2020年01月29日

●「増税をめぐる官邸と財務省の攻防」(EJ第5176号)

 日本の財務省が金科玉条にしているのは財政均衡論です。これ
は要するに「政府の借金を税金で返す」という考え方であり、間
違っています。安倍内閣は、増税を懸念して2回実施を延期した
ものの、財務省に対する抵抗はそこまでで、結局、自分の任期中
に、日本経済がデフレから脱却していないにもかかわらず、2回
にわたって消費税の税率を5%倍増し、日本の貧乏化に貢献した
総理大臣として歴史に名を残すことになりそうです。
 その安倍首相の後を狙う岸田文雄政調会長の経済政策はどうな
るのでしょうか。岸田文雄氏は、2018年4月18日開催の派
閥のパーティーで、「K−WISH」なる政策骨子を発表してい
ます。「K−WISH」とは、次のことを意味しています。
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          Kind   な政治
          Warm   な経済
          Inclusive な社会
          Sustainable 土台
          Humane  な外交
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 岸田文雄政調会長の「K−WISH」について、森永卓郎氏は
次のように述べています。
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 岸田氏の政策の方向性は、一言でいうと、アベノミクスの否定
だ。政策の柱として打ち出したのが、財政再建とボトムアップ型
の政治だ。安倍政権が採ってきた積極的な金融緩和・財政出動を
基本とする経済政策を否定する。また、官邸に官僚の人事権を集
中する安倍流トップダウン政治を否定して、ボトムアップ型の政
治に戻すことを打ち出したのだ。(中略)
 岸田文雄氏の政策は、しばしば「リベラル」と言われるが、経
済面からみれば、増税路線かつ官僚支配、つまり財務省支配の完
全復活に直結する政策なのだ。これでは、到底国民の支持は得ら
れないだろう。それでも、政界が「消費税増税」の掛け声だらけ
になってしまうのは、財務省を敵に回すことが、とてつもなく恐
ろしいからなのだ。             ──森永卓郎著
   『なぜ日本だけが成長できないのか』/角川新書K241
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 私は長い間にわたって、自民党の政治家をテレビや本を通じて
ウオッチングしてきていますが、首相として財務省に対し、当初
からかなり強い姿勢で臨んでいたのは安倍首相だけです。
 安部首相は、2014年4月に消費税を5%から8%に引き上
げるさい、海外を含む大勢の学者や専門家を呼んで意見を聞き、
財務省の「影響は軽微である」とする意見を信じて、予定通り税
率を引き上げたのです。
 しかし、非常に強い反動減が起こり、好調に滑り出していたア
ベノミクスに強いブレーキをかける結果になったのです。そして
この反動減の回復には実に3年以上を要しています。情報による
と、安倍首相は「財務省に騙された」と激怒し、10%への増税
の計画は2回にわたって延期されることになります。
 2016年末になって、ある動きが起こります。これは、前回
のテーマのときにも少しふれていますが、再現します。きっかけ
は、『文藝春秋』2017年新年特別号に掲載された浜田宏一イ
エール大学名誉教授のインタビュー記事「『アベノミクス』私は
考え直した」です。
 浜田宏一教授は、内閣官房参与であり、アベノミクスの発案者
とされていますが、浜田教授は8%の増税に最後まで抵抗し続け
た人です。浜田教授は、プリンストン大学のクリストファー・シ
ムズ教授の論文を読んで、啓発されたというのです。浜田教授は
このインタビューの最後のしめくくりとして、次のように述べて
います。
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 ここまでうまく働いた金融政策(アベノミクスのこと)の手綱
を緩めることなく、減税も含めた財政政策で刺激を加えれば、ア
ベノミクスの将来は実に明るいのです。
             ──浜田宏一イエール大学名誉教授
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 そして、浜田教授は行動を起こします。安倍首相もそれに呼応
した動きをはじめます。これについて、森永卓郎氏は次のように
紹介しています。
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 浜田氏が、内閣官房参与という政府の一員でありながら、消費
税率8%への引き上げに最後まで抵抗し続けたことを考えれば、
浜田氏の言う「減税」が何を意味するかは明らかだ。そして実際
に、浜田氏は行動に出た。プリンストン大学のクリストファー・
シムズ教授を日本に呼んで、各地でシンポジウムを開いた。減税
の大合唱となったシンポジウムは、大盛況となった。そして、安
倍首相も動く気配をみせた。イギリスの金融サービス機構前長官
のアデア・ターナー氏を官邸に招き、会談を行った。ターナー氏
はヘリコプターマネーの提唱者として有名だが、日本のデフレか
らの脱却策として、減税を主張している。その人の意見に安倍首
相が耳を傾けたのだ。      ──森永卓郎著の前掲書より
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 ここで浜田教授のいう「減税」とは、「8%を5%に戻す」こ
とだったのです。なお、シムズ教授とアデア・ターナー氏につい
ては、前テーマのEJでも取り上げています。
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 ◎クリストファ・シムズ教授/https://bit.ly/2RZgqcS
  EJ第5137号「デフレ脱却のシムズ理論とは何か」
 ◎アデア・ターナー氏   /https://bit.ly/2RZgqcS
  EJ第5139号「民間銀行の信用創造こそ規制せよ」
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           ──[消費税は廃止できるか/017]

≪画像および関連情報≫
 ●浜田宏一内閣官房参与に「金融政策の誤り」を認めさせたが
  る困った人たち/田中秀臣氏
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   イエール大学名誉教授で内閣官房参与の浜田宏一氏は、国
  際的にその業績を認められた偉大な研究者であり、また今日
  の日本経済の「導師」とでもいうべき地位にある人物だ。筆
  者もまた学生時代からいままでうけた学恩は計り知れない。
   ところで最近、浜田参与のインタビューを日本経済新聞が
  掲載した。この記事が予想外の反応を引き起こした。それは
  浜田参与が、従来の主張である金融緩和によるデフレ脱却を
  否定したという解釈である。これはあまりにもバカバカしい
  見方である。
   浜田参与のインタビューを素直に読めば、金融緩和でアベ
  ノミクス当初1、2年は成功していたが、その後、消費増税
  や国際情勢の不安定化で、金融緩和だけでは不十分であり、
  減税を中心とした財政政策が求められているとするものであ
  る。どこにも金融緩和の効果がないとか、いままでの日本銀
  行の政策が間違いだったなどとは微塵も言及はない。
   そもそもこのインタビューを最後まで読めば、浜田参与は
  日銀が「買うものがなければ」という条件つきで外債購入を
  すすめている。これは、金融緩和がデフレ脱却に効果が「な
  い」という人の発言ではない。効果が"ある"から外債購入も
  選択肢に入るのだ。ところが一部の論者やメディアの中では
  先ほど指摘したように、浜田参与があたかも量的緩和などの
  金融政策がデフレ脱却に失敗し、その考えを改めるという趣
  旨としてこのインタビューを解釈している。
                  https://bit.ly/311fZ6g
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浜田宏一イエール大学名誉教授.jpg
浜田宏一イエール大学名誉教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする