2019年11月27日

●「デフレ脱却のシムズ理論とは何か」(EJ第5137号)

 経済の状況には、インフレ的な状況とデフレ的な状況がありま
す。ともに「的な状況」でなくなり、本当に「インフレ」や「デ
フレ」になると、大変なことになります。それら2つの関係をま
とめると、次のようになります。
─────────────────────────────
    「インフレ的」な状況 → 経済は活性化する
          インフレの対処策には経験がある
     「デフレ的」な状況 → 経済は失速・低迷
          デフレの対処策には経験が乏しい
─────────────────────────────
 経済を活性化させようとするには、何らかの方法でインフレ的
な状況をつくり出す必要があります。ましてデフレに陥った場合
は、政府と中央銀行が協力してコトに当る必要があります。つま
り、政府の財政政策と中央銀行の金融政策を合体して、実施する
必要があるわけです。
 2016年8月のことです。ワイオミング州ジャクソンホール
で毎夏開かれる経済シンポジムは、「世界の中央銀行のお祭り」
といわれますが、その会議で、プリンストン大学教授のクリスト
ファー・シズム氏による基調報告があったのです。シムズ教授は
計量経済学の権威で、2011年に「マクロ経済における因果関
係の統計的な研究」の功績によって、ノーベル経済学賞を受賞し
ています。
 このときのシムズ氏の基調報告について、アベノミクスの設計
者といわれる浜田宏一元イエール大学教授は、インタビューを受
けて次のように答えています。
─────────────────────────────
 私はシムズ氏の論文を読み、衝撃を受けました。「金融政策は
なぜ効かないのか」という問いに、明快な答えを与えていたから
です。シムズ氏は「金融政策が効かない原因は『財政』にある」
というのです。
 中央銀行が量的緩和で貨幣量をふやしても、同時に政府が財政
赤字を減らそうとして増税を行えば、インフレにはならず、デフ
レになってしまう。シムズ氏の分析は(貨幣の価値を究極的に保
証しているのは国家の徴税権力である)とする物価水準の財政理
論(FTPL)の応用でした。そして、現在の日本の状況も例に
挙げて、なぜ金融政策だけではうまくいかないかをずばりと言い
当てていました。
 シムズ氏は、金融緩和が有効であることを認めたうえで「より
強い効果を出すためには、減税など財政拡大と組み合わせよ」と
提唱しています。従来の経済学では、財政規律が緩むと、過度な
インフレを招くうえに財政赤字はかさみ、経済にダメージを与え
ることが強調されていました。しかし、シムズ氏は意図的に「赤
字があっても財政を拡大するべき(時もある)」と主張します。
これは斬新なアイデアでした。        ──森永卓郎著
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
                     角川新書K126
─────────────────────────────
 「FTPL」とは、何でしょうか。
 FTPLとは、物価動向を決める要因として、財政政策を重要
視する考え方です。政府が将来増税しないと約束し、財政支出を
増やしていけば、人々が財政赤字拡大から、将来、インフレが起
こると予測し、消費や投資を拡大します。それが物価上昇の圧力
となり、インフレが発生して、デフレや低インフレ状態から脱し
得ると説く。FTPLは、次の言葉の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
       FTPL=物価水準の財政理論
       Fiscsl Theory of Price Level
─────────────────────────────
 このシムズ教授に「週刊ダイヤモンド」の記者が、19年の増
税前にインタビューをしています。
─────────────────────────────
──日本で19年に消費増税の実施を予定していますが、消費増
税については延期、凍結、実施のどれが望ましいのでしょうか。
シムズ教授:日本で19年10月の消費増税の実施はすでに決定
 ずみとなっています。ただ、当局が過ちを犯したと思う点は、
 彼らが、19年10月という具体的な時期を明文化したことで
 す。なぜなら、財政拡大策と消費増税による財政緊縮策を同時
 に行うことは矛盾しているからです。人々は、「将来に増税が
 待っている」と思えば、政府が財政支出を拡大しても、消費を
 拡大しないでしょう。もし、目標のインフレ水準が達成される
 まで「消費増税をしない」と言えば、人々に前向きな影響をも
 たらせたでしょう。その方針を続ける限り、人々はインフレを
 受け入れやすくなります。そうすれば彼らはお金を使うように
 なり、マネーの流れも活性化するに違いありません。
──「FTPL」を政策として実行した場合、成功すると思われ
 ますか。
シムズ教授:それが成功するかどうかは、政策当局者が将来の民
 間の意識を変えられるかどうかに懸かっています。ただ、非常
 に難しいことであることは確かです。
──仮にインフレが発生した場合、物価上昇率が、3%、4%な
どと、行き過ぎてしまう危険はないのでしょうか。
シムズ教授:インフレ対策については、中央銀行も財政当局も経
 験があり、何をすべきか、知っているはずです。例えば、政策
 金利の引き上げや財政改革(歳出抑制など)です。超低金利低
 インフレからいつまでも脱することができないというのも決し
 ていいことではありません。予期しない物価上昇などで急な調
 整を迫られたときに、打つ手がなくなるからです。
                  https://bit.ly/2XIzCOu ─────────────────────────────
            ──[消費税増税を考える/035]

≪画像および関連情報≫
 ●コラム:シムズ理論、10の疑問=河野龍太郎氏
  ───────────────────────────
  [東京/2017年2月21日]──日本の財政について、
  筆者が懸念しているのは、ノーベル経済学賞を受賞した米プ
  リンストン大学のクリストファー・シムズ教授らが主張する
  「物価水準の財政理論(FTPL)」を根拠として、安倍晋
  三首相が財政健全化の方針を転換し、2%インフレが達成さ
  れるまで、消費増税と基礎的財政収支(プライマリーバラン
  ス、PB)黒字達成目標を凍結することである。
   以下、筆者がよく尋ねられる疑問に答える形で、「シムズ
  理論」を現実に応用する問題点を指摘したい。
  Q1)シムズ理論とは何か。
  理論のエッセンスは、1)ゼロ金利制約で金融政策が有効性
  を失う場合、追加財政が代役となり得る、2)その場合の追
  加財政は、将来の増税や歳出削減で賄うことを前提にした通
  常の財政赤字ではなく、インフレでファイナンスされた財政
  赤字、というものだ。これまで追加財政を繰り返しても、必
  ずしもインフレ醸成につながらなかったのは、追加財政を行
  う際、政府が、同時に財政健全化を約束していたからだとい
  う。追加財政を行っても、将来の増税や歳出削減を政府がア
  ナウンスすると、人々もそれを前提に行動するから支出は必
  ずしも増えず(リカーディアン効果)、それゆえ、需給ギャ
  ップの改善も十分ではなく、インフレ醸成にも十分つながら
  なかった。そこで、リカーディアン効果を回避すべく、増税
  や歳出削減を一切予定せず、インフレによる返済を前提とし
  た追加財政を行うべき、というのがシムズ教授らの主張だ。
                  https://bit.ly/35xkqGR
  ───────────────────────────


クリストファ・シムズ教授.jpg
クリストファ・シムズ教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする