コロンビア大学教授のジョセフ・E・スティグリッツ氏は、経済
財政諮問会議に出席しています。そのときの写真を添付ファイル
にしてあります。
これに関する資料は内閣府のウェブサイトに出ていますが、日
本のメディアは、なぜか、これを無視し、ほとんど報道していま
せん。高橋洋一嘉悦大学教授によると、このときのスティグリッ
ツ教授の発言の意味を理解できていなかったのが原因ではないか
というのです。
スティグリッツ教授のこのときの発言について、内閣府は次の
ように伝えています。
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スティグリッツ教授は、諮問会議での発言のなかで、政府・日
銀が保有する国債を「無効化」することを提言した。政府・日銀
が保有する国債を「無効化」することで、政府の債務は「瞬時に
減少」し、「不安はいくらか和らぐ」と主張。また、債務を永久
債や長期債に組み換えることで、「政府が直面する金利上昇リス
クを移転」できるとしている。 https://bit.ly/346nVn6
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問題は、スティグリッツ教授がいう「無効化」をどのように捉
えるかです。高橋洋一教授によると、スティグリッツ教授の英文
原稿資料には「canceling」 になっています。これは、会計用語
で「相殺」を意味しています。それでは、何と何を「相殺」する
のでしょうか。
その当時、日本銀行(中央銀行、以下日銀)は、約400兆円
の国債を保有していたのです。なぜ、そんなに巨額になったのか
というと、日銀はアベノミクスの一環で、史上最大規模の金融緩
和を行っているからです。具体的には、銀行の保有する国債を買
い上げ、通貨供給量を増やす量的金融緩和を行っているのです。
ちなみに、2018年3月末の時点では、日銀の保有する国債は
459兆5862億円になっています。日本のGDPに匹敵する
巨額の国債保有です。
スティグリッツ教授がいうのと、約1000兆円の政府債務か
ら、当時日銀が保有する約400兆円の国債を相殺してしまえば
政府が抱え国債残高は、瞬時に、600兆円に減るじゃないかと
いっているのです。
なぜ、そのようなことができるのでしょうか。
これについては、日銀、すなわち、中央銀行について知る必要
があります。日銀には、次の3つの役割があります。
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1.紙幣の発行
→ 2.政府の銀行
3.銀行の銀行
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ここで中央銀行論を述べるつもりはありませんが、ここで関連
があるのは、2の「政府の銀行」という機能です。日銀は、政府
の委託を受け、国のお金を管理しています。また、国債の発行や
外国為替の決済処理も行っています。
そして、ここが一番重要なことですが、日銀は株式会社であり
その株式の55%は政府が持っています。つまり、日銀は、政府
の連結子会社ということになります。
以下は、高橋洋一教授の言説です。経済学者は、財政・金融問
題を考えるとき、政府と中央銀行を一体として考えますが、それ
を「統合政府」といいます。この統合政府のバランスシートにつ
いて考えてみます。
右側の「負債」を見ると、国債残高です。ところが左側の「資
産」を見ると、そこに中央銀行の保有する国債があります。これ
は「相殺」できます。右側のグロスの国債残高1000兆円から
左側の日銀保有国債残高を差し引くと、国債残高は、600兆円
と瞬時に減少します。つまり、統合政府という観点から見ると、
1000兆円の借金は600兆円に減少するのです。この程度の
政府の借金であればどうということはありません。
スティグリッツ教授にいわせると、何を悩んでいるのかという
わけです。具体的にというと、スティグリッツ教授は、「政府債
務が巨額だからといって、それを前提に消費税を増税などするな
よ」と暗にアドバイスしてくれたのです。
それを財政諮問会議でいうと、財務省の役人は苦虫を噛み潰し
たような顔になり、政府委員の経済学者は「とんでもない」とい
う顔になり、首相をはじめとする政治家はポカンとしてしまった
というわけです。
それでは、国債の利払いはどうなるのでしょうか。
日本政府は律義に日銀に利息を支払っていますが、それは最終
的には、日銀から政府への納付金として戻されてくるのです。し
たがって、利払いをする必要はないのです。つまり、日銀が政府
が保有する国債を買い取った瞬間、すなわち買いオペをした瞬間
に国債の償還は終ったという考え方です。
ここで大事なことがあります。政府の子会社は日銀だけではな
いということです。それは、天下り役人を抱える特殊法人も子会
社です。現時点でそれらは約600兆円ほどあります。したがっ
て、これらを連結してバランスシートにして「相殺」してしまう
と、国債の債務残高(借金)は、ゼロになってしまいます。財務
省が「余計なことをいいやがって」と、苦虫を噛み潰した表情に
なるのは当然です。
そういうわけで、財務省は消費増税の目的を「財政再建」では
なく、「社会保障の財源」としてアッピールする戦術に変更して
います。昨日のEJの「画像および関連情報」に読売新聞の社説
をご紹介しましたが、内容は財務省の思惑をそのまま代弁してい
ます。社会の公器としてのメディアというよりも、財務省の提灯
持ちのメディアになってしまっています。
──[消費税増税を考える/029]
≪画像および関連情報≫
●滑稽すぎる 「日本の財政は破綻する」論/高橋洋一氏
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このようにバランスシートで見ると、日銀の量的緩和の意
味がはっきりする。政府と日銀の連結バランスシートを見る
と、資産側は変化なし、負債側は国債減、日銀券(当座預金
を含む)増となる。つまり、量的緩和は、政府と日銀を統合
政府で見たとき、負債構成の変化であり、有利子の国債から
無利子の日銀券への転換ということだ。
このため、毎年転換分の利子相当の差益が発生する(これ
をシニョレッジ〔通貨発行益〕という。毎年の差益を現在価
値で合算すると量的緩和額になる)。
また、政府からの日銀への利払いはただちに納付金となる
ので、政府にとって日銀保有分の国債は債務でないのも同然
になる。これで、連結ベースの国債額は減少するわけだ。
量的緩和が、政府と日銀の連結バランスシートにおける負
債構成の変化で、シニョレッジを稼げるメリットがある。と
同時にデメリットもある。それはシニョレッジを大きくすれ
ばするほど、インフレになるということだ。だから、デフレ
の時にはシニョレッジを増やせるが、インフレの時には限界
がある。その限界を決めるのがインフレ目標である。インフ
レ目標の範囲内であればデメリットはないが、超えるとデメ
リットになる。幸いなことに、今のところ、デメリットはな
く、実質的な国債が減少している状態だ。
https://bit.ly/37aVJ4B
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経済財政諮問会議でのスティグリッツ教授