2020年01月27日

●「バランスシート不況と関係がある」(EJ第5174号)

 景気を良くするには、世の中に大量のお金を流通させることが
必要です。それには、基本的には、銀行が資金の貸し出しを積極
化させるしかないのです。なぜなら、お金は誰かの借金として発
行されるからです。日銀は資金を貸すよう銀行に促すことはでき
ますが、銀行が動かないと世の中にお金は流通しないのです。
 現在、日銀の行っている量的緩和というのは、銀行の保有する
国債を強制的に買い取って、その代金を銀行が日銀に対して持つ
日銀当座預金に積み上げることをいいます。当座預金には基本的
には利息は付きません。
 この場合、銀行としては国債で持っていれば、わずかでも利息
が付きますが、当座預金に積み上げられてしまうと、日銀は現在
マイナス金利政策を実行しているので、利息は付かないし、金利
がマイナスになってしまうこともあります。そうすれば、銀行は
貸し出しを増やすだろうと考えたわけです。
 しかし、それでも銀行は、企業への貸し出しを増やそうとはし
ないし、銀行として資金を貸し出すことが可能な企業、つまり、
銀行として一番借りて欲しい企業は、バランスシートの修復に専
念し、銀行から資金を借りようとはしないのです。銀行が貸し出
しを増やさないのは、デフレによって、GDPの成長が停滞して
いるからです。
 実は、この状況が景気には最悪なのです。銀行が貸し出しを増
やさず、企業がバランスシートを良くするため、銀行から資金を
借りて積極的に投資せず、返済に専心すると、世の中のお金はど
んどん銀行に戻り、消えていきます。そうすると、世の中のお金
は減る一方になって、流通するお金の量は減っていきます。経済
のこの状況を、著名な経済アナリストで、人気エコノミストのリ
チャード・クー氏は「バランスシート不況」と呼んだのです。
 添付ファイルのグラフをご覧ください。これは日本経済を「家
計」「企業」「政府」「海外」の4つの主要部門に分け、それら
の部門のお金の動きを見たものです。
 このグラフで注目すべきは、太い実線の非金融法人企業(普通
の企業)です。これらの企業は、1990年には、年間GDP比
マイナス10%、今の金額で約50兆円にあたるお金を銀行から
借りて、さまざまな分野の事業に投資し、景気を支えてきていた
のです。それだけ資金需要があったわけです。
 しかし、消費税が5%に引き上げられた1998年以降、企業
の行動はゼロよりも上のプラスに位置しています。これは、企業
が資金を銀行に返済していることを意味します。すなわち、企業
は、資本市場や金融機関に対し、資金の純供給者になってしまっ
ているのです。
 数値で見ると、1990年から2001年までの間に、彼らは
GDP比のマイナス10%からプラス4%への資金の純借入者か
ら純返済者へ変換したのです。これは、10年前に比べてGDP
比で14%、約70兆円の需要が失われたことを意味します。こ
れだけの需要が失われれば、どのような経済でも不況に陥るのは
当たり前のことです。リチャード・クー氏は、このバランスシー
ト不況について、次のように述べています。まさに大西つねき氏
の指摘と同じです。
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 一国の経済というのは、家計部門が貯蓄した資金を企業部門が
借りて使うことで回っている。ところが企業部門がバランスシー
トの修復のため借り入れをやめ、借金返済に回ると、家計部門が
貯蓄した資金は借りて使う人がいなくなり、そのまま銀行に滞留
してしまう。しかも企業部門も全体で見て借金返済の方が借り入
れより大きいとなると、この純借金返済額も誰も借りる人がいな
いことになり、銀行に滞留してしまう。ということは、現状では
家計の貯蓄総額と企業の借金返済の合計が「使われぬカネ」とな
り、経済全体のデフレギャップとなってしまうのである。この状
況を放置しておくと、毎年毎年、家計の貯蓄と企業の借金返済分
だけ総需要が失われ、経済は縮んでいくことになる。
           ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳
   『 デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店刊
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 問題は、どうして企業は、そういう行動をとったのかというこ
とです。それは、1990年のバブルの崩壊と資産価値の暴落が
原因です。株価はピーク時の数分の1になり、絶対に下がらない
と信じられていた土地の価格が、6大都市の商業地で86%もダ
ウンしたのです。
 70年〜80年代というと、日本企業は莫大な資金を借り入れ
さまざまな事業に投資して、借金がまだたくさん残っているのに
その借金に見合うはずの資産の価値が突然暴落してしまい、バラ
ンスシートが傷んでしまったのです。まさに企業は債務超過の危
機に瀕したのです。しかし、多くの場合、それらの企業は本業は
健在で、キャッシュフローはそこそこあったのです。
 こういう企業がやるべき最優先事項は、できるかぎり早急に借
金を返済し、一日も早く、企業を健全な財政基盤上に戻すことに
あります。このような企業は、本業の経営において、極力コスト
削減に努め、その浮いた資金を借金返済に充てる──こういう行
動を繰り返すはずです。これを多くの企業が一斉に、同時並行し
て、やったことになります。その結果、何が起こったのでしょう
か。リチャード・クー氏は、次のようないっています。
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 個々の企業は正しく責任ある行動をとっているにもかかわらず
みなが同時に債務の最小化を目指すことで、景気が悪循環に陥り
どんどん悪くなっていくという事態は十分に起こりうる。このよ
うな状況を、経済学では「合成の誤謬」と言うが、これがまさに
今の日本で起こっていることなのである。
     ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳の前掲書より
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           ──[消費税は廃止できるか/015]

≪画像および関連情報≫
 ●バランスシート不況からの 脱却と量的緩和の罠
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   日本では過去24年間、欧米では過去6年間、経済学の教
  科書には書かれていない世界をわれわれは生きてきました。
  私はこの世界を、「バランスシート不況」と呼んでいます。
  教科書と現実はどう違ったのでしょうか。教科書的な世界で
  はマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨供給量)とマ
  ネーサプライ(民間が保有する通貨残高)、さらに民間向け
  信用(民間の借入金)の3つの金融指標は、通常は同じよう
  に動くはずです。仮に中央銀行が流動性を新たに10%供給
  すれば、最終的にマネーサプライと民間向け信用も10%ず
  つ増えるというのが、教科書的な常識です。事実、リーマン
  ショック以前は、3つの指標の関係はそうしたものでした。
   ところが、リーマンショック後にはその関係に変化が見受
  けられます。アメリカを例にとると2008年に量的緩和が
  始まり、QE1、QE2、QE3と続きました。リーマンシ
  ョック時点のマネタリーベースを100とすると今は450
  と、4・5倍まで流動性の供給が行われたわけです。
   ところがこの間、マネーサプライは、100から149に
  増えたにすぎません。さらに重要なのは、民間向け信用の数
  値ですが、これは107への増加にとどまっています。つま
  り、この6年間に民間向け信用は、わずか7%しか増えてい
  ないということになります。年率1%強は、ほとんど増えて
  いないのと同義です。      https://bit.ly/37sR1yL
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「1990年代以降の企業行動の激変」.jpg
「1990年代以降の企業行動の激変」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする