か、深刻に考えるようになっています。これは、何度もいうよう
に、財務省のプロパガンダの成果です。これが増税を容認する考
え方につながるのです。財務省は長年にわたって、政府の債務の
大きさを日本人のアタマに刷り込んできたからです。
しかし、太平洋戦争のさいに発行された戦時国債の額はいくら
かご存知ですか。GDPの約8倍、いまの金額に直すと4000
兆円にもなるのです。したがって、1000兆円を少し超える程
度の政府債務は大したことはないし、ケタが違います。
そういう日本人にヘリコプターマネーの話をすると、「とんで
もない」とか、「大インフレになる」とかいって、まともに考え
てもらえない。そこでひとりの人物を紹介します。アデア・ター
ナー元英金融サービス機構(FSA)長官です。彼は近著『債務
さもなくば悪魔、ヘリコプターマネーは世界を救うか?』(日経
BP社)のなかで次のように述べています。
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マネタリーファイナンスの技術的な論理は明快である。政府が
減税を実施するか、国民に直接現金を配るか、財政支出を増やす
一方、中央銀行がこの財源を新規通貨の発行で賄えば、マイナス
金利や国債発行による財政出動など、他の政策が効かない時でも
常に需要は刺激される。物価と成長率に対する影響は、刺激の規
模に依存する。この政策が必然的に過度なインフレを引き起こす
との主張は、単純に誤っている。また、将来の「インフレ税」や
銀行収益に対する暗黙の税が見込まれるので効果がないとの主張
は混乱した論理に基づいている。このため、ヘリコプターマネー
について唯一の反論、とはいえきわめて重要な反論は、政治的な
ものになる。どれだけ規模が小さくとも、いったんタブーを破っ
てマネタリーファイナンスを実施してしまうと、政治家が際限な
くマネタリーファイナンスを求め、インフレが冗進するのではな
いか、というものだ。だが、このリスクは、物価目標を掲げる独
立した中央銀行に、マネタリーファイナンスの規模の上限の決定
権を付与することで抑制することができる。
──アデア・ターナー著/高橋裕子訳
『債務、さもなくば悪魔ヘリコプターマネーは
世界を救うか?』
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アデア・ターナー氏は、危機をもたらすのは、民間金融機関の
信用創造であり、これをきちんと規制すべきであると主張してい
るのです。彼は2008年9月のリーマンショックの最大の原因
は民間金融機関が金融工学を使ってとんでもない信用創造を行っ
たからであると指摘しています。この考え方に立って、規制すべ
きは民間金融機関であって、政府や中央銀行には、もっと自由度
を与えるべきではないかと主張しているのです。
これだけでは、少しわかりにくいと思うので、2017年1月
の日経記者によるアデア・ターナー氏との一問一答を参考までに
ご紹介します。きわめて貴重なやり取りであると思います。
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──近著『債務、さもなくば悪魔』でも、ヘリマネを提唱してい
ますね。
ターナー氏:世界経済はかつてない債務の積み上がりに直面し、
債務削減圧力と低すぎるインフレ率のために、伝統的な政策手
段は行き詰まっている。
――日本の場合は
ターナー氏:2020年にプライマリーバランス(基礎的財政収
支)を黒字にするのは、事実上不可能だ。黒字にしようと無理
をして再びデフレ不況に陥れば、公的債務のGDP比は低下す
るどころか上昇する。
――どうすればよいとお考えですか
ターナー氏:日銀が保有する国債の一部を、無利子の永久債に置
き換えたらいい。ヘリマネと呼ばれる策だが、政府の利払いと
元本償還が減り、そのぶん財政は自由度を回復する。
――財政規律が失われる心配がありませんか
ターナー氏:野放図なヘリマネが悪性のインフレを招いた歴史が
あるのは確かだ。中央銀行による歯止めが必要なのはもちろん
だ。どのくらいの金額の保有国債を無利子永久債に置き換える
かは、日銀の金融政策決定会合が独立性を持って決める必要が
ある。
――何か基準がないと心もとないのでは
ターナー氏:その際に歯止めとなるのはインフレ目標だ。経済が
デフレを脱却し、2%の物価目標が実現されたなら、ヘリマネ
政策は打ち止めにすべきだ。
――将来、金利が上昇した際に日銀の財務内容が悪化しないか
ターナー氏:無利子永久債は日銀の資産。それに対応する負債は
民間銀行から預かっている準備預金だ。無利子永久債に相当す
る金額の準備預金を無利子とすれば、日銀の財務内容は悪化せ
ずにすむ。
――ヘリマネ政策を導入するタイミングは
ターナー氏:低インフレと低成長が長引けば、公的債務のGDP
比は上昇するばかりだ。2%の物価目標を達成し、公的債務比
率の分母となるGDPを拡大させるためにも、ヘリマネの採用
時期は早ければ早い方がよい。https://s.nikkei.com/34v2gpf
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お金を作り出すというと、中央銀行だけができることと考えま
すが、民間銀行も「信用創造」というメカニズムで、お金を創り
出しています。アデア・ターナー氏は、その民間の信用創造に、
もっと規制を厳しくすべしといっています。しかし、民間の銀行
もお金を創り出しているといってもピンとこないと思います。そ
れには「信用創造」というものをきちんと理解する必要がありま
す。これについては、来週のEJにおいて、詳しく説明します。
──[消費税増税を考える/037]
≪画像および関連情報≫
●マネタリーファイナンスはなぜ日本に必要か/ターナー氏
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[東京:10日]根強いデフレ圧力と公的債務問題に対して
日本が取り得る最も有効な打開策は、中央銀行が財政赤字を
穴埋めする「マネタリーファイナンス」を国民に向けて明示
的に実行することだと、元英金融サービス機構(FSA)長
官のアデア・ターナー氏は述べる。
具体的には、政府が2019年10月の消費増税を延期し
た上で2020年代半ばまで大幅な財政赤字を出し続ける一
方、日銀は政府による国債発行とほぼ同じペースで国債購入
を続け、かつその一部を無利子の永久債としてバランスシー
トの資産に計上し、実質的に「消却」すべきだと説く。同氏
の見解は以下の通り。
日本政府と日銀に対する提案は3つある。第1に、政府は
2019年10月に予定している(8%から10%への)消
費税率引き上げを再延期し、高水準の財政赤字を計上し続け
るべきだ。民間貯蓄超過を穴埋めするためには、相当規模の
公的赤字が2020年代半ばまで必要なことを甘受すべきで
ある。第2に、日銀は、政府による国債発行とほぼ同じペー
スで国債を購入し続けるべきだ。そうすることで、日銀以外
の主体が保有する国債が増えないようにする必要がある。
第3に、日銀は、保有国債の一部を無利子永久国債としてバ
ランスシートの資産に計上し、実質的に「消却」すべきだ。
https://bit.ly/2ONCS7e
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アデア・ターナー氏