ります。「シニョール」(seignior)というのは、古いフランス語
で中世の封建領主のことで、シニョリッジとは領主の持つ様々な
特権を意味していたのです。
あなたがある国の王様だったとします。当然通貨発行権を持っ
ています。王室の生活を支えるためには費用がかかります。その
費用をあなたは、王立銀行券を作ってそれらの支払いに充てたと
します。支払われた王立銀行券は、その後、民の間に流通してい
きますが、あなたが作成した銀行券で購入したモノやサービスは
一切返済の必要がありません。これが「通貨発行益」です。
このシニョリッジを理解するために、知っておくとよい話があ
ります。ジョン・ローの話です。しばらくお付き合いください。
「簿記の歴史物語」のサイトから、EJ風にアレンジしてご紹介
することにします。 https://bit.ly/2O5iEqm
18世紀のフランスの時代の出来事です。ルイ14世統治下の
フランスです。ジョン・ローはもともとプロのギャンブラーでし
たが、最新の経済・金融知識を身に付けていたのです。
当時、ルイ14世の放漫経営で、フランスは深刻な財政破綻状
態に陥っていたのです。1715年9月、ルイ14世が崩御する
と、オルレアン公フィリップが摂政となり、支配者になります。
ジョン・ローは、このオルレアン公に取り入ったのです。
当時のフランスは、金銀の貴金属を貨幣として使っており、紙
幣は使っていませんでした。そうした貨幣は、一部の金持ちに集
まり、金持ちだけが儲かる社会だったといえます。
ジョン・ローは、貴金属ではなく、紙幣を発行すれば流通する
はずだとして、民間銀行「バンク・ジェネラル」を設立します。
そして紙幣を発行するのですが、それを使う人がいなければ流通
しません。そこで、ジョン・ローは、オルレアン公の権力を背景
に、外国為替銀行を説き伏せてネットワークを作り、海外貿易の
決済にバンク・ジェネラルの銀行券を使えるようにしたのです。
さらにオルレアン公は、税金はすべて銀行券で支払われなくて
はならないと命じました。効果はてきめんでした。銀行券は広く
流通し、貿易を刺激するようになったのです。これによって、王
室もなんとか賄えるようになっていったのです。
1718年にバンク・ジェネラルは国有化され、王室銀行(バ
ンク・ロワイヤル)と名を改めました。代表者であるローは、よ
り強い権限を持つに至ります。
次にジョン・ローのやったことは、銀行券の発行を貴金属の準
備と切り離したことです。つまり、ジョン・ローは、1971年
にリチャード・ニクソン米大統領がやったことを先取りしたので
す。すなわち、貴金属との交換できる保証のない「不換紙幣」を
誕生させたことです。
たとえ貴金属と交換できなくても、「国王とその臣下が適切な
判断のもとに紙幣を発行しているはずだ」と人々に信じさせるこ
とができれば、貨幣制度は崩壊しないというのが、ジョン・ロー
の考え方です。ここまではある程度成功を収めており、ジョン・
ローの評価は高まっていました。そこで、ジョン・ローは、フラ
ンス政府の抱えている公的債務を解消し、フランスに巣食ってい
る金持ちどもを一掃する壮大な計画に着手します。
ジョン・ローはオルレアン公の許可を得て、1717年に「西
方会社」を設立します。さらに、当時フランスの植民地だった米
国ルイジアナの開発権を入手するのです。当時ルイジアナは、ミ
シシッピ川の流れる未開の原野でしたが、ジョン・ローは、そこ
を地上に現れたエデンの楽園であるかのように過大に喧伝したの
です。この地は、フランスに莫大な富をもたらす約束の地であり
西方会社は必ずや大きな利益を上げるはずであると。
この宣伝は効いたのです。そして、西方会社の株式をフランス
政府の公的債権と交換するように呼び掛けます。株式は、王室銀
行の銀行券で買えるようにしてあったのです。フランス国民は、
我がちに保有する国債を政府に売って、王室銀行券を手に入れ、
その銀行券で西方会社の株式を購入したのです。この頃から、西
方会社は「ミシシッピ会社」の愛称で呼ばれるようになっていき
ます。以下、その愛称を使います。
この場合、政府が国債の買い取りに必要な王室銀行券は、王室
銀行が政府に貸し付けたのです。その結果、何が起こったかとい
うと、フランス経済は通貨の供給量の拡大にともなって活性化し
財政再建は急速に進んだのです。そしてジョン・ローは、国債を
王室銀行券にすり替えることによって、政府債務をゼロにするこ
とに成功したのです。1720年1月、ジョン・ローは、フラン
スの財務総監に任命され、彼の威光は頂点に達します。数週間後
には、ミシシッピ会社と王室銀行が統合されています。
しかし、肝心のルイジアナの開発がうまくいかなかったことや
通貨を増やし過ぎたことによってバブルが発生します。そして、
バブルが崩壊したのです。株式市場の外では、深刻なインフレが
進行し、王室銀行券は信用を失っていきます。しかし、ミシシッ
ピ会社のバブル崩壊と、銀行券の信用失墜はもはや止められませ
んでした。そしてジョン・ローの作り上げた経済体制は完全に崩
壊します。ジョン・ローの話は失敗話として伝えられていますが
ヘリコプターマネーのヒントはここからとられています。森永卓
郎氏はこれについて、次のように述べています。
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ジョン・ローはフランスを追われるようになり、彼は「稀代の
詐欺師」とか「錬金術師」と呼ばれるようになったが、ジョン・
ローの失敗はありもしない事業をでっちあげてバブルを起こした
ことにあって、ヘリコプターマネーが経済活性化と財政健全化に
大きく寄与したという事実は、このとき確認されている。
──森永卓郎著/角川新書K126
『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
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──[消費税増税を考える/032]
≪画像および関連情報≫
●ヘリコプターマネーは、どうして危ないのか
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これまで「机上の空論」扱いされてきた政府・日本銀行に
よる「ヘリコプターマネー政策」(以下、ヘリマネ)が全国
紙の一面を飾り、ありうる政策の選択肢として堂々と議論さ
れている。本当に投入されるとしたら、2013年4月開始
の異次元金融緩和、2016年1月に導入が発表されたマイ
ナス金利政策を上回る衝撃度である。
ヘリマネ政策の主唱者の一人であるベン・バーナンキ前F
RB(米連邦準備制度理事会)議長が12日に来日し、安倍
晋三首相と会談したために、先週はヘリマネが市場の話題を
さらった。7月28、29日に開かれる日本銀行の金融政策
決定会合を控え、「日本でもヘリマネ政策が導入されるので
はないか」とマーケットの憶測を呼んでいる。
菅義偉官房長官が記者会見で「検討している事実はない」
といくら否定しても、市場は浮き足立ったまま。黒田東彦日
銀総裁が直前まで「考えていない」と言っておきながらマイ
ナス金利政策を導入した過去を考えると、「あるかも」と市
場関係者が考えるのは無理もないのかもしれない。
ヘリマネ観測だけが原因ではないだろうが、為替市場は、
7月15日に1ドル=105円台まで円安方向に大きく振れ
た。英国がEU離脱を決定した後、一時、1万5000円台
を割っていた日経平均株価は7月11日の週、5営業日の続
伸となった。 https://bit.ly/32Zz5ZK
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ジョン・ロー肖像画