2020年01月01日

●「新年のご挨拶/2020.1.1」

 EJ読者の皆様、2020年、明けまして、おめでとうござい
ます。EJをいつもご愛読いただき、心より御礼申し上げます。
本年もよろしくお願いいたします。
 2019年のEJは、1月4日の第4920号から12月27
日の第5159号までの240本を、営業日の毎日、一日も欠か
さず、お届けしました。その間、同じコンテンツをブログにも投
稿しています。2019年に取り上げたテーマは、次の3つにな
ります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.米中ロ覇権争いの行方 ・・・・・・・・・・ 82回
 2.中国経済の真実 ・・・・・・・・・・・・・101回
 3.消費税増税を考える ・・・・・・・・・・・ 57回
   ―――――――――――――――――――――――――
                        240回
―――――――――――――――――――――――――――――
 今年は、6日からお届けする2020年のEJについて書くこ
とにします。2019年5月9日、EJは第5000号に到達し
ました。書き始めたのは1998年10月15日、これを第1号
として、以来、21年5ヶ月の営業日の毎日お届けし、昨年の5
月9日に第5000号に達しました。2019年9月18日には
EJ読者による「EJ5000号発行記念祝賀パーティー」を茅
場町証券会館、ホテルオークラレストランニホンバシで盛大に開
いていただきました。この会の開催に関わった方々や、お祝い金
などをご送付いただいた方々に対し、改めて御礼申し上げます。
長い間、EJを支えていただき、有難うございました。
 さて、10月7日からスタートさせた消費税のテーマは、EJ
としては2回目です。2014年1月6日から、同年5月9日ま
での84回、消費税について書いています。動機は、この年の4
月から安部政権は消費税を5%〜8%に引き上げることを決断し
たからです。昨年の2回目のときも、安部政権が10月から消費
税率を10%まで引き上げることを決めたので、書こうと思った
のです。しかし、まだ書き足りません。そこでタイトルは変更し
ますが、事実上の続編を1月6日からスタートさせることにしま
す。そしてこの議論には、ニューヨーク州立大学のステファニー
・ケルトン教授らが主唱するMMT理論(現代貨幣理論)も登場
させるつもりでおります。
 さて、10月1日からの消費税の10%への引き上げ以来、表
面上何事もなく過ぎているように見えます。大納会の日経平均株
価も、2万3656円62銭と比較的高い株価で締めくくること
ができています。しかし、これは日本の実力を表す株価ではない
と思います。米中貿易戦争の思惑が絡んだ株価になっています。
統計数字、専門家の情報をまとめると、2020年の日本経済は
大荒れ必至の情勢です。
 10月の「景気動向指数」は前月より5・1ポイント悪化し、
この悪化幅は、2014年の増税後を上回り、8年7か月ぶりの
大きさです。しかも、3ヶ月連続の悪化です。10月の家計調査
によると、1世帯当たりの消費支出はこちらも前年同月比5・1
%減少していますし、これも2014年4月の4・6%減よりも
落ち込み幅が大きいです。経済評論家の斎藤満氏は、今後の日本
経済について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 20年2月に発表される、19年10月〜12月期のGDPは
マイナス成長になるはずです。とにかく足元の景気が良くない。
予想以上に消費が冷え込んでいます。やはり消費税増税はやるべ
きではなかった。なにしろ高齢化が進んだ日本は、全世帯の52
%が年金世帯です。しかも、法人企業統計によると、19年4月
以降、企業が支払った人件費はマイナスです。要するに、日本人
は総貧乏になっている。増税を強行したら、景気が悪化するのは
当たり前です。          ──経済評論家の斎藤満氏
                日刊ゲンダイ新春特別号より
─────────────────────────────
 新聞などメディアは伝えていませんが、求人数も大幅に減って
います。その証拠に政府は、2019年11月の月例経済報告で
「雇用情勢」を下方修正しています。5年ぶりのことです。こう
なると、当然株価にも影響が出てきますが、政府は日銀を使って
必死に株価を支えると思われるので、株高は当面維持されると思
います。しかし、これにも限界があります。実体経済に裏づけら
れた株価ではないので、いつ暴落しても不思議はありません。
 2020年には必ず解散総選挙があります。現有の与党の議席
は次の通りです。
─────────────────────────────
 ◎与党現有議席/314議席
  自民党285/公明党29
 ◎鈴木哲夫氏の予測
  自民党223/公明党28/維新の会10/野党新党180
  共産党12/れいわ6/無所属6
─────────────────────────────
 政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は、立憲民主党と国民民主党
などが野党新党になり、共産党が全面的に選挙協力するとの前提
で予測しています。この場合、自民党は単独過半数(233)を
割り込むことになります。安部首相退陣必至です。
 問題は、公明党の集票能力が落ちていることです。1選挙区当
たりの公明票は約1万7000票です。これに対して共産党のそ
れは。2万〜3万票で公明党票を大きく上回っています。
 そして、次の選挙では、野党は「消費税5%減税」を公約に掲
げてくると思われます。そのため、「社会保障と税の一体改革」
で一度増税に賛成している立憲民主党や国民民主党のままではダ
メであり、野党新党として戦う必要があったのです。
 マハティール首相率いるマレーシアでは、公約の6%の消費税
廃止を決断し、実施しています。日本でも今年は消費税廃止が政
治のテーマになると思います。読者の皆様、今年もEJをよろし
くお願いいたします。EJの配信は6日からです。

≪画像および関連情報≫
 ●消費税を廃止したマレーシアはどうなったか?
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   参議院選挙で、2議席を獲得して大躍進を果たした「れい
  わ新選組」。その公約の1つに「消費税廃止」があった。そ
  して山本太郎党首が実例としてあげたのが、マレーシアだっ
  た。実際に政見放送から引用する。
   「消費税は廃止。…実際に、消費税を廃止した国あります
  よ。マレーシアです。マレーシアは、法人税の次に税収の多
  かった消費税を廃止。高級なサービスなどを利用するときに
  かかる金持ち向けの税制を復活させました。なぜ、マレーシ
  アにできたことが、日本にはできないって、いうんでしょう
  か?」(参照:れいわ新選組)
   ちょうどそのころ、おあつらえ向きにとでもいうべきか、
  筆者宅には2人のマレーシア人が滞在していた。ムハンマド
  (34)とアミルディン(25)の2人である。ムハンマド
  は化学で博士号をもつ国家公務員で、アミルディンは大学院
  生で、ちなみにこの二人は従兄弟同士でもある。「消費税廃
  止」の実態を、二人に聞いてみることにした。
  マレーシア人に聞いた「消費税廃止」「今の政権が成立した
  のが、去年の5月だった。先に説明しておくと、マレーシア
  は一院制で議席数は222、つまり過半数をとるには112
  議席が必要ということだな」ムハンマドが切り出した。彼の
  職業は国家公務員、つまり役人である。
                  https://bit.ly/39uGqVM
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令和庚子.jpg
令和庚子
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2020年01月06日

●「日本は成長の大切さを忘れている」(EJ第5160号)

このEJは、令和2年最初のEJです。本年もEJをよろしくお
願いします。
 日本が長年にわたってデフレから脱却できず、まるで経済成長
できない理由は、消費税の導入と、3回にわたる税率引き上げが
基本的な原因である──これが10月7日から12月27日まで
の57回のレポートの一応の結論です。
 しかし、消費税を導入しているのは日本だけでなく、2017
年4月現在、世界152ヶ国で導入されています。しかし、どの
国も不況に陥っているわけでなく、デフレになって抜け出せない
でいるのは日本だけです。
 しかも、日本よりも税率の高い国が多い。世界一消費税率が高
い国はハンガリーで27%、以下、スウェーデン、ノルウェー、
デンマークは25%、イタリアが22%、ベルギー、オランダが
21%、イギリス、フランスが20%というように、税率に関し
ては、日本の10%よりはるかに高い国が多いのです。だから、
財務省系の増税主義者は、10%に上げたとたん、次は15%だ
20%だといい出しています。
 既に指摘していることですが、大事な事実があります。日本の
消費税の税率は他国に比して、本当に低いのかということです。
国税収入に占める消費税の割合を見ると、日本は消費税率が5%
の段階で24・4%、10%になると、国税収入全体に占める比
率は37%になり、これを他国と比較すると、日本はダントツの
世界一です。ちなみにこの資料は財務省の資料です。
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       ◎国税収入に占める消費税の割合
         イギリス ・・ 21.1%
          ドイツ ・・ 35.6%
         イタリア ・・ 28.3%
       スウェーデン ・・ 18.5%
           日本 ・・ 37.0%
             ──財務省・財務総合政策研究所編
          「財政金融統計月報」/2010年4月他
─────────────────────────────
 これは、日本の財政収入は、世界で最も消費税に依存している
割合が高いことを意味しています。消費税率が25%のスウェー
デンすら18・5%に過ぎないからです。
 なぜ、こんなことになっているのかについて、菊地英博日本金
融財政研究所所長は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 なぜこうなっているのかというと、消費税が法人税の減税の原
資になっているからだ。消費税が最初導入された1989年から
2014年までの消費税収入は累計で282兆円になる。一方で
この間、法人税が255兆円減税されました。つまり、消費増税
で増えた282兆円の税収のうち、9割が「法人税減税の原資」
になったのです。これほど不公平税制はない。このままでは格差
はどんどん拡大していきます。
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 最近の日本は、韓国の問題をはじめとして、外国から軽視され
ることが多いように感じます。今年の新年の最大のニュースとい
えば、カルロス・ゴーン被告の国外脱走です。ゴーン被告の自宅
には監視カメラが設置されているため、ゴーン被告は、夕食会の
音楽演奏に訪れた楽団の楽器の箱に隠れて自宅を脱出し、警備の
うすい地方空港から国外に出国し、トルコを経由してプライベー
トジェットを利用してレバノンに入国しています。
 レバノン政府は「カルロス・ゴーン氏はフランスのパスポート
で合法的に入国した」と発表していますが、ゴーン被告のフラン
スのパスポートは弘中弁護士事務所が管理しており、それは使わ
れていない。合法的というが、明らかにどこかで不正が行われて
います。しかもゴーン本人は「有罪が予想される日本の偏った司
法制度の下でのとらわれの身ではなくなった」と勝利宣言までし
ています。さらに欧米のメディアはゴーン氏に同情的です。私は
日本は完全にバカにされているように感じます。
 なぜ、バカにされるのか。それは長い間にわたり、日本はまる
で「経済成長していない」からです。これについて、京都大学大
学院教授の藤井聡氏は、悲憤慷慨しています。
─────────────────────────────
 日本は成長というものが、どれだけ大事なのかということにつ
いて分からな過ぎる。過去20年の間に、諸外国の経済は、もう
2・4倍に成長しているのに、日本だけは80%まで縮小してい
る。このままで行けば、世界経済のなかの日本のシェアはおおよ
そ「1割程度」まで凋落する。もしそうなったら諸外国はもう日
本なんか相手にしようとしないし、貧困と格差がもっと拡がって
日本の科学技術力も防災力も国防力も皆、ダメになる。挙句に財
政だって悪くなる。      ──藤井聡京都大学大学院教授
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 本当に日本は、もはや成長できないのでしょうか。深刻な少子
高齢化の問題もありますが、政治家は有効な手を打てずに諦めて
いるように感じます。しかし少子高齢化はこれからどこの国でも
起きる問題であり、解決できないはずはありません。それを乗り
越えてきた国もあります。何よりも早く、諸悪の根源である消費
税を廃止することです。そのために政治が動くべきです。そこで
明日からEJのテーマを次のように設定して考えていきます。
─────────────────────────────
    どうしたら日本経済を成長させることができるか
    ── 消費税を廃止することは可能である ──
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/001]

≪画像および関連情報≫
 ●日本はなぜ成長しないのか?
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   シンガポールが1人あたりGDPで日本を抜き日本がアジ
  アナンバー1の座から落ちたことは私にとっては衝撃だった
  のですが、大前研一さんの『アジアで最も豊かな国から転落
  した日本』というコラムによると、日本ではあまりニュース
  にならなかったそうで、コラムにはこう書かれてました。
   本当ならシンガポールに抜かれたことで、日本全体にショ
  ックを受けてほしいところだ。しかし「あれ、抜かれちゃっ
  てた」という感じで、ケロっとしている。これでは日本の未
  来が危ういというものではないか」
   私がシンガポールに来て以来、聞かれて一番答えに悩む質
  問というのが「日本はなぜ成長しないのか?」という質問。
  この質問が仕事のミーティングの合間に場をつなぐために気
  軽に発せられた質問ならば(相手も鋭い分析など求めていな
  い)、適当に答えようもあるのですが、これが真剣に内部者
  の見解を聞きたいと思っている親しい友達からの質問だった
  りすると、答えに困る。自分にも解がないから。なので、い
  つものごとく本を読みあさっています。
   まず最初に読んだのが勝間さんが薦めていた『人間を幸福
  にしない日本というシステム』。私は基本的に母国は好きな
  ので、『ひ弱な男の国とフワフワした女の国日本』のような
  センセーショナルに煽っただけのようなタイトルの本は読ま
  ないのですが、この本は私が知らなかったことも多く(官僚
  主義の根深さ、など)、納得できる箇所も多かった。でも、
  具体的な解決策まで示せていないと思います。
                  https://bit.ly/2MKrhpq
  ───────────────────────────

菊池英博氏.jpg
菊池英博氏

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2020年01月07日

●「クリントンの経済再生計画に学べ」(EJ第5161号)

 最近よくモーニングショーなどに解説者として登場する加谷珪
一氏という経済評論家がいます。元日経BP社の記者で、野村證
券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務
を担当して独立し、経済評論家として活躍されています。
 その加谷珪一氏の最近刊書の冒頭に、次のようなことが書いて
あります。
─────────────────────────────
 日本の経済力の著しい低下を示すデータは、いくらでもありま
す。世界競争力ランキングの順位は63ヶ国中もはや30位と、
1997年以降では最低の結果となっていますし(IMD調べ)
平均賃金はOECD加盟35ヶ国中19位でしかありません。相
対的貧困率は39ヶ国中29位、教育に対する公的支出のGDP
比率は43ヶ国中40位、年金の所得代替率は49ヶ国中40位
障害者への公的支出のGDP費は36カ国中31位、失業に対す
る公的支出のGDP比は34ヶ国中32位(いずれもOECD調
べ)など、これでもかというくらいひどい有様です。
 日本が貧しくなった原因は様々ですが、もっとも大きいのは、
日本の労働生産性が相対的に低い水準のまま伸び悩んでいること
です。経済学的にいうと、労働生産性と賃金には密接な関係があ
りますから、生産性が低いままでは、賃金はなかなか上昇しませ
ん。賃金が低いと家計に余裕がなくなりますから、消費が低迷し
これが企業の設備投資を弱体化させます。   ──加谷珪一著
        『日本はもはや「後進国」』/秀和システム刊
─────────────────────────────
 多くの日本人は、日本は経済では、世界第3位の経済大国だと
思っています。G7にも属しているし、貧しい国へODA(政府
開発援助)もしているし、堂々たる先進国のひとつであると自負
しています。しかし、上記指摘の平均賃金はOECD加盟35ヶ
国中19位、相対的貧困率は39ヶ国中29位、教育に対する公
的支出のGDP比率は43ヶ国中40位と指摘されて見ると、少
なくとも現在の日本は、こと経済に関しては、かつての豊かな先
進国とはほど遠い存在に変貌しつつあるといえます。つまり、日
本の貧乏化が急速に進んでいることは確かです。
 原因は、長期的に続くデフレにあります。原因ははっきりして
いるのです。しかし、日本はなかなかそれから抜け出せないでい
ます。デフレの起点を3%の消費税を5%に上げた1997年と
するなら、それからの23年間、日本はデフレから脱出できない
どころか、デフレを深化させています。明らかに、経済の舵取り
を間違えています。他の国も等しく経済不振に陥り、デフレの危
機に何度も瀕したことがあるはずですが、いずれも乗り切ってい
ます。つまり、この問題を解決できないのは日本だけということ
になります。その証拠に、この20年を超える長い期間にわたっ
て、経済を成長がマイナスなのは日本だけです。
 その責任は、その間の政権を担った10人の総理大臣にありま
す。10人の総理とは、橋本、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻
生、鳩山、菅、野田の10人です。これら10人の総理は、いず
れも経済のことはよくわかっておらず、赤子の手をひねるように
財務省にコントロールされています。諸悪の根源は財務省にあり
ますが、彼らは何の責任をとる立場にはないのです。
 それなら、日本としては、どうすればよかったのでしょうか。
この問題を考えて行きます。初代ドイツ帝国宰相のオットー・フ
ォン・ビスマルクに次の有名な言葉があります。
─────────────────────────────
    愚者は『経験』に学び、賢者は『歴史』に学ぶ
         ──オットー・フォン・ビスマルク
─────────────────────────────
 格好な歴史の事例があります。大幅な財政赤字を6年かけて黒
字に転換させた米国の大統領がいます。1993年〜2001年
を担当したクリントン第42代米国大統領です。クリントン大統
領というと、不名誉な事件で史上2人目の弾劾訴追を受けた米国
の大統領という印象が強いですが、見事な財政運営において米国
財政の黒字化を達成させ、米国の危機を救っています。
 1993年1月に大統領に就任したクリントン大統領は、「ア
メリカ変革のビジョン」を掲げて、米国の変革に取り組んだので
す。当時米国経済はデフレ傾向にあり、経済の立て直しに重点が
置かれたのです。
 クリントン大統領は、湾岸戦争に勝利した父ブッシュ大統領の
再選を阻んで大統領になった人ですが、最初から就任から2期目
も自分がやるという前提で、8年計画で歳出額を年平均で3・3
%増加させる政策を実施します。このさい、物価上昇率見込みは
プラス1%から2%としています。
 それではその歳出を何に使ったのかというと、政府投資を増や
し、輸送関係、地域開発、教育訓練の支出に対して、財政支出を
辛抱強く集中させています。実際にこの8年間に財政支出は、大
統領就任前の1992年に比べて33%増加し、政府投資は55
%増加しています。
 これに加えて、クリントン政権は、不公平税制の是正を図って
います。実施までに若干時間を要したものの、法人税の最高税率
を34%から35%に、高額所得者への所得税を31%から39
・5%へ引き上げ、クリントン大統領が、大統領に就任した19
93年1月に遡って税金を徴収しています。
 この結果、通算8年間で、名目GDP成長率は年平均5・7%
(1・5倍)、実質GDPは年平均2・8%(GDPデフレータ
ーはプラス2・9%)となり、財政赤字は6年間で解消している
のです。しかも、財政規律の指標も、1993年の55%から、
2000年には36%に改善しています。
 このようにクリントン政権は、官民共同の積極的な投資活動と
法人税の引き上げが、税収を劇的に増加させたのです。このよう
なことが、なぜ、日本の政権にはできないのでしょうか。
           ──[消費税は廃止できるか/002]

≪画像および関連情報≫
 ●米国を救ったクリントン「経済再生計画」
  ───────────────────────────
   クリントンが大統領に就任した93年当時、アメリカ政府
  は、巨額の財政赤字、日本とのあいだに生じた貿易赤字に苦
  しんでいた。また、89年には5・3%だった失業率は92
  年には7・5%に上昇、89年12月に6・5%だった経済
  成長率は91年12月に4・25%に低下していた。
   「変革」を掲げて大統領に当選したクリントンは、何より
  もまずアメリカ経済の再生を最優先課題として着手する方針
  であった。93年2月17日、クリントンは、「経済再生計
  画」を議会で演説し、独自の経済再生案を公表する。
   クリントンは、共和党政権の経済政策は「中間層・低所得
  者層を犠牲にして富裕層を優遇するトリクル・ダウン経済」
  だと批判し、その上で、@増税と歳出抑制によって94年度
  から5年間で財政赤字を4720億ドル削減する財政再建策
  A長期公共投資による国民と企業の生産性の促進策、B2年
  間で320億ドルの短期的景気刺激策を実施して景気回復の
  呼び水とする策という3つの柱からなる経済再生案を提示し
  た。93年補正歳出予算法案に、Bにあたる短期的景気刺激
  策の実施に必要な大型公共投資支出などを緊急支出として盛
  り込んだことを共和党は強く批判していた。上院審議では、
  民主党の重鎮ロバート・バード上院歳出委員長が強硬な姿勢
  で法案可決を狙ったため、共和党の執拗な議事妨害にあい、
  同法案の審議は予想以上に難航する。
                  https://bit.ly/2sEfyls
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過去25年間の米国財政支出の推移.jpg
過去25年間の米国財政支出の推移
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2020年01月08日

●「PBではなく純債務のGDP比率」(EJ第5162号)

 ビル・クリントン大統領の経済再生計画──米国につきものの
財政と貿易の「双子の赤字」を1998年から2001年までと
はいえ、彼の任期中に解決した政策です。しかし、これが日本で
は、あまり重視されているようには思えないのです。これは、為
政者としてのクリントン大統領の特筆すべき業績であり、改めて
詳しく取り上げますが、重要なことを少し書きます。
 この業績を可能にしたのは、クリントン大統領には、その側近
に、次のような、きわめて優秀なスタッフが揃っていたからであ
るということができます。それに加えて、FRB議長が、アラン
・グリーンスパン氏であったことも幸いしています。
─────────────────────────────
            ベンツェン財務長官
         ルービン国家経済会議議長
         パネッタ行政管理予算局長
        リブリン行政管理予算副局長
─────────────────────────────
 菊池英博日本金融財政研究所所長は、1929年〜1933年
の米国の経済状況を、日本はよく研究すべきであるといっていま
す。1929年というと、世界恐慌を引き起こしたハーバート・
フーバー(共和党)大統領の時代です。フーバー大統領というと
経済政策を誤って、世界恐慌を引き起こした大統領として知られ
ていますが、大統領就任前の商務長官のときは、人道派で人気の
ある政治家だったのです。
 それは、多くの共和党議員の反対にもかかわらず、1921年
にロシア革命後の混乱によって飢饉で苦しんでいたソ連や、大戦
後のドイツの人々に食糧支援を実施したからです。評論家は、共
産主義のソ連を助けるのかと非難すると、フーバー商務長官は、
次のように反論したといいます。
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 2千万人の人が飢えている。彼らの政治が何であっても、彼ら
を食べさせるべきである。     ──ハーバート・フーバー
                    ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 この人道的行為により、「ニューヨークタイムズ」は、「10
人の最も重要な生きているアメリカ人」にフーバーを選んでいま
す。しかし、大統領になってからの経済政策では、フーバーは、
大きなミスを冒してしまいます。1929年に株価が暴落してデ
フレに陥ったときに、減り続ける税収を補填しようとして、19
30年に物品税を新設したのです。デフレ不況時での増税です。
とくに石油税は、通勤通学や生活必需品の運搬などの交通手段と
流通経路に多大の影響を及ぼし、経済が失速し、金融恐慌に発展
してしまったのです。菊池日本金融財政研究所所長は、この状況
は、現在の日本とそっくりの状況であり、研究すべきであるとい
うのです。
 この米国の苦境を救ったのは1933年3月に就任した民主党
のルーズベルト大統領であり、実施した政策が「新規まき直し」
を意味する「ニューディール政策」です。この政策の理論的裏付
けとなっているのが、英国の経済学者、ケインズが唱えた理論で
す。ケインズは、国家が市場を統制して人々を保護し、また公共
事業を積極的に推進して雇用を創出すれば、消費が促進されて恐
慌を回避できると考えたのです。
 しかし、このニューディール政策自体の検証が終わる前に米国
が第2次世界大戦に参戦したので、政策自体の検証が難しくなっ
ています。なぜなら、戦争に突入したことによるアメリカ合衆国
史上最大の増大率となる軍需歳出の増大により、アメリカ合衆国
の経済と雇用は恐慌から完全に立ち直ったからです。
 したがって、デフレ状態の経済を立ち直らせる最良のモデルと
して一番ふさわしいのは、クリントン大統領による「経済再生計
画」であるとして、菊池英博氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 1993年に就任したクリントン大統領も、ルーズベルト大統
領と同じような対策を行った。彼はまず、財政出動を大幅に行い
歳出総額を毎年3・2〜3・3%%ずつ8年間、コンスタントに
増加させていった。
 特に、増やしたのが道路や橋の更新と新設、学校の校舎の新設
です。この分野が年平均で7・7%増加した。このように公共事
業をこの8年間で1・46倍にした。それから地域開発などで、
9・8%ずつ、教育関連で5・5%ずつ支出を拡大していったの
です。この時、クリントンは「財政規律」の基準として、日本が
使っている「プライマリーバランス(PB)」でなく、「純債務
のGDP比率」を使った。この比率はGDPが成長すれば改善す
る。だからこれはPBと違って、成長を促すことができる規律で
す。実際、1993年のクリントンが最初就任した時は、この指
標は55%だったが、公共投資を中心として財政支出を拡大し、
成長を促していった結果、この比率を徐々に改善させていった。
最終的には6年目に財政収支が「黒字」になり、政府投資、公共
投資を拡大することで、財政収支を改善させたわけです。
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 この菊池氏の言葉で注目すべきは、クリントン政権が財政規律
の基準としてプラマリーバランス(PB)ではなく、「純債務の
GDP比率」を使っていることです。ところで、「純債務」とは
何でしょうか。
 正確には「純債務」とは、正確には「純債務残高」ですが、政
府の総債務残高から政府が保有する金融資産(国民の保険料から
なる年金積立金など)を差し引いたものであり、財務省が絶対に
使わない基準です。財務省は、国民に対して政府の負債の大きさ
を強調しようとしているからです。
           ──[消費税は廃止できるか/003]

≪画像および関連情報≫
 ●ニューディール政策の教訓を生かせ/秋元英一千葉大教授
  ───────────────────────────
   世界大恐慌からの脱却を目指し、ニューディール政策をは
  じめとする様々な政策をうったルーズベルト大統領。中でも
  全国産業復興法(NIRA)は、今の安倍政権が掲げる理念
  と重なるようにみえる。大恐慌時の米国経済に詳しい秋元英
  一千葉大名誉教授に話を聞いた。
  ――ルーズベルト大統領が打ち出したNIRAはどんな特徴
  がありますか。
   「一言でいうと政府主導の不況カルテルだ。過当競争を排
  除して価格を引き上げ、各企業の投資インセンティブを高め
  利潤を確保して景気回復をめざす。その利潤で労働者の給与
  を引き上げるのが基本的な仕組みだ。具体的には今の日本で
  言う自動車工業会とか鉄鋼連盟のような事業者団体ごとに、
  政府との間で約束事である『コード』を結び、製品価格や賃
  金を非競争的に横並びにさせた。そのうえで同意した企業は
  反独占法の適用除外とした。初期ニューディールの統制経済
  を代表する性格をもった政策だ」
  ――ただNIRAは2年後に米最高裁から違憲判決を受けて
  廃止されます。
  「多くの大企業と組織労働者は、最後までNIRAを支持し
  た。だが中小企業はコード作成に影響力を行使できないばか
  りか、顧客とのあいだの取引慣行を大事にして商売してきた
  からコード反対の声がしだいに強まった。最高裁は、もとも
  と州を越える通商しか規制できないはずの連邦政府が、州内
  の取引にまで干渉した点を違憲と判断した」
               https://s.nikkei.com/36gtbWu
  ───────────────────────────

ビル・クリントン元米大統領.jpg
ビル・クリントン元米大統領

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2020年01月09日

●「なぜ10%消費増税を決断したか」(EJ第5163号)

 安倍首相は、もともと消費増税に賛成ではなかったはずです。
しかし、首相になった時点で、自民党と民主党の増税派の大連合
によって法律として成立した「社会保障と税の一体改革」があり
増税時期まで決まっていたのです。
 安倍首相は内閣発足と同時に、アベノミクスと称して、「3本
の矢」の政策を始動させています。
─────────────────────────────
     第1の矢:      大胆な金融政策
     第2の矢:     機動的な財政政策
     第3の矢:民間投資を喚起する成長戦略
─────────────────────────────
 第1の矢による日銀の金融緩和と第2の矢による10兆円規模
の財政出動は非常にうまくいったのです。株価は上昇し、目に見
えて雇用も改善しています。安倍政権の支持率は向上し、しだい
に盤石なものになって行きます。
 しかし、アベノミクスに最初に水を差したのは、2014年4
月の5%から8%への消費増税です。海外も含む多くの経済学者
や識者、財界などから人を集め、意見を聴取したものの、結局法
律の定め通り、増税を実施したのです。しかし、駆け込み需要の
反動減は予想以上で、安倍首相は「影響は限定的」と主張してい
た財務省への強い不信感を強めることになります。
 ノーベル経済学賞受賞の経済学者、ポール・クルーグマン教授
は、安倍政権が消費税を8%に上げた時点で、これを次のように
批判しています。教授は首相に増税中止を進言していたのです。
─────────────────────────────
 アベノミクスにおける消費税の増税は、たとえば、飛行機が成
層圏に到達する前に逆噴射するに等しく、これによってデフレか
らの脱却は困難になってしまっている。
                ──ポール・クルーグマン氏
─────────────────────────────
 しかも、安倍首相の身近には、内閣官房参与として、浜田宏一
米イエール大学名誉教授や、藤井聡京都大学大学院教授などの増
税反対派の学者が付いており、少なくとも8%から10%への増
税阻止のため、全力を尽くされていたはずです。しかし、それに
もかかわらず、安倍首相は昨年10月、10%の増税を決断し、
実施に踏み切っています。結局、「社会保障と税の一体改革」の
消費増税は2回にわたって延期されたものの、結局は実現してし
まっています。なぜ、こうなってしまうのでしょうか。
 実際に10%への増税が行われてしまったのですが、それ以前
に、三橋貴明氏と藤井聡氏は、10%への増税が行われると、ど
うなるかについて、次のように議論しています。この予測はけっ
してオーバーなものではないといえます。
─────────────────────────────
三橋:2014年の消費増税の時は、実質の消費が7・5兆円も
 減った。ちなみに10月の消費増税のインパクトも仮にそれと
 同じくらいに収まったとしても、その上、残業規制で8兆円な
 んていう所得の縮小があったら、合計で15兆円くらいの需要
 縮小になっちゃう。
藤井:しかも外需がそこから冷え込む可能性がある。その冷え込
 みがリーマンショックの仮に3分の1でも、9兆円程度冷え込
 むことになる。そうすると、2020年の経済は、前年に比べ
 て、25兆円前後も冷え込んで、成長率がマイナス5%前後っ
 ていう恐ろしい状況になる。さらに恐ろしいのは、この簡単な
 試算は何も悲観的なものじゃないっていう点。心理学的効果を
 考えるなら、消費縮小は7・5兆円以上になるかもしれないし
 オリンピック特需終焉がさらに数兆円のマイナス効果をもたら
 すかもしれないし、外需がもっと冷え込むかもしれない。
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 藤井聡教授は内閣官房参与を務めていました。内閣官房参与は
安倍首相に直接進言できる立場です。安部首相は藤井教授が増税
に反対している立場の経済学者であることを十分知ったうえで、
内閣官房参与に任命しているはずです。
 したがって、昨年10月の消費増税の決断は、そういう意見を
すべて聞いたうえでのもの、ということになります。なぜ、安倍
首相は、「消費税を凍結させる」という思い切った決断ができな
かったのでしょうか。
 それはやはり「財務省」の存在です。もう少しはっきりいうと
財務省と財界(経団連など)とマスメディア──これらが一体に
なっていることです。このような財務省に対しては、首相といえ
ども反対を押し通すことはできないようです。それでも、安倍首
相はよく頑張った方なのです。財務省は、何回も増税を延期する
安倍首相に業を煮やし、ひそかに、倒閣を仕掛けた疑いすらある
のです。これについては、改めて取り上げます。
 上記、「別冊クライテリオン」増刊号の座談会の司会を務めた
日本文化チャンネル桜代表の水島総氏は、財務省に関して次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 日本には謀略機関や工作機関がないといわれているけれども、
唯一、財務省というものがあるのではないか。カネは集まってく
る。情報集めと洗脳もやるし、脅しもやる。それから予算編成権
もあって、また政治家を脅かすこともできると。「お前のところ
には金を配らないぞ」という。こういうかなり強大な「ナンバー
ワン」の財務省という官庁に、カネ集めと情報収集と予算編成と
いうものが集まっている。これは、ある程度分けていかないとい
けないのではないか。    ──前掲『消費増税を凍結せよ』
            /「別冊クライテリオン」増刊号より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/004]

≪画像および関連情報≫
 ●このタイミングで消費増税は「危険な賭け」だ/飯田泰之氏
  ───────────────────────────
   まずお断りしておくと、私は「財政再建は必要であり、社
  会保障改革も必要である」という立場です。が、それゆえに
  こそ、消費増税には慎重であるべきだと考えています。
   第2次安倍内閣が掲げた経済政策アベノミクスの「三本の
  矢」の中に「機動的な財政政策」があったことから、多くの
  人が「安倍政権は財政再建を軽視している」と誤解している
  ようですが、実際はその逆で、財政の健全性を示すプライマ
  リーバランス(PB)の対GDP比は大きく改善しました。
   安倍政権は民主党政権下での決定を受けて、2014年4
  月に消費税の税率を5%から8%へ引き上げました。一般に
  は、これがPB改善の主要因であるという誤解があるようで
  す。実情は異なります。税収増の内訳を見ると、一般会計税
  収が43・9兆円であった12年度と比べ、18年度の税収
  は、59・1兆円と15兆円以上増えていますが、この税収
  増に占める消費税税収の増加分は7・2兆円であり、消費増
  税による税収増よりも、実は景気回復による自然増のほうが
  8兆円超と大きいことがわかります。消費増税による経済の
  腰折れがなければ、税収の自然増はさらに大きくなっていた
  はず。財政再建の主因は、消費増税ではなく、景気回復だっ
  たのです。           https://bit.ly/2ZNGviG
  ───────────────────────────

kuru-gumankyouju「zouzeichuushi」teian.jpg
クルーグマン教授「増税中止」提案
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2020年01月10日

●「『国』と『政府』は同じではない」(EJ第5164号)

 「毎年60兆円の税収しかないのに、毎年100兆円を超える
予算を使っている。これでは財政は破綻する。あくまで税収の範
囲内での政府支出を目指すべきである」──これが財務省の「財
政均衡論」です。
 この財務省の主張に関しては、まったく反論の余地はありませ
ん。こんなことをしていたら、確かに国家財政は破綻します。一
般家計に置き換えてみると、「30万円の月収しかないのに、毎
月60万円の支出をしている」ようなものであり、破綻必至であ
ることは誰でもわかります。
 しかし、問題はその分かり易さにあります。財務省は、このよ
うな素人でもわかる理屈を使って、国(本当は政府)の借金の深
刻さを訴えて、消費増税をしやすい環境を作っています。
 令和2年度(2020年)の予算案について、実際の数字で確
かめてみることにします。「歳入」は次のようになっています。
─────────────────────────────
         税収 ・・ 63兆5130億円
     その他の収入 ・・  6兆5888億円
        公債金 ・・ 32兆5562億円
     ―――――――――――――――――――
              102兆6580億円
                  https://bit.ly/2QRhwH0 ─────────────────────────────
 これによると、公債金は、32兆5562億円であり、そのう
ち特例公債(赤字国債)は、25兆4462億円、建設国債は、
7兆1100億円です。公債全体の金額は、2014年には41
兆円でしたが、年々減らしてきており、2020年度は32兆円
です。安倍政権もそれなりの努力をしているのです。
 財務省は、国債の残高を平然と「国の借金」といいます。財務
省が2019年2月8日に発表した最新の数字では、国の借金は
2018年12月末で1100兆5266億円になっています。
この数字には、国債のほか、借入金、政府保証債務現在高(政府
短期証券)が入っています。2019年末の数字も今年の2月に
財務省から発表されることになっています。年々凄い勢いで、国
の借金が増えていることを国民に知らせるためです。
 しかし、正確にいうと、これは「国の借金」ではなく、「政府
の借金」です。財務省は意図してそういうようにいいます。その
方が彼らにとって都合がよいからです。だが、「国」と「政府」
は明らかに異なります。「国=政府」ではないのです。国という
ときは「民間」も入ります。財務省は、慎重にそこから「民間」
をわざと外しているのです。なぜなら、「民間」を入れると、困
ることが起きてしまうからです。
 ここで借金を国債に絞って考えます。国債は政府の借金です。
その国債の残高が1000兆円あって、それが、国民一人当たり
800万円に該当するとします。個人にとっては、過大な借金と
いえます。1000兆円といってもピンとこない人が多いので、
赤ん坊も含む日本人一人当たりの借金がそれぞれ800万円にな
る──こういえば、危機感を感じてくれるということで、財務省
はこういうアッピールをするのです。
 しかし、これはおかしいです。日本の場合、国債の90%以上
は、民間が持っています。具体的には、日本の金融機関、すなわ
ち、銀行、生命保険会社、損害保険会社、年金運用基金などが保
有しています。もちろん個人で国債を保有している人もたくさん
います。したがって、政府からみると借金ですが、民間の立場か
らみると、国債は「資産」になります。国民一人当たり800万
円の借金ではなく、それだけの資産を保有しているのです。
 まさにパラドックスです。だから財務省は、「民間」を隠して
「国の借金」と表現するのです。つまり、国債の90%は貸し手
も借り手も日本であり、これは国内の貸し借りであって、国の借
金ではないのです。しかも、そのうち、約400兆円を政府の子
会社である日銀が保有しており、今や「政府の借金」ですら、な
くなっているといえます。
 なお、既に述べているように、政府は、借金も多いですが、た
くさんの資産を保有しています。しかも、政府のバランスシート
上の資産を見ると、金融資産が大半を占めています。その資産の
総額は672・7兆円もあるのです。本来は負債から、これらの
資産を引くべきですが、財務省はそうしていないのです。借金を
多く見せようとしているからです。
 これに加えて、「対外純資産」があります。日本が海外に保有
している資産から負債を除いたものをいいます。具体的な形態は
資産としては外貨準備,銀行の対外融資残高,企業の直接投資残
高などがあり,負債としては海外からの証券投資,借入金などが
あります。日本はこの対外純資産で世界一です。2017年現在
約328兆円で世界一、それも27年連続の世界一です。日本は
世界一の債権国家です。
─────────────────────────────
 ◎主要国の対外純資産    2017年末現在
      日本 ・・  328兆4470億円
     ドイツ ・・  261兆1848億円
      中国 ・・  204兆8135億円
      香港 ・・  157兆3962億円
   ノルウェー ・・  100兆3818億円
     カナダ ・・   35兆9305億円
     ロシア ・・   30兆2309億円
    イタリア ・・  ▲15兆5271億円
      英国 ・・  ▲39兆6540億円
    フランス ・・  ▲62兆4874億円
    アメリカ ・・ ▲885兆7919億円
          ──財務省資料/https://bit.ly/36thfRq
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/005]

≪画像および関連情報≫
 ●「円」はなぜ安全資産と呼ばれるのか
  ───────────────────────────
   金融市場にさほど興味を持たない読者でも、「リスク回避
  ムードが高まった結果、比較的安全とされる資産の円が買わ
  れ・・・」というフレーズを1度は見聞きしたことがあるの
  ではないか。その際、同時に「なぜ円が安全なのか」という
  疑問を抱いた経験もあるだろう。
   実際、100年に1度の大地震が起きても、大津波に襲わ
  れても、原子力発電所が事故に遭い、「東京壊滅か」という
  仰々しい懸念に煽られても円はその都度、買われてきた。最
  近では自国に向けてミサイルが発射されても円買いが進んだ
  ことも記憶に新しい。これらの動きに関しては直感的に納得
  のいかない向きもあるだろう。為替市場分析を生業としてい
  る中で「なぜ円が安全なのか」という論点は頻繁に照会を受
  ける論点の1つだが、最も模範的かつ、異論が少ない解答が
  「日本は世界最大の対外債権国だから」というものになる。
  これは「日本は世界で一番外貨建ての資産を保有している国
  だから」とも言い換えられる。この点に関する数字は毎年5
  月末財務省が前年分について公表する『本邦対外資産負債残
  高の状況』が大いに参考になる。 https://bit.ly/2sF0kg9
  ───────────────────────────

主要国対外純資産/2017年末現在.jpg
主要国対外純資産/2017年末現在
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2020年01月14日

●「日本人が知らない巨額海外純資産」(EJ第5165号)

 新年になってはじめて書店(池袋/ジュンク堂)に行き、次の
本を見つけて購入しました。総選挙が近いせいか、れいわ新撰組
関係の本が多く出版されていますが、この本もれいわ新撰組に関
係があります。少し変わった本です。
─────────────────────────────
                       大西つねき著
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
                         白順社刊
─────────────────────────────
 著者の履歴を拝見すると、大西つねき氏は銀行員で、1986
年にJ・Pモルガン銀行に入行し、為替資金部/為替ディーラー
として活躍し、1991年にはバンカーズ・トラスト銀行に移り
為替、債権、株式先物トレーディングを担当している金融のプロ
です。2017年の衆院選、2019年の参院選(比例区)にも
出馬しています。れいわ新撰組の山本太郎代表が本のオビで、こ
の本を「推薦」しています。
 大西つねき氏の本には、他の金融の本ではあまり取り上げない
ことが多く出ており、それについて分かり易い解説があります。
EJの今回のテーマとも関係が深いので、これから参考にしたい
と考えています。
 既出の経済評論家の加谷珪一氏は、日本が国際比較において、
労働生産性が低く、伸び悩んでいることを指摘していますが、こ
れについて大西つねき氏は、日本が27年連続の世界最大の債権
国であることに関連して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本が世界一のお金持ち国になった本質的な理由は、日本が世
界一の生産性を誇るからです。よく日本のホワイトカラーの生産
性が低いと言われますが、それは大きな間違いです。そのときに
引き合いに出されるホワイトカラーの生産性とは、単にホワイト
カラーの給与を為替換算して国際比較したもので、今の為替レー
トも日本人の給与も、政治的に著しく歪められています。要する
に無意味な比較だということです。(一部略)
 日本は世界一のお金持ち国です。その累計額が世界一だから、
世界一の純資産国になっているのです。戦後ずっと、自分たちが
消費(輸入)する額よりも、遥かに多くの額を生産(輸出)し続
けたから、そしてそれを可能にするだけの付加価値を生産し続け
たから、その対価として世界一の黒字が貯まっている。しかも日
本は、戦後の賠償やドル借款などのマイナス状態からここまでに
なっているのです。これこそが日本の生産性の高さの証明であり
それが世界一であることは、世界最大の純資産を見れば明らかで
す。              ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 生産性の概念の捉え方の違いということもあるでしょうが、日
本が世界一の純資産国であることとの関連で生産性を捉えている
ことは面白いと思います。
 日本に対外純資産が328兆円あることをほとんどの日本人は
知らないでいます。純資産国の国際順位については、新聞では毎
年報道はあるものの、これについて詳しく解説する評論家はおら
ず、日本政府もこれについてあまり触れることはありません。と
くに財務省としては、こんな話をしたら、「世界一の借金大国」
というプロパガンダがバレてしまうので、事実のみは伝えますが
詳しい説明は絶対にしないのです。
 対外純資産の数字は、財務省のウェブサイトに公表されていま
す。財務省のサイトにはいろいろなデータが掲載されているので
慣れないと、どこを見ていいかわからないと思います。そういう
ときは、サイト内のグーグル「カスタム検索」にキーワード(例
えば「対外純資産」)を入れると一発で出ます。次は、同じキー
ワードを入れたときの最新のデータです。これによると、日本の
対外純資産は、341兆円に増加しています。
─────────────────────────────
 ◎平成30年末現在本邦対外資産負債残高の概要
   1. 対外資産残高 ・・1018兆0380億円
   2. 対外負債残高 ・・ 676兆4820億円
   3.対外純資産残高 ・・ 341兆5560億円
               https://bit.ly/2QMd7X2
─────────────────────────────
 ところで、そもそもなぜこれほど巨額の資産がストックされた
のでしょうか。
 「対外純資産」とは、国が外国に貸したり、投資したりしてい
る金額から、海外から借りたり、投資されている金額を差し引い
た金額のことです。日本が海外に貸している金額から、借りてい
る金額を差し引いたもの──このようにいった方がわかりやすい
かもしれません。
 ここで投資というのは、具体的には、政府債券や社債、株式、
土地などの資産を現地通貨で保有することです。もちろん、日本
も海外から投資を受けていますが、海外への投資から、投資され
ている額を差し引きすると、多額の余剰金が出ます。これが対外
純資産であり、その金額が世界一なのです。
 問題は、なぜ、これほど多額の対外純資産がストックされたの
でしょうか。それは、上記の大西つねき氏の次の言葉のなかにあ
ります。専門用語でいうと、日本は長年にわたって、経常収支の
黒字を続けてきたからです。
─────────────────────────────
 戦後ずっと、自分たちが消費(輸入)する額よりも、遥かに多
くの額を生産(輸出)し続けたから、そしてそれを可能にするだ
けの付加価値を生産し続けたから、その対価として世界一の黒字
が貯まっている。       ──大西つねき著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/006]

≪画像および関連情報≫
 ●国土が小さい日本が世界最大の債権国だなんて!/中国
  ───────────────────────────
   財務省によれば、日本の2016年末における対外純資産
  残高は前年より9兆8950億円増えて349兆1120億
  円に達した。日本の対外純資産残高は26年連続で世界一と
  なっており、これは日本が世界最大の債権国であることを示
  している。
   中国メディアの快資訊はこのほど、日本は国土が非常に小
  さいのに、なぜ世界最大の債権国でいられるのかと疑問を投
  げかけ「とても信じられないことだ」と驚きを示している。
   記事は、日本は国土こそ小さいが「匠の精神」を発揮し、
  製造業で確固たる地位を築いたと指摘。自動車や半導体とい
  った工業製品のほか、中国でも高く評価されている果物など
  の存在を挙げ、何事にも徹底的にこだわる姿勢が日本に成功
  をもたらすことになったと主張、そしてこうした成功が日本
  の対外純資産残高の積み上げに繋がったと強調した。
   続けて、日本が海外に持つ莫大な資産は日本に巨大な利益
  をもたらしていると伝えたほか、どのような資産であっても
  日本で地震が発生したり、戦争に巻き込まれたりなどの国家
  の非常時には売却することで資金を得ることができると指摘
  し、「日本には先見の明がある」と伝えた。
                  https://bit.ly/2NiC4aN
  ───────────────────────────

海外純資産.jpg
海外純資産
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2020年01月15日

●「日本の対外純資産/経常黒字原因」(EJ第5166号)

 日本の対外純資産──2019年度末で約342兆円、これは
日本が長年にわたって経常収支の黒字を積み重ねてきたから、ス
トックされたものと昨日のEJで述べましたが、「経常収支」と
は何でしょうか。これには、深い意味があるので、少しその本質
を探ってみることにします。難しい説明はしません。
 「経常収支」とは、国の国際収支を評価する基準のひとつで、
次の4つから構成されます。
─────────────────────────────
          1.  貿易収支
          2.サービス収支
          3.  所得収支
          4.経常移転収支
─────────────────────────────
 第1は「貿易収支」と「サービス収支」です。
 「貿易収支」と「サービス収支」は、「貿易・サービス収支」
と呼ばれます。貿易収支とは、財の輸出から輸入を引いたもので
す。同様に、サービス収支とは、サービスの輸出から輸入を引い
たものです。財の輸出入はわかると思いますが、サービスの輸出
入はちょっとピンとこないと思います。
 日本人が海外旅行に行って、外国人のシェフの作った料理を食
べて代金を支払ったとします。これは「サービスの輸入」です。
これと逆に、外国人観光客が日本に来て、日本料理を外国人が楽
しみ、その対価を受け取った場合、それは「サービスの輸出」と
いうことになります。
 サービスの輸出は、サラリーマンの給料と似たところがありま
す。サラリーマンは、他人のために働いて、給料という対価を受
け取るので、サービスの輸出と同じです。一方、家計での消費は
他人が働いて作ったものを使わせてもらうことになるので、サー
ビスの輸入と同じです。
 輸出が輸入を上回る状況を貿易黒字といい、輸入が輸出を上回
れば貿易赤字です。この場合、一般的には貿易黒字は「貿易収支
が好調」、貿易赤字は「収支バランスが悪い」とされています。
 しかし、貿易黒字が増えると、その分相手の国から受け取る外
貨が増え、それを日本円に交換するため、外貨を売って円を買う
ことになるので、円高へとつながります。
 第2は「所得収支」です。
 所得収支は、日本人が海外から受け取った利子や配当です。こ
の場合、海外に支払った利子や配当は差し引きます。その結果が
プラスであれば黒字、マイナスになると赤字です。企業が海外の
工場建設などや海外証券投資で得た収益から、日本国内で外国企
業などが得た利益や報酬などを引いたものが所得収支です。所得
収支は、対外金融債権・債務から生じる利子配当金などの収支状
況であり、これが黒字であることは良い傾向であるといえます。
 第3は「経常移転収支」です。
 これは、政府による開発途上国への経済援助や国際機関への拠
出金などの収支です。所得収支を「第1次所得収支」と「第2次
所得収支」に分け、前者はここでいう「所得収支」、後者を「経
常移転収支」とする分類法もあります。つまり、所得収支は、日
本企業が海外で稼いだお金の配当金です。
 2019年度末で約342兆円の対外純資産がある──こんな
ことをいわれてもピンとくる日本人はいないと思います。この数
字は、日本が世界一の金持ちの国であることちを示していますが
「日本は世界一の借金大国である」とさんざんいわれてきている
だけに、にわかに信じられるものではありません。
 これについて既出の大西つねき氏は、次のように疑問を解いて
くれています。
─────────────────────────────
 実は、これには明確な理由があります。それは、皆さんがその
お金をほとんど使えていないからです。まず、世界一の対外資産
がいかにして積み上がったかと言うと、毎年経常収支が黒字だっ
たからです。(一部略)
 しかし、ここに大きな問題があります。黒字は外貨で貯まるの
です。なぜなら、国際決済は基本的に外貨、主にドルで行われて
きたからです。輸入の代金をドルで払い、輸出の代金をドルで受
け取れば、黒字も差し引きドルです。だから、財務省の資料には
確かに349兆円とありますが、実際は約3兆ドルの外貨です。
つまりどういうことか?ドルは日本では使えません。投資する場
所もない。だから海外に投資せざるを得ないのです。
              ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 大西つねき氏は、これを家庭に例えて、「どの家よりも稼いで
いる家庭なのに、そのお金は全く使わずに誰かに貸しっぱなし」
の状態といっています。まさに「貧乏ひまなし」です。これがま
さに現在の日本の状況です。世界一の金持ちの国なのに、日本の
貧乏化が急速に進んでいます。
 世界で何かコトが起きると、円が買われて円高になります。米
国がイランのソレイマニ司令官を殺害し、米国とイランの間で一
触即発の戦争危機になったとき、円が買われています。それは、
世界中の投資家が日本が世界一の債権国家であることを熟知して
いるからです。知らないのは日本人だけです。
 海外にそんなカネがあるなら、その外貨を売って円に替え、日
本に持ち込めば、いいじゃないか──これは、多くの日本人の本
音であると思います。しかし、3兆ドルを円に替えるのは、ほと
んど不可能な話です。それだけの円を一体誰が、持っているので
しょうか。当たり前の話ですが、円は日本でしか発行されないか
らです。日本人しか持っていないのです。
 方法はないわけではありません。しかし、これは国家でしかで
きないことです。日本政府は何かを大きく間違えています。
           ──[消費税は廃止できるか/007]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ日本円は「安全資産」と言われるのか/中国メディア
  ───────────────────────────
   日本円は「安全資産」と呼ばれることが多く、世界で金融
  不安が台頭すると円が買われ、円高となる傾向が強い。日本
  円は確かに世界で使える通貨の1つだが、なぜ日本円は安全
  資産と呼ばれるのだろうか。中国メディアの今日頭条はこの
  ほど、日本円が安全資産としての地位を確立できた理由につ
  いて考察する記事を掲載した。
   毎年5月末に財務省が発表する「本邦対外資産負債残高の
  状況」によると、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産
  から負債を差し引いた「対外純資産残高」は2018年末時
  点で341兆5560億円になった。
   記事は「日本円が安全資産である理由は、この対外純資産
  残高と関係がある」と強調し、日本企業が中国や米国への投
  資を活発に行ったことで、日本の18年末における対外純資
  産残高は前年比3.7%増となったことを紹介し、28年連
  続で日本が世界最大の債権国になったと論じた。
   続けて、日本は、第2次世界大戦後に急速に復興し、19
  70年代には欧米の先進国に経済力で追いついたと指摘し、
  世界第3位の経済大国である日本円の世界における地位はこ
  の時に築かれたと指摘。日本はその後、バブルが崩壊し、経
  済成長が低迷し続けているが、「日本には世界中に多くの資
  産を保有しており、しかも外貨準備高も潤沢であることから
  日本が信用不安に陥るリスクは小さい」と強調。また、日本
  円を空売りして売り崩すのも難しいため、日本円は金融不安
  時の逃避先として最適なのだと論じた。
                  https://bit.ly/2TmFdKa
  ───────────────────────────

経常黒字は4年連続で増加.jpg
経常黒字は4年連続で増加
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2020年01月16日

●「324兆円の対外純資産への貢献」(EJ第5167号)

 本日は木曜日、ひとつ予告があります。私はウィークデイに家
にいるときは、テレビ朝日の「羽鳥愼一モーニングショー」を視
ています。とくに木曜日は玉川徹氏の『そもそも総研』があるの
で、長年の習慣で、継続して視聴しています。なかなか中身のあ
るコーナーであると思っています。
 本日の『そもそも総研』は、「消費税ゼロ」の特集が予定され
ています。藤井聡京都大学大学院教授が出席されることは確かで
山本太郎氏が出席される可能性もあります。本当は、先週の予定
だったのですが、米国とイランの戦争危機によって、1週間延期
されたのです。現在発売中の『文藝春秋』でも、山本太郎氏によ
る「『消費税ゼロ』で日本は甦る」という論文が掲載されており
目下大きな話題になっています。EJの今回のテーマと同じであ
り、視聴されることをお勧めします。
 約342兆円の対外純資産は、どのようにして積み上げられた
のでしょうか。それは、はっきりしています。貿易黒字を稼ぎ続
けたからです。貿易というものは、そのほとんどが外貨、主とし
てドルで決済が行われます。日本は資源のない国なので、燃料や
原材料を手に入れるにも外貨が必要です。
 手持ちのドルがない場合、円を売ってドルを手に入れます。そ
のとき、為替レートが問題になります。「1ドル=100円」と
すれば、100円を売って、1ドルを手に入れます。このように
して、原材料を輸入し、製品を作り、それを2ドルで売ったとし
ましょう。この場合、「1ドル=100円」のままであるとする
と、そのうち原材料分の1ドルを売って、円に替えたとしても、
1ドルの黒字分がドルで残ります。
 日本は十分外貨準備を持っているので、そのドルで原材料を仕
入れ、製品の代金もドルで受け取り、多くの場合、ドルのままス
トックされる。日本は、このようにして、ドルを稼ぎ続け、それ
が長年にわたって黒字として積み上がっていったのです。つまり
原材料を外貨で仕入れ、売上代金も外貨で受け取り、それが外貨
そのままストックされ、積み上がって行ったのです。それが驚く
なかれ、約342兆円の対外純資産として積み上がったのです。
ドルに換算すると「3兆ドル」になります。これについて、既出
の大西つねき氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 その3兆ドル分の外貨は、それを日本人がお金(円)で買った
からではなく、モノやサービスという実体価値を売った対価とし
て貯まったもので、円の流出なしに外貨だけが貯まっているので
す。ですから、その分の円は、海外には存在しません。
                ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 それにしても、約342兆円の対外純資産は、驚きを禁じ得な
い。だから、日本人には実感がないのです。本当の原因は何であ
るか、考えてみる必要があります。
 昨年来、トヨタ自動車など、一流企業のトップが相次いで発言
した気になる言葉があります。その言葉とは「もはや日本型経営
はできなくなりつつある」です。それが現実のものとしてあらわ
れたのは、1月13日付の日本経済新聞のトップ記事です。同紙
は一面トップで、次のことを伝えています。
─────────────────────────────
             「黒字リストラ」拡大
       /昨年9100人デジタル化に先手
       ──2020年1月13日付、日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 「黒字リストラ」とは、黒字の好業績でも人員削減策を打ち出
すことをいいます。実際に、2019年に早期・希望退職を実施
した上場企業35社中、最終損益が黒字だった企業は60%を占
めています。具体的にいうと、これらの企業は、来るべき総デジ
タル化時代に備えて、比較的給与は高いのにICTに弱い中高年
齢層に退職・転職を勧奨し、ICTに強い若手の人材確保に着手
しているのです。これが「黒字リストラ」です。
 そもそも日本企業の従業員給与は低過ぎるのです。中国の通信
機器メーカー華為技術(ファーウェイ)が日本の就職情報誌に提
示した新卒の初任給が40万円、修士修了者は43万円でした。
日本の一流企業の初任給の倍額です。
 しかし、日本の企業から見ると、約2倍ですが、ファーウェイ
が特別高いわけではないのです。欧米企業の技術系社員の初任給
が50万円台のところはザラだからです。古い話ですが、私が大
手生保会社に入社したときの給与は約1万1千円。そのとき、日
本アイ・ビー・エム社の大卒初任給が2万円だったことを今でも
鮮明に覚えています。日本企業の従業員給与は、一貫して不当に
低いといえます。これについて大西つねき氏は、いささか怒りを
交えながら、次のように述べています。
─────────────────────────────
 (企業の)コストカットは決してお金のカットだけでは終わり
ません。報酬だけ減らし、同じかそれ以上の価値を要求するのが
コストカットです。つまり、生産性向上の強要に他なりません。
そして、日本の労働者は身を削りながらも世界一の生産性でそれ
に応え続けて来ました。にもかかわらず、日本のホワイトカラー
の生産性は低いとまで揶揄される。なぜか?それはあろうことか
その生産性に見合うだけの、本来受け取るべき報酬を受け取れて
いないからです。こんな不当なことがあるでしょうか?
               ──大西つねき著の前掲書より
─────────────────────────────
 約342兆円の対外純資産は、低い給与で働き続けた日本人の
タダ働きの積み上げられた結果であると大西氏はいうのです。す
べてについて大西氏の言説に同意するわけではありませんが、確
かに本質を衝いた鋭い意見であると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/008]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ/新卒年収3200万円実名入り社内文書流出
  ───────────────────────────
   中国IT大手ファーウェイ(華為技術)の任正非CEOの
  名前で、2019年卒新入社員の年俸について記載された社
  内メールが流出し、中国で大きな話題となっている。ファー
  ウェイは元々高年収で知られるが、今回のメールでは最も優
  秀な8人のために、最高額で201万元(約3200万円)
  の年棒が用意されていることが明らかになったからだ。ファ
  ーウェイやリストに掲載された学生たちは否定するコメント
  は出しておらず、中国メディアは本物だと結論付けている。
   流出したメールには、「8人の突出した新入社員」の名前
  と年俸プランが記載されている。学歴はいずれも博士で最高
  額は201万元、最低は、89・6万元(約1400万円)
  だった。メールには年俸とともに実名が記載されていたこと
  から彼らの情報もあっという間に調べられ、拡散している。
   最高年棒の1人である鐘氏は、華中科技大学(学部)を卒
  業。ハイテク総合研究と自然科学の最高研究機関である中国
  科学院で博士号を取得した。専門はパターン認識とスマート
  システム。もう1人の秦氏は浙江大学(学部)を卒業。香港
  科技大学のロボット研究所で博士号を取り、国際的な学会で
  多数の論文を発表している。ファーウェイは、理系学生の就
  職先として極めて人気が高い。ある調査によると2018年
  中国のトップ大学である清華大学からは167人(学部生2
  人、修士134人、博士31人)が入社した。
                  https://bit.ly/2RoyE7F
  ───────────────────────────

ファーウェイ本社.jpg
ファーウェイ本社
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2020年01月17日

●「国家の財政を家計に例える間違い」(EJ第5168号)

 多くの日本人は、日本の現況、主として経済的な現況をどう考
えているでしょうか。
 現在、日本の現況は、世界一の金持ち国であるのに急速に貧乏
化が進行し、かなり悲惨な状況になっています。れいわ新撰組の
山本太郎代表は、『文藝春秋』新春特別号に寄せた政策論文の冒
頭で次のように訴えています。
─────────────────────────────
 みんな本当に苦しんでいる。子どもの7人に1人、高齢者の5
人に1人、1人暮らしの女性の3人に1人が、貧困状態にありま
す。日本は今、生きていくのに、全く希望が持てない社会なので
す。結果、毎年2万人以上が自殺し、50万人以上が自殺未遂を
している。そんな地獄のような世の中はもう終わりにしたい。
 この数字を見て下さい。厚労省の国民生活基礎調査によれば、
「生活が苦しい」と感じている人の割合は、全世帯の57・7%
(2018年)、母子家庭に限れば、82・7%(16年大規模
調査)に及びます。日本銀行の家計の金融行動に関する世論調査
(17年度)によれば、1人暮らしの貯蓄ゼロ世帯は、20代で
61%、30代で40%、40代で45%にも上る。
           ──山本太郎れいわ新撰組代表政策論文
  『「消費税ゼロ」で日本は甦る』/『文藝春秋』新春特別号
─────────────────────────────
 別に誇張があるとは思えません。事実を指摘しています。これ
は長年にわたる自民党一党独裁の政治の失敗の結果であるといえ
ます。この日本の現況を変えるには何をどうすべきでしょうか。
 それを今回のテーマでは探っています。それを示すには、知る
べきことがたくさんあります。また、これまでとは、認識を変え
る必要もあります。
 日本人は、一般的に「借金=悪」というイメージを持っていま
す。その何よりもの証拠として、このキャッシュレス時代におい
ても、現金の決済が主流であることが上げられます。2015年
における世界銀行の調査によると、世界におけるキャッシュレス
(クレジットカード)の普及率のベスト5は次の通りです。
─────────────────────────────
     第1位:    韓国 ・・・ 89.1%
     第2位:    中国 ・・・ 60.0%
     第3位:   カナダ ・・・ 55.4%
     第4位:  イギリス ・・・ 54.9%
     第5位:オーストリア ・・・ 51.0%
                  https://bit.ly/2tVp8AD
─────────────────────────────
 このときの日本の普及率は、わずか18・4%であったといわ
れます。日本では、クレジットカードを利用することは、借金を
することと同じであり、日本人は「後払い」ということに基本的
に抵抗があります。そういう日本人に対して、「1100兆円を
超える日本(政府の)借金」は、日本人の金銭感覚から考えて、
相当の大きなショックであったわけです。
 日本の財務省は、そういう日本人の特性を利用して、国の財政
を家計のそれに例えて説明しています。増税を受け入れ易い環境
を築くためです。財務省のウェブサイトの動画では、次のように
説明されています。
─────────────────────────────
 ◎平成27年度一般会計予算/日本の財政
  税収+税外収入   一般会計歳出  公債金収入等=借金
   59・5兆円 − 96・3兆円 =   36・8兆円
                 ↓
       公債残高  840兆円
 ◎家計に例えると
    1世帯月収  ひと月の生活費     不足分=借金
     50万円 −   80万円 =     30万円
                 ↓
    ローン残高   8400万円
                  https://bit.ly/2RezDqL
─────────────────────────────
 経済学では、経済活動の単位を「家計」「企業」「政府」に分
けますが、「家計」は貯蓄主体、「企業」は借り入れ主体が基本
形で、「家計」の借り入れは、「企業」ほど多くないので、「政
府」は「家計」よりも「企業」に似ています。しかし、財務省は
あえて「家計」と「政府」と比較しています。その方が国民が勘
違いし易いからではないかと考えられます。
 国(政府)の借金を家計のそれと比較するのは間違いです。政
府の借金は、基本的には返さなければなりませんが、超長期間で
返すことが可能です。100年かけて返したっていい。しかし、
家計の借金はそういうわけにはいかないのです。それも政府の場
合は、イザとなると、お金を刷って返すこともができますが、家
計ではそんなことはできない。そういうわけで、政府の借金は家
計のそれとは異なり、そもそも比較するのは間違っています。そ
れなのに、財務省はわざわざ動画まで作成して、ユーチューブに
アップし、大宣伝をしています。だから、プロパガンダといわれ
るのです。ちなみに、財務省はユーチューブに公式チャンネルを
持っています。
 もうひとつ大事な観点があります。政府の借金を国債に限定す
ると、政府の借金は民間にとって資産になるということです。し
かも政府の国債の90%以上は日本の銀行、生命保険会社、損害
保険会社、年金運用基金などが保有しています。つまり、貸し手
も借り手も日本であり、国のなかでの貸し借りであって、国の借
金ではないのです。
 このように、11OO兆円の借金といいますが、「政府+民間
=国」の立場から見ると、11OO兆円の借金は、そんな深刻な
問題ではないことが明らかです。財務省はこの理屈をはぐらかし
ています。      ──[消費税は廃止できるか/009]

≪画像および関連情報≫
 ●「紙幣や国債は返済する必要がない」は本当か/斎藤誠氏
  ───────────────────────────
   「財布に入っている1万円札が日本銀行の借用証書であり
  お札の持ち主が日銀に1万円を貸している」と考えている人
  はほとんどいないのかもしれない。しかし「実はそうなので
  ある」ということをここであらためて考えたい。
   最初から注意を促しておきたいのであるが、1万円札は、
  「日銀がいつまでも返済する必要のない借金」などではなく
  て、「日銀がいつでも返済することを期待されている借金」
  なのである。
   紙幣が「返済される」からこそ日々無数の経済取引が紙幣
  を介して滞りなく取り結ばれている。当たり前であるが、こ
  の大切なことを、一部の人は忘れているようである。まずは
  日銀のような中央銀行がまだ存在せず紙幣が発行されていな
  かった時代のことを考えてみよう。
   たとえば商人が農家から大量のコメを買うとする。コメ商
  人はコメ農家に対して支払期日と支払金額を定めた手形を振
  り出す。通常、手形の額面金額はコメの支払代金を上回るが
  この差額部分が期日までの利息に相当する。いずれにしても
  「手形が期日に返済される」という前提があるからこそ、コ
  メ農家は支払代金としてコメ商人が振り出した手形を受け取
  るのである。「手形が期日に返済される」という前提が満た
  されていると、その手形はコメ商人とコメ農家の関係を超え
  て市中に出回る可能性が出てくる。https://bit.ly/2tYJYPu
  ───────────────────────────

れいわ新撰組/山本太郎代表.jpg
れいわ新撰組/山本太郎代表

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2020年01月20日

●「お金の仕組みについて考えるとき」(EJ第5169号)

 1月10日のEJ第5164号で示したように、米国の対外純
資産は、2017年現在、マイナス885兆7919億円です。
約マイナス8兆ドルです。これは、何を意味しているかというと
世界中がそれだけのお金を米国に貸していることを意味します。
世界中が米国のドルに投資しているのです。
 この天文学的な数字の借金を抱えていても、世界は米国に依然
として投資をしています。普通の国ならとっくの昔に破綻し、I
MFの管理下に置かれていると思われるのに、そうならないのは
米国が基軸通貨国であるからです。それでは、基軸通貨国とは何
でしょうか。基軸通貨とは、国際為替相場での取引が多い通貨の
ことで、一般にメジャー・カレンシーと呼んでいます。基軸通貨
の条件には次の3つがあります。
─────────────────────────────
   第1の条件:通貨価値が安定している国の通貨である
   第2の条件:政治、経済、軍事の強い国の通貨である
   第3の条件:国際金融市場が整備・確立していること
─────────────────────────────
 19世紀半ばから100年間は当時の覇権国家であった英国の
ポンドが基軸通貨でしたが、IMF体制が確立した20世紀半ば
以降は唯一の超大国である米国のドルがその地位にあります。
 既出の大西つねき氏は、日本のホワイトカラーの生産性が低い
ことに強い疑問を抱いており、これをドルが基軸通貨であること
と関連して次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカドルが国際取引の決済通貨、特に原油の決済通貨であ
り続けたこと、そしてその国際決済通貨であるドルを、世界で唯
一勝手に発行できるということ、そして、その間題を覆い隠す力
による外交、特に日本のような従属的な国との関係、為替レート
の恣意的なな操作など、恐らく見えていないことも含めれば、そ
の間の深さは想像を絶します。その根本を問うこともなく、単に
ホワイトカラーの給料を今の為替レートで換算して国際比較した
ところで、何の意味もないどころか、日本人に対する侮辱です。
アメリカのホワイトカラーが高い給料を取れるのは、そのお金を
外国(特に日本)から借りているからに過ぎません。そして、そ
の換算の元となる為替レートは、外国が否応なしにアメリカに貸
し続けている(ドルに投資し続けている)から、何とか今の水準
を保っているに過ぎません。   ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 日本には1000兆円を超える政府の借金があり、しかも増え
つつある──これは後払いの税金のようなものであり、なるべく
早く解決すべきであると多くの日本人は考えています。マスメデ
ィアがそのように報道するからです。
 この問題を解決するために、お金の発行の仕組みについて理解
する必要があります。それは、お金の本質について考えることに
つながるからです。
 現在、お金に関係のあることについて、次の2つのことが話題
になっています。
─────────────────────────────
          1.    リブラ
          2.デジタル人民元
─────────────────────────────
 「リブラ」とは、フェイスブックが提案する仮想通貨であり、
現在、話題を呼んでいます。リブラは、ビットコインのような通
常の仮想通貨とは違い、価格変動が起こりにくい設計を取り入れ
世界共通のお金というものを実現させようとしています。
 もうひとつ金融関係者を動揺させているのが、2の「デジタル
人民元」です。デジタル人民元の詳細はわかっていませんが、今
年発行されるという情報はあります。中国中央銀行は、これにつ
いての調査チームを2014年の段階で立ち上げています。そし
て、その発行が1月25日の旧正月に合わせるという情報すらあ
るのです。2019年の末のことですが、人民銀行幹部が次のよ
うな謎の発言をしています。
─────────────────────────────
        デジタル人民元はDCEPである
 DCEP=Digital Curency/Electronuc Payment ─────────────────────────────
 欧州中央銀行のラガルド総裁は、このデジタル人民元の後追い
と思われますが、「デジタルユーロ」の発行を検討していると発
言しています。これらの仮想通貨についてEJとしては、現在の
テーマの範囲を超えるので、今年の別テーマとして取り上げる予
定ですが、2020年は、お金の本質について真剣に考えざるを
得ない年になる可能性があります。
 現在、金融のデジタライゼーションは、地球規模で加速してい
ますが、デジタル人民元は、中国の通貨そのものをデジタル化す
ることを意味しています。これによって、中国国内では、中央銀
行による通貨の紙幣、硬貨の発行が停止され、中国国民は、すべ
てスマホアプリか、新規に発行される電子決済用IDカードで支
払いを行い、財布は持ち歩かなくなります。通貨はその性格上必
ずデジタル化される運命にあるといえます。
 さて、ここで問題です。「紙幣=お金」ではありませんが、日
本中の紙幣を集めると、その総額はいくらになると思いますか。
次の3つのなかから正しいものはどでしょうか。
─────────────────────────────
          1. 500兆円
          2. 100兆円
          3.1300兆円
─────────────────────────────
 この3択の問題の正解については、明日のEJでお知らせする
ことにします。    ──[消費税は廃止できるか/010]

≪画像および関連情報≫
 ●リブラに対抗するデジタル人民元発行が近づく
  ───────────────────────────
  デジタル人民元とも呼ばれる中国の中銀デジタル通貨の発行
  が、いよいよ近づいてきたようだ。政府系シンクタンクであ
  る中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長は10月28
  日の講演で、中国人民銀行(中央銀行)が「世界で初めてデ
  ジタル通貨を発行する中央銀行になる可能性がある」と述べ
  た。一方、27日に新華社が報じたところでは、全国人民代
  表大会(全人代)は暗号資産(仮想通貨)の発行に向けた準
  備となる、暗号資産(仮想通貨)に関する新法を可決した。
  新法は、「暗号資産ビジネスの発展を支え、サイバー空間と
  情報の安全性を確保する」のが狙いとされ、その発行は1月
  1日となる。この新法の制定に、デジタル人民元発行の環境
  を整える狙いがあるのだとすれば、デジタル人民元が来年年
  初から発行される可能性もある。
   デジタル人民元の詳細については依然として明らかではな
  いが、黄副理事長は、その発行技術にはブロックチェーン技
  術を利用する考えを初めて示した。今まではブロックチェー
  ン技術は幾つかの選択肢の一つとされていた。習近平国家主
  席は24日、中国が産業上の優位を目指す上で今後もブロッ
  クチェーン技術の「最前線に立ち続ける」よう求めた。その
  発言の背景には、デジタル人民元の発行技術には、ブロック
  チェーン技術を利用するという決定があったと見られる。
                  https://bit.ly/2NwqVTx
  ───────────────────────────

中国人民銀行.jpg
中国人民銀行
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2020年01月21日

●「お金は元来デジタルな存在である」(EJ第5170号)

 「紙幣=お金」ではありませんが、日本中の紙幣を集めると、
その総額はいくらになると思いますか。次の3つのなかから正し
いものはどれでしょうか。
          1. 500兆円
          2. 100兆円
          3.1300兆円
─────────────────────────────
 昨日のEJの最後に出したクイズです。これは、日銀のウェブ
サイトを見れば確認できます。「資産、負債及び純資産の状況」
の「負債の部」のところに、平成28年度(2016年)末と、
平成29年度末の「発行銀行券」は次のようになっています。し
たがって、正解は2の「100兆円」ということになります。
─────────────────────────────
                    発行銀行券
   2016年度末 ・・・  99兆8001億枚
   2017年度末 ・・・ 104兆0004億枚
                  https://bit.ly/2RsQ5DQ ─────────────────────────────
 これに対して、日本中に流通している現金、預貯金などを全部
合わせると、どのくらいの金額になるでしょうか。
 これも日銀のウェブサイトの通貨関連統計を開き、「マネース
トック速報」(2019年12月)の「M3」の一番下を見ると
わかります。
─────────────────────────────
     ◎「マネーストック速報」(2019年12月)
      M2 ・・・ 1041兆6千億円
      M3 ・・・ 1377兆5千億円
                  https://bit.ly/3ajWwSe ─────────────────────────────
 マネーストックM3というのは、日本中の現金・預貯金を郵便
貯金や農協に預けた分も分も含めたものをいい、マネーストック
M2は、M3から郵便貯金や農協に預けた分を引いた数値です。
そうすると、こういうことになります。
─────────────────────────────
 お金は、日本中に1377兆5千億円流通しているのに、発
 行銀行券は、たったの100兆円に過ぎない。
─────────────────────────────
 よく「日銀はお札を刷る」といいますが、それは日銀の役割で
はなく、独立行政法人国立印刷局の仕事です。毎年財務省の計画
にしたがって必要な分を印刷しています。ここで必要な分とは、
古くなったり、破損したりした紙幣を交換する分と、「お金の総
量が増えるにしたがって増やす分」の印刷です。この紙幣の印刷
硬貨の鋳造と流通・保管・維持コストに、年間2兆円以上の予算
が必要とされています。
 さて、上記の「お金の総量が増えるにしたがって増やす分」と
は何でしょうか。
 これは、素直には理解できないはずです。お金の印刷イコール
お金の総量を増やすと考えている人にはです。そうではない。し
たがって、「お金=紙幣」ではないということです。
 既出の大西つねき氏は、「紙幣はUSBメモリのようなもの」
といっています。
─────────────────────────────
 実はほとんどのお金は紙幣という実体を持たずに存在していま
す。確かに紙幣はお金として通用しますが、それはお金の本質で
はありません。大部分のお金は単なる預金情報として電子的に存
在するだけです。もし、皆さんが銀行に100万円を預ければ、
通帳にはその預金情報が記載されます。そして、その情報の一部
を現実世界に持ち出す時に、紙幣はその情報の入れ物として機能
します。つまり、1万円札は、銀行に預けた100万円のうちの
1万円分の情報を、分離して運ぶための記憶媒体でしかありませ
ん。記憶媒体ですから、例えて言うならUSBメモリのようなも
のです。(中略)1300兆円のうちのほとんどは銀行間で電子
送金され、現金のやり取りはごく一部です。ですから、1300
兆円のお金があっても、紙幣は100兆円で足りるのです。
                ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 それにしても「紙幣=USBメモリ」とは奇抜な表現です。つ
まり、もともとお金は「預金情報」として、デジタル的に存在し
ているものであり、それを現実世界に持ち出すさい、紙幣はその
情報の入れ物として機能するというのです。したがって、PCか
ら必要なデータを取り出し、保存するUSBメモリのようなもの
であるといっているのです。
 お金は本来デジタル的な存在である──これは重要な指摘とい
えます。紙幣や硬貨は、お金を現実世界で使うさいの情報の入れ
物であるとすると、現代は世の中のほとんどの人がスマホのよう
な情報機器を持ち歩いています。したがって、お金のすべてをデ
ジタル的存在に戻し、その情報の入れ物をスマホにしたらどうか
──こういう考え方が出てきても不思議ではないのです。このよ
うなことを背景として、ビットコインやリブラ、そして中央銀行
が扱うデジタル人民元のようなものが出てこようとしています。
 しかし、紙幣の良いところもたくさんあります。それは「転々
流通」しやすいことです。スイカやパスモなどのデジタル通貨で
は、これができないのです。それがビットコインにおいて、ブロ
ックチェーンの技術によって、やっと実現したのです。しかし、
国の中央銀行が信用を保証するデジタル人民元のような通貨にな
ると、あらゆる通貨決済データを国に握られることになります。
デジタル人民元はだから脅威なのです。
           ──[消費税は廃止できるか/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「デジタル人民元」に対抗するには「デジタル円」しかない
  ───────────────────────────
   中国で中央銀行が仮想通貨を発行する可能性がある。実現
  すると、その影響は全世界的なものとなる。日本で使われる
  可能性も否定できない。そうなると、通貨主権が奪われ、取
  引情報を中国に握られる危険がある。これを防ぐには、日銀
  が仮想通貨を発行するしかない。
   中国の中央銀行である人民銀行が、仮想通貨である「デジ
  タル人民元」を発行するとの報道がなされている。早ければ
  2020年の上半期に、中国国内のいずれかの地域を選んで
  そこでの利用実験が始まる可能性がある。
   フェイスブックが仮想通貨「リブラ」の発行計画を発表し
  たことによって危機感を抱いた中国の通貨当局が、開発を加
  速化したのだろう。リブラが実現すると、中国からの資本流
  出の手段に使われる危険がある。これを防ぐために、独自の
  仮想通貨を発行する必要があるのだ。
   デジタル人民元が発行されれば、その影響は甚大だ。まず
  中国国内では、すべての取引がこれによって行なわれること
  になる。中国では、すでに電子マネーによってキャッシュレ
  ス化が進展しているが、それが一段と進んで、完全なキャッ
  シュレス社会になる。ただ、仮想通貨と電子マネーは、本質
  的に違うものだ。違いの1つは、仮想通貨の場合には、その
  影響が中国国内にとどまらず、広く全世界に及ぶことだ。電
  子マネーは国境を越えて利用することが難しい。しかし、仮
  想通貨であれば、ビットコインに見られるように、国籍はそ
  もそも存在しない。原理的には、世界のどこでも使える。
                  https://bit.ly/2uSOQWS
  ───────────────────────────

デジタル人民元.jpg
デジタル人民元
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2020年01月22日

●「38年間のデータが示す日本の姿」(EJ第5171号)

 添付ファイルのグラフは、1980年〜2018年までの38
年間の次の4つのファクターの推移を示したものです。既出の大
西つねき氏の本に出ていたものです。グラフの作成者は、大西つ
ねき氏自身です。
─────────────────────────────
         1.マネーストックM2
         2.      GDP
         3. 国内銀行貸出残高
         4.     国債残高
─────────────────────────────
 既に説明しているように、「マネーストックM2」は、日本中
の現金・預貯金のうち、郵便貯金(ゆうちょ銀行)や農協に預け
た分を差し引いた金額のことをいいます。本当は、マネーストッ
クM3と比較すべきですが、38年間となると、データの継続性
の関係上、M2を使うことになります。
 添付ファイルを見てください。バブル崩壊によって、1991
年から1993年まで信用収縮が起きています。1のM2は一貫
して右肩上がりで上昇しています。これは、お金の量がどんどん
増えていることを示しています。しかし、信用収縮時期には一時
的に上昇はストップしています。
 信用収縮によって、民間銀行の貸出が、500兆円から400
兆円ラインまで、100兆円下がっています。3がそうです。つ
まり、銀行がお金を貸さなくなったというわけです。
 その理由は、4のGDPの横ばいにあります。経済が信用収縮
以降、成長せず、約25年間ずって横ばいだからです。経済成長
がないと、銀行は貸し出しを増やすことはできないのです。
 このように、銀行が貸し出しを増やせないとなると、誰かが借
金を増やす必要が出てきます。それを示しているのが2の国債残
高の増加です。つまり、政府が借金を増やし、お金を発行しつづ
けたのです。これが1のマネーストックM2を増加させているこ
とがグラフから読み取れます。これは、現在のお金の発行の仕組
みがそうさせているのです。
 このロジックが正しいとすると、これを解決するカギは経済が
成長すること、すなわち、GDPが伸びることです。GDPが成
長すると、銀行は貸し出しを増やし、それによってお金が増えて
も、それに見合う実体価値が生産され、消費されるので、借り手
は問題なくお金を返済できるので、銀行はさらに資金を貸し出せ
る好循環を生むことになります。かつての高度成長期はこの循環
うまく行われ、日本は米国に次ぐ世界第2位の経済大国になった
のです。
 しかし、バブル崩壊による信用収縮によって経済成長が止まり
それが長期化すると、事態は一変します。これについて、大西つ
ねき氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本の場合、バブルの発生と崩壊を契機に経済成長が止まりま
した。バブル崩壊後に最初に起きたことは信用収縮です。信用収
縮とは信用創造の逆、つまり、信用(クレジット)が破綻して借
金が減り、同時にお金が減ることを言います。
 例えば、不良債権を処理したり、貸し剥がしという形で債権を
回収したり、貸し渋ったりしてお金を貸さなくなれば、借金が減
り、お金も減ることになります。したがって、このバブルの発生
と崩壊をきっかけに、順調にお金と借金を増やし続けた時代は終
わりを告げました。(中略)
 まず、銀行がお金を貸さなくなりました。バブル時期のピーク
で、500兆円ぐらいだった民間銀行の貸出残高は、バブル崩壊
後に急速に減り、一時は約400兆円までほぼ100兆円も減り
ました。つまり、その分のお金が減ったということです。
 ただしこれは一時的にはあり得る話です。銀行が膨らませすぎ
たお金と借金を縮小する。日銀も例えば、金利を上げるなどして
それを促すことがあります。バフルの時は正に、総量規制という
形で、その総額を抑えようとして、それがバブル崩壊のきっかけ
になりました。しかし、絶対にあり得ないのは、それがずっと続
くことです。          ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 このように、添付ファイルのグラフが意味していることは重大
です。そして、大西つねき氏は次のようにいうのです。
─────────────────────────────
 お金の発行は、誰かの借金として行われる。すなわち、「お金
の発行=借金の発行」である。       ──大西つねき氏
─────────────────────────────
 「お金の発行=借金の発行」の意味を理解するには、信用収縮
の逆の「信用創造」を理解する必要があります。「信用創造」に
ついては、前回のテーマで既に説明していますが、明日のEJで
は、さらに具体的なかたちで日本の現況について説明します。
 ここまでの検討で、この仕組みがうまくいくには、経済が順調
に成長する必要があります。しかし、日本の場合、バブル崩壊に
よるデフレ経済で、経済成長が実に27年もの間、止まったまま
です。これをどうするのかについて、その元凶のひとつとされる
消費税の廃止が果して可能かどうかを今回のテーマで追及しよう
としています。消費税の廃止によって、経済成長が目下回復しつ
つあるマレーシアのケースもあるからです。
 しかし、大西つねき氏は、現在の「お金の発行=借金の発行」
であるとする仕組みそのものに問題があると指摘し、その具体的
な解決プランを提案しています。そのプランは、なかなか興味深
いものですが、それを理解するには、いくつかの前提知識が必要
になるので、このところ大西氏の所説をご紹介しているのです。
大西氏は金融のプロであるだけあって、精緻にしてユニークな財
政論を展開しています。検討する価値はあると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/012]

≪画像および関連情報≫
 ●「バブルの発生と崩壊の仕組み/信用創造と信用収縮」
  ───────────────────────────
   バブルとは、その名の通り『泡』です。その泡は、信用創
  造と信用収縮を繰り返しながら、10年から20年のサイク
  ルで世界中に起こっては消えていきます。そこで今回は、信
  用創造と信用収縮で起こるバブルの発生と崩壊の仕組みを考
  えていきます。
   金融リスク(危機)の原因は銀行にある?銀行がお金を稼
  ぐ仕組みでもお伝えした通り、銀行は私達から預金としてお
  金を集め、その預金の一部を日本銀行(中央銀行)に預けれ
  ば、残りの資金を貸し付けに充てることができます。銀行は
  ビジネスを成り立たせるために、リスクが低ければ融資を繰
  り返し続け、その融資したお金から新たに預金が生まれます
  ので、銀行の預金残高はどんどん増えていきます。
   これが、信用創造と呼ばれる現象で、社会全体の中でお金
  の量を増やし、経済を発展させていきます。例えば、家を買
  うのに銀行からお金を借りた場合、現資産は住宅ローンの頭
  金だけで、残りは信用を担保にお金が膨れ上がります。そし
  て、その住宅ローン債権が市場で売買され、「住宅ローン債
  権担保証券」という金融商品として現資産から膨れ上がった
  実体のないお金がどんどん生まれていくのです。住宅ローン
  による信用創造の典型的な例は、民間金融機関と住宅金融支
  援機講が提携して販売している、長期固定金利ローン『フラ
  ット35』なのです。      https://bit.ly/360q9os
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典/──大西つねき著の前掲書より

マネーストックとGDP、借金の推移.jpg
マネーストックとGDP、借金の推移
 
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2020年01月23日

●「お金は誰かの借金として作られる」(EJ第5172号)

 「日銀がお札を刷って世の中に流通するお金の量を増やす」と
よくいいます。この表現は多くの誤解があります。日銀はお札を
刷っていないし、世の中にばら撒いてもいません。それに、この
ようにとらえてしまうと、金融の仕組みを間違って理解してしま
う恐れがあります。
 大西つねき氏がいうように、世の中のお金は「誰かの借金とし
て発行」されます。もっと正確にいうと、世の中のお金の増減は
借金の増減であるといえます。中央銀行の役割は、それをコント
ロールすることです。その目的は「物価の安定」です。
 世の中のお金の量を増やすには、世の中の借金の量を増やせば
よいのです。それを実施するのは民間銀行です。そのため日銀は
民間銀行への貸出金利を上下させてコントロールします。金利を
下げれば、お金を借りようとする企業や人が増えますし、上げれ
ばその逆のことが起きます。
 しかし、日本の場合、デフレが深化・長期化して、金利がほぼ
ゼロになっており、その上下の調節が効かなくなっています。金
利をゼロ以下にはできないからです。そこで日銀は銀行が貸し出
しを増やしたくなる政策を実行するのです。それが「量的緩和」
という政策です。デフレになると、銀行は企業や個人にお金を貸
さなくなります。返済不能になって焦げ付きを出し、経営状況を
悪化させたくないからです。そして、国債を大量に購入して、国
債で金利を稼ごうとします。
 そこで日銀は、銀行が大量に保有する国債を強制的に買い上げ
その代金を、銀行が日銀に開設している当座預金口座に振り込み
ます。中央銀行は「銀行の銀行」であり、民間銀行に対して、そ
ういう強大な権限を持っているのです。
 日銀が、銀行の保有する国債を買い上げ、その代金をその銀行
の日銀当座預金口座に振り込むと、何が起きるでしょうか。当座
預金には、基本的には金利は付かないので、金利の付く国債を日
銀に強制的に買い取られ、その代金を金利の付かない当座預金に
入金されることを意味します。つまり、日銀としては、銀行は
金利の分だけ稼ぎが減るので、民間への貸し出しを増やすだろう
という期待しているのです。
 しかし、それでも大きな効果が見られないので、日銀は、20
16年2月16日から、各銀行の当座預金残高のごく一部に「マ
イナス0・1%」の金利を付けるマイナス金利政策をはじめたの
です。それまでは、当座預金にお金を寝かしておいても金利が付
かない状態だったものが、マイナス金利政策になると、マイナス
金利の該当部分は、0・1%損をすることになります。そうすれ
ば、当然銀行は民間への貸し出しを増やすに違いないとする金融
政策です。この政策は現在も続けられていますが、その効果は今
ひとつという状況です。
 この日銀のマイナス金利政策について、日本のエコノミストで
日本銀行政策委員会審議委員、元野村證券金融経済研究所経済調
査部長の木内登英氏は、自身のコラムにおいて、次のように論評
しています。
─────────────────────────────
 この異例の(マイナス)政策が、日本銀行の2%の物価目標達
成の助けとはならなかったのは、今や誰の目にも明らかであるが
それだけでなく、経済にプラスの効果をもたらした証拠も見いだ
せない。導入直後には住宅ローンを増加させた銀行も見られたが
これは貸出金利引き下げを通じた他行からの肩代わりによるとこ
ろが大きく、金利低下で新規借入れ需要が高まった訳ではない。
 むしろ、マイナス金利政策の導入は、金融機関の間で金利引下
げ競争を煽るきっかけとなり、その収益環境を著しく悪化させて
しまった。それは、金融機関の金融仲介機能を低下させ、適切な
資源配分を妨げるなどして、長い目で見て経済活動に深刻な悪影
響を与える可能性がある。この点から、マイナス金利政策が経済
活動に与えるマイナス面は明らかだ。 https://bit.ly/38qjghL ─────────────────────────────
 これほどまでに日銀が政策を展開しても、銀行の民間への貸出
は増加していません。銀行に大量の資金は眠ったままです。これ
は既に述べたように、GDPが成長しないからです。これは、日
銀の責任ではなく、政府の経済の舵取りに問題があることの証拠
です。かぎを握るのは、あくまで経済の成長なのです。
 以上でわかるように、日銀はお金を作って(印刷して)、世の
中にばら撒いているのではなく、金利を調節したり、民間銀行の
保有する国債を買い取ったり、その一部の金利をマイナスにした
りしています。通貨の発行権を握っているのは日銀ではなく、政
府です。日銀は政府の子会社であり、銀行の国債の買い取りも、
かたちのうえでは政府が日銀に指示してやらせているのです。実
際は、日銀の判断で実施しているのですが、あくまでかたちのう
えでのことです。
 ここで、「通貨はどのようにして増やせるのか」の話に戻りま
す。実際にお金を増やしているのは銀行です。銀行が企業や個人
に貸し付けを行うと、「信用創造」というシステムによって、世
の中に流通するお金の量が増加するのです。この「信用構造」に
ついては、前回テーマの12月3日のEJ第5141号で解説し
ていますので、参照してください。  https://bit.ly/2TGWNZG
 この「誰かが100万円を銀行に預ける」からはじまる話です
が、分かりやすそうで、意外によくわからないものです。それは
理屈としてはその通りなのですが、あまり現実的な話ではないか
らです。よく難しい話をするときに、何かに例えて話をする人が
多いですが、このやり方では、一応わかった気になるものの、本
当の意味で理解しているとはいえないからです。
 かえって少し面倒でも、ある特定年度の実際の予算案の数字を
使って、お金の動きをていねいに追った方が、理解しやすいもの
です。そこで明日のEJで、現実にすこぶる近い政府支出とお金
の動きについて詳しく説明をすることにします。
           ──[消費税は廃止できるか/013]

≪画像および関連情報≫
 ●国が持つ絶対的な権力「通貨発行権」vs「仮想通貨」
  ───────────────────────────
   国家は様々な権力を保有しています。例えば、国家運営の
  財源確保のために国民から税金を徴収する課税権、治安を守
  るために犯罪を取り締まる警察権など様々な権力が存在しま
  すが、その中でも近代国家において特に重要な権力が通貨発
  行権です。通貨発行権とは、名前の通り通貨を発行する権利
  の事で、円やドル、ユーロなどの貨幣を発行して市場に供給
  する事ができる権利の事を指します。
   現代の経済において、通貨発行権はとても重要で、信用が
  無い国が過度に通過を発行してしまえばその通貨の相対的な
  価値は下がりますし、欲しいという人が多いのに通貨の量を
  国が過度に制限していればその通貨の価値は上がります。こ
  の通貨の価値が経済に与える影響は大きく、日本でも円安に
  よって輸出業産業の競争力が高まって景気が良くなったり、
  円高によって輸入製品の値段が安くなったりと私たちの生活
  に国によって発行された通貨の量は密接に関連しています。
   このように、通貨の発行によってその価値をコントロール
  するのは、その国の専属的な権利でしたが一方で最近誕生し
  た仮想通貨は各国が通貨発行権によってコントロールできな
  いお金です。すなわち、皆がビットコインで取引をすれば通
  貨の供給をコントロールする事によって景気をコントロール
  する事ができなくなるのです。  https://bit.ly/37eLkV0
  ───────────────────────────

「マイナス金利とは何か」.jpg
 
>「マイナス金利とは何か」>
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2020年01月24日

●「誰かが借金しないとお金は増えぬ」(EJ第5173号)

 大西つねき氏のいう「お金の発行=借金の発行」という意味を
具体的に考えてみることにします。少しややこしい話になります
が、添付ファイルの図を見ながら、読んでください。この図は、
大西氏の本に出ていたものです。図は、平成29年度予算の執行
と、国債残高、マネーストックの関係をあらわしています。
 図の中央をご覧ください。平成29年度(2017年)の予算
案の数字です。政府の収入は、税収が58兆円、その他の収入は
5兆円、合計は63兆円です。これに対して政府支出が74兆円
ですから、基礎収支は11兆円のマイナスになります。この11
兆円に加えて、国債の利息が9兆円、国債の償還にも23兆円の
公債費がかかるので、合計34兆円の赤字になります。
 ない袖は振れないので、この34兆円は借金、すなわち国債で
賄うことになります。図の右側をご覧ください。国債の残高は、
平成28年度(2016年)末の時点で、845兆円になってい
ます。不足分の34兆円のうち、国債償還には14兆円必要です
が、これは借り換えて支払うので、プラスマイナスゼロで、残高
は変わりません。その結果、国債残高は20兆円増加し、865
兆円、当初の845兆円より20兆円増加します。
─────────────────────────────
     865兆円 − 845兆円 = 20兆円
─────────────────────────────
 この20兆円の政府の借金が、お金の発行ということになりま
す。「政府の借金=お金の発行」です。このことを、図の左側を
使って証明します。
 図の左側は、マネーストック、平成30年(2018年)1月
のM2の速報値です。M2というのは、ゆうちょ銀行や農協に預
けた分を除く預貯金と現金の総額です。それが990兆円です。
つまり、民間のお金です。この990兆円は、政府が予算を執行
することによって増減します。ひとつずつ見ていきます。
 税収の58兆円とその他収入の5兆円、計63兆円はM2から
減ることになります。その他収入は、国有地の売却益や賃貸収入
などであり、M2から支払われます。この時点で、M2は、次の
ように927兆円に減ります。
─────────────────────────────
  990兆円 − 58兆円 − 5兆円 = 927兆円
─────────────────────────────
 これに対して政府支出の74兆円は、政府が民間に支払う性格
のものです。政府事業の事業費や公務員の給料、それから社会保
障費も民間に還流します。それから9兆円の国債の利息は民間に
属するものであり、差し引きすると、次のように、1010兆円
になります。
─────────────────────────────
  (990兆円−58兆円−5兆円+74兆円)+9兆円
                    =1010兆円
─────────────────────────────
 ここで重要なことは、マネーストックは990兆円だったもの
が、1010兆円に20兆円増えていることです。これは、政府
の借金の純増分である20兆円と一致します。
─────────────────────────────
    1010兆円 − 990兆円 = 20兆円
─────────────────────────────
 実はこれは「信用創造」と同じです。これについて、大西つね
き氏は、次のようにり述べています。
─────────────────────────────
 政府が借金をして税収より多くお金を使うことにより、その赤
字分が民間の預金(マネーストック)を増やすということです。
つまり、政府が借金でお金を発行し、それを政府支出を通じて世
の中に回しているから、政府の借金とお金は同時に同額増える。
だから「政府の借金=お金の発行」になるのです。
 実はこれは、銀行が民間に対してやっている信用創造と本質的
に同じです。借り手が民間から政府に変わっただけです。銀行が
誰かにお金を貸しても皆さんの預金が減らないように、銀行が政
府の国債を買っても皆さんの預金は減りません。が、政府はその
分のお金を手にし、それを使って世の中に回せば、その分、民間
の預金が増えることになります。こうして、政府の借金とお金が
同時進行で増えてきた。だから皆さんが貸した覚えがなくても、
国民が政府に900兆円近くも貸したことになっているのです。
国民のお金を貸したのではなく、政府の借金が国民のお金になっ
ているからです。        ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 「借金」というのはとくに日本では負のイメージがあります。
借金をすることは仕方がないとしても、返済できなくなることを
何よりもの屈辱と感ずる国民性があります。日本銀行券(五千円
券)の肖像にもなった教育者・新渡戸稲造は、著書「武士道」に
おいて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「恩借の金子(きんす)御返済相怠り候節は衆人の前にてお笑
いなされ候とも不苦候(くるしからず)」   ──新渡戸稲造
─────────────────────────────
 そういう日本人が、税収の倍の予算を組んだり、「1000兆
円を超える国の借金」という話を聞くと、非常にショックを受け
る人が多いのです。「借金を減らすべきだ」ち考える人が多いの
です。財務省はそういう日本人の特性を利用して、税金を上げる
ことを容認するムードを作ろうとしています。
 しかし、世の中に流通するお金の量を増やすには、誰かが借金
をしないとお金が作れない仕組みになっているのです。もし、多
くの国民が借金の返済を急ぐようになると、お金の量が減って、
世の中の景気は一層景気が悪くなってしまうのです。
           ──[消費税は廃止できるか/014]

≪画像および関連情報≫
 ●麻生太郎氏による「日本の借金」の解説
  ───────────────────────────
   マスコミが世の中へ流し、多くの人が信じている間違った
  話が一つあると思います。それは日本という国が破産するっ
  て話。これは簿記っていうものの基本がわかってない人が、
  しゃべって、わかってない人が書いて、わかってない人が読
  んでいるから、いよいよ話がわからなくなっているんだと思
  います。今からわかりやすく例を説明するから、よーく聞い
  といてくださいね。
   帳簿っていうのを見れば、まず借り方と貸し方と、二つが
  あるでしょ、簡単なこと言えば。今お金を借りているのは、
  みなさんじゃありませんからね。お金を借りているのは、政
  府です。お金を100借りていれば、必ず、100貸してい
  る人がいないとおかしい。帳簿って言うのは左と右が必ず揃
  うことになってますから。
   100借りてる政府がいれば、100貸している誰かがい
  る。誰が貸しているんです?そうです、国民が貸しているん
  だね。ところが新聞を見てごらん、「子どもや孫に至るまで
  一人700万円の借金」・・・違うでしょう。700万円の
  貸付金が起きているんですよ、あれは。貸しているのはみな
  さん。「いや俺、国債なんか買ってないよ」と言われるかも
  しれませんが、みなさんはお金を銀行に預けておられる。銀
  行にとって預金は借金ですから、帳簿の上では借金ですから
  ね。だからその借金を誰かに貸して、その"さや"を稼がない
  と金貸しという商売は成り立ちません。
                  https://bit.ly/2sMAaIe
  ───────────────────────────

図の出典/大西つねき著の前掲書より

政府支出とマネーストック.jpg
 
政府支出とマネーストック
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2020年01月27日

●「バランスシート不況と関係がある」(EJ第5174号)

 景気を良くするには、世の中に大量のお金を流通させることが
必要です。それには、基本的には、銀行が資金の貸し出しを積極
化させるしかないのです。なぜなら、お金は誰かの借金として発
行されるからです。日銀は資金を貸すよう銀行に促すことはでき
ますが、銀行が動かないと世の中にお金は流通しないのです。
 現在、日銀の行っている量的緩和というのは、銀行の保有する
国債を強制的に買い取って、その代金を銀行が日銀に対して持つ
日銀当座預金に積み上げることをいいます。当座預金には基本的
には利息は付きません。
 この場合、銀行としては国債で持っていれば、わずかでも利息
が付きますが、当座預金に積み上げられてしまうと、日銀は現在
マイナス金利政策を実行しているので、利息は付かないし、金利
がマイナスになってしまうこともあります。そうすれば、銀行は
貸し出しを増やすだろうと考えたわけです。
 しかし、それでも銀行は、企業への貸し出しを増やそうとはし
ないし、銀行として資金を貸し出すことが可能な企業、つまり、
銀行として一番借りて欲しい企業は、バランスシートの修復に専
念し、銀行から資金を借りようとはしないのです。銀行が貸し出
しを増やさないのは、デフレによって、GDPの成長が停滞して
いるからです。
 実は、この状況が景気には最悪なのです。銀行が貸し出しを増
やさず、企業がバランスシートを良くするため、銀行から資金を
借りて積極的に投資せず、返済に専心すると、世の中のお金はど
んどん銀行に戻り、消えていきます。そうすると、世の中のお金
は減る一方になって、流通するお金の量は減っていきます。経済
のこの状況を、著名な経済アナリストで、人気エコノミストのリ
チャード・クー氏は「バランスシート不況」と呼んだのです。
 添付ファイルのグラフをご覧ください。これは日本経済を「家
計」「企業」「政府」「海外」の4つの主要部門に分け、それら
の部門のお金の動きを見たものです。
 このグラフで注目すべきは、太い実線の非金融法人企業(普通
の企業)です。これらの企業は、1990年には、年間GDP比
マイナス10%、今の金額で約50兆円にあたるお金を銀行から
借りて、さまざまな分野の事業に投資し、景気を支えてきていた
のです。それだけ資金需要があったわけです。
 しかし、消費税が5%に引き上げられた1998年以降、企業
の行動はゼロよりも上のプラスに位置しています。これは、企業
が資金を銀行に返済していることを意味します。すなわち、企業
は、資本市場や金融機関に対し、資金の純供給者になってしまっ
ているのです。
 数値で見ると、1990年から2001年までの間に、彼らは
GDP比のマイナス10%からプラス4%への資金の純借入者か
ら純返済者へ変換したのです。これは、10年前に比べてGDP
比で14%、約70兆円の需要が失われたことを意味します。こ
れだけの需要が失われれば、どのような経済でも不況に陥るのは
当たり前のことです。リチャード・クー氏は、このバランスシー
ト不況について、次のように述べています。まさに大西つねき氏
の指摘と同じです。
─────────────────────────────
 一国の経済というのは、家計部門が貯蓄した資金を企業部門が
借りて使うことで回っている。ところが企業部門がバランスシー
トの修復のため借り入れをやめ、借金返済に回ると、家計部門が
貯蓄した資金は借りて使う人がいなくなり、そのまま銀行に滞留
してしまう。しかも企業部門も全体で見て借金返済の方が借り入
れより大きいとなると、この純借金返済額も誰も借りる人がいな
いことになり、銀行に滞留してしまう。ということは、現状では
家計の貯蓄総額と企業の借金返済の合計が「使われぬカネ」とな
り、経済全体のデフレギャップとなってしまうのである。この状
況を放置しておくと、毎年毎年、家計の貯蓄と企業の借金返済分
だけ総需要が失われ、経済は縮んでいくことになる。
           ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳
   『 デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店刊
─────────────────────────────
 問題は、どうして企業は、そういう行動をとったのかというこ
とです。それは、1990年のバブルの崩壊と資産価値の暴落が
原因です。株価はピーク時の数分の1になり、絶対に下がらない
と信じられていた土地の価格が、6大都市の商業地で86%もダ
ウンしたのです。
 70年〜80年代というと、日本企業は莫大な資金を借り入れ
さまざまな事業に投資して、借金がまだたくさん残っているのに
その借金に見合うはずの資産の価値が突然暴落してしまい、バラ
ンスシートが傷んでしまったのです。まさに企業は債務超過の危
機に瀕したのです。しかし、多くの場合、それらの企業は本業は
健在で、キャッシュフローはそこそこあったのです。
 こういう企業がやるべき最優先事項は、できるかぎり早急に借
金を返済し、一日も早く、企業を健全な財政基盤上に戻すことに
あります。このような企業は、本業の経営において、極力コスト
削減に努め、その浮いた資金を借金返済に充てる──こういう行
動を繰り返すはずです。これを多くの企業が一斉に、同時並行し
て、やったことになります。その結果、何が起こったのでしょう
か。リチャード・クー氏は、次のようないっています。
─────────────────────────────
 個々の企業は正しく責任ある行動をとっているにもかかわらず
みなが同時に債務の最小化を目指すことで、景気が悪循環に陥り
どんどん悪くなっていくという事態は十分に起こりうる。このよ
うな状況を、経済学では「合成の誤謬」と言うが、これがまさに
今の日本で起こっていることなのである。
     ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/015]

≪画像および関連情報≫
 ●バランスシート不況からの 脱却と量的緩和の罠
  ───────────────────────────
   日本では過去24年間、欧米では過去6年間、経済学の教
  科書には書かれていない世界をわれわれは生きてきました。
  私はこの世界を、「バランスシート不況」と呼んでいます。
  教科書と現実はどう違ったのでしょうか。教科書的な世界で
  はマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨供給量)とマ
  ネーサプライ(民間が保有する通貨残高)、さらに民間向け
  信用(民間の借入金)の3つの金融指標は、通常は同じよう
  に動くはずです。仮に中央銀行が流動性を新たに10%供給
  すれば、最終的にマネーサプライと民間向け信用も10%ず
  つ増えるというのが、教科書的な常識です。事実、リーマン
  ショック以前は、3つの指標の関係はそうしたものでした。
   ところが、リーマンショック後にはその関係に変化が見受
  けられます。アメリカを例にとると2008年に量的緩和が
  始まり、QE1、QE2、QE3と続きました。リーマンシ
  ョック時点のマネタリーベースを100とすると今は450
  と、4・5倍まで流動性の供給が行われたわけです。
   ところがこの間、マネーサプライは、100から149に
  増えたにすぎません。さらに重要なのは、民間向け信用の数
  値ですが、これは107への増加にとどまっています。つま
  り、この6年間に民間向け信用は、わずか7%しか増えてい
  ないということになります。年率1%強は、ほとんど増えて
  いないのと同義です。      https://bit.ly/37sR1yL
  ───────────────────────────

「1990年代以降の企業行動の激変」.jpg
「1990年代以降の企業行動の激変」
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2020年01月28日

●「政府の借金を税金を返すことの愚」(EJ第5175号)

 バランスシート不況に話が及んだので、もう少しこの話を続け
ることにします。バランスシート不況というのは、多くの銀行が
守りの姿勢に入って、貸し出しをせず、ひたすらバランスシート
の修復に力を入れることです。これによって何が起きるでしょう
か。消費(支出)という観点から考えていきます。
 1000円の所得のある人がいます。通常このうち900円を
自分で使い、100円を貯蓄していたとします。そうすると、消
費した900円は誰かの所得になり、残りの100円は銀行をは
じめとする金融機関によって貸し出され、そのお金を借りた人に
よって消費されます。この貸し出しがスムーズに進むことは、借
金をする人が増えることを意味します。
 そうすると、900円プラス100円の支出が行われたことに
なるので、経済は順調に回っていきます。もし金融機関が100
円すべてを貸せない場合は、金利を下げると、通常、借り手は必
ずあらわれるものです。
 ところがバランスシート不況下では、1000円の所得のうち
900円は消費されても、銀行に貯蓄した100円は、借り手が
見つからず、ストックされてしまうのです。企業が借金の返済に
力を入れているからです。もちろん金利は下げて、ゼロ金利に達
しているのですが、それでも借り手はあらわれないのです。
 そうすると、経済全体としては、900円しか需要は発生しな
かったことになります。ある人の支出は別の人の所得ですから、
この場合、経済全体としては、規模が、当初の1000円から、
900円に縮小してしまうことになります。
 そうすると、家計は900円の所得のうち、10%の90円を
貯蓄して、810円を使うことになります。経済全体が縮小する
と、資産価値も当然下落します。そうすると、銀行はますます貸
せなくなり、バランシートの修復を必死にはじめることになりま
す。これが行き着くところまで行くと、どうなるかについて、リ
チャード・クー氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 1000円の所得が500円まで落ちてしまったとしよう。そ
こまで所得が落ちると、所得が1000円あるという前提で取り
決めていた家賃や生活費だけで人々は精一杯で、全く貯蓄ができ
なくなる。つまり、この人は生活のためだけに500円の所得を
全額使うことになるが、その結果、次の人の所得も同じく500
円となる。この500円を受けた次の人も全額使わないと生活を
維持できないとすればその次の人の所得も再び500円となる。
つまり、民間部門(家計と企業)が一銭も貯蓄できないほど貧乏
になったところで、経済は新しい均衡に達することになる。つま
り、貯蓄されてはいるが投資されないという「所得の漏れ」が全
くなくなると、経済は安定を取り戻す。そしてこの500円の世
界が、世に言われる「大恐慌」なのである。
           ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳
   『 デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店刊
─────────────────────────────
 どうしてこんなことが起きるのでしょうか。繰り返し述べてい
るように、銀行が貸し出しを増やせないのは、根本的には経済が
成長していないことが原因であると思います。
 2020年に入っていますが、この年に安倍首相はアベノミク
スの総決算として、「名目GDPを600兆円にする」といって
いたのですが、安倍首相は通常国会の演説ではまったく触れてい
ません。どうなっているのでしょうか。この首相は、うまくいっ
たときは大々的に宣伝しますが、自分にとって都合の悪いことは
同じ答弁を繰り返して逃げるのが得意です。これによって多くの
ことがうやむやにされています。許し難いことです。
 財務省の最大の間違いは金科玉条としている財政均衡論です。
そして、政府の借金を税金で返そうとしていることです。これに
ついて、大西つねき氏の所論をご紹介します。添付ファイルを見
てください。これは、1月26日のEJ第5173号の添付ファ
イル「政府支出とマネーストック」をベースとしています。
 中央に注目してください。政府の借金を返すために、税金を上
げて税収をほぼ倍増の100兆円集める一方で、政府支出を24
兆円削って、50兆円にしたとします。超緊縮予算です。そうす
ると、マネーストックに何が起きるでしょうか。
 マネーストック(M2)は、税金を徴収した時点で100兆円
減り、その他収入の5兆円も徴収するので、計105兆円減りま
す。そこから政府支出の50兆円が戻り、利息の9兆円も戻りま
すが、差し引きで、マネーストックは46兆円も減少します。
 しかし、財政は、基礎収支が、税収・その他55兆円、基礎支
出が55兆円で黒字化し、国債残高は次のように46兆円削減っ
て、799兆円になります。
─────────────────────────────
     845兆円 − 46兆円 = 799兆円
─────────────────────────────
 財務省は、自分の庭先をきれいにして気持ちがいいかしれませ
んが、マネーストックが45兆円も減ると、経済は大変なことに
なります。そもそも政府の借金を税金で返すなどということが無
謀なのです。これを可能にするには、消えてしまう46兆円以上
を銀行が民間への貸し出しを増やすことですが、これが不可能な
ことは、ここまで述べてきたことで明らかです。大西つねき氏は
この問題の解決策について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この問題を解決する方法はたった一つだけ。それは、の問題の
本当の原因である、誰かが借金しないとお金が発行されない、全
く間違ったお金の発行の仕組みを根本的に変えることなのです。
                ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/016]

≪画像および関連情報≫
 ●政府が“本当に”借金を返すとどうなるか
  ───────────────────────────
   政府が借金を返す方法は、税金を徴収して返すか借り換え
  るかのどちらかです。この他に、政府が政府紙幣や一兆円硬
  貨などを発行して返すことも可能ではありますが、政治的に
  実現は難しそうです。
   借り換えについては、返済を先延ばしにしているのと同じ
  ことであり、借金を“本当に”返していることにはなりませ
  んよね。結局、政府が“本当に”借金を返すには、税金を徴
  収して返すしかないわけです。
   今回の記事では、政府が税金を徴収して“本当に”借金を
  返すと何が起きるのかを、グリーンマネーのモデルで考えて
  みることにします。国債を持っているのは公衆(企業や家計
  など)、銀行、日銀のいずれかですから、この3つに分けて
  考えましょう。
   公衆が持っている国債を、政府が税金を徴収して償還(返
  済)すると何が起きるでしょうか。公衆が持っているグリー
  ンマネーが徴税によって政府に移動し、それが再び公衆の手
  元に戻り、国債は公衆から政府に移動して消えます。グリー
  ンマネーは生まれたり消えたりしていませんから、マネース
  ティックは増減しません。そして、公衆が保有する金融資産
  としての国債が減ります。あまりいいことは無いように見え
  ますね。            https://bit.ly/3aKmnTC
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典/──大西つねき著/白順社の前掲書より

もし政府の借金を税金で返そうとすると.jpg
もし政府の借金を税金で返そうとすると

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2020年01月29日

●「増税をめぐる官邸と財務省の攻防」(EJ第5176号)

 日本の財務省が金科玉条にしているのは財政均衡論です。これ
は要するに「政府の借金を税金で返す」という考え方であり、間
違っています。安倍内閣は、増税を懸念して2回実施を延期した
ものの、財務省に対する抵抗はそこまでで、結局、自分の任期中
に、日本経済がデフレから脱却していないにもかかわらず、2回
にわたって消費税の税率を5%倍増し、日本の貧乏化に貢献した
総理大臣として歴史に名を残すことになりそうです。
 その安倍首相の後を狙う岸田文雄政調会長の経済政策はどうな
るのでしょうか。岸田文雄氏は、2018年4月18日開催の派
閥のパーティーで、「K−WISH」なる政策骨子を発表してい
ます。「K−WISH」とは、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
          Kind   な政治
          Warm   な経済
          Inclusive な社会
          Sustainable 土台
          Humane  な外交
─────────────────────────────
 岸田文雄政調会長の「K−WISH」について、森永卓郎氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 岸田氏の政策の方向性は、一言でいうと、アベノミクスの否定
だ。政策の柱として打ち出したのが、財政再建とボトムアップ型
の政治だ。安倍政権が採ってきた積極的な金融緩和・財政出動を
基本とする経済政策を否定する。また、官邸に官僚の人事権を集
中する安倍流トップダウン政治を否定して、ボトムアップ型の政
治に戻すことを打ち出したのだ。(中略)
 岸田文雄氏の政策は、しばしば「リベラル」と言われるが、経
済面からみれば、増税路線かつ官僚支配、つまり財務省支配の完
全復活に直結する政策なのだ。これでは、到底国民の支持は得ら
れないだろう。それでも、政界が「消費税増税」の掛け声だらけ
になってしまうのは、財務省を敵に回すことが、とてつもなく恐
ろしいからなのだ。             ──森永卓郎著
   『なぜ日本だけが成長できないのか』/角川新書K241
─────────────────────────────
 私は長い間にわたって、自民党の政治家をテレビや本を通じて
ウオッチングしてきていますが、首相として財務省に対し、当初
からかなり強い姿勢で臨んでいたのは安倍首相だけです。
 安部首相は、2014年4月に消費税を5%から8%に引き上
げるさい、海外を含む大勢の学者や専門家を呼んで意見を聞き、
財務省の「影響は軽微である」とする意見を信じて、予定通り税
率を引き上げたのです。
 しかし、非常に強い反動減が起こり、好調に滑り出していたア
ベノミクスに強いブレーキをかける結果になったのです。そして
この反動減の回復には実に3年以上を要しています。情報による
と、安倍首相は「財務省に騙された」と激怒し、10%への増税
の計画は2回にわたって延期されることになります。
 2016年末になって、ある動きが起こります。これは、前回
のテーマのときにも少しふれていますが、再現します。きっかけ
は、『文藝春秋』2017年新年特別号に掲載された浜田宏一イ
エール大学名誉教授のインタビュー記事「『アベノミクス』私は
考え直した」です。
 浜田宏一教授は、内閣官房参与であり、アベノミクスの発案者
とされていますが、浜田教授は8%の増税に最後まで抵抗し続け
た人です。浜田教授は、プリンストン大学のクリストファー・シ
ムズ教授の論文を読んで、啓発されたというのです。浜田教授は
このインタビューの最後のしめくくりとして、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 ここまでうまく働いた金融政策(アベノミクスのこと)の手綱
を緩めることなく、減税も含めた財政政策で刺激を加えれば、ア
ベノミクスの将来は実に明るいのです。
             ──浜田宏一イエール大学名誉教授
─────────────────────────────
 そして、浜田教授は行動を起こします。安倍首相もそれに呼応
した動きをはじめます。これについて、森永卓郎氏は次のように
紹介しています。
─────────────────────────────
 浜田氏が、内閣官房参与という政府の一員でありながら、消費
税率8%への引き上げに最後まで抵抗し続けたことを考えれば、
浜田氏の言う「減税」が何を意味するかは明らかだ。そして実際
に、浜田氏は行動に出た。プリンストン大学のクリストファー・
シムズ教授を日本に呼んで、各地でシンポジウムを開いた。減税
の大合唱となったシンポジウムは、大盛況となった。そして、安
倍首相も動く気配をみせた。イギリスの金融サービス機構前長官
のアデア・ターナー氏を官邸に招き、会談を行った。ターナー氏
はヘリコプターマネーの提唱者として有名だが、日本のデフレか
らの脱却策として、減税を主張している。その人の意見に安倍首
相が耳を傾けたのだ。      ──森永卓郎著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで浜田教授のいう「減税」とは、「8%を5%に戻す」こ
とだったのです。なお、シムズ教授とアデア・ターナー氏につい
ては、前テーマのEJでも取り上げています。
─────────────────────────────
 ◎クリストファ・シムズ教授/https://bit.ly/2RZgqcS
  EJ第5137号「デフレ脱却のシムズ理論とは何か」
 ◎アデア・ターナー氏   /https://bit.ly/2RZgqcS
  EJ第5139号「民間銀行の信用創造こそ規制せよ」
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/017]

≪画像および関連情報≫
 ●浜田宏一内閣官房参与に「金融政策の誤り」を認めさせたが
  る困った人たち/田中秀臣氏
  ───────────────────────────
   イエール大学名誉教授で内閣官房参与の浜田宏一氏は、国
  際的にその業績を認められた偉大な研究者であり、また今日
  の日本経済の「導師」とでもいうべき地位にある人物だ。筆
  者もまた学生時代からいままでうけた学恩は計り知れない。
   ところで最近、浜田参与のインタビューを日本経済新聞が
  掲載した。この記事が予想外の反応を引き起こした。それは
  浜田参与が、従来の主張である金融緩和によるデフレ脱却を
  否定したという解釈である。これはあまりにもバカバカしい
  見方である。
   浜田参与のインタビューを素直に読めば、金融緩和でアベ
  ノミクス当初1、2年は成功していたが、その後、消費増税
  や国際情勢の不安定化で、金融緩和だけでは不十分であり、
  減税を中心とした財政政策が求められているとするものであ
  る。どこにも金融緩和の効果がないとか、いままでの日本銀
  行の政策が間違いだったなどとは微塵も言及はない。
   そもそもこのインタビューを最後まで読めば、浜田参与は
  日銀が「買うものがなければ」という条件つきで外債購入を
  すすめている。これは、金融緩和がデフレ脱却に効果が「な
  い」という人の発言ではない。効果が"ある"から外債購入も
  選択肢に入るのだ。ところが一部の論者やメディアの中では
  先ほど指摘したように、浜田参与があたかも量的緩和などの
  金融政策がデフレ脱却に失敗し、その考えを改めるという趣
  旨としてこのインタビューを解釈している。
                  https://bit.ly/311fZ6g
  ───────────────────────────

浜田宏一イエール大学名誉教授.jpg
浜田宏一イエール大学名誉教授
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