2020年01月21日

●「お金は元来デジタルな存在である」(EJ第5170号)

 「紙幣=お金」ではありませんが、日本中の紙幣を集めると、
その総額はいくらになると思いますか。次の3つのなかから正し
いものはどれでしょうか。
          1. 500兆円
          2. 100兆円
          3.1300兆円
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 昨日のEJの最後に出したクイズです。これは、日銀のウェブ
サイトを見れば確認できます。「資産、負債及び純資産の状況」
の「負債の部」のところに、平成28年度(2016年)末と、
平成29年度末の「発行銀行券」は次のようになっています。し
たがって、正解は2の「100兆円」ということになります。
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                    発行銀行券
   2016年度末 ・・・  99兆8001億枚
   2017年度末 ・・・ 104兆0004億枚
                  https://bit.ly/2RsQ5DQ ─────────────────────────────
 これに対して、日本中に流通している現金、預貯金などを全部
合わせると、どのくらいの金額になるでしょうか。
 これも日銀のウェブサイトの通貨関連統計を開き、「マネース
トック速報」(2019年12月)の「M3」の一番下を見ると
わかります。
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     ◎「マネーストック速報」(2019年12月)
      M2 ・・・ 1041兆6千億円
      M3 ・・・ 1377兆5千億円
                  https://bit.ly/3ajWwSe ─────────────────────────────
 マネーストックM3というのは、日本中の現金・預貯金を郵便
貯金や農協に預けた分も分も含めたものをいい、マネーストック
M2は、M3から郵便貯金や農協に預けた分を引いた数値です。
そうすると、こういうことになります。
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 お金は、日本中に1377兆5千億円流通しているのに、発
 行銀行券は、たったの100兆円に過ぎない。
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 よく「日銀はお札を刷る」といいますが、それは日銀の役割で
はなく、独立行政法人国立印刷局の仕事です。毎年財務省の計画
にしたがって必要な分を印刷しています。ここで必要な分とは、
古くなったり、破損したりした紙幣を交換する分と、「お金の総
量が増えるにしたがって増やす分」の印刷です。この紙幣の印刷
硬貨の鋳造と流通・保管・維持コストに、年間2兆円以上の予算
が必要とされています。
 さて、上記の「お金の総量が増えるにしたがって増やす分」と
は何でしょうか。
 これは、素直には理解できないはずです。お金の印刷イコール
お金の総量を増やすと考えている人にはです。そうではない。し
たがって、「お金=紙幣」ではないということです。
 既出の大西つねき氏は、「紙幣はUSBメモリのようなもの」
といっています。
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 実はほとんどのお金は紙幣という実体を持たずに存在していま
す。確かに紙幣はお金として通用しますが、それはお金の本質で
はありません。大部分のお金は単なる預金情報として電子的に存
在するだけです。もし、皆さんが銀行に100万円を預ければ、
通帳にはその預金情報が記載されます。そして、その情報の一部
を現実世界に持ち出す時に、紙幣はその情報の入れ物として機能
します。つまり、1万円札は、銀行に預けた100万円のうちの
1万円分の情報を、分離して運ぶための記憶媒体でしかありませ
ん。記憶媒体ですから、例えて言うならUSBメモリのようなも
のです。(中略)1300兆円のうちのほとんどは銀行間で電子
送金され、現金のやり取りはごく一部です。ですから、1300
兆円のお金があっても、紙幣は100兆円で足りるのです。
                ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
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 それにしても「紙幣=USBメモリ」とは奇抜な表現です。つ
まり、もともとお金は「預金情報」として、デジタル的に存在し
ているものであり、それを現実世界に持ち出すさい、紙幣はその
情報の入れ物として機能するというのです。したがって、PCか
ら必要なデータを取り出し、保存するUSBメモリのようなもの
であるといっているのです。
 お金は本来デジタル的な存在である──これは重要な指摘とい
えます。紙幣や硬貨は、お金を現実世界で使うさいの情報の入れ
物であるとすると、現代は世の中のほとんどの人がスマホのよう
な情報機器を持ち歩いています。したがって、お金のすべてをデ
ジタル的存在に戻し、その情報の入れ物をスマホにしたらどうか
──こういう考え方が出てきても不思議ではないのです。このよ
うなことを背景として、ビットコインやリブラ、そして中央銀行
が扱うデジタル人民元のようなものが出てこようとしています。
 しかし、紙幣の良いところもたくさんあります。それは「転々
流通」しやすいことです。スイカやパスモなどのデジタル通貨で
は、これができないのです。それがビットコインにおいて、ブロ
ックチェーンの技術によって、やっと実現したのです。しかし、
国の中央銀行が信用を保証するデジタル人民元のような通貨にな
ると、あらゆる通貨決済データを国に握られることになります。
デジタル人民元はだから脅威なのです。
           ──[消費税は廃止できるか/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「デジタル人民元」に対抗するには「デジタル円」しかない
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   中国で中央銀行が仮想通貨を発行する可能性がある。実現
  すると、その影響は全世界的なものとなる。日本で使われる
  可能性も否定できない。そうなると、通貨主権が奪われ、取
  引情報を中国に握られる危険がある。これを防ぐには、日銀
  が仮想通貨を発行するしかない。
   中国の中央銀行である人民銀行が、仮想通貨である「デジ
  タル人民元」を発行するとの報道がなされている。早ければ
  2020年の上半期に、中国国内のいずれかの地域を選んで
  そこでの利用実験が始まる可能性がある。
   フェイスブックが仮想通貨「リブラ」の発行計画を発表し
  たことによって危機感を抱いた中国の通貨当局が、開発を加
  速化したのだろう。リブラが実現すると、中国からの資本流
  出の手段に使われる危険がある。これを防ぐために、独自の
  仮想通貨を発行する必要があるのだ。
   デジタル人民元が発行されれば、その影響は甚大だ。まず
  中国国内では、すべての取引がこれによって行なわれること
  になる。中国では、すでに電子マネーによってキャッシュレ
  ス化が進展しているが、それが一段と進んで、完全なキャッ
  シュレス社会になる。ただ、仮想通貨と電子マネーは、本質
  的に違うものだ。違いの1つは、仮想通貨の場合には、その
  影響が中国国内にとどまらず、広く全世界に及ぶことだ。電
  子マネーは国境を越えて利用することが難しい。しかし、仮
  想通貨であれば、ビットコインに見られるように、国籍はそ
  もそも存在しない。原理的には、世界のどこでも使える。
                  https://bit.ly/2uSOQWS
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デジタル人民元.jpg
デジタル人民元
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする