2020年02月03日

●「日本がデフレから脱却できぬ理由」(EJ第5179号)

 日本の長期デフレの起点を1998年とすると、今年で22年
になります。「22年デフレ」です。長過ぎます。先進国でそん
な国はありません。しかも、その間、2回にわたって、消費税を
10%まで引き上げています。もっと上げようとしています。こ
れでは、デフレから脱却できるはずがありません。
 日本経済研究センターが、1月15日に発表した1月の民間エ
コノミストによる調査によると、2019年10月〜12月の実
質GDPは、前期比年率で「マイナス3・55%」ということで
成長どころか、マイナス成長です。これは、昨年10月1日の消
費増税10%引き上げの影響であることは明らかです。財界人な
どは「今回の増税の影響は軽微」などと寝言をいっている人がい
ますが、とんでもない間違いです。
 内訳をみると、そのひどさにゾッとします。まず、輸出がマイ
ナス0・12%と前回プラスだったものがマイナスに転じ、輸入
は、マイナス1・27%とマイナス幅を拡大し、企業の設備投資
はマイナス1・12%と下振れしています。個人消費はマイナス
1・73%とボロボロです。完全なデフレそのものです。どうし
て、こうなってしまうのでしょうか。なぜ、デフレのさなかに消
費税の税率を上げるのでしょうか。
 消費税を上げると、GDPの6割を占める個人消費がダメージ
を受けます。これが日本経済の成長にブレーキをかけているので
す。なぜ、過去に学ぼうとしないのでしょうか。いまやるべきこ
とは増税ではなく、減税です。日本人は、大企業は別として「減
税」という方法があることを忘れてしまっています。米国に学べ
といいたい。何しろ自民党は「大企業には減税/庶民には増税」
の政策を長い間ずっと続けてきたからです。
 それをさせているのが、財務省の財政均衡主義という考え方で
あり、それは財政法にも書いてあり、ほとんどイデオロギーに近
いものです。財政とは政府の経済行動のことですが、財政の「入
り」と「出」を均衡させることが「財政の健全化」になると勝手
に決めています。この財務省の考え方を支えているのは、テレビ
によく出演する著名な経済学者たちです。現在日本のメディアは
財務省にコントロールされているので、テレビに常時出られる経
済学者たちは、財務省の息のかかった学者ばかりです。
 これらの経済学者たちについて、既出の青木泰樹氏は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 この世の中で「現実経済」と「経済学の世界」を混同する経済
学者ほど罪深い存在はない。経済理論は前提条件を離れては成立
しない。現在の主流派経済学である新古典派理論の後継の諸学説
は、国土、国家、国民、歴史、文化等を一切捨象した抽象的な前
提の上に成り立っている。もちろん現実経済はそうした前提と相
容れるものではない。その場合、経済論理に忠実な主流派学者の
言説は国民を惑わすばかりか、国民経済に災厄をもたらす。前世
紀末から続いた「失われた二十年」と称される日本経済の長期停
滞は、まさしく非現実的な経済論理に基づく政策が延々と実施さ
れてきた結果であり、その責はもっぱら経済学者に帰されよう。
    ──青木泰樹教授論文/「増税論に潜む経済学者の嘘/
         『家計と財政の同一視』に騙されるな」より
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 財政均衡主義の財大の問題点は、ある意味において、それがと
ても分かり易いという点にあります。国の財政を個人の家計と同
一視するからです。個人の場合、所得を超える消費を続けていれ
ば、いずれ家計が破綻することは目に見えています。この一般人
の経験則を利用し、国であっても税収を超える歳出を続けていれ
ば、いずれ破綻すると説かれると、そうかなと思ってしまうもの
です。これはレトリックであり、財務省のプロパガンダです。
 この点については、1月17日のEJ第5168号でも述べて
います。財務省は、ウェブサイトで国の財政を個人の家計に例え
て説明する動画をユーチューブで公開しています。
 その点、青木泰樹氏は、上記論文において、この点を取り上げ
鋭く批判しているので、以下にご紹介します。
─────────────────────────────
 家計と財政は同じではない。個人の寿命はたかだか百年程度で
あるが、政府の存続期間は無限と想定されるからである。新古典
派モデルは形式的に個人の生涯と政府の存続期間を同一と想定し
ているため、両者を同一視する誤りが発生するのである。政府は
永続する存在であるから、政府債務の返済方法も、個人とは異な
る。個人は所得から返済せざるを得ないが、政府は増税、借換え
日銀引き受けという三つの返済方法を適宜使えるのである。実際
政府は三つを併用している。また個人は通貨を発行できないが、
中央銀行を傘下に収める政府は通貨を自由に発行できる。それゆ
え自国通貨建て国債が償還不能になることは理論上あり得ない。
財政破綻の危険を唱える学者は、個人の破産と政府の財政破綻を
同一視するという愚を犯している。   ──青木泰樹教授論文
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 この財政均衡主義と相反するのは、ケインズ主義による財政論
です。ケインズは、国と家計とは異なるという観点に立って、短
期的な財政赤字の必要性を説いています。青木泰樹氏によると、
ケインズ主義に立脚しながらも、長期的な財政論を構築したのは
アバ・ラーナーという経済学者です。ロシア生まれですが、米国
に移住して活躍した経済学者で、生涯を通してケインズ主義経済
学を信奉し、機能的財政論を構築したことで知られています。い
わゆるリフレ派の元祖としても有名です。アバ・ラーナーは今で
いうMMTに近い考え方であるといわれます。
           ──[消費税は廃止できるか/020]

≪画像および関連情報≫
 ●財務省は国の赤字を家計の赤字にたとえるな!
  ───────────────────────────
   財務省は財政の危機的状況を訴えていますが、久留米大学
  商学部の塚崎公義教授は、財政赤字を家計の赤字にたとえる
  ことに反対しています。緊縮財政を急ぎたいと考える財務省
  は、国民に危機感を持たせたいのでしょうが、国の財政を家
  計の赤字にたとえた説明をして、国民をミスリードするのは
  問題です。
   財務省は、「我が国の一般会計を手取り月収30万円の家
  計にたとえると、毎月給料収入を上回る38万円の生活費を
  支出し、過去の借金の利息支払い分を含めて毎月18万円の
  新しい借金をしている状況です。家計の根本的な見直しをし
  なければ、子供に莫大な借金を残し、いつかは破産してしま
  うほど危険な状況です」としています(日本の財政関係資料
  平成29年4月)。
   しかし、家計の赤字と国(日本国という意味ではなく、地
  方公共団体と区別するために中央政府を国と呼んでいる)の
  赤字は全く違うものですから、両者を同一視することはでき
  ません。我が家が家計を改善するため、旅行計画を中止した
  とします。我が家の家計は改善する一方で、旅行会社の利益
  は減り、旅行会社の社員の給料は減るでしょうが、そんな赤
  の他人のことは知ったことではありません。我が家の家計が
  黒字になることが重要なのです。 http://exci.to/3b2Wfn1
  ───────────────────────────

・ジョン・メイナードケインズ.jpg
ジョン・メイナードケインズ
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2020年02月04日

●「強力な影響力を持つ高名学者の嘘」(EJ第5180号)

 昨日のEJで取り上げた、ケインズ系の経済学者、アバ・ラー
ナーの機能的財政論(functional finance)について、既出の青
木泰樹氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 一言で言えば、「財政の役割は民間経済のためにある」という
民間経済を支える財政論である。そこにあるのは、民間経済の状
態が第一に重要であって、財政状態は副次的な問題にすぎないと
いう認識である。デフレによって経済停滞が続いている場合、政
府は積極的に財政を拡張して民間経済を支えるべしとの主張であ
る。ただしそれは歯止めなき財政拡張を示唆しているわけではな
い。財政拡大の限界はインフレ率が決める。インフレが高進する
ようならそれ以上の財政拡張は民間経済のために実施してはなら
ないのである。一般にインフレ率は2%程度が望ましいと言われ
ているので、そこまでは拡張可能となる。
    ──青木泰樹教授論文/「増税論に潜む経済学者の嘘/
         『家計と財政の同一視』に騙されるな」より
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 つまり、アバ・ラーナーは、政府の経済政策は、完全雇用の産
出と物価安定を実現するよう設計されるべきで、それが公的債務
を増やすか減らすかについては、気にするべきでないと主張して
いるのです。アベノミクスでは、第1の矢である大規模な金融緩
和政策を行いながら、物価目標2%を目指していたのですが、な
かなか目標の2%には到達しないでいます。アバ・ラーナーの考
え方によれば、それは、第2の矢である機動的な財政出動が足り
なかったことが原因であると思われます。それが公的債務を増や
すことになるとの躊躇いが少しでもあると、どうしても中途半端
になってしまうからです。
 昨日のEJで「22年デフレ」について言及しましたが、19
98年に生まれた子供は、現在22歳の社会人になっています。
彼らは生まれたときから繁栄を知らず、日本という国が多くの借
金を抱えた貧乏国であるとしか認識できないでいます。それに、
これまで3回にわたって消費税を引き上げて10%にしても、税
収は増えるどころか、減っているのです。
 さて、不思議な現象ですが、現在の日本では、消費増税に関し
ての国民の反発は縮小していると、藤井聡京都大学大学院教授は
慨嘆しています。それは、多額の税金を投入した財務省の執拗き
わまるプロパガンダと、昨日のEJで述べたように、それを支援
するわが国の一部のエコノミストや経済学者などの消費税につい
ての「ウソ」や「デマ」がメディア、とくにテレビでまき散らさ
れた結果です。
 2013年のことですが、安倍政権では、2014年に予定さ
れている消費税8%への増税前に、首相官邸は「消費増税・集中
点検会合」が開催されています。日本国内の消費税の増税につい
て、専門的な知識、見識を持つ60名の専門家たちを集めて会合
が行われたのです。
 このときの意見集約の結果は、条件付き賛成を含めて、実に約
86%が賛成を表明しています。その共通した意見は、次のよう
なものだったのです。
─────────────────────────────
     今回の消費税の増税の影響は軽微である。
─────────────────────────────
 しかし、結果は「軽微」どころか、景気は激しく冷え込み、ア
ベノミクスによって、上昇しつつあった景気は「腰折れ」になり
デフレは、さらに悪化したのです。京都大学大学院教授で、当時
内閣官房参与の藤井聡氏が、とくに問題があるとした3人の経済
学者の発言が以下にあります。
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◎慶応義塾大学経済学部・土居丈朗教授
 消費税率を上げても大きく景気が悪くなるということはない。
◎東京大学大学院経済学研究科・伊藤隆敏教授
 引き上げても景気の腰折れやデフレ脱却の失敗につながること
 はない。
◎東京大学大学院経済学研究科・吉川洋教授
 私は、消費税率は予定通り引き上げるべきだという意見を述べ
 た。・・・日本経済の現状は基本的には順調。昨日色々な経済
 指標も出たが、日本経済の成長プロセスはかなり底堅いとみて
 いるとの意見を述べた。
     ──藤井聡教授論文/「学者のウソが日本を滅ぼす」
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 これら3人の経済学者のなかで、東京大学大学院経済学研究科
・吉川洋教授は、日本の経済学会の重鎮(元経済学会会長)とい
われる人物ですが、安倍総理に具申した意見とは、まったく異な
る結果が生じています。とても専門家とは思えない消費増税のイ
ンパクトの読み違いですが、吉川教授らは何ら反省せず、安倍首
相が10%のへの消費増税の延期を公表した政府に対して、次の
見解を公表しています。鉄面皮とはまさにこのことです。
─────────────────────────────
 消費税引き上げは国民の安全・安心の基礎となる社会保障制度
を持続可能なものにし、財政再建の一歩となるものだった。日本
経済にとっての大きなリスクを取り除き、民需主導の持続的な経
済成長を生み出すはずだった。        ──吉川洋教授
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 彼らは反省のかけらもなく、平然と首相に対して、大ウソを述
べたのです。     ──[消費税は廃止できるか/021]

≪画像および関連情報≫
 ●【青木泰樹】100回の嘘と101回の正論
  ───────────────────────────
   いよいよ五月になりました。今後の日本経済の浮沈を左右
  する本年最大のイベント、安倍総理の消費税再増税に関する
  決断の時期が近づいてまいりました。予定通り実施か、延期
  か、凍結か(最も望ましい5%への減税は無理でしょうが)
   5月18日には、増税可否の判断材料の一つとされている
  2016年1〜3月期のGDP速報値が公表されます。あま
  り良い数字は出ないと予想されていますが、実際はどうなる
  でしょう。直近の2015年10〜12月期の実質GDPが
  前期比▲0.3%でしたから、ここでマイナスにでもなれば
  定義上はリセッション(景気後退)となります。3〜4月に
  官邸が主催した「国際金融経済分析会合」にて世界的に著名
  なクルーグマン教授やスティグリッツ教授が増税延期と財政
  出動の必要性を総理に説いたと報じられていますし、伊勢志
  摩サミットでも財政出動が主要テーマになるとのことですか
  ら、延期の可能性が高まっていると予想する向きが多いと思
  われます。
   しかし、なにぶん政治の世界ですので予断を許しません。
  政財官の増税推進派が、圧力を強めてくることも懸念されま
  す。大方の予想を覆すように「予定通り増税を実施します」
  と総理が決断すればショックは倍加するでしょうから、一気
  にデフレスパイラル突入という事態にもなりかねません(シ
  ョックに備え、そうした事態を想定しておくことも、必要で
  しょう。杞憂に終わればそれに越したことはありません)。
                  https://bit.ly/2vAUv4g
  ───────────────────────────

藤井聡教授/吉川洋教授.jpg
藤井聡教授/吉川洋教授
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2020年02月05日

●「藤井教授VS片山さつき参院議員」(EJ第5181号)

 1月16日のEJ第5167号の冒頭で、私は、本日のテレビ
朝日「羽鳥慎一モーニングショー」の玉川徹氏による『そもそも
総研』をぜひ視ていただきたいという予告を出しました。「消費
税ゼロ」の特集が予定されていたからです。その放映は1週間前
の9日に予定されていたのですが、当日は、イランが米軍基地に
ミサイルを撃ち込んだニュースによって『そもそも総研』が放映
できなくなり、次週に行うことがアナウンスされたからです。
 そのさい、玉川氏は、消費税ゼロの問題は、藤井聡京都大学大
学院教授で元内閣官房参与に直接スタジオに来ていただき、説明
してもらうことを約束したのです。そのため、私が16日のEJ
の冒頭で予告したわけです。
 しかし、当日の『そもそも総研』では、何の断りもなく、別の
企画が放映されています。しかし、次週の23日、『そもそも総
研』において、藤井聡教授と片山さつき自民党税制調査会幹事が
消費税の問題で直接対決したのです。片山さつき氏は、元財務省
主計局主計官であり、税の専門家です。そのやり取りの概要につ
いて、以下に紹介します。
 当日、藤井聡教授が使ったフリップを添付ファイルにしてある
ので、添付ファイルをご覧ください。グラフは「A」と「B」が
あります。最初にグラフ「A」を見てください。
 グラフ「A」は、「小売販売額の推移」を示しています。これ
について、藤井教授は、消費、小売りが大幅に冷え込んでおり、
その冷え込みは、2014年4月の8%増税のときよりも激しい
ことを指摘しています。しかし、これに関して、片山自民党税制
調査会幹事は、この景気の冷え込みは、「台風」が大きな影響を
与えていると反論しました。
 しかし、2019年9月のグラフの急上昇は、明らかに巨大な
駆け込み需要があったことを示しており、10月の落ち込みは、
その反動減であることは素人でもわかります。それを台風のせい
にするのは、税の専門家の反論としては論外です。これは、どう
みても、藤井教授に軍配が上がります。
 続いて、グラフ「B」を見てください。これは、1995年か
ら日本の実質消費の伸びをグラフで示しています。日本の個人消
費はGDPの約6割(57%)を占めており、その増減はGDP
の伸びに重要な影響を与えます。
 1997年に消費税を3%から5%に上げる前の日本の実質消
費の平均伸び率は2・61%だったのです。しかし、消費税を3
%から5%に2%上げたとたんに実質消費は2%ダウンし、そこ
から実質消費の平均伸び率は半分以下の1・14%になっていま
す。グラフの傾きが緩やかになり、上がり方がゆっくりになって
います。これは、日本の成長の実力が消費増税によって下がった
ことを意味します。
 それから、2014年の消費増税までには、2008年のリー
マンショック、2011年の東日本大震災などがありましたが、
それぞれ直後は大きくダウンしたものの、それ以降は、ほぼ同じ
傾きで、実質平均消費は伸びてきています。
 しかし、2014年に消費税を5%から8%に引き上げると、
その増加分の3%は直後にダウンし、そしてそれ以降の実質消費
の平均伸び率は0・41%まで下がっています。グラフの傾きは
さらに下がり、ほぼ横ばいになってしまっています。そして、藤
井聡教授は、次のように力説します。
─────────────────────────────
 ちなみに、消費税を8%から3%上げた直後に、実質消費は3
%下がって、以後0・41%しか伸びないのですから、2014
年3月(8%に上げる前月)の状況に戻るのに8年かかるという
計算になります。日本の経済が成長するには、消費増税のせいで
8年間足踏みを続けることになるのです。
 問題は、これからどうなるかですが、これらの関係から、数学
的に推計すると、消費税を10%にすると、直後に2%ダウンし
実質消費の平均伸び率は0・21%にダウンします。そうすると
2019年9月(10%に上げる前月)の状態に戻るのは、10
年を要することになります。このことから、安倍内閣は、アベノ
ミクスを始めた状況に戻るには、実に18年を要することになり
ます。これはとてつもない経済の冷え込みであり、この18年の
間に中国も、アメリカも、ヨーロッパもすべて成長するのです。
これをどうするかは、私の学者としての心からの心配というか、
憂慮であります。       ──藤井聡京都大学大学院教授
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
                   『そもそも総研』より
─────────────────────────────
 これに対して、片山さつき参院議員は、「超少子高齢化」が実
質消費の落ち込みを起こしたものであり、消費増税がなくても起
きうる現象であるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 いままさにこの流れのなかで、安倍政権は戦ってきたのです。
超少子高齢化社会で、人口が減る社会でも、国民に不安を与えな
い財源を作ってやってきています。超少子高齢化の社会では、ど
この国でも個人消費の総額は落ちてくる。まさに藤井教授のいわ
れるような現象は、消費増税がななくても起きています。
 個人消費の総額では、確かに藤井教授のいわれるように0・3
〜0・15と減っていますが、一人当たりで見ると、0・28〜
0・21とあまり差がないです。
            ──片山さつき自民党税制調査会幹事
─────────────────────────────
 片山議員は、藤井教授の突き付けた問題に正面から向き合おう
とせず、逃げています。明らかに説得力に欠けています。人口が
減って行くのだから、一人当たりの消費を増やさなければならな
いのに、消費から罰金を取る消費税を増税すれば、経済は奈落の
底に落ちるという藤井教授の主張には強い説得力があります。
           ──[消費税は廃止できるか/022]

≪画像および関連情報≫
 ●藤井教授の勝ち/TOGETTER
  ───────────────────────────
  ◎普通に聞いていれば藤井教授の勝ち。片山は日本が駄目な
   理由は滔々と述べらるが、日本を良くする為の事は何にも
   言えてない。藤井教授は、明確に消費税を下げれば、消費
   が増えて、景気も財政も上向くと述べている。この差は大
   きい!
  ◎そもそも総研・消費税どうする。片山議員「成長するには
   全世代型社会保障で70歳まで就労可能とし支え手側に回
   ることで乗り切る」藤井教授、キッパリ「政府の考え方は
   完全な誤り、京大教授として確信している。消費税を5%
   に軽減すれば消費は回復、成長を実現し税収も大幅に増え
   る」藤井教授の勝ち。
  ◎自民党の片山は、庶民(お前たち愚民)が70歳まで働い
   て、税金徴収されて、年金を差し送りしろ!どうすれば景
   気(政府や企業のみ)は景気が良くなる。藤井教授は自民
   党の考えは完全にキチガイ。そんなことより一回消費税を
   5%に戻してみー。一気に景気(みんな全国民)が回復し
   潤う! 藤井教授の勝ち。   https://bit.ly/2OsUpSV
  ───────────────────────────

藤井聡京都大学大学院教授のフリップ.jpg
藤井聡京都大学大学院教授のフリップ
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2020年02月06日

●「企画が変更になったのではないか」(EJ第5182号)

 「羽鳥慎一モーニングショー」の『そもそも総研』において、
消費税が取り上げられたことは、1月23日の議論の以前にも2
回あります。最初はれいわ新撰組の山本太郎氏の出演です。正確
な日は忘れましたが、2019年の後半であることは確かです。
実際にモーニングショーに主演しての話でしたが、そのときの時
間は非常に短かったと思います。しかし、消費税のことはしっか
り話しています。
 2回目は、ビデオ取材での藤井聡京都大学大学院教授の出演で
す。いずれも消費税のテーマであり、玉川徹氏が藤井聡教授に質
問して応えてもらうインタピュー形式です。『そもそも総研』は
いつもこのスタイルです。
 3回目が1月23日ですが、当初は藤井聡教授に実際に番組に
出演していただいて話を聞くという企画だったと思います。最初
から、消費増税反対派と賛成派の対決の企画ではなかったはずで
す。これは推測ですが、それがイランの米軍基地への攻撃の関係
で中止になり、先送りになったところで、少し事情が変わったの
ではないかと思います。例えば、自民党税制調査会などから、要
請があったのではないでしょうか。増税反対派だけから話を聞く
のでなく、増税賛成派からも意見を聞かなければ、不公平ではな
いかという申し入れです。消費税を10%に上げた時点で、テレ
ビの人気番組で、一方的に増税反対のキャンペーンを繰り返され
たらたまらないという考え方です。
 本当のところはよくわかりませんが、消費増税は確実に次の衆
院選のテーマになることは確実であり、政府与党としてもその反
対を伝えるテレビ番組に神経を尖らせていたものと思います。そ
ういう事情で企画の変更があって「藤井教授VS片山議員」の対
決が生まれたのではないでしょうか。
 1月23日の『そもそも総研』の最後の部分をご紹介すること
にします。片山議員は、消費税について語るとき、「私は消費税
を作ったモーリス・オーレさんと直接話したことのある唯一の国
会議員」と話しています。確かに消費税は1952年にフランス
財務省の官僚であるモーリス・オーレ氏が開発したものですが、
そのオーレさんの考え方をいうのであればわかりますが、そうで
はなく、自分はそんなに偉いんだぞと、自分を持ち上げるために
その話をするのは鼻につきます。こういうところが嫌われている
ことをこの年になってもまだ気がついていない人物です。藤井教
授にしてみれば「それがどうした」ということになるでしょう。
勝負はその時点で片山議員の負けです。
 添付ファイルの上のグラフをご覧ください。これは、消費税が
10%のままの場合と、10%に増税せず、8%のままの場合と
税率を5%に減税した場合の総税収の推移を示しています。藤井
教授は次のようにいいます。
─────────────────────────────
 経済成長のメインエンジンは「消費」です。その消費の罰金と
して機能するのが消費税です。したがって、消費税を軽減すると
罰金が減って消費は確実に拡大していきます。これは過去のデー
タからして当然ですが、どのくらい伸びるかを計量経済分析に基
づいて分析すると、大体1・4兆円から1・7兆円伸びて行く。
税率を軽減すれば、直後は税収は落ちますが、その後、どんどん
伸びて行って、2021年には逆転します。10%を5%に軽減
すると、15年後には税収は30兆円増える計算になります。
               ──藤井聡京都大学大学院教授
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
                   『そもそも総研』より
─────────────────────────────
 これに対して、片山議員は次のように反論しています。このと
き、片山議員は「モーリス・オーレさんと会ったことがある」と
話しています。
─────────────────────────────
 現在の日本の税収能力は72兆円あり、税収は減っていない。
したがって増えていないというのはウソです。消費税が乗り越え
なければならないカベは、消費税を上げると物価が上がる。上が
れば主婦としては、消費者としては、それを罰金と感ずるのは、
わかります。しかし、それは半年から1年半の間に平準化してい
くのです。藤井さんのグラフのように、一律右肩上がりになんて
ならない。               ──片山さつき議員
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
                   『そもそも総研』より
─────────────────────────────
 片山さつき議員は、藤井教授のいう「消費税は消費の罰金であ
る」という主張を認めています。確かに、消費増税が行われて、
一年か一年半ほど過ぎると、慣れるというか、平準化というか実
質消費は上がってきますが、消費の平均伸び率が増税前よりも大
幅に減っています。つまり、伸びの傾きが増税前よりも緩やかに
なってしまっているのです。
 その結果が1995年〜2015年までの20年間──その間
日本は1996年に5%、2014年に8%と2回の消費増税を
やっていますが、その20年間に、日本だけ名目GDP成長率が
「マイナス20%」なのです。世界平均はプラス135%であり
日本は成長するどころか、マイナス成長なのです。消費増税だけ
が原因とはいいませんが、デフレであるのに消費増税を行い、成
長しない国にしてしまっています。
 添付ファイルの下のグラフをご覧ください。これは、2018
年4月に消費税を廃止したマレーシアの消費の推移を示している
グラフです。消費税の税率は6%だったのですが、それをゼロに
したとたん、消費は跳ね上がっています。しかし、2018年9
月に一部の贅沢品に税金をかける、かつての日本の物品税に当る
「売上税」を導入すると、一転消費は減少したものの、消費税当
時よりも高い消費水準を維持しています。
           ──[消費税は廃止できるか/023]

≪画像および関連情報≫
 ●生激論で炎上した片山さつき/昔もヤバかったと話題に
  ───────────────────────────
   1月23日に放送された羽鳥慎一モーニングショーのそも
  そも総研で、「そもそも消費税”減税”是か非か」について
  片山さつき議員と藤井聡教授の生激論が行われました。番組
  を見ていた人達が、片山議員の態度や発言に対して批判のコ
  メントをSNS上にアップし炎上する事態となったのです。
  そんな片山議員ですが、実は昔もヤバかったと話題となって
  いるのです。
   消費税について、片山議員と藤井教授が生激論したモーニ
  ングショーのそもそも総研。消費税”増税”して何が起きて
  いるのかについて議論していましたが、この時の片山議員の
  発言に対しネットが炎上する事態となったのです。
   「片山さつきの言っていることが理解不能」「人の話を聞
  く態度が酷くてムカついた」「経済的に3人育てられないか
  ら、子供は1人でイイヤになっちゃうんだよ」とネット上に
  コメントが寄せられています。この放送を見て、片山議員の
  発言がヤバいと感じた視聴者も多かった様ですが、実は昔も
  ヤバかったというのです。どのようにヤバかったのかという
  と・・・            https://bit.ly/36ZEnX8
  ───────────────────────────

藤井総京都大学大学院教授のフリップ/2.jpg
藤井総京都大学大学院教授のフリップ/2
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2020年02月07日

●「消費税廃止のマレーシアへの視察」(EJ第5183号)

 「藤井聡教授VS片山さつき議員」の消費税をめぐる激論の最
後の部分で、マレーシアの消費税廃止の話が出てきました。マレ
ーシアは2018年6月に消費税(GST)を廃止しています。
日本はそのほぼ1年後に消費税の税率を8%〜10%に引き上げ
ることが予定されているのに、マレーシアの状況についての情報
はほとんどないし、政治家も積極的に調べようとしていなかった
と思われます。
 当然安倍政権が知らないはずはないし、「消費税凍結」を求め
る野党の立憲民主党、国民民主党も知っていたはずです。メディ
アも安倍政権に気を使ってか、この情報をほとんど報道しておら
ず、多くの日本人はマレーシアが消費税を廃止したことを知らな
かったと思われます。
 増税をしようとしている与党の自公政権は当然のこととして、
野党の立憲民主党、国民民主党も、「社会保障と税の一体改革」
として、自民党と共に消費増税に賛成しているので、増税に反対
できる立場ではなく、本来であれば、消費税凍結も口にする資格
はないのです。
 しかし、れいわ新撰組の山本太郎代表と立憲民主党の若手議員
ら8名は、2019年8月26日から28日にかけて、消費税廃
止後のマレーシアを視察しています。このことをメディアは完全
に無視して、報道していません。
 ところが、このマレーシア視察について、立憲民主党の枝野代
表は、なぜか批判しています。2019年9月3日の「日刊ゲン
ダイデジタル」は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 野党第1党の立憲民主の枝野幸男代表に批判が殺到している。
先月30日(2019年8月)の会見で枝野氏は、立憲の若手が
「消費税廃止」を訴える「れいわ新選組」の山本太郎代表と共に
昨年6月に消費税を廃止したマレーシアを視察したことを問われ
トンデモ回答。若手を通じた「れいわ」との共闘の可能性を質問
されたが、枝野氏は「(マレーシアは)消費税を廃止したけど、
失敗した国ですよね」と、冷たい笑みを浮かべながら切り捨てた
のだ。冷笑する枝野氏に対し、「枝野さん、なんで笑うの??」
「これ見て支持やめた!」などのツイートが噴出。山本氏と立憲
若手のマレーシア視察は、消費税減税で、野党結集を進める狙い
があったはず。国民民主党の玉木雄一郎代表も、消費税減税に言
及しており「共闘」をアピールする絶好の機会だ。なぜ枝野氏は
不遜な態度を取ったのか。
    ──2019年9月3日付、「日刊ゲンダイデジタル」
─────────────────────────────
 この枝野発言には疑問があります。その発言とは「マレーシア
は消費税を廃止したけど、失敗した国ですよね」のことです。マ
レーシアは、2018年6月に消費税を廃止し、1年しか経って
おらず、まだ成功か失敗かを論ずる時期ではないからです。それ
に、「消費税5%」で野党で足並みを揃えようとしているときに
この発言はないと思います。自分の党の若手がマレーシア視察に
参加しているのにです。それに「冷笑」を浮かべたのは、非常に
まずかったと思います。
 この枝野氏の「冷笑」について、厳しい質問をすることで知ら
れるジャーナリストの横田一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回の枝野代表の「冷笑」は、希望の党立ち上げの際、笑みを
浮かべながら「(リベラル派を)排除します」と発言した小池百
合子都知事に通じるものを感じました。批判を招くのも仕方あり
ません。せっかく有望な若手が山本代表と視察に行ったわけです
から、「消費税については若手の報告を待って今後検討する」な
どと、前向きな発言をすればよかったのではないか。野党共闘が
進んでいることをにおわせれば、与党にもプレッシャーになるは
ずです。──2019年9月3日付、「日刊ゲンダイデジタル」
                  https://bit.ly/2GUWzGT ─────────────────────────────
 マレーシアでは、2018年5月に総選挙があったのです。こ
の総選挙では、「消費税(GST)廃止」を公約として掲げた、
マハティール元首相率いる野党連合「希望連盟」(PH)が勝利
し、ナジブ政権を倒して政権交代を成し遂げたのです。当時、マ
ハティール氏は92歳であり、公選された世界最高齢の国家首脳
となったのです。かつての自分の弟子であるナジブ首相の悪政を
覆すため、マハティール氏としては、やむにやまれぬ出馬であっ
たといわれます。
 首相に復帰したマハティール氏は、公約通り、2018年6月
1日より6%の消費税(GST)を廃止したのです。公約実現で
す。しかし、それでは財源が減ってしまうので、2018年9月
に、売上サービス税(SST)が再導入されています。これも公
約通りです。GSTとSSTは、次の言葉の略です。
─────────────────────────────
     GST ・・・ Goods and Services tax
     SST ・・・ Sales and Services tax
─────────────────────────────
 マレーシアの消費税については、来週のEJで詳しく述べます
が、「GST」というのは日本でいう消費税ですが、「SST」
は、かつて日本にもあった物品税に当ります。そのため、SST
には非課税品目が非常に多いので、GSTからSSTへの移行で
税収は、220億リンギ(約5500億円)減少したといわれて
おり、マレーシアは、さまざまな方法でこれを埋めるべく、努力
しているといわれます。
 2018年6月にGSTを廃止し、同年9月にSSTを再導入
することは公約通りですが、これを「消費税の再導入」と報道す
るメディアもあり、枝野代表は、そのことを十分理解しておらず
「消費税の廃止に失敗した」と勘違いしたのではないかと考えら
れます。       ──[消費税は廃止できるか/024]

≪画像および関連情報≫
 ●マレーシアで政権交代
  マハティール元首相の野党連合が総選挙勝利
  ───────────────────────────
   首相を22年にわたり務めた後、政界を引退していたマハ
  ティール氏は、かつて弟子のような存在だったナジブ・ラザ
  ク首相(64)の対抗馬として出馬していた。ナジブ首相は
  汚職と縁故主義の批判にさらされていた。
   2018年5月10日未明の選挙管理委員会発表によると
  連邦下院(定数222)でマハティール氏率いるPHは過半
  数超えの115議席を獲得した。ラザク氏率いる与党連合・
  国民戦線(BN)の議席は今のところ、79議席に留まって
  いる。マレーシアでは下院過半数の政党が与党となり、政権
  を樹立する。マハティール氏は報道陣に、「我々は報復を求
  めているのではない。法の支配を復活させたいのだ」と話し
  た。元首相は、10日中にも、宣誓就任式を開きたいと述べ
  た。公選された世界最高齢の国家首脳となる。選管発表の後
  政府報道官は10日と11日を国全体の祝日にすると発表し
  た。情勢が次第に明らかになると、野党支持者が次々と通り
  に繰り出し、歴史的勝利を祝った。
   BNと主要政党の、統一マレー国民組織(UMNO)は、
  1957年に英国から独立して以来、マレーシア政界で圧倒
  的な影響力を誇ってきたが、近年では支持率にかげりが出て
  いる。             https://bbc.in/383AIc3
  ───────────────────────────

マレーシア視察団/山本太郎氏.jpg
マレーシア視察団/山本太郎氏
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2020年02月10日

●「マレーシアの消費税廃止の影響度」(EJ第5184号)

 マレーシアでの「GST」と「SST」再導入の経緯を簡単に
振り返ります。GSTはいわゆる消費税であり、SSTは一部の
贅沢品にかかる物品税であると考えてよいと思います。しかし、
マレーシアでは売上税と呼ばれています。
 なお、私が今回のマレーシアの記述の参照にしているのは、次
の論文です。以下、内容をEJ風にまとめます。
─────────────────────────────
   熊谷聡アジア経済研究所開発研究センターグループ長著
       『消費税を廃止した国、マレーシア』は本当か
                   IDE―JETRO
                 https://bit.ly/2GXWHFB
─────────────────────────────
 マレーシアは当初消費にかかる税金としては、SSTが導入さ
れていたのですが、2015年4月1日からSSTが廃止され、
GSTが導入されたのです。しかし、その導入のタイミングが問
題だったといえます。ナジブ政権の時代です。
 近年マレーシアでは、生活費が上昇しており、政治的にも大き
な問題になっていました。とくに2014年の夏以降は、米ドル
に対するリンギ安の影響で、輸入物価が高騰し、生活費は上がる
一方だったのです。そういう時期にSSTに代って、GSTが導
入されので、国民の不満が高まっていたのです。
 ちなみに、SSTの税率は、財とサービスによって異なります
が、財に対しては10%が基本で一部品目は5%、生活必需品の
5443品目は非課税です。サービスに関しては、ホテルの宿泊
料や外食などを中心に6%の税率です。
 これに対してGSTの税率は6%で、食品などの545品目に
ついては非課税になっています。これでわかるように、日本では
食料品などには軽減税率を適用していると鬼の首を取ったように
いいますが、8%もの高い税率をかけています。とくに食料品に
対して8%が軽減税率の国は日本だけです。多くの国で食料品は
0%です。しかもインボイスを導入せずに消費税を導入している
ので、きわめて不公平な税制になっています。
 さて、2018年5月の総選挙に、なぜ、92歳のマハティー
ル元首相が出馬したかですが、これには複雑な事情があるようで
す。この事情に踏み込むと、それだけでEJの1テーマになって
しまうので、これについては省略します。興味がある方には、次
の論文を参照ください。
─────────────────────────────
                   美樹慶樹著
  「マレーシア「初の政権交代」の複雑すぎる事情」
             https://bit.ly/2GZcaFi
─────────────────────────────
 基本的には、ナジブ首相の巨額の汚職問題によって、政治が混
乱していたからだと思われます。しかし、GSTによる不満も相
当大きくなっていたことは確かです。そのため、マハティール氏
は、選挙に勝つと、GSTの廃止については、速やかに実施して
います。選挙からわずか2日後の5月16日に、財務省は「6月
1日から当面の間、消費税率を0%にする」と発表しています。
ここに消費税を実施していた国が一定期間とはいえ、消費税を0
%にするというきわめて珍しいケースが実現したのです。
 れいわ新撰組の山本代表はこれに目をつけたのです。彼は次の
衆院選の公約として「消費税廃止」を取り上げることに決めてお
り、これほど絶好な事例はありえないからです。そのため、自ら
マレーシアに調査に赴いたのです。
 消費税0%の期間は6月1日〜8月31日までの3ヶ月であっ
たものの、民間消費を刺激する効果が顕著に表れています。1月
23日の「羽鳥慎一モーニングショー」の「そもそも総研」にお
いて、藤井聡教授が提示したフリップの数字によると、次のよう
に劇的な消費増加率を示しています。確かに9月のSSTの再導
入によって、消費増加率は少し下がったものの、それでも消費は
大きく上昇しています。
─────────────────────────────
   ◎消費税廃止&売上高再導入後の消費増加率の推移
    ★GSTの時期
     2018年 1〜 3月 ・・ 6・6%
    ★GSTの廃止
     2018年 4〜 6月 ・・ 7・9%
     2018年 7〜 9月 ・・ 9・0%
    ★SST再導入
     2018年10〜12月 ・・ 8・4%
     2019年 1〜 3月 ・・ 7・6%
     2019年 4〜 6月 ・・ 7・8%
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
              『そもそも総研』のフリップより
─────────────────────────────
 添付ファイルのグラフは、マレーシアの自動車の販売台数を月
次で示したものです。自動車は税制改正の影響を受け易いもので
すが、これについてはSST再導入後も伸びています。これにつ
いて、熊谷聡氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 税制変更の影響を受けやすい自動車の販売台数を月次で示した
ものである。自動車に対する消費税率が0%となった3ヶ月間に
ついては、6月が28%増、7月が41%増、8月が23%増と
いずれも前年同月の販売台数を大幅に上回った。SSTが再導入
された9月以降も自動車の販売台数は落ち込んでいないが、これ
は、マレーシア国内で組み立てられた自動車を中心に、SST再
導入後にわずかながら価格が下がったためである。
           ──熊谷聡氏 https://bit.ly/2vYZ6h1 ─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/025]

≪画像および関連情報≫
 ●マレーシア/消費税を実質廃止       全国商工新聞
  ───────────────────────────
  ◎元静岡大学教授税理士 湖東 京至さんに聞く
   消費税(GST・商品サービス税)の是非が最大の争点に
  なったマレーシアの国政選挙(5月9日投票)で、消費税廃
  止を掲げたマハティール元首相が率いる野党連合が勝利し、
  歴史的な政権交代が行われました。マハティール新政権は公
  約どおり、6月1日から消費税の税率を6%から0%にしま
  した。マレーシアでどんな選挙がたたかわれたのか、日本で
  消費税を廃止させることは可能か。湖東京至・元静岡大学教
  授(税理士)に聞きました。
  ──どんな選挙がたたかわれたのですか。
   野党を率いたマハティール氏はかつて22年間、マレーシ
  アで最も長く首相を務めた人物です。92歳で首相に返り咲
  けば、世界で最も高齢の首相となります。解散時の議席数は
  与党連合・国民戦線が130議席、野党連合・希望連盟が、
  72議席でした。選挙結果は与党・国民戦線が79議席、野
  党・希望連盟が過半数を超える121議席を獲得しました。
  与党連合が51議席減らしたのに対し、野党連合は47議席
  増やしました。予測では、与党連合がやや優勢と見られてい
  ましたが、終盤になってマハティール氏の個人的人気と消費
  税廃止を公約の中心に据えた野党連合が逆転勝利しました。
                  https://bit.ly/3bjmLJa
  ───────────────────────────

mare-shianotukibetuzidoushahanbaidaisuu.jpg
マレーシアの月別自動車販売台数

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2020年02月12日

●「消費税廃止は本当に成功だったか」(EJ第5185号)

 マレーシアの消費税廃止については、賛否両論があることは事
実です。「早くも復活論」という記事もネット上にはあります。
しかし、マレーシアが消費税を廃止したのは、2018年6月の
ことであり、まだ1年7ヶ月ちょっとしか経過していないので、
もう少し様子を見る必要があります。それに、国にはそれぞれ事
情があり、一概に増税廃止の賛否を問うことは困難であると思い
ます。マレーシアと日本は事情が異なります。
 添付ファイルに、マレーシアが、消費税を導入する以前の20
13年と、導入後の2016年を比較できるマレーシア中央政府
の歳入の内訳のグラフを付けています。ちなみに、マレーシアが
消費税を導入したのは2015年のことです。添付ファイルのグ
ラフをご覧ください。このグラフは、既出の熊谷聡氏がマレーシ
ア財務省のデータから作成したものです。
 グラフを見ると、マレーシアという国は、石油関連収入と法人
税の高い国であることがわかります。マレーシアには、ペトロナ
スという国有石油会社があり、消費税導入前の2013年の石油
関連収入は27%と3割に近く、マレーシアが石油関連収入に大
きく依存していたことがわかります。当時原油価格は安定してお
らず、これに過度に依存することにはリスクがあったのです。
 奇しくも消費税を導入した2015年は、原油価格は大幅に下
落し、石油関連収入は15%減少して12%になったのですが、
2016年のグラフを見ると、消費税が歳入の15%を占め、石
油関連収入の減少分をカバーしています。つまり、マレーシアは
その分、財政赤字を増やさずに済んでいます。そういう意味で、
消費税導入はなかなかの英断であったともいえるのです。
 マレーシアが日本と違う点は人口の平均年齢の若さです。20
19年の時点でそれは28・9歳であり、日本の47歳と比較に
ならない若さです。マレーシアの依存人口(15歳未満+65歳
以上)は6・7%に過ぎず、生産人口(15歳〜64歳)はその
2倍以上です。これを「人口ボーナス期」といいますが、これか
らますます経済が発展する可能性を秘めています。
 つまり、マレーシアは日本と違って、消費税を導入しても、経
済成長ができる国です。なぜなら、マレーシアは目下「人口ボー
ナス期」を謳歌しており、民間消費支出は堅調であり、消費税が
消費支出に強い影響を与えているわけではないからです。それな
ら、なぜ、野党連合・希望連盟(PH)は、なぜ、消費税廃止を
行ったのでしょうか。
 強いていえば、「生活費の上昇を抑える」ことです。これにつ
いて、熊谷聡氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 物価指数全体で見ると、2018年6月の消費者物価指数は前
年同期比でプラス0・8%となり、前月のプラス1・8%から、
1・0%ポイント下落した。また、SSTが再導入された9月の
消費者物価指数の伸びはプラス0・3%と低く、その後も消費者
物価指数の変動はプラス1%以下、(2019年1、2月につい
てはマイナス)で推移している。消費税の廃止は、SSTの再導
入を含めても、消費者物価の上昇を沈静化させる効果があったと
言える。              https://bit.ly/2tLEdoF
─────────────────────────────
 このように、消費税廃止は、消費者物価の上昇を沈静化させる
効果はあったわけです。しかし、幅広く課税できるGST(消費
税)を一部にしか課税できないSST(物品税)に替えたことに
よって、マレーシア政府の税収は220億リンギ(歳入の8・4
分に相当)の減収になっています。当然のことです。
 マハティール首相は、これへの対応策として、次の2つのこと
を実施しています。
─────────────────────────────
    1.輸入サービスと不動産売却への課税を強化
    2.国有石油会社ペトロナスの特別配当を充当
─────────────────────────────
 しかし、「1」については理解できるとしても、「2」につい
ては、特別配当300億リンギを拠出したものの、毎年できるも
のではなく、安定財源が必要になります。
 マレーシアは1997年のアジア通貨危機と2009年の世界
金融危機で財政赤字が拡大し、2013年時点では、政府債務残
高はGDP54・7%にまで達しています。この数字は、マレー
シアの財政規律である「GDP比55%」ギリギリです。消費税
を廃止して、この問題をマハティール政権がどのように解決しよ
うとしているのかは、まだ見えていない状況です。
 ただひとついえることがあります。これは、マレーシアに限ら
ないのですが、消費税を導入している国と日本との比較では、ど
うしても税率だけを見てしまうのですが、食料品などの生活必需
品などについては非課税の国が多いし、その対象も広いのです。
 マレーシアのケースでいうと、食品・飲料など545品目は消
費税の対象外です。日本の場合、そういう生活必需品などについ
ても、軽減税率と称し、8%の税率をかけています。こういう国
は先進国では日本だけです。
 日本では、その軽減税率の導入でも、十分過ぎる時間があった
にもかかわらず、財務省は最初からやる気はなく、真剣に取り組
んでいるとはいえません。軽減税率対象を決めるのが技術的に難
しいとか、何とかいって、ていねいな対応を怠っています。しか
も税率は8%に据え置きしたままで、非課税はもとより、税率を
下げるという検討すら、一切やっていません。
 そしてその導入のタイミングは、結果論ではありますが、わざ
わざ最悪のときを選んでやっています。その結果、日本は20年
以上もの間、デフレから脱却できず、日本経済はまるで冷え込ん
だままです。「5%まで税率を下げる」議論もありますが、その
前段階として、「生活必需品を8%から0%にする」だけでも、
国民の生活はずっと楽になると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/026]

≪画像および関連情報≫
 ●日本と逆に消費税を廃止したマレーシア、早くも復活論
  ───────────────────────────
   10月1日から10%に上がった消費税。税収が増えれば
  福祉や行政サービスが充実するという考え方もあるが、家計
  を圧迫するのは間違いない。日本が増税した一方、昨年、消
  費税の廃止に踏み切ったのがマレーシアだ。この廃止につい
  て、日本の一部にも「英断」と評価する声もある。だが、別
  の財源を探し出すことは容易ではなく、政府は対応に苦慮。
  既に「消費税復活論」が浮上する。
   「GST(消費税)は、すべての国民から支払われる。赤
  ちゃんにさえ課税される」
   2017年11月、在野の立場にあったマレーシア元首相
  のマハティール氏(現首相)はブログにこんな投稿をした。
  当時のナジブ政権が15年に導入したGSTを痛烈に批判す
  るものだ。投稿の約半年後に行われた総選挙で、マハティー
  ル氏は野党連合「希望連盟」の首相候補として出馬。ナジブ
  政権の腐敗を追及すると同時に、GST廃止を公約に掲げ、
  勝利を収めた。
   マハティール氏は18年5月に首相に就任すると、さっそ
  くGSTの廃止を決定した。15年まで導入されていた売上
  ・サービス税(SST)を修正し、9月から新税として復活
  させた。新しいSSTは、製品の出荷時に製造者に課される
  売上税(5〜10%)と、消費者が無形のサービスを利用し
  た際に課されるサービス税(6%)を柱とする。GSTが消
  費活動すべてに適用されたのとは大きな違いだ。
                  https://bit.ly/2Se1l8S
  ───────────────────────────

マレーシア中央政府歳入の内訳.jpg
マレーシア中央政府歳入の内訳
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2020年02月13日

●「財務省は公然とウソをついている」(EJ第5186号)

 マレーシアの消費税廃止の話から、今回のテーマの本筋に戻る
ことにします。経済の仕組みをごく簡単にいうと、世の中に回る
お金の量が増えると景気が良くなり、逆にお金の量が減ると、景
気は悪くなります。
 企業を中心に考えます。企業が銀行から積極的にお金を借りて
企業活動に使えば使うほど、世の中に流通するお金の量が増加し
景気が良くなります。逆に企業が借金を銀行に返せば返すほど、
世の中からお金の量が減って景気が悪くなります。世の中のお金
の量を増やすには、お金を発行すればよいのですが、お金の発行
は、誰かの借金として発行されます。次の図式です。
─────────────────────────────
        お金の発行 = 借金の発行
─────────────────────────────
 ところが現在日本は長期デフレで経済成長が止まり、企業は銀
行からお金を借りなくなっています。この場合、企業は銀行から
お金を借りず、銀行からの借金の返済を行うので、世の中からど
んどんお金の量が減っていきます。これが、行き着くところまで
行った状態がデフレなのです。
 デフレになると、当然税収が減り、政府は国債を発行してその
足りない部分を埋めることになります。これを毎年繰り返すと、
政府の借金はどんどん雪だるまのように大きくなり、とんでもな
い額になります。このようにしてできたのが、現在の日本政府の
GDPの2倍を超える巨額の借金です。
 財務省はこの政府の借金を消費税を増税し、税金によって返そ
うとしています。これが大きな間違いであることは、既出の大西
つねき氏の理論に基づき、ここまで詳しく説明してきましたが、
この話をさらに前進させます。
 2019年10月1日から、消費税は8%から10%に引き上
げられました。一部の学者たちや勢力は10%への税率引き上げ
に猛反対していましたが、政府与党(自公政権)は「消費税8%
を10%に引き上げる」ことを公約に掲げ、参院選に勝利してい
るし、世論調査でも10%への増税に賛成する人が、反対する人
を上回っています。これは、財務省のプロパガンダが相当効いて
いることをあらわしています。しかし、もしかすると財務省に騙
されている可能性があります。
 ここである事実を指摘します。8%から10%への消費税の税
率の引き上げに関する財務省のウェブサイトを見ると、次の記述
があります。URLをクリックしてください。
─────────────────────────────
 ◎全世代型の社会保障制度へ
   消費税率を引き上げることによる増収分は、すべて社会保
  障に充て、待機児童の解消や幼児教育・保育の無償化など子
  育て世代のためにも充当し、「全世代型」の社会保障に転換
  します。
    消費税率引上げによる増収分は全額を社会保障に充当
    し、「全世代型」の社会保障制度に転換
                  https://bit.ly/38lARry ─────────────────────────────
 税率を8%から10%に上げると、国の税収は5・6兆円増え
ます。当初の予定では、その増税分の4分の3を借金(国債)の
返済に充当し、残りの4分の1を、社会保障の充実に使うことに
なっていたのですが、借金の返済に回す分を増税分の2分の1に
減らし、残りの税収については、1.7兆円を教育・子育てを充
実させることにしたのです。添付ファイルの図はそれをあらわし
ています。
 しかし、財務省のウェブサイトでは「消費税率を引き上げるこ
とによる増収分は、すべて社会保障に充て」と書いてあります。
この表現であれば、8%から10%への増収分5・6兆円はすべ
て教育・子育てや、社会保障に充てられることになります。しか
し、実際には、5・6兆円の約半分の2・8兆円は、赤字国債の
発行抑制に当てられるのです。つまり、借金の返済です。それな
ら、どうしてこの表現になるのか理解できないでいます。財務省
がウソをついてといるのでしょうか。
 5%を8%に引き上げるときは、その増収分の80%は借金の
返済に充てられています。「社会保障と税の一体改革」のメイン
は、政府の借金を減らすための政策だからです。これはかつての
与党の民主党が、野党の自民党、公明党と一緒になって作成した
政策であり、彼らは基本的に「増税に反対できない」のです。
 財務省は、政府の借金を増税して税金で返しています。これに
ついは、その考え方がいかに間違っているか、1月28日のEJ
第5175号で述べています。消費増税は「消費の罰金」であり
増税すると、GDPの約6割を占める個人消費が落ち込み、それ
に加えて増収分で借金を返済すると、世の中のお金の量が減り、
景気は確実に悪くなるダブルパンチを食います。今まで何度もそ
ういう失敗を繰り返しているのに財務省は徹頭徹尾「緊縮政策」
を続けて、デフレを長引かせようとしています。
 現在の日本の社会では、消費税の廃止・減税、積極財政などと
いう言葉は、政治的に、まともにいえない雰囲気になりつつあり
ます。「ポリティカル・コレクトレス」という言葉があります。
略して「ポリコレ」といいますが、ポリコレは「政治的に望まし
い言説」のことであり、それが暗黙裏に社会で人々に共有され、
それに反する言説が、いいにくくなる社会現象というか、雰囲気
を生み出しているといえます。
 トランプ米大統領は、ポリコレを嫌い、本音でものをいう政治
家です。「米国第一主義」というような言葉は、心のなかではそ
う思っていてもなかなかいえないものです。
 現在は、緊縮財政、消費増税、グローバリズムはポリコレOK
で正しく、積極財政、消費税の廃止・減税、保護主義はポリコレ
アウトであり、これらを主張するのは、「不道徳」ということに
なります。      ──[消費税は廃止できるか/027]

≪画像および関連情報≫
 ●元国税が暴露。「消費税は社会保障のため不可欠」が大ウソ
  な理由/大村大次郎氏
  ───────────────────────────
   消費税というのは、まずその存在意義そのものについて大
  きな疑問というか嘘があります。消費税が創設されるとき、
  国は「少子高齢化のために、社会保障費が増大する。そのた
  め、消費税が不可欠」と喧伝しました。でも、実際消費税は
  社会保障費などにはほとんど使われていないのです。
   では、何に使われたのかというと、大企業や高額所得者の
  減税の穴埋めに使われたのです。それは、消費税導入前と現
  在の各税目を比較すれば一目瞭然です。これは別に私が特別
  な資料をつかんで発見した事実などではありません。国が公
  表している、誰もが確認することのできるデータから、それ
  が明確にわかるのです。
   消費税が導入されたのは1989年のことです。その直後
  に法人税と所得税があいついで下げられました。また消費税
  が3%から5%に引き上げられたのは、1997年のことで
  す。そして、その直後にも法人税と所得税はあいついで下げ
  られました。そして法人税のこの減税の対象となったのは大
  企業であり、また所得税のこの減税の対象となったのは、高
  額所得者でした。所得税の税収は、1991年には26・7
  兆円以上ありました。しかし、2018年には、19兆円に
  なっています。法人税は、1989年には19兆円ありまし
  た。しかし、2018年には12兆円になっています。
                  https://bit.ly/2tOFlYF
  ───────────────────────────

image.png
増収分の使いみち







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2020年02月14日

●「政府の借金は返さなくてもいいか」(EJ第5187号)

 政府の借金──財務省やメディアは「国の借金」と称していま
すが、「政府の借金」というべきです。メディアの表記は、明ら
かに財務省が指導しています。「国の借金」というときは、民間
(企業・個人)が入るので、意味が違ってきます。それでも、財
務省はあえて「国の借金」と表現します。増税したいからです。
これに関して、次の基本的な疑問があります。
─────────────────────────────
      政府の借金は返済しなければならないか
─────────────────────────────
 民間(企業・個人)の借金は、もちろん返済する必要がありま
す。そんなことは常識です。財務省は、そういう民間の常識を巧
みに政府の借金に利用しようとしていますが、民間の借金と政府
の借金は明らかに違うものです。
 政府の借金に関する興味ある話があるのでご紹介します。以下
EJ風にまとめますが、オリジナルサイトは、巻末の≪画像およ
び関連情報≫に掲載しておきますので、EJを読んだ後に、興味
があれば、そちらの方も読んでください。
 100人の村人のいる村があります。この村にはときどき盗賊
団が攻め込んでくるので、監視カメラ付きの高い壁を作る必要性
に迫られていたのです。どこかの大国の大統領も同じようなこと
をいっていましたね。それはともかく、その費用には、1000
万円ほどかかるのですが、村にはそんなお金はありません。
 そこで村長は、村人からお金を借りることにしたのです。1人
10万円の拠出になります。この拠出金によって、監視カメラ付
きの高い壁ができて、村人の生活は以前よりも安全になったので
すが、村には1000万円の借金ができたことになります。
 問題はその借金をどのようにして村人に返すのかということで
す。税金として集める方法があります。村人全員が壁のお蔭で助
かっているので、「壁利用税」を徴収する方法があります。村人
全員から毎年1万円の壁利用税を徴収する方法です。村から1万
円の拠出金が返済され、10年で10万円が完済されるというわ
けです。その後も壁利用税を続けるとしたら、それは村に資金と
してストックされ、その後の壁や監視カメラの修復用に使えるな
ど、役に立つと思います。
 しかし、毎年1万円の壁利用税を払って、毎年その1万円が戻
されるというのは、村人の立場に立つと、プラスマイナスゼロに
なるので、借金が返ってこないのと同じことになります。この場
合は、村人全体で、壁の建設費用を負担したということになり、
これ自体は何の問題も生じないことになります。つまり、村の借
金は返済しなくても問題はないということです。
 この村には、裕福の程度に応じて、次の3段階があると仮定す
ることにします。お金持の人20人、普通の人30人、貧乏な人
50人です。壁の建設は急ぐので、お金持ちの20人に50万円
ずつ負担してもらい、1000万円の資金を作り、壁を建設した
とします。この場合、お金持ちの20人は村として必要な支出を
「仮の負担」をしたことになります。
 壁の建設費用は村人全員で負担するのですが、その資金はお金
持ち20人がいったん立て替えたことになります。つまり、「実
際の負担」の前に「仮の負担」をしたのです。実際の負担とは税
金というかたちで集めることになります。
─────────────────────────────
      お金持ち20人 ・・・・ 20万円
      普通の人30人 ・・・・ 10万円
      貧乏な人50人 ・・・・  6万円
─────────────────────────────
 以上のように、村人全員がお金を税金として村に収めて、その
集めたお金を仮に負担してくれた人(お金持ち)に返すのです。
これは、政府が国債を発行して資金を集め、必要なことに使って
国債を償還することに匹敵します。
 つまり、こういうことになります。政府にお金を貸すというこ
とは、政府が国民のために使うお金を仮に負担することであり、
政府に税金を納めるということは、そのお金を実際に負担すると
いうことになります。
 これが正しいとすると、政府の借金返済問題は、仮の負担を実
際の負担にどのように再分配するかの問題に過ぎないということ
になります。まして、日本の場合、国債のほとんどが国内で消化
されているので、つまり、国民が政府に貸している場合、政府の
借金問題は、国民との間での再分配をどうするかという話でしか
なくなるのです。
 もうひとつ大事なことがあります。壁を建設するのに支払った
1000万円がどこに行くかの問題です。もし、村の建築業者に
壁の建設を頼んだとすると、その1000万円は村に落ちること
になります。
 話を簡単にするため、村にはお金持ち20人の持つ1000万
円しかなかったと仮定します。村長はその1000万円を借りて
壁を建設し、壁を作る仕事をした人に総額1000万円支払った
とします。そうすると、村人の手元の資金は1000円と変わり
ませんが、1000万円を調達したお金持ち20人は、村に対し
て、貸付債権1000万円を保有することになります。貸付債権
とは、「村債」、国でいえば「国債」です。
 そうすると、村人の持つ金融資産としては、1000万円の現
金と、村債1000万円で、合計2000万円を持っていること
になります。つまり、政府がお金を借りて使うと、その分だけ国
民の財産が増えるということになるのです。
 わかったようでわからない話かもしれませんが、この話によっ
て、政府の借金は民間の借金とは根本的に性格の異なるものであ
ることは理解していただけると思います。財務省は、増税をしや
すくするため、政府の借金と民間の借金を一緒にして説明してい
るのです。その方が彼らにとって都合がよいからです。
           ──[消費税は廃止できるか/028]

≪画像および関連情報≫
 ●「経済学を疑え!」/政府の借金は返す必要がない
  ───────────────────────────
  「今日は、政府が国民に借りた借金は返す必要が無いという
  話をしよう」
  「えっ、借金は返すのが当たり前でしょう」
  「まあ、話を聞いてよ。例によって、100人の村人がいる
  村の話だ」
  「聞いてあげるわ」
  「この村の周辺で賊が出るようになって、襲撃に備えるため
  村の周囲を壁で囲おうということになったんだ」
  「ほう」
  「壁を作る工事には1000万円かかる。そのための財源が
  無かったので、村民から借りることにする」
  「ふーん。村人は100人いるから、一人あたり10万円っ
  てこと?」
  「そうなるね。村人は一人10万円ずつ村長にお金を貸して
  計1000万円で壁が作られた」
  「良かった良かった。これで安心ね」
  「そうだね。さて、問題は借金の返済だ。村長は村人に10
  万円ずつ返さなきゃいけない」
  「どうやって返すの?」
  「税金で集めるしかないね。村長は、壁使用税という名目で
  一人あたり年間1万円の税金を集めることにした」
  「えー!村長が働いて稼いで返すんじゃないの?」
  「村長がそんなことをする義理はないよ。壁を作ったのは誰
  のためだった?」        https://bit.ly/2UIOdKn
  ───────────────────────────

