2020年03月02日

●「ウォーレン・モスラーによる物語」(EJ第5197号)

 MMT(現代貨幣理論)の主唱者の一人である、ニューヨーク
州立大のステファニー・ケルトン教授が来日し、2019年7月
16日、都内で講演を行っています。その講演会の冒頭において
ケルトン教授は「ある物語」を語っています。MMTを理解する
前提の話なので、これについて、『週刊現代』記者である小川匡
則氏の次のレポートに基づいて、要約してご紹介します。詳細に
ついては、小川匡則氏のレポートを読んでください。
─────────────────────────────
 MMT(現代貨幣理論)が日本経済を「大復活」させるかも
 しれない。         ──週刊現代記者/小川匡則
                 https://bit.ly/2wft54c
─────────────────────────────
 なお、ケルトン教授は、最初に「この物語は、ウォーレン・モ
スラーから聞いた話である」と断っています。ウォーレン・モス
ラーとは何者でしょうか。
 ウォーレン・モスラーは、金融の実務家です。ファンドマネー
ジャーをやっており、MMTをリードする理論家の一人です。モ
スラーについては、改めて取り上げます。
─────────────────────────────
 ウォーレンには2人の子供がいました。ウォーレンは子供たち
に対して家事を手伝うよう求め、その家事の内容に応じて、自分
の名刺を渡すことを告げたのです。皿洗いなら3枚、芝刈りをし
たら20枚というようにです。
 しかし、子供たちは全然家事を手伝おうとはしませんでした。
ウォーレンがその理由を子供たちに聞くと、「パパの名刺なんか
もらっても意味がない」といったのです。そこで、ウォーレンは
一計を案じ、「この美しい庭園のある家にこれからも住み続けた
いのであれば、月末に30枚の名刺を提出しなさい」と子供たち
に宣言したのです。
 そうしたら、急に子供たちは積極的に家事を手伝い、必死に名
刺を集めるようになったのです。──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
 「月末に30枚の名刺を出せ」と、子供たちに名刺での支払い
を義務化すると、突然名刺が価値を持つようになったのです。子
供たちは、名刺を集めて父親に支払わないと、家を追い出されて
しまうことを知ったからです。そして、ケルトン教授は、次のよ
うに物語を続けます。
─────────────────────────────
 子供たちが家事を手伝い始めたのは、名刺を集めないと自分た
ちが生きていけないことを認識したからです。そこでウォーレン
は気づきました。「近代的な貨幣制度ってこういうことなんだ」
と。つまり、もし彼が子供に国家における税金と同じものを強要
できるのであれば、この何の価値もない名刺に価値をもたらすこ
とができる。そうすると、彼らはその名刺を稼ごうと努力するよ
うになる、と。
 もちろん、ウォーレンは名刺を好きなだけ印刷することができ
る。しかし、子供たちに来月も手伝わせるために、名刺を回収す
ること(=提出を義務づけること)が必要だったのです。
               ──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
 ここで「名刺」とは貨幣であり、その「一定の数の名刺の提出
を義務づけること」は「税金の徴収」に当ります。そして、その
税金の徴収によって貨幣に価値を生じさせ、信用を担保すること
になるのです。そして、この物語から得られる教訓として、ケル
トン教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ウォーレンは名刺を回収する(課税する)前に、まず名刺(お
金)を使わなくてはならない。つまり、課税の前に支出が先にこ
なくてはならないのです。
 そのことを政府に置き換えると、次のようになります。政府は
税収のために税を課し、それで財政支出をするのではなく、政府
が支出することが先です。その支出されるお金を発行できるのが
政府です。政府は好きなだけお金を発行でき、財政的に縛られる
ことはありません。もちろん、無制限にお金を発行してもいいと
いうわけではなく、その制約となるのは「インフレ」です。
               ──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
 ここでケルトン教授は、非常にわかりにくいことをいっていま
す。政府支出をする財源は、税収ではなく、国債の発行で得られ
た資金であるという点です。そして、国民が税金を支払うのは、
「納税の義務がある」からであり、「インフレの調整機能を果す
ため」であるといいます。
 常識的には政府支出は税収によって行われ、本来できる限り税
収の範囲内で行われるべきものだが、それが不可能であるときは
手続きを踏んで赤字国債を発行し、それで政府支出を賄うことに
なります。日本の場合、これが長く続いているので、財政赤字が
拡大し、そのGDP対比が200%を超えてしまったわけです。
 ところが、ケルトン教授がいうのは、財政赤字を何ら気にする
ことなく、政府支出は国債の発行によって政府支出を行うべきで
あるとしています。もちろん無制限にそれができるわけではなく
歯止めになるのはインフレであるというのです。ケルトン教授は
次のように力説しています。
─────────────────────────────
 政府にとって財政が制約になるわけではない。何が制約になる
かというと「インフレ」です。インフレは最も注目すべきリスク
です。貨幣量は使えるリソースによって供給量が決まります。も
し、支出が需要を上回ればインフレになる。それはまさに気にす
るべき正当な制約なのです。  ──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/038]

≪画像および関連情報≫
 ●MMT提唱の米教授講演 「消費増税 適切でない」「財政
  赤字脅威ではない」/ステファニー・ケルトン教授
  ───────────────────────────
   自国通貨建てで借金する国は赤字が増えても破綻しないと
  主張する「MMT(現代貨幣理論)」の代表的な論者の一人
  であるニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が
  2019年7月16日、国会内で講演し、「政府の財政赤字
  は悪でも脅威でもない」と話した。(生島章弘)
   ケルトン氏は民間団体の招きで来日した。MMTの考え方
  では、自国通貨を持つ国では政府は紙幣をいくらでも刷るこ
  とができるため、財政破綻しないとされる。主流派の経済学
  者らからは異端視されている。ケルトン氏は国債発行によっ
  て生じる政府の財政赤字に関して「公的債務の大きさに惑わ
  されるべきではない。(社会保障や公共事業などで)財政支
  出を増やすことで雇用や所得は上昇する」と強調した。
   ただ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」については、
  「あまりにも中央銀行に依存することは支持しない。民間に
  お金を借りる意欲がなければ金利引き下げは役に立たない」
  と述べ、金融政策より財政政策の比重を高めるべきだという
  考えを示した。また、日本政府が10月に予定する消費税率
  10%への引き上げについても「適切な政策ではない」と批
  判した。ケルトン氏は講演後の記者会見でも消費税増税に否
  定的な見解を重ねて表明。その上で「家計の支出こそ、経済
  のけん引力として最も重要だ」として、個人の所得を高める
  財政政策の重要性を訴えた。   https://bit.ly/2uDwgSU
  ───────────────────────────

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ステファニー・ケルトン教授

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2020年03月03日

●「ケルトン教授/財政均衡論を否定」(EJ第5198号)

 2019年7月16日のステファニー・ケルトン教授の講演の
続きです。引き続き、『週刊現代』記者である、小川匡則氏のレ
ポートに基づいて、要約してご紹介します。
 ケルトン教授は、「インフレをどうやって防ぐか」というのは
同時に「デフレをどう防ぐか」を考えることでもある、といいま
す。つまり、経済とは、「インフレもデフレも過度にならない、
ちょうどいい状態を維持させるための調整を行うことである──
それがMMTの柱であるといいます。
 ここで、ケルトン教授は、2つの洗面台の図を示して、講演を
続けます。その図を添付ファイルにしてあります。上のシンクを
見てください。
─────────────────────────────
 シンクに水が溢れているのは、インフレの状態です。税金は、
その水を減らすためのものなのです。税金の目的は所得を誰かか
ら奪うことです。なぜ、支出能力を減らすのか。それはインフレ
を規制したいからです。つまり、徴税というのは政府支出の財源
を見つけるためではなく、経済から支出能力を取り除くためのも
のです。           ──小川匡則氏のレポート要旨
                  https://bit.ly/3ciIX6D ─────────────────────────────
 また、ケルトン教授は、インフレを抑制する手段として「規制
緩和」も上げています。かつて石油ショックで石油価格が暴騰し
たとき、規制を緩和して天然ガスも使えるようにしてインフレを
防いだことがあるからです。政府は、インフレが過度になりそう
なときは、増税や規制緩和などの政策を駆使して抑えるべきであ
るというのです。
 続いて下のシンクを見てください。下のシンクは水が少なく、
景気が悪い状態をあらわしており、まさに今の日本であるとケル
トン教授はいいます。問題は、どのようにして水を貯めるかが問
われています。それは、政府が国債を発行して、政府支出を増や
し、水をたくさん出し、それに加えて減税をすることによって、
出て行く水を減らし、水を貯めるのです。現在の日本にはそれが
求められています。
 しかし、現在の日本は、景気の良くないデフレ下にあるのに、
短い間に消費税の税率を2回も引き上げ、「プライマリー・バラ
ンス黒字化」と「財政均衡」と「財政再建」をやろうとして、真
逆の政策を取っています。ケルトン教授は、「現在インフレの問
題を抱えていない日本のような国が、消費増税をするということ
は経済的な意味をなしていない。それによって予算の財源を得よ
うとしても適切な政策目的になり得ない」といい、次のように主
張しています。
─────────────────────────────
 経済のバランスをとることです。予算を均衡することではなく
支出と税金を調整することによって、「シンクの水が完全雇用に
なっても溢れ出ない」、「インフレをきたさない」という状況に
コントロールすることです。MMTは、特定の予算支出を目標と
することはないし、政府赤字を何%にするといった目標設定もし
ない。適切な政策目標は「健全な経済を維持する」ということで
す。あくまで経済のバランスをとることが重要です。つまり、予
算の均衡ではなく、経済の均衡です。
               ──小川匡則氏のレポート要旨
                  https://bit.ly/3cloUnY ─────────────────────────────
 ケルトン教授の主張は、日本の財務省の財政に対する考え方と
は完全に真逆です。経済学の主流を自任する経済学者もこぞって
反対しています。なぜなら、もし、この考え方を認めると、自ら
の学説が壊れてしまうからです。
 MMTに対する反論は、掃いて捨てるほどたくさんありますが
「いかがわしい」とか、「そんなうまい話があるわけはない」と
かいう、非論理的なものばかりです。
 このレポートの最後で、レポートの制作者である小川匡則氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 MMTの話題になると、必ず「ハイパーインフレになるリスク
がある」といったステレオタイプな批判が出るが、むしろそのイ
ンフレ率の調整にこそ注力するのがMMTなのである。だからこ
そ、いま日本人が考えるべきは、経済状況や社会状況を踏まえた
上で「インフレの要因」を分析することだろう。
 例えば、国債を財源として教育無償化を実現するとしよう。そ
れで果たしてインフレ要因になるだろうか。タダで教育を受けら
れ、教員をはじめとしてそこで働く人たちに仕事を与えることが
できる。それでいて何かの価格高騰を招くのだろうか。
 一方、公共工事を一気に極端に増やした場合には人手不足、資
材不足などで工事費が大幅に上がり、一時的にインフレ圧力を招
くかもしれない。では、どの程度の投資であれば適切なインフレ
率に収まるのか。大切なことはそうした分析をして、適切な政府
支出額を決めていくことである。       ──小川匡則氏
                  https://bit.ly/3abP7nl ─────────────────────────────
 このMMTについて、麻生財務大臣は次のように、反論になら
ない反論をしています。この人はビットコインのときもそうでし
たが、新しい発想や概念に対して、いつもトンチンカンなコメン
トをして失笑を買っています。
─────────────────────────────
 MMTなんてナンセンス。日本はMMTの実験場になる気は
 さらさらない。           ──麻生太郎財務相
─────────────────────────────
 それにしてもこのようなレベルの人が財務大臣を何年やってい
るのでしょうか。これでは、日本は貧しくなるばかりです。
           ──[消費税は廃止できるか/039]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTに強い違和感を感じざるをえない2つの理由
               ──エコノミスト/村上尚己氏
  ───────────────────────────
   アメリカで経済論争を巻き起こしているMMT(現代貨幣
  理論)の提唱者の1人、ステファニー・ケルトン教授(NY
  州立大学教授)が来日した。MMTは「異端の経済理論」と
  紹介されるとともに、これについてさまざまな見解が伝えら
  れている。筆者は、東京都内で行われたケルトン教授の講演
  会に参加する機会に恵まれたので、今回のコラムではこれを
  紹介したい。
   MMTの理論は幅広い分野に及んでいるため、筆者は、M
  MTについて全てを十分理解しているわけでない。ただ投資
  家の視点からは、ある程度理解を深めることができたと考え
  ている。まず、MMTが異端の経済理論とされる特徴の一つ
  は、財政赤字や公的債務の規模にとらわれずに、財政赤字を
  大きく増やすことが可能、と主張する点である。
                  https://bit.ly/388h6my
  ───────────────────────────

ケルトン教授提示のイラスト.jpg
ケルトン教授提示のイラスト
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2020年03月04日

●「政府と個人は分離して考えること」(EJ第5199号)

MMTを考えるとき、既に述べてきていることですが、次の2
つを分けて考える必要があります。
─────────────────────────────
 1.「国」と「政府」は分けて考えること。国という場合は、
   政府の他に「民間(企業と個人)」が入る。
 2.「政府」と「個人」は分けて考えること。個人の世界での
   常識は政府の世界では必ずしも通用しない。
─────────────────────────────
 「1」に関しては、ここまでのEJの記述では、峻別してきて
います。財務省は、1100兆円を超える借金を「日本の借金」
と表現し、国民一人当たり876万円の借金になるとその大きさ
を国民にアッピールしています。増税をやり易い環境を作るため
の財務省のプロパガンダです。
 これは正しくないのです。1100兆円を超える借金は、国で
はなく政府の借金です。政府の借金を例えるのであれば、個人で
はなく、企業のはずです。政府と企業は個人よりも似ていること
が多いからです。しかし、財務省は、巧みに政府の借金を企業で
はなく、個人にすり替えています。
 「2」に関してはMMTを正しく捉えるために必要になる考え
方です。個人の世界の常識や慣習は、必ずしも政府レベルでは通
用しないことが多いからです。具体的には、政府が借金をするこ
とは、個人が借金をすることとは違うということです。
 個人の世界では、借金はなるべくしない方がいいし、返済能力
レベルを超える借金はすべきではありません。必要に迫られて借
金をした場合は、返済計画に基づいて、なるべく早く返済するの
は世間の常識です。
 しかし、政府の借金については、いわゆる世間の常識になって
いる借金に対する常識や慣行は通用せず、政府と個人はあくまで
分けて考えるべきです。とくにMMTを正しく理解するためには
そうすべきです。
 政府の借金は国債を発行することで行われますが、日本の場合
ほとんどが国内で消化されているので、それを保有する人にとっ
ては資産となります。つまり、政府の借金は、国民の資産になっ
ているのです。
 MMTについて、法政大学大学院政策創造研究科教授の真壁昭
夫教授は、MMTに関する自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 もし皆さんが、「皆さんは働いて、お金を稼ぐ力を持っていま
す。その力を裏付けに、自由にお金を借りることができます。返
済の問題を気にする必要はないから、どんどんお金を借りて、食
事でも旅行でも、好きなことを思う存分楽しんでください」とい
われたとしましょう。
 皆さんがそれを信じると仮定すると、多くの人がお金を借り、
消費や投資を行います。その結果、モノやサービスを提供した人
は収入を手にします。企業の儲けも増えるでしょう。これは、借
金が資産を生むことを意味します。
 これと同じようなことを、MMTの専門家たちは、国単位で実
施しようと考えています。「国は徴税力を裏付けに、自分の国の
通貨で自由に債務を発行できる。通貨の発行は思うがままにコン
トロールでき、借金を返済できなくなることは心配する必要はな
い」と主張しています。その上で彼らは、借金が経済の活動を活
発化させ、国民の資産(富)を増加させ、望ましい経済環境を達
成できると考えます。            ──真壁昭夫著
 『MMT(現代貨幣理論)の教科書/日本は借金し放題?暴論
         か正論かを見極める』/ビジネス教育出版社
─────────────────────────────
 個人の借金と政府の借金で同じことがひとつあります。お金を
借りると、そのレンタル料として、金利を貸し手に支払わなけれ
ばなりません。金利がかかることは、政府の借金も個人の借金も
同じです。しかし、現在日本では、金利が非常に低い水準で推移
しています。2020年2月時点の長期金利(10年物国債の金
利)は、マイナス0・105%です。
 もうひとつ、これに加えて日本の場合、物価もほとんど上昇し
ていない。しかも経常収支は黒字であり、海外から多くのお金を
受け取っており、企業は多くの資金を保有しています。こんな状
況下において、日本は短期間の間に財政再建と称して消費税の5
%を10%に倍増させています。わざわざ個人消費を冷やし、景
気を悪化させ、デフレを長期化させようとしています。
 MMTの主唱者は、物価に関して、どのように考えているので
しょうか。
─────────────────────────────
 MMTを支持する専門家らは、「物価の上昇を怖がるな」と説
いています。インフレのリスクを怖がると、政府の財政政策が慎
重になってしまい、結果的に、景気の回復が思うように進まなく
なってしまうからです。MMTでは、政府には物価をコントロー
ルする能力があると考えます。
 例えば、政府が大規模に債券を発行して、インフラ投資などの
公共事業を進めたとしましょう。公共事業が始まり、多くの人が
建設現場などで働けるようになりました。コンクリートやアスフ
ァルト、橋などの建設に使われる鋼材など、多くのモノが必要と
されます。モノが必要とされることを「需要」といいます。より
多くのモノが必要とされる場合、景気が回復する中で、需要が高
まり、モノの価格が持続的に上昇する。これが、インフレです。
                ──真壁昭夫著の前掲書より
─────────────────────────────
 MMTにとって、物価は財政支出を続けるかどうかの重要な尺
度になっています。MMTでは、政府が望ましい物価の水準を定
め、その水準が達成されるまで、財政支出を進めればよいと考え
ます。現在、アベノミクスで日銀が2%の物価目標を追っている
のとよく似ています。 ──[消費税は廃止できるか/040]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTという妖怪が徘徊している/三輪晴治氏
  ───────────────────────────
   MMTが徘徊し始めてから,世界の多くの経済学者や政府
  の役人が躍起になって,それは魔物だ,でたらめな理屈だと
  騒ぎ立てている。かつて天動説の時代に,地動説が唱えられ
  始めたときのようである。
   MMTという妖怪の正体は次のようなものであるらしい。
  「為替が変動相場制をとる国で,その国の自国通貨建てでの
  国債は,いくら発行しても財政破綻になることはない」とい
  うものである。そしてこの妖怪には尻尾がついている。それ
  は「供給能力、つまりインフレ率という国債発行の上限はあ
  る」ということ。
   そして「デフレ,イノベーション力の衰退,富の格差など
  によりその国の経済のバランスが崩れているとき,その崩れ
  を是正し,経済の活力をつけるために必要な資金であれば,
  それがいかに大きなものであっても政府がそれを供給しても
  問題はない」。MMTの基本の考え方は「国の債務は国民の
  資産である」という「信用創造」の理論と事実である。
   世界の経済学者,政府,政治家は,この妖怪についていろ
  いろの欠陥をあげつらい,批判している。最も多い批判は,
  MMTではハイパーインフレーションになるというものであ
  る。MMTはインフレになれば金の供給をストップし,増税
  をすればよいというが,それを実際にコントロールすること
  は不可能だと言う。       https://bit.ly/2wZzjWl
  ───────────────────────────

真壁昭夫教授.jpg
真壁昭夫教授
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2020年03月05日

●「政府はお金をいくらでもつくれる」(EJ第5200号)

 MMT(現代貨幣理論)について多くの人は、最近急に出てき
たいかがわしい理論と捉えているようです。まず、この誤解から
解く必要があります。MMTについて、藤井聡京都大学大学院教
授は、自著で次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 その源流は、19世紀後半から20世紀初頭に活躍したドイツ
歴史学派の学者、G・F・クナップが展開した貨幣論にある。そ
して経済学全体に巨大な影響を及ぼしたJ・A・シュンペーター
や、J・M・ケインズ等の経済理論やA・ラーナーが提唱した財
政論に影響を受けつつ経済政策論を展開した(ポストケインズ主
義の代表的論客であった)H・ミンスキーの薫陶を受けたL・R
・レイらによって体系化されたものだ。実際レイは、彼の著書、
『MMT現代貨幣理論入門』の中で、MMTを「巨人たちの偉業
の上に成り立っている」ものと的確に表現している。
 だからそれは、MMTについて聞きかじった程度の知識しかな
い日本の記者達が「トンデモ理論」だの「異端」だのと批判でき
るようなレベルの代物ではない、正統な経済理論なのである。し
たがって、その中身を知れば知るほどに、誰もが納得してしまわ
ざるを得ない、極めて理性的な理論なのである。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 いわゆるお金、マネー (money)は、「貨幣」とも「通貨」と
も呼ばれます。この違いをはっきりさせておく必要があります。
「貨幣」は「紙幣」に対応するものであり、狭義としては「鋳造
貨幣」、すなわち、政府の発行する「硬貨」(500円ニッケル
黄銅貨幣、100円白銅貨幣、50円白銅貨幣、10円青銅貨幣
5円黄銅貨幣、1円アルミニウム貨幣の6種類)を意味します。
これに対して「紙幣」とは、日本銀行が発行する「日本銀行券」
を指しています。
 これに加えて「通貨」という言葉を使って整理すると、通貨に
は「現金通貨」と「預金通貨」があります。現金通貨には、流通
している紙幣と硬貨、それに銀行に預金されている預金通貨があ
ります。この預金通貨のほとんどは、紙幣や硬貨という具体的な
お金の数ではなく、デジタルな預金情報として存在しているだけ
です。これはこれまでも何回も述べています。
 MMTを理解するには、現代社会におけるお金とは、国家が作
り出すものであることを理解する必要があります。よく「日銀は
お金(紙幣)を刷る」といいますが、実際にお金を刷っているの
は、日銀ではなく国立印刷局です。それも、日銀の指示によって
印刷しているのではなく、財務省の計画にしたがって、必要な分
だけ印刷しているのです。
 これは、今回のテーマの冒頭でも述べましたが、ここで必要な
分とは、古くなったり、破損した紙幣を交換する分と、お金の総
量が増えるにしたがって増やす分の2つです。この後者の「お金
の総量が増えるにしたがって増やす分」とは、何を意味している
のでしょうか。
 世の中に流通しているお金の総量と、紙幣(日本銀行券)の総
量は、同一ではないのです。紙幣の総量は約100兆円、世の中
に流通しているお金の総量は約1300兆円(M3)です。流通
しているお金のほとんどは預金情報としてデジタルなかたちで存
在しており、紙幣というお金としての具体的な形が必要な分しか
印刷しないのです。
 もうひとつはっきりさせておくべきことがあります。一般的に
は、政府は国債の発行をすることはできるものの、お金を作り出
すのは中央銀行である日銀の仕事であるという考え方です。日銀
には政策の独立性が認められており、あくまでお金を作り出すの
は、日銀であるというです。これについて、藤井聡教授は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 実際、私達が普段使っている千円札や一万円札には「日本銀行
券」と書かれている。つまりそれは、「日本銀行」という日本の
中央銀行が作り出したものだ。そして、その日本銀行の株主は、
55%が日本国政府であり、日本政府の事実上の「子会社」であ
る。もちろん、日本銀行には経営の自主性が認められているが、
日本銀行法第四条に「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節
が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の
経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡
を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とも明記さ
れており、政府から完全に独立な振る舞いをすることは法律的に
も禁じられている。だから、政府というものを中央銀行と一体的
なものとして捉えるのなら、政府は貨幣を作り出すことができる
のである。        ──藤井聡著/晶文社の前掲書より
─────────────────────────────
 政府と日銀を一体のものと捉え、政府と日銀のバランスシート
を合体させることを「統合政府」といいますが、この考え方に立
つとMMTはスンナリ理解できるのです。統合政府の場合、国債
は政府の債務であるが、日銀にとっては資産であり、この資産と
負債は相殺できることになります。
 統合政府はともかくとして、「政府は貨幣を作り出すことがで
きる」のは確かです。そうであるなら、次のことが成立します。
─────────────────────────────
 政府は、自国通貨建ての国債で破綻することは、事実上あり
 得ない。            ──MMTの基本的前提
─────────────────────────────
 要するに、日本政府が日本円の借金を返せなくなってしまうこ
とはあり得ないということです。なぜなら、日本円を作っている
のが日本政府であれば、自身が「作ることのできる円」を返せな
くなることはあり得ないからです。
           ──[消費税は廃止できるか/041]

≪画像および関連情報≫
 ●「天下の暴論」MMTから学ぶこと
  ───────────────────────────
   「国はどんなに借金をしても、その重荷で破綻することは
  ない」と言い切って、積極的な財政出動をよびかけるアメリ
  カ発の異端の経済理論=MMTが話題になっています。
   最初に聞いた時、わたしは「天下の暴論」と思いました。
  長年、国の財政を取材し、借金が膨らみ続ける状況に警鐘を
  ならす原稿を書き、解説してきた身にとって、借金を減らす
  努力を「全否定」するかのような経済理論は、「元も子もな
  い」と思ったからです。日本の政府、中央銀行の関係者も含
  めて、そう思う人が多いでしょう。
   ただ、暴論として片づけずに、世界一の経済大国アメリカ
  で議論になっているわけを知りたいと、取材することにしま
  した。(アメリカ総局記者 野口修司)
   MMTは、「Modern Monetary Theory」という学説。その
  要点は、「自国の通貨を持つ国家は、債務返済に充てるお金
  を際限なく発行できるため、政府債務や財政赤字で破綻する
  ことはない」というもの。景気を上向かせ、雇用を生み出し
  ていくためにも、「政府は借金を気にせず、積極的に財政出
  動すべきだ」と説いています。私が取材に向かったのは、ニ
  ューヨークから車で北に2時間あまり。バード・カレッジの
  ランダル・レイ教授。MMTを四半世紀にわたって研究して
  いる経済学者です。       https://bit.ly/38jdwWL
  ───────────────────────────
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MMTを体系化したL・R・レイ教授
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2020年03月06日

●「日本は緊縮病により貧乏化が進行」(EJ第5201号)

 日本の経済学者でエコノミスト、日本銀行政策委員会審議委員
の原田泰氏は、MMTについて次のように批判しています。
─────────────────────────────
 (MMTをやれば)必ずインフレが起きる。(提唱者は)イン
フレになれば、増税や政府支出を減らしてコントロールできると
言っているが、現実問題としてできるかというと非常に怪しい。
         ──2019年5月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 政府の借金をどんどん増やすと、必ずインフレになる。インフ
レになったら、コントロールできない──これがMMTに反対す
るほとんどの経済学者の意見です。
 安倍首相率いる日本政府は、アベノミクスを行いながら、20
25年には借金をゼロにする(プライマリーバランスゼロ)とい
う目標を立て、消費増税を繰り返し、毎年の予算を可能な限り抑
制しようとしています。つまり、MMTとは真逆の政策を展開し
ていることになります。
 考えてみると、アベノミクスが好調だったのは、日銀による異
次元の金融緩和と機動的な財政出動を同時にやっていた最初の時
期に限られていたことがよくわかります。日経平均株価は急上昇
し、やがて株価は倍以上になり、雇用が劇的に改善しています。
 そのアベノミクスを完全に壊したのは、2014年4月の3%
の第1回目の消費増税と、息の根を止めたというか、止めるであ
ろうと思われる、2019年10月の2%の消費増税です。現在
ではアベノミクスという言葉すら使われなくなっています。それ
に、予期していなかった新型コロナウイルスの蔓延による深刻な
経済へのダメージが加わって、個人消費は大幅にダウンし、日本
のデフレはさらに深化してしまうことは確実です。このさい思い
切って、消費税の税率を5%に戻すべきです。もし、やらなけれ
ば、次の選挙で、現在の与党(自民党プラス公明党)は確実に敗
北することは必至です。
 メディアが伝えないので、ほとんどの日本人は認識していませ
んが、2015年までの20年間で、日本のGDPは、ドル建て
換算で20%も縮小しています。このマイナス20%という数字
はもちろん世界最下位です。なぜ、マイナス成長になるのかとい
うと、日本は「緊縮病」という病気にかかっているからです。主
導しているのは財務省です。同じように、緊縮病にかかっている
国にドイツがあり、ドイツは世界のなかで、日本に次いで成長率
の低い国家になっています。
 財務省は、政府の借金があまりにも膨大になると、財政破綻が
起こり、日本が破綻してしまうと国民に説いています。これは完
全な間違いですが、そのことを一般家庭の借金に置き換えて説明
するので、多くの国民は納得してしまいます。
 そこで、これを防ぐために、消費税を増税して、少しずつでも
借金を返し、基本的には入ってくる税収ですべてを賄うようにす
べきであるとして、2014年からわずか5年間で、消費税の税
率を5%から10%に倍増させたのです。
 それでいて、海外の格付会社が、日本国債の格付けを下げよう
とすると、財務省は「自国通貨建ての国債が破綻することなどあ
り得ない」とMMTの主張と同じ理屈で反論します。この財務省
の「外国格付け会社宛意見要旨」については、2月27日のEJ
第5195号で紹介しています。   https://bit.ly/39ozYz7
 いつも国民に訴えていることと、海外の格付会社にいっている
ことが真逆なのです。もし、格付会社にいっていることが正しい
のであれば、財務省は国民を騙していることになります。
 ここで考えてみるべき国があります。それは中国です。中国の
債務の対GDP比は、あまり大き過ぎて公表されていませんが、
それは日本の比ではないはずです。そのため「そのうち中国経済
は破綻する」と期待している向きもありますが、一向に財政的に
潰れそうもありません。中国は巨額の財政出動で得た潤沢な資金
をあらゆる分野に投入し、経済の面でも、軍事面でも、科学技術
の面でも、米国に着々と迫りつつあります。
 この中国について、藤井聡京都大学大学院教授は、「中国は緊
縮病にかかっていない」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 そんな緊縮病という不安神経症を全く患っていないが故に、こ
こ20年ほど超絶なるスピードで経済成長を果たした国がある。
中国だ。彼らは、リーマンショックなどの不況になれば、借金が
増えることなどお構いなしに、50兆円を上回る凄まじい財政出
動を果たし、たちどころにショックから立ち直った。そのおかげ
で凄まじく経済は成長し、税収も拡大、今度はその資金を使って
ユーラシア全土でインフラ投資を展開する「一帯一路構想」をぶ
ち上げ、政府支出を拡大し続けている。そしてその結果、税収も
格段に上昇させ、中央政府においては、財政赤字の問題など何も
なかったように成長し続けている。   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 考えてみると、戦後の日本も緊縮病などにかかっておらず、積
極的な政府支出を行い、それを拡大させています。それだけでは
足りず、世界銀行から多額の借金をして、東名高速道路などの大
型のインフラ投資を繰り返し、積極的な政府支出を大きく積み上
げていったのです。その結果、日本は超高度成長を成し遂げ、世
界第2位の経済大国になっています。
 それが一転して、現在の日本は、過剰なほどの緊縮を行うよう
になり、それが国家の衰退と国民の貧困化を招いています。それ
でいて、政府は一向に緊縮化をやめようせず、借金を減らすこと
しか考えておらず、財政規律の重圧に押しつぶされるようになっ
ています。MMTはその真逆の考え方です。このMMTの考え方
に基づいて、大胆な減税、思い切った財政出動などの政府支出を
行い、何よりもデフレからの脱却を成し遂げる必要があると思い
ます。        ──[消費税は廃止できるか/042]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTも主流派経済学もどっちもどっちな理由
  ───────────────────────────
   財政赤字の積極的な拡大を推奨する「現代金融理論/MM
  T」をめぐり、米国では経済学者たちがメディアを巻き込み
  論争を展開している。その論争の内容は、われわれ日本人に
  とっては失笑を禁じえないところがある。また、ある種のデ
  ジャビュを感じるものでもある。
   MMTを主張する経済学者たちは、経済学コミュニティに
  おいては少数派だ。批判する経済学者のほうが数も多いうえ
  地位や名声もはるかに高い。この数カ月間で、ポール・クル
  ーグマン、ラリー・サマーズ、ケネス・ロゴフといったそう
  そうたる面々がMMTを批判する議論を展開しており、ジェ
  ローム・パウエルFRB(米国連邦準備制度理事会)議長や
  黒田東彦日本銀行総裁をはじめ、現役の中央銀行幹部も批判
  の弁を述べている。メディアはこの論争を「主流派経済学V
  S非主流派経済学」という描き方で盛り上げている。
   印象から言えば「非主流派」がずいぶんと威勢よく攻勢を
  かけているのに対し、「主流派」の反論は何やら昔ながらの
  教科書を紐解くような内容で、今ひとつ歯切れが悪い。経済
  学コミュニティの外野からは、小勢ながら果敢に攻める「非
  主流派」に「ヤンヤ」の声が掛かる状況だ。MMTは現状打
  破のための最終兵器であるかのように喧伝されており、米国
  では特にポピュリスト政治家やトランプ政権を政治的に攻め
  あぐねている野党民主党の政治家の中にこの理論の信奉者が
  少なからずいる。        https://bit.ly/2vwMdLk
  ───────────────────────────

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原田泰日銀政策委員会審議委員

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2020年03月09日

●「経済学者ゴドリーのSFCモデル」(EJ第5202号)

 MMTの主唱者の一人であるステファニー・ケルトン教授が来
日講演のさい、示したグラフを今日のEJの添付ファイルにして
います。ケルトン教授は、「財政再建」の旗印のもとで、いつも
目の敵にされている「財政赤字」について、添付ファイルのグラ
フを示し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 財政赤字は政府側からの見方でしかありません。我々民間の側
からバランスシートを見ましょう。すると、政府の赤字と同じだ
けが民間の黒字となります。政府の赤字は悪でも脅威でもなく、
財務のミスマネジメントの証拠となるものでもない。そういう見
方ではなく、政府の赤字は単なる手段なのです
                  https://bit.ly/2TGp3tQ ─────────────────────────────
 確かにグラフを見ると、「民間の黒字=政府の赤字」になって
います。このことをMMTの「理論的な想定」とする向きがあり
ますが、そうではなく、これは「定義上の事実」なのです。狐に
つままれるようだという人もいますが、そんなことはなく、ごく
当たり前の事実をいっているのです。
 これについて、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏は、自著
で、次のように解説しています。とてもわかりやすい解説である
と思います。
─────────────────────────────
 「MMTはただの会計学的な事実なので否定しようがない」と
か、「経済学者よりも、経理係や税理士のような実務家のはうが
MMTを理解しやすい」といったことが、しばしばMMTの支持
者によってつぶやかれて(文字どおりツイートされて)いますが
ゴドリーのSFCモデルのことを指して言っているのでしょう。
 借り手がいれば必ず貸し手がいるわけで、考えてみれば当然の
ことです。民間部門の中でも、誰かの「債務」は誰かの「債権」
を意味しています。債務というのは金品を支払う義務ということ
で、債権というのは金品を要求する権利のことです。
 私が友達にお金を貸せば、私は債権者で友達は債務者です。銀
行が政府にお金を貸せば、銀行が債権をもち政府は債務を負いま
す。そして、債権は土地やお金などとともに資産に含まれます。
 したがって、政府が借金をすればするほど、民間部門の金融資
産が増大するのです。こうしたこともまた、当たり前の事実で重
要であるにもかかわらず、主流派経済学者によって見過ごされが
ちでした。 ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 井上智洋准教授の説明にわからないことがひとつあります。そ
れは「ゴドリーのSFCモデル」です。これは、何を意味してい
るのでしょうか。
 実は、来日講演会のさい、ケルトン教授は、MMTに関連して
アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキー、ウェイン・ゴドリーの
3人の名前を上げて、会場に次のように問いかけています。
─────────────────────────────
   ウェイン・ゴドリーを知っている人、手を上げて?
           ──ステファニー・ケルトン教授
─────────────────────────────
 これに対して挙手したのは、60人いる参加者のうちのたった
の3人だったといいます。しかし、ゴドリーのMMTへの貢献度
は、ラーナー、ミンスキーに何ら劣ることはないのです。それは
何といっても、「ストック・フロー・一貫モデル」にあります。
SFCとは、次の頭文字をとっています。ゴドリーは、「政府部
門の赤字」は、「民間部門の黒字」という当たり前の会計的事実
を、このSFCモデルとして定式化し、MMTに取り込んだので
す。SFCモデルの定義も書いておきます。
─────────────────────────────
        ストック・フロー・一貫モデル
        Stock-flow Consistent Model
 厳密な会計のフレームワークに基づくことにより、経済のすべ
てのフローとストックを正しく包括的に統合することが保証され
たマクロ経済モデルの一群のことである。
─────────────────────────────
 ゴドリーは、少し変わった英国の経済学者で、オックスフォー
ド大学を卒業したあと、なぜか、パリ音楽院で音楽を学び、BB
Cウェールズ管弦楽団の首席オーボエ奏者を務めていたことがわ
かっています。
 政府の借金の限度は、民間の金融資産が天井になる──このよ
うなことがよくいわれますが、これはSFCモデルを踏まえると
ナンセンスなのです。なぜなら、政府が借金した分だけ、民間金
融資産が増えているからです。財務省は、民間金融資産が政府へ
の貸し出しに回されているといっていますが、これは完全に順序
が逆です。なぜなら、政府が借金をすればするほど、民間部門の
金融資産が増大するからです。
 井上智洋准教授は、次のような興味ある事実を自著のなかで指
摘しています。
─────────────────────────────
 政府の借金がゼロということは、民間金融純資産がゼロである
ことを意味します。果してそれは望ましいことなのでしょうか。
そして政府部門の黒字は、民間部門の赤字を意味します。アメリ
カのクリントン大統領の時代に政府黒字が達成され、多くの経済
学者がそれを肯定的に見ている一方で、ゴドリーやランダル・レ
イ氏は警告を発しました。    ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 政府部門の黒字は、民間部門の赤字を意味するのです。だから
ゴドリーは警告をしたのですが、そのとき誰もこの警告を一顧だ
にしませんでした。それが政府部門の赤字が巨大化して、MMT
が注目されています。 ──[消費税は廃止できるか/043]

≪画像および関連情報≫
 ●ウェイン・ゴドリー/危機をモデル化した経済学者
  ───────────────────────────
   ボストン─2008年の金融危機と大停滞は、依然として
  生々しく痛みを伴う記憶だが、多くの経済学者は、1930
  年代の大恐慌時代とその後に起こった考え方に根本的な変更
  が必要かどうかを自問している。国際通貨基金(IMF)の
  チーフエコノミスト、オリビエ・ブランチャードは2011
  年の会議で「我々は新世界に入っている」と述べた。「経済
  危機は私たち多くの信念を疑わせるものであった。私たちは
  この知的挑戦を受け入れる必要がある。」
   危機を予測することができなかった主流モデルの改革に経
  済学者たちが挑戦するならば、差し迫っていた危機に気づい
  ていた数少ない経済学者の一人である、レヴィ経済研究所の
  ウェイン・ゴドリーを参考にしなければならないだろう。残
  念ながらゴドリー氏は、2010年に83歳で亡くなった。
  しかし、彼の影響は広がり始めている。フィナンシャル・タ
  イムスの著名コラムニスト、マーチン・ウルフや、ゴールド
  マン・サックスのグローバル投資研究のチーフエコノミスト
  ジャン・ハッジアスが、ゴドリーのアプローチを拝借してい
  る。北米と欧州のいくつかの経済学者グループ(危機後に金
  融と慈善家ジョージ・ソロスによって設立された新経済思考
  研究所が支援しているグループも含まれる)も彼のモデルを
  使い始めている。        https://bit.ly/2PVAnRH
  ───────────────────────────

kerutonkyoujuga2019nen7gatunonihonkouendeshiyoushitagurahu.jpg
ケルトン教授が2019年7月の日本講演で使用したグラフ
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2020年03月10日

●「ケルトンはサンダースの政策顧問」(EJ第5203号)

 新しい理論というか、考え方というか、新しい見解というか、
そういうものが公開されると、その内容がユニークであればある
ほど、必ず反対意見が出てきます。まして、それが自分のつねに
主張していることに矛盾する場合は、猛然と反論します。
 MMT(現代貨幣理論)に関しては、著名な経済学者のほとん
どが反対の立場をとっていますし、日本の経済学者、経済評論家
ジャーナリストなどの多くは賛成ではないようです。しかし、消
費増税に反対の立場をとる藤井聡京都大学大学院教授は、MMT
の解説書を上梓して、賛成の立場をとっておられます。
 しかし、まだ立場をはっきりさせていない専門家もたくさんい
ます。きちんと勉強していないのでしょう。政治家では、自民党
参議院議員の西田昌司氏が、MMTに賛成の立場を明確にしてお
り、とても目立っています。
 それでいて、ステファニー・ケルトン教授が2019年7月に
来日し講演をしたとき、受講希望者が殺到、抽選で2回の講演会
の参加者を決めたといわれます。そのとき、1回の受講者は60
人に制限されていたようです。おそらく出席者は経済の専門家が
多かったはずです。トンデモ理論といわれながらも、どのような
理論か、本家の学者の話を直接聴きたかったに違いありません。
 そもそも米国でMMTの議論が巻き起こったのは、2019年
1月のことです。それは、史上最年少の女性下院議員であるアレ
キサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員の掲げる「グリーン
・ニューディール政策」についての議論が原因です。この政策は
太陽光や風力などの再生可能エネルギーを100%にしようとす
るもので、当然のことながら、巨額の資金が必要になりますが、
その財源として赤字国債を上げています。これに関してオカシオ
・コルテス下院議員は、次のように主張しています。
─────────────────────────────
 グリーンニューディールを成功させる方法に関しては、富裕層
課税など、いくつもの財源創出方法があります。政府の赤字支出
は良いことです。そしてグリーンニューディールを実現させるた
めには、財政黒字こそが、経済にダメージを与えるとするMMT
の考えを、”絶対に”私たちの主要議論にする必要があります。
              ──オカシオ・コルテス下院議員
                  https://bit.ly/39ArTY9 ─────────────────────────────
 実は、ナンシー・ペロシ下院議長は、オカシオ・コルテス議員
だけでなく、民主党の大統領候補、さらに70人の民主党議員が
GND(グリーン・ニューディール政策)に賛同していると言明
しており、コルテス下院議員については、その実現を目指させる
ため、気候変動委・予算編成委の部署へ異動させています。
 もちろん、米民主党のすべてがMMTに賛成しているわけでは
ありませんが、その予算化の案の一つとして、MMTの検討を始
めているのは事実です。
 民主党大統領予備選挙の候補であるバーニー・サンダーズ上院
議員と、エリザベス・ウォーレン上院議員(大統領候補から撤退
表明)は、GNDの財源について、次のように述べています。
─────────────────────────────
◎バーニー・サンダーズ上院議員
 ・雇用、格差是正、インフラ整備、貿易、退職保障および教育
 に対して(国債発行して)赤字支出をしなければならない。例
 えば、インフラに5年で1兆ドル以上の投資をすれば1300
 万の高給の雇用を創出できるでしょう。
◎エリザベス・ウォーレン上院議員
 ・政府預金(税収)で支出増加を賄うとする議会の現在のやり
 方は全く意味をなしません。教育やインフラ、人々や国内企業
 への投資など、時間の経過とともに本当の価値を生み出す投資
 があります。そういったことを我々の政府会計では考慮すべき
 です。              https://bit.ly/39ArTY9
─────────────────────────────
 サンダース上院議員にしても、ウォーレン上院議員にしても、
MMTとはっきり口にしていませんが、明らかにMMT的考え方
を述べています。なぜ、MMTなのでしょうか。彼らとMMTは
どういう関係があるのでしょうか。
 それは、ステファニー・ケルトン教授が、バーニー・サンダー
ズ上院議員の政策顧問を務めているからです。ちなみに、ケルト
ン教授は、オカシオ・コルテス下院議員の経済アドバイザーも務
めています。したがって、もし、サンダース上院議員が大統領に
になったら、MMTが米国の経済政策に大きな影響を与えること
になる可能性があります。
 これに対して、米国の主流派の経済学者の3人は、それぞれ次
のようなバカにしたような言葉を連ねて反対しています。
─────────────────────────────
  ◎ポール・クルーグマン氏(ノーベル経済学賞受賞者)
   ・「理解不能」
  ◎ケネス・ロゴス氏(経済学者/ハーバード大学教授)
   ・「ナンセンス」
  ◎ローレンス・サマーズ氏(経済学者で、元財務長官)
   ・「ブードゥー経済学」(いかがわしい経済学)
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 経済学の世界で主流を占めているのは、「ニュー・ケインジア
ン」と呼ばれる人たちです。経済学の教本を出していて著名なグ
レゴリー・マンキューやクルーグマンは、このグループに属しま
す。これに対して、「ポスト・ケインジアン」と呼ばれる一派が
あり、MMT系の経済学者はこれに属します。同じケインジアン
ですが、右寄りのニューケインジアン、左寄りのポストケインジ
アンの考え方は大きく異なります。
           ──[消費税は廃止できるか/044]

≪画像および関連情報≫
 ●ケルトン教授が、顧問のバーニー・サンダース氏を大統領に
                 ──2019年5月の記事
  ───────────────────────────
   MMT(現代貨幣理論)の提唱者の1人、ニューヨーク州
  立大学のステファニー・ケルトン教授が6月に訪日するそう
  です。自民党議員でMMTを支持する安藤ひろし氏と西田昌
  司氏と会うことを楽しみにしています。いいですねえ。政治
  のダイナミズム。アメリカが日本が変わろうとしています。
   ケルトン教授は2016年の米国大統領選でバーニー・サ
  ンダース上院議員の顧問を務めており、2020年の大統領
  選でも同氏の顧問を務めることになりました。MMTが注目
  されている今、最高のタイミングで、最高の人が大統領候補
  として名乗りを上げ、最高の人が顧問を務めることにわくわ
  くしています。
   ところが今、民主党の大統領候補を選ぶ予備選ではジョー
  ・バイデン議員が大きくリードしています。サンダース氏は
  2位につけており、実質、両候補の戦いになりそうです。ど
  ちらも70代の半ばと高齢ですが、エネルギッシュに、選挙
  キャンペーンを繰り広げており、かっこいいと思います。し
  かし、やはり勝って欲しいのはサンダース氏。サンダース氏
  が勝てば、文字通りアメリカが変わります。当然日本も、世
  界も変わることになります。   https://bit.ly/2TxL6E8
  ───────────────────────────

西田昌司自民党参院議員.jpg
西田昌司自民党参院議員
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2020年03月11日

●「記者とケルトン教授との一問一答」(EJ第5204号)

 MMTにスポットライトを当てた一人である、元ウエイトレス
の29歳のオカシオ・コルテス下院議員ですが、彼女の掲げる政
策は、次の3つです。
─────────────────────────────
   1.GND ・・・ グリーン・ニュー・ディール
   2.JGP ・・・       国民総雇用保証
   3.MFA ・・・         国民皆保険
─────────────────────────────
 オカシオ・コルテス下院議員の政策の達成には、莫大な資金が
かかります。彼女は、その財源の調達にMMTの考え方を使おう
と考えています。そのためには、民主党のバーニー・サンダーズ
上院議員が大統領になることがベストです。ステファニー・ケル
トン教授は、サンダーズ上院議員の政策顧問にして、オカシオ・
コルテス下院議員の経済アドバイザーを務めています。
 ここに、記者(Q)とケルトン教授(A)とのMMTに関する
一問一答があります。MMTの理解につながると思われるので、
何回かに分けてご紹介し、解説を加えることにします。
─────────────────────────────
Q:グリーンニューディールの財源は、ちゃんと確保できるので
  しょうか?
A:はい、連邦政府は、自国通貨で売りに出されているものは何
  でも購入することができます。
Q:あなたは、政府は新規の支出のために、ただ「カネを刷れば
  いい」というのですか?
A: 逆に他になにか方法があるんですか?
Q:他の方法ですって?税率を上げられるじゃないですか!
A:そういうものではないのです。政府が国民経済に注いだお金
  の一部を、税は吸収してしまいます。支出と税収を同額にす
  ることもできるかもしれません。でも政府はふつう、税収よ
  り多くのお金を支出していますし、それによって市場にはよ
  り沢山のお金が出回りますよね。 https://bit.ly/2Q4sGJc ─────────────────────────────
 MMTでは、税金は財源とは考えないのです。これは、とても
わかりにくい考え方です。主流派経済学では、税金が税収として
得られ、政府はそれを財源として支出を行うと考えています。当
たり前なことであると誰しも考えます。
 しかしMMTでは、逆に政府支出がまずあって、国民はそれに
よって得たお金で納税できると考えます。これを「スペンディン
グ・ファースト」といいます。税金についてケルトン教授は重要
なことをいっています。「税金は、政府が国民経済に注いだお金
の一部を税は吸収する」と。
 3月2日のEJで述べた「ウォーレン・モスラーの話」を思い
出してください。モスラーは、子供たちのお手伝いに応じて、名
刺(お金)を与えています。スペンディング・ファーストです。
子供たちはそうして集めた名刺、すなわちお金で納税を行ってい
ます。このように、徴税は、貨幣に価値を与え、市中に流通する
貨幣の量を調節する役割をもっています。すなわち、徴税は、市
中から貨幣を吸収する行為として位置付けられています。
─────────────────────────────
Q:いやいや、それは(国債発行による)赤字支出じゃないです
  か?あなた、まーた、政府債務を積み上げるんですね?
A:いいえ、国債を買うためのドルは、赤字支出からくるもので
  はありません!それは、そもそも「借り入れ」ではありませ
  ん。人々がドルと国債を交換したときには、政府が発行した
  おカネを別の形で持ちかえたというだけのことです。
Q:でも、結局、我々は負債を返済する必要がありますよね?
A:政府は常に国債を償還しています。簡単ですよ。国債の売り
  手(多くは銀行)の口座の証券の項目を引き算して、中央銀
  行預け金の項目を足し算するだけです。これをNY連邦準備
  銀行はキーボードを叩くだけで終わらせるんです。
Q:しかし、利子の支払いはどうなるんですか?利払いによって
  使用可能なお金は少なくなりますよね?
A:それは間違いです。政府が利子を支払う方法も、あらゆる支
  払いと同じです。いつだって何にでも支払いが増やせます。
  その上限を決めるのが物価上昇率なのです。
                  https://bit.ly/2Q4sGJc ─────────────────────────────
 ここでは、MMTの本質を論じています。「国債とは何か」が
論じられています。これについては、残りの紙面で述べることは
困難であるので、明日のEJで述べることになります。
 前のブロックで、記者は「政府は新規の支出のためにただ『カ
ネ』を刷ればいい」といっていますが、これは日本的な表現であ
り、日本の読者向けにそう訳したものと思われます。MMTでは
次の2つの表現を使っています。
─────────────────────────────
       @     「万年筆マネー」
       A「キーストローク・マネー」
─────────────────────────────
 ここまで何度も述べてきた銀行の信用創造の仕組みによれば、
無一文の銀行でも、お金を貸す能力があるといえます。銀行は預
金者から預かったお金を貸しているのではないからです。もちろ
ん、法的な規制があって、無一文の銀行ではお金は貸せませんが
その規制がなければ貸すことができるのです。それは、きわめて
簡単なことです。貸付を希望する人の口座に「○○万円」と書き
込むことによって、貸したことになるからです。
 この「書き込む」という言葉によって、「万年筆マネー」とい
う表現が生まれたのですが、実際には、キーボードのキーをスト
ロークすることによって貸し付けが可能になるので、「キースト
ローク・マネー」という表現に変わってきているのです。
           ──[消費税は廃止できるか/045]

≪画像および関連情報≫
 ●異端の経済理論「MMT」を恐れてはいけない理由
  ───────────────────────────
   現代貨幣理論は、その名のとおり、「貨幣」論を起点とす
  る経済理論であるが、この現代貨幣理論と主流派経済学とで
  は、貨幣の理解からして、180度違うのである。
   まさに、地動説と天動説の相違と比肩できるほど、異なっ
  ているのだ。では、ここで、現代貨幣理論が立脚する貨幣論
  について、ごく簡単に解説しよう。
   今日、「通貨」と呼ばれるものには「現金通貨(お札とコ
  イン)」と「預金通貨(銀行預金)」がある。「銀行預金」
  が「通貨」に含まれるのは、我々が給料の支払いや納税など
  のために銀行預金を利用するなど、日常生活において、事実
  上「通貨」として使っているからである。ちなみに「通貨」
  のうち、そのほとんどを預金通貨が占めており、現金通貨が
  占める割合は、ごくわずかである。ここまでは、主流派経済
  学でも異論はないであろう。
   問題は、通貨のほとんどを占める「銀行預金」と貸し出し
  との関係である。通俗的な見方によれば、銀行は、預金を集
  めて、それを貸し出しているものと思われている。しかし、
  これは銀行実務の実態とは異なる。
   実際には、銀行の預金が貸し出されるのではなく、その反
  対に、銀行が貸し出しを行うことによって預金が生まれてい
  るのである(これを「信用創造」という)。驚かれたかもし
  れないが、これは事実である。      ──中野剛志氏
                  https://bit.ly/2TA7NHP
  ───────────────────────────

sanda-zu/korutesuryougiin.jpg
サンダーズ/コルテス両議員 
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2020年03月12日

●「お金も国債も統合政府の債務証書」(EJ第5205号)

 MMTは、天動説に対する地動説のようなものであると、よく
いわれます。世の中の一般の人が、常識的に認識しているお金に
関する考え方が「天動説」であるとすると、MMTにおけるそれ
は「地動説」であるというのです。天動説を信じていた人が、な
かなか地動説を受け入れられなかったと同じように、MMTの考
え方を理解できない人が多いのです。
 昨日のEJの続きです。「国債とは何か」について考えます。
そのためにはもう一度「お金(マネー)とは何か」について検討
する必要があります。しかし、「お金」の定義をうんぬんすると
話が面倒になるので、単に「お金」として話を進めることにしま
す。いろいろな本を読んだのですが、井上智洋駒澤大学准教授の
説明が一番わかりやすいと思うので、以下に要約して説明するこ
とにします。
 いわゆるお金は、紙幣も硬貨もありますが、そのほとんどは銀
行に預けている預金のように、データであり、記録のかたちで存
在しています。ところでそれは、何の記録でしょうか。
 それは債務の記録です。MMTでは、「お金は『債務証書』で
ある」というのです。つまり、借金の証拠となる書類を意味して
います。MMTでは、この債務証書のことを「IOU」と呼んで
います。「IOU」は、次の頭文字をとっています。
─────────────────────────────
   ◎IOU/ I owe you. 「私は君に借りがある」
─────────────────────────────
 お金が債務証書であるとすると、預金は民間銀行の債務証書で
すし、現金と預金準備は中央銀行(日銀)の債務証書ということ
になります。預金準備というのは、民間銀行が中央銀行に対して
持つ当座預金に貯まっているお金のことです。
 国債といえば、政府の国民に対する債務(借金)であり、まさ
に債務証書そのものですが、MMTでは、お金(貨幣)も同様に
国民に対する債務であるというのです。
 ここで「政府」とは、主流派経済学では慣例上、政府と中央銀
行をまとめた「統合政府」のことですが、MMTでも政府という
場合は統合政府を意味しています。しかし、お金が統合政府の債
務証書であることに、MMTでは哲学的な含蓄を込めています。
MMTの有力な主唱者のランダル・レイ教授は、これについて次
のように述べています。
─────────────────────────────
 国王は、支払いにおいて割り符や硬貨を発行する。それが、国
王を罪深い債務者の立場に置く。国王は、自らの債務証書を受け
戻して、負債から解放される。
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 上記のランダル・レイ教授の言葉で、「国王」を総合政府、割
り符や硬貨を現金や預金準備に置き換えると、罪深い債務者の統
合政府は、自らの債務証書を受け戻して負債から解放され、租税
義務を負っている国民は、債務証書たるお金で税金を納めること
によって、この義務から解き放たれるのです。つまり、租税は、
統合政府と国民の双方を債務から解放させるのです。
 つまり、お金も国債も、いずれも統合政府の債務証書であり、
ほとんど同じものであるといえます。それについて井上智洋准教
授は、最近イタリアで起きた次の出来事を通して、このことを説
明しています。
─────────────────────────────
 2019年9月まで、イタリアの連立政権の第一党は「五つ星
運動」で、連立相手は「同盟」という政党でした。2019年5
月にその「同盟」が、「ミニBOT」という、国債(短期財務証
券)を発行する計画を発表しています。これは無利子永久債、つ
まり利子が付かないし満期もない国債です。
 満期がないというのは、国債を償還しなくてよい、つまり国債
と引き換えに政府がお金を返さなくてよいということです。利子
がもらえないし元本すら返してもらえないような国債を持ってい
て何の得があるのかと誰しも疑問を抱くでしょう。
 ミニBOTは代わりに、納税や決済(買い物)に使うことがで
きます。要するにこれは貨幣であり、実際にユーロとは別の「第
2の通貨」などと言われています。ユーロ圏の国が貨幣を勝手に
発行したら、ユーロの意味がなくなってしまうので、EUの本部
からは「またイタリアか、いい加減にしろ!」などと怒られてい
ます。結局のところ、この計画は実行には移されないようですが
イタリアらしくてやんちゃな、そして微笑ましいエピソードと言
えるでしょう。         ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 イタリアの連立政権は、なぜ「ミニBOT」なる通貨まがいの
国債を発行しようとしたのかというと、ユーロ圏の国々は、自国
の通貨発行権を放棄しているからです。そのため、自国の通貨量
をコントロールできないのです。そうかといって脱退することは
イギリスの例を見ればわかるようにほぼ困難です。これがEUと
いうシステムの最大の問題点であるといえます。
 これによってわかることは、国債というものをほんの少し変形
するだけでお金、すなわち貨幣になり得ることです。したがって
整理すると、次のようになります。
─────────────────────────────
      お金=決済と納税が可能な無利子永久債
      国債=決済と納税には使えぬ有利子貨幣
─────────────────────────────
 問題は、お金(貨幣)にせよ、国債にせよ、いわゆる統合政府
の債務証書、すなわち借金であるとすると、それは本当に返済す
べきものなのかどうかにあります。MMTでは、それは租税を通
じて統合政府に戻ってくるべきであると考えています。
           ──[消費税は廃止できるか/046]

≪画像および関連情報≫
 ●第11話・通貨と国債の関係について
  ───────────────────────────
   ある国の経済成長を促すために、インフレを積極的に利用
  しようというやり方がある。この手法を用いる場合、「市中
  に通貨を供給してやる」必要がある。ではどうやって通貨の
  供給量を増やすか?
   中央銀行が紙幣を作って、勝手に空からバラ撒いてもお金
  は増える。これで確実にインフレにはなる。しかしインフレ
  が行き過ぎて、逆にお金を回収する必要に迫られた場合、は
  たして市民が空から降ってきた紙幣をシュレッダーにかけて
  くれるかは甚だ微妙だ。必要以上の圧倒的な量のお金が市中
  に流通したままでは、コントロールできない悪性のインフレ
  のタネとなる。
   また外国人がそういう国と商取引をする場合、当該国の紙
  幣に価値を見出すことも出来ない。ヘリでカネをばらまく国
  の通貨を後生大事に保有していても、ある時突然カネが増え
  ていて、結果、通貨の価値が下落していた・・・では、所有
  する気にはならない。
   しかもこれは外国人も自国民も同じ。なのでその国は誰か
  らも信頼もされないだろう。無責任なお金ということでは、
  お菓子のおまけについてくる「こども銀行券」と同じだし、
  利子もお菓子もついてない。   https://bit.ly/3cL2Fbn
  ───────────────────────────

ランダル・レイ授.教jpg
ランダル・レイ授.教
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2020年03月13日

●「MMTは赤字フクロウ派に属する」(EJ第5206号)

 井上智洋駒澤大学准教授によると、MMTの支持者は、世界的
には左派の人が多いそうですが、日本の場合は、左派の支持者は
少なく、どちらかというと、右派の支持者が多いそうです。なぜ
左派の支持者が少ないかというと、国家が強権的に国民に納税義
務を課すことによって、マネー、すなわち貨幣が流通するという
租税貨幣論の考え方に、国家の暴力性が感じ取れるという点にあ
るようです。
 左派を自任する経済学者の松尾匡立命館大学教授は、これにつ
いて次のように述べています。
─────────────────────────────
 MMTは、政府が出す通貨も債務とみなす。政府が公衆に対し
て持つ徴税債権を相殺・消滅させるものという意味で、政府の公
衆に対する債務だと言うのである。この論理が成り立つには、国
民は皆もともと納税債務を国家に負っているという前提がなけれ
ばならない。これは私にはなかなか心情的に受け入れがたい前提
である。             ──松尾匡立命館大学教授
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 このところ、MMTについて、「貨幣も国債も統合政府の債務
証書であり、国民に対する債務である」ということについて論じ
ていますが、きわめてわかりにくい話になっています。国債が政
府の国民に対する借金ということはよく理解できるとしても、貨
幣も同じであるというのは、理解しにくいと思います。ちなみに
「統合政府」とは、政府と中央銀行を一緒にした表現です。
 これについては、国家と国民の間の「貸し借り」関係というも
のが、その前提としてあります。藤井聡京都大学大学院教授は、
これについて、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 そもそも国家は国民に対して、あらゆる安全を保証してやり、
インフラや基礎教育を提供してやり、衛生や治安や芸術や文化を
提供してやっている。つまり、地政学的、防災的、社会秩序的、
経済的、文化的なあらゆる意味で、「国家は国民を守っている・
庇護している」わけであり、だから国民が国民でい続ける限り、
国家に対して巨大な「借り」、あるいは巨大な「負債」「恩」が
ある状況にある。したがって、国民は、国民として生き続ける限
り、国家に対してその借り=負債=恩を、返し続けなければなら
ない。                ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 具体的に考えてみます。あるとき、統合政府は100兆円のお
金を創出し、それを使ったとします。スペンディング・ファース
トです。その一方で、ほぼ時を同じくして、60兆円の税収を得
たとすると、国民の手元には40兆円のお金、貨幣が残ります。
 ここで大事なことは、納税して国家に返済するということは、
そのお金が市場から消滅することを意味します。上のケースでい
うと、税金として納められた60兆円は市場から消滅してしまう
ことになります。
 現在、日本政府は、増税して国債の発行に頼らずに、その年の
国民生活に必要な支出がまかなえるようにするプライマリー・バ
ランスを目指しています。財政均衡主義です。民間という立場か
ら見ると、それは当然のことですし、そうすべきです。しかし、
国家という立場に立つと、それでは世のなかに流通するお金を消
滅させ、国を貧乏にする政策ということになるのです。
 さて、国民の手元に残った40兆円について、藤井聡京都大学
大学院教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この40兆円の貨幣は、確かに、国民の国家に対する「貸し」
であり、国家の国民に対する「借り」(負債)だ。しかし、その
40兆円の貨幣には、どこにも返済期日など書かれていない。仮
にそれらが現金通貨だと考えたとすれば、その一枚一枚は確かに
国家の負債であったとしても、いつまでに政府は、その負債を解
消しなければならないとは書いていないのだ。ここが、一般的な
「借金」という概念と全く違う点なのだ。(中略)
 つまりそれは、いわゆる「借金」とは到底言えない代物なので
ある。では、それが「借金」でないとするなら、一体何と呼べば
よいのかと言えば──それこそ「貨幣」なのである!その40兆
円の政府の負債は「40兆円の貨幣」「40兆円のオカネ」と呼
ぶ他にない代物なのである!──藤井聡著/晶文社の前掲書より
─────────────────────────────
 アバ・ラーナーというロシアの経済学者がいます。ケンブリッ
ジ大学でケインズに会って、ケインズ主義者になった人です。彼
は、政府が財政出動をするときは、雇用や物価の安定のため、ど
のくらい支出すべきかを考えるべきであって、そのさい、財政が
健全かどうかを考慮する必要は何もないと主張する「機能的財政
論」を展開した人です。
 ステファニー・ケルトン教授は、財政政策のスタンスを次の3
つに分類しています。
─────────────────────────────
      @赤字タカ派=短期的均衡財政主義
      A赤字ハト派=長期的均衡財政主義
      B赤字フクロウ派=反均衡財政主義
                ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 これについては改めて述べますが、日本の財務省は、基本的に
は「赤字タカ派」ですが、実際には「赤字ハト派」にならざるを
得ない状況になっています。主流経済学者のほとんどは@かAの
立場です。これに対してMMTは、Bの「赤字フクロウ派」の立
場をとります。ケルトン教授自身はBの立場を表明しています。
           ──[消費税は廃止できるか/047]

≪画像および関連情報≫
 ●私が意義を見いだす理由/MMTは新次元の政策・均衡財政
  主義の再考を=岡本英男氏
  ───────────────────────────
   福祉国家とその財政を研究テーマとしている筆者が、MM
  Tの理論を本格的に研究し始めたのは2008年のリーマン
  ・ショック後である。福祉国家実現には、完全雇用こそが、
  もっとも有効な手段である。第一次・第二次世界大戦の元凶
  も、職がないことへの庶民の不満の高まりであった。職のな
  い者を給付や税控除で救済するのも一手段ではある。しかし
  国家による雇用保障は、国民に「自分が社会で必要とされて
  いる」という自尊心を醸成もできる。
   1940年代から、主権国家は雇用を保障する制度整備に
  努めた。しかし、80年代に、米国レーガン政権、英国サッ
  チャー政権が緊縮財政や国営企業の民営化など新自由主義的
  な政策を採った。日本でも中曽根政権が国鉄などの民営化を
  進めた。一連の流れは、雇用の拡大政策を民間投資刺激型に
  転換することであった。この結果、問われるのは、政府の雇
  用保障政策ではなく、個々人が雇用される能力を持つかどう
  かになった。
   米バードカレッジのランダル・レイ教授が彼の理論支柱と
  なる『Understanding Modern Money』を世に問うた98年と
  いう時代は、民間投資刺激型の雇用拡大策が機能しないこと
  が徐々に明らかになりつつあるころだった。
                  https://bit.ly/2vYepXz
  ───────────────────────────


講演するケルトン教授.jpg
講演するケルトン教授
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2020年03月16日

●「バーニー・サンダーズは勝てるか」(EJ第5207号)

 今日のEJは、11月の米大統領選に向けた民主党候補指名争
いの現況について述べることにします。MMTを支持していると
されるバーニー・サンダーズ上院議員が善戦しているからです。
既に述べているように、MMTの主唱者の一人のステファニー・
ケルトン教授はサンダーズ氏の政策顧問を務めています。ケルト
ン教授は、前回の民主党候補指名争いでも、サンダーズの政策顧
問をして、ヒラリー・クリントン氏と戦っています。
 勝敗を決めるとされる14州の予備選が集中した「スーパー・
チューズデイ」では、ジョー・バイデン前副大統領が10州を制
し、優位に立っています。
 緒戦に優位だったビート・ブティジェッジ前インデアナ州サウ
スベンド市長、マイケル・ブルームバーク前ニューヨーク市長、
エリザベス・ウォーレン上院議員は撤退を表明し、ブティジェッ
ジ氏とブルームバーク氏は、バイデン氏支持を表明、現在、バイ
デン氏が優位に立っています。
 現在の状況について、大前研一氏は、夕刊フジのコラム「ニュ
ース時評」で次のように書いています。アメリカの事情に詳しい
大前研一氏のこのコラムは、興味ある情報が満載で、私はいつも
愛読しています。
─────────────────────────────
 私がサンダーズのアドバイザーだったら、この状況を打開する
ために、副大統領候補にエリザベス・ウォーレン上院議員の指名
を勧めるだろう。ウォーレン氏は、候補者争いから降りた後、だ
れを支持するか明らかにしていない。
 このウォーレンという女性は、男をやり込めることにかけては
天才的といってよい。民主党の候補者が集まったテレビ討論会で
も、ブルームバーク氏を昔のパワハラ、セクハラ問題でコテンパ
ンにやっつけた。ブルームバーク氏はマイク・タイソンに殴られ
たようにボコボコにされた。
 さらにサンダースとも、取っ組み合いのケンカをする勢いだっ
た。このパワー、女性問題の黒い過去を持つドナルド・トランプ
大統領相手にも通用するのではないか。
       ──2020年3月13日発行「夕刊フジ」より
          「サンダーズ氏逆転へ“最強タッグ”を」
─────────────────────────────
 エリザベス・ウォーレン上院議員は、破産法などを専門とする
大学教授を経て、上院議員に就任。大統領選に向けて富裕層への
増税案など数多くの政策を発表しています。選挙集会の後、聴衆
との写真撮影に長時間応じることでも話題となりました。支持率
でトップに立った時期もありましたが、予備選が集中した「スー
パーチューズデー」では、地元の東部マサチューセッツ州でも3
位と低迷し、撤退を表明しています。
 記者団に「大統領選からは撤退するが、理不尽な状況に置かれ
た勤勉な人々のために戦うことはやめない」と語り、今後誰を支
持するかについては「時間が必要」と明言を避けています。
 サンダース氏は、自らを社会主義者といっていますが、大前研
一氏によると、サンダース氏は真面目な人で、かなり長い間、バ
ーモント州リッチモンド市の市長を務めており、素晴らしい業績
を残しているのです。貧困層の住宅問題を解決したり、再生エネ
ルギーを利用して環境問題にも前向きで取り組むなど、単なる左
派ではない。しかし、この実績が全米に知られていないことが、
ネックになっています。
 MMTを取り入れると、現在米国の若者が苦しんでいる、学生
ローンも解決できるし、教育の無償化も実現します。それに、日
本では考えられないことですが、米国では、どんなに大金持ちや
富裕層でも、親が学費を出すことはないのです。ですから借入を
するのですが、これがかなりの負担になっていて、私立大学の平
均授業料が年間で3万6900ドル、約400万円あまりになっ
ています。このように、学生ローンを抱えている人は4500万
人もいるのです。
 それにサンダーズ氏は、ニューヨークのウォール街のことを気
にしない政策が出来る大統領候補であるといえます。富裕層から
カネをとって、貧困層に回す政策は米国の若者に受け入れられて
おり、大変人気があるのです。
 これに対して、ジョー・バイデン氏は、オバマ政権の副大統領
として知名度は高いし、黒人に人気があるといわれており、それ
に社会主義者のサンダーズ氏ではトランプ大統領に勝てないと思
われているので、このままでは、民主党の大統領候補の指名を受
けるといわれています。しかし、大前研一氏は、バイデン氏につ
いて、次のように厳しく論評しています。
─────────────────────────────
 現在、穏健派で、黒人票を持っているといわれるバイデン氏が
圧倒的に有利だとみられている。しかし、黒人票に強いというの
は本当なのか。私は疑問を持っている。
 バラク・オバマ前大統領の下で副大統領を8年やっていたとい
うことが根拠になっているだけ。オバマ氏の背後霊を使いながら
戦っているに過ぎない感じがする。だいたい、バイデン氏は、8
年の間に何か実績があるのか。息子をウクライナや中国に送り込
んで儲けさせていただけだ。
       ──2020年3月13日発行「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 民主党の大統領候補が決まっていない時点でのAIの予測では
トランプ大統領の再選はないという予測になっているそうです。
どれほどの精度かは不明ですが、トランプ大統領も万全の状態で
ないことは確かです。それに突如巻き起こった新型コロナの対策
の是非も再選に影響してくると思います。
 AIは、民主党の大統領候補をバイデン氏であると推定し、ト
ランプ敗北を予測したものと思われますが、サンダーズ氏であっ
たら、MMTも絡んで、もっと面白いことになると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/048]

≪画像および関連情報≫
 ●2020年の注目ートランプの再選はありか、なしか。
  世界はどう見る?
  ───────────────────────────
   これはおそらく、今年最大の問題ではないにしても、大き
  な問題の一つに数えられるでしょう。ドナルド・トランプ氏
  は11月に米大統領に再選されるでしょうか。
   トランプ大統領が貿易協定の再交渉や軍事同盟を推進し、
  反移民政策や入国禁止まで実施し国際的緊張を高めているこ
  とから、アメリカと他国の関係性がトランプ政権の前面に出
  ています。
   しかし、米国での選挙が近づいている今、世界が彼をどう
  思うかが、問題なのでしょうか。最近のグローバルアドバイ
  ザー調査では、トランプ氏が米大統領に再選されるかどうか
  を世界33か国の22500人以上の調査対象者に尋ねまし
  た。その結果は、人々が考えているほど明確ではなく、独自
  のナショナリストや移民排斥主義者の波により、国々の間で
  二極化が見られます。
   全体では、調査対象者の44%がトランプ氏が大統領に再
  選される可能性は低いと回答しましたが、35%は再選はあ
  り得ると考えています。
   トルコ(57%)、韓国(56%)、フィリピン(55%)、イ
  タリアとベルギー(53%)の人々は、トランプ氏が「再選さ
  れない」と回答する傾向が強く、香港(54%)、イスラエル
  (53%)、インド(48%)、米国(46%)、英国(42%)で
  は再選すると回答する傾向が強く出ていました。
                  https://bit.ly/38KfdN2
  ───────────────────────────

サンダーズVSバイデン.jpg
サンダーズVSバイデン
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2020年03月17日

●「MMTと主流派/どこが違うのか」(EJ第5208号)

 経済学には右派と左派があります。図で描くと添付ファイルの
ようになります。この図は、井上智洋駒澤大学准教授の本に出て
いたものです。添付ファイルを見てください。
 現代の経済学の中軸は「ケインズ主義」、すなわち、ケインズ
経済学です。これには、次の2つがあります。
─────────────────────────────
   1.ニュー・ケインジアン ・・  主流派経済学
   2.ポスト・ケインジアン ・・ 非主流派経済学
─────────────────────────────
 経済学を明確に分類することは容易なことではありませんが、
MMTの位置づけを明確にするするため、井上准教授の本を参考
にして、大ざっぱに述べることにします。
 軸の右に「新古典派経済学」があり、それは小さな政府を目指
す市場経済をベースにする経済学です。市場はその調整メカニズ
ムにまかせていれば、基本的には円滑に機能するばずであり、政
府が介入する必要はないと考える傾向の強い経済学です。これに
対して、軸の左には「マルクス経済学」があり、それは大きな政
府を目指す計画経済をベースとしています。
 「ニュー・ケインジアン」は、やや右寄りのポジションに位置
しており、資本主義にも肯定的であり、そのため、「ケインズ右
派」といわれます。現在、主流派経済学といわれている経済学は
これを指しています。
 これに対して「ポスト・ケインジアン」は、マルクス経済学も
部分的に取り入れており、資本主義にもそれほど肯定的ではなく
「ケインズ左派」と位置づけられます。これは、マルクス経済学
も含め、非主流派経済学といわれます。MMTは、こちらに属し
ています。
 しかし、経済学は、基本的には科学のようにどれが正しいとは
いうことができず、その違いは、考え方、捉え方の差であるとい
うことができます。これについて、井上准教授は、こういう学問
分野での部族争いについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 このように、経済学者は派閥に分かれてたがいに争い合う傾向
が高い人たちです。他の学問分野では類を見ないほど派閥争いが
盛んで、私はそれを「部族ごっこ」と呼んでいます。経済学者に
は原始的な本能を宿した人が多いのか、すぐに部族ごっこが勃発
してしまうのです。それが経済学の面白いところではあるのです
が、党派性にこだわるというのは、学者としてのあるべき姿では
ありません。学者たるもの、仲間意識や敵愾心に惑わされずに、
何が真実であるのかを徹底して考え抜くべきでしょう。(中略)
 MMTが提起する議論は、それが正しいにせよ、間違っている
にせよ、日本の経済学者にとって、いまもっとも重要なテーマと
言えます。なにしろ、政府は借金を増やすべきか、減らすべきな
のかといった大問題に関わってくるからです。
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 どのような経済学にせよ、ひとつでパーフェクトなものはない
はずです。それなら、互いに良いところを取り入れ、パーフェク
ト化を図るべきですが、どうしても、イデオロギー論争のように
なってしまうのです。
 そのため、現在のように、MMTがマスコミに取り上げられ、
脚光を浴びると、主流派のポスト・ケインジアンたちは、ろくに
MMTを十分調べようとせず、生半可な知識でMMTを「ブード
ゥー経済学」などと侮辱し、全力で叩き潰そうとします。ネット
上にはそういう論説で溢れています。
 MMTが主流派経済学と異なる論点として、井上准教授は次の
3つを上げています。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
       2.   金融政策は有効ではない
       3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 上記の3点について、ほとんどの主流派経済学者はすべて反対
の立場をとります。しかし、井上准教授は、3点について自身の
立場を次のように明らかにしています。
─────────────────────────────
 私自身は、@「財政的な予算制約はない」については賛成であ
り、A「金融政策は有効ではない」と、B「雇用保障プログラム
を導入せよ」については、頭ごなしに否定するわけではないけど
かなりの違和感や疑問があるという立場です。つまり、私もMM
Tに全面賛成ではありません。それでも、すでに述べたとおり、
現在の日本経済という文脈では、@「財政的な予算制約はない」
はとても重要な論点だと捉えており、本書のような書籍を執筆し
ているわけです。        ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 @に関しては、MMTは自国通貨建て国債のみを発行している
国の政府にとって、財政的な予算制約はないという意味です。し
かし、すべての経済は、生産と需要については一定の限界という
ものがあり、その限界とは「インフレ率」のことです。つまり、
過度のインフレにならない程度の上限があるというのです。
 インフレ率は、「総需要(=名目GDP)」と「供給能力(=
潜在GDP)」のバランスで決定されますが、主流派経済学では
インフレ率は、「おカネの発行量」により決まることになってい
ます。しかし、図らずもそれが正しくないことを証明したのが日
本であるといえます。すなわち、安倍政権のアベノミクスによっ
て、MMTは脚光を浴びることになったのです。
 それは、何を意味しているのでしょうか。これについては、明
日のEJ以降で、検討して行くことにします。
           ──[消費税は廃止できるか/049]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ財政赤字でも政府支出できる?経済学者・松尾匡氏が語
  るMMT理論に対する誤解と疑問点
  ───────────────────────────
   金利を下げても設備投資が増えない、というのはよくある
  主張ですが、景気が過熱した時に金利を上げることでインフ
  レを抑える効果自体も否定する点は非常に特異です。多くの
  人がこれは違うんじゃないかと思うところで、極端な話50
  %の金利にしたらデフレ不況に叩き落されるでしょう、と。
  ──これについて、MMT側の反論としてはどのような議論
  がありますか?
   MMTの主張としては、設備投資するかどうかは金利以外
  の様々な要因によって決まるとしています。特に将来どれく
  らい儲かるかによって決まり、金利はそれに比べれば影響を
  与えない、と。その説明としては、一つにはインフレを抑え
  るために金利を上げようとすると、金利も生産コストですか
  ら、企業は売値を決める時にコストに上乗せする。そのこと
  で、かえって物価が上がるよ、という考え方をしています。
  あるいは、金利を上げると利子収入が増え、そうした人たち
  が支出を増やすことでますます景気が過熱する、という言い
  方もします。そういった可能性もあると、言っているわけで
  す。ただ、私は設備投資が金利にどれくらい反応するかは、
  最終的には実証で決める問題だと思っていて、数字を出さず
  に今の段階であれこれ言っても仕方がない。だから、私は現
  時点では「金利をいくら上げてもインフレは抑えられない」
  というのは信じられません、と言うしかないです。
                  https://bit.ly/2QdRazt
  ───────────────────────────

経済学における右派と左派.jpg
経済学における右派と左派





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2020年03月18日

●「インフレは十分制御が可能である」(EJ第5209号)

 なぜ、安倍政権によるアベノミクスが、MMTに脚光を浴びさ
せることになったのでしょうか。これについて、経済評論家で作
家の三橋貴明氏が、ネット上の何本ものレポートで、分析してお
られるので、要約してご紹介することにします。
 MMTに反対する日本の経済学者たちは、はじめのうち、次の
ように主張していたのです。
─────────────────────────────
 MMTで財政赤字を増やすと、国債金利が急騰し、日本は財
 政破綻、デフォルト(債務不履行)する!
─────────────────────────────
 添付ファイルには、2つのグラフを付けていますが、上のグラ
フを見てください。このグラフを見ると、日本政府の長期債務残
高(左軸/兆円)は、右肩上がりで増加していますが、10年物
国債の長期金利(右軸/%)は減る一方です。
 さすがにこれを突き付けられると、MMTに反対する日本の経
済学者たちは、こそこそと論理をすり替えて、次のようにいい出
したのです。三橋貴明氏によると、日銀審議委員の原田泰氏をは
じめとするリフレ派までもがこれに同調しています。
─────────────────────────────
 MMTで財政赤字を増やすと、インフレ率上昇を制御できな
 くなる!
─────────────────────────────
 MMTでは、自国通貨建ての国債のみを発行している政府が財
政的な予算制約に直面することはないとします。しかし、経済は
生産と需要について実物的あるいは環境的な限界というものがあ
ります。それがインフレ率です。
 インフレ率は、総需要と供給能力のバランスで決まりますが、
これまでの経済学では、インフレ率は「おカネの発行量」で決ま
るとされています。しかし、2012年末に安倍政権が発足し、
2013年に黒田東彦元財務官が日銀総裁に就任すると、異次元
金融緩和政策(金融政策)が展開され、「マネタリーベース」を
約360兆円に増やしたものの、インフレ率はコアコアCPIで
ほぼゼロに終っています。
 コアコアCPIというのは、物価変動を把握しやすいように、
価格変動の大きい食料、エネルギーを除いた物価指数を意味して
います。ちなみに、エネルギーに含まれる品目は、電気代や都市
ガス代、プロパンガス、灯油、ガソリンなどです。
 「マネタリーベース」とは、預金準備と現金をまとめたもので
あり、これは中央銀行が直接発行できるお金です。預金準備とは
民間銀行が日銀に対して持つ当座預金口座にストックされている
お金のことです。これに対して実際に、世の中に出回っているお
金(現金+預金)を「マネーストック」といいますが、お金の量
を増やしてインフレ率に影響を与えるには、マネーストックを、
もっと増やす必要があるのです。
 マネタリーベースに対するマネーストックの割合を、「信用乗
数」というのですが、主流派のマクロ経済学の教科書には、「信
用乗数は一定である」と書いてあります。そうであれば、中央銀
行がマネタリーベースを増やすと、世の中に出回るお金の総量で
あるマネーストックも同じ割合で増えるはずです。しかし、実際
はそうなっていないのです。
 MMT反対派は、MMTによって財政出動した場合、いったん
インフレ率が上がり始めると、MMT賛成派は増税をするなどコ
ントロールできるというが、インフレは制御できなくなるといっ
て反論します。そこで、添付ファイルの下のグラフを見てくださ
い。ここに1990年12月から2019年9月までの日本のイ
ンフレ率が赤い折れ線グラフで示されています。青い折れ線につ
いては、ここでの話には関係がないので、無視してください。
 これを見ると、1994年以降、多くの期間でインフレ率がマ
イナスになるデフレに陥っていますが、2014年に急騰してい
ます。これは、もちろん消費税の5%〜8%への増税によるもの
です。これについて三橋貴明氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 図のインフレ率を見れば分かるが、我が国のコアコアCPIは
2014年4月に急増し、15年4月に急落した。理由はもちろ
ん、消費税増税である。消費税増税は強制的な物価の引き上げで
あるため、確かに一時的にインフレ率は高まる。とはいえ、実際
に需要が増えたわけではないため、1年後に増税による上乗せ分
が消えると、インフレ率は急落するわけだ。
 さらに重要なのは、消費税増税という財政政策による需要縮小
が、15年4月以降のインフレ率も抑制してしまったという点で
ある。コアコアCPIは、17年にマイナスに突入し、その後も
ゼロ近辺で低迷し続けている。
 つまりは、金融政策ではなく財政政策による需要の強制的な縮
小(消費税増税)がインフレ率を抑制したという「事実」が、過
去5年間の日本の「実績」により証明されたわけである。
 分かりやすく書くと、例えば、財政拡大によりインフレ率が高
まり、政府が緊縮路線に転じたとしても、インフレ率上昇が止ま
らないならば、それこそ、「消費税増税」をすればいいという話
だ。消費税は消費に対する罰金である。罰金を増やされた国民は
消費縮小に転じるため、総需要は間違いなく抑制される。結果、
インフレ率は落ち着く。       http://exci.to/2Wgmz8h
─────────────────────────────
 これではっきりしたことがあります。それは、金融政策による
インフレ率のコントロールには限界があるということです。なぜ
なら、360兆円ものマネタリーベースの拡大にもかかわらず、
日本のインフレ率を引き上げ、デフレからの脱却を実現できない
からです。デフレというのは、総需要が不足する経済現象です。
政府が財政を拡大し、需要を創出しない限り、デフレ脱却は永遠
に実現しないまま、日本はどんどん貧しくなっていきます。
           ──[消費税は廃止できるか/050]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜデフレ脱却ができなかったのか:黒田日銀の5年を振り
  返る/渡辺務氏(2018年2月6日)
  ───────────────────────────
   黒田東彦日本銀行総裁は2%の物価上昇を政策目標に掲げ
  てきたが、日本経済は、依然として達成にほど遠い状態にあ
  る。筆者は、値上げに慎重な企業行動がデフレ脱却の障害に
  なっていると指摘する。
   日銀の黒田総裁による異次元金融緩和の開始から間もなく
  5年になる。日銀は2%の消費者物価上昇を目標として掲げ
  大規模な量的緩和やマイナス金利政策を実施してきたが、現
  状、消費者物価上昇率(除く生鮮食品、エネルギー)は前年
  比0・3%(2017年12月)であり、デフレからの脱却
  を果たせていない。しかし5年間の緩和を通じ、デフレ発生
  の仕組みについて新たに見えてきたことは少なくなく、デフ
  レ脱却に向けて今後何をすべきかも明らかになった。以下で
  は企業の価格設定行動の視点から物価の現状を整理する。
                  https://bit.ly/3d227y5
  ───────────────────────────

日本政府の長期債務残高と長期金利/日本のインフレ率.jpg
日本政府の長期債務残高と長期金利/日本のインフレ率

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2020年03月19日

●「このさい消費税を0%に減税せよ」(EJ第5210号)

 新型コロナの蔓延で経済が深刻な打撃を受けつつあり、消費税
減税の話が出ています。EJの今回のテーマは、昨年来のテーマ
である「消費税」の続編としてはじまっているので、今日はこの
問題を取り上げることにします。夕刊フジの田村秀男氏のコラム
『独話回覧』などを参考にさせていただいています。
 消費増税直後の昨年10〜12月期の国内総生産(GDP)は
前期比年率換算で「マイナス7・1%」という誰もが驚く下落率
でした。これは、東日本大震災直後を上回る景気の急落です。明
らかなる増税の大失敗であるといえます。
 それに加えて、今年1〜3月期は、突然降って湧いた新型コロ
ナショックでマイナス成長が加速し、2008年9月のリーマン
・ショック後の10〜12月期の「マイナス2・4%」を確実に
下回るといわれています。2期連続のマイナス成長です。
 これに対して、消費税増税を仕組んだ内閣府の財務官僚と経産
官僚たちは、昨年10〜12月期の景気の落ち込みの主因は消費
増税ではなく、台風と温冬による農作物や道路などのインフラが
ダメージを受けた結果であるといっています。問題をすり替えて
真の原因を隠蔽する──彼らの手口ですが、またしてもこんな卑
劣な対応をやっているのです。
 こうした官僚たちや、財務省からの指令で安倍政権の提灯持ち
を務める御用経済学者たちに対して、田村秀男氏は、次のように
怒りをにじませながら、痛烈に批判しています。
─────────────────────────────
 台風被害は、東日本に集中しているのに、台風の影響を受けな
かった西日本の消費の落ち込みが激しかった。暖冬というなら、
衣料品需要への影響に集中するはずだが、小売りの売り上げ減は
全品目に及んでいる。見え見えの嘘を貫き通す閣僚、官僚やエコ
ノミストには良心のかけらもないようだ。
 コロナ恐慌不安に対し、日銀の黒田東彦総裁は小出しの追加緩
和で応じようとし、麻生太郎財務相は、財務官僚の振り付け通り
財政出動を否定する。家計消費意欲が増税によって致命的なまで
に委縮した惨状を、日銀、財務省とも無視する。財務官僚OBの
黒田氏や東大などの財務省御用経済学者たちは安倍首相に、金融
緩和によって、需要減をカバーできると弁じたが、とっくに露見
した嘘っぱちを恥じ入ることはない。
         ──2020年3月16日発行『夕刊フジ』
                「田村秀男/独話回覧」より
─────────────────────────────
 財務省は、消費増税によって個人消費がどのように落ち込もう
とも、国民がどのように反対しようとも、消費税の税率を何とか
20%台まで引き上げたいと考えています。なぜなら、財務省に
とって消費税はそれほどおいしい税金だからです。まして苦労に
苦労を重ねて引き上げた税率を「下げる」などということには絶
対に反対します。
 しかし、新型コロナウイルスの蔓延により、麻生財務相じゃな
いが、経済が未曾有の危機に陥りつつあります。そうなると、自
民党の内部からも消費税減税の声が上がっています。国民は、消
費増税をするとき、安倍首相や菅官房長官が、何度も何度も繰り
返した次の言葉を忘れていないからです。
─────────────────────────────
 リーマン級の経済危機でも起きない限り、消費増税を予定通
 り実施する                ──安倍首相
─────────────────────────────
 増税実施後のことではあるものの、そのリーマン級の経済危機
が日本のみならず、世界中で起きようとしているのです。増税の
引き下げをいまやらずしていつやるのでしょうか。
 この消費税の減税について、現在出ているのは、次の3つのプ
ランです。
─────────────────────────────
        @消費税を当分0%に下げる
        A消費税を当分5%に下げる
        B現金給付によって対応する
─────────────────────────────
 現在、自民党内部から出ているプランは、@かAですが、首相
周辺、つまり内閣府は、減税を否定し、Bを主張しています。こ
れまで減税が取り沙汰されると、必ず出てくるのはBです。しか
し、Bをやっても、その恩恵が受けられる対象は一部に限られ、
大きな効果が出ないし、すべて貯蓄に回ってしまい、消費の底上
げにはならないのです。消費税は、消費に対する罰金であり、そ
の罰金がなくなるとなれば、消費する人が増えるはずです。
 どうしても減税せざるを得ない事態に対処し、財務省は既に手
を打っているようです。財務省寄りのコメントを発信するテレビ
のコメンテーターの一部は、上記@〜Bのほかのもうひとつの提
案をしています。
─────────────────────────────
        C軽減税率を全てに拡大する
─────────────────────────────
 現在、食料品などには軽減税率として8%の税率がかかってい
ます。この軽減税率8%を全商品に拡大する案です。つまり、2
%の引き下げです。これが最も手続き的には簡単な案であるとい
われます。財務省としては、消費税の減税をどうしても行わなけ
ればならない場合、何とかCで食い止めようとしているのです。
つまり最後の砦です。
 しかし、この程度の減税ではインパクトが弱いのです。もとも
と、食料品に対する税率の8%は高過ぎます。消費税を採用して
いる国では、食料品などの生活必需品の税率はすべて0%です。
 そして、減税反対派が必ずいう言葉があります。それは「下げ
るのはいいが、元に戻すときは大変である」です。さらに「下げ
た分の財源はどうするのか」です。
           ──[消費税は廃止できるか/051]

≪画像および関連情報≫
 ●【藤井聡】最大のコロナショック対策は、「消費税凍結」で
  ある。〜「非常時には消費減税は効果が無い」を打ち払え〜
  ───────────────────────────
   驚きました。コロナ大不況で、緊急経済対策が必要なのは
  今、誰の目にも明らか。そして、そんな対策の中でも、消費
  のすさまじい冷え込みを緩和するための消費税減税、さらに
  は廃止がとりわけ効果的なのは論を待ちません。そう思って
  いると、こんなニュースが飛び込んできました。
   「非常時はみんな買い物をしないから、減税しても効果が
  ない」一体誰がこんなこと言ってるのかとよく見てみますと
  立憲民主党の枝野代表でした。  https://bit.ly/2x1JdHb
  曰く、「背景には「責任政党としての自負」(立民関係者)
  に加え、れいわ新選組の山本太郎代表が、「消費税率5%」
  を次期衆院選での野党共闘の条件にしていることがある。立
  民は国民などとの合流が頓挫したばかりで、野党が減税でま
  とまり、れいわに主導権を奪われることを警戒している」
   この報道が正しいのだとすれば、国民の暮らしよりも、自
  らの政治的利益を追求しているということですから、政権の
  持続を第一目標に掲げる現政権と何も変わらないということ
  になってしまいます。誠に情けないことこの上ない話ですが
  ・・・「今、消費減税をしても仕方ない」という意見は、与
  党の中でもよく聞きますし、そして、テレビでもコメンテー
  ター達が何度も発言しています。彼らは一様に「所得補償」
  や「融資」は賛同するのですが、消費減税、消費税凍結には
  賛同しない・・・というのは、はっきり言って、物事を何も
  分かっていないからに他なりません。
                  https://bit.ly/3b2B83I
  ───────────────────────────

koronahukyoutaisakunoshouhizeigenzeinihantaisuruedanodaihyou.jpg
コロナ不況対策の消費税減税に反対する枝野代表

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2020年03月23日

●「財政出動が足りないアベノミクス」(EJ第5211号)

 3月17日のEJ第5208号で取り上げたMMTが主流派経
済学と異なる3つの論点を再現します。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
       2.   金融政策は有効ではない
       3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 「1」について若干補足します。自民党の安倍政権が2013
年からはじめた、いわゆるアベノミクスで、世の中に流通するお
金の量や、それによる名目GDPがどうなったかについて、デー
タを整理してみます。まず、マネタリーベースの変化です。
─────────────────────────────
     ◎マネタリーベースの変化
      2013年3月 ・・・ 135兆円
      2018年4月 ・・・ 492兆円
                   3.64倍
─────────────────────────────
 マネタリーベースとは、市中に出回る現金と預金準備(民間金
融機関が日銀に設けている日銀当座預金にストックされているお
金)の合計です。マネタリーベースは、日銀が直接コントロール
できるお金です。日銀は金融機関が保有する国債などの資産を買
い取り、当座預金口座にその対価を入金します。日銀は異次元金
融緩和政策をとっており、この金額が増えているのは当然です。
 これに対してマネーストックとは、金融機関から経済全体に供
給されているお金の総量です。つまり、現金と預金の合計が、マ
ネーストックです。この量が増えると、景気が良くなります。
─────────────────────────────
     ◎マネーストックの変化
      2013年3月 ・・・ 844兆円
      2018年4月 ・・ 1003兆円
                   1.19倍
─────────────────────────────
 市中に流通する現金、すなわち、マネーストックを増やすには
民間銀行がマネタリーベースを企業や政府に積極的に貸し出せば
よいのです。そして、その増えたお金によって、財やサービスの
購入が行われると、それに応じて名目GDPが増えます。
─────────────────────────────
     ◎名目GDPの変化
      2013年 ・・・ 503兆円
      2018年 ・・・ 556兆円
                 1.11倍
─────────────────────────────
 このように数字を並べてみると、日銀は異次元金融緩和を継続
し、マネーストックを3・64倍と、大幅に増やしているものの
マネーストックの増加率は今ひとつです。これは、民間(企業・
個人)がもっと借り入れを増やし、マネーストックを増加させな
いと、景気を良くすることはできないのです。
 つまり、金融政策には限界があり、金融政策と財政政策を一緒
にやる必要があります。安倍政権は金融政策に頼り過ぎており、
そのためマネーストックの伸びは今一つとなっています。
 それにしても、政府は、デフレにもかかわらず、なぜ財政出動
をためらうのでしょうか。いまは、増税をやっているときではな
いのです。安倍政権がアベノミクスにおいて財政出動をしたのは
最初の一年間だけであり、その後2回にわたり、消費税の税率を
5%引き上げています。超緊縮政策です。安倍首相は、自分が何
をしているかわかっていないようです。日銀の異次元緩和と合わ
せてせっかく調子よくスタートできたのに、2回の増税でその成
果を潰し、ふって湧いた新型コロナウイルスの蔓延で日経平均株
価は下落し、安倍政権発足時の水準に戻りつつあります。
 新型コロナウイルスの蔓延で、多くの国は鎖国状態になり、人
の動きが制限され、経済がパニックに陥りつつあります。こうい
うときは、一刻も早く現金を支給する必要があります。
 このとき、トランプ米政権は素早く1兆ドル(約107兆円)
規模の経済対策を打ち出していますが、これは正解です。この金
額は米国にとって過去最大の大きさです。ちなみに、リーマンシ
ョック時の米国の経済対策は次の通りです
─────────────────────────────
      ◎2008年金融危機/ブッシュ政権
                7000億ドル
      ◎2009年金融危機/ オバマ政権
                7800億ドル
─────────────────────────────
 安倍政権でも、所得制限なしに、国民一人1万円とか2万円と
かの現金給付を考えているようであるが、この程度の金額では、
まったく意味をなさないのです。スケールが小さすぎるといって
よいでしょう。
 現在のこのような事態を受けて、3月13日、経済学の教科書
でも有名な米国の経済学者、グレゴリー・マンキュー・ハーバー
ド大学教授は、ブログで次の提言をしています。マンキュー教授
は共和党寄りの経済学者です。
─────────────────────────────
 手始めにすべての米国人に1000ドル(約11万円)の小
 切手を可能な限り早急に送るべきだ。 ──マンキュー教授
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、マンキュー教授からの提言を受けて、2週
間以内に、国民1人当り、1000ドル以上の支給を含む最大1
兆2000億ドル規模の経済対策を打ち出すとアナウンスしてい
ます。トランプ大統領としては、この時点で経済が失速すると、
大統領選挙に影響してくるので必死です。
           ──[消費税は廃止できるか/052]

≪画像および関連情報≫
 ●米、新型コロナで1兆ドルの経済対策 現金給付盛る
  ───────────────────────────
   【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権は17日、新型
  コロナウイルスによる経済不安を抑えるため、総額1兆ドル
  (約107兆円)の景気刺激策の検討に入った。ムニューシ
  ン財務長官は「極めて大きな経済対策となる。米国民に小切
  手を直接送る施策を検討している」と述べ、現金給付を盛り
  込む考えを明らかにした。ボーイングなど米航空関連企業へ
  の支援策などと合わせ、17日中に詳細を固めたい考えだ。
   ムニューシン財務長官は17日、与野党の議会指導部と相
  次いで会談し、大型の景気刺激策の詰めの協議に入った。同
  長官は「1兆ドルの経済対策を提案した。極めて大きな景気
  刺激策となる」と記者団に述べた。トランプ大統領は労使が
  負担する給与税の免除を提案。新型コロナで売上高が急減す
  る航空会社や宿泊業などの資金支援も盛り込む。
   今回の経済対策が1兆ドル規模となれば、連邦政府の年間
  歳出(4・7兆ドル)の2割を超える異例の大型景気対策と
  なり、2008年のリーマン・ショック直後の緊急対策を上
  回る規模となる。08年時は銀行への公的資金注入や自動車
  メーカーへの資金支援などを目的に、ブッシュ政権(当時)
  が7000億ドルの緊急予算を用意。翌09年にオバマ政権
  がインフラ投資や失業保険の拡充などを目的に、7800億
  ドル規模の景気対策を成立させた経緯がある。
               https://s.nikkei.com/2U1vxVA
  ───────────────────────────

マンキューハーバード大学教授.jpg
マンキューハーバード大学教授
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2020年03月24日

●「金融政策は有効ではない/MMT」(EJ第5212号)

 MMTが主流派経済学と異なる3つの論点をさらに再現するこ
とにします。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
     → 2.   金融政策は有効ではない
       3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 このうち、「1」については説明が終わっているので、「2」
の「金融政策は有効ではない」について考えます。
 MMTの経済学者であるポスト・ケインジアンは、主流派経済
学派のニュー・ケインジアンが信奉する金融政策の有効性につい
ては否定的です。厳密にいうと、よって立つ貨幣供給理論が異な
るのです。
─────────────────────────────
   ニュー・ケインジアン ・・ 外生的貨幣供給理論
   ポスト・ケインジアン ・・ 内生的貨幣供給理論
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 難しい経済学の理論はやめてごく簡単にいうと、上記の2つの
貨幣供給理論の違いは、中央銀行の金融政策によって世の中に流
通するお金の量(貨幣量)をコントロールできるかどうかにあり
ます。コントロールできるという主流派のニュー・ケインジアン
に対して、コントロールできないとするポスト・ケインジアン、
すなわち、MMTが対立しているわけです。
 そもそも金融政策とは、物価の安定を通して日々の暮らし、す
なわち経済が、健全に発展するよう金融を調整することであり、
中央銀行がその役割を担っています。日本の場合は、日本銀行、
ユーロ圏は欧州中央銀行(ECB)、米国は連邦準備理事会(F
RB)が中央銀行です。
 日銀とECBはの場合、その目的は、物価の安定を図ることと
金融システムの安定を確立することですが、FRBの場合、物価
と金融システムの安定に加えて、完全雇用の達成も政策の目的に
加えています。ここで「完全雇用」というのは、失業者がゼロに
なる状態ではなく、働く意欲と能力のある人が、その時の賃金水
準ですべて雇われている状態のことです。
 ところで「景気が良い」というのは、どういう状態をいうので
しょうか。これについて、法政大学大学院政策創造研究科教授の
真壁昭夫氏は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 世界の主要な中央銀行は、1年間で2%の物価の上昇率が物価
を安定させつつ経済が持続的な成長を実現するために適している
と考えています。日銀も、2%の物価目標の実現を目指していま
す。この2%(消費者物価指数の前年同月比で見た変化率)とい
う数字の根拠に関しては、様々な議論があります。
 まず、物価上昇率が年間プラス2%ということは、物価が上昇
しているということです。物価が上昇しているということは、需
要(人々がモノをほしいと思う気持ち)が高まっているというこ
とです。これは、経済の成長に欠かせません。多くの国の中央銀
行が2%の物価上昇率を目指すことは、グローバルスタンダード
だとしています。経験則として、1%の物価上昇率よりも2%の
物価上昇率を目指したほうが、長い目線で経済の安定を目指し、
景気が減速した際の対応も進めやすいとの見方が多いです。各国
の中央銀行は、人々が安定した経済環境の中で、お金の価値に不
安を感じることなく、成長を享受していくためには2%の物価上
昇率が適していると考えています。      ──真壁昭夫著
   『MMT(現代貨幣理論)の教科書/日本は借金し放題?
       暴論か正論かを見極める』/ビジネス教育出版社
─────────────────────────────
 日本は、安倍政権の2013年4月から、日銀が「2年間で2
%の物価上昇を実現する」ことを強くコミットして、異次元金融
緩和政策(量的質的金融緩和)を展開していますが、7年にもな
る現在も、目標を達成できていません。何かが間違っているので
す。その反動として、現在、クローズアップしてきているのがM
MTです。
 添付ファイルとして、「わが国の消費者物価指数の推移」のグ
ラフを付けていますが、これは真壁昭夫教授の本に出ていたもの
です。同じようなグラフを3月18日のEJ第5209号でもつ
けています。今回のグラフは、生鮮食品を除いたコアCPIと、
それに加えてエネルギーを除いたコアコアCPIの両方が出てい
るのでわかりやすいと思います。これについて、真壁昭夫教授は
次のように解説しています。
─────────────────────────────
 エネルギーや生鮮食品の価格は、天候や原油価格の動向に左右
されます。それを含んだCPI総合は、上下に振れを伴いつつも
前年同月比でみた場合に安定的に2%程度の水準を維持できてい
ません。なお、2014年のCPIの上振れは、消費税率の引き
上げの影響によるものです。また、コアCPI、コアコアCPI
は、前年同月比1%の上昇率を維持することも難しいのが、実情
です。             ──真壁昭夫著の前掲書より
─────────────────────────────
 これでわかったことがあります。金融政策には限界があるとい
うことです。7年やっても目標が達成できないということは、や
り方が間違っているのです。そういう意味でアベノミクスは、日
銀の金融政策に頼り過ぎであり、その一方で2回にわたって増税
をして、経済成長の足を引っ張っています。
 物価上昇率が2%ということは、経済が成長している──需要
が高まっていることを意味します。つまり、MMTでは、そのた
めにこそ、積極的な財政出動が必要であると説いているのです。
           ──[消費税は廃止できるか/053]

≪画像および関連情報≫
 ●骨太解説「日本の金融政策」がかくも無力なワケ
  ───────────────────────────
   現在、日本はじめ世界の先進諸国は一様に異常な経済状況
  に直面している。ゼロないしマイナスの金利、天文学的とも
  言うべき金融の量的緩和にもかかわらず、多くの経済はいま
  だ力強い回復を取り戻せていない。
   なぜバブル崩壊後の経済が長期不況に苦しまなければなら
  ないのか。なぜ伝統的な金融政策はそうした不況に対して総
  じて無力なのか。なぜ財政赤字が拡大しているのに長期金利
  が低下するのか。
   こうした疑問に答える書として、リチャード・クー氏の新
  刊『「追われる国」の経済学』が高い評価を受けている。経
  済学の重鎮である藪下史郎氏が、クー氏が展開している経済
  理論の本質について読み解く。
   『「追われる国」の経済学』(以下、本書)で展開される
  議論の基礎となるクー氏の日本経済の捉え方は、以下のよう
  にまとめることができるだろう。
   資金の主たる借り手は民間企業であるが、高度成長期にお
  いては設備投資のための資金需要が旺盛であり、とくにアメ
  リカなどの先進国の後を追う形で投資を拡大するため資金需
  要も増加した。そのときには物価・賃金も上昇してきた。こ
  の期間のことを黄金時代と呼んでいるが、日本は成熟経済で
  あった。しかし、物価・賃金の上昇と新興国による追い上げ
  によって、日本経済の国際競争力が低下し、市場が奪われる
  ことになる。          https://bit.ly/3a9h2ob
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典/──真壁昭夫著の前掲書より


わが国の消費者物価指数の推移.jpg
わが国の消費者物価指数の推移




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2020年03月25日

●「なぜマネーストックと改称したか」(EJ第5213号)

 どうしたら、景気を良くすることができるでしょうか。
 素人判断ですが、ここにひとつの答えがあります。それは、世
の中に流通するお金の量を増やせば、景気が良くなるというもの
です。これをめぐる経済学の論争は数多くあります。印象に残っ
ている例として、当時上智大学教授であった岩田規久男氏と日本
銀行金融研究所の翁邦雄氏との論争です。
─────────────────────────────
 ◎岩田規久男氏
  マネタリーベースを増やせば、マネーストックも増大する
  はずであり、日銀は不況解消のための役割を果たしている
  といえない。
 ◎  翁邦雄氏
  日銀は資金需要に応じてマネーストックが増大し、それに
  順応するように日銀はマネタリーベースを増大させている
  だけである。
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 ここで翁邦雄氏がいいたいことは、「マネーストックもマネタ
リーベースも内生的に決定されるので、日銀はマネーストックを
コントロールできない」ということです。これは、「日銀理論」
といわれ、これまで日銀がずっと死守してきた考え方です。
 日本のデフレ不況が深刻化した1998年時の速水優総裁以来
2003年の福井俊彦総裁、リーマンショック直後の2008年
の白川方明総裁──とくに白川総裁に関しては、「なぜ、引き締
めばかりやっているのか」と、率直にいって、私自身、日銀の対
応に不満を抱いたことはたくさんありますが、すべてこの日銀理
論に原因があったようです。
 日銀理論に深く関連しているのは「マネーストック」という言
葉です。これは、世の中に流通している「預金+現金」のことで
国際的には「マネーサプライ」と呼ばれているものです。日本で
も同じマネーサプライという言葉を使ってきたのですが、白川方
明総裁時の2008年に「マネーストック」に変更しています。
「マネーをサプライできない」という意味で、名称を変更したも
のと思われます。日銀にとって、日銀理論はそれほど重要な考え
方なのです。
 日銀理論を信奉する白川前日銀総裁について、白川氏の師匠で
ある浜田宏一イエール大学名誉教授は、ブログにおいて、「白川
総裁には何度も失望させられた」とし、日銀理論とは何かについ
ては、畏友の若田部昌澄教授が2008年に書いた原稿から、次
のように引用しています。
─────────────────────────────
 私のみるところ、それ(日銀理論)は「一連の限定句」、平た
くいうと「できない集」である。つまり、原則として日銀は民間
の資金需要に対して資金を供給しているので、物価の決定につい
ても限定的であり、とりうる政策手段も限定的であり、政府との
協調関係も限定的であるべきというものである。たとえば、長期
国債の購入によって貨幣供給量を増やすということは、それが財
政政策の領分に入るので禁じ手であるとされる。
──「PHPビジネスオンライン衆知」https://bit.ly/3acgZrF
─────────────────────────────
 しかし、2013年に黒田東彦総裁になると、日銀理論の反対
者である岩田規久男氏が副総裁に就任したことによって日銀は一
変し、積極性を見せています。現在、岩田副総裁は退任しました
が、若田部昌澄氏が副総裁になっています。
 しかし、黒田総裁によって、これまでの日銀では考えられない
異次元金融緩和が行われていますが、7年経過した現在でも、目
標であるインフレ率の2%は依然として達成できていません。や
はり、何かが間違っているのだと思います。
 以上のように、MMT派は「金融政策は不安定であり、あてに
できない」としています。金融政策というのは、中央銀行が行う
政策で、お金の量や利子率を操作して、インフレ率や失業率を調
整することを目的としています。
 それでは、何を持ってインフレ率や失業率を調整するかという
と、「雇用保障プログラム」というものをMMTでは用意してい
るのです。
 ここで、MMTが主流派経済学と異なる3つの論点の再現をす
ると、3つ目に「雇用保障プログラム」が出てきます。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
       2.   金融政策は有効ではない
    →  3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 「雇用保障プログラム」は、Job Guarantee Program のことで
JGPと略して呼ばれます。これは、職を求める失業者を政府が
すべて雇い入れ、仕事をさせるプログラムです。どうして、これ
によって金融政策のようなことができるかについて、井上智洋駒
澤大学准教授は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 景気が悪いときに、経済はデフレ気味になります。その際、J
GPが導入されていれば、失業者をたくさん雇い入れるために政
府支出が増えて、それによって景気が刺激され、物価の下落が抑
えられます。逆に、景気が良いときに、経済はインフレ気味にな
ります。そうすると、民間の雇用が増え賃金も上昇するので、政
府に雇われていた人はもっと給料の高い仕事を求めて民間企業に
務めるようになるので、政府の支出が減ることにより景気が抑制
され、インフレ率は低下します。   ──井上智洋著『MMT
        /現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/054]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀が「意味不明ガイダンス」を出した理由/小幡績氏
  ───────────────────────────
   私の予想は外れた。前回(9月18〜19日開催)の金融
  政策決定会合後、黒田東彦日銀総裁は次の10月末の金融政
  策決定会合では必ず何かをする、というメッセージを打ち出
  したから、何かをせざるを得ず、しかし、実際には何をやっ
  てもマイナスだから、マイナスが最低限と思われるマイナス
  金利の拡大をする、と私は前回のコラム「日銀は必ず動くは
  ずだが、一体何ができるのか」で予想した。これは見事に外
  れた訳だが、なぜ外れたのだろうか。私しか関心がないかも
  しれないが、将棋では、対局後の感想戦が強くなる最短コー
  スと言われる。次の予想へ向けて反省会をしてみよう。
   まず、アメリカが追加利下げをしたというのは予想通り。
  日銀の金融政策決定会合の一日目と二日目の間に公表され、
  パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見が
  行われた後に、日銀の決定、黒田総裁会見だから、なぜアメ
  リカは3回連続利下げ、欧州は量的緩和再開、というフルサ
  ービスなのに、日銀だけなぜ何も金融市場にサービスしてく
  れないのか、円高が進んでもいいのか、という批判がくるは
  ずだった。しかし、欧米の動きは予想通りだったにもかかわ
  らず、日銀が利下げしなくとも、批判はこなかった。批判が
  こないならあえて悪い政策である利下げをすることほど愚か
  しいことはない。だから利下げしなかったのは合理的だが、
  問題はなぜ批判されなかったのか、ということだ。
                  https://bit.ly/2QBtmWO
  ───────────────────────────

iwatanitiginhukusousaitokurodanitiginsousai.jpg
岩田日銀副総裁と黒田日銀総裁
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2020年03月26日

●「『雇用保障プログラム』とは何か」(EJ第5214号)

 MMTが、経済政策の中軸に据えている「雇用保障プログラム
(JGP)」とは、具体的に何でしょうか。
 すべての経済政策の目的は、「国民の幸福の確保と拡大」にあ
ります。重要なのは、それを左右するのが「失業率の低減」であ
ることです。多くの不幸の原因は「貧困」にありますが、その多
くは、「失業」によってもたらされるからです。
 添付ファイルをご覧ください。2つのグラフがありますが、上
のグラフを見てください。これは1978年から2018年まで
の「自殺者数の推移」をあらわしています。
 グラフのスタート時点の自殺者は、年間約2万人です。総数の
推移を目で追っていくと、バブルが崩壊した1990年頃から自
殺者はゆるやかに増加していることがわかります。
 1997年には自殺者は約2万4千人になり、デフレに突入し
た1998年には3万2千人に跳ね上がっています。それ以来約
10年間、3万2千人のレベルに高止まりしています。これが下
落をはじめるのが2010年以降です。この頃から雇用状況は少
しずつ改善をはじめ、安倍政権になってから、失業者は大きく減
少すると、2018年頃には、1978年当時の2万人のレベル
までまで減少しています。不況は自殺者を増やすのです。
 続いて下のグラフを見てください。これは賃金の推移をあらわ
しています。2015年を100として設定しています。バブル
崩壊後の1990年以降も賃金は伸びていますが、デフレのはじ
まる1998年以降、一貫して低下しています。
 「名目賃金」とは、給料などの額面をあらわし、「実質賃金」
は、名目賃金の物価に対する割合をあらわしています。平成のは
じまりは1989年ですが、以来30年間、実質賃金は一貫して
下落しています。実質賃金の低下は、給料で購入できるものの量
が減ったことをあらわしており、それだけ貧乏化が進んだことを
意味します。主要国でこんな異常事態になった国は日本のみ。日
本は経済政策を完全に間違っているのです。それを端的にあらわ
しているのは次の事実です。
─────────────────────────────
      ◎一人当たり名目GDP
       2000年 ・・・・・  2位
       2017年 ・・・・・ 25位
─────────────────────────────
 それでは、JGPとは、どのようなプログラムでしょうか。藤
井聡京都大学大学院教授は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 失業者が一定以上存在するような状況において、公務員を増や
したり公共投資などを行って雇用を生み出し、失業者がいない完
全雇用を目指すと同時に、政府が設定した最低賃金を実現させる
ことを目指す政策である。したがって、JGPはこれまで雇用保
障プログラムや、就労保障プログラム等と呼ばれてきたが、ここ
では、そのJGPが賃金水準の確保も明確に視野に収めたもので
あることから「就労・賃金保証」プログラムと呼称する。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 この「就労・賃金保証」プログラムは、1929年の世界大恐
慌のさい、米国は「ニューディール政策」として行っています。
このニューディールという言葉は、「新規まき直し」という意味
の思い切った経済政策のことをいいます。
 このプログラムは、政府が「最後の雇い手」としての役割を担
い、民間では雇ってくれない人々を対象とし、政府が直接的な雇
い手となり、完全雇用を目指します。世界ではじめて、ジョン・
メイナード・ケインズの理論を取り入れた経済政策ともいわれて
います。この「最後の雇い手」という言葉ですが、資金不足に陥
った銀行が、他の銀行からお金を借りることができなくなったと
きに、中央銀行が「最後の貸し手」としての役割を果たすという
ことになぞらえています。
─────────────────────────────
  ◎最後の貸し手  Lender of Last Resort  ELR
  ◎最後の雇い手 Employer of Last Resort  LLR
─────────────────────────────
 大恐慌のさいは、大規模な治水事業や道路事業を展開し、全国
で1300万人もの人々を雇用しています。このさい、政府が作
り出す就労機会の賃金はどのように設定されるのかというと、政
府が想定する「最低賃金」になります。最低賃金のレベルは、普
通に生活をしていける最小必要限のレベルに固定されます。そう
することによって、それ以下の賃金で働いている、ブラック企業
の労働者に転職を促し、吸収できます。そうなると、そういうブ
ラック企業では働き手が奪われていき、労働賃金を上げることに
よって、脱ブラック化が進むことになります。
 もし、景気が回復すると、当然のことながら、より高い賃金を
保証する民間企業が増えるので、労働者はそのような企業に転職
して行くことになります。これについて、井上智洋教授は次のよ
うに説明をしています。
─────────────────────────────
 政府がJGPで雇用する労働者の賃金は、「基本的公共部門賃
金」と言われています。ここでは、たんに「基本賃金」と呼ぶこ
とにします。仮に、JGPの賃金を時給1500円と決定したと
しましょう。そうすると、民間企業では、1500円以上の時給
に設定しないと、労働者を雇用することはできません。コンビニ
でのバイトの時給が1200円だったら、労働者はそのバイトを
辞めてJGPのほうに参加することでしょう。したがって、基本
賃金は、事実上最低賃金になるのです。    ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/055]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTの雇用保障プログラムが目指すものとその限界
  ───────────────────────────
   ネット界隈では非主流派経済学の一つMMTは、しばらく
  話題になりそうだ。毎日新聞のコラムで取り上げられている
  し、日経新聞でも紹介された。しかしメディアではまだMM
  Tの柱の一つ、雇用保証プログラム(JGP)について注目
  されていない。MMT教祖たちの長い議論でもはっきり言及
  されているので、これを無視してMMTは理解はできない。
   このように書くと、なにやら壮大な仕掛けな気がするが、
  JGPの概要の説明は難しくない。政府や地方自治体が最低
  賃金で雇用を用意し、望む全員に提供するというものだ。M
  MT教祖は、総需要管理政策で雇用を増やすのではなく、J
  GPによってルーズな完全雇用をインフレなしで実現すると
  している。           https://bit.ly/2vKQtXF
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典/──井上智洋著の前掲書より

自殺者数の推移と名目賃金指数・実質賃金指数の推移.jpg
 自殺者数の推移と名目賃金指数・実質賃金指数の推移
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2020年03月27日

●「政府はエリートでなければならぬ」(EJ第5215号)

 「ハーヴェイ・ロードの前提」という言葉があります。ジョン
・メイナード・ケインズが、英国のケンブリッジのハーヴェイ・
ロード6番地に住んでいたことから、そう呼ばれます。一国を治
める者は「ハーヴェイ・ロードの前提」を満たす必要があるとい
うように使われます。これは、次のことを意味する言葉です。
─────────────────────────────
 「ハーヴェイ・ロードの前提」とは、政府は民間経済主体より
も優れた政策判断を下すことができる。     ──ケインズ
─────────────────────────────
 これに似た言葉にプラトンの「哲人政治」があります。これは
古代ギリシアの哲学者プラトンが、その著書『ポリテイア』にお
いてあらわした政治理念であり、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
 政治とは「正義」を実現することであり、善のイデアによって
国民を導くことであるから,哲人が王となるか、あるいは、王が
哲人とならなければ,実現されない。      ──プラトン
─────────────────────────────
 要するに、これらは「高度に学問を修めた賢いエリートが国を
治めなければならない」ということをいっているのですが、単な
る理想論に過ぎません。なぜなら、民主的に選挙で選ばれたリー
ダーというものは、どうしても大衆受けを狙った愚かな選択をし
てしまうものだからです。
 ジェームズ・M・ブキャナンという米国の財政経済学者がいま
す。彼は次の本のなかで、「ハーヴェイ・ロードの前提」、すな
わち、ケインズ主義的財政政策を批判しています。
─────────────────────────────
 ケインズは、少人数の知識エリートによる政策運営を理想とし
ていただけでなく、現実の政治も基本的には、そのように動いて
いると想定していたのである。──ジェームス・M・ブキャナン
      &リチャード・E・ワグナー共著/大野一(翻訳)
         『赤字の民主主義/ケインズが残したもの』
                   日経BPクラシックス
─────────────────────────────
 要するにブキャナンは、選挙で選ばれた政治家の下でケインズ
政策が行われている限り、財政赤字が巨額化することは避けられ
ないというのです。むしろ、選挙で選ばれたわけではない中央銀
行のエリート官僚の手で行われる金融政策の方が、「ハーヴェイ
・ロードの前提」を満たすともいっています。
 伝統的なケインズ政策において、景気が悪いとき政府は、道路
や橋を建設するなどの公共事業を行い、雇用を確保するとともに
景気を刺激し、逆に景気が良いときは、インフレにならないよう
に、政府支出をコントロールする──これらは、政治家の裁量に
よって行われます。
 このような裁量的なコントロールではなく、状況に応じて的確
に正しい措置が自動的に行われる装置のことを経済学では、次の
ようにいいます。
─────────────────────────────
   ビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)
                 built-in stabilizer
─────────────────────────────
 藤井聡京都大学大学院教授は、所得税と法人税には、一種のビ
ルト・イン・スタビライザー機能が、備わっていると述べていま
す。これについて説明します。
 所得税には「累進性」があります。所得が高ければ高いほど、
所得税率が高くなっていく仕組みです。もし、所得が150万円
であれば税率は5%ですが、所得が500万円になると、20%
もし1000万円なら33%、4000万円以上であれば45%
になります。
 デフレになると、多くの人の所得が下がり、税率が下がれば下
がるほど、自動的に減税されることになります。そのため、所得
税による所得の下落を緩和し、それを通して家計の消費の拡大が
もたらされ、貨幣循環量が拡大されます。これに対して、インフ
レになると、税率が上がり、それを通して貨幣循環量の拡大が抑
止されることになります。
 法人税の場合はどうでしょうか。法人税は「売り上げ」にかか
るのではなく、「利益」にかかります。景気が良くて黒字経営に
なれば法人税は支払わなければなりませんが、景気が悪く赤字経
営になると、法人税の支払いは免除されます。所得税と同様に、
法人税も、日本の場合は景気の動向によって20%から0%へと
自動的に減税されます。これによって、デフレ圧力は自動的に軽
減されることになります。
 これに対して、所得税、法人税にみられるビルト・イン・スタ
ビライザー機能が付いていないのが消費税です。しかし、藤井教
授は、消費税に一種のビルト・イン・スタビライザー的機能をつ
けることは、不可能ではないといいます。消費税は、市場におけ
るマネーの循環そのものに対する徴税であり、貨幣循環量を直接
的、かつ、効果的に調整するものとして機能します。消費税の税
率を「インフレ率」に連動させるのです。藤井教授はこれについ
て、カナダの例を上げています。
─────────────────────────────
 カナダでは、1990年までは「付加価値税」(日本で言う消
費税)が導入されていなかったが、80年代後半はインフレ率は
4%を超えていた。こうした状況の中、1991年に付加価値税
を7%で導入したところ、90年代のインフレ率はおおよそ2%
を下回る水準に抑制された。一方で、景気後退局面に入った20
06年7月に、月に5%へと引き下げられた。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/056]

≪画像および関連情報≫
 ●ハーヴェイロードの賢者はいずこ
  ───────────────────────────
   今の日本社会は、ひどく混乱をしているようにみえます。
  国民の気持ちや願いが、政治に反映されているようにはみえ
  ません。経済や金が重要課題として、政策がつくられていま
  す。一方で、拝金的な行為を蔑み、幸福や満足度などを重視
  している多くの個人がいます。社会的弱者や若者を守り育て
  る社会であるべきだとわかっていながら、しわ寄せがいく仕
  組みが、日本では徐々につくりあげられています。
   テレビや紙面ではコメンテータや評論家が、好き勝手な意
  見を述べますが、だれもその発言に責任は負いません。責任
  を問われるようなジャーナリズムは、横並びの報道や意見、
  あるいは社の方針に基づいた考えしか述べていません。発言
  に責任を持つべき政治家も、言葉尻やささやかな不祥事は追
  求され、ポストを追われます。しかし、政治生命を立たれる
  ことなく、発言力を持っています。国を危険に陥れるような
  もっと大きな政策の誤りに対しては、だれも責任を取りませ
  ん。みんなが、このような間違いに気づいているはずです。
  かつての世界には、賢者と偉大なる指導者がいました。偉大
  なる指導者が、賢者の判断に基いて、混乱した世の中を治め
  ていたことがありました。日本でも、偉大な武将にはよい軍
  師が革命の英雄には賢者の思想がありました。そのような賢
  者が存在したのは、明治維新から明治ころまででしょうか。
                  https://bit.ly/3drVvcr
  ───────────────────────────

ジェームズ・M・ブキャナン.jpg
ジェムズ・M・ブキャナン
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2020年03月30日

●「日本のウイルス封じ込めの考え方」(EJ第5216号)

 新型コロナウイルスの蔓延が止まらず、行動を制限されるなか
うっとうしい毎日が続いてます。各企業では、ちょうど新年度を
迎えるこの時期に感染のピークが来つつあるので、入社式、新入
社員研修などの年度始の恒例行事に重大な影響が出ています。
 新型コロナウイルス蔓延の問題は、経済全般に深刻な影響を及
ぼし、一部野党の掲げる消費税減税の実現の可能性も出ているの
で、関連話題として取り上げ検討します。膨大な赤字国債も発行
せざるを得ないので、MMTが嫌でも関心のマトになります。
 ウイルス蔓延の問題は、連日ワイドショーで取り上げられ、い
つも見ていますが、一番内容が濃かったのは、22日(日)放映
の『NHKスペシャル/パンデミックとの闘い』です。ネット上
で映像を見つけたので、ご覧になっていない方は、ぜひ視ていた
だきたいと思います。ただし、4月3日/17時で映像は見られ
なくなります。
─────────────────────────────
   ◎2020年3月22日放映
    『NHKスペシャル/パンデミックとの闘い〜
          感染拡大は封じ込められるか〜』
                      65分
              https://bit.ly/2QQmjcK
─────────────────────────────
 この番組には、ワイドショーには一回も出演していない厚労省
クラスター対策班のメンバーの一人、押谷仁東北大学大学院医学
系研究科微生物学分野教授が出演していますが、この専門家の発
言がとくに注目されます。
 まず、3月27日正午の時点での感染者数の多い各国の数値を
押さえておきます。
─────────────────────────────
            感染者数    死亡者数
     米国    85505    1288
     中国    81340    3292
     イタリア  80589    8165
     スペイン  56188    4089
     ドイツ   43938     267
     イラン   29406    2234
     フランス  29155    1696
     英国    11658     578
     スイス   10714     161
     韓国     9332     139
     日本     1387      46
                  https://bit.ly/3arCncy ─────────────────────────────
 こうして見ると、日本の感染者数と死亡数の少なさは群を抜い
ています。しかも、日本は中国と距離的にも近く、相互交流も多
いのに、この数字は明らかに少な過ぎます。そのため、日本はオ
リンピックが迫っている関係上、あえて検査数を絞って、感染者
の数を少なくしているのではないかと、海外から疑いの目が向け
られています。日本人のなかにも、そう思っている人は少なくな
いと思います。
 しかし、上記の『NHKスペシャル』で、押谷仁教授は少し違
う意見を述べています。その部分をご紹介します。
─────────────────────────────
アナ:日本は、検査数が少ないので、見逃している感染者が多数
 いるのではないかという指摘もあるんですが。
押谷:本当に多数の感染者を見逃しているのであれば、日本でも
 既にオーバーシュートが起きているはずです。しかし、現実に
 オーバーシュートは起きていない。日本のPCR検査は、クラ
 スターを見つけるために十分な検査がなされていて、そのため
 に日本では、オーバーシュートは起きていない。
  実は、このウイルスは、80%の人はだれにも感染させてい
 ないのです。つまり、このウイルスは、全ての感染者を見つけ
 ないといけないウイルスではないのです。クラスターさえ、見
 つけられていればある程度制御できる。むしろ全ての人に、P
 CR検査を受けさせるということになると、医療機関に多くの
 人が殺到して、医療機関で感染が拡がってしまう危険があって
 むしろPCR検査を抑えているのです。その結果において、日
 本はこの状態で踏みとどまっているのです。──押谷仁教授/
      『NHKスペシャル/パンデミックとの戦い』より
─────────────────────────────
 押谷教授がいう「このウイルスは、全ての感染者を見つけない
といけないウイルスではない」という部分が重要です。このウイ
ルスは感染しても、とくに若い人の場合、そのまま治ってしまう
ケースが多いのです。しかし、そういう人が密閉空間にいると、
大勢の人が感染するリスクが高くなります。だから、密閉空間の
集会など、国民の行動を規制せざるをえないのです。
 しかし、片っ端から検査すれば、そういう軽い感染者も含めて
大勢の感染者が見つかり、隔離しなければならなくなります。そ
うなると、隔離場所の確保が困難になり、病院でも院内感染とい
うクラスターが発生し、重症者を受け入れることができず、医療
崩壊が起こりかねなくなります。院内感染が恐いのは、医師も感
染してしまうことです。
 そうであるなら、有限の受け入れ可能な病床数を念頭に置いて
そこに重症者のみを受け入れ、治療する方がベターであるという
のが日本の考え方のようです。しかし、多くのクラスターが発生
し、それが結合すると、まさにオーバーシュートが起きてしまい
イタリアのように重症者でも治療できない悲惨な医療崩壊が起き
てしまいます。心配なのは、押谷先生が映像を見る限り、とても
お疲れのように見えることです。日本の医療の優秀性は、死者の
少ないことで証明されています。医療崩壊だけは絶対に起こして
はならないのです。  ──[消費税は廃止できるか/057]

≪画像および関連情報≫
 ●日本は本当に「持ちこたえている」のか?
  ───────────────────────────
   ニューヨークタイムズ(NYT)紙は、これまで何度かP
  CR検査の実態を記事にし、検査数を増やせと訴えてきた。
  その結果、ニューヨーク州は全米の州のなかで確認された感
  染者数(confirmed cases) がいちばん多い州になり、いま
  や連日1000人以上の新型コロナウイルスの感染者が確認
  されるようになった。
   それに比べ日本はどうだろうか?確認された感染者の数は
  1日平均30〜50人ほどだ。ニューヨーク州の人口は、約
  2000万人。日本の人口の約6分の1である。そこで、連
  日1000人以上の確認された感染者が出ていることを思う
  と、日本のあまりの少なさに疑問を持たれる人も多いのでは
  なかろうか?
   確認された感染者数の少なさをもって、政府も専門家委員
  会も「(日本は)持ちこたえている」としている。が、はた
  してこれは本当なのか?そもそも検査数を絞りに絞って、症
  状がひどくならないと検査していないのだから、なんの根拠
  もないのではなかろうか?
   ということで、ではアメリカではどのようにPCR検査が
  行われているのか?NYT紙の記事から見てみたい。特筆す
  べきは、なんと記者がやっとのことで検査を受け、陽性にな
  った体験手記が掲載されたことだ。https://bit.ly/2ygi9ob
  ───────────────────────────

NHKスペシャル『パンデミックとの闘い』のシーンより.jpg
NHKスペシャル『パンデミックとの闘い』のシーンより
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月31日

●「バラマキのためらいの正体は何か」(EJ第5217号)

 2020年3月28日付、日本経済新聞の1面のトップに次の
記事が出ています。
─────────────────────────────
【現金給付所得減世帯に/経済対策50兆円超GDPの1割】
 政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策
で、5月にも所得が大幅に減少した世帯に現金を給付する検討に
入った。条件が当てはまる1世帯に20万円〜30万円程度とす
る案がある。売り上げの急減が予想される飲食業や観光業は割引
券や商品券を発行して支える。経済対策の事業規模は名目国内総
生産(GDP)の1割にあたる56兆円超をめざす。
       ──2020年3月28日付、日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 同じことを米国のトランプ政権は、もっとシンプルに、もっと
素早くやろうとしています。新型コロナウイルス対策として2兆
ドル(約220兆円)規模の経済刺激策を既にを与野党で既に合
意しており、4月に実施することを決めています。とくに、大人
1人当り最大1200ドル(約13万円)の現金給付は、4月中
に配付するとしています。こういう現金給付は何よりもスピード
が勝負です。
 それにしても、日本は、なぜ、現金給付に1ヶ月もの時間を要
するのでしょうか。それは「所得が大幅に減少した世帯」という
条件をつけているからです。しかし、そういう条件に当てはまる
世帯を、どのような基準で選ぶのでしょうか。仮にどのように公
平に選んだとしても、絶対に不公平になるし、時間もかかるので
す。しかも一律10万円の現金給付というニュースが拡がると、
政府は慌ててメディアに「一律ではない」と否定させています。
期待されては困るという考え方でしょう。
 そもそも今回の新型コロナウイルスの蔓延で、何も被害を受け
ていない人など一人もいません。マスク不足や、トイレットペー
パーやティッシュの不足、移動や行動の制限、集会の禁止、会食
の禁止、ただ見るだけの花見まで禁止と、禁止のオンパレードで
す。国民はうっとうしい毎日を過ごしているのです。ところが安
倍首相の奥方は、この時期にレストランの庭とはいえ、花見を楽
しんでいるではありませんか。こんなことは許されることではあ
りません。国民は怒っています。しかも、そのことを野党議員が
国会で質問すると、首相は「それではレストランに行ってはいけ
ないのか」と反論し、しまいには「そんな大声でツバキを飛ばす
な」と逆ギレする始末。なぜ「このような時期に不適切だった。
妻に代ってお詫びする」と潔く謝罪できないのでしょうか。
 このさいは、野党の要求しているように、条件なしの一律10
万円を4月早々に配付すべきです。国会議員にも配ることになり
ますが、条件に当てはまる世帯を探している時間なんかない。こ
んな問題で、時間をかけるのは愚かなことです。この案なら誰か
らも批判はこないと思います。
 新型コロナウイルス蔓延による今回の緊急経済対策は、いわゆ
る「バラマキ」と呼ばれます。なかでも、国民に一律に現金を配
るなどは「バラマキ」の典型です。そのため、緊急経済対策とい
う大義名分があっても、実施側としては何となく躊躇するもので
す。これはどこからくるものでしょうか。
 かつて民主党が天下を取ったとき、公約の子育て支援の「子ど
も手当」を実施に移そうとしたとき、財務省は一切協力せず、財
源がなくて、実現しなかったことがあります。そのとき、野党に
なった自民党は「子ども手当」を「バラマキ」と呼んだのです。
相手の民主党が政権運営に慣れないことを逆手にとって、財務省
を抱き込んで、「子ども手当」の阻止したのです。それでいて、
自民党は政権を奪還すると、幼児教育費の無償化を含む「子ども
手当」をもっと拡大したものを消費増税を財源として実施に移し
ています。「子ども手当」の提案は正しかったのです。
 ところで、「バラマキ」といえば、ケインズ経済学に基づく不
況対策として行われる公共事業も「バラマキ」であり、財政赤字
が膨らむ原因になるからと、避けるべきとの風潮があります。赤
字国債を発行するなど政権党としては、それが必要であっても何
となく実施を躊躇うのです。今回のような未曾有の新型コロナウ
イルス禍でもない限り、赤字国債を発行してやれないのです。そ
れは一体どこから来るのでしょうか。
 それは、3月27日のEJ第5215号で取り上げた米国の財
政学者、ジェームズ・M・ブキャナンの財政思想から来るもので
あり、日本の財務省系の財政学者のほとんどは、この財政思想に
染まっています。ブキャナンは財政均衡主義の元祖です。
 ジェームズ・ブキャナンとして検索すると、同名の米国第15
代大統領の名前が出てきますが別人です。財政学者として検索し
ないと出てこないのです。ジェームズ・M・ブキャナンについて
真壁昭夫教授は次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 1986年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者ジェ
ームズ・ブキヤナンは、財政の規律に強くこだわった経済学者で
した。彼は、民主主義の下で財政支出は増加し続けるため、均衡
財政(財政の歳出と歳入のバランスをとる)の考えに基づき、税
収の範囲内で予算を組む必要があると主張しました。この考えは
景気が悪化した際に、政府(官僚)は必要に応じて財政支出を拡
大させ、経済成長率を高める能力を持つというケインズの考えと
異なります。ブキャナンの考え方に基づくと、財政黒字の黒字を
実現する(財政赤字をなくす)ためには、国民の負担が欠かせま
せん。例えば、増税や歳出のカットが考えられます。いずれも、
わたしたちが避けたいと思う政策です。増税はわたしたちが自由
に使うことのできるお金を減少させます。   ──真壁昭夫著
   『MMT(現代貨幣理論)の教科書/日本は借金し放題?
       暴論か正論かを見極める』/ビジネス教育出版社
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/058]

≪画像および関連情報≫
 ●逆噴射の財政政策/経済コラムマガジン
  ───────────────────────────
   ブキャナン経済学の真髄は「民主主義的意思決定過程の中
  では、景気が過熱しているときでも、人々が好まない緊縮的
  政策をとることができない」という主張である。つまり民主
  国家では、どうしても財政支出が増え続け、どんどんインフ
  レが進行するメカニズムを持っているというのである。これ
  はまさに一種のケインズ政策批判である。ブキャナンはこの
  分析を政治学者であるワグナーとの共同研究で行っている。
  そしてこのような考えは「ブキャナン・ワグナーの定理」と
  呼ばれている。この定理は84年両者の共著「赤字財政の政
  治経済学」の中で展開されている。
   しかしこの種の定理が、今日の日本でも有効なのかどうか
  が大問題である。これを考えるにはまず当時の米国経済を簡
  単に見ておく必要がある。第二次世界大戦時から、米国の財
  政は危機管理下に入った。膨大な戦費の負担と社会主義国の
  ソ連の登場に対抗するための大幅な福祉予算の増額があった
  からである。歳出を大幅に増やしたが、これを税収ではとて
  も賄えない。米国の連銀は42年から51年まで青空天井で
  政府の財務省証券を購入した。10年物の財務省証券の利回
  りが2・5%以上に上昇しないように、連銀は証券を買い続
  けたのである。         https://bit.ly/2wLe4I1
  ───────────────────────────


立憲民主党杉尾議員/昭恵夫人のお花見追及.jpg
立憲民主党杉尾議員/昭恵夫人のお花見追及
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする