2020年03月13日

●「MMTは赤字フクロウ派に属する」(EJ第5206号)

 井上智洋駒澤大学准教授によると、MMTの支持者は、世界的
には左派の人が多いそうですが、日本の場合は、左派の支持者は
少なく、どちらかというと、右派の支持者が多いそうです。なぜ
左派の支持者が少ないかというと、国家が強権的に国民に納税義
務を課すことによって、マネー、すなわち貨幣が流通するという
租税貨幣論の考え方に、国家の暴力性が感じ取れるという点にあ
るようです。
 左派を自任する経済学者の松尾匡立命館大学教授は、これにつ
いて次のように述べています。
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 MMTは、政府が出す通貨も債務とみなす。政府が公衆に対し
て持つ徴税債権を相殺・消滅させるものという意味で、政府の公
衆に対する債務だと言うのである。この論理が成り立つには、国
民は皆もともと納税債務を国家に負っているという前提がなけれ
ばならない。これは私にはなかなか心情的に受け入れがたい前提
である。             ──松尾匡立命館大学教授
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
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 このところ、MMTについて、「貨幣も国債も統合政府の債務
証書であり、国民に対する債務である」ということについて論じ
ていますが、きわめてわかりにくい話になっています。国債が政
府の国民に対する借金ということはよく理解できるとしても、貨
幣も同じであるというのは、理解しにくいと思います。ちなみに
「統合政府」とは、政府と中央銀行を一緒にした表現です。
 これについては、国家と国民の間の「貸し借り」関係というも
のが、その前提としてあります。藤井聡京都大学大学院教授は、
これについて、次のように解説しています。
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 そもそも国家は国民に対して、あらゆる安全を保証してやり、
インフラや基礎教育を提供してやり、衛生や治安や芸術や文化を
提供してやっている。つまり、地政学的、防災的、社会秩序的、
経済的、文化的なあらゆる意味で、「国家は国民を守っている・
庇護している」わけであり、だから国民が国民でい続ける限り、
国家に対して巨大な「借り」、あるいは巨大な「負債」「恩」が
ある状況にある。したがって、国民は、国民として生き続ける限
り、国家に対してその借り=負債=恩を、返し続けなければなら
ない。                ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
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 具体的に考えてみます。あるとき、統合政府は100兆円のお
金を創出し、それを使ったとします。スペンディング・ファース
トです。その一方で、ほぼ時を同じくして、60兆円の税収を得
たとすると、国民の手元には40兆円のお金、貨幣が残ります。
 ここで大事なことは、納税して国家に返済するということは、
そのお金が市場から消滅することを意味します。上のケースでい
うと、税金として納められた60兆円は市場から消滅してしまう
ことになります。
 現在、日本政府は、増税して国債の発行に頼らずに、その年の
国民生活に必要な支出がまかなえるようにするプライマリー・バ
ランスを目指しています。財政均衡主義です。民間という立場か
ら見ると、それは当然のことですし、そうすべきです。しかし、
国家という立場に立つと、それでは世のなかに流通するお金を消
滅させ、国を貧乏にする政策ということになるのです。
 さて、国民の手元に残った40兆円について、藤井聡京都大学
大学院教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この40兆円の貨幣は、確かに、国民の国家に対する「貸し」
であり、国家の国民に対する「借り」(負債)だ。しかし、その
40兆円の貨幣には、どこにも返済期日など書かれていない。仮
にそれらが現金通貨だと考えたとすれば、その一枚一枚は確かに
国家の負債であったとしても、いつまでに政府は、その負債を解
消しなければならないとは書いていないのだ。ここが、一般的な
「借金」という概念と全く違う点なのだ。(中略)
 つまりそれは、いわゆる「借金」とは到底言えない代物なので
ある。では、それが「借金」でないとするなら、一体何と呼べば
よいのかと言えば──それこそ「貨幣」なのである!その40兆
円の政府の負債は「40兆円の貨幣」「40兆円のオカネ」と呼
ぶ他にない代物なのである!──藤井聡著/晶文社の前掲書より
─────────────────────────────
 アバ・ラーナーというロシアの経済学者がいます。ケンブリッ
ジ大学でケインズに会って、ケインズ主義者になった人です。彼
は、政府が財政出動をするときは、雇用や物価の安定のため、ど
のくらい支出すべきかを考えるべきであって、そのさい、財政が
健全かどうかを考慮する必要は何もないと主張する「機能的財政
論」を展開した人です。
 ステファニー・ケルトン教授は、財政政策のスタンスを次の3
つに分類しています。
─────────────────────────────
      @赤字タカ派=短期的均衡財政主義
      A赤字ハト派=長期的均衡財政主義
      B赤字フクロウ派=反均衡財政主義
                ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 これについては改めて述べますが、日本の財務省は、基本的に
は「赤字タカ派」ですが、実際には「赤字ハト派」にならざるを
得ない状況になっています。主流経済学者のほとんどは@かAの
立場です。これに対してMMTは、Bの「赤字フクロウ派」の立
場をとります。ケルトン教授自身はBの立場を表明しています。
           ──[消費税は廃止できるか/047]

≪画像および関連情報≫
 ●私が意義を見いだす理由/MMTは新次元の政策・均衡財政
  主義の再考を=岡本英男氏
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   福祉国家とその財政を研究テーマとしている筆者が、MM
  Tの理論を本格的に研究し始めたのは2008年のリーマン
  ・ショック後である。福祉国家実現には、完全雇用こそが、
  もっとも有効な手段である。第一次・第二次世界大戦の元凶
  も、職がないことへの庶民の不満の高まりであった。職のな
  い者を給付や税控除で救済するのも一手段ではある。しかし
  国家による雇用保障は、国民に「自分が社会で必要とされて
  いる」という自尊心を醸成もできる。
   1940年代から、主権国家は雇用を保障する制度整備に
  努めた。しかし、80年代に、米国レーガン政権、英国サッ
  チャー政権が緊縮財政や国営企業の民営化など新自由主義的
  な政策を採った。日本でも中曽根政権が国鉄などの民営化を
  進めた。一連の流れは、雇用の拡大政策を民間投資刺激型に
  転換することであった。この結果、問われるのは、政府の雇
  用保障政策ではなく、個々人が雇用される能力を持つかどう
  かになった。
   米バードカレッジのランダル・レイ教授が彼の理論支柱と
  なる『Understanding Modern Money』を世に問うた98年と
  いう時代は、民間投資刺激型の雇用拡大策が機能しないこと
  が徐々に明らかになりつつあるころだった。
                  https://bit.ly/2vYepXz
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講演するケルトン教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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