思われ
るために、さらに言うなら、他者からインテリであることを疑わ
れないようにするためだけに、単なるポーズで国債発行を不道徳
呼ばわりしているのである。      ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 この問題は、日本がなぜ25年もの間、デフレから脱却できな
いでいることにも関係があります。日本では、ある政権が、勇断
をもって巨額の財政出動をしても、必ずといってもよいほど、そ
の後、増税などの緊縮政策を行い、せっかくの財政拡大の効果を
潰しています。
 2012年暮れに政権を民主党から奪還した自民党政権は20
13年から、アベノミクス第1の矢として「異次元な金融緩和」
と第2の矢としての「機動的な財政出動」を実施して、何とか景
気を少し上向きにさせたものの、2014年4月に5%〜8%へ
の消費増税でそれを潰し、そのダメージが癒えていない2019
年10月に重ねて8%〜10%への消費増税によって、GDPを
大幅に押し下げる大ダメージを与えています。これは、それほど
日本の政府の中枢や経済学者に、ブキャナン思想の持ち主が多い
ということを意味しています。
 そこに予期していなかった新型コロナウイルスの蔓延による経
済のダメージが重なって、経済は想定を超える深刻な事態に陥っ
ています。今こそ緊急にして大幅な財政措置が必要なときですが
こんなときでも、財政出動には反対のブレーキは効いていて、政
府は真に思い切った措置がとれないでいるようです。
           ──[消費税は廃止できるか/060]

≪画像および関連情報≫
 ●三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』
  ───────────────────────────
   MMTという黒船襲来を受け、いわゆるリフレ派の論客が
  口を揃えたように、「MMTなど採用したら、インフレ率を
  制御できなくなる」と、ヒステリックに叫んでいる光景は滑
  稽極まりない。そもそも、いわゆるリフレ派は「デフレ脱却
  =インフレ」を目指したのではなかったのか。
   もっとも、いわゆるリフレ派が主流派経済学の傍流である
  ことを理解すれば、彼らの奇妙な行動の理由が分かる。主流
  派経済学は、とにかく「財政政策」が嫌いなのである。
   というわけで、いわゆるリフレ派を含む主流派経済学者た
  ちは、日本国内で「MMTで財政を拡大し、日本がインフレ
  になると、インフレ率上昇を制御できなくなる」と、財政民
  主主義を全否定する発言を繰り返す。政府の財政の決定権は
  我々日本国民が保持している。我々が主権者として財政政策
  を定める権利は、憲法で保障されているのだ。インフレ率が
  健全な範囲を超えて上昇していく局面になったならば、国民
  が主権に基づき政府の財政規模を縮小すれば済む話である。
  「そんなことができるはずがない! 有権者は我がままだ」
  と、ブキャナンさながらに主張する非・民主主義者は、早々
  に日本国から立ち去って欲しい。何しろ、彼らは自分たちが
  憲法違反丸出しの発言を繰り返していることを自覚できない
  ほどの愚者なのである。     http://exci.to/2WUAQrI
  ───────────────────────────

小泉純一郎元首相.jpg
小泉純一郎元首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月03日

●「明示的財政ファイナンスとは何か」(EJ第5220号)

 MMTについて書いているあるサイトによると、MMTは現代
貨幣理論などというような大袈裟な理論ではなく、見たままの、
当たり前のことをいっているだけではないかと主張しています。
 リンゴが木から地面に落ちるのを見て、「リンゴが落ちた」と
いい、地球は平らで端の部分は瀧になっているというのに対して
地球を一周したが、そんな瀧なんてなかったという事実をいって
いるだけというのです。
 錯覚している人が多いのです。例を上げると、多くの人は、民
間銀行は預金というかたちで資金を集め、銀行はその預金をベー
スにして企業や個人に貸し出しをすると考えています。そんなこ
とは、常識じゃないかというわけです。
 これについて、井上智洋駒澤大学准教授は、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 主流派経済学者は、まず家計が民間銀行に預金し、その預金を
基に企業に貸し出しを行うと考えがちです。これを「又貸し説」
と言います。その後企業は、賃金や配当といった形で家計にお金
を供給します。しかし、この順番だとそもそも家計は最初に預金
すべきお金をどこから得たのか謎が残ります。
 それに対し、MMTはまず貸し出しの際の預金通貨の創造があ
り、そのお金を企業は投資や賃金の支払いに使います。賃金を得
た家計はそのお金の一部を預金します。要するに、MMTが主張
しているのは、又貸し説は間違いであって、万年筆マネー論が正
しいということです。貸し出しの際に預金通貨が創造されるとい
うことは、貸し出しを行う度に、世の中に出回るお金「マネース
トック」(現金十預金)が増えていくことを意味します。
                      ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 最初に、家計が預金するのではないのです。銀行が貸し出しの
さいに預金通貨という万年筆マネーを創造し、そのお金を企業は
投資や賃金の支払いに使うので、そうして得たお金を家計は、そ
の一部を銀行に預金するのです。預金が先にあって、そこからお
金を貸すのではないのです。これをMMTでは「スペンディング
・ファースト」といっています。
 「約50兆円しか税収がないのに、毎年100兆円を超える予
算を使っている。これじゃ借金が累積して日本は破綻する」とい
われますが、MMTでは「税は政府支出の財源ではない」という
のです。「何をバカなことを!」というなかれ、よく考えてみる
と、そもそも歳入(税収)を歳出(政府支出)に使うのは、不可
能なのです。
 これについて、経済評論家の三橋貴明氏は、なぜ不可能なのか
について、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 確定申告は、例えば2019年であれば「2019年1月1日
から12月31日」までの課税期間の収入・支出、控除等を税務
署に申告し、納付すべき税額を確定する。確定申告の時期は「2
020年2月16日から3月15日までの1ヶ月間」である。繰
り返すが、2019年の経済的な行為について、我々は翌20年
2月及び3月に申告しているのだ。つまりは、2020年3月以
降、確定申告後の税金支払いまで、政府は最終的な税収を得られ
ないことになる。
 ところが、政府は2020年の予算については普通に執行して
いる。おカネを支出しているのだ。政府は税収や国債発行(民間
金融機関からの借入)なしでも、予算を支出できる。というより
も実際にしている。支出が先、つまりは、スペンディング・ファ
ーストである。           https://bit.ly/3dU52tc
─────────────────────────────
 具体的に、どのようにして政府支出をするのかというと、それ
はきわめて簡単なのです。財務省が「財務省証券」を発行し、そ
れを日銀に持ち込み、その金額を日銀の政府当座預金口座に電子
的に記入してもらうだけです。政府は、このようにして、徴税や
国債発行なしでも、ごく簡単にお金を発行できるのです。
 これは、これは、政府の一時的な借金のように見えますが、日
銀は政府の子会社であり、事実上政府がお金を発行しているのと
同じなのです。これは、「明示的財政ファイナンス(OMF)」
と呼ばれています。OMFは、次の言葉の略です。
─────────────────────────────
      ◎明示的財政ファイナンス(OMF)
           Overt Monetary Financing
─────────────────────────────
 この明示的財政ファイナンスについて、井上智洋准教授は、次
のように解説しています。
─────────────────────────────
 (明示的)財政ファイナンスというのは、政府が貨幣発行を財
源に支出を行うことです。これは、実際に行われていることで、
MMTの文脈では、中央銀行がキーストロークによって作り出し
たお金を、政府が支出に充てることを意味します。
 ただし、実際には政府支出の財源が租税や国債であるかのよう
に偽装されています。支出と同額の税金を徴収したり国債を発行
したりすることによって、あたかも財政ファイナンスを行ってい
ないかのような装飾が施されているというわけです。OMFは、
その装飾をはぎとって、あからさまに、財政ファイナンスを実施
しようということです。     ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 この説明で印象的なのは、「政府支出の財源が租税や国債であ
るかのよう偽装されている」という部分です。つまり、これは、
表向きは政府支出は税収や国債であるように国民には思わせる必
要があるということを意味しています。
           ──[消費税は廃止できるか/061]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ今、現代財政理論なのか/鷲尾香一氏
  ───────────────────────────
   2019年初めから、現代貨幣理論(MMT)という新た
  な経済理論がメディアなどの盛んに取り上げられた。MMT
  の最大の特徴は、「財政赤字に問題はなく、政府が財政再建
  を行わなくとも、財政が破たんすることはない」という考え
  方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)
  の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破たん
  もしていない「日本」が取り上げられているためだ。
   国内では数年前から「政府総債務残高が家計純金融資産残
  高を上回なければ、国債消化に困難が生じることはなく、財
  政危機が起きることはない」という考え方「現代財政理論」
  が、一部の学者やエコノミストのあいだで唱えられている。
  MMTでは財政について、不況期には、政府が借金をしても
  (財政赤字でも)、政府支出を増加させることで資金が民間
  に回り、景気が回復すると考える。
   不況時の財政黒字は、民間に資金が回っていないことを意
  味し、不況時に財政支出を行わないと、不況は一段と深刻化
  するという考え方だ。そして、「政府債務がどれだけ膨らん
  で、財政赤字となろうとも、財政再建を行わなくとも、債務
  不履行に陥ることはない」と理論付けている。
                  https://bit.ly/39vNW1m
  ───────────────────────────

経済評論家/三橋貴明氏.jpg
経済評論家/三橋貴明氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月06日

●「MMTの主張はパラドッスである」(EJ第5221号)

 MMTの主張は一見すると「パラドックス」です。ところで、
パラドックスとは何でしょうか。ウィキペディアなどでは意外に
難しい解説が出ていますが、「パラドックス」をわかりやすく説
明すると、次のようになります。
─────────────────────────────
 「パラドックス」は、英語の「paradox」 のことで、「逆説」
「ジレンマ」「背反」「矛盾」などを意味する言葉です。世間一
般的には正しいと認識されているものごとに対し「反対の主張、
反対である状況や事態、また反対の概念」、つまり「定説にさか
らうもの」を指す言葉でもあります。
 細かく言えば「矛盾」よりは意味の幅が広く「見かけの上で判
断する真偽が、実際の真偽と反対であること」となりますが、地
球上にはあらゆる分野で数多くの「パラドックス」が存在してい
ることに多くの人が驚くことでしょう。https://bit.ly/2UHGVX5
─────────────────────────────
 MMTでは、税金の捉え方が常識とは違うのです。政府は徴税
権を持っています。政府はそれを使って税金を集め、それによる
税収で政府支出をしていると、誰でも考えています。したがって
これは上記の、「世間一般的には正しいと認識されているものご
と」に当ります。
 しかし、MMTでは、4月3日(金)のEJ(EJ第5220
号)でも述べたように、「そうではない」と否定します。つまり
「税は政府支出の財源ではない」というのがその理由です。これ
は、まさにパラドックスということになります。
 EJ第5220号では、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏
の次の記述に注目しています。
─────────────────────────────
 政府支出の財源が、租税や国債であるかのように偽装されて
 いる。               ──井上智祥准教授
─────────────────────────────
 井上氏は、サラッと表現していますが、これは大変なことを述
べています。政府支出の財源は、税収と国債であると誰でもそう
考えていますが、井上氏は、もちろんMMTの考え方として、そ
れを明確に否定しているからです。
 しかし、主流派経済学では、まず租税があって、それを財源に
して政府支出を行うと考えています。これに対して、MMTでは
まず、政府支出があって、国民はそれによって得たお金で税金を
支払います。スペンディング・ファーストです。井上准教授は、
租税の目的について次のように述べています。
─────────────────────────────
 租税の目的は財源の確保にあると誰しも思うでしょうし、ほと
んどの経済学者もそう考えています。ところが、MMTでは、租
税の目的が財源の確保であることを明確に否定しています。
 政府は国民に対し、納税義務を課します。貨幣は納税義務を果
たすためのチケットであり、国民はこのチケットを手に入れなけ
ればなりません。それゆえに、このチケットつまり貨幣は価値を
もつのです。租税はそのためにこそあって財源ではないので、貨
幣を市中から回収してしまったら用済みです。 ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 「貨幣は納税義務を果たすためのチケットである」というのは
少しわかりにくいかもしれないので、ていねいに考えてみます。
 国民には納税義務があります。なぜなら、国民は、その国に住
むことにより、政府(国)に対して恩があり、借りがあるという
ことになります。
 お金は、いわゆる万年筆マネーとして作り出される単なる数字
に過ぎませんが、それを「現金」と交換できると誰もが信じてい
るので、価値があります。
 その一方で、その現金の裏づけは、それが納税に使えるという
事実によって、裏づけられています。つまり、現金は「納税クー
ポン券」であるということです。なぜなら、その納税クーポン券
が価値を持っているのは、国家の徴税権が実体的な強制力として
存在しているからです。国家が税金を支払うことを国民に義務付
け、もし、納税しないと、「脱税」の罪で、国家権力で刑事罰を
加えることができるからです。
 これについて、藤井聡京都大学大学院教授は、「お金というも
のは『負債』の記録である」といい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 1万円札は、「国家が国民に対して(税金にして)1万円分の
借りがある、という記録」として世間に流通しているのである。
だから、あなたがその1万円を資産として財布に持っているなら
それによってあなたは「国家に対する1万円分の貸しがある」状
態になれるのである。だからあなたほそれを通して、政府があな
たに課する納税義務を、1万円分帳消しにすることができるので
ある。                ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 新型コロナウイルス蔓延による経済対策として、「現金給付」
が話題になっています。何か異様ことのように受け止める向きも
多いと思いますが、これこそ、スペンディング・ファーストその
ものなのです。
 スペンディング・ファーストというのは、現金を初めに支出し
たのは政府であるという歴史的事実ではなく、毎年政府がそれに
よって政府支出を行っていることを指しています。税収を使って
いる訳ではないのです。しかし、表面上は、税収+国債の範囲内
を意識して、あたかもそこから支出しているように「偽装」して
いるのです。これについては、明日のEJで、もっと詳しく説明
します。       ──[消費税は廃止できるか/062]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税廃止は本当に可能なのか?/3/Cargo
  ───────────────────────────
   前回コラムで、「需要の減少」が起こる悪循環をどう断ち
  切れば良いのかという課題に対して、反緊縮派は一つに「消
  費税廃止」を提案していることをお伝えした。加えて、二つ
  目の有効策がこの「財政出動」になる。これは消費税廃止で
  無くなった消費税収に替わる財源を得るため、また国民経済
  を後押しするための政策となる。減税と財政出動、上述した
  中学校の教科書通りの財政政策だ。
   「財政出動すると財源が減ってしまうのではないか」と思
  われる方もいるかもしれない。それも当然だろう。普通の人
  は、政府が、何か税金などを貯めている金庫のようなものを
  持っていて、そこからお金を支出していると考えている。し
  かしその考えは誤りである。政府が支出すると、実体経済市
  場に通貨が創造されるので、支出することそれすなわち財源
  となることを意味する。政府が誰かに支払いをすると、新し
  い通貨がこの世に「無から生まれる」のだ。
   このことをMMTは「万年筆マネー」や「スペンディング
  ・ファースト」という概念をもって説明するが、少し複雑な
  仕組みなので我慢して以下を読み進めてもらいたい。
   信用創造(通貨を創造すること)には経路が2つある。一
  つは、金融機関によって保有される既発国債と交換する形で
  中央銀行が創造した貨幣(実体経済市場では使用不可能な準
  備預金)を元手にして、金融機関が一般企業や個人に貸し出
  すときに起こる。中央銀行が国債を買い入れることを「買い
  オペ」と言い、国債と交換する形で貨幣を増やすことを「量
  的金融緩和」と言うが、基本的には同じことを指している。
  何を言っているのかわからないという方は下記の「教えて!
  にちぎん」と「ニチギンマン」の説明も見てもらいたい。
                  https://bit.ly/3bQYWrD
  ───────────────────────────

井上智洋駒澤大学准教授.jpg
井上智洋駒澤大学准教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月07日

●「モスラーの物語が訴えていること」(EJ第5222号)

 ここでもう一度「ウォーレン・モスラーの物語」を復習する必
要があります。ステファニー・ケルトン教授が来日講演のさい、
冒頭でしたという話です。3月2日のEJ第5197号において
ご紹介しています。子供とパパの名刺の話です。話をもっとリア
ルに修正し、再度ご紹介します。
 子供が3人いるモスラー家は、家を新築し、引っ越したのです
が、モスラー氏は子供たちがまったく家の手伝いをしないことに
不満を持っていました。そこで、「もし家の手伝いをすれば、何
を手伝ったかに応じてパパの名刺をあげるよ」と子供たちに提案
したのです。自分の部屋の片づけは1枚、皿洗いは3枚、庭の掃
除なら5枚というようにです。
 しかし、子供たちは一向に手伝いをしようとしません。そこで
モスラー氏はどうして手伝わないのか子供たちに聞いたのです。
そうしたら、「パパの名刺なんて欲しくないから」という返事が
返ってきたのです。確かに子供たちにとっては、パパの名刺なん
か何の価値もなかったからです。
 そこで、モスラー氏は子供たちに宣言しました。「毎月、月末
までに30枚の名刺を提出しないと、この家から出て行ってもら
い、親戚の家の子にするよ」と。親戚の家には子供がおらず、引
き取ってもいいといっていたし、そのことを子供たちも知ってい
たからです。
 父親のこの厳しい宣言に、子供たちは慌てて家の手伝いをする
ようになります。しかし、月末までに名刺を30枚集めるのは大
変で、定例的な仕事を手伝った後、「ほかにやることはないの」
と親に聞くようになったのです。このようにして、名刺は急に価
値を持つようになったのです。
 この「ウォーレン・モスラーの物語」について、井上智洋駒澤
大学准教授は、この小話からMMTの基本である次の3つのこと
が導けるとしています。
─────────────────────────────
 1つ目は、納税より先に政府支出があるということです。モズ
ラー氏は手伝いをした子供たちに名刺を渡しました。これは公共
事業を行った業者に政府がお金を支払うことに類似しています。
子供たちがパパに名刺を渡すという納税相当の行為を行うのは、
その後です。
 2つ目は、納税によって貨幣は価値をもつようになるというこ
とです。名刺はただの紙切れなので、パパへ上納すべきチケット
でもないかぎり、子供たちはそれを欲しがりません。同様に、紙
幣はただの紙切れなので、納税すべきチケットでもないかぎり、
誰もそれに価値があるなどと思わないというわけです。
 3つ目は、租税は財源ではないということです。モズラー氏が
名刺を欲しがらないのと同様に、政府も貨幣が欲しいわけではあ
りません。名刺にせよ、紙幣にせよ、印刷すれば済む詣です。租
税を徴収しなかったとしても、政府は紙幣を印刷することで(キ
ーボードを叩くだけで)、いくらでも財源を作り出すことができ
ます。                   ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 井上准教授の指摘する1つ目は、スペンディング・ファースト
です。政府は、最初にお金を作り出して支出しているということ
です。税金として納められたお金(税収)から支出しているわけ
ではないのです。
 2つ目の指摘は、モスラー家のルールとして、月30枚の名刺
の提出を強制化したとたん、名刺が突然価値をもったように、政
府が作り出したお金に対しても、国家として強制力をかけること
によって、価値を持たせているという点です。
 これによって、租税、すなわち税収が政府支出の財源ではない
ことがよくわかります。3つ目の指摘です。政府はその都度お金
を作り出し、政府支出として使っているということです。ただし
国民には、できるだけ税収や国債の範囲内でそれを使っているよ
うに偽装しています。本当は、税収の額に関係なく、いくらでも
お金を作り出せるのです。
 この考え方に立つと、日本のように、税収を超える予算を毎年
組んで使っても問題はないということになります。昨日のEJの
関連情報でも述べているように、ほとんどの人は、「政府が何か
税金などを貯めている金庫のようなものを持っていて、そこから
お金を支出している」と考えていますが、それは違うことがよく
わかると思います。
 そうであるとすると、国民が納めた税金はどうなるのでしよう
か。これについて、藤井聡京都大学大学院教授は、次のように解
説しています。
─────────────────────────────
 納税したオカネがどうなるのかと言えば──それは「消える」
のである。そもそも「貨幣」とは、「国家の負債」、つまり「国
家が国民に対して借りがあるという記録」であった。「納税」と
いうものは、国民にしてみれば、「国家の借りを、国家に返して
やる」ことと引き換えに「納税義務を果たしたことにする」こと
をいう。つまり、(納税という)国民の借りと、(貨幣という)
国家の借りとを突き合わせ、両者の借りを消滅させるのである。
だから、納税すれば、国民の納税義務が(その分)消滅すると同
時に、国家の負債である貨幣もまた、消滅するのである。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 これは、ウォーレン・モスラーの話で考えるとすぐわかること
です。子供たちは税金のかたちで名刺を返してきますが、名刺は
ボロボロになっていて、再利用できません。モスラー氏は、おそ
らくシュレッダーにかけて廃棄しているはずです。名刺は低コス
トで印刷できるからです。貨幣もまったく同じです。
           ──[消費税は廃止できるか/063]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTは平成の誤りを検証するツールである/西田昌司氏
  ───────────────────────────
   MMTとは、貨幣の正体を貴金属などのモノでは無く、国
  家や銀行の債務であるという事実を元に、経済現象を再定義
  した理論です。貨幣の正体が債務であることは、日銀も財務
  省も認めていることです。問題は、現在主流となっている経
  済学が、その理論の前提として、貨幣を債務ではなくモノと
  して扱っていることなのです。そのため、理論と現実が整合
  しなくなっているのです。このことに彼らは気がついていま
  せん。その結果、主流派経済学は現実に起こっている経済現
  象を説明できなくなっています。「国債残高が、これ以上大
  きくなればハイパーインフレが起きる」と彼らは20年以上
  前から訴えてきました。しかし、実際には、日本はハイパー
  インフレどころか、デフレで苦しんでいます。この事実も彼
  らは認めようとしていません。「今はいいが、財政再建を諦
  めれば、通貨の信認は崩れ、いつか必ず破綻する」という妄
  言を未だに言い続けています。
   自分達の学んだ理論にしがみつき、現実を直視しない彼等
  の態度では、知識人としての資格はありません。自分達の前
  提とする条件でしか通用しない理屈を現実の世界に当てはめ
  現実がそれと違う結果になっていても、その事実を直視しな
  い様では、最早科学ではなく、宗教です。
                  https://bit.ly/2X7t6ma
  ───────────────────────────

講演するステファニー・ケルトン教授.jpg
講演するステファニー・ケルトン教授
 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月08日

●「なぜ、貨幣を名刺に見立てたのか」(EJ第5223号)

 ウォーレン・モスラーの物語の続きです。この話にはいささか
不自然なことが2つあります。
─────────────────────────────
 1.子供たちにとって最も関心の薄い名刺を貨幣に見立てて
   いること。
 2.名刺に擬せられた貨幣の目的が専ら納税の手段になって
   いること。
─────────────────────────────
 「1」について考えます。
 なぜ、名刺なのでしょうか。おそらく名刺は子供たちにとって
最も興味のないものであると思われるます。井上智洋駒澤大学経
済学部准教授は、自著の最終章「MMTの余白に」で、名刺では
なく、ポケモンカードだったら、きっと子供たちの反応は大きく
違ったのではないかと述べています。確かにポケモンカードだっ
たら、子供たちは目の色を変えて手伝いをしたと思われます。大
人はともかく、ポケモンカードは子供たちにとって、金貨や銀貨
のような素材価値のある貨幣に相当するものだからです。
 しかし、モスラー氏の狙いは、最も素材として価値のない名刺
を使い、それが価値を生む過程を説明したいので、あえてそうし
たのではないかとも考えられます。それに、子供たちとしては、
月末にパパに30枚の名刺を上納することに慣れてくると、子供
たちの間で、名刺を使っておもちゃを買ったり、お菓子を買った
り、名刺の貸し借りをしたりできるようになると考えられます。
 実際に現実の貨幣は、納税の手段だけではなく、交換の媒介と
して機能しています。お金を使っての買い物です。長く使ってい
ると、自然にそのようになっていくのです。
 しかし、MMTでは、貨幣の目的はあくまで納税の手段である
とし、交換の手段として使われることを「ババ抜き貨幣論」であ
るとして、批判しています。なぜ、「ババ抜き貨幣論」というの
でしょうか。
 「ババ抜き」というトランプ遊びは、始めに同数のカードを人
数分配り、1枚ずつ他者から抜き取り、同じ札があれば捨て、最
後にババ(ジョーカー)を持っている人が負けるというゲームで
す。この場合、自分の持つババに価値があるのは、他の人がそれ
を引く可能性があるからです。ここから、自分の持つお金に価値
があるのは、他の人がそれを受け取ってくれるからであると考え
るのです。人生の最後の瞬間にお金を持っていても、個人として
は、それはムダ金になります。このような貨幣についての考え方
が「ババ抜き貨幣論」ですが、日本で、これをもう少し行儀のよ
い貨幣論にまとめた人が岩井克人氏という経済学者です。「貨幣
の自己循環論法」といいます。岩井克人氏は、あるインタビュー
で、自身の貨幣論について、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 お金がお金となるのは、他の人も受け取ってくれると予想する
から、だれもが受け取る、という自己循環論法です。他人が受け
取ってくれれば、お金はお金として通用する。それを疑い始めた
ら、お金として通用しなくなる。日常的にはほとんど意識してい
ないが、根底では、他の人がお金として受け取ってくれると信じ
ていて、その他の人も他の人が受け取ってくれると信じている。
深いところで信じ合っている仕組みに支えられているのです。
 金や銀などの金属、もっと昔は貝などの、多くの人が欲しい商
品が貨幣に変わったという「貨幣商品説」や、共同体の長老や王
様、政府といった権威が、「これを貨幣とする」と決めたという
「貨幣法制説」、他にも貸し借りから始まったという説がありま
す。もしかしたら歴史をさかのぼって、「貨幣が生まれた」とい
う瞬間があるかもしれないが、理論的には決定できない。ただ、
私が「貝がお金だ」と宣言しても、お金としては使えない。他の
人がお金として受け取ってくれるからお金になる、1人や2人で
はなく世の中の大多数の人が、貝をお金として受け取ってくれな
いといけない。   ──岩井克人氏 https://bit.ly/2ytUArV
─────────────────────────────
 「2」について考えます。
 貨幣の目的は、いろいろあるのに、なぜ納税の手段だけが強調
されるのでしょうか。確かに貨幣は納税に使っていますが、貨幣
はそれを受け取ってくれる人がいる限りにおいて、いろいろなも
のの交換手段として使われます。
 それに現在では、貨幣には地域通貨や仮想通貨などいろいろあ
り、それを受け取る人がいる限り、流通しています。しかし、人
が貨幣を欲しがる理由の根幹にあるのが納税の手段として使える
ことです。藤井聡京都大学大学院教授は、これについて、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 よくよく考えてみれば、この「政府に対する税金の支払い」以
上に、万人が避けられない支払い行為というものはない。買い物
にせよ、外食にせよ、特定の商品やレストランを使わねばならな
い理由などない。気に入らなければ、別の店やレストランを使え
ば良いのである。
 しかし、税金だけは、「別の政府」等ないのだから、逃れられ
ないのである。その逃れられない支払いにおいて、「政府への税
は円で支払え」と定められてしまえば、その徴税対象とされてい
る個人や法人の「全て」に、円の入手が義務付けられることにな
る。そうなれば、電力会社も鉄道会社も外食産業も電機メーカー
も皆、「円」を使って商売を始めるようになり、労働者への支払
いもまた「円」を使うようになるのだ。(中略)
 どのような通貨であっても、特定の政府が、「徴税」と結びつ
ける政治決定を下せば、その通貨の流通は一気に拡大し、支配的
なものとなっていくのである。     ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/064]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカで大論争の「現代貨幣理論」とは何か/中野剛志氏
  ───────────────────────────
   黒田日銀総裁が記者会見(2019年3月15日)におい
  て現代貨幣理論について問われると、「必ずしも整合的に体
  系化された理論ではない」という認識を示したうえで、「財
  政赤字や債務残高を考慮しないという考え方は、極端な主張
  だ」と答えている。
   しかし、現代貨幣理論は、クナップ、ケインズ、シュンペ
  ーター、ラーナー、ミンスキーといった偉大な先駆者の業績
  の上に成立した「整合的に体系化された理論」なのである。
  にもかかわらず、黒田総裁が「必ずしも整合的に体系化され
  た理論ではない」と感じるのは、それが主流派経済学とはパ
  ラダイムが違うからにほかならない。
   ここで、「現代貨幣理論」のポイントの一部をごく簡単に
  説明しよう。まず、政府は、「通貨」の単位(例えば、円、
  ドル、ポンドなど)を決めることができる。そして、政府と
  中央銀行は、その決められた単位の通貨を発行する権限を持
  つ。次に、政府は国民に対して、その通貨によって納税する
  義務を課す。すると、その通貨は、納税手段としての価値を
  持つので、取引や貯蓄の手段としても使われるようになる。
  紙切れにすぎないお札が、お金としての価値を持って使われ
  るのは、そのためである。    https://bit.ly/2ULzjCY
  ───────────────────────────


岩井克人教授.jpg
岩井克人教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月09日

●「なぜ全員一律に現金給付しないか」(EJ第5224号)

 新型コロナウイルスの蔓延による政府の緊急経済対策の一つで
ある「一世帯30万円の現金給付」が、本稿執筆時点の7日朝の
時点で、自民党と公明党がまだモメています。公明党は、かなり
早い段階で自民党に対し、「国民一律10万円の現金給付」を申
し入れており、それを全国の組織に流してしまっているのです。
ところが、それが厳しい条件付きになったので、全国の組織から
突き上げを食って、困惑しているといわれます。
 「国民全員に現金を配付する」というのは、MMTとも深く関
係するので、今回、取り上げることにします。結論からいうと、
今回の現金給付案は、財務省に牛耳られている自民党首脳部の非
常にケチくさい政策案であり、これはおそらく経済的にも、政治
的にも与党にとってマイナスでしかない政策になると思います。
以下、詳しく見ていくことにします。
 一番問題なのは、条件が厳し過ぎることです。そもそもどうい
う世帯に30万円が給付されるのかというと、その支給対象は、
次のようになっています。
─────────────────────────────
◎一世帯30万円の支給対象
 今回の新型コロナウイルス蔓延の影響で、収入が5割程度下が
るなど急減した世帯で、それによって年収が、個人住民税(均等
割)非課税の水準になるか、個人住民税非課税水準の2倍以下に
なる世帯が条件。これに該当する世帯は、それを証明する書類を
もって、自治体に自己申告することが必要になる。
─────────────────────────────
 これは非常に厳しい条件です。まず、収入が5割程度減ったこ
とをどのように証明するのかです。自分が対象になるかどうか、
わからないので、おそらく市区町村の受付窓口には、その問い合
わせのため、人が殺到し、そこに「3密/密閉・密集・密接」空
間ができてしまう可能性が十分あります。
 要するに、今回の新型コロナウイルスの影響で所得が半減して
も、それによって住民税非課税水準にならないと支給されないと
いうことになります。給与所得者の場合、個人住民税非課税水準
の2倍以下になる世帯ならOKという一定の救済措置はあるもの
の、きわめて複雑な条件ということになります。
 この厳しい条件に該当する世帯は、全5800万円世帯のうち
約1000万世帯になりますが、1000万世帯に30万円を配
付しても、たったの3兆円です。あまりにもケチくさい政策であ
ると思います。今回の経済対策をまとめた岸田文雄政調会長は、
財務省寄りの増税派で、強いリーダーシップもないので、どうし
てもこういうぬるい政策になってしまうのです。この人が経済政
策をまとめるトップである限り、消費税の減税など、とても実現
できそうもありません。
 上武大教授で、経済学者の田中秀臣氏は、今回の条件付き現金
給付案について、次のように問題点を指摘しています。
─────────────────────────────
 フリーランスや自営業者などの場合、ここ2ヶ月で所得が減少
したと書類で証明することも難しい。市区町村の窓口で、自己申
告するにも、審査の段階での混乱も予想される。このままでは、
日本経済は大きく減速したままになる。    ──田中秀臣氏
             2020年4月4日発行、夕刊フジ
─────────────────────────────
 テレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーで、コメンテーターを
務める玉川徹氏は、現金給付には、スピードが何よりも大事であ
るとして、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 日本以外の国では、誰彼を問わないで(現金を)全員に配ると
いうようにやっているところがある。なぜそういうことをやって
いるかって言ったら、それがいちばん早いからなんですよね。
 また、ここで優先順位ですけど、この現金給付で優先順位でい
ちばん高いのは、スピードです。とにかく早く出すってことが重
要なんです。足りなかったらまた出せばいいだけの話ですから、
スピードがいちばん大事なんですね。
 そこで所得制限してみたり、それに対する申請を、どういうよ
うにするかとか考えてる前に、配っちゃえばいいんですよ、まず
足りなかったらまた配ればいいだけで・・・。だから、ここでも
また優先順位を取り違えている。        ──玉川徹氏
                  https://bit.ly/39Lu6z1 ─────────────────────────────
 このように主張する玉川徹氏に対し、4月7日の羽鳥愼一モー
ニングショーにおいて、ジャーナリストの田崎史郎氏は、玉川氏
に対し、全国民一律に現金を配付するにはかなりの時間がかかる
と反論しています。この田崎史郎なる人物は、かねてから、政府
の意向を代弁することで批判されていましたが、最近テレビ局で
は、逆に政府側のスタンスを聞くために、田崎氏の出演を求める
ようになっています。本人もそのつもりで出演しています。
 「全世帯にマスクが届くのであれば、現金も届けられるのでは
ないか」という玉川氏に対し、国民の住所を把握しているのは自
治体であり、マスクと違って現金を届けるには、どうしても時間
がかかると反論したのです。
 2008年のリーマン・ショックのときは、麻生政権でしたが
全国民に1万2000円(18歳以下2万円)を届けています。
しかし、このときも配付に相当時間を要し、しかもその大半が貯
蓄に回されたという批判があったといいます。田崎史郎氏による
と、今回自己申告制にしたのは、このやり方が一番早く現金を必
要とする人に届けられるからであると主張しています。
 いずれにしても全員給付でない限り、もらえない世帯からは、
不公平であるとの反発が出るのは必至であり、まして所得制限の
複雑さによって、本来支給されるべき人にも現金が届かなかった
ら、政府の措置としては最悪になります。
           ──[消費税は廃止できるか/065]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナ経済対策、総額108兆円/7日閣議決定
  ───────────────────────────
   安倍晋三首相は6日、新型コロナウイルスの感染拡大を受
  け、総額108兆円規模の緊急経済対策を実施すると発表し
  た。国内総生産(GDP)の2割に相当し、事業規模は過去
  最大。首相は「経済に与える甚大な影響を踏まえ、過去にな
  い、強大な規模となる対策を実施する」と述べた。7日に対
  策に必要な経費を盛り込んだ2020年度補正予算案を閣議
  決定し、大型連休前の成立を目指す。
   政府はリーマン・ショック後の09年4月に策定した事業
  規模56兆8000億円を大幅に上回る対策を実施し、経済
  の悪化を最小限に食い止めたい考えだ。
   108兆円のうち、収入が大幅に減少し、住民税が非課税
  となる水準まで落ち込んだ低所得者世帯や、中小・個人事業
  者らへの現金給付は6兆円超を予定。対象世帯には30万円
  売り上げが急減した中堅・中小企業には200万円、フリー
  ランスなど個人事業者には100万円を支給する。税金や社
  会保険の納付猶予は26兆円規模を想定。20年度補正予算
  案で、新型コロナウイルス感染症対策として、新たに1兆円
  以上の予備費も計上する。児童手当は子ども1人当たり1万
  円を上乗せする。
   民間企業の資金繰り支援策として、中小企業が民間金融機
  関から「実質無利子・無担保」で融資を受けられる制度を創
  設。中堅・大企業向けは、日本政策投資銀行などの融資を活
  用する。            https://bit.ly/2Vc18Dv
  ────────────────────────