100人の村.jpg
100人の村
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2020年02月17日

●「国債は政府の借金だが国民の資産」(EJ第5188号)

 政府の借金は、経済に深刻な打撃を与える消費増税までして、
返さなければならないものなのでしょうか。財務省は2014年
の5%〜8%への引き上げのときは、増収分の80%を返済に充
てているし、8%〜10%への引き上げでも50%を返済するこ
とになっています。財務省はまるで「悪代官」そのものです。そ
もそも毎年借金が増えるのは政府の財政運営の失敗が原因です。
その政府の失敗のツケをなぜ庶民の収入から取り立てるのでしょ
うか。だから、悪代官です。
 ネットのなかで、この問題に関する高校生と先生の次のやり取
りを見つけたので、ご紹介します。
─────────────────────────────
高校生:でも、日本に1000兆円も借金があるのは本当なんで
 すよね。それってやっぱり大変なことですよね。
先 生:もし、借金をゼロにする必要があるなら、そうかもしれ
 ないね。
高校生:え、借金はなくさないといけないんじゃないんですか?
 それに一人当たりに置き換えると863万円の借金って・・。
 やっぱりすごくやばそうな気がするんですけど・・・。
先 生:確かに、個人であったら借金はないほうがいいし、なる
 べく早く返したほうがいい。しかし、政府の借金はそうではな
 い。むしろ政府の借金は「あったほうがいい」といっても過言
 ではないんだ。
高校生:えっ、借金なのに、あったほうがいい?どういうことで
 すか!?              https://bit.ly/37q4pmr
─────────────────────────────
 「政府の借金はあったほうがよい」──この言葉から、何がわ
かるでしょうか。
 この言葉から財務省の狡猾さが透けて見えます。もともと政府
の活動を何かに例えるとしたら「個人」ではなく、「企業」では
ないでしょうか。上記の先生と高校生のやり取りの答えは、「企
業」です。企業は借金があった方がよいのです。そのため、政府
の財政をあえて個人の借金にすり替えたのです。つまり、政府の
借金を本来比較すべきものではない家計と比較しているのです。
先生と高校生のやり取りをもう少し続けることにします。
─────────────────────────────
先生:「政府」を「企業」に置き換えて考えてみると分かりやす
 いかもしれないね。あくまでも、たとえるのは「個人」ではな
 く「企業」だ。企業というのは、大体自己資金だけで起業など
 できないので、銀行などからお金を借りる。そして起業した後
 も、ずっとお金を借り続けるのが普通なんだよ。そのお金で、
 新しい機械を入れたり、多くの人を雇ったり、自社ビルを建て
 たりして、商売を広げていくためだ。こうやって、いろんな企
 業が銀行からお金を借りて商売を広げることで、お金が多くや
 りとりされ、経済が活性化するんだよ。つまり、多くの企業が
 銀行からたくさん融資を受けて、活発に設備投資をしているわ
 けで、もしも一切借金をしなくなったら、ただただ経済が縮小
 していくことになるんだよ。    https://bit.ly/37q4pmr
─────────────────────────────
 そのやり取りの後、先生は、日本全体の一般家庭の家計と企業
の財務状況の数字を高校生に次のように示します。2018年3
月末時点の数字です。
─────────────────────────────
           家計部門    企業部門
      資産 1829兆円  1178兆円
      負債  318兆円  1732兆円
           資産超過    負債超過
                  https://bit.ly/37q4pmr
─────────────────────────────
 これを見ると、家計部門は借金が少なく、企業部門は借金が多
いですが、これは当たり前のことなのです。それからもうひとつ
考えるべきことがあります。
 政府の借金の中心は国債です。日本の場合、国債の引き受け手
の90%は日本国民です。したがって、国債は、政府から見ると
国民からの借金です。これがとんどん増えているということは、
銀行から積極的にお金を借りて事業を発展させている企業が伸び
ているように、政府も積極的に政策を進めていることをあらわし
ています。そうすれば、経済は発展・成長し、国が豊かになって
行くわけです。日本の場合、政府の借金の大きさが問題ではなく
経済が成長しないことの方が、はるかに大問題です。
 一方、国民から見ると、国債は「資産」になります。つまり、
政府の借金(国債)が大きければ大きいほど、国民がたくさんの
資産を持っていることになるのです。これは、「プラスのサイク
ル」です。しかし、現在、日本は逆のことをしています。国民か
らあまねくお金を収奪する消費税を増税してお金を集め、そのほ
とんどを政府の借金の返済に充てています。税金が高くなると、
国民の収入は減り、国債が減るということは、国民の持つ資産が
減ることを意味しています。
 消費増税をすると、「消費税は消費の罰金」ですから個人消費
が直撃され、GDPの成長にブレーキがかかり、景気が悪化しま
す。その結果、税収が減少し、政府はその穴埋めに赤字国債を発
行し、借金を増やします。同じように借金が増えるのですが、こ
れは「マイナスのサイクル」です。これがひどくなったのが、デ
フレです。日本の場合、それが20年以上続いています。
 現在のように、何回も消費増税をして、政府の借金を返済する
ことを続けていくと、経済は勢いを失い、国民は貧乏になるので
ますますマイナスのサイクルにはまってしまい、なかなか抜け出
せなくなります。これをプラスのサイクルに戻すには、相当の荒
療治が必要になります。どうしても政府の借金が気になるのであ
れば、それをやるしかないことになります。
           ──[消費税は廃止できるか/029]

≪画像および関連情報≫
 ●国の借金は返す必要があるか(十字路)
  ───────────────────────────
   1000兆円にも及ぶ国の借金(国債)は果たして返せる
  のかという問いに対し、私は強い確信を持って答えられる。
  絶対に返せないと。借金は借り換えると増えも減りもしない
  が、借り増すと増え、返済したときにようやく減少する。当
  然のことだ。手元にある1985年以降30年間ほどのデー
  タを見ると、我が国の国債残高は一貫して増え続けてきた。
  ほとんど増えなかったごく短い期間はあるものの、減ったこ
  とは一度もない。つまり実質的には我々はこの間、期限を迎
  えた借金をひたすら借り換え、さらに借り増しをする一方で
  返済したことは一度もないということだ。だから国債発行残
  高が増え続けてきた。
   残念だがこの図式は今後も変わらない。今年度の一般会計
  を見ると、税収等の歳入が63兆円ある一方、政策経費の歳
  出が74兆円だから、差し引き11兆円の赤字だ。そこに既
  存の国債の利払い費が9兆円加わって、合計20兆円の借り
  増しが発生する。借金を減らすには、収支を年間20兆円以
  上改善させて黒字にしないといけない。少子高齢化が今後さ
  らに進行する我が国で、それが可能とは到底思えない。
   しかし実は借金はあってもよい。増えてもよいのだ。大事
  なのは体力とのバランス。企業でいえば収益力との見合い、
  国でいえば債務残高を名目国内総生産(GDP)と比べた比
  率だ。この数値を着実に低下させていけるのであれば、借金
  は増え続けても問題ないと言える。
               https://s.nikkei.com/2uMpYR4
  ───────────────────────────

「悪代官」の財務省.jpg
「悪代官」の財務省
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2020年02月18日

●「政府紙幣の発行という手段がある」(EJ第5189号)

 家計の借金と政府の借金は異なります。したがって、慌ててゼ
ロになるまで返済を急ぐ必要はありませんが、そうかといって借
金が年々増加するのを放置するのは好ましくありません。この場
合、重要なことは、経済を冷やさないことです。なぜなら、経済
が活性化し、税収が増えれば借金は少しずつでも減少していくは
ずです。個人と違って国家は永遠の存在ですから、超長期間にわ
たって少しずつでも返済していけばよいのです。
 ところが、現在政府や財務省がやっていることは、消費税を増
税してその増収分のほとんどを借金の返済に回すという「増税し
て借金を返す」最悪の手段です。これでは、いつまでもデフレか
ら脱却できず、逆に借金が増えてしまいます。
 それでは、どうすればよいでしょうか。
 その1つの手段として、「政府紙幣を発行する」という方法が
あります。この話は、2008年9月のリーマンショックの影響
で、深刻な不況が広がるなか、2009年の時点で、一時話題に
なったことがあります。この政府紙幣発行を取り上げ、導入を提
言したのは、あの高橋洋一嘉悦大学教授(当時/東洋大学教授)
です。高橋洋一氏は、2009年2月13日付の産経新聞「単刀
直言」で政府紙幣について次のように述べています。
─────────────────────────────
 10年や20年に1度の不況ならば、政府紙幣の発行は必要な
いが、「100年に1度」の大不況となれば別だ。「100年に
1度の対応」が当然必要となる。そこで、私が提案しているのが
政府紙幣25兆円を発行し、日銀の量的緩和で25兆円を供給、
さらに「埋蔵金」25兆円を活用し、計75兆円の資金を市中に
供給するプランだ。2、3年で集中的に行い、さまざまな政策を
組み合わせれば、多方面に効果が出るはずだ。
 大デフレ時のインフレは良薬だ。デフレは、例えて言えば氷風
呂。政府紙幣は熱湯。普段のお湯ならやけどをするが、氷風呂な
ら熱湯を入れない方が凍え死ぬ。金融政策は本来日銀の仕事だが
日銀が何もしないのならば政府がやるしかないのでないか。イン
フレ懸念の観点から歯止めが必要、というのならば、「インフレ
率3%になれば発行を止める」など物価安定目標をさだめればよ
い。これは同時に財政規律の確保にもつながる。
   ──2009年2月13日付の産経新聞「単刀直言」より
─────────────────────────────
 政府紙幣とは何でしょうか。
 政府紙幣とは、「通貨発行権」を持つ政府が直接発行する紙幣
のことで、「国家紙幣」とも呼ばれます。政府紙幣などというと
禁断の方法のようにいわれますが、シンガポールの通貨「シンガ
ポールドル」は政府紙幣です。これは、シンガポール金融管理局
が紙幣の発行と管理を行っているので、中央銀行の業務を政府が
自ら行っていることになります。
 まだあります。「香港ドル」がそうです。中国の香港特別行政
区の法定通貨「香港ドル」は、香港金融管理局で民営銀行3行が
紙幣を発行していますが、そのうち、10ドル香港紙幣は、香港
特別行政区政府の発行する政府紙幣です。
 歴史的に見ると、日本、とくに明治維新後の明治政府は、政府
紙幣を何回も発行しています。戊辰戦争のときの「太政官札」、
西南戦争時の「明治通宝」などがそうです。
 明治維新の新政府は、税制などの歳入システムが未整備のまま
で発足したので、当時の政府支出の大部分は、太政官札などの政
府紙幣で行われていたのです。このような政府紙幣を発行すると
ハイパーインフレが懸念されますが、当時は経済がデフレ状態に
あったので、物価も上昇せず、経済も順調に拡大しています。現
在の日本もデフレ状態にあるので、この事実は重要な参考ポイン
トになります。
 しかし、明治15年(1877年)6月にそれら政府紙幣の整
理の目的もあって、日本銀行条例が制定され、同年10月10日
に日本銀行が業務を開始しています。その後太平洋戦争下の19
38年、金属を優先的に軍需に回すため、当時補助貨幣(硬貨)
だった50銭が政府紙幣化されていますが、その後、政府紙幣の
話が浮上することはなかったのです。
 リーマンショックにより深刻化した景気後退期において、自民
党のある政治家が、当時の麻生太郎首相に対して、政府紙幣発行
の政策提言書を提出しています。その政治家は、第1次安倍改造
内閣で金融担当大臣を務めた渡辺喜美氏です。その政策提言書の
最後には、次のような文言が書かれていたのです。
─────────────────────────────
 政府紙幣発行などの提言が速やか、かつ真摯に検討、審議され
ない場合、政治家としての義命により、自民党を離党する。
                       ──渡辺喜美
─────────────────────────────
 麻生内閣は、この政策提言を無視したので、渡辺喜美氏は自民
党を離党しています。当時、麻生内閣は、不況対策を含むあらゆ
る面で、小沢一郎代表の指揮する民主党に追い詰められており、
不況も深刻化していたので、もし総選挙を行えば、ほぼ確実に政
権を失う危機にあったのです。麻生政権は、野党から解散総選挙
を要求されていたのです。
 この時期の政府紙幣発行の提言は、従来とは、次の2つの面で
背景が異なっていたのです。
─────────────────────────────
 1.財政上の目的である。国債の発行残高が膨れ上がってい
   る状況下で、国債を増やさずに、政府の財源をつくるこ
   とである。
 2.金融政策上の目的である。政府紙幣発行によってマネー
   サプライを増やし、デフレからの脱却を図ろうというわ
   けである。
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/030]

≪画像および関連情報≫
 ●「お札を刷って国の借金帳消し」ははたして可能か
            ──「高橋洋一の俗論を撃つ!」より
  ───────────────────────────
   ある人から、お札を刷って国の借金を帳消しにできないか
  と聞かれた。これは、後で詳しく述べるが、ある程度はでき
  る。また、これと大いに関係があるが、かつて筆者が政府紙
  幣の発行を主張したこともあり、しばしばそのメリットとデ
  メリットを聞かれる。
   実は、政府紙幣の発行と日銀の量的緩和は、経済効果とい
  う観点から見れば、両者はほぼ同じである。日本の経済学者
  は、財政学と金融論(金融政策)が縦割りになっており、政
  府紙幣はそれらの狭間に入るのでキワモノ扱いである。この
  ため、日銀の量的緩和でも理解不足の人が多いのは残念であ
  る。まず政府紙幣はそれほど突飛なものではなく、ほぼ現行
  制度の中の話である。かつて政府紙幣を生理的に嫌った与謝
  野馨氏は、経済財政相時代にとんでもない発言をした。
   テレビ番組で与謝野氏は、政府紙幣について「『円』って
  いうのは使えないんですよ。だから、『両』とかにね、しな
  いと。信用あります?流通しないですよ」と言った。
   これは、政府紙幣が現行制度で構成できることを知らずに
  言ったことで、ある意味法律違反の発言だ。通貨の単位及び
  貨幣の発行等に関する法律(以下「通貨法」)第二条第一項
  には「通貨の額面価格の単位は円とし、その額面価格は一円
  の整数倍とする」とある。政府紙幣は法定通貨であり、その
  通貨単位を「両」なんて勝手に言ってはいけない。それも、
  現職経済担当閣僚がテレビで公言するのだから、困ったもの
  だった。            https://bit.ly/2OYDU17
  ───────────────────────────

渡辺喜美氏.jpg
渡辺喜美氏
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2020年02月19日

●「スティグリッツ教授の提案の賛否」(EJ第5190号)

 2003年4月14日のことです。ノーベル経済学賞受賞のジ
ョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授が来日し、東京都
内で講演とシンポジウムを開いています。4月15日付、日本経
済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 日本経済新聞社と日本経済研究センターは14日、ノーベル経
済学賞受賞者のスティグリッツ米コロンビア大教授を招き、「日
本経済再生の処方を探る」と題したシンポジウムを東京都内で開
いた。スティグリッツ氏は基調講演で、デフレ克服のため「通貨
切り下げはプラス効果を持つ」と述べ、円安誘導が有効との見方
を示した。
 シンポジウムはスティグリッツ氏の来日を記念して開催。講演
後の討論会に榊原英資慶大教授、白川方明日銀理事、八代尚宏日
本経済研究センター理事長が参加した。スティグリッツ氏はデフ
レという難題を克服するには思考の転換が必要と指摘。「紙幣を
増刷する対策もある」と大胆な提言をした。日銀に代わって政府
が「政府紙幣」を発行する案だ。これに対し、日銀の白川理事は
日銀券が政府の紙幣に置き換わるだけだとし「問題を解決する方
策とは思えない」と反論した。  ──2003年4月15日付
                     日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授といえば、消費増税の実施判断のさいにも
安倍首相は日本に招いて意見を聞いています。しかし、日本政府
は話は聞くものの、彼らの意見を絶対に採用しません。聞き置く
だけです。「高名な学者からも意見も聞いている」というポーズ
を見せているだけです。それに財務省は、スティグリッツ教授の
意見には絶対反対であり、安倍首相が教授の意見を採用しないよ
うに神経を尖らせています。
 2003年4月の来日のときは、上記の日本経済新聞の報道に
もあるように、講演後の討論会に、榊原英資慶大教授、白川方明
日銀理事、八代尚宏日本経済研究センター理事長が参加しました
が、榊原英資慶大教授は教授の意見を前向きにとらえていたもの
の、2008年に日銀総裁になる白川方明日銀理事は、スティグ
リッツ教授による政府紙幣の提案に聞く耳を持たず、反対してい
ます。「それなら、日本のデフレを何とかしろよ!」といいたく
なりますが、だから、日本の経済学者たちは、いつまで経っても
ノーベル経済学賞が取れないのです。
 驚くべきは、白川方明理事が、スティグリッツ教授の提案する
政府紙幣の発行に関して次のように反対したことです。
─────────────────────────────
 (政府紙幣は)日銀券が政府の紙幣に置き換わるだけである
                  ──白川方明日銀理事
─────────────────────────────
 本当にそういったとすると、5年後に日銀総裁になる白川氏と
しては、考えられない発言です。これについて、伝統ある『経済
コラムマガジン』は次のように論評し、白川発言に疑問を呈して
います。
─────────────────────────────
 大きな誤解は、政府紙幣が発行されても、日銀券が政府紙幣に
置き換わるだけであり、経済に何の影響を与えないという意見で
ある。たしかに公務員の給料支払いを日銀券ではなく、政府紙幣
で行ったり、国債の買いオペを政府紙幣で行えば、そのようなこ
とになる。もっともその分だけ国の借金は増えないが。しかしそ
のようなばかげたことを主張するため、わざわざスティグリッツ
教授が来日し、政府紙幣に関した発言を行うはずがない。
                  https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
 ネット上で、そのときのスティグリッツ教授の提案を論評した
記事を探したのですが、よいものがなく、その中では『経済コラ
ムマガジン』の論評が光っています。スティグリッツ教授は、デ
フレギャップの大きい日本だからこそ、政府紙幣の発行の提案を
したと思われます。
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授は、デフレに陥っている日本経済に処方箋
をいくつか提案している。「円安誘導」、「銀行システムの立直
し」と言ったありきたりの政策に加え、なんと「プリンティング
マネー(政府紙幣)の発行」をスティグリッツ教授は提案した。
これは各方面に衝撃を与えており、波紋がひろがりつつある。こ
れはまさに筆者達が以前から主張していた政策である。(中略)
 この政府紙幣発行に対して色々の反論や解説がなされている。
しかしそれらのほとんどが間違っているか、的外れである。この
ような反論を行っている人物達が、日銀の理事だったり、リチャ
ード・クー氏なのだから、こちらも驚く。それほど日本において
は政府貨幣(紙幣)に対する知識や情報が乏しいのである。
 日銀券と政府紙幣の違いは、日銀券が日銀の債務に計上される
のに対して、政府紙幣は国の借金にならないことである。今日の
コインにもいえることであるが、額面からコインの製造経費を差
引いた額が国の収入になる。
 スティグリッツ教授の主張は「この政府貨幣(紙幣)の発行を
もっと大規模に行え」ということである。さらに重要なことはこ
の貨幣鋳造益や紙幣造幣益を『財政政策』に使えと提案している
のである。今日、国債の発行が巨額になり、政府は、「30兆円
枠」に見られるように、財政支出を削ろうと四苦八苦している。
しかしこれによってさらに日本のデフレは深刻になっている。そ
こで教授は、国の借金を増やさなくとも良い政府紙幣を発行し、
その紙幣造幣益を使って、減税や公共投資を行えば良いと提案し
ているのである。         ──2003年5月5日付
 『経済コラムマガジン』第295号 https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/031]

≪画像および関連情報≫
 ●風の行方とハードボイルドワンダーランド
  ───────────────────────────
   さて、2003年にノーベル経済学賞のスティグリッツ氏
  が来日し、財務省幹部の前で「政府紙幣」の発行について講
  演した。紙幣は日銀が発行し、貨幣は政府(造幣局)が日銀
  と独立して発行している。国債を日銀が購入することは、財
  政法で禁じられているので、政府が高額硬貨である政府紙幣
  を発行すれば、財政赤字問題は解決するというもの。国会議
  員の何人かも興味を示していたが、やがて話はなくなった。
  多分、実務レベルから見ると、明らかな財政ファイナンスと
  して日本の信認が失われ、円暴落等のリスクを勘案すれば非
  現実的だったのだろう。日銀の白川総裁の記者会見における
  政府紙幣に対する回答がある。「政府紙幣が市中から日銀に
  還流して来たとき、仮に政府がこれを回収せず、日銀に保有
  され続けるという形で政府紙幣が発行されるケースを考える
  と、政府は回収のための財源を必要としないことになるが、
  この仕組みは日銀に無利息で償還期間のない政府の債務を保
  有させるという点で、無利息の永久国債を日銀に引き受けさ
  せることに等しく、大きな弊害が生じる」。当時は国債を日
  銀が買い取るなどということ自体考えられなかったのだ。
                  https://bit.ly/2Sx32hR
  ───────────────────────────

「政府紙幣」の採用を説くスティグリッツ教授.jpg
「政府紙幣」の採用を説くスティグリッツ教授




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2020年02月20日

●「政府紙幣を発行するとどうなるか」(EJ第5191号)

 「政府紙幣」を具体的に考えてみます。政府紙幣については、
賛否両論がありますが、日本の国内では否定的であり、「怪しい
もの」という見方がほとんどです。ビットコインのときとよく似
ています。しかし、本当のところは、政府紙幣がどういうものか
わかっている人が、きわめて少ないのです。
 当時、与謝野馨経済財政相(故人)が、テレビ番組(テレビ朝
日『サンデープロジェクト』)に出演して、司会の田原聡一郎氏
から政府紙幣についてコメントを求められたとき、与謝野氏が政
府紙幣を日銀紙幣と別物にして、「『円』は使えないよ。『両』
にでもするのか」とバカにしたように話したとき、私はテレビを
視ていたので、印象に残っています。経済財政大臣ですら、ほと
んどわかっていないのです。
 そこで、既出の大西つねき氏の所説に戻って、政府紙幣につい
て具体的に検討します。政府には、通貨発行権があり、その気に
なれば、政府紙幣を発行できます。しかも、やり方はそんなに難
しくありません。必要なのは首相の決断だけです。
 100兆円の政府紙幣を導入することにします。この場合、1
兆円の政府紙幣を100枚印刷します。これで100兆円。そし
て、その政府紙幣を全額日銀に預けます。日銀は、それを金庫に
収納し、政府預金口座に100兆円と書き込みます。これで終わ
りです。したがって、流通するのは、日銀券であり、政府紙幣と
いう名のお札が流通するわけではないのです。与謝野大臣は、そ
のことが理解できていなかったのです。
 しかし、政府がこれをやるには、法改正が必要になります。当
然国会で審議されます。政府はその目的をきちんと国民に説明し
十分な国会審議を経て、法改正を行い、そのうえではじめて実施
可能になります。
 1月24日のEJ第5173号では、平成29年度(2017
年度)予算案の数字を使って分析をしましたが、これと同じモデ
ルを使って100兆円の政府紙幣を導入するとどうなるかについ
て分析を行うことにします。添付ファイルの図をご覧ください。
この図は大西つねき氏の本に出ているものです。
 図の中央の「平成29年度予算案」の部分を見てください。税
収は58兆円、その他の収入は5兆円で、合計63兆円の歳入で
す。この歳入に対して、国債費以外の政府支出が74兆円であり
基礎収支(63−74)は、マイナス11兆円になります。
 これに国債費は、次の通り、23兆円になりますが、償還分の
14兆円は借り換え分であるので、正味の不足金額は20兆円と
いうことになります。この20兆円を、従来は毎年赤字国債でカ
バーしていたのです。
─────────────────────────────
    基礎収支11兆円 + 利息9兆円 =20兆円
─────────────────────────────
 こういう前提に立って、政府紙幣100兆円を導入してみるこ
とにします。100兆円あれば、赤字分の20兆円を賄っても、
80兆円残るので、この分に対応する政府の借金を削減すること
ができます。図の右部分の「国債残高」を見てください。国債残
高は、平成28年度末で845兆円ですが、そこから、80兆円
を差し引くと、残高は765兆円になります。
─────────────────────────────
     845兆円 − 80兆円 = 765兆円
─────────────────────────────
 続いて、図の左部分、「マネーストック」のところを見てくだ
さい。市中にどのくらいのお金が回るかを見ることができます。
58兆円と5兆円の63兆円は、税金などとして政府に吸い上げ
られますが、政府支出の74兆円、基礎収支の差額11兆円、利
息の9兆円は支払われるので、民間に流通する通貨量に変化はあ
りません。その結果、政府紙幣でカバーした20兆円が増加して
次のように1010兆円になります。
─────────────────────────────
    990兆円 + 20兆円 = 1010兆円
─────────────────────────────
 ここで重要なことは、100兆円の政府紙幣を導入することに
よって、市中に流通するお金は20兆円増加しながら、政府の借
金は80兆円減少することです。あくまで計算上ですが、これを
10年間続けると、政府の借金はほぼなくなり、市中に回るお金
は毎年20兆円ずつ増えて、約1200兆円になります。
 しかも政府紙幣として発行するお金は政府の借金にはならない
のです。法改正は必要であるものの、ここまで述べてきているよ
うに、比較的簡単に発行できます。それにも関わらず、なぜ政府
はやらないのでしょうか。
 日本の場合、政府の借金がある程度巨額になっても、それに対
応する資産が十分あり、財政破綻を起こすことはありません。し
かし、借金が年々増加し、増えて行くことは決して好ましいこと
ではありません。それは利息がバカにならないからです。
 国債の利息の9兆円ですが、元本である約900兆円からする
と、0・1%に過ぎません。しかし、この利息水準でも10年経
つと約100兆円になるのです。まして、金利が上がると、大変
なことになります。既に利息分だけで、この35年で累計300
兆円になっています。しかしそれを政府紙幣で返した場合、向こ
う10年の利息はおそらく半減し、50兆円ぐらいになるでしょ
う。この50兆円でいろいろなことができます。教育予算を充実
化させたり、少子化対策にも役立てることができます。
 このように金利の重しを取り除くだけでも、経済は間違いなく
活性化します。だからこそ、スティグリッツ教授は、日本政府に
政府紙幣の導入を勧めたのです。日本は現在深刻なデフレ下にあ
り、相当量の政府紙幣を発行してもインフレにはならないからで
す。日本にはそれをやれる条件が整っているのです。このまま経
済に弱い財務省の役人にまかせておくと、日本の財政はも確実に
破綻します。     ──[消費税は廃止できるか/032]

≪画像および関連情報≫
 ●借金でお金を発行する時代は必ず終わる/大西つねき氏
  ───────────────────────────
   今の金融経済を俯瞰で見てみましょう。お金というのは、
  信用創造の仕組みで説明した通り、誰かの借金として発行さ
  れます。つまり、常にほぼ同じ額の借金が表裏一体で存在す
  るということです。これは政府の借金がお金を増やす仕組み
  で述べたように、政府の借金を返せば皆さんのお金がなくな
  る、ということからもわかります。相殺すればゼロというこ
  とです。私たちの金融経済というのは、最も単純化して言う
  と、相殺すればゼロのお金と借金を、奪い合い、押しつけ合
  っているだけです。もちろん奪い合うのはお金で、押し付け
  合うのは借金です。借金を押しつけるというのは実感が湧か
  ないかもしれませんが、この日本に生まれただけで政府の借
  金(=後払いの税金)が押しつけられるのです。そして、そ
  こから脱却するために奪い合うのです。奪い合うという言葉
  にも抵抗があるかもしれませんが、全て相殺すればゼロ、つ
  まりお金の部分だけ見ればゼロサムの世界ですから、みんな
  がプラスということはありません。奪わなければ負けるので
  す。つまり、金融の世界というのは、みんなで仲良く分け合
  えない世界なのです。必ず、マイナスの人がいるわけですか
  ら。しかも、金利という仕組みがプラスもマイナスも加速度
  的に大きくし、その差を広げます。 https://bit.ly/3bGNC1X
  ───────────────────────────
 ●図の出典/大西つねき著『私が総理大臣ならこうする/日本
  と世界の新世紀ビジョン』/白順社刊

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政府通貨で政府の借金を返すと?

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2020年02月21日

●「政府紙幣政策には賛否両論がある」(EJ第5192号)

 自民党内には、「政府紙幣」に対して反対者が多いです。その
中心は、元財務大臣経験者です。財務省は予算を握っている関係
上、他の省庁とは違い、大臣として大過なく過ごすためには、官
僚の協力がとくに不可欠な部署といえます。そうすると、どうし
ても財務省に洗脳されてしまうのです。
 統一見解があるわけではありませんが、財務省の政府紙幣に関
する一般的な考え方は次のようなものです。
─────────────────────────────
 日本銀行券に加えてさらに政府紙幣を大量発行すれば、大幅な
供給過剰に陥って円の信用が著しく低下し、収束不能の高インフ
レーション、過度な円安に向かう危険性がある。
 ある程度の円高是正であれば景気対策として有効性もあるが、
それを超えて大幅な円安が進行すれば、輸出には有利な反面、原
料の輸入価格の著しい上昇も招くため、結果的に高インフレ発生
を意味する。              ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 このように、「収束不能の高インフレ」、すなわちハイパーイ
ンフレを恐れているようですが、とくに日本の場合、政府紙幣を
発行したからといって、インフレになる可能性は低く、ましてハ
イパーインフレにはなりません。
 安倍政権の発足以来、黒田総裁が率いる日銀は、異次元金融緩
和と称して、大規模な金融緩和をスタートさせてから8年になろ
うとしていますが、設定した2%のインフレ目標にまだ到達して
いない状況です。インフレにしようと努力してもなかなかインフ
レにはならないのです。まして現在の日本が、政府の借金を政府
紙幣に置き換えたとしても、ハイパーインフレになることはあり
得ないことであり、政府紙幣導入の反論になっていないと思いま
す。政府紙幣に対して反対論を唱える一部の自民党議員の発言を
以下にまとめます。
─────────────────────────────
◎中川昭一元財務相
 日銀券を2つ作るようなもので、中央銀行があるなかでは、世
界中にこういうものを使っているところはないと聞いている。あ
まりに次元の違う問題を喚起する可能性がある。
◎伊吹文明元財務相
 政府紙幣はマリファナである。有権者に吸わせて、いい気分に
して票を取ろうという意図でやってはいけない。
◎高村正彦元外相
 中央銀行が一元管理することが大切だということは、歴史上人
類が学んできた知恵。安易に例外を認めるべきではない。
─────────────────────────────
 このように、政府紙幣はいわば奇策のひとつとされ、あまり人
前では口にできない政策であったといえます。しかし、口には出
さないが、この政策に賛同している政治家、経済学者(とくにケ
インジアン)は多くいます。
 その一人に元大蔵官僚の榊原英資青山学院大学教授がいます。
榊原氏は、『中央公論』/2002年7月号に次の論文を執筆し
ています。しかし、榊原氏は、政府紙幣をあくまで緊急避難的な
政策として位置付けています。
─────────────────────────────
 「日本が構造的デフレを乗り切るために/政府紙幣の発行で
 過剰債務を一掃せよ」──『中央公論』/2002年7月号
─────────────────────────────
 また、元大蔵官僚で、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、2004
年に日本政府内で政府紙幣の発行を提案し、その準備の文書「政
府紙幣発行の財政金融上の位置づけ」を作成しています。この高
橋論文では、日銀券とは別に財務省が政府紙幣を発行し、国民に
配るという政策を提言しています。
 それでは、現日銀総裁の黒田東彦氏は、政府紙幣に関してどの
ように考えていたのでしょうか。これについては既にご紹介済み
の『経済コラムマガジン』に、内閣官房参与(前財務省財務官)
時代の黒田東彦氏の意見が紹介されています。
─────────────────────────────
 筆者は、スティグリッツ教授の提案に対して、経済の専門家か
らこのような初歩的で的外れの疑念や批難が続くこと自体を危惧
する。このような状況では、いきなり政府紙幣発行はちょっと無
理かもしれない。
 このように混乱している議論に対して、黒田東彦内閣官房参与
(前財務省財務官)が「日銀がもっと大量に国債を購入すること
が現実的」と発言している。これは穏当な意見であり、筆者もこ
れに同感せざるを得ない。ちなみに黒田前財務省財務官は、以前
からリフレ(穏やかなインフレ)政策を主張している。
 政府紙幣の発行も日銀による国債購入も実質的に国の借金にな
らない。そこで政府紙幣への理解が進まないようなら、まず日銀
の国債購入によって積極財政政策のための資金を賄う他はない。
ただ日銀による国債購入には難点がある。日銀は国債購入の限度
を日銀券の発行額と一応定めているのである。これがネックとな
る可能性がある。したがって日銀がどうしても限度額にたいして
柔軟な姿勢を示せないなら、最後の手段として政府貨幣(紙幣)
のオプションは取って置くべきである。 2003年5月5日付
 『経済コラムマガジン』第295号 https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
 かりそめにも経済学者として世界的な権威であるスティグリッ
ツ教授が勧めている提案です。単に政府紙幣を発行せよといって
いるのではなく、現在の日本には、大きなデフレギャップが存在
するので、相当額の政府紙幣が発行できるし、やってみる価値が
あるといっているだけです。この政策によって物価上昇率が限度
額を超えるようであれば、政府紙幣の発行をセーブすればよいの
であって、目くじら立てて反対するような話ではないのです。
           ──[消費税は廃止できるか/033]

≪画像および関連情報≫
 ●新紙幣を「政府の電子マネー」として発行したら
  ───────────────────────────
   政府が2024年から新紙幣を発行すると発表したが、キ
  ャッシュレス化を進めているとき、時代錯誤な話だ。むしろ
  脱税の温床になっている1万円札は廃止すべきだ、というの
  がロゴフの提案である。そこで電子マネーの時代にふさわし
  い新通貨を考えてみた。これは日本銀行の発行する紙幣では
  なく、政府(財務省)の発行する電子マネーである。日銀が
  1882年に設立される前は、政府紙幣が発行されていた。
  今でも政府が紙幣を発行することは(立法すれば)可能であ
  る。2003年にもスティグリッツが提言したことがある。
  その論理は明快だ。
   政府紙幣の発行により債務のファイナンスを行います。日
  銀と財務省の適切な政策についての私の観察では、たとえ政
  府紙幣の発行を始めたとしても印刷機のスピードをただ速め
  るようなことはしないと確信しています。政府紙幣の発行ス
  ピードは非常に緩やかなものとなるでしょう。真の問題は、
  政府紙幣を増発しすぎるということではなく、むしろ政府紙
  幣の増発が不十分な量で終わるということです。したがって
  不連続性については例証は存在せず、緩やかに増発すればハ
  イパーインフレを引き起こすことはありません。経済理論に
  よれば、適正なインフレ率が存在し、この水準となるように
  供給量を調節することができるのです。
                  https://bit.ly/2P3hs7j
  ───────────────────────────

榊原英資氏と黒田東彦氏.jpg
榊原英資氏と黒田東彦氏.
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2020年02月25日

●「実質GDP▲6・3%は実に深刻」(EJ第5193号)

 2020年2月17日のことです。消費増税後の10月〜12
月期の国内総生産(GDP)の数値が発表されたのです。
─────────────────────────────
  ◎GDP/2019年10月〜12月期(前期比)速報値
    ─────────────────────
    実質GDP   ▲1・6%(年率6・3%)
    ─────────────────────
     個人消費   ▲2・9%
     住宅投資   ▲2・7%
     設備投資   ▲3・7%
     公共投資    1・1%
    内需寄与度   ▲2・1%
       輸出   ▲0・1%
       輸入   ▲2・6%
    外需寄与度    0・5%
    名目GDP   ▲1・2%(年率4・9%)
─────────────────────────────
 10月に消費増税をしているので、実質GDPが前期比で相当
程度落ち込むのは十分予測されたのですが、市場予想の平均値は
年率「▲3・9%」、かなり厳しい予測でも「▲4・5%」程度
であったのです。それが「▲6・3%」ですから、明らかにネガ
ティブ・サプライズであるといえます。
 この前期比6・3%という数字はきわめて深刻です。これは、
個人消費の急減を主因とするマイナス成長であり、消費増税によ
る悪影響が、当初予定されたよりもはるかに大きかったことを示
しているからです。前回の5%から8%への3%の消費増税は、
直前の1〜3月期の駆け込みと直後の4月〜6月期の反動が次の
ように明確であったのに対し、今回は、増税前の盛り上がりがな
かったのに、増税後の落ち込みが大きいのです。
─────────────────────────────
              直前3ヶ月  直後3ヶ月
   前回(2014年)  +4・1%  ▲7・4%
   今回(2019年)  +0・5%  ▲6・3%
─────────────────────────────
 これに関して、第一生命経済研究所経済調査部の主席エコノミ
ストの新家義貴氏は、次のように分析しています。
─────────────────────────────
 今回の消費増税では、そもそもの税率引き上げ幅が2%と14
年の3%引き上げと比べて小さいことに加え、軽減税率やキャッ
シュレスポイントの導入、幼児教育無償化等、多くの対策が実施
されたことから、
 @需要平準化策の効果で駆け込み需要や反動減は相当程度抑
  制される、
 A負担増が限定的であるため、実質購買力減少に伴う消費の
  減少は小さななものにとどまる、
との見方が当初は多かった。だが実際には、駆け込み需要も反動
減も意外に大きく、負担増による下押しも予想以上に大きかった
印象だ。今回の落ち込みについては、「前回の増税時よりも個人
消費の落ち込みは小さかった」と評価するよりも、「引き上げ幅
が前回よりも小さい上、これだけの対策を実施したにもかかわら
ず、想定以上の落ち込みとなった」と見る方が妥当と考える。
                  https://bit.ly/32j58oE ─────────────────────────────
 これに対して安倍首相は、実質GDPが「▲6・3%」になっ
たことについて、2月17日の衆院予算委員会において、次のよ
うなノーテンキな答弁しています。
─────────────────────────────
 おもに個人消費が消費税率引き上げにともなう一定程度の反動
減に加え、台風や暖冬の影響を受けたことから、前期比マイナス
に転じました。良好な雇用、所得環境に加えて、今後、経済対策
の効果が発生していくことを踏まえれば、我が国、経済は基調と
しては今後とも内需主導の緩やかな回復が継続していくものと考
えております。──2020年2月17日/衆院予算委員会での
                      安倍首相の答弁
─────────────────────────────
 要するに安倍首相がいいたいことは、軽減税率やキャッシュレ
スポイント還元などの効果により、駆け込み需要が0・5%と小
さかったのだが、台風や暖冬の影響を受けて、前期比マイナスに
なったものと、消費増税の影響を台風や暖冬のそれにすり替えて
いるのです。
 これに対し、既出のエコノミストの新家義貴氏は、新型肺炎に
よる悪影響もあって、1〜3月期もマイナス成長になるとして、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 元々筆者は、@増税に伴う家計負担増の影響が残存することに
加え、そもそもの所得の伸びが弱いことから、個人消費の戻りは
鈍いものにとどまること、A輸入の反動増や在庫削減の動きが成
長率を押し下げること、等から1〜3月期の反発は、10〜12
月期の落ち込みの大きさの割に小幅なものにとどまると予想して
いた。そこにさらに追い打ちをかけるのが新型肺炎による悪影響
である。中国人観光客の急減に伴ってサービス輸出が落ち込むこ
とに加え、中国経済の悪化により財輸出も下押しされる可能性が
高い。工場の操業停止によって中国における生産活動は大幅に落
ち込んだとみられることに加え、サプライチェーンを通じた悪影
響も懸念されており、日本からの輸出にも少なくとも短期的には
大きな悪影響が及ぶとみられる。こうした下押しを考えると、1
〜3月期についてもマイナス成長が続く可能性がある。
                  https://bit.ly/32j58oE ─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/034]

≪画像および関連情報≫
 ●10〜12月GDP大幅減で露呈「日本の脆弱性
  ───────────────────────────
   今回のGDP(国内総生産)下落が、いかにインパクトが
  大きいのかについては、2019年における各四半期の数字
  を見れば一目瞭然である。2019年1〜3月の実質成長率
  (四半期ベース)はプラス0・6%、4〜6月は、プラス0
  ・5%、7〜9月期はプラス0・1%と徐々に低下していた
  が、10〜12月期では一気にマイナス1・6%となった。
  これを年率換算すると、6・3%にもなる。
   10〜12月期の数字が悪いことは当初から分かっていた
  ことであり、場合によってはマイナス成長に転じる可能性に
  ついても指摘されていたが、ここまで数字が悪いとは思って
  いなかった人も多かったと考えられる。項目別では何かが大
  きく足を引っ張ったのではなく、景気とは無関係に決まる政
  府支出を除き、ほぼすべての項目が大幅マイナスとなった。
   GDPの約6割を占める個人消費はマイナス2・9%(以
  下すべて四半期ベース)、住宅はマイナス2・7%、企業の
  設備投資に至っては3・7%ものマイナスである。10月の
  増税で個人が消費を絞り、住宅購入にもブレーキがかかった
  と見られるが、設備投資が大幅なマイナスということは企業
  心理も著しく悪化したことを示している。もともと企業は、
  国内市場に悲観的で設備投資を抑制してきたが、消費増税を
  きっかけにさらに将来への投資を削減した格好だ。
                  https://bit.ly/39SC3CY
  ───────────────────────────


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実質GDP成長率/10〜12月期
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2020年02月26日

●「MMTという現代貨幣理論がある」(EJ第5194号)

 いま日本では、1年間で集まる税金が約50兆円あります。こ
れだけあれば何でもできるだろうと思うよね。ところが、国が使
うお金は1年間で約97兆円。つまり47兆円も足りない、とい
うことです。税金を倍にしたら足りるかもしれないけど、みんな
大反対するに決まっているよね。そこで日本は、足りないぶんを
借金してまかなっています。(・・・)
 日本は毎年のようにお金を借りて、いまでは全部で1000兆
円までふくらんでいます。こんなにたくさんの借金をしている国
は世界で日本だけ。だから「日本はこのままでは借金を返せなく
なり、つぶれてしまいますよ」と心配している人もいます。
                       ──池上彰著
        『池上彰のはじめてのお金の教科書』/幻冬舎
─────────────────────────────
 これは池上彰氏の子供向けの絵本に出ている説明です。池上彰
氏は、テレビの番組で、日本や世界で起きているさまざまな出来
事を取り上げ、ていねいにわかり易く解説をする人物としては第
一人者です。しかし、政治的に微妙な問題については、慎重な表
現を巧みに使って解説を施しています。
 上記の日本政府の借金についても「『日本はこのままでは借金
を返せなくなり、つぶれてしまいますよ』と心配している人もい
ます」という微妙な表現を使っています。けっして政府の方針に
逆らってはいないのです。政府の方針とは、2025年までにプ
ライマリーバランスを黒字化するというものです。池上氏の解説
は、基本的にはこれに沿って説明しています。そうしないと、池
上氏といえども、長期間にわたってテレビに出演し続けることは
できないでしょう。財務省の目が光っているからです。
 日本という国は、首がまわらないぐらい膨大な借金を抱えてい
て、このままでは破綻する──今やこれは、子供も含めて、日本
人の共通認識になりつつあります。それだけ財務省のプロパガン
ダが効いてきています。
 しかし、日本政府は、それほどの借金を抱えながらも、国連を
はじめとする国際機関の出資金は米国に次いでつねに上位を占め
ODAを含め、貧困国に積極的に資金を援助しています。安倍首
相も世界各国を飛び回ってお金をばら撒いています。とても借金
大国らしくありません。どうしてそのようなことが、できるので
しょうか。そんなお金はどこにあるのでしょうか。
 この政府の借金の捉え方について画期的な解釈を施し、現在話
題になっている経済の運営に関わる理論があります。MMT──
Modan Monetary Theory がそれです。その定義は次のようになっ
ています。
─────────────────────────────
 MMTとは、自分の国のお金(通貨)で債券を発行できる国は
デフォルトに陥ることはなく、政府は財政の悪化をそれほど気に
せず、積極的に国債を発行して、景気刺激策を進めることができ
るという財政の運営に関する理論です。
 MMTの条件には次の3つがあります。
  @経営黒字である
  A自国通貨建ての国債が発行できる
  Bインフレが起きていない        ──真壁昭夫著
             『MMT(現代貨幣理論)の教科書
        /日本は借金し放題?暴論か正論か見極める』
                   ビジネス教育出版社刊
─────────────────────────────
 MMTに対する日本のメディアの反応をひろってみると、次の
ようになります。
─────────────────────────────
◎産経新聞/2019年4月23日
 「財政赤字を容認する現代貨幣理論(MMT)」
◎日本経済新聞/2019年3月15日
 「『財政赤字は問題ない』とする異端の経済政策論」
◎朝日新聞/2019年4月26日
 「財政赤字なんか膨らんでもへっちゃらで、中央銀行に紙幣を
 刷らせれば財源はいくらでもある、というかなりの『トンデモ
 理論』である」           ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 このように日本においてMMTは、「異端」「トンデモ理論」
として捉えられており、米国でも、グリーン・スパン元FRB議
長やサマーズ元米財務長官などの主流派の学者はみなこの理論を
否定していますが、米国ではある若い下院議員がMMTを主張し
たことで大きな話題になったのです。
─────────────────────────────
 実際、MMTが話題になったのは、アメリカの下院議員選挙で
最年少議員として当選した20代のアレキサンドリア・オカシオ
=コルテスが、MMTの重要性を主張し、政府による積極的な財
政拡大を通してアメリカ経済を活性化していくことが必要だ、財
政赤字を気にしてそれをしなければ、アメリカ経済は疲弊してし
まうのではないかと、主張したことがきっかけだった。オカシオ
=コルテス議員は今、ツイッターで300万人のフォロワーを抱
え、彼女の動画再生回数は4000万を超え、オンラインメディ
ア、ナウ・ジスの動画で、過去最高を記録するほどの「フィーバ
ー」状態になっている。  ──藤井聡著/晶文社の前掲書より
─────────────────────────────
 MMTは、EJがここまで述べてきたことと重要な関係がある
と思います。財務省系の日本の経済学者は、ろくに調べもしない
で、MMTを「トンデモ理論」とコキ下ろしていますが、それは
自分たちにとって都合の悪い理論だからです。明日から、MMT
にメスを入れていきたいと考えています。
           ──[消費税は廃止できるか/035]

≪画像および関連情報≫
 ●「MMT」がトンデモ経済理論と言えないこれだけの理由
                      /安達誠司氏
  ───────────────────────────
   最近、「MMT(現代貨幣理論)」という新しい経済理論
  が内外で話題になっている。MMTとは、簡単にいえば「自
  国通貨建てで政府債務を拡大させれば物理的な生産力の上限
  まで経済を拡大させることができる」という考え方である。
  つまり、MMTは「自国通貨建てで財政赤字を拡大させれば
  政府は簡単に経済の長期停滞から脱出できる」と主張して世
  間の注目を集めているのである。
   当然のように、主流の経済学者のほとんどがMMTを強く
  批判している。特に、ブランシャール、クルーグマン、ロゴ
  フ、サマーズといった主流派経済学の重鎮たちは、執拗にM
  MT批判を展開している。
   ところで、彼らの批判は大きく分けて2つである。1つは
  財政支出の拡大によって金利が急騰し、民間投資が阻害され
  てしまう懸念(クラウディングアウト)である。そして2つ
  めは、財政支出を無限に拡大させることによる(ハイパー)
  インフレ懸念である。このような批判に対し、MMTを主張
  する人たち(「MMTer」といわれているらしい)は、以
  下のように反論している。1つめのクラウディングアウト懸
  念に対しては、「中央銀行が固定(ゼロ)金利政策を採用し
  財政赤字をそのままファイナンスすれば、財政赤字の増加分
  そのまま資金供給が増加するので、民間投資が押し出される
  ことはない(また、中央銀行がゼロ金利政策を長期間維持す
  ることが予想できれば、将来の政策金利の予想で決まる長期
  金利も低位安定するはずである)。https://bit.ly/3a3pJQF
  ───────────────────────────

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オカシオ・コルテス下院議員
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2020年02月27日

●「財務省は財政をどう考えているか」(EJ第5195号)

 日本政府の財政が深刻な状況にあることはほとんど常識化され
ています。しかし、その根拠は、政府債務の対GDP比が200
%を超えているということに過ぎないのです。
 しかし、日本の場合、他の国では当然のようにやっている金融
資産を債務から差し引かず、債務だけを発表しています。それは
政府の借金を多く見せようとする財務省の策略です。借金が大き
い方が増税しやすいからです。
 本当のところは、どうなのでしょうか。少し長いですが、次の
文章を読んでください。これは、米国の格付会社が日本国債の格
付けを下げたときに、財務省がその格付会社に突き付けた抗議文
書と質問状の全文です。
─────────────────────────────
◎外国格付け会社宛意見書要旨
1.貴社による日本国債の格付けについては、当方としては日本
 経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更な
 る格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従
 来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、
 これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。
  従って、以下の諸点に閲し、貴社の考え方を具体的・定量的
 に明らかにされたい。
 @日米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられ
  ない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
 A格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経
  済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべき
  である。
  例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
  ・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
  ・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に
   消化されている
  ・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も
   世界最高
 B各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように
  説明されるのか。
  ・1人当たりのGDPが日本の3分の1で、かつ大きな経常
   赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。
  ・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1
   978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性
   が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維
   持した。
  ・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済の
   ファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同
   格付けとなる。
2.以上の疑問の提示は、日本政府が改革について真剣ではない
 ということでは全くない。政府は実際、財政構造改革をはじめ
 とする各般の構造改革を真撃に遂行している。同時に、格付け
 について、市場はより客観性・透明性の高い方法論や基準を必
 要としている。       ──上念司著/講談社+α新書
      『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』
─────────────────────────────
 どうでしょうか。米国の格付会社は、この質問状にまともには
答えられないはずです。すべてが、真実で固められているからで
す。そのため、主張には強い説得力があります。財務省は、日本
国民に対しては、借金で首がまわらないから増税しかないといっ
ておきながら、外に対しては、このようにまるで違うことをいっ
ているのです。
 さて、財務省は主張のなかで「日米など先進国の自国通貨建て
国債のデフォルトは考えられない」と明言しています。これはま
さにMMTそのものです。財務省の役人は、ちゃんとわかってい
るのです。しかし、国民よりも、自分たちの利益を優先させてお
り、借金の多額さをよいことに、増税を実現させようとしている
のです。これでは公務員として失格です。
 安倍首相もMMTを知らないはずはないと思います。それなら
安倍首相は、なぜ借金など気にしないで、消費増税を凍結し、積
極的に財政出動して、日本経済をデフレから脱却させないでいる
のでしょうか。なぜ2014年に5%〜8%、2019年に8%
〜10%の大増税を実施し、デフレ脱却を不可能にしてしまった
のでしょうか。自分のやったことがわかっているのでしょうか。
 それは、安倍首相には一国のリーダーにとって不可欠な「大胆
な決断力」が欠如しているからです。消費増税も2回延期しまし
たが、結局は実施して、その結果、10月〜12月のGDP成長
率を年率6・3%というとんでもないマイナス成長にしてしまっ
ています。安倍首相のやっていることは「やってる感」は感じさ
せるものの、結局何も実現しないで終っています。
 それは、新型肺炎コロナウイルスの政府としての対応にもよく
あらわれています。この国家的危機に対して、国民の安全と財産
を守らなければならない安倍首相は、リーダーシップをとってい
ません。あるサイトでは、この問題の政府の対応について、次の
ように批判しています。「やってる感」じゃだめなのです。
─────────────────────────────
 新型肺炎の対策で日本は初動を誤った。検査体制に万全を尽く
し、早期発見に努め、市中感染が広がる前に封じ込めをしなくて
はいけなかったのに、検査をせず、感染者を探し出すことをせず
3週間も市中で感染が連鎖するのを閑却した。政府発表の見かけ
の数字は少ないが、市中では3次4次の感染が広がっている。W
HOの進藤奈邦子は、「今一番、世界中が心配しているのが日本
だ」「他の国では全部の感染者が(誰から感染したのか経路が)
追える。日本だけ様相が違う」と言い、日本のルーズな対応に警
鐘を鳴らした。           http://exci.to/37QVqLq
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/036]

≪画像および関連情報≫
 ●永田町大混乱!「新型コロナVS安倍VS菅」
  最後に勝つのは誰だ!/「プレジデント」3月6日号
  ───────────────────────────
   世界中で感染拡大している新型コロナウイルスをめぐり、
  安倍晋三政権の後手後手な対応が批判を浴びている。現在は
  国・湖北省に滞在した外国人の入国を拒否するようになった
  が、当初は「震源地」である武漢市からチャーター機で帰国
  した日本人全員を検査することができず、感染症法に基づく
  「指定感染症」の政令施行日や搭乗者負担としていたチャー
  ター機費用も土壇場で方針転換するなど不手際ぶりが浮き彫
  りになっている。「危機管理」の強さを売りにしてきたはず
  の安倍政権に今、何が起きているのか。
   野党が繰り返し追及してきた森友・加計問題や財務省の文
  書改ざん問題など、「普通ならば内閣が吹っ飛ぶ」(閣僚経
  験者)とされたテーマでも乗り切り、史上最長政権となった
  安倍内閣だが、新型コロナウイルスをめぐる対応はあまりに
  遅く、お粗末さが目立つ。
   中国・湖北省では2019年12月以降、新型コロナウイ
  ルス関連肺炎の発生が確認されていたが、日本政府が関係閣
  僚会議で対応方針を決定したのは20年1月21日。その方
  針も感染リスクが高い地域からの帰国者・入国者に対する健
  康状態の確認や情報収集・情報提供など4項目で、この時点
  で安倍首相は「持続的なヒトからヒトへの感染が確認されて
  いる状況ではないが、一層の警戒が必要となる。感染症の発
  生状況など情報収集の徹底に万全を期してほしい」との認識
  だった。            https://bit.ly/2PmiFqu
  ───────────────────────────

WHO/進藤奈邦子氏.jpg
WHO/進藤奈邦子氏
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2020年02月28日

●「財政を実態より悪くみせる財務省」(EJ第5196号)

 今日は金曜日です。金曜日のEJは、次のEJまで土曜と日曜
の2日間が空くので、どうしてもつながりが悪くなります。した
がって、今日はMMTの周辺の話をします。MMTの本格的な話
は3月2日からになります。さて、消費増税に関して、次のこと
がよくいわれます。聞いたことがあると思います。
─────────────────────────────
 消費税の税率を1%アップすると、2・5兆円税収が増える
─────────────────────────────
 このことをあまり疑う人はいないと思います。税率を上げるの
ですから、その分が増加して、2・5兆円になるのだろうと誰で
も考えます。しかし、よく考えてみると、必ずしもその金額が増
えるとは限らないのではないでしょうか。もし、本当に1%につ
き2・5兆円増えるのであれば、次のように税収が増えたことに
なります。
─────────────────────────────
  ◎第1回/1989年 0%〜 3%  7・5兆円増
  ◎第2回/1997年 3%〜 5%  5・0兆円増
  ◎第3回/2014年 5%〜 8%  7・5兆円増
  ◎第4回/2019年 8%〜10%  5・0兆円増
─────────────────────────────
 実際はどうだったのでしょうか。私の知るかぎり、その結果は
新聞などでは、公表されていないはずです。しかし、経済評論家
の上念司氏の本にその結果が出ています。それによると、第4回
の増税はやったばかりなのでまだ結果が出ていませんが、3回ま
での増税では、いずれも「1%=2・5兆円」は未達成の結果に
終っています。
─────────────────────────────
  ◎第1回/1989年 0%〜 3%
   54・9兆円 → 60・1兆円  +5・2兆円
  ◎第2回/1997年 3%〜 5%
   53・9兆円 → 49・5兆円  −4・5兆円
  ◎第3回/2014年 5%〜 8%
   54・0兆円 → 56・4兆円  +2・4兆円
               ──上念司著/講談社+α新書
      『財務省と題新聞が隠す本当は世界一の日本経済』
─────────────────────────────
 3回とも未達成というのも驚きですが、なかでも悲惨な結果に
終ったのは、第2回の3%〜5%への増税です。増税しているの
に税収が4・5兆円もマイナスになってしまっているからです。
これでは、何のための増税かわからなくなります。
 どうしてこういう結果になるのかについて、上念氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
■税収=名目GDP×税率
 税率を上げても名目GDPに変化がなければ、確かに税収は増
えるでしょう。しかし税率を上げると、人々は支出を抑制し、モ
ノを買わなくなります。そうすると景気が悪くなって、名目GD
Pの伸びが鈍化したり、場合によってはマイナスになる。そして
その落ち込みが税率の上げ幅より大きければ当然、税収も減って
しまうことになるわけです。
 具体的にいえば、消費税の増税によって、消費税だけの税収は
確かに増えるかもしれません。しかし、景気が悪くなることで企
業の収益が悪化し、消費税以外の所得税や法人税が大幅な減収と
なります。1997年のケースは、消費税の増収分よりも所得税
や法人税の減収の幅のほうがはるかに大きかったために、全体と
しての税収が減ってしまったのです。
         ──上念司著/講談社+α新書の前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、税収を増やすには名目GDPを上げればよいのです。
名目GDPと税収の間の相関係数は「0・82」であり、相関係
数が「0・7」以上あると、強い相関があるといえます。上念司
氏によると、「GDPが1%増えると、税収は3%以上増える」
そうです。ところが、名目GDPが1%増えたら、税収がどのく
らい増えるかについて、財務省は、公式見解として、次のように
述べています。税収弾性値とは、名目GDPが1%増えると、税
収がどのくらい増えるかを表す数値です。
─────────────────────────────
     名目GDPの税収弾性値はほぼ「1」である
─────────────────────────────
 この数値は明らかに低いのです。財務省から聞き出したとされ
る下記の2005年から2012年度までの税収弾性値を見ると
かなり、高い値であり、平均値は「7・5」になるそうです。こ
の数字はさすがに高いとしても、「3」ぐらいになっても不思議
はありません。それを財務省は「1」としています。長期的には
そうなるというのです。これも日本の財政を実態よりも悪く見せ
たい財務省の思惑なのでしょうか。財務省は何が何でも増税を積
み重ねたいようです。
─────────────────────────────
 ◎平成17年度から24年度の税収弾性値
    平成17(2005)年度 ・・・ 15・6
    平成18(2006)年度 ・・・  6・3
    平成19(2007)年度 ・・・  0・0
    平成20(2008)年度 ・・・  2・6
    平成21(2009)年度 ・・・  4・0
    平成22(2010)年度 ・・・  6・2
    平成23(2011)年度 ・・・ 弾性値マイナス
    平成24(2012)年度 ・・・ 27・0
         ──上念司著/講談社+α新書の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/037]

≪画像および関連情報≫
 ●税収弾性値の議論で抜け落ちる「重要な視点」とは
  ───────────────────────────
   税収の伸び率が名目GDP成長率の何倍になるのかという
  弾性値の議論が活発だ。現在(2015年)の景気回復局面
  では、弾性値(10年ローリング)は3・5倍程度となって
  いるが、数十年のかなり長期的な平均では1倍程度と言われ
  る。6月中に政府がまとめる財政健全化計画の議論では、こ
  の弾性値の前提を控えめな1倍程度とするのか、それより大
  きい数字とするのか、意見が割れているようだ。
   倍数が大きくなれば、名目GDP成長率の伸びに対して税
  収の見積もり(伸び率)も大きくなり、政府の目標である、
  2020年度のプライマリーバランスの黒字化達成のための
  歳出削減幅は、小さくてもすむことになる。
   この議論で疑問なのは、税収の伸び率と名目GDP成長率
  というフローの比較だけが行われていることだ。税収と名目
  GDPの水準比較の議論がほとんど行われておらず、抜け落
  ちている視点であると言える。バブル期の1990年度の税
  収(除く消費税)の名目GDPに対する割合は12%程度で
  あった。しかし、その後に急落が続き、デフレに陥った19
  90た年代後半からは、割合は7%程度となっている。現在
  税収の弾性値が1倍を大きく上回ってきているため、割合は
  上昇傾向にある。日本がデフレを完全に脱却していけば、こ
  の割合は1990年度までとは言わないが、今後もしっかり
  とした上昇が続くはずである。このような税収水準の上方へ
  の調整を考えると、税収の弾性値が2020年度という短い
  期間で1倍程度にとどまるというのは非現実的である。
                  https://bit.ly/37VtuGp
  ──────────────────────────

上念司氏.jpg
上念司氏

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