玉川徹氏.jpg
玉川徹氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月10日

●「事業規模にこだわる緊急経済対策」(EJ第5225号)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は、4月7日に
緊急事態宣言を出すとともに、過去最大となる事業規模108兆
円の緊急経済対策を決定し、発表しました。緊急事態宣言の対象
地域は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、
福岡県の7都府県です。
 事業規模108兆円といえば、GDPの約2割に相当する今ま
でにない規模です。この緊急経済対策を実行するため、政府は追
加の歳出が総額で16兆8057億円に上がる今年度の補正予算
案を固めています。年度の当初に補正予算案を編成することは異
例なことです。財源はどうするのでしょうか。
 必要な財源は、全額、追加の国債で賄う方針で、内訳は次のよ
うになっています。当初予算と合わせた2020年度の国債発行
額は49兆3619億円になります。
─────────────────────────────
    ◎補正予算公債金
     赤字国債 ・・・・ 14兆4767億円
     建設国債 ・・・・  2兆3290億円
              ──────────
               16兆8057億円
    ◎当初予算公債金
     赤字国債 ・・・・ 25兆4462億円
     建設国債 ・・・・  7兆1100億円
              ──────────
               32兆5562億円
    ◎公債金合計     49兆3619億円
─────────────────────────────
 今回の経済対策は一見すると超大判振る舞いに見えます。確か
に、リーマンショック後の2009年4月に麻生内閣が実施した
経済対策の事業規模56・8兆円の約2倍ですし、GDPの2割
相当というのはとんでもない巨額な金額であることは確かです。
 しかし、この「最大級」はいささか疑問です。安倍首相はかな
り早い段階からこのGDP2割にこだわっていたといいます。そ
れは、首相がドイツの経済対策を意識していたからです。ドイツ
は、7500億ユーロ(約90兆円)規模の経済対策を既に実施
していますが、これがGDP比で約2割に該当するのです。
 そのため、今回の経済対策の事業規模には、あれもこれも何で
もかんでも注ぎ込んで、意識的にGDPの2割にしたフシがあり
ます。2019年末に決めた経済対策での未執行分や、既に発表
済みの感染対策でまだ実施されていなもの、後から返済を求める
融資などの金額も上乗せし、それに納税や社会保険料支払いの猶
予分の26兆円まで加えて、やっとGDPの2割にしているので
す。安倍首相にとっては、経済政策の中身や使い勝手ではなく、
「2割」という規模にこだわったようです。「やってる感内閣」
の面目躍如といったところです。
 それでいて、事実上閉店を強制されているレストランなどの飲
食店や、バー、クラブなどの店舗の休業補償については、頑なに
応じようとしないのです。その点、ドイツでフリーランスの仕事
をしているある日本人が、ルールにしたがってメールで休業補償
の申請をしたところ、3日で現金が振り込まれたといいます。と
にかくドイツは、金額も巨額であるし、スピードも非常に早いの
です。それに対して日本は、金額についてはこだわったものの、
スピードに関しては知らん顔です。
 政府のドタバタぶりもひどいものです。なかでも「減収世帯へ
の30万円支給」については、あまりの評判の悪さに自民党の総
務会で、早くも「一率で現金を配るべきだった」と反省の声が出
ていますが、安倍首相は「全世帯一率現金給付」は、配付に3ヶ
月以上時間がかかり、実効性がないの1点張りで、まったく聞く
耳を持たないという姿勢です。
 いずれにせよ、公債金の総額が約50兆円になろうとも、80
兆円になろうとも、100兆円になろうとも、MMTの考え方に
立てば、財政出動は何も問題はないのです。それでは、ただでさ
え巨額になっている政府の借金が激増してしまうということが心
配であれば、こういうときこそ、政府紙幣を発行することを検討
すべきです。
 政府紙幣については、2月20日のEJ第5191号で述べて
いますが、これ以上政府の借金を増やしたくないというのであれ
ば、こういう方法も使えます。法律の改正が必要になりますが、
国会で堂々と議論して発行すべきです。https://bit.ly/2wobEz5
 新型コロナウイルス蔓延関連の経済対策として、神奈川県の黒
岩知事は、4月7日に、次の趣旨の発言をしています。
─────────────────────────────
 神奈川県の黒岩祐治知事は7日、新型コロナウイルスの感染拡
大の影響で内定を取り消された人や、職を失った人らを、任期付
き職員として臨時雇用する規模について、100人程度とする方
針を明らかにした。
 県人事課によると、2021年3月末までを任期とした非常勤
の雇用を想定している。任期中に新しい職を探してもらう狙いと
いう。公務員試験を受ける必要はなく、面接試験を中心に実施す
る見込みだ。黒岩知事は「優秀な方はそのまま県庁職員に登用す
る道もつくりたい」と述べた。
          ──2020年4月7日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 これは、MMTの「雇用保障プログラム」(JGP)の考え方
に似ています。今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって内
定を取り消された人が大勢いるそうですが、そういう人を自治体
が任期付きで臨時雇用し、任期中に職探しをしてもらうというも
のです。大変良いことであるし、これによって救われる人は多い
と思います。これを国家レベルでやるのがJGPですが、実施す
れば、経済回復に大きく貢献するはずです。
           ──[消費税は廃止できるか/066]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ感染拡大の収束後の話ばかりが充実しているのか
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策につ
  いて、政府は4月6日に開かれた自民・公明両党の会議で、
  所得が減少した世帯への現金30万円の給付や、児童手当の
  上乗せなどを行う案を示しました。しかし、この緊急経済対
  策案は、いくぶん理解しがたい部分があります。
   4月6日に開かれた自民党と公明党との会議で、政府は新
  型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策の案を提
  示しました。治療薬として効果が期待される「アビガン」を
  年度内に200万人分の備蓄を目指すことなどを盛り込んだ
  「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発」
  や、1世帯あたり30万円の現金給付などの「雇用の維持と
  事業の継続」についての対策が明らかにされました。
   しかし、この案には明確な金額など規模が示されておらず
  中小および小規模事業者などを対象にした給付金についても
  明示されていませんでした。「緊急」対策と言う割に、具体
  的な記述が少ないのです。
   この緊急経済対策案を通して読んでみると、曖昧な部分と
  明示されている部分の差が大きく、バランスの悪いものにな
  っているように感じられました。これを読んだある地方自治
  体の経済担当職員は、「非常に細かく書き込まれている部分
  と、粗々で内容がほとんどない部分の差が激しい。
                  https://bit.ly/3bYwFPW
  ───────────────────────────

「緊急経済対策」を発表する安倍首相.jpg
「緊急経済対策」を発表する安倍首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月13日

●「なぜ、デフレから脱却できないか」(EJ第5226号)

 EJの今回のテーマも今回で67回になり、そろそろしめくく
る時期になりつつあります。ところで今回のテーマは、2020
年1月6日から、次のテーマで、スターとしています。
─────────────────────────────
    どうしたら日本経済を成長させることができるか
    ── 消費税を廃止することは可能である ──
─────────────────────────────
 テーマの狙いは、「消費税を減税できるか/廃止できるか」を
論点にしたかったのです。次の衆院選は、来年、2021年9月
までに必ずありますが、そのときは、消費税の是非がメインテー
マになると判断したからです。
 安倍政権の経済政策、アベノミクスは、完全な失敗に終わって
います。どうしてでしょうか。それは、ズバリ、政権発足以来7
年を超える長期政権であるのに、安倍政権の重要な目的であるは
ずの「日本経済のデフレからの脱却」が実現できていないからで
す。それどころか、性懲りもなく、反省のかけらもなく、2回に
わたる消費増税を重ねて、デフレを一層深刻化させてしまってい
ます。おまけに、今年の2月頃から深刻化した新型コロナウイル
スの世界的感染の拡大によって、世界経済はドロ沼に落ち込もう
としています。もはや経済どころではなく、どうやって自分の命
を守るかがメインテーマになりつつあります。
 MMT(現代貨幣理論)のような経済理論を調べていると、経
済や財政に関する考え方が変わってきます。MMTの観点に立つ
と、これまで主流派といわれている経済学の考え方が、完全に間
違っているように見えてきます。物理学などの自然科学と違って
経済学は、経済に関する捉え方によって、経済政策のあり方が変
わってくるのです。
 井上智洋駒澤大学経済学部准教授は、MMTに関する自著の冒
頭で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 平成の30年間は、失われた30年で終わりました。この時代
に私たちは、多くのものを失ってきました。デフレ不況とそれに
伴う政府支出の出し惜しみによって、少なからぬ国民が生活の安
定や人生そのものを失いました。
 企業はイノベーションカを、大学は科学技術カを、家計は消費
意欲を、若者はチャレンジ精神をそれぞれ失いました。我が国の
国力衰退は、目を覆わんばかりです。
 この国を再興するには、デフレ不況からの完全な脱却を果たす
以外にありません。そのためには、「拡張的財政政策」を大々的
に実施する必要があります。「拡張的財政政策」というのは、税
金を減らして財政支出を増やすことです。そうすると政府の借金
は増大します。ですが、財政の拡大なくして、デフレ不況からの
脱却はありません。
 それを怠ったために失われた10年は、20年となり、30年
近くにまで延長されました。それにもかかわらず2019年10
月に消費税が増税され、政府支出の出し惜しみも続いています。
デフレ不況という長く暗いトンネルの出口には、まだたどり着け
そうもありません。             ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 井上准教授の指摘は核心を衝いています。解決策は実にシンプ
ルです。デフレ不況から脱却するには、コロナウイルスの感染拡
大を奇貨として、経済的な手当として、10%まで引き上げた消
費税の税率を元に戻し、財政支出を増やすしかないのです。増税
ではなく、減税をすべきだったのです。それでいて法人税の減税
はやっており、大企業に媚を売っています。やり方が、完全に間
違っています。財政の拡大なくしてデフレからの脱却はないし、
これを達成せずして、日本経済を復活させることは不可能です。
 しかし、問題は、これほどの失敗を重ねても、安倍政権は、自
らの失敗を認めようとはしていないことです。安倍政権は、経済
運営の失敗をすべてコロナウイルスの感染拡大のせいにしようと
していますが、これはとんでもないことです。
 2020年4月8日、安倍首相は、非常事態宣言は発出し、記
者会見を行っています。法律上は、非常事態宣言の発出後、実施
権限は自治体の長に移っています。担当する自治体の長は、担当
の自治体の状況に応じて、政策を実施できるのです。
 しかし、どの範囲まで休業要請の幅を広げるのかについて、政
府と東京都との間に見解の相違があり、最終決定までにゴタゴタ
したのです。2週間ほど様子を見て、拡大の幅を確定すべきとす
る西村経済再生担当相に対して、小池東京都知事は、「危機管理
の要諦として、はじめにドカーンと厳しい施策を打ち出し、経過
を見て少しずつ緩めていくべき」と主張し、対立したのです。そ
れに加えて、休業補償に後ろ向きの政府に対して、東京都は独自
の休業実施への協力金を支払うと宣言し、ここでも意見の違いを
見せたのです。休業補償について、安倍首相は次のようにいって
います。
─────────────────────────────
    個別の損失を直接補償するのは現実的ではない
                   ──安倍首相
─────────────────────────────
 この政府と東京都知事との意見衝突は話し合いがついたものの
このやり取りは、全面的に小池都知事の方が正しいし、さすがに
防衛相の経験者だけのことはあると感心したしだいです。太平洋
戦争の失敗にみられるように、戦力の小出しの逐次投入は、最悪
の結果を招くだけです。本当に首相が望むように外出制限の80
%の達成を期するのであれば、国としてきちんと休業補償をつけ
て、その確実性を狙うべきです。なぜ、その程度の財源を渋って
いるのでしょうか。事態がもっと深刻化すればやらざるを得なく
なると思いますが、それではもはや手遅れなのです。
           ──[消費税は廃止できるか/067]

≪画像および関連情報≫
 ●【休業補償】国は公平な仕組み検討を/高知新聞社説
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、緊急事
  態宣言にどう実効性を持たせるか。感染の終息後に回復でき
  るだけの力を国民経済にどう与えるか。政府は整理し直すべ
  きではないか。感染が急拡大する東京都が新型コロナ特措法
  の緊急事態宣言を受けた休業要請に踏み切った。対象業種・
  施設は大学や学習塾、劇場や映画館、美術館、ナイトクラブ
  バー、パチンコ店など幅広い。
   要請に応じた中小事業所には「感染拡大防止協力金」とし
  て単独店舗事業者は50万円、複数店舗を持つ事業者には、
  100万円を支給する。国内で最も状況が悪化している首都
  の封じ込め策が奏功するかどうかは、他の自治体にも影響し
  よう。特措法には休業要請に伴う補償の規定はないが、これ
  までの外出自粛要請でも既に大きな打撃を受けている事業主
  は多い。休業要請があっても、やむにやまれず営業を続けて
  は感染抑止の効果は薄くなる。
   法的裏付けがある休業要請をしておきながら、損失は自己
  責任というのは事業主に酷に過ぎる。東京の50万〜100
  万円が十分な額かどうかは不明にしても、行政による損失補
  償は当然である。疑問が残るのは政府と都の調整が難航し、
  宣言から3日を要したことだ。休業要請に前向きな都に対し
  政府は当初、外出自粛要請の効果を見極めるべきだとして、
  2週間程度見送るよう求めた。  https://bit.ly/3aYOIFG
  ──────────────────────────

西村経済再生担当相/小池東京都知事.jpg
西村経済再生担当相/小池東京都知事

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月14日

●「財務省は政権の支配を進めている」(EJ第5227号)

 新型コロナウイルスの感染被害は拡大するばかりです。12日
には、「報道ステーション」の富川悠太MCの感染も報道され、
テレビ界に衝撃が走っています。こういう有名人が感染すること
がわかると、その人が実際には自分とは離れた場所にいる人であ
るにもかかわらず、いつもテレビで視ているだけに身近かな人が
感染したと錯覚するのです。富川悠太氏もニュースに携わる仕事
をしているので、本人が強く事実の公表を求め、公表されたとい
います。国民は本気で、外出を自粛すべきときです。
 安倍政権の新型コロナウイルス感染拡大対応の108兆円の緊
急経済対策が、実は中身がスカスカであることは、4月10日の
EJ第5225号で指摘しています。さらに、いわゆる真水とさ
れる財政支出は20兆円といわれています。30万円の現金支給
についても実際に受け取れる世帯は20%程度とされています。
休業要請に対する休業補償についても、曖昧な表現ではなく、明
確に「出さない」と発言しています。こうキッパリいってしまう
と、事情が変わって、後から出すことはできなくなります。消費
税の減税などは最初から否定しています。
 このところ小池東京都知事の評価が上がっています。小池氏の
方が、安倍首相よりも、防衛相をやったたけあって、危機管理の
要諦を心得ており、毅然としているからです。休業補償について
も、何回も安倍首相に国として支給するよう求めたのですが、聞
き入れられず、東京都独自の休業協力金を発表しています。連日
テレビにも出ており、選挙運動などしなくても、小池氏の都知事
再選は動かぬところと思われます。
 なぜ、緊急経済対策が、このようなケチくさい内容になってし
まったウラには、やはり財務省の存在があります。今回、財務省
は、さらにその存在感を増しているのです。
 安倍首相は、当初は増税のスケジュールを強引に延期させるな
ど、何かにつけて財務省と戦ってきたはずです。これまでにそう
いう宰相はいなかったので、私は、安倍首相のそういうところを
評価していたのですが、今回のような未曾有の危機に対して、首
相は、財務省に何もいえないのは、事情が変わったものといわざ
るを得ません。おそらく首相が、森友問題などで財務省に大きな
借りを作っており、そのために財務省のいうことを拒否できない
のではないかと考えられます。
 財務省の怖いところは、テレビ局を事実上支配しており、よく
テレビに登場するMCや、コメンテーターは、財務省の方針に逆
らわない人物を厳選しています。財務省の考え方に関して、批判
的なことをいうコメンテーターについては、少し時間をかけて目
立たないように担当を外し、2度とテレビには出られないように
しています。そのようにして、テレビを去ったコメンテーターは
数多くいます。
 財務省は、日本財政破綻論者を経済学者や経済人に多く作って
います。彼らに「そんなことをすると財政が破綻する」と、こと
あるごとに発言させるのです。それも心にもないことをいってい
るのではなく、本人自身がそう信じているわけです。
 「ライジングサン/ダイアリー」というサイトがあります。経
済に関して鋭い分析をし、歯に衣を着せない主張をしているので
よく読んでいます。
 このサイトに、読売テレビの辛坊治郎キャスターの本からの引
用が出ています。辛坊治郎氏も日本の財政破綻論者の一人として
このサイトでは位置づけています。
─────────────────────────────
 あなたがローンに頼って、収入を超える消費生活を続けている
とします。返済期間が来るたびに、元本と利息と生活費の不足を
賄うお金を借り換えなければなりません。借金は増え続けますが
お金を借り続ける事が出来る限り、生活は破綻しません。いつか
破綻するとの不安を抱えたまま、ローンの返済が行き詰る瞬間ま
で、平穏な生活が続きます。
 健全な生活をしている周囲の人から、お金は大丈夫?と聞かれ
ることはあっても、あなたの生活態度にそれ以上干渉するひとは
少ないでしょう。ところが、もうお金は貸せない、今まで貸した
分も返してほしいと言われた瞬間、あなたの生活は急変します。
毎月の生活費の不足が一気に表面化し、借金取りが押し寄せて家
計は破綻です。
 様々な人があなたの生活態度に注文をつけ始めます。今回のギ
リシャがそうでした。ハンガリーの危機も突然浮上しました。家
計でも企業でも、そして政府でも、借金の借り換えが難しくなっ
たその時、危機は突然やってきます。
 国債を持っている銀行や投資家の不安心理に何かのきっかけで
火がつけば、皆が一斉に国債を売りださないとは限りません。売
らないまでも新たに買おうとはしないでしょう。毎年大量の国債
が発行されている日本でそんなことが起これば大変です。
 人の心理は微妙です。常識で考えて「何かおかしい」と思うよ
うな状況が強まれば強まるほど、そのリスクは高まります。うっ
かりすると、その不安心理に付け込んで稼ごうとする投機家が出
てこないともかぎりません。1997年のアジア通貨危機は、そ
うして始まったのです。       https://bit.ly/3c8r9KD
─────────────────────────────
 辛坊氏は、国の財政を家計に喩える典型的な財務省のロジック
を展開しています。日本は高齢化が進んでおり、高齢者が貯蓄を
取り崩し、個人金融資産が減少してきています。個人金融資産が
減少しているのに、これ以上どんどん国債を発行していけば、い
ずれ国の借金が個人金融資産を上回って、債務超過に陥り、財政
破綻を迎えるのは時間の問題です。だから増税をして財政規律を
守らなければいけないというのが、財政破綻論者の主張です。
 辛坊キャスターのような有名人が、テレビからこのロジックを
訴えれば、信ずる人は多くなります。ちなみに、ギリシャの話が
で来るので、これは2011年頃出版された本からの引用である
と思われます。    ──[消費税は廃止できるか/068]

≪画像および関連情報≫
 ●「財政破綻論者」の不可解な行動 = 「節約してお金をため
  る」という矛盾/窪園博俊氏
  ───────────────────────────
   「財政破綻論者」とは私の父だ。週刊誌か、あるいはテレ
  ビのワイドショーに感化されたのか、かなり前から「財政は
  破綻する」が口癖となった。確かに日本の財政事情は悪いが
  それでも低成長・低インフレの持続が見込まれ、当分は国債
  も順調な消化が見込まれる。そう説明したこともあるが、破
  綻論に取りつかれた父には馬の耳に念仏。終戦前後の苦しい
  時代がやってくる、とのイメージにとらわれている。
   「財政破綻」が起きると、お金の価値は失われる。節約し
  て貯蓄する行為は無意味となる。本当に破綻が心配なら、手
  持ち資金の価値が失われる前に国際競争力のある企業の株を
  買う、またはドルなど外貨資産に切り替えた方がいい。ある
  いは、お金に価値があるうちに散財する、というのも手だ。
  実際には、父がやっていることは冒頭にも紹介したように節
  約である。
   政府・日銀の調査などを見ると、破綻かそれに近い状況を
  心配しながらも節約に励む父のような存在は珍しくない。以
  前も紹介した日銀が事務局を務める「金融中央広報委員会」
  の『家計の金融行動に関する世論調査』(二人以上の世帯)
  によると、老後を心配する世帯は83・4%に達し、そのう
  ち25・2%は「生活の見通しが立たないほど物価が上昇す
  る」ことを懸念している。    https://bit.ly/2xe6arb
  ──────────────────────────

辛坊治郎氏.jpg
辛坊治郎氏

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月15日

●「政府の借金は家計のそれは異なる」(EJ第5228号)

 昨日のEJでご紹介した辛坊治郎氏の日本財政破綻論は、一読
すると、何となく腑に落ちてしまうところがあります。ある意味
とても分り易いからです。実際に日本の財政について、辛坊氏の
主張のように考えている日本人がきわめて多いのは事実です。
 辛坊氏は、日本政府をして「ローンに頼って、収入を超える消
費生活を続けている家計」と同一視しています。これは、毎年、
税収を超える予算を組んでいれば、いつかは財政が破綻するとい
うきわめて分かり易いロジックであり、財務省もそういう理屈を
増税の根拠に使っています。
 ただ、財務省の場合は、本当のことはわかっているものの、日
本の財政を悪く見せたい思惑があって、日本財政破綻論を展開し
ているのに対して、辛坊氏をはじめとする多くの日本財政破綻論
者は、それをまともに信じているように見えます。
 財務省は、政府の借金については新聞などのメディアを通して
積極的に伝えますが、政府の資産については、わざわざ2年遅れ
で、財務省のウェブサイトにひっそりと公開しています。だから
ほとんどの人はそれに気がつかず、政府の借金の大きさだけが印
象に残ってしまうのです。それでいて、もし、格付け会社が日本
国債の格付けを下げようとすると、数々の証拠を突き付けて、日
本財政の健全性を主張しています。だから、財務省はわかってい
てやっているのです。
 プロの財務省にこれほど徹底的にプロパガンダを展開されると
多くの国民は「そうかな」と思ってしまうものです。とくに辛坊
氏のようなテレビのMC(メインキャスター)が、日本財政破綻
論を唱えると、その影響力は大きく、多くの国民はそれが本当で
あると信じてしまうものです。
 しかし、冷静になって考えてみると、確かに日本はGDPの2
倍以上の借金があるとはいえ、その一方で、日本の円は「安全資
産の円」という評価があり、今回の新型コロナウイルスの感染拡
大のようなことがあると、必ず円が買われるのを、どう説明する
のでしょうか。本当に日本が借金大国で、財政破綻必至であるな
ら、有事のさいに円など買うでしょうか。そういうとき円が買わ
れるのは、投資家が日本の財政破綻などあり得ないと考えている
からにほかならないからです。
 もっとも今回のコロナ禍では、米国がパニックになった関係上
これまでとは少し違う展開になっています。それは、新型コロナ
ウイルス問題を受けて、先行きへの強い不安が拡がり、世界中で
人々は、トイレットペーパーなど生活必需品を求めて買い急ぎ、
深刻な品不足を生じさせましたが、まさにこれと同じことが金融
の世界でも起きたのです。それは深刻なドル不足の問題です。米
国では、不測の事態に備えて、銀行預金が大量に引き出され、一
部の支店で現金が不足する事態になっています。何が起きるかわ
からないので、現金を手元に置きたいとする個人の行動が原因で
す。これについて、4月10日付の『大機小機』は、次のように
書いています。
─────────────────────────────
 危機が極度に強まる局面では通常なら安全資産とされる金融商
品でも、それ以上に安全な資産を手に入れるために売却される。
為替市場で安全通貨のはずの円が売られ、ドルが買われる動き、
日本でドルを調達するために日本国債が売られる動き、米国で現
金、中央銀行の当座預金を確保するために米国債が売られる動き
などがそうした異常な事態を裏付ける。
         ──2020年4月10日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 そもそも家計の借金と政府の借金を同一視することが間違って
いるのです。これについて、井上智洋駒澤大学経済学部准教授の
主張は説得力があります。
─────────────────────────────
 仮に、私に1000万円の借金があって、あと20年生きると
いうことが分かっているならば、元本だけを見ても年に50万円
のペースで返していかなければ、完済できないことになります。
 貯蓄をしないならば、給料などの「収入」から食費や利払いな
どの「支出」を引いた額を、借金返済に充てていくことになりま
す。「収入−支出」を「個人の財政余剰」とするのであれば、個
人の財政余剰が、年に50万円必要ということになります。そう
すると、
 ───────────────────────────
   現在の借金
   =(死ぬまでの20年間の)個人の財政余剰の合計
 ───────────────────────────
という式が成り立つことになります。
 政府の場合も1000兆円の借金があって、20年後にこの国
家が消滅するというのであれば、年に50兆円のペースで返して
いかなければ、完済できません。政府の収入から支出を引いたも
のを「財政余剰」と言います。この支出には、利払いも含まれま
す。そうすると、家計と同様に、
 ───────────────────────────
   現在の借金
   =(国家最後の年までの20年間の)財政余剰の合計
 ───────────────────────────
が成り立ちます。つまり、借金した分だけ財政黒字を作って返済
することになっており、長期的な均衡財政が図られていることに
なります。ところが、実際の国家は個人と違って寿命が限られて
いるわけではなく、永続するものと見なされています。そしてい
まの資本主義経済は、永続的な経済主体は、必ずしも借金を完済
する必要がないという前提で成り立っています。
                      ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/069]

≪画像および関連情報≫
 ●コロナ禍もたらす円高リスク/長期化なら1ドル=100円
  割れとの声も
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス感染の収束が見えない中、ドル・円相
  場は当面、円高リスクの高い状況が見込まれている。米金融
  当局による流動性供給でドル需給ひっ迫が和らぎ、米金利低
  下がドル安圧力となる。加えて、新年度入り後の対外投資は
  コロナによる先行き不透明感が強い中で盛り上がりは期待で
  きない。秋までコロナの影響が続けば、1ドル=100円割
  れが視野に入るとの見方も出てきた。
   シティグループ証券は4−6月のドル・円の下限を100
  円程度と想定。高島修チーフFXストラテジストは、世界的
  なドル不足など、3月にドルを支えた需給要因がはく落し、
  「米金利低下などに象徴されるファンダメンタルズ水準」へ
  回帰すると予想する。FRB(米連邦準備制度理事会)とト
  ランプ政権の「マネタイゼーション的な政策」がドル安・円
  高圧力になるとみる。円安要因となり得る対外証券投資だが
  コロナ巡る不透明感が強い中では、国内投資家がリスク量を
  増やさないよう保守的な運用に動きやすい。野村証券の後藤
  祐二朗チーフ為替ストラテジストは、「少なくともゴールデ
  ンウィークぐらいまでは大きく出ることはない」と予想。シ
  ティG証の高島氏は、米金利水準がこれだけ下がると「直観
  では100円以上で生保が手放しでドルを買って米債に行け
  るとは考えられない」とみている。https://bit.ly/3a702OD
  ───────────────────────────

「国家は永続」と説く井上准教授.jpg
「国家は永続」と説く井上准教授
posted by 平野 浩 at 04:53| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月16日

●「政府はなぜ休業補償をしないのか」(EJ第5229号)

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大により世界経済は、深刻
な事態に陥っています。国際通貨基金(IMF)が14日に発表
した最新の世界経済見通しによると、2020年の世界全体の成
長率は「マイナス3%」と予測しています。これは、1929年
〜32年の大恐慌のさいの「マイナス10%」に次ぐものです。
世界恐慌以来、最悪の不況になるという予測です。主要国の20
20年の予測は次のようになっています。
─────────────────────────────
        2019年  2020年(予想)
     中国  6・1%      +1・2%
     ───────────────────
     世界  2・9%      −3・0%
     ───────────────────
     米国  2・3%      −5・9%
     日本  0・7%      −5・2%
   イタリア  0・3%      −9・1%
           ──2020年4月15日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 世界経済のマイナス成長は、2009年のリーマン・ショック
直後の「マイナス0・1%」だけですが、「マイナス3・1%」
は深刻な数字です。しかし、この予測には前提があるのです。そ
れは、新型コロナウイルスの蔓延が2020年前半で峠を越すと
いう前提です。しかし、現在の情勢では、この前提はクリアでき
そうもないと考えられます。
 この未曾有の感染症危機、経済危機に対する安倍政権の対応は
はっきりいって支離滅裂です。緊急事態宣言の発出も遅いし、し
かも休業補償などは一切なしの非常にインパクトの弱いものでし
かありません。事業規模108兆円の緊急経済対策も、総額に異
常にこだわり、中身は「張り子の虎」でスカスカです。おまけに
最大の売りであるはずの「30万円の現金給付」も、対象者を徹
底的に絞り込み、使い勝手は最悪です。手続きが面倒で、税理士
に頼んだり、あきらめる人まで出てくると思われます。そのため
党内からも批判を浴び、30万円給付の対象者を少し広げる修正
を行ったり、それとは別に「所得制限なしに一律10万円支給」
の実施を公明党から求められる始末です。
 リーダーの真の力量は、今回のような国家的危機に瀕したとき
の危機対応能力によって判定されるものです。その点、小池東京
都知事は、何回も安倍首相に会って、国として何らかの休業補償
と一緒に緊急事態宣言を出して欲しいと要請したものの、首相が
聞き入れてくれないことがわかると、国が休業補償なしの緊急事
態宣言を発出すると同時に、東京都としての休業自粛要請に協力
してくれた事業者に対し、50万円〜100万円の「感染拡大防
止協力金」を給付することを発表しています。
 これについて、緊急事態宣言の対象地域に指定された自治体は
「東京都はカネを持っているからできる」とブツブツいっていた
ものの、結局は、何らかの「感染拡大防止協力金」の支給を発表
しています。そういう意味において、小池都知事のリーダーシッ
プは安倍首相を上回っていると思います。
 ところで、国は、なぜ休業補償に踏み切らないのでしょうか。
4月13日に行われた自民党役員会において、安倍首相は、休業
要請について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 さまざまな支援を用意したが、補正予算案の成立を急ぐことで
準備を加速させたい。休業に対して補償を行っている国は世界に
例がなく、わが国の支援は世界で最も手厚い。  ──安倍首相
─────────────────────────────
 驚くなかれ「休業に対して補償を行っている国は世界に例がな
く、わが国の支援は世界で最も手厚い」といったのです。これは
おかしな話です。英国では、ジョンソン首相のテレビ演説によっ
て国民に呼びかけた外出禁止「ステイ・ホーム」によって、業種
を問わず、追い込まれた労働者、自営業者の所得の8割、上限約
33万円を当面3ヶ月補償しています。フランスでは、商店や零
細企業で「一時帰休」になった従業員に対し、給与の手取り分で
84%を補償しています。
 西村コロナ担当大臣は、4月12日のNHKの「日曜討論」に
おいて、休業補償について次のように発言しています。
─────────────────────────────
 事業者に対する損失補填とか、休業補償の枠組みは、諸外国、
我々もすべて当たりましたけども、そういう仕組みを取っている
ところは見当たりません。       ──西村コロナ担当相
─────────────────────────────
 政府はどこを調べているのでしょうすか。ドイツでは、5人以
下の事業所で約180万円を一括支給しているし、前述の英国の
給与補償の対象者のなかには個人事業主も含まれ、所得の8割を
補償しています。
 休業補償について、安倍政権の代弁役を務める田崎史郎氏は、
4月14日のTBSの『ひるおび』に出演し、安倍政権の考え方
について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 休業補償をやっていくと際限がなくなる。それがわかっている
から、世界各国どこも休業補償っていうのはやっていない。
                      ──田崎史郎氏
─────────────────────────────
 どうなっているのでしょうか。安倍首相のロジックは、「休業
補償なんかどこの国もやっていない。だから、日本もやらない」
というのですが、それでは、英国、フランス、ドイツが、現実に
やっている補償制度について、どう説明するのでしょうか。野党
には、その点をぜひ内閣に問いただして欲しいものです。安倍政
権は、何を勘違いしているのでしょうか。
           ──[消費税は廃止できるか/070]

≪画像および関連情報≫
 ●【コロナ禍】政府はなぜ休業補償に消極的なのか/「働かざ
  る者食うべからず」の歴史的背景
  ───────────────────────────
   4月7日、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措
  法)」に基づき、東京を始めとする7都府県を対象に5月6
  日までを期限とする緊急事態宣言が発令された。
   欧米のメディアは一様に「感染拡大を抑制するには不十分
  な措置である」と厳しい評価を下しているが、緊急事態宣言
  を発令したことの成否は「どこまで人の動きを抑えられる」
  にかかっている。
   緊急事態宣言発令により、地方自治体は外出自粛要請と休
  業要請が行えるようになる。このうち休業要請については、
  罰則はないが要請に従わない企業名を公表することにより実
  質的な強制力を発揮できることから、「人と人の接触を8割
  減らす」という目標達成の切り札である。
   だがその休業要請について、休業補償の是非を巡って国と
  地方自治体が対立している。財政に比較的余裕がある東京都
  を除く6つの府県知事は「休業要請と休業補償はセットであ
  る」との態度を明確にし、これが認められなければ休業要請
  を行わない構えであるのに対し、国は「休業補償は現実的で
  はない」として応じる姿勢を示していない。自民党の有力若
  手衆議院議員によれば、政務調査会の場で「休業補償を実施
  すべきだ」と主張したところ「働かざるもの食うべからず」
  という自己責任論を振りかざす議員が圧倒的多数を占め、賛
  同者はほとんどいなかったという。国は「欧米でも休業補償
  制度は存在しない」と説明しているが、英国やフランス、ド
  イツでは実質的に休業補償が行われていると言っても過言で
  はないだろう。欧州と日本の間の休業補償についての温度差
  はどこにあるのだろうか。筆者は社会福祉に関する歴史的変
  遷の違いがその背景にあると考えている。
                  https://bit.ly/2Vbh9ug
  ───────────────────────────

田崎史郎氏.jpg
田崎史郎氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月17日

●「10万円を外出自粛協力金に使う」(EJ第5230号)

 今回のEJのテーマにも深く関係するので、今日のEJもコロ
ナ禍に関する情報について書きます。
 新型コロナウイルスの感染者拡大における安倍政権の対応は、
はっきりいって大失敗です。それをあらわしているのが、15日
の公明党山口代表から安倍首相への「所得制限を設けずに1人当
り一律10万円の現金給付」の申し入れです。その前日、二階幹
事長をはじめとする与党幹部からも、同様の申し入れが官邸に対
して行われています。ただし、二階幹事長は、「所得制限を付け
て」と断っています。
 公明党は、当初から「一律10万円の現金給付」を求めていま
したが、このときは「一定の所得制限を付けて」という条件付き
を主張していたのですが、一顧だにされませんでした。それは、
麻生財務相率いる財務省の猛反対と、岸田政調会長に責任があり
ます。麻生財務相は、麻生政権のときの現金給付配付の失敗が、
トラウマになっているようです。
 その公明党が今になって、今度は再び「一律10万円の現金給
付」を要求してきたのです。しかも今度は「所得制限なしで」と
いうように条件を変えています。なぜでしょうか。
 それは、岸田政調会長のまとめた「30万円の現金給付案」の
評判が最悪であり、国民から怒りの声が上がっているからです。
公明党は、こういう国民の声には敏感な政党であり、このままで
は「政権が持たない」と判断したからだといわれています。実は
こういう声は自民党党内にもあり、13日の党役員会でも「今の
現金給付はわかりにくい」とか、「全国民一律給付の要望が地元
で強い」という意見が相次いだといわれます。それを如実にあら
わしているが、共同通信社の10〜13日に行われた全国世論調
査の結果です。国民の怒りがあらわれています。
─────────────────────────────
     ◎安倍内閣の支持率
       支持 ・・・・・・ 40・4%
      不支持 ・・・・・・ 43・0%
     ◎緊急事態宣言のタイミング
      適切だった ・・・・ 16・3%
       遅過ぎた ・・・・ 80・4%
     ◎休業要請に応じた企業への休業補償
      補償すべきである   82・0%
      補償の必要はない   12・4%
     ◎一世帯30万円給付について
      一律給付すべき ・・ 60・9%
        妥当である ・・ 20・4%
       金額を増やすべき  10・7%
     ◎全世帯に2枚ずつの布マスク配付
       評価する ・・・・ 21・6%
      評価しない ・・・・ 76・2%
      ──2020年4月16日付、日本経済新聞電子版
─────────────────────────────
 15日に公明党と自民党の幹事長、政調会長らが、現金給付に
ついて、夜まで継続的に協議しましたが、その結果について、岸
田政調会長は、協議終了後に次のように述べています。
─────────────────────────────
 協議は平行線である。引き続き、補正予算の準備を進める。
                    ──岸田政調会長
─────────────────────────────
 この次の総理を狙うとされる岸田政調会長は、もともと財務省
寄りの人物であり、評判の悪い30万円の案をまとめた責任者で
すが、ぜんぜんその任に値していないのです。この人が総理にな
るようでは、自民党は確実に政権を失うでしょう。
 ところで、15日に公明党の山口会長が安倍首相に会い、10
万円一律給付の申し入れを行ったさい、安倍首相は、次のように
答えています。
─────────────────────────────
 補正予算は、政府・与党で決定した内容を速やかに成立させ、
その後、「方向性を持って」よく検討したい。  ──安倍首相
─────────────────────────────
 安倍首相のいう「方向性を持って」とはどういう意味でしょう
か。これがネットで話題になっていますが、だれもこの言葉を意
味を解明できないでいます。そこで、EJとしてこの言葉の意味
を推理してみたいと思います。
 政府の事業規模108兆円の補正予算は、4月20日から審議
入りし、21日には衆議院で補正予算案を通過させ、22日に参
議院で成立させる予定です。ここで重要なのは、公明党は、評判
の良くない30万円の現金給付案を「所得制限を付けないで国民
1人10万円の現金給付案」に変更させ、補正予算を成立させる
ことを要求していることです。
 しかし、政府は、予定通り、補正予算を変更なしで成立させ、
直ちに2次補正予算を編成し、そのなかで公明党案を検討するつ
もりでいます。「方向性を持って」とは、そのことをあらわす安
倍晋三言語ではないでしょうか。当初予定した方向性で進むが、
その後、公明党の案を審議すると考えているのです。
 つまり、安倍首相は、当初の30万円現金給付の変更を全く考
えておらず、それを成立させたうえで、公明党の提案を2次補正
で、検討するつもりのようです。そうであるとすると、公明党が
要求する「所得制限なしで国民1人10万円の現金給付案」の成
立は難しくなります。成立したとしても、またしても、かなりハ
ードルの高い所得制限が付くことは確実です。
 提案があります。このさいは「所得制限なしの10万円給付」
を全国民への外出自粛の協力金と捉え、首相自ら全国民に対して
「ステイ・ホーム」を呼びかけたら、どうでしょうか。これなら
給付が遅れても何ら問題はないと考えます。
           ──[消費税は廃止できるか/071]

≪画像および関連情報≫
 ●一律10万円、与党圧力に安倍首相転換 所得制限不評、危
  機感広がる―追加経済対策
  ───────────────────────────
   安倍晋三首相が新型コロナウイルス関連の追加経済対策と
  して、一律10万円の現金給付の検討に前向きな考えを表明
  した。収入が減少した世帯に30万円を支給するとした緊急
  経済対策が不評を買い、内閣支持率も下落。危機感を持った
  自民、公明両党が圧力を強め、慎重な姿勢だった首相が押し
  込まれる格好となった。
   「国民の苦しみや影響を、敏感に受け止めなければならな
  い」。公明党の山口那津男代表は15日、首相に一律給付を
  要請した後、語気を強めて記者団にこう訴えた。2020年
  度補正予算案には30万円の現金給付が盛り込まれたが、住
  民税非課税や収入半減といった条件が付き、「複雑で分かり
  にくい」「受け取れない人が多い」との批判が与野党に渦巻
  いた。公明党関係者は「ごみみたいな経済対策」と酷評。支
持母体の創価学会は「閣外協力も視野に入れる」と激怒し、政府
への要求を強めるよう公明幹部に迫った。自民党の二階俊博幹事
  長が14日に「一律給付」を急きょ打ち上げたため、慌てた
  山口氏が首相に直談判を申し入れた。
   自公の党首会談を受けた両党の幹事長、政調会長協議で、
  公明側は補正予算案に関して「減収世帯30万円」を「一律
  10万円」に変更するよう主張した。閣議決定済みの予算案
  の修正を与党が求めるのは極めて異例だ
                  https://bit.ly/3beQ27g
  ──────────────────────────

政調リーダーシップのなさが露呈した岸田会長.jpg
政調リーダーシップのなさが露呈した岸田会長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月20日

●「消費税減税を潰したかった財務省」(EJ第5231)

 4月18日のことです。政府の緊急経済対策の目玉である「収
入半減世帯に30万円給付」が、「所得制限なしで国民一律10
万円」に突如変更になり、緊急経済対策の閣議決定のやり直しが
行われることになっています。これについては、4月17日付の
EJで、詳しく述べています。
 こういう政策で、いつも執拗に所得制限にこだわるのが財務省
です。この役所はドケチで、取得条件をなるべく複雑に設定し、
予算を全部使い切らせず、お金を残すようにいろいろな細工をす
るのです。これに対して財務省は、国の財政を預かる重要な役所
であり、国のために無駄な出費を抑える努力をしているという見
方をする人もいますが、彼らの狙いはけっして国のためではなく
トップの財務官僚が裕福な老後を暮らすために天下り先として利
用できる数多い政府系企業・団体を維持するため、お金をできる
限り、ストックしようとしているだけです。
 そもそも、収入半減世帯への30万円給付案は、岸田政調会長
と麻生財務相が仕組んだプランです。岸田政調会長は、もともと
財務省寄りの政治家(増税派)ですが、安倍後継政権を狙うため
麻生派の協力は不可欠であり、プランには財務省の意向が色濃く
反映されています。
 それを見事に覆したのは、岸田政調会長と財務省の連携にハラ
を立てた二階幹事長の思惑と、自民党の良識派の議員たちによる
議員連盟「日本の未来を考える勉強会」の提言、そして友党であ
る公明党からの激しい突き上げです。
 ことが決した後、麻生太郎財務相は17日の閣議後の記者会見
で、次のように悪態をついています。くやしかったのでしょう。
─────────────────────────────
 新型コロナウイルス対策で政府が検討している全国民への10
万円給付については、一方的に支給するのではなく、あくまで要
望される方、手を挙げる方に配るものである。 ──麻生財務相
─────────────────────────────
 実際問題として政府は、国民の振り込み口座を把握しているわ
けではなく、何らかの方法で、国民からそれを政府に申告しても
らう必要があります。麻生財務相は、それを「私は10万円が欲
しい」と申告させると表現しているのです。言外に「私はそんな
もの、申告しませんよ」といっています。実にイヤミな男です。
 ところで、この人は、安倍政権の副総理として7年以上の年月
を過ごしながら、これまで何か仕事を遺したでしょうか。森友問
題の情報を隠蔽するため、膨大な公文書の改ざんをやっただけで
はないでしょうか。
 実は、今回の新型コロナウイルス蔓延禍が起きたとき、その経
済的措置として、一番早く「消費税0%」を中心とする提言をま
とめたのは、自民党内の若手グループ「日本の未来を考える勉強
会」で、二階幹事長に対して次の提言を行っています。それは、
次の5つから成る提言です。
─────────────────────────────
 1.50兆円規模の補正予算を編成し、財源には躊躇なく国債
   を発行してそれに充てること。なお、2025年のプライ
   マリーバランス黒字化目標は当分の間延期すること。
 2.被雇用者に対しては十分な休業補償をするとともに、事業
   者、特に中小企業及び小規模事業者(個人事業主を含む)
   に対しては、失われた粗利を100%補償する施策を講ず
   ること(特別融資だけでは不十分)。安心して休業できる
   ことは、有効な防疫対策にもなる。
 3.消費税は当分の間、軽減税率を0%とし、全品目軽減税率
   を適用すること(消費税法の停止でも可)。なお、消費税
   減税のタイミングとして6月を目指し、各種調整を速やか
   に行うこと。
 4.従来から存在するあらゆる制度も活用し、資金繰り支援等
   企業の廃業防止、国民の不安を払拭するために全力で取り
   組むこと。
 5.国土強靭化、教育・科学技術投資、サプライチェーンの再
   構築、特定国依存型のインバウンドの見直しなど、内需主
   導型の経済成長を促す政策を検討すること。
                  https://bit.ly/3cyRsdj ─────────────────────────────
 これに慌てたのが財務省です。「消費税0%」が掲げられてい
るからで、さっそく潰しに動きます。せっかく引き上げた消費税
にだけは絶対手を触れさせてはならじとして、安倍首相に対して
先手を打ったのです。それが、国民への現金給付です。麻生財務
相は、2009年のリーマンショック対策のとき、時の首相とし
て、この現金給付を手掛けたことがあるからです。安倍首相が当
初から消費減税には消極的で、現金給付にこだわったのは、麻生
財務相から国民への現金給付の提案を受けていたからです。そし
てその取りまとめを岸田政調会長に託したのです。
 本来であれば「消費税0%」こそ先にやるべきだったのです。
なぜなら、コロナ禍は、国難であり、国民に重くのしかかる消費
税を減税しなければ、本当に安部政権は、国民の「命を守り、生
活を守る」気はあるのかと疑われるからです。
 消費税率を変更するには法律の改正が必要であり、「時間がか
かる」といわれますが、現在食料品を中心に一部の品目にかかっ
ている軽減税率8%を0%にし、軽減税率を全品目に拡大するの
であれば、野党は反対しないので、早く成立させることができる
はずです。しかし、麻生財務相はそれをさせないため、現金給付
の容認姿勢を安部首相に示したのです。
 そのうえで、岸田政調会長に働きかけ、コロナ禍で収入が半減
した世帯に1率30万円のプランをまとめさせたのです。この案
は、複雑な条件が設定されているため、国民の約20%にしか適
用されず、政府支出が少なくて済むからです。財務省は国民の命
がかかっているのに、こんなゼニ勘定をしているのです。財務省
は国民の敵です。   ──[消費税は廃止できるか/072]

≪画像および関連情報≫
 ●自民若手が消費税ゼロ提言、なぜ?/安藤裕氏
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスの感染拡大にともなう「コロナ不況」
  が現実味を帯びる中、与野党から消費減税の可能性に言及す
  る機会が増えてきた。そんな中で、「減税」にとどまらず、
  消費税率を「ゼロ」にすべきだとする提言を2020年3月
  11日に打ち出したのが、自民党の若手議員らによる議員連
  盟「日本の未来を考える勉強会」。この勉強会は、元々消費
  税率10%への引き上げに反対するなど「党内野党」ぶりを
  発揮してきた。勉強会中心メンバーの安藤裕衆院議員に、提
  言の狙いを聞いた。(聞き手・構成:J−CASTニュース
  編集部 工藤博司)
  ――内閣府が3月9日に発表した19年10〜12月期の国
  内総生産(GDP)改定値が、物価変動を除いた実質で前期
  比1・8%減、年率換算で7・1%減でした。これは新型コ
  ロナウイルスによる影響を含んでいないので、20年1〜3
  月期は、さらに厳しい数字が出そうです。そういった中で発
  表された提言で、目玉は「消費税は当分の間軽減税率を0%
  とし、全品目軽減税率を適用すること」。5%への引き下げ
  を唱える野党はいますが、あえて「0%」を打ち出した理由
  を教えてください。
  安藤:2017年に立ち上げた我々のグループ「日本の未来
   を考える勉強会」は、消費税率を10%にはするな、5%
   に減税するべきだと、ずっと言い続けてきたんですね。
                  https://bit.ly/3ajckDJ
  ───────────────────────────

「自民党議員連盟『日本の未来を考える勉強会』」.jpg
自民党議員連盟『日本の未来を考える勉強会』

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月21日

●「3つの不作為を重ね緊急事態宣言」(EJ第5232号)

 最近前東京都知事の舛添要一氏がいろいろなところで発言して
います。舛添氏にはいろいろありましたが、そういう過去の出来
事はこのさい置いて、今は彼の意見にも耳を傾ける必要がありま
す。忘れている人は多いと思いますが、2009年にも新型イン
フルエンザが発生したことがあります。そのとき、舛添要一氏は
麻生内閣の厚労相として、陣頭指揮をとっています。
 2009年4月24日のことです。北米で、おかしなインフル
エンザが流行しているとの情報が入り、WHO(世界保健機関)
が世界的流行の警戒水準をフェーズ4に引き上げたのです。日本
ではこれを受けて、4月28日に対策本部を設置し、専門家会議
も立ち上げています。なかなか素早い対応です。そのときの日本
への感染状況について、次の記事があります。
─────────────────────────────
 わが国では、2009(平成21)年5月9日に成田空港検疫
で、新型インフルエンザの患者が検知され、その後、5月16日
神戸市、ついで5月17日大阪府内で確定例の確認があり、兵庫
県内、大阪府内の高校を中心にした集団感染が明らかとなった。
地域での学校閉鎖や濃厚接触者に自宅待機を要請するなどの対策
が行われ、そのために兵庫県内や大阪府内での一般社会への広が
りはかなり抑えられ、重症者・死亡者の発生はなく、ウイルスも
いったんは消え去ったとみなされた。 https://bit.ly/3ezCcyD ─────────────────────────────
 今回の安倍政権の新型コロナウイルスへの対応について、舛添
氏は、緊急事態宣言を出すに当って次の「3つの不作為」があっ
たことを指摘しています。トリアージというのは、治療の優先度
の決定のことです。
─────────────────────────────
     第1の不作為
      ・PCR検査を徹底させていない不作為
     第2の不作為
      ・医療機関でトリアージをしない不作為
     第3の不作為
      ・経済対策をていねいに打たない不作為
─────────────────────────────
 舛添氏がいうのは、この3つのことをやらずして、緊急事態宣
言を発出したことは、失敗であるといいます。そもそも政府が動
き出すのが、あまりにも遅過ぎたのではないかと、舛添氏は指摘
しているのです。
 武漢で、新型コロナウイルスが確認されたのは2019年12
月下旬のことです。日本国内で感染第1号が確認されたのは、1
月中旬ですが、その人が武漢滞在歴のある中国人だったせいか、
政府はまったく動いていません。1月下旬には都内の屋形船で集
団感染が発覚しましたが、それでも政府は動いていません。感染
した理由がわかっていたからです。本来は、遅くとも、この時点
で政府は動くべきだったといえます。
 政府が重い腰を上げたのは、2月13日、80代女性が感染後
に死亡してからです。14日に専門家会議を設置し、16日に初
会合を開いています。つまり、日本国内で感染者が出てから1ヶ
月の間、政府はこの問題について、何もやっていないのです。舛
添氏の指摘する通り、あまりにも遅いといえます。
 それに安部政権は、緊急事態宣言を出すに当り、「休業補償」
について一切口にしていません。これについて、舛添氏は、次の
ようにいっています。
─────────────────────────────
 安部政権には首尾一員性が全くない。仕事を休めと言うのなら
生活を保障しなければ政策として成り立ちません。アクセルとブ
レーキを同時に踏み込んでいるようなもので、前に進まない。
                      ──舛添要一氏
─────────────────────────────
 国が国民に対して「仕事を休め」という以上、何らかの補償を
するのは常識です。欧米ではそのようにしているし、なぜ、日本
ではしないのでしょうか。この問題については、4月16日付の
EJ第5229号でも取り上げています。
 これについて、安倍首相も西村経済再生担当相も、それから政
権の代弁ジャーナリストの田崎史郎氏も、「世界のどのような国
も休業補償などをやっている国はない」と一貫しています。しか
し、これは奇異な話です。欧米各国は、間違いなく、そういう補
償をやっているからです。何を勘違いしているのでしょうか。
 この話には、後日譚があります。共同通信が4月11日にネッ
トで配信した次の記事があります。
─────────────────────────────
◎西村氏、国の休業補償改めて否定
     /7都府県知事の要請に応じず
 西村康稔経済再生担当相は11日、新型コロナウイルスに備え
る改正特別措置法(新型コロナ特措法)の緊急事態宣言の対象と
なっている7都府県の知事らとテレビ電話で会談した。7都府県
は、休業要請に応じた事業者らに国が補償するよう求めたが西村
氏は「世界のどの国も休業補償していない」と述べ、応じない考
えを改めて示した。全国知事会長の飯泉嘉門徳島県知事も11日
7都府県とは別に西村氏とテレビ会談し、休業補償を「国の責任
で支援の在り方を工夫してほしい」と要望。休業補償に対する国
と自治体の温度差が改めて浮き彫りになった。
                  https://bit.ly/2Kipruo ─────────────────────────────
 ところが、11日、22時26分に、「世界のどの国も休業補
償していない」という部分が削除され、大幅に修正されているの
です。なぜ、内容が変わったのでしょうか。おそらく官邸が共同
通信側に何らかの圧力をかけたものと考えられます。これについ
ては、明日のEJで述べることにします。
           ──[消費税は廃止できるか/073]

≪画像および関連情報≫
 ●「今ごろ発令は遅い」/緊急事態宣言に県民
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の対象地
  域が4月16日に全国へ拡大したことについて、県民からは
  富山も対象地域となったことを評価しながらも、「宣言を出
  すのが遅い」という指摘が上がった。国民全員に現金10万
  円を給付する政府方針には、歓迎の声の一方、「財政的なつ
  けが長期にわたる」との意見もあった。
   高岡市太田、会社員、吉井まゆみさん(49)は「それぞ
  れの都道府県で感染拡大防止に取り組んでいるが、日本全国
  で一斉に行うことが大切」と全国への拡大を評価。ただ「宣
  言を出すのが遅い。経済のことを考えると仕方なかったのか
  もしれないが、まずは国民の命が大切」と話した。
   同市蓮花寺、県立大修士2年、長谷航希さん(23)も、
  「3月の連休前に宣言を出していれば感染者をもっと抑える
  ことができたのに」とした。
   現時点で多くのイベントが中止となり、外出を自粛する人
  も増えている現状を踏まえ、入善町入膳、自営業、屋木由美
  さん(61)は「緊急事態宣言が出た後も、今と変わらず感
  染防止を徹底することが大切」と語った。現金10万円の給
  付で「所得制限なし」の方針が示されたことには、「審査が
  ない分、素早い給付が期待できる」と歓迎の声があった。砺
  波市豊町、会社員、宮坂信次さん(54)は「子育て世代に
  とって現金給付はありがたいことだと思う」と述べた。
                  https://bit.ly/2XNFjNu
  ───────────────────────────

masuzoeyouiti氏.jpg
舛添要一氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月22日

●「休業補償の意義を理解しない政府」(EJ第5233号)

 安倍政権の新型コロナウイルス対策がドタバタしているように
見えます。その典型例をひとつご紹介します。4月16日のEJ
第5229号で指摘したように、緊急事態宣言に合わせて「休業
補償」を出して欲しいという小池知事をはじめとする多くの首長
の要望に対して、安倍首相も担当の西村経済再生担当相も、次の
ようにいっていたのです。
─────────────────────────────
◎安倍首相
  休業に対して補償を行っている国は世界に例がなく、わが国
 の支援は世界で最も手厚い。
◎西村経済再生相
  事業者に対する損失補填とか、休業補償の枠組みは、諸外国
 我々もすべて当たりましたけども、そういう仕組みを取ってい
 るところは見当たりません。
─────────────────────────────
 4月11日のことです。西村経済再生担当相は、7都府県知事
とテレビ電話を通じて会談しています。これに関して、共同通信
は、次の記事を18時過ぎにネットで配信しています。これは、
昨日のEJでご紹介しましたが、再現します。
─────────────────────────────
 西村康稔経済再生担当相は11日、新型コロナウイルスに備え
る改正特別措置法(新型コロナ特措法)の緊急事態宣言の対象と
なっている7都府県の知事らとテレビ電話で会談した。7都府県
は、休業要請に応じた事業者らに国が補償するよう求めたが西村
氏は「世界のどの国も休業補償していない」と述べ、応じない考
えを改めて示した。全国知事会長の飯泉嘉門徳島県知事も11日
7都府県とは別に西村氏とテレビ会談し、休業補償を「国の責任
で支援の在り方を工夫してほしい」と要望。休業補償に対する国
と自治体の温度差が改めて浮き彫りになった。
─────────────────────────────
 ところが、その同じ11日22時26分に、この記事は次のよ
うに書き替えられているのです。
─────────────────────────────
 西村康稔経済再生担当相は11日、新型コロナウイルス特措法
に基づく緊急事態宣言の対象となっている7都府県の知事らとテ
レビ電話で会談した。西村氏は会談後に記者会見し、国が自治体
向けに創設する1兆円の臨時交付金の使途について、東京都が休
業要請に応じた事業者に支払う協力金のような活用ができるか、
「これから考えたい」と述べ、選択肢として検討する姿勢を示し
た。一層の外出自粛の呼び掛けも求めた。7都府県は休業要請に
応じた事業者らに国が補償するよう求めたが、西村氏は国による
休業損失の穴埋めは重ねて否定した。 https://bit.ly/2VLHRJ6
─────────────────────────────
 なぜ、記事は変わったのでしょうか。しかも、正反対の論調に
なっているのです。なぜ、共同通信は差し替えに応じたのでしょ
うか。メディアとしてあってはならないことです。
 実は、最初の共同通信の記事が配信されると、SNS上で、非
難の渦が巻き起こったのです。「ドイツやフランスではやってい
るではないか」というわけで、そういう例を上げた反論が殺到し
たのです。
 官邸はSNS上の情報もウオッチングしているので、これはま
ずいと思ったのでしょう。そして、22時26分に記事が差し替
えられたのです。この記事からは、「世界のどの国も休業補償し
ていない」という部分が消え、「国が自治体向けに創設する1兆
円の臨時交付金の使途について、東京都が休業要請に応じた事業
者に支払う協力金のような活用ができるか、考えたい」が挿入さ
れています。明らかに官邸は、共同通信に圧力をかけて、記事の
差し替えを強要したものと思われます。
 安倍首相には「なぜ、国が休業補償しなければならないか」と
いうことがわかっていないようです。コロナ禍による緊急事態宣
言によって、サービス業を中心とする多くの企業が休業に追い込
まれ、その大半が倒産することは火を見るよりも明らかです。そ
のなかには、もともと赤字続きで、いずれ倒産という企業もある
でしょうが、コロナ禍さえなければ、ちゃんとやっていける企業
もたくさんあるのです。それらの企業は、コロナ禍が収まったと
き、経済をV字回復させる原動力であり、そのためにはいくらお
金がかかっても、可能な限り休業補償をし、生き残らせることが
何よりも大事なのです。そのことが、安倍首相にも、西村大臣に
もぜんぜんわかっていません。体裁とか面子とか、そんなくだら
ないことばかり気にしています。
 外務省のウェブサイトの緊急経済対策関係の予算の項目に次の
記載があります。
─────────────────────────────
◎我が国の状況や取組に関する情報発信の拡充【24億円】
 感染症を巡るネガティブな対日認識を払拭するため,外務本省
 及び在外公館において,SNS等インターネットを通じ,我が
 国の状況や取組に係る情報発信を拡充。
                  https://bit.ly/3boScBs
─────────────────────────────
 この24億円は何のための予算かというと、日本のコロナ対策
を批判する世界のメディアをウォッチングし、非難封じをするた
めの予算なのです。つまり、外務省は、日本政府への批判を封じ
込めるために、貴重なコロナ経済対策費の中から24億円もの血
税を注ぎ込むことを決定し、外務省はそれをウェブサイトで堂々
と発表しているのです。
 ワシントンポストのネット版は、これに対して「日本政府が対
外イメージアップのために24億円!パンデミックとの戦いの最
中」と報道しています。しかし、このことを日本のメディアは報
道しようとしません。この国はどうなってしまっているのでしょ
うか。        ──[消費税は廃止できるか/074]

≪画像および関連情報≫
 ●「ワシントンポスト」が徹底批判!一方、広報予算で甘い汁
  の国内マスコミは沈黙
  ───────────────────────────
   「ワシントンポスト」の記事はクルーズ船「ダイヤモンド
  ・プリンセス」号における日本の感染症対応の失敗、その後
  の安倍政権の後手後手対応を真っ向から批判し、安倍首相を
  「思いやりのない無関心なリーダー」と辛辣に断じる一方、
  外務省のネガティブな対日認識を払拭24億円計上」につい
  て、こう批判した。「日本のこの動き、しかもパンデミック
  の真っ只中に、緊急経済救済策の一環としていることは、不
  適切だとして多くの批判を引き起こしている」
   また、外務省に取材して「現在2021年に開催される予
  定のオリンピックとパラリンピックへの準備段階での日本の
  プロモーションが含まれており、ビデオや広告が含まれるだ
  ろう」という大鷹正人報道官のメールを紹介。在日アメリカ
  人の有識者の辛辣なコメントを掲載している。
   テンプル大学ジャパンキャンパスのアジア研究学科ディレ
  クターのジェフ・キングストンは「外務省が、海外からの批
  判という疫病を封じ込めるために納税者のお金を浪費すると
  いう事実は、政府がコロナ感染をパンデミックよりもPR危
  機として扱ってきたということを示している」と皮肉たっぷ
  りに語っている。        https://bit.ly/2xM64XV
  ───────────────────────────


西村経済再生担当相.jpg
西村経済再生担当相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月23日

●「休業補償を巡る国と自治体の争い」(EJ第5234号)

 新型コロナウイルスの感染拡大に対する政府の対応についての
最新の朝日新聞社の世論調査があります。4月18日〜19日実
施の全国世論調査です。
─────────────────────────────
      ◎感染拡大防止 首相は指導力を・・・
       ・発揮している  ・・ 33%
       ・発揮していない ・・ 57%
      ◎政府対応を・・・
       ・評価する  ・・・・ 33%
       ・評価しない ・・・・ 53%
      ◎緊急事態宣言の全国拡大を・・・
       ・評価する  ・・・・ 88%
       ・評価しない ・・・・  9%
      ◎自粛要請に応じた店舗の休業補償を・・・
       ・必要がある ・・・・ 82%
       ・必要はない ・・・・ 10%
           ──2020年4月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 調査結果は、安倍政権にとって厳しいものになっていますが、
緊急事態宣言を全国に拡大したことについては、「評価する」が
88%を占めています。実は、これは事業主にとって、きわめて
重要なことなのです。
 この調査では、「休業補償」についても聞いていますが、これ
は、緊急事態宣言による休業要請に応じた店舗や企業の損失を政
府が補償すべきかどうかを意味しています。この場合、大切なこ
とは、補償すべきといっているのは、あくまで店舗や企業であっ
て、その店や企業で働いている従業員ではないことです。言葉の
違いには十分気をつける必要があります。
 「休業補償」に似た言葉に「休業手当」がありますが、これら
は明確に異なります。「休業手当」は、会社都合により従業員が
働けない状態にあるさいに、会社が平均賃金の6割以上を支払う
ように定めた制度です。これは会社に支払い義務があります。こ
れに対して休業補償は、業務中に生じた怪我や病気などで働けな
くなった労働者を救済する制度で、平均賃金の8割が労災保険か
ら支払われます。したがって、「休業補償」という言葉を使うと
混乱が生じます。
 この場合、今回のような新型コロナウイルスの感染拡大による
休業は、会社都合の休業になるかどうかです。これはなかなか微
妙です。ましてその休業が国の緊急事態宣言にしたがったもので
ある場合、会社都合にはならないはずです。実際に「不可抗力」
の場合は、休業手当は出さなくてもよいということになっていま
す。国の緊急事態宣言は、その不可抗力に該当するというわけで
す。そのため、全国レベルの緊急事態宣言が強く求められていた
のです。
 4月19日のフジテレビの番組で、元大阪市長の橋下徹氏は次
のように発言しています。
─────────────────────────────
 緊急事態宣言が出た場合、不可抗力として休業手当を払わなく
てもいいという解釈を厚生労働省がやっています。これだとね、
休業手当を出さない企業がいっぱい出てくる。  ──橋下徹氏
           ──2020年4月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この発言からわかることは、厚生労働省自身が、今回のケース
が、より強い指示などではなく、要請であっても、不可抗力に当
り得るとの判断を既に示していることです。実際にどこで厚生労
働省がそういう判断を示したかはわかりませんが、その判断は今
後重要な意味を持ってきます。
 例えば、今回のコロナ禍のケースでは、北海道知事が最初に緊
急事態宣言を出しましたが、これは、自治体の知事の権限で出せ
る「協力要請」であり、店側や企業がそれに応じたとしても、そ
れは知事のひとつの経営判断であり、それをもって「不可抗力」
とはいえないのです。しかし、国による緊急事態宣言にしたがっ
て休業した場合は、話は別であるということになります。
 この解釈は、経営側の弁護士と、労働側の弁護士とでは、当然
意見は異なってきます。「休業要請も不可抗力になり得る」とす
る経営側の弁護士に対して、「不可抗力の範囲が広すぎる」とす
る労働側の弁護士との意見が対立しているからです。これについ
ては、添付ファイルの図を参照してください。この図は、21日
の朝日新聞に出ていたものです。
 こういう経緯を踏まえて、西村経済再生担当相が、共同通信の
記事を差し替えてまでやった次の発言は注目されます。「考えた
い」とはいっているものの、実際には、この1兆円を休業要請に
応じた事業者への協力金として使うことを決めています。
─────────────────────────────
 国が自治体向けに創設する1兆円の臨時交付金の使途について
休業要請に応じた事業者に支払う協力金のような活用ができるか
考えたい。             ──西村経済再生担当相
─────────────────────────────
 大多数の企業は、不可抗力がどうかは別として、緊急事態宣言
の発出に基づく政府からの休業要請にしたがい、従業員に対して
休業手当を支払っているはずです。もちろん、それができない企
業も多数あるはずです。
 しかし、このまま放置すれば、多数の企業が倒産し、大勢の労
働者が職を失います。もし、そういうことになれば、日本経済に
とって大きなダメージになります。したがって、ここは政府が動
いて、補償をし、最悪の事態を防ぐ必要があります。そのための
協力金として、別の目的の使用を考えていた臨時交付金の1兆円
を使うとしても、1兆円で足りるはずはないのです。その点、政
府はどのように考えているのでしょうか。
           ──[消費税は廃止できるか/075]

≪画像および関連情報≫
 ●<コロナ緊急事態>交付金で休業補償、対立自治体要求に
  国「不可」
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス対策として国が地方自治体に配る一兆
  円の地方創生臨時交付金の使い道を巡り、両者の間に溝がで
  きている。政府の緊急事態宣言の対象となっている7都府県
  のうち東京を除く6府県は、休業要請に応じた事業者への補
  償に充てたい意向。だが政府は「休業補償という形では使え
  ない」との立場を崩さない。対象の自治体には独自の支援策
  の中に臨時交付金を事実上取り込むところも出てきた。(山
  哲人)
   地方創生臨時交付金は、2020年度補正予算案に盛り込
  まれた。対象は全国の地方自治体で、西村康稔経済再生担当
  相は「できるだけ高い自由度を持って地域の中小企業を支え
  ていくことなどに使えるよう制度設計したい」としている。
   緊急事態宣言の対象となった7都府県では、15日までに
  事業者への休業要請が出そろう。47都道府県で唯一、交付
  税に頼らず財政運営できる「不交付団体」の東京都は、他の
  6府県に先駆け、要請に応じた中小事業者に最大百万円を支
  給する「感染拡大防止協力金」の創設を表明。要請の実効性
  を高めていく考えだ。一方で6府県は「休業補償に見合う協
  力金の財源力はない」(吉村洋文大阪府知事)のが実態。全
  国知事会長の飯泉嘉門徳島県知事は11日、西村氏とのテレ
  ビ会議で、「国の責任で営業補償に類する対応をお願いした
  い」と求めた。         https://bit.ly/3brBaCP
  ───────────────────────────

休業手当の支払い能力がなくなる「不可抗力」とは.jpg
休業手当の支払い能力がなくなる「不可抗力」とは
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月24日

●「新型コロナ対策/日本は正しいか」(EJ第5235号)

 毎日、テレビでは、新型コロナウイルス感染拡大のニュースば
かりです。日に日に感染者と死亡者数が増えて行きます。安倍政
権の対応も毅然とはしておらず、後手後手にまわっているように
見えます。このままでは、日本でも、いわゆる「オーバーシュー
ト」が起こり、米国のニューヨーク州やスペインのようになるの
ではないかと心配になります。
 しかし、厚労省のクラスター対策班の感染学者たちは、そう考
えていないようです。彼らは今回の新型コロナウイルス封じ込め
対策に独自の考え方をもっています。この厚労省クラスター対策
班の考え方については、3月30日付のEJ第5216号でも特
集しているので、参照していただきたいと思います。
─────────────────────────────
    ◎2020年3月30日/EJ第5216号
     「日本のウイルス封じ込めの考え方」
             https://bit.ly/352gfE0
─────────────────────────────
 日本における新型コロナウイルスの感染者数を見て行くと、日
に日に感染者数は増えていますが、見方によっては、欧米の国と
比べると、日本の場合、一定の歯止めがかかっているようにも見
えることは確かです。
 とくに東京都の感染者数の場合、外出自粛要請の効果が少しず
つ出始めるとみられる20日頃からの感染者数を見ていると、1
日の最高を記録した17日の201人以降、20日は102人、
21日は123人、本稿執筆当日の22日は132人と、やはり
感染者数は抑えられているように見えます。もちろん、休日明け
の週のはじめは、検査数自体が少ないため減ることを考慮したと
しても、それはいえると思います。伸びは鈍くなっています。
 もうひとつ重要なデータがあります。それは、日本における新
型コロナウイルスによる死者数の異常な低さです。これについて
は、次のデータをご覧ください。
─────────────────────────────
◎2020年4月19日現在
          感染者数    死亡者数 10万人当
   日本  1万1849人    276人  0・2人
 アメリカ 73万5287人 3万9090人 11・9人
 スペイン 19万8470人 2万0453人 43・4人
 イタリア 17万5925人 2万3227人 38・4人
  ドイツ 14万0998人   4370人  5・2人
 中国本土  8万2735人   4632人  6・3人
        「10万人当」=人口10万人当りの死者数
         ──2020年4月21発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 死亡者数の実数で見ても、日本の死者数の少なさは際立ってい
ます。人口10万人当りの死者数は実に「0・2人」と、米国、
スペイン、イタリアと2ケタ違います。どうして、これほど違う
のでしょうか。
 最近のワイドショーでは、ドイツや韓国を褒めたたえ、日本は
見習うべしという論調が多くなっています。韓国は、積極的にP
CR検査を行い、感染者数が急増しましたが、3月上旬から減り
始め、最近では、日本が増加するなか、韓国の感染者は1桁に迫
る水準になっています。
 ちなみに韓国では、米国やEU各国と異なり、都市封鎖を行っ
ていないし、日本のように、店舗に休業要請も行っていないので
す。したがって、ソウル市内は人出も多く、賑やかです。韓国は
日本と違って、ドライブスルー方式でのPCR検査を導入し、積
極的に検査を行い、1か月で隔離施設も1万人分を整備するなど
なかなか手際よく新型コロナウイルス対策を行っています。
 そして、「無症状」「軽症」「重症」でトリアージ(患者の重
症度を判断して治療の優先度を決める)し、「軽症」の感染者を
新設の「生活治療センター」に収容しているのです。
 そのため、文在寅大統領率いる与党「共に民主党」は、選挙で
圧勝しています。政府の新型コロナウイルス対策が国民から高く
評価されたからです。
 しかし、韓国の場合、さらに感染終息に大きな役割を果たした
と思われるのが「感染者の動向調査」です。これは、「生活治療
センター」に収容されていない「無症状」の感染者を追跡する調
査です。そのために、ソウル市西大門区に「統合官制センター」
を設置し、2500台の監視カメラを使い、感染者が現在どこに
いるかを追跡調査をしているのです。
 問題なのは、その一部データを市民にも公開し、市民はスマホ
のアプリで、実名こそ記載されていないものの感染者の立ち寄っ
た飲食店の具体的な名前や場所、日時などを細かく知ることがで
きます。例えば、感染者が訪れた場所が100メートル以内にあ
ると、次のようなメッセージが流れるのです。
─────────────────────────────
 感染者訪問地域から75メートルに接近。感染者が4月6日
 に訪れた地域です。
─────────────────────────────
 日本では、考えられないことです。「ここまでやるか」という
感じです。これでは中国と同じです。感染者といえども、韓国の
国民です。韓国政府は、PCR検査によって知り得た個人情報を
国民に公開しているのです。日本では絶対にできません。
 こういう一連の経緯を知ると、日本の新型コロナウイルスに対
する政府の対応が誤っていたのかというと、必ずしもそうとはい
えないのです。とくにこのウイルスによる致死率については韓国
には負けていません。ネット上には、「日本の致死率は韓国より
も高い」とのレポートもたくさん出ていますが、日本の致死率の
低さには、ちゃんとした理由があるのです。これについては、来
週のEJで明らかにしていきます。
           ──[消費税は廃止できるか/076]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナ対応の「優等生」は「台湾・韓国・ドイツ」
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス感染拡大への対応が他の国々と比べれ
  ばうまくいっていると評価されることが多い国・地域を3つ
  挙げるなら、台湾、韓国、ドイツだろう。それぞれの経緯に
  ついてまとめてみた。
  ◎台湾:台湾の人口は、約2360万人(2020年2月時
  点)だが、新型コロナウイルス感染者数は393人、死亡者
  数が6人にとどまっている(4月14日衛生福利部疾病管制
  署発表)。政府の巧妙な対処によってウイルスの封じ込めに
  成功している。4月14日と4月16日は新たな感染者が1
  人も確認されなかった。
   功労者の1人は16年にデジタル担当の政務委員(大臣)
  に起用された天才ホワイトハッカー、オードリー・タン(唐
  鳳)氏である。この人物は、マスクの在庫データを管理する
  アプリを活用し、どの店にどのくらい在庫があるのかを市民
  が常に把握できる状況をつくり上げた。
   これにより、買い占めなどの混乱を防ぐために政府がマス
  ク全量を買い上げて流通を管理する制度(2月6日導入)が
  円滑に運営されるようになった。筆者の知り合いの台湾人は
  タン氏の話をするときは本当に誇らしげである。
  ◎天才を起用する度量の大きさ:そして、そうした民間の天
  才を大臣として起用する度量を示しつつ、水際対策や入国者
  の隔離措置を徹底し、医療用マスクの計画的増産を主導した
  のが、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統である。
                  https://bit.ly/2XY3tEM
  ───────────────────────────

韓国の感染者追跡プログラム.jpg
韓国の感染者追跡プログラム

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月27日

●「東京には83万人の感染者がいる」(EJ第5236号)

 先週は、新型コロナウイルスの感染に関する複数の衝撃的デー
タが次々と発表されましたが、なかでも慶応義塾大学病院の次の
発表は衝撃的です。
─────────────────────────────
 慶応義塾大学病院(東京都新宿区)は4月23日までに、新型
コロナウイルス感染症以外の治療目的で来院した無症状の患者、
67人にPCR検査を行ったところ、4人(5・97%)が陽性
者だったと公表した。4月13日から4月19日に行った術前お
よび入院前PCR検査で明らかになったもの。同院は、「これら
は院外・市中で感染したものと考えられ、地域での感染の状況を
反映している可能性がある」とし、感染防止にむけて更なる対策
を講じていく必要があると指摘している。
                  https://bit.ly/35834S2 ─────────────────────────────
 サンプルは、慶応義塾大学病院に新型コロナウイルス感染症以
外の治療目的で来院した67人です。この67人全員にPCR検
査を実施したところ、4人が新型コロナ陽性と判明したのです。
約6%です。もし、これが市中感染率であるとすると、次の通り
となります。2020年1月1日現在、東京都の人口は、139
5万1636人です。
─────────────────────────────
  13951636人 × 0・06 = 837098人
─────────────────────────────
 これによると、東京都内には、約83万7000人以上の新型
コロナウイルスの感染者がいることになります。これが本当であ
れば、誰が罹患しても不思議はないのです。
 続いて、米ニューヨーク州で実施された新型コロナウイルスの
検査に関するニュースです。これは、PCR検査ではなく、少量
の血液から計る抗体検査です。
─────────────────────────────
 CNN/米ニューヨーク州のクオモ知事は、23日、住民3千
人を対象に実施した新型コロナウイルスの抗体検査の結果、これ
までに13.9%に陽性反応が出たと発表した。この結果は、新
型コロナウイルスの感染が、当初確認されたよりも、早くから広
がっていて、感染者の数も公式統計より多いことを改めて裏付け
ている。抗体検査は州内で新型コロナウイルスに感染して抗体を
もつ人がどれくらいいるかの実態を把握する目的で、外出したこ
とのある住民から無作為に抽出した大人3000人を対象に実施
した。その結果、抗体ができていたのは州全体では13.9%、
ニューヨーク市に限ると21%だった。ニューヨーク州の人口は
1950万人、ニューヨーク市の人口は840万人。つまり州全
体で約270万人、市では約180万人がウイルスを持っている
ことになる。これは公式統計の数倍に上る。
                  https://bit.ly/2VyKrmV ─────────────────────────────
 この結果について、米ジョンズ・ホプキンス大学の専門家、ア
メッシュ・アダルジャ氏は、この結果について、新型コロナウイ
ルスによる死亡率が、公式統計よりも低い可能性があることをう
かがわせると指摘し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 このウイルスは、我々が考えていたよりもはるかに広く拡散し
ている。我々にある程度の抗体ができているという意味で、一種
の安心感を抱かせる。     ──アメッシュ・アダルジャ氏
─────────────────────────────
 この米ジョンズ・ホプキンス大学のアメッシュ・アダルジャ氏
と同じ趣旨のことを、2018年にノーベル医学・生理学賞を受
賞した本庶佑氏(京都大学特別教授)も述べているのです。4月
23日のBSフジプライムニュースに自宅から出演し、おおよそ
次のように述べています。そのさい、BSフジのスタジオには、
日本医師会会長横倉義武氏と佐藤正久元防衛省政務官が出演して
いたのです。
─────────────────────────────
 我々は敵を知る必要がある。しかし、我が国のPCR検査は、
人口比で考えれば、韓国、ドイツ、シンガポールなどに比べて一
桁以上少ない。検査で陽性になった感染者を治療したり、一定期
間だけ隔離するなどしたりすれば、感染の状況を知るにはもっと
PCR検査をする必要がある。  ──本庶佑京都大学特別教授
─────────────────────────────
 本庶佑京都大学特別教授は、医師会とは近い関係にあり、医師
会が、国の「緊急事態宣言」の発令に先立って医療現場から「医
療危機的状況宣言」を行ったのも本庶佑氏(京都大学特別教授)
のアドバイスによるものです。本庶教授は、官邸や厚労省とはあ
まりうまくいっていないようです。とくに厚労省とは、新型コロ
ナウイルス対策に関する考え方がぜんぜん違うからです。
 横倉義武医師会会長は、医療危機的状況宣言を行うさい、次の
ように発言しています。本庶佑教授も同じ考え方です。
─────────────────────────────
 世界では、ヨーロッパ諸国を始めとして爆発的な感染拡大が起
きているのに対し、世界で最も高齢化が進んでいるにもかかわら
ず、日本の人口に占める死亡率は、低く抑えられているドイツよ
りもなお低い。感染者数については議論があるものの、重症の肺
炎患者を診るさい、医師は新型コロナウイルス感染症に留意して
診察を行っており、死亡者数については正確な値に近い。
      ──横倉義武医師会会長 https://bit.ly/2VV8lbo ─────────────────────────────
 実は、日本の新型コロナウイルスの死亡率の低さは、日本が最
も世界に対して誇りに思っていいことですが、なぜか、政府も厚
労省も、当のほとんどの日本人も、なぜか、このことはあまり口
にしない。どうしてなのでしょうか。とても不思議な話であると
思います。      ──[消費税は廃止できるか/077]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナの死亡率が低い日本人 すでに免疫持っている
  との仮説
  ───────────────────────────
   3月末時点で人口10万人あたりの日本の死者数は、実に
  0・04人。一方でイタリアは同17・79人、スペインは
  同15・64人と大きな差がある。医療ジャーナリストの鳥
  集徹(とりだまり・とおる)さんが説明する。
   「原因については諸外国も関心を持っていますが、現状で
  は日本はウイルス感染の有無を調べるPCR検査数が絞られ
  ているため、感染数や死亡数が過小評価されているとの指摘
  がある。あまり他人と直接的に接触しない、大声でしゃべら
  ないといった行動様式や、マスクや手洗いなどの習慣が日本
  における感染拡大を防いでいる可能性も考えられます」
   また、日本におけるBCG接種率の高さが重症化を抑えて
  いる可能性を指摘する声もある。さらに注目されるのが「日
  本人は新型コロナの免疫を持っている」という新たな仮説で
  ある。新型コロナにはS型と感染力の強いL型があり、京都
  大学大学院医学研究科・医学部特定教授の上久保靖彦さんら
  は論文で「S型がL型よりも早く中国から伝播し、部分的な
  抵抗力を与えた」と発表した。「昨年末まで日本はインフル
  エンザが史上最高ペースで流行していましたが、今年になっ
  てから急速に流行がストップしました。その理由を、論文で
  は昨年末から日本にS型が流入して、インフルエンザ感染を
  阻害している可能性を示唆しました。
                  https://bit.ly/2VANlYj
  ───────────────────────────

honshoyuukyoutodaigakutokubetukyouju.jpg
本庶佑京都大学特別教授

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月28日

●「日本の新型コロナ致死率は『3』」(EJ第5237号)

 私は「夕刊フジ」電子版を契約し、日曜日をのぞく毎日、PC
やスマホで読んでいます。電子版の契約は、日本経済新聞、朝日
新聞ともしているので、どこにいても最新の情報が手に入るよう
になっています。
 「夕刊フジ」では、金曜日の「大前研一のニュース時評」を必
ず読んでいます。4月24日の同コーナーで、大前研一氏はコロ
ナ禍について、次のように書いています。
─────────────────────────────
 厚生労働省のクラスター(感染集団)対策班の専門家が、「外
出自粛などの対策を全く取らなかった場合、重篤な患者が国内で
85万人になり、このうち、約半数の40万人程度が死亡する恐
れがある」と言っている。これは最悪の事態を想定したものだ。
 安倍首相もこうした専門家の試算を元に「人と人との接触を最
低7割、極力8割減らすこと」を目標に揚げた。しかし、この根
拠もよくわからない。ほかの国に比べて、なぜ、日本の死亡者が
少ないのか。そういうことについて、専門家といわれる人たちは
まったく説明していない。
 専門家の人は「どうなるのか?」と問われたとき、せめて「わ
かりません」と言ってほしい。「だから、これまでわかっている
予防策をとってください」と言ってほしい。イタリアなどの事例
を見て「40万人逝ってしまいますよ」というような大ざっぱな
言い方は少しお粗末ではないか。       ──大前研一氏
           2020年4年24日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 確かに、政府にしろ自治体にせよ、いうことがあまりにも一方
的で、威嚇的であると思います。「何もしないと、40万人程度
が死亡する」とは、厚労省サイドがいうべき警告としては、強過
ぎないでしょうか。「3密」をやらないと、こうなるんだよと威
嚇しているように聞えます。しかも、大前研一氏のいうように、
結論だけをいい、具体的な根拠を示していないのです。
 当初「3密という3つの『密』の重なる場所を避ける」といっ
ていたはずです。これはクラスター感染を避けるためです。した
がって、国民としては、3密(密集、密閉、密接)を避ければよ
いと考えて、3密の重なるライブハウスやナイトクラブに行くこ
とをやめて、外に出たり、散歩をしたり、海に出掛けたのです。
大部分の国民は、指示にしたがっています。罰則のない単なる要
請であるにも関わらず、国民がそれに従うのを見て、世界が驚愕
しています。
 しかし、国の新型コロナウイルス対策として、感染のフェーズ
が、クラスター感染を追う段階ではなくなったので、3密に加え
て、今度は「人に会うな。会って話すな。ソーシャルディスタン
スを取れ」というように変わったのです。しかし、そのフェーズ
の変化をきちんと国民に説明しているとはいえないと思います。
 大前研一氏は、「ほかの国に比べて、なぜ、日本の死亡者が少
ないのか。そういうことについて、専門家といわれる人たちは、
まったく説明していない」といっています。それにしても、専門
家は、どうしてその理由を説明しないのでしょうか。
 2020年4月26日現在の新型コロナウイルス関連の数字を
以下に示します。これは本稿執筆時点の最新データです。
─────────────────────────────
    ◎PCR検査陽性者 ・・・ 1万3225人
    ◎死亡者 ・・・・・・・・    360人
─────────────────────────────
 この場合、新型コロナウイルス感染者の致死率は、どのように
計算するのでしょうか。単純に、PCR検査の陽性者中の致死率
なら2・72%になります。しかし、PCR検査を積極的に実施
している国と、日本のように相当PCR検査を絞り込んでいる国
とでは比較できません。分母の数によって、その致死率は大きく
変わってくるからです。
 そこで、感染症の死亡率を出す場合、人口10万人当りとか、
人口100万人当りの死亡者で比較するのです。2020年4月
26日、午後4時(本稿執筆時点)で、関連国の100万人当り
の新型コロナウイルスの死亡者数は次のようになっています。
─────────────────────────────
  スペイン ・・・ 490  ドイツ ・・・  70
  イタリー ・・・ 436  イラン ・・・  67
  フランス ・・・ 346   韓国 ・・・   7
  イギリス ・・・ 299   中国 ・・・   3
  アメリカ ・・・ 164   日本 ・・・   3
                  https://bit.ly/3aKlZ6F ─────────────────────────────
 このサイトは、「WORLD0METER」 といって、世界各国のアクセ
ス時点の最新のコロナ関連の詳細な数値を知ることができます。
サイトを開いて、次の項目をチェックしてみてください。
─────────────────────────────
       ◎COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC
        ・Report coronavirus cases
         「Deaths/1M pop」 https://bit.ly/2VEB8BO ─────────────────────────────
 これによると、日本の新型コロナウイルスによる2020年4
月26日、午後4時現在の人口100万人当りの致死率は、中国
とともに「3」であり、非常に低い数字になっています。
 中国の数字については、いろいろ疑義があるものの、日本の致
死率は、新型コロナウイルスを既に封じ込めたとする韓国と比べ
ても低くなっています。
 ちなみに日本の場合、肺炎での死者のうち、間質性肺炎の死者
については、PCR検査をしているそうです。なぜなら、新型コ
ロナウイルスによる肺炎は間質性肺炎になるからです。データの
信頼性を高めるためにもこれは徹底しているそうです。
           ──[消費税は廃止できるか/078]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナ緊急事態宣言、日本に本当に足りないのはマスク
  より国民のコンセンサスだ/国際ジャーナリスト/高橋浩祐
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスがまるで不眠不休のごとく、地球上で
  感染拡大を続けている。日本でも過去一週間で感染者数が倍
  増し、ついに政府が「緊急事態宣言」を発令する事態になっ
  た。その緊急事態宣言をめぐっては、発令のタイミングや営
  業自粛要請の是非、さらには休業補償の対象範囲について、
  国全体が百家争鳴の様相を呈している。
   日本政府のあらゆる対応をめぐって、国会でもネット上で
  も賛否両論が吹き荒れるなか、危機になって初めてこの国に
  本当に足りないと分かったのは国民のコンセンサス(合意)
  だった。国難克服のための国民的総意が築き上げられていな
  い。21世紀に入ってからも、SARS(重症急性呼吸器症
  候群)やMERS(中東呼吸器症候群)、新型インフルエン
  ザが東アジアで猛威を振るってきたなか、日本はあまりにも
  議論するのが遅すぎた。これまで十分に議論せずに国民のコ
  ンセンサスも得られていないことから、感染対策にしろ、国
  民の移動制限にしろ、営業自粛要請にしろ、休業補償にしろ
  あたふたしているように見えてしまう。マスクや人工呼吸器
  の不足は現在、多くの国々で起きている。それらは生産を拡
  大したり、備蓄を増やしたりすればいずれ解決できる。ある
  いは、台湾のような医療用マスクの無償提供を差し伸べる国
  にも頼ったりすることができる。 https://bit.ly/2yGfB2W
  ───────────────────────────

「密です」の小池東京都知事.jpg
「密です」の小池東京都知事
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月30日

●「日本のCT普及率が死者を減少化」(EJ第5238号)

 現在、EJが追及しているテーマを「週刊現代」/5月2〜9
日号が取り上げたので、早速買って読んでみました。まず、その
ことについて述べることにします。
 結論から先にいうと、「わからない」という結論のようです。
要するに、新型コロナウイルスによる日本の致死率の低さについ
て、うまく説明する専門家がいないようです。大前研一氏が、新
型コロナウイルスの対策に取り組む専門家に対して、わからない
ことは正直に「わからない」といって欲しいと訴えていますが、
そういう専門家が少ないようです。
 「週刊現代」では、日本人の致死率の低さについて、9つの仮
説を上げて説明していますが、ズバリ、これが致死率の低い原因
であるという結論を見送っています。「週刊現代」の9つの仮説
を以下に示しておきます。
─────────────────────────────
 【仮説@】クラスター対策が成功したから
 【仮説A】これからどんどん死ぬから
 【仮説B】隠れコロナ死が多いから
 【仮説C】ウイルスが変異したから
 【仮説D】BCGの予防接種を受けているから
 【仮説E】実は多くの日本人がすでに抗体を持っているから
 【仮説F】日本人の衛生意識が高いから
 【仮説G】日本人の生活習慣
 【仮説H】日本語の特性
             ──『週刊現代』/5月2〜9日号
─────────────────────────────
 この9つの仮説のなかの新説といえるものは、仮説Hの「日本
語の特性」ではないかと思います。「人に会うな」というのは、
会話で飛ぶ飛沫によって感染することを防ぐ対策ですが、日本語
の発声は欧米諸国の人が使う言語より、唾が飛びにくい特性があ
るというのです。
 発声学が専門の京都府立医科大学特認教授の藤田佳信氏は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 日本語はほとんど口を動かさずに話せる言語です。一方、アメ
リカ英語では、発音に強弱をつけます。「The」や「Hot」など、
初めの子音が強く、母音を長く伸ばして息を出したり、腹から息
を出すこともあります。呼気をたくさん使う言葉が多いため、唾
が多く飛散しますし、同時に息をたくさん吸い込むことになりま
す。       ──京都府立医科大学特認教授の藤田佳信氏
             ──『週刊現代』/5月2〜9日号
─────────────────────────────
 とても面白い意見であるとは思いますが、日本の致死率の低さ
がこのようなもので説明できるはずがありません。しかし、EJ
のネットでの調査では、それらしき説得力のある原因を把握して
います。それは、「週刊現代」の9つの仮説にない原因で、テレ
ビのワイドショーなどでもこれまで指摘されていないものです。
ネットはその調べ方で、非常に貴重な情報が見つかるものです。
 今回は、そのひとつをご紹介します。EJでは、要約しかでき
ないので、関心があれば、詳細はその論文の方を読んでいただき
たいと思います。
─────────────────────────────
 ◎五本木クリニック/院長ブログ
  「日本はPCR検査を積極的に行わないので、新型肺炎の致
  死率が高い」は大間違い。    https://bit.ly/2zGIM6r
─────────────────────────────
 今や日本では、PCR検査を絞ったことが感染拡大の失敗であ
るという声が強くなりつつありますが、この「院長ブログ」では
それを否定する論調になっています。
 この院長ブログの後半で指摘されていることは、日本の医療機
器が世界と比較して突出しているという指摘です。その一つに、
「CT」があります。CTという医療機器はあまりにも有名にな
りましたが、その意味を示しておきます。
─────────────────────────────
         CT= Computed Tomography
            コンピュータ断層撮影法
─────────────────────────────
 添付ファイルに、「100万人当りのCT数」のグラフを付け
ていますが、日本のCTの保有数は、他国に比して、ダントツで
トップです。1位の日本に対して、2位オーストラリア、3位ア
メリカ、4位アイスランド、5位韓国と続きますが、日本の保有
数はまさにダントツです。私が勤務していた大手生保会社の医務
室でもCTは装備されており、いつでもCTを撮ることができま
した。企業レベルでも日本では保有するようになってきます。
 新型コロナウイルスに罹患して恐いのは肺炎です。日本の場合
PCR検査は簡単には受けられませんが、CTであれば、ほとん
どの病院で撮影できます。今やCTを撮影することは、日本では
ごく当たり前のことになっているからです。これについて、院長
ブログでは、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本では1万人につき1台のCTが普及しています。先進国と
考えて差し支えのないG7では4万人につきCTは1台。世界中
を震撼させている新型肺炎の診断にはCTが非常に有用であるこ
とは、中国の研究者も認めています。 https://bit.ly/2zGIM6r ─────────────────────────────
 なぜ、この事実を誰も指摘しないのでしょうか。日本では、P
CR検査が受けられない患者が、早い段階でCT検査を行い、肺
炎が進行し、深刻化しないように治療されていたことが死者数を
減らしていたのではないでしょうか。CT検査があまりにも当た
り前になっているので、誰も気が付かないのではないかと思いま
す。         ──[消費税は廃止できるか/079]

≪画像および関連情報≫
 ●CT普及率、日本の高さ突出/日本経済新聞/2014
  ───────────────────────────
   人間の体の内部を診る「コンピューター断層撮影装置(C
  T)」や磁気共鳴画像装置(MRI)は1台数千万円から数
  億円と高価だ。経済協力開発機構(OECD)が毎年発表し
  ている「OECDヘルススタティスティクス2014」によ
  ると、日本はCTやMRIの普及率が突出して高い。11年
  時点の人口100万人当たりの設置台数は、日本は、CTが
  101台、MRIが47台ある。いずれも、OECD加盟国
  のうち調査できた30カ国の平均の4倍近い。2番目に多い
  米国の13年時点を大きく上回る。人間ドックでCTやMR
  Iを使う検査が定着し、病気の精密検査で保険が適用される
  ことが導入を後押ししている。メーカー間の販売競争が激し
  いことも大きい。     https://s.nikkei.com/2VMvE8k
  ───────────────────────────

100manninatarinoCTsuu.jpg
100万人あたりのCT数

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。