2019年07月01日

●「中国に最も貢献した人物とは誰か」(EJ第5037号)

 この原稿は29日の朝書いています。29日は、G20大阪サ
ミットの最終日であり、午前11時頃から、注目の米中首脳会談
が行われます。これに関するコメントは、明日のEJですること
にします。
 6月29日付、朝日新聞の「天声人語」は、中国をテーマにし
て、次のように書き出しています。
─────────────────────────────
 中国は、ひそかに、世界一の座をかけたマラソンに挑み、建国
100年の節目になる2049年までに米国を追い抜こうとして
いる。数年前から折々に聞く「100年マラソン」論である。提
唱したのは米政府の中国専門家マイケル・ピルズビリー氏。4年
前に著した『チャイナ2049』で、野心を巧みに隠しつつ、米
国の弱点を射抜こうとする中国を描いた。米国は油断し、迫る影
にも気づいていないと指摘した。
    ──2019年6月29日付、「天声人語」/朝日新聞
─────────────────────────────
 まさにその通りのことが、いま起きています。米国が、「中国
の迫る影に気が付いた」からこそ、現在米中の衝突が起きている
のです。「100年マラソン」でいえば、今年はちょうど「30
キロの壁」。急な疲れに襲われて米中が衝突し、世界中に緊張が
走っている状態といえます。
 現在の中国を理解するうえで、絶対に抜きにしては語れない人
物がいます。それは次の2人です。
─────────────────────────────
        毛沢東(1893〜1976)
        ケ小平(1904〜1997)
─────────────────────────────
 といっても、ここで中国論をやるつもりはないです。EJが追
及するのは、あくまで現在の中国がこの先どうなるかです。しか
し、それを探るにあたって、この2人について、基本的なことを
知る必要があるのです。
 中国の近代化は、日本と異なり、次の3つの経過をたどってい
るという社会学者の橋爪大三郎氏の指摘です。
─────────────────────────────
     1.スタートまでに多くの時間を要している
     2.すべてを中国共産党が主導していること
     3.欧米の近代化とは異なる独自の道である
─────────────────────────────
 橋爪大三郎氏によると、中国の近代化のスタートが非常に遅れ
た原因は「儒教」にあるというのです。儒教とは、約2500年
前に、中国に生まれた思想家である孔子の思想を基礎にした考え
方です。橋爪大三郎氏は、儒教と中国の関係について、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 中国を解くカギは儒教にある。儒教は、中国の社会構造を規定
し、中国を生きる人びとの意識を規定している。何千年もの時間
をかけて、中国文明の深いところまで儒教は根を下ろした。ゆえ
に、西欧文明のほうがよさそうだと思っても、日本人のようにす
ぐ飛びつくことはできなかった。
 儒教を解体して、中国を近代化のレールに乗せる。その大転換
を果たしたのが、毛沢東である。毛沢東は、中国革命を象徴する
人物だ。中国共産党を率い、旧体制を攻撃し、抗日戦争を戦い、
国民党を打ち倒し、共産党の幹部にも繰り返し牙をむいた。彼の
「革命的ロマン主義」は、しばしば現実から遊離し、中国にとっ
て危険でさえあった。
 儒教を解体するためには、それに代わる思想が、外から来る必
要があった。それがマルクス主義である。マルクス主義は革命の
ための、普遍思想である。毛沢東はそれを、中国化した。毛沢東
は中ソ論争を通じて、マルクス主義の解釈権を握った。中国共産
党は、普遍思想の担い手から、ナショナリズムの担い手に変わっ
た。だから中国共産党は、ソ連の脅威を前に、アメリカと手を結
ぶことができた。          https://bit.ly/2Nm66ga
─────────────────────────────
 ここで大事なのは、毛沢東が、ソ連とのマルクス主義について
の論争を通じてそれを中国化していることです。このマルクス主
義の中国化によって、中国共産党は、ナショナリズムの担い手に
なっています。中国は何かというと「核心的利益」といいますが
これはそこからきていると思います。
 少し脱線しますが、中国人に「死は恐いものではない」という
ことを納得させたのも儒教です。人間を「精神」と「肉体」に分
けると、精神の主宰者は「魂」、肉体の主宰者は「魄(はく)」
になります。「生きている」というのは、「魂」と「「魄」が一
致して融合している状態です。死ぬと、魂と魄が分離して天上と
地下に行く──確かに、この考え方は日本にもあります。儒教は
中国、朝鮮、日本という東アジアに強い影響力を持っているので
す。ただ、それが一番弱いのが日本といえるかもしれません。
 さて、毛沢東の死後、権力の空白を埋めて、外国との良好な関
係を築き、中国を経済超大国に導いたのが、ケ小平です。このケ
小平について、米国の社会学者で、中国と日本を筆頭に東アジア
の研究に従事したのはエズラ・F・ヴォーゲル教授です。ヴォー
ゲル教授は、ケ小平について次のように語っています。
─────────────────────────────
 後世の歴史家が、20世紀半ばからの新中国の歩みをふり返り
もっとも大きな貢献をした人物を一人選ぶとしたら、それは毛沢
東ではなく、ケ小平である。 ──エズラ・F・ヴォーゲル教授
─────────────────────────────
 毛沢東だけだったら、中国は崩壊し、分裂していたと思われま
すが、ケ小平がいたから、現在の経済大国の中国になったのは確
かです。しかし、習近平主席は、いま、そのケ小平イズムを壊そ
うとしています。      ──[中国経済の真実/036]

≪画像および関連情報≫
 ●「疑いのない歴史事実」だけを書いた禁欲的な本
  ───────────────────────────
   1999年から翌年にかけて私(橋爪大次郎氏)は客員研
  究員としてハーバード大学で過ごし、エズラ・ヴォーゲル教
  授の知遇をえた。ヴォーゲル教授はちょうど70歳で退職の
  年にあたり、これからケ小平についての本を書くつもりだ、
  と楽しそうに話していた。
   それは楽しみですね。ヴォーゲル先生しか書けないと思い
  ますよ。そして10年あまり、待ちに待った大作が書店に並
  ぶと、たちまちこの分野では異例のベストセラーとなった。
  中国語にも翻訳されて、大陸、香港、台湾の版を合わせると
  100万部を越えている。
   ヴォーゲル教授の仕事が画期的な点は、いくつもある。第
  一に、信頼できるデータにもとづいた、包括的な研究である
  こと。ケ小平のような近過去の指導者は、公開されない情報
  も多い。ヴォーゲル教授は、公開された文献情報をしらみつ
  ぶしにするのはもちろん、それを補うべく、可能な限り多く
  の関係者(家族や元部下、共産党の幹部、外国の政府首脳な
  ど、ケ小平を直接に知る人びと)をインタヴューして、裏付
  けをとった。特に中国の人びととは通訳なしに、中国語で話
  しあっている。
   第二に、膨大なデータをまとめるのに、社会学の理論を下
  敷きにしていること。ヴォーゲル先生の分析は、パーソンズ
  (著名な社会学者で、ヴォーゲル教授の指導教員だった)を
  思わせますね、と私がコメントすると、わかりますか、彼の
  理論は役に立つんです、と種明かしをしてくれた。
                  https://bit.ly/31WH22p
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毛沢東とケ小平
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2019年07月02日

●「小粒な秀才の集団指導体制の確立」(EJ第5038号)

 6月29日にG20大阪サミットで開催された米中首脳会談は
本質的な議論を何もしないまま、関税第4弾は先送りになり、協
議は再開されることに決まったようです。さらに、5月に輸出を
禁止する「ELリスト」に加えた華為技術(ファーウェイ)との
取引を容認することも伝えられていますが、これも協議を通じて
決めることのようです。決まったのは、米国側の都合で関税第4
弾が一時的に先送りになったというだけのことです。
 毛沢東という人は、経済のことがまるでわかっていない人とい
われています。毛沢東は建国後の1949年、「大躍進」と呼ば
れる計画経済を人民公社を軸に推進します。しかし、この政策は
経済合理性を欠いていたため、数千万人の餓死者を出して、大失
敗に終わります。人民公社というのは、農村における農業の共同
経営を行う経済的主体であると同時に、「村」とか「鎮」などの
地方行政組織でもあったのです。
 1960年代になり、時の劉少奇国家主席とその配下のケ小平
は、人民公社方式を改め、農業などに個人経営の要素を取り入れ
経済の発展を図っています。毛沢東は、大躍進政策の失敗の責任
を取って、国家主席の地位を劉少奇に譲っていたのです。これに
よって、中国経済は少しずつ成長をはじめます。
 これに激怒したのがあくまでも思想にこだわる毛沢東です。毛
沢東は、劉少奇やケ小平らのやっていることを「資本主義の道を
歩むもの」として糾弾し、追放します。そして、以後10年に及
ぶ「文化大革命」が始まったのです。これによって、せっかく少
し持ち直した中国の経済はまた低迷に逆戻りします。
 1970年代に入ると、時の周恩来首相が、失脚して地方に追
いやられていたケ小平を北京に呼び戻し、文革路線の修正をはじ
めたのですが、毛沢東が生存している限り、やれることはどうし
ても限られていたのです。そのとき打ち出したのが、次の「4つ
の近代化」です。
─────────────────────────────
        1.  工業の近代化
        2.  農業の近代化
        3.  国防の近代化
        4.科学技術の近代化
─────────────────────────────
 しかし、1976年にケ小平にとって絶好のチャンスが訪れた
のです。その年の1月に周恩来が、9月に毛沢東が死去したので
す。そこでケ小平は、依然として毛沢東路線を主張する勢力と戦
い、勝利して権力を掌握します。
 そして、1978年からはじめたのが改革開放政策です。これ
によって、中国経済は急速に回復し、中国の4つの近代化が、ス
タートしたのです。しかし、1989年に天安門事件が発生し、
改革開放は一時中断されることになります。天安門事件は、学生
たちによる民主化の高まりという側面がある一方で、その背後に
は権力闘争があることは、既に述べた通りです。
 そこで、ケ小平は考えたのです。それまでの中国の歴史は権力
闘争の歴史であるといえます。それは、きちんとしたルールがな
いことが原因です。そこで作ったのが「ケ小平ルール」です。目
指したのは、「小粒な秀才による集団指導体制」です。
 なぜ、小粒な秀才なのでしょうか。
 これについて、中国に詳しいジャーナリスト、福島香織氏は次
のように解説しています。
─────────────────────────────
 小粒な人間は、一人ですべての責任を負うような決断はできま
せん。ケ小平は、そこで集団指導体制という、小粒ながら、そこ
そこ優秀な人間が7〜11人ぐらいで役割分担して、責任を分け
て国家運営を行うシステムを作り上げました。これを「集団指導
体制」と呼び、その最高指導部が政治局常務委員会です。
 政治局常務委員会に入れば、「刑不上常委」という暗黙の不逮
捕特権が与えられました。これは政治局常務委員の最高指導部内
でお互いを失脚させるような権力闘争を防ぐ狙いがあります。権
力闘争は相手に罪(反革命罪だとか汚職だとか)をかぶせて失脚
させるのが常套手段でした。
 かといってそれで権力闘争が完全になくなるわけではありませ
ん。5年ごとの党大会のときに政治局常務委員会(最高指導部)
メンバーを入れ替えます。このメンバーに誰を入れるか、序列を
どうつけるか、という派閥闘争のような権力闘争は行われてきま
した。ですが政治局常務委員会に入れば、みんなで権力と責任を
分担し合って協力し合うという暗黙の了解ができました。
                      ──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 このようなルールに適合する人材がケ小平の周りには2人いた
のです。江沢民氏と胡錦濤氏の2人です。江沢民氏は実の父親が
汪兆銘政府のスパイであり、育ての親が中国共産党革命烈士とい
う複雑な血統を持つ「凡才児(福島氏の表現)」です。ちなみに
汪兆銘政府は、1940年〜45年に存在した中華民国の国民政
府のことです。これに対して、胡錦濤氏は、茶葉の行商売りの息
子で、「勉強ができるだけが取り柄の真面目な秀才(福島氏の表
現)」といわれています。
 いずれも、一人で中国を担えるほどの人物ではないが、集団指
導体制で政治を行えば、十分やっていけるとケ小平は考えたので
す。しかも、政治局常務委員ですから、事実上の不逮捕特権を有
しており、これによって、誰かの足を引っ張ることができにくい
システムになっています。これがケ小平ルールです。
 しかし、それでも長くやると、どうしても腐敗するとして、任
期は「1期5年/2期10年」と制限します。そして、ケ小平は
新制度の最初の10年は江沢民政権、その次の10年は胡錦濤政
権と決めています。ケ小平が決めたのはここまでです。
              ──[中国経済の真実/037]

≪画像および関連情報≫
 ●いずれにしても共産党の一党支配は揺るがない
  ───────────────────────────
   もちろん2人(毛沢東とケ小平)には共通点もある。最も
  重要なことは、中国共産党一党支配を大前提として考え、そ
  れを脅かすものへの強硬な対応である。毛沢東時代はもっぱ
  ら党内権力闘争が中心だった。しかし、ケ小平時代にはさま
  ざまな形で西側の思想や文化が入り込み、民主化を求める動
  きが繰り返し出てきた。1989年の天安門事件が代表例だ
  が、ケ小平は民主化の動きに対しては妥協を許さない対応を
  した。「中国の特色ある社会主義」という言葉はケ小平が提
  起したものだが、この意味するところは、経済分野は改革開
  放路線で西側同様の市場経済を取り入れるが、政治システム
  はあくまでも共産党一党支配を維持し、民主主義的制度は排
  除するという考えだ。
   またケ小平は集団指導体制を取り入れたにもかかわらず、
  表の役職からはずれた後も実質的に最高実力者として権力を
  握り、意思決定の中枢に君臨した。胡耀邦や趙紫陽ら総書記
  を失脚させるなど、人事権も手放さなかった。その点も結果
  的には毛沢東と同じだった。
   では、習近平はどうだろうか。「報告」から浮かび上がる
  のは、ケ小平路線の終焉、あるいは否定という側面と、ある
  種の毛沢東路線への回帰だ。習近平は「党、政、軍、民、学
  の各方面、東・西・南・北・中の全国各地で、党はすべての
  活動を指導する」として、政治、経済、文化と中国社会のあ
  りとあらゆる分野への中国共産党の関与、指導を鮮明に打ち
  出した。専門家の間には「まるで文革時代を思い出させるよ
  うな言い回しだ」という人もいる。https://bit.ly/2Xfi0wY
  ───────────────────────────

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トップ交代のルールを決めたケ小平
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2019年07月03日

●「ケ小平ルールを守った江・胡政権」(EJ第5039号)

 中国は今後どうなるか。それは、中国のトップである習近平中
国共産党総書記/国家主席の手に委ねられていると思います。習
近平というのはどういう人物であるのか、福島香織氏の本を中心
に探っていくことにします。
 ケ小平による中国のトップの「お墨付き」を得たのは、江沢民
氏と胡錦濤氏の2人です。江沢民氏は、上海市長を務めたことも
ある上海市の実力者で、いわゆる上海閥の代表者です。一方、胡
錦濤氏は、胡燿邦が作った共青団(共産主義青年団)出身の政治
家です。共青団というのは、中国共産党に優秀な若手政治家を補
充するための育成機関です。
 胡燿邦に近く、温厚な性格の秀才であり、トップに就任してか
らは、江沢民前総書記(当時)の外交政策の修正を行い、世界の
さまざまな国との関係を強化することに尽力しています。しかし
一般的には、「これといって目立つ特徴がないのが胡錦濤の最大
の特徴」といわれる人物ですが、やめるときは、すべての役職か
ら退いており、さわやかな印象を与えています。
 江沢民派と胡錦濤派としては、次のトップ(中国共産党総書記
・中国国家主席)を誰にするかについて、当然しのぎを削ること
になります。とくに胡錦濤氏は、共青団としては、北京大学出身
の秀才、李克強氏を次のトップにしたかったのです。しかし、こ
の争いでは、八代元老の習仲勲の息子という血統ブランドを持つ
習近平氏に決まったのです。これについて、福島香織氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 習近平が総書記や国家主席になれたのは、胡綿濤と江沢民の激
しい権力闘争の攻めぎ合いのなかでの双方の妥協の産物でした。
胡錦濤は自分が共産主義青年団という官僚養成組織の出身なので
後輩で極めて優秀な李克強を総書記にしたかったのですが、江沢
民は、それを妨害して自分の派閥(上海閥)の人間を入れたかっ
たのです。ところが激しい権力闘争の結果、上海閥の一番のエー
スは胡錦涛によって失脚させられ、李克強も足を引っ張られて総
書記になれなかった。結果的に、さほど優秀ではないけれど、八
大元老の習仲勲の息子という血統ブランドを持つ、凡庸で小心者
の習近平が生き残ったわけです。
 習近平は江沢民や曾慶紅の長老政治に都合のよい人物として選
ばれ、胡錦濤から見れば、開明派の習仲勲の息子だから、話が通
じるかもしれない、ということでしょう。いずれにしても、双方
が、習近平は政治家としては自分たちより小物であり、どうにで
もコントロールできると思ったのだと思います。──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 江沢民氏にしても胡錦濤氏にしても、さほど優秀ではない習近
平氏であれば、たとえトップになっても、十分院政がひけると、
甘く考えていたことは確かです。
 習近平氏がトップに就任する前の話ですが、彼は、時の総書記
であり、国家主席である胡錦濤氏のことを、次のようにいってい
たといわれています。
─────────────────────────────
 茶葉売りの息子が中国共産党の最高指導者になるのは、おかし
なことである。革命によって国を作った中国のトップは、革命家
の子孫から出すべきである。          ──習近平氏
─────────────────────────────
 中国の革命家の子孫は、「紅二代」と呼ばれる、いわば特権階
級です。ちょうど貴族か王族のような存在であり、「太子党(プ
リンス党)」とも呼ばれることもあります。だから、江沢民派と
しては、習近平氏の後見人になるなどして、習近平氏をトップの
座へと押し上げたのです。
 この習近平氏について福島香織氏は、その基本的な性格を次の
ように紹介しています。こういう人物がトップとなって権力を握
ると、それを奪われまいと、独裁者になる可能性が高いのです。
─────────────────────────────
 習近平は、自信がなく、コンプレックスが強く、凡庸で能力も
低い、いじめられっ子体質です。その一方で親の七光りで出世も
早く、周りにちやほやする人も多かったので、自己評価が妙に高
い自信過剰家で、苦言を呈したり、厳しいアドバイスを言ったり
する人に対しては反発し、倣岸不遜な態度をとりがち。コンプレ
ックスが強いのにプライドが高い、しかもマザコンでシスコン、
妻にも尻にしかれて周りの女たちの意見を政治に持ち込んでしま
すという非常に残念″なキャラクターになります。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ケ小平の考え方に立脚する中国の外交政策は、多くの国との関
係を強化する「多極外交」です。それも、あくまで「外国から学
ぶ姿勢」や「国際スタンダードに寄り添う姿勢」が重要であると
いうのです。江沢民元主席、胡錦濤前主席ともにそういう多極外
交を展開してきています。
 しかし、習近平氏がトップになると、一転して「中華思想」を
持ち出してきたのです。「中華思想」とは何でしょうか。ウィキ
ペディアには、次の解説があります。
─────────────────────────────
 中華思想は、中華の天子が天下(世界)の中心であり、その文
化・思想が神聖なものであると自負する考え方で、漢民族が古く
から持った自民族中心主義の思想。自らを夏、華夏、中国と美称
し、王朝の庇護下とは異なる周辺の辺境の異民族を文化程度の低
い夷狄(蛮族)であるとして卑しむことから華夷思想とも称す。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/1LDsSHW ─────────────────────────────
 中国は世界の中心の国──だから、中国というのです。だから
中国の秩序に世界の国は合わせるべきであるというとんでもない
思想なのです。       ──[中国経済の真実/038]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平とは何者なのか(1)/「ニーズウィーク日本語版」
  ───────────────────────────
   「ニューズウィーク日本語版」本誌1月19日号にも書い
  たが、ウィキリークスが年末に公表したアメリカ国務省の外
  交公電に、中国次期トップ習近平の知られざる素顔を暴く証
  言が含まれていた。「無骨な田舎者」「ビジネス感覚に長け
  たリーダー」「外国を敵視する危ない人物」――人となりを
  示す情報やエピソードが少なすぎるせいで、これまで習の素
  顔をめぐっては、チャイナウォッチャーの間でさまざまな憶
  測が飛び交っていたが、この証言は論争に終止符を打つかも
  しれない。それぐらい重要な中身が含まれている。
   公電は駐北京アメリカ大使館から09年11月に発信され
  た。情報源は、アメリカ在住の中国人学者だ。在米中国人の
  情報が北京を経由し、地球を半周して国務省に戻った理由は
  定かでないが、そういった不可解さを差し引いても、この学
  者が語る内容は具体的で生き生きとした習近平のエピソード
  にあふれている。
   公電によれば、学者は習と同じ1953年に生まれた。習
  近平と同じく、父親は新中国の建国に貢献した革命第1世代
  で、毛沢東の出身地である湖南省の別の村で生まれ、初期か
  ら中国革命に参加した。学者の説明によれば、父親は「同時
  に日本と香港でも生活。労働運動のリーダーとして次第に頭
  角を現し、49年に、中国に戻ったあと、初代労働部長(大
  臣)に就任した」のだという。  https://bit.ly/2XjtVtG
  ───────────────────────────

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胡錦濤前主席/江沢民元主席
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2019年07月04日

●「米中貿易戦争は価値観の衝突なり」(EJ第5040号)

 中国人民大学の向松祚教授は、米中貿易戦争について、次のよ
うにいっています。
─────────────────────────────
 米中貿易戦争は、貿易戦争でも経済戦争でもない。価値観の
 衝突である。              ──向松祚教授
─────────────────────────────
 価値観とは何でしょうか。
 ここでいう価値観とは、民主や法治、自由、人権など、全ての
先進国が共有している価値観であり、「普遍的価値観」のことで
す。しかし、普遍的価値観は、産業革命以降世界制覇を行った西
欧・米国の価値観であり、そのため、かならずしも「普遍的」で
はなく、世界には多様な価値観があります。
 しかし、中国がWTOに加盟し、自由主義貿易を展開する以上
国際的なルールにしたがう必要があります。WTOに加盟すると
いうことは、それらのルールを守ることが前提だからです。確か
に、はじめのうちこそ中国は、ルールにしたがっていたのです。
それがケ小平の「韜光養晦」の教えです。
 「韜光養晦」(とうこうようかい)は、中華人民共和国の国際
社会に対する態度を示す言葉であり、ケ小平の演説が根拠となっ
ているといわれます。これは、中国のなかでも聞き慣れない言葉
であり、中国人でも説明されないと、その意味を理解できない難
しい言葉です。
 「韜光」の本来の意味は、名声や才覚を覆い隠すことであり、
「養晦」の本来の意味は隠居することを意味します。この2つを
あわせると、爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術という
ことになります。
 習近平氏が政権を引き継いだとき、中国はまだ「韜光養晦」の
考え方を守っていたのです。しかし、習近平主席は現在では「韜
光養晦」の衣をかなぐり捨てています。それが明らかになったの
は、習政権が「中国製造2025」を発表したときです。
 普遍的価値観について、習近平主席は、就任直後の2013年
に「七不講」(チ−ブザン)という通達を大学や地方政府に出し
て、言論統制を行っています。「七不講」とは、口にしてはいけ
ない7つの言葉という意味であり、具体的には次の言葉です。
─────────────────────────────
        1.人類の普遍的価値
        2.報道の自由
        3.公民社会
        4.公民の権利
        5.党の歴史的錯誤
        6.権貴(特権)資産階級
        7.司法の独立
       ──2013年5月18日付、「産経ニュース」
─────────────────────────────
 まず、言葉から封じて行くというのが中国のやり方です。要す
るに、この「七不講」は、西側メディアのいう普遍的価値につい
て、語ってはならないというものです。そのうえで、中華思想を
徹底させようとしているのです。
 「中華」というのは、世界の中心にあって、花が咲き誇ってい
る国という意味です。その周辺には異民族がいますが、中華は中
央にあって、それに優越するものと考えています。そして、周辺
の異民族のことを次のように表現します。
─────────────────────────────
    東夷   (とうい) 中国では日本人も東夷
    南蛮  (なんばん) 日本ではポルトガル人
    西戒 (せいじゅう) 槍を使うのがうまい人
    北夷  (ほくてき) 北方異民族を意味する
─────────────────────────────
 よく考えてみると、「一帯一路」も「米中貿易戦争」も、いま
起きているのは、中国のイデオロギー、中華思想(華夷思想)と
西側の既存のスタンダード、主に米国の思想・価値観とのせめぎ
合い、ヘゲモニーの争いであるといえます。つまり、価値観の衝
突、文明の衝突といってもいいと思います。これについて、福島
香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平は2018年の秋ぐらいから何かと言うと、「100年
なかった末曽有の大変局に世界が直面している」と、ものすごく
重要なフレーズを繰り返し言っている。つまり、これから世界の
支配者が代わりつつあるところで、その変わっていく新しい秩序
・ルールをつくるのが中国でなければならない。しかもその中国
がつくろうとしているこのルールは、西側の三権分立でも司法独
立でもない。中国共産党の秩序、中国共産党が支配するルールな
んだ、ということを暗に言っているわけです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 習近平主席は、世界の支配者が代りつつある現在、その変わっ
ていく世界において、覇権、ヘゲモニーを握るのは中国であり、
そのさい新しい秩序やルールを作るのは、当然中国でなければな
らない──こういっているのです。まさに中華思想です。
 中国がハーグの仲裁裁判所での裁定や、国際法を無視する横暴
極まる振る舞いは、それが過去の時代において、米国を中心とす
る西側諸国が作り上げたルールであって、中国は、そのようなも
のにしたがう必要はないという考え方です。きわめて自分本位の
身勝手な考え方ですが、来るべき新時代において、そのようなル
ールや秩序を作るのは、世界の覇権を握るであろう中国、いや、
中国共産党であって、世界はそれにしたがわなければならなくな
ると恐るべきこといっているのです。
              ──[中国経済の真実/039]

≪画像および関連情報≫
 ●中国人の尊大さ
  ───────────────────────────
  ◎古来、中国人は自らを「華人」と称してきた。「華人」と
   は「文明人」という意味である。「中華」とは世界唯一の
   文明という宣明である。こんな言葉を国名にした国がいっ
   たいどこにあろうか。(谷沢栄一)
  ◎「みなさん、下に見えるのが、偉大なる祖国の首都北京で
   す」。中国の旅客機が北京に近づくと、こんな放送が流れ
   てくる。(上村幸治)
  ◎古来、支那人の中華思想は世界に類例を見ないほど尊大で
   あった。フランスの中華思想は単に欧州の中心という意識
   にとどまるのだが、支那人は昔から支那の統率者とは考え
   ず、宇宙の支配者であると位置づけた。即ち、漢人の文化
   は世界最高の域に達した究極の文明なのである。故に漢の
   文物を生んだ中原の地を取り巻く周辺を僻陬の地と貶価し
   て「南蛮北狄東夷西戎」と呼ぶ。
    「蛮」=蛇の種族、「狄」=犬の種族「夷」=礼儀知ら
   ず「戎」=野蛮人異民族…これらに属する人物の名前を正
   史に記す場合、意識的に汚れを示す文字を当てる。(谷沢
   栄一)
  ◎過去を振り返ってみても、中国という国は、対等のパート
   ナーを持ったことなどありはしない。せいぜい上下関係、
   あるいは他国を併合してしまうことばかりだ。このことを
   我々は肝に銘ずべきだ。(石原慎太郎)
  ◎「中国人は外交の天才だ」と思っているが、それは大きな
   誤解である。実際、中国の外交はだいたい失敗の連続であ
   る。そもそも中国人が外交上手なら、19世紀末から20
   世紀にかけてあれだけ欧米から好き勝手に領土をむしり取
   られたりするわけがない。(日下公人)
                  https://bit.ly/2xsBEGg
  ───────────────────────────

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中華思想の図解
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2019年07月05日

●「高級黒、低級紅全てダメの習政権」(EJ第5041号)

 一国の指導者に対して失礼な話ですが、中国に関するどの本を
見ても、表現はそれぞれ違うものの、習近平氏は無能であること
を指摘しています。つまり、中国のような大国を率いる指導者と
しては適していないという意味です。
 問題はそういう人がトップになった場合、何が起きるかです。
何よりも自分の地位を奪われることを心配します。とくに優秀な
人間を毛嫌いし、周りには自分に逆らわないイエスマンばかりを
集めるようになります。そして言論を統制します。猜疑心が強く
なり、内部にいる敵を排除しようとします。企業にもこういう上
司は存在しますが、一国のトップということになると、国の浮沈
に関わってきます。
 今から考えると、習近平以前の政権では、言論統制はそんなに
厳しいものではなく、食事などで仲間が集まれば、平気で共産党
の悪口をいっていたものです。しかし、習近平政権では、そうい
うことは絶対に許されなくなったのです。
 ケ小平は、政治体制、官僚組織、軍に関しては、共産党がしっ
かりと指導するが、それ以外のこと、とくに金儲けに関して、一
般市民の蓄財やビジネスに関しては、自由を解放したのです。つ
まり、そんなに息苦しくはなかったのです。しかし習近平政権に
なると事態は一変します。「改毛超ケ」を打ち出したからです。
これについて福島香織氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 習近平は政権の座に就くと、アンチケ小平路線を打ち出した。
それはいわば「毛沢東のやり方を改造して、ケ小平を超える(改
毛超ケ)」というものでした。要するに、共産党員はみんな規律
正しく、素晴らしい行動をしなくてはならないと、共産党員に対
する言動・行動・思想、その他、日々の生活すべてを党中央がよ
り厳しく統制するようになりました。
 さらに民営企業も国営企業も外資企業も、共産党がきちんと指
導しなくてはならない。株式市場も為替も共産党がコントロール
する。一般庶民の日々生活・娯楽・思想・世論も、すべてきちん
と共産党が指導、コントロールする、となったわけです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 言論封殺──これは国家として、絶対にやってはならないこと
です。かつてのソ連、中国、北朝鮮などの共産党国家では、これ
が平然と行われています。習近平政権の場合はそれが極端に徹底
して行われています。「庶民が何か行動を起こすのではないか」
と日々怯えているのです。
 2019年1月に、習近平政権は、次のような通達を出してい
ますが、どういう意味かわかるでしょうか。
─────────────────────────────
 いかなる方式の低級紅や高級黒もやってはならず、党中央に面
従腹背の人間を決して許さず、どちらにもいい顔をする両面派も
許さず、偽忠誠を決して許さない。 ──2019年1月の通達
           ──渡邊哲也/福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ちんぷんかんぷんです。「低級紅」「高級黒」とは一体何のこ
とでしょうか。
 これは、最近の中国の流行語です。習近平政権のあまりの言論
統制の結果、庶民の批判というか、反発がこめられた言葉である
といえます。正確に書くと、次のようになります。
─────────────────────────────
         高級黒  ガオジーヘイ
         低級紅 ディージーホン
─────────────────────────────
 露骨に政権を褒めて、逆に風刺・皮肉を込めてこき下ろすのが
「高級黒」であり、低級の褒め称え方、いわゆる、ゴマスリのこ
とを「低級紅」といいます。そのどちらもやってはいかんという
のが1月の通達の内容です。これは、異常そのものです。こんな
細かいことまで、中国共産党は「指導」しているのです。
 あまりにも厳しいルールを定められると、それに不満であって
も、一応表面上はしたがう、いわゆる「面従腹背」を人間はとき
としてするものです。、習政権下ではそれもやってはいけない、
さらにあからさまなゴマスリもダメというのです。そんな人間の
行為にまで国家が統制を加えようとしているのです。
 かつての中国は、トップが交代すると、その後すさまじい権力
闘争が起きたのです。ケ小平は、それを身をもって体験してきて
いるので、政権交代のルールを定めたのです。そのルールの最初
の総書記/国家主席は、江択民氏であり、任期の2期10年で、
ルール通りに胡錦濤氏に政権交代が行われています。そこに大き
な権力闘争は起きていないので、ケ小平ルールは、一応成功して
いるといえます。
 このような権力抗争なき政権交代には、もうひとつ良い面があ
ります。それは、総書記/国家主席を務めた長老政治家が一定の
力を保って生き残るという点です。これには良い面と悪い面があ
りますが、現政権が間違った方向に進もうとしたとき、長老たち
のパワーで、コントロールが効くということです。しかし、現政
権が大きな改革をやろうとすると、長老たちの存在は、かえって
邪魔になります。
 習近平氏にとって、長老たちの存在は、邪魔以外の何ものでも
なかったのです。そこで、習近平氏は、かつてのトップには手を
つけないが、トップの手足を削ぐ必要があると考えたのです。そ
こで、就任直後からやったのが「腐敗撲滅運動」です。これを徹
底的に強力に行うことで、習近平氏は、総書記、国家主席に加え
て「核心」の地位まで手に入れることができたのです。権力とし
ては磐石そのものになったのです。
              ──[中国経済の真実/040]

≪画像および関連情報≫
 ●左右両方の言論統制強化〜「天安門」30年控え緊張高まる
  ───────────────────────────
   中国で民主化を志向する右派とマルクス主義に忠実な左派
  の両方の言論に対する統制が強化されている。習近平政権は
  国内経済の落ち込みなどの影響で、社会が動揺する事態を懸
  念。民主化運動が武力弾圧された天安門事件からちょうど、
  30年(6月4日)になるのを前に、政治的緊張が一段と高
  まっているようだ。
   香港メディアなどは3月下旬、中国トップレベルの名門校
  として知られる清華大学(北京)法学院の許章潤教授が停職
  処分となったと報じた。言論規制が厳しい同国でも、主要大
  学教員の処分は異例だ。許教授は昨年夏以降に発表した幾つ
  かの論文で、習近平国家主席の個人崇拝を批判したり、「反
  革命」の暴動鎮圧とされた天安門事件の評価見直しを要求し
  たりした。
   習氏は自分の最高指導者としての権力基盤を固めるため、
  昨年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で憲法を改正
  し、2期10年までとされていた国家主席の任期制限を撤廃
  した。許氏はこれに公然と反対し、改革・開放路線を守り、
  事実上の終身制だった毛沢東の極左路線で、全国が大混乱に
  陥った文化大革命(文革)の再現を防ぐため、国家主席の任
  期制を復活させるべきだと主張していた。また、その後、重
  慶師範大でも文学院副教授だった唐雲氏が「国の名誉を傷つ
  ける言論」を理由に教員資格を剥奪された。授業中に共産党
  もしくは党指導者に批判的な発言があったとみられる。学生
  が当局に密告したという説もある。https://bit.ly/32ijiWS
  ───────────────────────────

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中国ジャーナリスト/福島香織氏
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2019年07月08日

●「韓国への輸出規制は報復ではない」(EJ第5042号)

 少し話の流れからは外れますが、G20大阪サミット以後、米
朝、日韓の間で、重要な動きがあり、それらは、いずれも中国に
関係する出来事であるので、それについてしばらく書くことにし
ます。この事実を知ると、現在、テレビに出て、これらの問題に
ついて語るキャスターやコメンテーターのレベルが、いかにひど
いかわかると思います。
 日本と韓国との関係はいまや最悪の状態です。レーダー照射問
題に始って、徴用工に関する最高裁判決の問題、慰安婦財団の解
散など、常識的にはありえないことばかりを韓国は、このところ
ずっとやっています。レーダー照射問題などは、最初は認めてい
たにもかかわらず後で否定し、自衛隊機の異常接近への非難に切
り換えたリ、理解できないことばかりです。
 メディアは報道しませんが、これには明白な理由があります。
文在寅政権になってからの韓国には、実は重大な疑惑があるので
す。疑惑とは何か。それは、ズバリ、北朝鮮に対して、さまざま
な物資を支援していることです。これは明白な国連安全保障理事
会制裁決議違反です。韓国は、いわゆる「瀬取り」を熱心に行っ
ています。その品目は、石炭の輸入や食糧支援だけではなく、日
米などから輸入する戦略物資も含まれていると考えられます。
 現在、「瀬取り」の監視チームは、日本、米国、オーストラリ
ア、ニュージーランド、カナダ、英国、フランスの7ヶ国ですが
どういうわけか、一番力を入れなければならないはずの韓国は参
加していないのです。
 韓国の軍艦からのレーダー照射は、瀬取りの現場を自衛隊機に
発見され、緊急措置として、慌ててやったものです。そうだとす
れば、その後の韓国の支離滅裂な言い訳は理解できます。表沙汰
になったら、韓国にとって大きなダメージになるからです。そう
いう事情は、すべて米国はわかっています。もはや米国は韓国を
一切信用していないはずです。
 このような前提事実に立って、今回の3品目の戦略物資の韓国
への輸出に関する手続きの見直しについて、世耕経産相の発言を
読んでいただきたいのです。
─────────────────────────────
 まず、半導体関連について申し上げたいと思いますが、今回の
見直しは、安全保障を目的に輸出管理を適切に実施するという観
点から、運用を見直すというものであります。一部報道、あるい
は韓国側の反応にあるような、いわゆる対抗措置といったもので
は全くありません。
 輸出管理制度というのは、国際的な信頼関係を土台として構築
されているものであります。韓国との信頼関係の下に輸出管理に
取り組むことが困難になっていることに加えて、韓国に関連する
輸出管理をめぐって不適切な事案が発生したこともありまして、
厳格な制度の運用を行って、万全を期することにいたしました。
見直し内容の詳細については、昨日のプレスリリース及び事務方
から御説明をさせていただいたとおりであります。引き続き、適
切な輸出管理制度の運用を行うため、必要な見直しを行ってまい
りたいというふうに思います。
         ──2019年7月2日、世耕経済産業大臣
                  https://bit.ly/309fGEG
─────────────────────────────
 今回の韓国をホワイト国から外すという日本政府の措置につい
て多くのメディアは、韓国によるレーザー照射や徴用工をめぐる
最高裁判決などへの日本政府の報復措置として報道しています。
それは明らかに違います。今回日本政府が韓国に対して、輸出規
制を強化した戦略物質は、次の3品目です。
─────────────────────────────
 1.   フッカ水素 ・・・    半導体の洗浄に使う
 2.フッ化ポリイミド ・・・    スマホの画面に使う
 3.    レジスト ・・・ 半導体の基板に塗る感光材
─────────────────────────────
 これらの物質はいずれも兵器に転用させることが可能です。だ
から、戦略物資といわれるのです。たとえば、フッカ水素はエッ
チングガス(高純度フッカ水素)といわれ、毒ガスや化学兵器な
どに転用できます。
 7月5日のことですが、この件について、萩生田光一幹事長代
行は、ある放送番組に出演し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回の対韓国輸出規制措置の背景について、特定の化学物質の
行き先がわからない事案が発見されている。特定の時期にエッチ
ングガスに関連した物品の大量発注が急増した後、その韓国企業
の行方がわからなくなっている。これに関して韓国に問い正して
も、明確な回答が得られない。このような状況に対してわが国と
して措置をとるのは当然である。  ──萩生田光一幹事長代行
                  https://bit.ly/2RWTj2p
─────────────────────────────
 この萩生田幹事長代行の発言が、世耕大臣のいう「韓国に関連
する輸出管理をめぐっての不適切な事案の発生」という抽象的な
言葉の意味を解き明かしてくれます。徴用工問題に対する報復策
ではなく、もっと深刻な問題なのです。要するに、毒ガスなどを
含む兵器に転用できる戦略物質を、韓国は北朝鮮へ流しているの
ではないかという恐るべき疑惑があるのです。
 実は、米国は当然この事実を掴んでおり、今回の日本政府の措
置も米国からの要請があったのではないかといわれています。そ
もそも自衛隊機に慌てて火器管制レーダーを照射したのも、重要
物質の瀬取りの現場を写真に撮られ、動かぬ証拠にされないよう
にするための苦肉の策であったとすると、それ以後の韓国の行動
は十分納得に値するものです。
 韓国としては、あくまで徴用工問題への日本の報復というよう
にしないと、大変なことなってしまうことになります。
              ──[中国経済の真実/041]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国への輸出規制の強化措置の狙い
  ───────────────────────────
  A:半導体製造に使われるフッ化ポリイミド、レジスト、エ
   ッチングガス(高純度フッ化水素)の3品目の軍事転用を
   防ぐためで、経産省幹部は詳細は明らかにしないが、「刑
   事告訴するレベルではないが、最近、韓国側に3品目の輸
   出管理をめぐる不適切な事案があった」と説明している。
  A:軍事転用される恐れのある部材については、部材の進化
   や国際情勢のめまぐるしさから国同士で2年に1度は最低
   でも取り扱い方法などを協議する必要がある。だが、20
   16年以降に協議は1度だけで、文在寅政権になってから
   はゼロ。徴用工訴訟や慰安婦問題、自衛隊機への火器管制
   レーダー照射など、文政権が執拗に繰り返す反日的な行動
   に対し、信頼関係が損なわれ、今後も協議ができないと判
   断した。
  A:これまで韓国に輸出する企業に日本政府への個別の輸出
   許可申請を免除する優遇措置を取っていた。原則3年間は
   個別の輸出ごとの申請が不要だったが、4日からは外国為
   替および外国貿易法(外為法)に基づいて、優遇措置をな
   くすことにした。これから個別の出荷ごとに政府への申請
   が必要になる。審査の標準的な期間は90日程度だが、企
   業や品目で違いが出る見込み。禁輸措置ではない。
                  https://bit.ly/2XRK2hn
  ───────────────────────────

世耕経済産業大臣.jpg
世耕経済産業大臣
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2019年07月09日

●「韓国は戦略物資を横流ししている」(EJ第5043号)

 重要なポイントなので、昨日のEJでご紹介した萩生田幹事長
代行の発言を繰り返します。ある時期、韓国の企業から、フッ素
関連の物品(高純度フッ化水素、エッチングガス)に大量発注が
急遽入って、その後、その企業の行方が分からなくなった。事実
関係を韓国側に問い合わせたが、答えが返ってこない──こうい
う内容であります。
 フッ素関連の物質は、毒ガスとか化学兵器の生産に使えるので
行き先は“北”ではないかという疑いです。ホワイト国であるか
らといって、何でもフリーパスというわけではなく、疑問がある
ときは情報を求めたり、話し合いをするのですが、文在寅政権に
なってからは、この話し合いは一回も行われていないのです。
 何しろ兵器にも転用可能な戦略物質なので、その行方は重要で
あり、管理に韓国側は重大な責任があるのに、行方不明というだ
けで、まともに答えてくれない。これではホワイト国として失格
であり、以後も続いて、特典を与えるわけにはいかないというの
が日本政府の見解です。話のスジは通っています。
 ところで、今回の日本政府による韓国のホワイト国取り消し問
題について、参考になるビデオがあります。それは、7月5日の
「BSフジ/プライムニュース」の要約版ですが、視聴する価値
は十分あります。前編と後編がありますが、前編はとくに興味深
いので、必ずご覧になることをお勧めします。
─────────────────────────────
    ●BSフジ/「プライムニュース」
     2019年7月5日/午後8時から10時
    ◎タイトル
     『日本の“対韓輸出規制”に揺れる韓国/文在寅政
     権と朝鮮半島情勢の今後は?』
    ◎出演者
     前防衛相/自民党安全保障調査室長/小野寺五典氏
             愛知淑徳大学教授/ 真田幸光氏
          元日本経済新聞編集委員/鈴置 高史氏
     前篇/21分33秒   https://bit.ly/2xAksig
     後編/22分07秒   https://bit.ly/2L3KPWz
─────────────────────────────
 このビデオのなかで出演者が語っていることは、韓国がホワイ
ト国という地位を利用して、兵器にも転用できる、日本から輸入
した戦略物質を第3国経由で、北朝鮮やイランに流していること
に米国が気付き、日本に相応の措置をとってくれと依頼してきた
ことの結果であるというものです。こういう論調は、表向きのメ
ディアには出てこないものです。
 表向きのテレビの論調は、韓国による徴用工最高裁判決や火器
管制レーダー照射などに対する韓国への報復措置として捉えてい
て、コメンテーターはそういう発言を繰り返しています。そうい
うコメントをさんざん聞かされてきた後で視聴したのが、7月5
日のBSフジ/プライムニュースです。とくに、真田幸光淑徳大
学教授と元日本経済新聞編集委員の鈴置高史氏の主張は実に明解
そのもの、ズバリと核心を衝いています。
 もうひとつの問題は、板門店での米朝首脳会談のウラ事情につ
いてです。この会談は、トランプ大統領がツイートで金正恩委員
長に呼びかけ、金委員長がそれに応じて実現したという簡単なも
のではないのです。
 まず、金正恩党委員長が、トランプ大統領に親書を送っていま
す。2019年6月11日、トランプ大統領は親書を受け取った
ことを認め、「美しい内容だった」と述べています。トランプ大
統領の誕生日は6月14日なので、誕生日祝いの親書だったこと
は明らかです。しかし、そこには、当然ではあるが、3度目の米
朝首脳会談の早期実現が要請されていたのです。
 これに対して、トランプ大統領は、今度は金委員長に返信の親
書を送っています。6月23日に北朝鮮国営中央通信社が親書を
受け取ったことを報道しています。内容は、明らかになっていま
せんが、「素晴らしい内容の書簡が盛り込まれていた」という金
委員長のコメントが報じられています。
 問題は、この親書の内容ですが、「6月末日に近くに行くので
会えないか」という誘いをしたことは確かですが、もうひとつ大
事な提案をしていると思われるのです。これについて、述べる前
に、金正恩という国家指導者の資質について、知っておくべきこ
とがあります。
 北朝鮮と韓国、北朝鮮とアメリカ、それぞれの国の規模につい
て、覚えておくと、便利な数値があります。
─────────────────────────────
          北朝鮮    韓国
            1    50
          北朝鮮    米国
            1  1100
─────────────────────────────
 国として比較すると、北朝鮮を1とすると、韓国は50であり
米国は1100になります。北朝鮮にとっては、韓国といえども
50倍の大国であり、米国については何と1100倍。しかし、
金正恩委員長は、若いにもかかわらず、このところ、この2つの
大国を完全に手玉に取っています。その指導者としての能力、力
量、政治的センスは、非常に優れていると考えるべきです。米国
は、金正恩委員長との2回の会談を通じて、それを十分見抜いて
います。「この男とは交渉できるかもしれない」と。
 金委員長は、韓国の文大統領が過去の日韓条約を否定して、元
徴用工問題を持ち出したことについて、不快感を持っているとい
われます。それは、北朝鮮が、いずれやらなければならない日朝
交渉において、日韓条約に基づいて支払われた金額をベースに日
本にカネを要求しようと思っているのに、韓国はそれを否定して
いるからです。彼はよく勉強しており、国際感覚が優れているこ
とがよくわかります。    ──[中国経済の真実/042]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ大統領から金氏への親書/飯田浩司氏
  ───────────────────────────
   北朝鮮の国営朝鮮中央通信は6月23日、トランプ大統領
  が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に親書を送ったと報じ
  た。金委員長はすばらしい内容だとして満足感を示し、トラ
  ンプ氏の並外れた勇気を評価したとしている。
  飯田:内容については報じられていないなか、その反応だけ
   が報じられています。もともと、去年(2018年)6月
   12日のシンガポールでの首脳会談があり、その1周年で
   まずは、北朝鮮側から、アメリカ側に親書が送られていま
   した。
  須田:それを受けての返書ということだと思います。確かに
   ベトナム、ハノイでの米朝首脳会談はある意味で失敗に終
   わったけれども、だからと言ってトランプ大統領と金委員
   長の個人的な人間関係が悪くなったわけではない。両者の
   関係は、まだ良好な状況を保っていると受け取ってもいい
   のではないでしょうか。「トランプ大統領との個人的な人
   間関係までおかしくなったわけではない」という、北朝鮮
   からのメッセージだと受け止めるべきだと思います。それ
   を前提に考えてみると、イランへの対応を含めて、トラン
   プ外交のやり方がだんだん見えて来た。交渉相手に対して
   限界まで圧力を強め、その上で首脳同士で顔を合わせて話
   し合い、妥協点を探る、あるいはアメリカの要求を飲ませ
   る。力による外交かなと私は思います。
                  https://bit.ly/2XRoHEO
  ───────────────────────────

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7月5日/プライムニュース/鈴置高史氏
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2019年07月10日

●「北朝鮮が求める『体制保証』とは」(EJ第5044号)

 北朝鮮の金委員長が盛んにミサイルを飛ばし、複数の核実験を
行っていたとき、まだ大統領になっていないトランプ氏は「私が
大統領になれたら、彼と会う用意がある」といっていたのを覚え
ています。これについて、副島隆彦氏は自著で、次のように書い
ています。
─────────────────────────────
 米大統領選で、共和党候補指名を確実にしたドナルド・トラン
プ氏は、5月17日(2016年)、ロイターとのインタビュー
に応じた。トランプ氏は、北朝鮮の核開発を阻止するため金正恩
朝鮮労働党委員長と会談することに前向きな姿勢を示した。(中
略)トランプ氏は北朝鮮対策については詳細には触れなかった。
だが、金氏と会談すれば、米国の北朝政策が大きく転換すること
になると強調。
 「私は、彼(金正恩氏)と話をするだろう。彼と話すことに何
の異存もない」と述べた。その上で、「同時に中国に強い圧力を
かける。米国は経済的に、中国に対して大きな影響力を持ってい
るのだから」と語った。           ──副島隆彦著
     『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社刊
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、この約束をきちんと果しています。しかも
既に3回会って、首脳会談を行っています。4回目に会うときは
何かが決まる可能性があります。トランプ氏は、根っからのビジ
ネスパースンであり、会って話すことによって、その人物につい
て深く知ることができると考えています。
 「この男はバカか利口か。話し合う価値があるか。決断できる
男かどうか」は、会って話せばわかるとトランプ氏はいいます。
長年にわたって大勢の人を雇い、使ってきたトランプ氏らしいポ
リシーです。人は会って話してみないとわからない。これはいつ
も「戦略的忍耐」を口にして、金委員長と会おうとせず、結局何
もしなかった、いやできなかった、オバマ前大統領と大きな違い
です。その点、トランプ大統領は有言実行しています。
 トランプ大統領は、金正恩委員長とシンガポールとハノイで会
談し、金正恩を“できる男”と判断したものと考えます。そして
トランプ大統領は、事態を打開するために、米国として、何らか
の提案を金委員長にしたと思われます。それが、トランプ大統領
から金正恩委員長への親書に書かれていたと思います。
 そして、その親書を読んだ金委員長は、「大変興味深い提案で
ある」とコメントし、わざわざ親書を読む金委員長の写真まで付
けて、北朝鮮の労働新聞は伝えています。親書の内容が、単に板
門店で会いたいというものだけでなかったことは確かです。
 北朝鮮のミサイル技術と核開発は、軍事国家になろうとして開
発されたものはではないはずです。なぜなら、この程度のレベル
なら、仮に北朝鮮が一発でも核ミサイルを他国に向けて発射した
ら、あっという間にレベルの違う量の核攻撃を受けて、北朝鮮は
消滅してしまうからです。そんなことは、賢明な金正恩委員長は
十分わかっているはずです。
 したがって、北朝鮮の核ミサイル技術は、それがどんなに優れ
ていたものであっても、あくまで交渉のためのカードに過ぎない
のです。実際にそういう技術を持っていたからこそ、敵方である
米国の大統領が3回も会ってくれたのです。そういう意味で核開
発は北朝鮮にとって無駄ではなかったのです。
 金正恩委員長が非核化の条件として譲れないのは、自国の「体
制保証」です。この体制保証について、具体的に何を望んでいる
のか、北朝鮮は明らかにしていませんが、考えられることは、次
のようなものです。
─────────────────────────────
    1.          米韓軍事演習の中止
    2.        休戦中の朝鮮戦争の終結
    3.米国による北朝鮮への敵視政策を中止する
    4.上記により米国と北朝鮮との平和条約締結
    5.                その他
─────────────────────────────
 このうち、「1」については、トランプ大統領の決断により、
既に実現しています。2〜4についても、本当に「非核化」が実
現され、米朝双方がそれを望めば実現されるはずです。しかし、
問題は、それが北朝鮮の体制保証になるかといえば、そうではな
いと思います。確かに米国からの脅威はなくなるでしょうが、周
辺には、米国と並ぶ核大国である中国もロシアも存在します。
 「核を持つ」というのは、他国から攻められる脅威をなくすた
めです。日本も米国の核の傘に守られています。
 この問題については、昨日のEJでご紹介した7月5日の「プ
ライムニュース」のビデオのうち、後編の鈴置高史氏の発言が参
考になるので、視聴していただきたいと思います。
 トランプ大統領も、金委員長も、「非核化」という場合、「朝
鮮半島の非核化」という言葉を使っています。北朝鮮の立場から
考えて、もし本当に非核化してしまうと、北朝鮮はどこかの核の
傘に入らないと、国防が危なくなります。現在、韓国は米国の同
盟国であるので、米国の傘に入っています。
 北朝鮮が中国の核の傘に入るという選択肢もありますが、北朝
鮮は、本音のところでは関係性がよくなく、この選択肢をとらな
いでしょう。それは、北朝鮮としては、中国をとるか、米国をと
るかの選択であり、どちらをとってもリスクがあります。
 朝鮮は、古く、中国の同盟国だったのです。日清戦争の下関条
約(1895年)で、朝鮮は、はじめて中国から独立することが
できたのです。政治評論家の鈴木棟一氏は、日本に対して「恨み
百年」なら、中国に対しては「恨み千年」である──こういって
います。北朝鮮は、果して米国を選ぶのか、中国を選ぶのか、こ
のあたりのことも分析する必要があります。今回ばかりは、ウソ
をいって米国を騙すことは困難であろうと考えます。
              ──[中国経済の真実/043]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩が米朝会談後に「中国属国化」の道を選んだ理由
  ───────────────────────────
   世界が注目した米朝首脳会談(シンガポール)から半月が
  たった。この間、金正恩はまたもや習近平を訪問した。今年
  3度目である。北朝鮮は本当に非核化に向かっているのか?
  この疑問を検証する前に、少し復習しておこう。
   6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談。共同
  声明の最重要ポイントは、「トランプ大統領は北朝鮮に安全
  の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非
  核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」という部分
  だ。もっと簡潔に言うと、「米国は北朝鮮の体制を保証し、
  北朝鮮は完全非核化すると約束した」。これが、ディールの
  核心である。
   この米朝首脳会談、日本でも世界でも「大失敗だ」という
  意見が大半を占めている。しかし筆者は、「大成功だった」
  と考えている。「会談は失敗だった」と主張する人は、「共
  同声明文にCVID──完全かつ検証可能で不可逆的な核廃
  棄の文字がないではないか」と憤る。「完全な非核化」とい
  う表現だけでは、不十分であり、金正恩の思うツボだという
  のだ。そもそも、なぜ「CVID」という言葉が出てきたの
  だろうか?米国は、北朝鮮がウソをつくこと、すなわち「非
  核化の約束だけをして制裁を解除させ、経済支援を受け、体
  制も保証させ、しかし核兵器は保有し続ける」という状況に
  なるのを恐れたのだ。      https://bit.ly/2S23nal
  ───────────────────────────


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トランプ大統領からの親書を読む金正恩党委員長
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2019年07月11日

●「北朝鮮が米国と組む可能性を分析」(EJ第5045号)

 北朝鮮は、どこと組もうとしているのでしょうか。中国か、ロ
シアか、それとも米国なのでしょうか。
 金正恩委員長のハラは、おそらく米国と組みたいと考えている
と思います。金王朝は、3代にわたって、米国寄りです。初代の
金日成(キム・イルソン)は、在韓米軍を否定しなかったといわ
れます。
 北朝鮮から見た場合、中国とロシアはいつでも口実を作って、
北朝鮮に兵を入れることができる危険な隣国です。北朝鮮は長く
中国の植民地であったし、ロシアと北朝鮮の関係についても、真
田幸光愛知淑徳大学教授は次のように述べています。、
─────────────────────────────
 ソ連、ロシアには北朝鮮は領土の一部との意識が根強い。日本
の敗戦と同時に、ソ連軍の傘下にあった金日成を送り込んで北朝
鮮という国を作らせたのですから。
 というのにソ連崩壊後、後身のロシアは国力を落とし、北朝鮮
へのカネや食料を与える余裕を急速に失った。そこに中国が入り
込んで、北朝鮮は中国が仕切る国と見なされるに至った。しかし
北朝鮮はロシアの前身たるソ連の勢力圏にあったのです。
                  https://bit.ly/2LdaLzg ─────────────────────────────
 現在の金正恩委員長の率いる北朝鮮にとって、一番の脅威は中
国です。中国が考えているベストシナリオは、北朝鮮内部で何ら
かの反乱が起こり、北朝鮮が混乱に陥るケースです。そういう事
態になれば、中国は、治安維持を名目にして、人民解放軍を進駐
させることができます。そういう北朝鮮国内の反乱を中国が仕掛
けて起こす可能性もあるのです。
 また、真田教授はこういいます。中国には、200万人の朝鮮
族がおり、国籍は中国人です。「北朝鮮で圧政に苦しむ中国の同
胞を救いに行く」と大義名分を立て、進駐することも可能です。
このように、金正恩委員長にとって中国は危険な隣国です。だか
ら、権力掌握後もなかなか中国には行かなかったのです。そうい
う状況下で、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)が、中国をバッ
クに権力を握ろうとしたので、粛清したのです。張成沢は、金正
男を擁して中国と図り、クーデターを起こそうとしたとも伝えら
れています。それほど、金正恩委員長は、中国を警戒しているの
です。中国に心を許すとは考えられません。
 こういう情報があります。2019年7月4日発行の夕刊フジ
『鈴木棟一の風雲永田町』の一節です。
─────────────────────────────
 米国のCIA(中央情報局)は、北朝鮮を中国から守るためと
して、「北朝鮮内に米国の基地を置く」ことを提案した、との情
報がある。習氏の北朝鮮訪問は、習氏の方から言い出したもので
米国に傾く正恩氏を引き戻そうという動きだ。
               ──『鈴木棟一の風雲永田町』
           /2019年7月4日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 「北朝鮮内に米国の基地を置く」とは驚くべき情報です。あり
えないという人も多いと思います。実際に、情報のウラが取れて
いるわけではありませんが、体制保証を取り付けようとする北朝
鮮に米国は、それに近い情報を北朝鮮に提供している可能性はあ
ります。中国は、いち早くこの情報を掴み、習近平主席が慌てて
G20サミットの前に、米国にシフトしかねない北朝鮮を急遽訪
問した可能性があります。
 事実上「決裂」という結果に終わったハノイでの米朝首脳会談
後の2019年3月15日、崔善姫(チェソンヒ)外務次官は重
要な発言を行っています。その要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
・北朝鮮はハノイ会談での米国の要求に屈するつもりも、そのよ
 うな交渉を持つつもりもない。
・(ポンペイオ米国務長官とボルトン米大統領補佐官を名指し)
 敵意と不信感の雰囲気を作り出し、米朝の最高指導者間の建設
 的な交渉努力を阻んだ。米国のギャングのような姿勢は、いず
 れこの状況を危機に陥れる。
・(しかしながら)両最高指導者間の個人的な関係は依然として
 良好で、相性は不思議なことに素晴らしい。 ──菅沼光弘著
             『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
       日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム刊
─────────────────────────────
 崔善姫外務次官のこの発言のあと、北朝鮮国内では、国内政治
上、大きな動きがあったのです。4月9日、朝鮮労働党の拡大政
治局会議が開かれ、10日には第4回中央委員会総会、11日に
は、北朝鮮の国会に当る最高人民会議が開かれています。そこで
次の人事が決まっています。
─────────────────────────────
    ・金永南最高人民会議常務委員長  → 退任
    ・崔龍海(チョリンヘ)党副委員長 → 後任
    ・崔善姫外務次官 →  第1外務次官に昇格
             国務委員会メンバーに選出
─────────────────────────────
 最高人民会議常務委員長といえば、対外的な国家元首の役割を
果すポジションであり、長きにわたって、金永南氏が務めてきて
います。しかし、既に年齢は91才であり、このさい、退任させ
て、まだ69歳の崔龍海氏を昇格させたのです。
 合わせて、米国の事情に詳しく、米国に多くの知己を持つ崔善
姫外務次官を第1外務次官に昇格させたことは、今後のトランプ
政権とのディールに備えた布陣と考えられます。これによって、
崔善姫第1外務次官は、米朝協議においては、金正恩委員長の首
席報道官的役割を担うことになると思われます。この金委員長の
意欲が、板門店での第3回米朝首脳会談を実現させることにつな
がったのです。       ──[中国経済の真実/044]

≪画像および関連情報≫
 ●「親米国家」北朝鮮の誕生で日本の安全保障はこう変わる
  ───────────────────────────
   今後の東アジアの安全保障と国際関係を大きく左右する米
  朝首脳会談がいよいよ始まる。トランプ米大統領と金正恩朝
  鮮労働党委員長との「世紀の対決」の注目ポイントは何か、
  考えてみたい。
   今回の米朝首脳会談の結果次第では、北朝鮮とアメリカと
  いう「不倶戴天の敵」が「友好国」に一変する可能性を秘め
  ている。実際、おそらく米朝首脳会談が始まる段階で「北朝
  鮮の非核化」とその見返りとなる「体制保証」という大きな
  「取引」の枠組みは決まっていると推測される。
   ただ、枠組みをより具体的にさせ、友好国同士になるため
  には「敵」である米朝のどちらも相手に大きく譲歩する必要
  性がある。もし、譲歩が十分でなければ、米国側の経済制裁
  や軍事的圧力、北朝鮮の核・ミサイル開発の再開という昨年
  までの流れに戻ってしまうだろう。では、実際に何を米朝が
  譲ることになるのか。
   米国側の「誘い水」ともいえる妥協のポイントは、すでに
  少しずつ明らかになっている。中でも、トランプ氏が日米首
  脳会談直後の記者会見で伝えたように「朝鮮戦争終結宣言」
  は米国の考えるスタートラインのようである。北朝鮮に対す
  る「敵視政策」を止めるという意思表示であり、あくまでも
  「協定」とかではなく、「宣言」ならしやすいという見方で
  あろう。            https://bit.ly/2JCOTtC
  ───────────────────────────

昇格の崔龍海氏と崔善姫両氏.jpg
昇格の崔龍海氏と崔善姫両氏
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2019年07月12日

●「なぜ韓国はレーダーを照射したか」(EJ第5046号)

 日本による輸出規制の強化で韓国の文在寅大統領の対応がドタ
バタしています。7月10日、文大統領は、大手財閥のトップを
緊急招集し、「官民緊急体制」を構築しようとしています。この
文在寅大統領は、何事でもそうですが、本質と向き合おうとはせ
ず、姑息な対応に終始する人です。
 この会合に、サムスン電子の李在鎔(イ・ジョヨン)副会長と
ロッテの辛東彬(シン・ドンゴン)会長は日本出張のため、欠席
しています。サムスン電子の李在鎔副会長は今週はじめから日本
に滞在し、銀行をはじめ、日本で関係者と協議を重ねています。
大統領と話しても解決する問題ではないからです。この会議への
出席者の本音も次の通りです。
─────────────────────────────
 政府が話し合うべきは、われわれではなくて、日本政府では
 ないのか。             ──大手財閥トップ
─────────────────────────────
 韓国の文在寅政権と北朝鮮の金正恩政権はおかしい──このよ
うに考える人が多くなっています。文大統領は、2018年9月
に金正恩委員長の招きで訪朝し、首脳会談のあと、マスゲームに
招待されて、大歓迎され、完全に舞い上がってしまったのです。
もともと、この大統領は、着任当初から北朝鮮に融和姿勢をとっ
てきた人ですが、この訪朝で、完全に金委員長に取り込まれてし
まったといえます。
 実は、このことと、昨年末からの数々の韓国の日本に対する不
可解な対応とは重要な関係があるのです。先日、朝鮮問題に関す
る次の新刊書を購入し、現在読んでいます。
─────────────────────────────
       元公安調査庁調査第2部長/菅沼光弘著
         『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
    日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム
─────────────────────────────
 著者の菅沼光弘氏は、1959年に公安調査庁に入庁し、35
年間にわたって、ソ連、北朝鮮、中国の情報収集の仕事に従事し
た諜報関係のプロです。この本のなかに、韓国海軍のレーダー照
射事件のことが書かれています。
 その真相は、一般にいわれているものとは、まるで違うもので
す。それは、北朝鮮の内部事情がわかっていないと絶対に書けな
い内容であるので、EJのスタイルでご紹介することにします。
 期日は2018年12月20日、午後3時頃、場所は能登半島
沖の日本の排他的経済水域内に、韓国警備救難艦「サンボンギョ
5001」と北朝鮮の漁船2隻、それに加えて少し離れたところ
に、韓国海軍駆逐艦「クアンゲト・デワン(広開土大王)」がい
たのです。このとき、海上自衛隊P・1哨戒機が、能登半島沖の
海上で警戒監視中だったのです。
 この状況において、P・1哨戒機は、異様な船舶が集結してい
るので、監視しようとしたのです。そのとき、いきなり、韓国海
軍駆逐艦から、火器管制レーダーの照射を受けたのです。ここか
らすべてが始まっています。
 この火器管制レーダーの照射は、ミサイルや砲弾を命中させる
ために、目標にレーダー波を継続的に照射して、その位置や速度
などを正確に把握するために行うものです。したがって、レーダ
ー照射を受けた航空機は、急遽退避行動を取ります。
 そもそも、なぜ、日本の排他的経済水域に、2隻の北朝鮮の漁
船、韓国の警備救難艇、それに韓国の駆逐艦がいるのかです。韓
国側の説明によると、北朝鮮籍の漁船が遭難したので、それを救
助に来たというのです。しかし、当日の天候は悪くなく、遭難す
るような状況ではないのです。それに救難にしては、あまりにも
大袈裟です。2隻の小さな漁船に対して、5000トン級の警備
救難艇、さらに駆逐艦まで現場に駆けつけているからです。
 後でわかったことですが、漁船からはSOS信号は発信されて
いないのです。もし、無線でSOS信号が出ていれば、当然日本
も気が付くはずです。海上保安庁は無線をキャッチしていないの
です。それなら韓国は、どのようにして、漁船の遭難を知ったの
でしょうか。
 もうひとつ、表に出ていない情報があります。漁船は2隻で、
漁船に乗っていたのはたったの4人であるということです。それ
を助けるために、警備救難艇と軍艦が駆け付ける──きわめて異
常な状況です。
 推測ですが、それは、韓国から北朝鮮への「瀬取り」の現場で
あったとするものです。しかし、この説には難点があります。そ
れは、なぜ、日本の排他的経済水域というリスクの多い場所をわ
ざわざ選んだのかということです。もっと安全な場所がいくらで
もあるはずです。まして人数が4人ということになると、瀬取り
は考えられません。
 これに関して、菅沼光弘氏の推理はさすがです。これは、現在
の韓国と北朝鮮の親密度をよくあらわしています。
─────────────────────────────
 ここからは、私の推測ですが、どうも北朝鮮から韓国政府に対
して、ひそかに依頼があったのではないだろうか。
 北朝鮮から外に出ることになると、北にとって大変不都合な人
がその船に乗っていたのではないか。軍艦を派遣するというのは
武装している可能性があったからではないか。普通の巡視艇では
撃沈されるかもしれない。それでは、誰がその漁船″に乗って
いたのか。結果論から言うと不明です。韓国は、誰が乗っていた
かも、漁民であったかどうかも、一切発表していません。救出し
た人たちをただちに北朝鮮に送り返してしまった。
                ──菅沼光弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 場所から考えて、4人は、漁船を使って日本に逃げ込もうとし
たと思われます。どういうことが考えられるかについては、来週
のEJでお話しします。   ──[中国経済の真実/045]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ韓国艦はレーダー照射したのか/長谷川幸洋氏
  ───────────────────────────
   韓国海軍の駆逐艦が、海上自衛隊P1哨戒機に対して火器
  管制用レーダーを照射した問題が長引いている。問題そのも
  のは、あまりに韓国が子供じみていて、まともに論じる気に
  もならないが、この際、「韓国とどう付き合うべきか」は考
  え直してみる必要がある。
   私は「もはや韓国は友好国ではない」という前提で対応す
  べきだと思う。韓国人に対する「90日間のビザなし入国措
  置」も見直すべきだ。簡単に問題を振り返ると、韓国駆逐艦
  は昨年12月20日午後、日本の排他的経済水域(EEZ)
  である能登半島沖で、海自哨戒機に対し、複数回、数分間に
  わたって火器管制用レーダーを照射した。当初、韓国海軍は
  レーダー照射を認めていたが、24日になって照射の事実を
  否定した。
   これに対し、防衛省は哨戒機が撮影した当時の映像を公開
  したが、韓国側は「威嚇的な低空飛行をした」として日本に
  謝罪を求めた。火器管制用レーダーを照射すれば特有の電波
  が記録されるので、日本側は証拠を握っている。防衛省が公
  開した動画でも、「間違いなく向こうのFC系(火器管制レ
  ーダー)です」「記録がとれているかどうか確認してくださ
  い」「データはとれています」という機長とクルーの冷静な
  やりとりが公開されている。   https://bit.ly/2LhBdra
  ───────────────────────────

韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」.jpg
韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」
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2019年07月16日

●「北朝鮮要人は漁船で日本に亡命か」(EJ第5047号)

 2018年12月20日、能登半島沖の日本の排他的経済水域
──そこに2隻の北朝鮮の漁船がいたのですが、この船にはたっ
た4人しか乗っていなかったのです。この4人とは、果して何者
でしょうか。この4人がどういう人物かについて、菅沼光弘氏の
本から要約します。
 金正恩氏の父、金正日氏が亡くなったのは、2011年12月
17日のことです。金正日氏がとっていた政治は「先軍政治」で
あり、軍が経済を含めてすべての国家権力を握る政治体制です。
このときは、当然のことながら、軍隊や軍人が優遇されていたの
です。なかでも、権力を持っていたのは、金ファミリーを護衛す
る任務を持つ護衛総局という部署で、李乙雪(リ・ウルソル)と
いう人物が司令官を務めていたのです。朝鮮人民軍元帥には、当
然金正恩氏が就任していますが、李乙雪も元帥の称号を持ってい
たのです。
 李乙雪は、金日成に仕え、あのパルチザン戦争にも参加した勇
者で、金正恩氏が2012年4月に軍事パレードを観閲したとき
はまだ健在であり、金委員長の隣に元帥の服を着て立っていまし
た。彼は贅沢三昧を尽くし、金ファミリーよりも、豪奢な生活を
していたといわれています。
 しかし、金正恩委員長は、父親の「先軍政治」とは異なる政治
体制を目指そうとしたのです。彼は、真の強国とは「経済に強い
国」であると考えていたからです。念頭にあったのは、中国では
なく米国です。それに当時の軍は腐敗にまみれており、根こそぎ
の改革が急務でした。中国と同じです。そして打ち出したのが、
「並進政治」です。並進政治とは、軍事建設もやるが、経済にも
重点を置き、軍事と経済を並進させるという意味です。
─────────────────────────────
        金正日 ・・・・ 先軍政治
        金正恩 ・・・・ 並進政治
─────────────────────────────
 金正恩委員長は、軍人よりも科学者、とくに核やミサイル技術
やIT技術に優れた科学者を優遇したり、何とか経済を活性化さ
せようと力を入れたのですが、それをやればやるほど、経済制裁
がきつくなっていったのです。それに軍の改革は、李乙雪元帥が
健在のうちは、さすがに手をつけられなかったのです。
 その李乙雪元帥は、2015年11月7日に死亡し、軍事改革
を進めるのに、障害はなくなったのです。それ以後のことについ
て、菅沼光弘氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 李乙雪が死んで、軍人の粛正が進めやすくなった。金正恩は、
次々と軍人を粛清してきましたが、最後に残ったのが護衛総局で
す。金正恩はこれに手を着け、かなりの人を逮捕した2018年
12月に「遭難した漁船」には、護衛総局の幹部の何人かが逃亡
するために乗っていたのではないか。金正恩が彼(ら)を捕まえ
てくれ、と文在寅に頼んだというのが、事の次第ではないかと私
は考えています。もし、そうだとすれば、日本も北朝鮮に協力し
たことになるのですね。海上自衛隊のP・1哨戒機は、すべてを
知っていたと考えるのが常識です。      ──菅沼光弘著
             『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
        日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム
─────────────────────────────
 この菅沼光弘氏の説は、なかなか説得力があります。人民軍の
幹部が次々と逮捕され、処刑されるのを見て、幹部級の大物が漁
船で日本を目指し逃亡を図る──十分考えられることです。なぜ
漁船なのかというと、北朝鮮の場合、航空機を使うことが困難で
あり、漁船を使うのが一番手っとり早いからです。目指すのは日
本。日本は沿岸警備が甘く、上陸しやすいのです。実際に、多く
の北朝鮮の漁船が沿岸で発見されています。
 推測ですが、当局が逮捕を予定していた元護衛総局の大物幹部
数人が漁船に乗って逃亡を図った。わかったのは、出航してかな
り経ってからです。報告を受けた金正恩委員長は、韓国の文在寅
大統領に電話して、「捕まえてくれ」と依頼したのではないか。
そのとき、武装していることも伝えています。
 文在寅大統領は、この要請を受けて、直ちに警備艇と攻撃され
ることにも備えて、駆逐艦を派遣したのです。もしかすると、日
本の哨戒機に発見されたとき、火器管制レーダーを発射して追い
払うことも最初から考えていたのではないでしょうか。文在寅大
統領としては、ここで金正恩委員長を助けておけば、あとあと韓
国にプラスになると計算したと思われます。
 韓国には「事大主義」という考え方があります。これは「弱い
者が強い者の言いなりになって仕えること」という意味です。直
近の「事大」として、菅沼光弘氏は、韓国におけるTHHADミ
サイル設置をめぐる一連の対中姿勢にあると指摘しています。し
かし、日本に対してはヒステリックに文句をつけてくるのです。
─────────────────────────────
 韓国はTHHADミサイルを2017年9月に慶尚北道星州に
配備したと発表しました。国内の反対運動が盛んで場所をどこに
するか、大もめにもめたのですが、結局ロッテ財閥が開発したゴ
ルフ場に設置されました。
 韓国の言い分では北朝鮮のミサイルに備えるという口実で配備
したのですが、設置場所から見ても、中国のミサイルがアメリカ
に飛んでいく前に迎撃するためだ、というのが明々白々でした。
当然、中国が韓国に対して猛烈なクレームを付けてきます。中国
は、中国国内にあるロッテグループの工場や店舗を全部閉鎖して
しまいました。それだけの報復を受けたわけですが、文在寅政権
はなんの抗議もしなかった。唯々諾々とそれを受け入れた。これ
を「事大主義」と言わずして何を事大主義と言うか。
                ──菅沼光弘著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/046]

≪画像および関連情報≫
 ●半島国家の悲しき世界観/宮家邦彦氏
  ───────────────────────────
   日本の嫌韓派の人々が韓国を批判する際によく使う言葉が
  「事大主義」の弊害なるものだ。事大主義といっても若い読
  者はあまりピンと来ないだろうが、北東ユーラシアの地政学
  を理解するうえで、「事大主義」は、「華夷思想」「冊封体
  制」「朝貢関係」などとともに、必須の概念だといえよう。
   事大主義とは、「小」が「大」に事える、つまり、強い勢
  力には付き従うという行動様式であり、語源は、『孟子』の
  「以小事大」である。国語辞典によれば、「はっきりした自
  分の主義、定見がなく、ただ勢力の強いものにつき従ってい
  く」という意味で、たとえば次のように使われる。
   事大主義とは朝鮮の伝統的外交政策だ。大に事えるから事
  大。この大というのはむろん中国のことなのだが。つまり中
  国は韓国の上位にある国だったから、そこから侵略されても
  ある程度仕方がないとあきらめる。しかし、日本は韓国より
  下位の国だ、だから侵略されると腹が立つ。上司になぐられ
  ても我慢できるが、家来になぐられると腹が立つ、という心
  理だ。(2013年12月16日付、『NEWSポストセブ
  ン』)朝鮮は、中国に貢ぎ物をささげる朝貢国として、存続
  してきた。大国に事える事大主義の伝統が抜きがたくある。
  日本が近代化に懸命に汗を流しているころも、官僚らは惰眠
  をむさぼり、経済も軍事力も衰亡していた。その朝鮮を国家
  として独立させ、西洋の進出に備えようというのが日本の姿
  勢だった。(2014年7月19日付、『産経新聞』WEB
  版)              https://bit.ly/30qElVo
  ───────────────────────────

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李乙雪元帥と金正恩委員長
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2019年07月17日

●「羅先にTHAADを設置する提案」(EJ第5048号)

 2019年7月11日のEJ第5045号で、「北朝鮮に米軍
基地を置く」という情報をお伝えしましたが、多くの人は「そん
な馬鹿な!そんなことはあり得ない」と考えたと思います。情報
の出所は4日発行の「夕刊フジ」の連載コラム、鈴木棟一氏のコ
ラム『風雲永田町』です。
 ところが7月4日発行の「夕刊フジ」で、今度はジャーナリス
トの有本香氏が、自身のコラム『有本香の以読制毒/読を以て毒
を制す』において、この情報について次のように述べています。
─────────────────────────────
 ◎北朝鮮に米軍基地計画情報/金正恩が懇願か
  筆者が最初にこの話を耳にしたのは、ベトナムの首都ハノ
 イで行われた米朝首脳会談の少し後。与太話の類と思って聞
 き流した。だが、最近、複数の朝鮮ウォッチャーが口にし、
 政府関係者からも「関心を寄せざるを得ない話題」との言を
 得、無視できないと思い直した。
        ──2019年7月11日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 有本香氏は、この情報に関連して、北朝鮮の北東部、日本海に
面する羅先(ラソン)という港町のことを取り上げています。こ
の羅先という町は、北朝鮮の経済特区になっており、主として中
国とロシアの資本が入っています。
 カジノが完備しているエンペラーホテルは、香港資本のホテル
であるし、羅津港は中国とロシアが整備しています。中国は羅津
港の一部埠頭の50年間の租借権を持っていますが、この契約を
率先してやったのが、叔父の張成沢であり、現在のところこの租
借権は宙に浮いています。
 ロシアは、ロ朝国境のハサン駅から羅津港まで約50キロメー
トルをロシアの車両が台車交換なしで直接乗り入れることができ
る工事を2013年秋に完成させています。
 このように、北朝鮮が他のアジア諸国の中国による港湾整備案
件と違うことは、中国だけでなく、ロシアやモンゴルなどにも利
用を呼びかけて、「3すくみ」の状態を作り、どこか一国、例え
ば中国に勝手をさせないようにすることです。この「3すくみ」
の状況について有本香氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 周囲の大国を次々と自らの問題に引き込み、時々に優勢な国に
付いて利を得る。この事大主義的外交術は、古来、朝鮮で行われ
てきた「伝統芸」だ。といっても現在のところ、中露をすくませ
るに十分な「第3の力」を得るに至っていない。
 そこで考えた「ウルトラC」の新ターゲットが、ドナルド・ト
ランプ大統領の米国ということのようだ。金正恩朝鮮労働党委員
長自身が「羅先」に言及し、トランプ氏やマイク・ポンペオ国務
長官に、「韓国が配備を嫌がっている米軍の最新鋭迎撃システム
『THAAD/高高度防衛ミサイル』をうちへ」といったとの仰
天話も聞かれる。 ──2019年7月11日発行「夕刊フジ」
          『有本香の以読制毒/読を以て毒を制す』
─────────────────────────────
 驚くべきことであるが、真偽のほどはわからないものの、金正
恩委員長は、「『THAAD』を羅先に設置してはどうか」と提
案しているというのです。それは、米軍基地を羅先に置くことを
意味しています。そうすると、羅先に申し分ない「米中露の3す
くみ」の状態ができることを意味し、金正恩委員長の狙いである
体制保証は実を結ぶことになります。
 実際にこういう提案が行われたかどうかは不明ですが、トラン
プ大統領としては、金正恩委員長を年齢は若いが、なかなかでき
る男と評価しているはずです。「この男、他にやることはないの
か」とか、「リトルロケットマン」とこき下ろしていたときと比
べると、大変な変化です。
 対照的に評価を大きく落としているのは、韓国の文在寅大統領
です。せっかく米朝の仲介役を買って出たのですが、以後は完全
にお役御免です。今回の板門店での歴史的米朝首脳会談にも、文
在寅政権は関与していないのです。
 そもそもG20大阪サミット直後の韓国訪問も、何度も米国に
懇願してやっと実現したものですが、トランプ大統領はその場を
利用して、韓国抜きで親書とツイートで確かめ合い、劇的に板門
店で会談を開いたのです。これについて、国際舞台で活躍する国
際交渉人の島田久仁彦氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 今回のサプライズに際し、一つ確実に言えることがあるとした
ら、残念ながら「韓国そして文大統領は全く関与していない」と
いうことでしょう。29日のG20会合中に、トランプ大統領か
ら、「私のツイート見たか?」と尋ねられ、「はい」と答えたと
伝えられていますが、それまで何も知らされておらず、この“工
作”に全く関与できていないことが浮き彫りになりました。
 そして、面白いことに、頼みに頼み込んで大阪の後、ソウルに
立ち寄ってもらい、米韓首脳会談を!と狙っての招待だったにも
拘らず、実質的に米韓で話し合われた内容は、正直何もなく、こ
の訪問自体、うまくアメリカに“利用”されてしまいました。
 それでも意地からでしょうか。トランプ大統領に付き添って板
門店に赴きましたが、米朝の間に入ることはできず、38度線を
挟んでトランプ大統領と金正恩氏が握手するという歴史的な瞬間
にも立ち会うことが許されませんでした。
 皆さんも生中継の映像を観られたかもしれませんが、トランプ
大統領が韓国側の建物からドアを開けて出た際、後ろに文大統領
が控えていましたが、歩き出して自分も2人の首脳に加わろうと
思った矢先、目の前でドアを閉じられてしまいました。まるでト
ランプ大統領から「お前は用なしだ!」とでも言われたかのよう
な瞬間でした。           https://bit.ly/2xX9T9j
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/047]

≪画像および関連情報≫
 ●サプライズ米朝会談実現でも「文在寅はずし」は終わらない
  ───────────────────────────
   6月30日、トランプ米大統領の「ツイッター提案」から
  始まった板門店(パンムンジョム)でのサプライズ米朝首脳
  会談の推移を、韓国メディアは固唾を飲んで見守った。
   韓国メディアが関心を寄せたのは、会談そのものの成否だ
  けではない。それに劣らず、文在寅大統領の「立ち位置」が
  注目の的となったのだ。というのも、北朝鮮メディアはこの
  前日まで、「思考と精神がマヒしている」などと言葉を極め
  て文在寅大統領を罵倒していたからだ。
   文在寅政権はこの間、北朝鮮に対してたいへんな気の使い
  ようだった。特に、金正恩党委員長が最も批判されることを
  嫌う、北朝鮮国内における残忍な人権侵害からは露骨に目を
  背けてきた。
   それにもかかわらず、北朝鮮は最近になって、文在寅氏に
  対する個人攻撃を開始していた。日米との不協和音に加え、
  北朝鮮からもハシゴを外される危機に直面していたのだ。北
  朝鮮が腹を立てているのは、韓国が米国との協調を優先し、
  南北首脳会談で合意したはずの経済協力に、文在寅政権がな
  かなか踏み出そうとしないからだ。もっとも韓国としても、
  北朝鮮の非核化が進展していない以上、おいそれと経済協力
  に踏み出すことなどできない。そこで文在寅政権は、米朝対
  話の「仲介者」を自任して当事者としての立場を守ろうとし
  てきたわけだが、北朝鮮は「(韓国の)仲介など不要だ」と
  明言している。これを受けて韓国メディアは、北朝鮮が板門
  店での米朝首脳の対面の場から、文在寅氏を締め出すのでは
  ないかと心配したわけだ。    https://bit.ly/2xKdreN
  ───────────────────────────

劇的で歴史的な米朝首脳会談/板門店.jpg
劇的で歴史的な米朝首脳会談/板門店
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2019年07月18日

●「映画『新聞記者』の狙いとは何か」(EJ第5049号)

 この連載は、米中貿易戦争下の中国経済がどうなるかがメイン
テーマです。しかし、7月8日のEJから、この問題に関係する
米国と北朝鮮の問題を取り上げて書いています。今週は、日本で
は、参院選最終ウィークであり、今日と明日は、脱線しついでに
選挙に絡む問題についても書くことにします。そして、22日か
ら話を中国の問題に戻します。
 7月12日のことですが、折からの降りしきる雨のなか、澁谷
まで足を運んで、話題の映画『新聞記者』を観に行きました。ど
うしても観たかったし、12日が上映の最終日だったからです。
 どこでこの映画を上映しているのか。新聞にはまったく出てお
らず、ネットに頼って、上映館を見つけました。澁谷の「ユーロ
スペース」という聞いたことのない映画館です。やっと映画館を
見つけて、驚きました。すべて座席指定の入れ替え制なのです。
しかも満員。やっと入場券を手に入れましたが、もう少し、遅く
行ったら、この回は観られないところでした。
 観客は、中高年とシニアばかりと思っていましたが、かなり若
い人も多く、ほとんど宣伝もしていないのにもかかわらず、すぐ
満員になりました。この映画がいかに話題になっているかがよく
分かります。それにしても、ほとんど新聞を読まない現代の若者
が『新聞記者』という映画を観るとは!、ちょっと驚きでした。
 映画の興行収入は、公開6日目に1億円を突破し、初週末3日
間の数字を2週目週末が上回り、動員対比102・9%、興収対
比104・1%の高稼働を記録しています。そして、公開11日
目の8日(月)、動員数は、実に17万2127人、興行収入は
2億1055万5640円と、遂に2億円を突破しています。
 よく知られているように、この映画は、東京新聞社会部記者の
望月衣塑子氏の著書『新聞記者』(角川書店)を原案としていま
すが、本の内容は、望月衣塑子氏のいわば自伝のノン・フィクシ
ョンです。これを基にして、フィクションに仕上げたのは、河村
光庸プロデューサーと藤井道人監督の仕事です。
 まずはともあれ、この映画の「予告編」がありますので、ご覧
ください。時間は1分8秒です。
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       映画『新聞記者』/予告編(動画)
            https://bit.ly/2Y3HRqZ
             配給会社スターサンズ
 韓国の若手女優シム・ウンギョン演じる新聞記者・吉岡エリカ
が働く新聞社に、「医療系大学の新設」に関する秘密文書がファ
クスで届く。吉岡が内閣府のキーパーソンである神崎にたどり着
こうとした矢先、神崎が自殺する。
 一方、松坂桃李ふんする内閣情報調査室の若手官僚、杉原拓海
は外務省時代の神崎の後輩。慕っていた上司の死をきっかけに官
邸の闇を知り、吉岡と出会う。そこから2人は人生をかけた選択
を迫られていく・・・・。
─────────────────────────────
 この映画『新聞記者』は、通常の映画と異なることが、実にた
くさん起きたのです。いくつか上げてみます。
─────────────────────────────
     1.主役がなかなか決まらなかったこと
     2.全テレビ局がプロモーションを拒否
     3.映画関連サイトのサーバーがダウン
     4.ネットでの異常な批判的な書き込み
─────────────────────────────
 なぜ、このようなことが起きたのでしょうか。
 それは、この映画が安倍政権下で起こった数々の不正を描いて
いるからです。しかも、映画が公開される期間が参院選の期間と
重なっているからです。
 安倍政権下の数々の不正とは、さまざまな国会の論戦でも、政
府側の問題のはぐらかし、逃げの答弁、ごはん論法などによって
国民の多くが今でも釈然としないと感じていることばかりです。
 株式会社ロストニュースが編集制作し、株式会社サイゾーが配
付展開する日本のニュースサイト「リテラ」では、次のように表
現しています。
─────────────────────────────
 映画『新聞記者』には、安倍政権下で実際に起こった様々な不
正を想起させるエピソードがてんこ盛りになっている。たとえば
物語の核でもある大学新設計画をめぐる不正は明らかに加計学園
問題を意識させるし、ほかにも、前川喜平・元文科事務次官への
謀略報道をモチーフにしているとしか思えない文科省官僚に対す
るスキャンダル攻撃、伊藤詩織さんの告発を彷彿とさせる“総理
ベッタリ記者”による性暴力事件もみ消し、森友公文書改ざん問
題を示唆する官僚の自殺などのエピソードも出てくる。
 さらに、こうした政権の謀略を担う機関として、内閣情報調査
室がクローズアップされ、映画で描かれた数々の謀略工作のほと
んどに関与しているという設定になっていた。
                  https://bit.ly/2NRBAuC
─────────────────────────────
 東京新聞社会部の望月衣塑子記者といえば、菅官房長官に対し
て、大きな声で鋭い質問をすることで、知られており、官邸から
さまざまな嫌がらせを受けているといわれます。その望月記者の
本を原案とする映画ができることで慌てた官邸は、映画の内容を
を公開前に手に入れ、激怒したといわれます。テレビ局への締め
付けは、当然官邸の指示によるものと思われます。
 「この国は形だけの民主主義でいいのだ」──これは内調の若
手官僚杉原(松坂桃季)の上司の言葉ですが、その言葉通りのこ
とを官邸はやっています。テレビでの映画のプロモーションを妨
害し、唯一のネットの公式サイトでのプロモーションも、複数の
特定IPアドレスからの集中攻撃によってサーバーがダウンさせ
られ、思うにまかせなかったのですが、それでも映画は満員の盛
況なのです。        ──[中国経済の真実/048]

≪画像および関連情報≫
 ●批評家が絶賛、映画「新聞記者」が暴いた安倍政権の暗部
  ───────────────────────────
   老後資金2000万円不足問題や、ずさんなイージス・ア
  ショア候補地調査など、参院選を前に国民の怒りをかきたて
  る不祥事が続く安倍政権だが、28日から公開される、映画
  「新聞記者」のキョーレツな内容は、さらに彼らを悩ませる
  ことになりそうだ。
   東京新聞記者・望月衣塑子氏(44)のノンフィクション
  を原案に、「デイアンドナイト」など本格的な人間ドラマで
  定評ある藤井道人監督が、映画オリジナルの脚本を練り上げ
  て実写化したポリティカルドラマ。これが今、試写を見た業
  界関係者の間で大変な話題になっているのだ。その内容を、
  映画批評家の前田有一氏が驚きを隠せぬ様子で語る。
   「タイトルこそ著書に合わせていますが、映画版はもはや
  “安倍政権の闇”とでも題したくなるほど現政権の疑惑を網
  羅した内容です。最近ハリウッドでは、チェイニー副大統領
  を描いた『バイス』など政治批判の映画が話題ですが、しょ
  せんは過去の話。本作は現政権の、現在進行中の未解決事件
  を映画化した点で前代未聞です。ハリウッドでさえ、こんな
  ことをしようという無謀な映画人はいない。社会派映画史に
  刻まれるべき偉業です」
   映画は女記者(シム・ウンギョン)が、加計学園がモデル
  とおぼしき特区の新設大学にまつわる内部告発を受け取材を
  始めたところ、あらゆる手段で政権を守ろうとする内閣情報
  調査室から激しい妨害にあう様子を、重厚な演出で描く。
                  http://exci.to/2JIUDlF
  ───────────────────────────

東京新聞社会部望月衣塑子記者.jpg
東京新聞社会部望月衣塑子記者

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2019年07月19日

●「主役が敬遠した映画『新聞記者』」(EJ第5050号)

 映画『新聞記者』が、結果として、安倍政権を批判する内容に
なったのは、東京新聞社会部記者、望月衣塑子氏の本(『新聞記
者』/角川書店)を原案としているからです。望月記者といえば
菅官房長官の会見の席で、よく通る大きな声で、鋭い質問をする
ことで有名であり、それがきっかけになって、有名になった新聞
記者です。
 官房長官の会見では、菅官房長官の番記者の質問が中心で、な
かなか番記者以外の記者に質問は回ってこないのです。しかし、
望月記者は、そこは巧みに、かなり強引に質問を行います。した
がって、番記者からさまざまな妨害を受けますが、望月記者はい
つも敢然と官房長官に鋭い質問を浴びせます。官房長官としては
もっとも質問して欲しくない問題を臆せず取り上げて質問するの
で、菅官房長官からは露骨に嫌われています。
 望月記者は、2017年3月、森友学園、加計学園の取材チー
ムに参加し、前川喜平文部科学省前事務次官へのインタビュー記
事などを手がけたことや、元TBS記者からの準強姦の被害を訴
えた女性ジャーナリスト伊藤詩織氏へのインタビュー、取材をし
たことで、「告発している2人の勇気を見ているだけでいいのだ
ろうか」と思いたち、2017年6月から、菅官房長官の記者会
見に出席するようになったのです。
 安倍政権の最大の問題点は、メディアを規制して、国民の知る
権利を制限する傾向があることです。官邸はテレビ番組をウオッ
チングし、政府批判をするコメンテーターを慎重に排除したり、
番組そのものを潰したり、政権にとって不利な言説を封じようと
します。基本的には、中国のやっていることと、程度の差こそあ
れ、あまり変わらないひどさです。
 そのため、森友学園にしても、加計学園にしても、それに関連
する文書改ざん事件にしても、真相が明らかにならないまま幕引
きをされ、国民の間には何となくすっきりしない、もやもや感が
残っていることは確かです。映画では、安倍政権で起きたそれら
の問題の裏側で何が行われているのか、新聞記者の立場から迫る
内容になっています。
 映画『新聞記者』では、松坂桃季演じる内閣情報調査室の官僚
杉原と、韓国人女優シム・ウンギョン演じる東都新聞記者吉岡が
ダブル主演を務めています。なぜ、この映画の主演が韓国人なの
かという点については、吉岡のキャスティングが難航したからで
す。当初は、宮崎あおいや満島ひかりを予定して交渉したのです
が、いずれも断られています。なぜなら、この映画に出演すると
内容が内容だけに、「反政府」のイメージがついてしまうことを
恐れたからです。その結果、吉岡エリカ役には、韓国人女優のシ
ム・ウンギョンが抜擢されることになったのです。役柄としては
日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、米国育ちという設定に、
なっています。
 それだけ、安倍政権下では、一度政権に睨まれると、ろくなこ
とがないのです。俳優といえども、その後の仕事について、何ら
かの不利益なことが起きる可能性があるからです。いや、実際に
起きているのです。これが現安倍政権の最大の問題点であると、
私は考えています。こんなことがあっては絶対にいけないし、政
権としてやってはならないことです。
 そういう意味において、人気俳優の松坂桃季が、この映画に主
演した意義は大きいとして、ある映画ライターは、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 人気俳優の松坂がこの映画の出演をよく承諾したと映画関係者
の間では話題になっています。映画の中でも正義と職務の間で葛
藤する官僚の役柄をみごとに演じている。役者としても一皮むけ
たと思います。            ──ある映画ライター
                  http://exci.to/2XGLsMq
─────────────────────────────
 この映画の監督は藤井道人です。河村プロデューサーは、藤井
監督が、「人間の善悪」をテーマに撮った前作「デイアンドナイ
ト」を見て、「若い感覚でこの映画を撮ったら、きっと受けると
直観的に思ったと」といいます。
 しかし、当の藤井監督は、河村プロデューサーから、この映画
の監督の依頼を受けたとき、すぐに断っています。政治的な問題
ではなく、自分に合わないと考えたからです。藤井監督は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 政治も勉強したことがないし、自分で新聞も取ったことが、な
かった。親は新聞を取っていたけど、大学に入って一人暮らしを
始めたときに月4000円も払えないし。自分が「参加していな
い」ってことも自覚はしていた。断るには十分な理由があったん
ですよね。                ──藤井道人監督
                  https://bit.ly/2YdGbM0
─────────────────────────────
 そこからが、河村プロデューサーと藤井監督との話し合いがは
じまったのです。「政治に興味がない」といったとき、河村プロ
デューサーの次の言葉が印象に残ったといいます。
─────────────────────────────
 政治に興味がない、政治から逃げるっていうのは、民主主義を
放棄しているってことだと俺は思う。 ──河村プロデューサー
─────────────────────────────
 この言葉は心に響いたと藤井監督はいっています。新聞を読ん
でいない監督が描く新聞記者の世界──望遠レンズを使って撮る
など、若い監督らしい工夫が満載の作品です。よくぞ制作したと
いう感じです。ジャーナリストの田原総一朗氏は、この映画を次
のように絶賛しています。
 「面白い!!非常にドラマチックかつサスペンスフル!新聞記
者と上層部の関係、官僚機関の構造がよくわかった。ジャーナリ
スト/田原総一朗」     ──[中国経済の真実/049]

≪画像および関連情報≫
 ●内閣調査室が望月記者を調べ始めているという証言あり
  ───────────────────────────
   もうひとつ興味深かったのは、この座談会で東京新聞の望
  月記者も自分が内調に狙われていたことを明かしたことだ。
  「私自身の記憶で言うと、やはり非常にバトルを官房長官と
  やっていたときに、ある内調(の人物)が、非常に仲が良い
  と、私はその議員が誰だか知らないんですけど、その国会議
  員に、内調が『望月さんってどんな人?』という調べる電話
  をかけてきた。この国会議員が非常に仲が良い、あるジャー
  ナリストの人に『望月さんのこと内調が調べ始めたよ』とい
  う話をするんですね。この人から私に『望月、調べられてい
  るから気を付けておけ』っていう」「彼(内調)が知ってい
  る政治家とかジャーナリストを使って、あなたを見ているん
  ですよと、ウォッチングしているんですよ、ということを、
  やっぱり政権を批判的に言ったり厳しめにつっこんでいる私
  とかに対して、間接的な圧力になるように、そういうことを
  やると」
   官房長官会見で質問をおこなうことは、記者として当然の
  行為であり、それに答えるのが官房長官の務めだ。しかし、
  その当然のことをするだけの望月記者に質問妨害をおこなっ
  たり、官邸記者クラブに恫喝文書を叩きつけている官邸。だ
  が、それだけではなく、内調を使ってこんな脅しまで実行し
  ているのだ。いや、内調と官邸による情報操作、マスコミ工
  作は映画で描かれているもの以外でもいくらでもある。
                  https://bit.ly/32qDK7P
  ───────────────────────────

映画『新聞記者』の一シーン.jpg
映画『新聞記者』の一シーン
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2019年07月22日

●「信用できない中国実質経済成長率」(EJ第5051号)

 7月15日のことです。中国の2019年4月〜6月期の実質
経済成長率が発表されました。それは、1月〜3月期よりもさら
に0・2ポイント減速しています。
─────────────────────────────
  2019年4月〜6月期    2019年1月〜3月期
         6・2%           6・4%
─────────────────────────────
 「6・2%」という数字は、統計を開始した1992年以降で
最低であり、リーマンショック直後の2009年の6・4%も下
回っています。しかし、各国の経済統計担当者は、この中国の数
字が大ウソであることはわかっています。昭和初期生まれの人が
ピンとくる表現を使えば「大本営発表」そのものです。6%台の
実質経済成長率は、通常の感覚でいえば「凄い成長率」であるか
らです。それがなぜ深刻なのでしょうか。
 経済成長率に限らず、こういう国家統計は申告制です。何を経
済成長率に含めるか含めないか、どのように計算するかなど、す
べては申告制ですから、国のさじ加減でどのようにでもなるので
す。中国の経済統計が信用できないことは、李克強首相ですら認
めているのですから、世界中が知っています。
 これは「債務(借金)」についても同じことがいえます。日本
は「GDP対比200%以上の債務を抱えている」──これは、
さんざんいわれています。日本は超借金大国であると。これは、
財務省が資産を無視して、借金だけを申告しているからです。な
ぜ、そんなことをするのか。増税をしやすくするためとしか考え
られません。つまり、日本の場合、経済の状況を実態よりも悪く
申告しているのです。中国とは逆です。
 ここで留意すべきは、この負債は「国の債務」と考えている人
が多いですが、「政府の債務」です。このあたりがわざとぼかさ
れています。この政府の債務には、中央政府と地方政府の両方が
含まれています。これを一緒にして、国の借金として考えている
人が多いです。この場合、地方政府の債務については中国と違い
日本では、ほとんど破綻を心配する必要はないのです。
 この地方政府の借金の安全性について、植草一秀氏は2011
年発行の自著において、次のように述べています。
─────────────────────────────
 地方政府の借金は、それぞれの地方の金融機関などが資金の出
し手となっており、どの経済主体がいくら地方自治体に資金を供
給するかについて綿密な計画がたてられ、その計画に基づいて地
方債が発行されている。
 また、地方債を発行できる事業も限定されており、基本的には
借金返済の裏付けが確かでないものには、地方債発行が認められ
ないような仕組みが取られている。したがって、この200兆円
の地方債の残高については、基本的に大きな懸念が生じる恐れが
ないと言っても過言でない。例外的に地方政府の財政危機が表面
化するケースがあるが、巨大な地方債残高を抱えたまま地方政府
が破綻するといった事態は想定されないのである。
               ──植草一秀著『日本の再生/
    機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却』/青志社刊
                   2011年11月発刊
─────────────────────────────
 ここで植草一秀氏のいう「200兆円」とは、2011年度末
の借金残高合計が、894兆円になるという予測に基づいていま
す。これは日本のGDPの185%に相当しますが、894兆円
の内訳は次の通りです。地方政府の借金は外して申告しても一向
に問題がないということをいいたいわけです。
─────────────────────────────
      中央政府 ・・・・・・ 693兆円
      地方政府 ・・・・・・ 201兆円
─────────────────────────────
 日本に比べると、中国はきわめて深刻です。中国の経済データ
は、各地に配置されている中国共産党幹部が、その所管する地方
のGDPを北京に報告しますが、目標値をクリアしないとその幹
部の失点になるので、報告数値を水増しすることが慣例です。
 そこで、中国の本当の数字を探る試みがいろいろ行われていま
す。その一つが「李克強指数」です。鉄道貨物輸送量や融資、電
力消費のデータですが、最近では、それらの数値も信用できるも
のではなくなってきています。
 そこで産経新聞特別記者・田村秀男氏は、自動車とセメント生
産の前年比増減率をベースにして、「タムラ・フジ産経指数」を
作り、それによって分析する方法を考えたのです。自動車生産台
数は、外資との合弁が多いため、誤魔化しが効かず、セメント生
産は、政治的裁量とは無関係なので、わざわざウソをつく必要が
ないからです。
 添付ファイルのグラフは、自動車、セメント生産の前年比増減
率に実質GDPの伸び率を組み合わせたものです。これについて
田村秀男氏は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 成長率の水準を抜きにすれば趨勢はきれいに連動し、いずれも
右肩下がり曲線である。自動車は工業生産の要で、セメントは不
動産開発が柱となるハコモノ投資(総固定資産投資)を100%
反映する。総固定資産投資のGDP構成比は40〜50%に上り
昨年は8%前後の伸び率になっている。
 ところがセメント生産は、前年比マイナスで、いかにも不自然
だ。固定資産投資は土地の所有権を売買する権限を持つ地方政府
の裁量次第だから、ウワモノの投資をしたように偽装できる。セ
メントと自動車生産動向からすれば、実際の中国経済は実質マイ
ナス成長に陥っている。そして4〜6月期はさらに下落に加速が
かかっていると推計できるのだ。   https://bit.ly/2XWrWf6
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/050]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のGDPは嘘であり水増しされている
  ───────────────────────────
   中国が毛沢東による1949年の建国当初から手本として
  きたのは、一早く共産主義を確立していた大国ソビエト連邦
  でした。ソ連から一万人の顧問が中国を訪れて産業育成の方
  法を始めとして統計システムまで持ち込まれました。しかし
  そもそもソ連の統計が大嘘であったということがソ連崩壊と
  同時に明らかになったのです。
   実はソ連は崩壊するまでは世界第2位のGDPということ
  になってたのですが、崩壊後に明らかになったGDPは発表
  の半分の規模でしかなかったのです。また、1928年から
  1985年の国民所得の伸びは実際には6・5倍にしかなっ
  ていなかったにも関わらず、90倍に拡大していると誇大に
  も程がある統計を出していたのです。
   しかし、非常に巧妙につくられていたみたいでノーベル経
  済学賞を受賞したサミュエルソンでするソ連の統計をみて、
  『ソ連は成長している』と結論付けてしまっていました。結
  局、ソ連にしても中国にしても一党独裁で国家を収めている
  国では、共産党のおかげで国が成長していると国民を騙さな
  いといけないのです。騙さないと、不満が爆発して革命が起
  き一党独裁政権が瓦解してしまいますからね。ただ、嘘の統
  計をねつ造し続けても国家は瓦解します。
                  https://bit.ly/2GmsCiV
  ───────────────────────────

中国の自動車、セメント生産と実質GDPの前年比増減率.jpg
中国の自動車、セメント生産と実質GDPの前年比増減率
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2019年07月23日

●「借金地獄を止められない鉄道建設」(EJ第5052号)

 中国は、米中貿易摩擦では、米国と正面から向き合うというよ
りも、「持久戦」の構えに入っているように見えます。最近では
ニュースにもならない状況です。しかし、現在中国は、さまざま
な問題で、苦境に陥っています。
 何よりも国有企業の資金繰りができなくなり、失業者が街に溢
れ、物価は上昇し、中央政府への不満が高まりつつあります。こ
れは、中国にとって危険な状況です。何よりも国内の不況対策に
早急に力を入れざるを得ない状況にあります。それには、大きな
問題を抱える公共事業を続行せざるを得ないのです。
 それには、中国の新幹線の延長工事を2019年も拡大させる
ことにし、日本円で13兆円を投入することになっています。こ
の13兆円という金額は、日本の公共事業の総額の2倍に当りま
すが、この巨額の資金を、新幹線の延長工事だけに投入すること
になるのです。途方もない話です。
 中国がはじめて新幹線を走らせたのは、2006年の「北京〜
天津」間です。それから13年間でその営業距離は2万5000
キロを超えています。これに対し日本は、半世紀もの年月をかけ
て、たったの3000キロです。中国はそれをさらに延長しよう
としているのです。
 しかも、日本のJR東海も、JR東日本も、黒字の経営をして
いるのに対し、中国の新幹線の赤字は天文学的になっています。
中国の新幹線の毎年の収入は約9兆円、そこから維持費、人件費
保全費、電力などのコストを差し引くと、天文学的な赤字になっ
てしまうのです。
 どうしてそうなるのかというと、中国新幹線の黒字区間は次の
2区間だけで、あとはすべて赤字だからです。
─────────────────────────────
          「北京〜上海」区間
          「北京〜広州」区間
─────────────────────────────
 費用対効果で見ると、最も黒字区間は「北京〜上海」区間で、
その乗客はキロ当たり4800万人、最も赤字区間は、万里の長
城の最西端から新疆ウイグルをつなぐ「蘭州〜ウルムチ」で、キ
ロ当たり230万人です。これに対して、日本の新幹線は平均で
キロ当り3400万人となっています。
 その結果、中国新幹線の累積赤字額について、2019年1月
29日、北京交通大学都市化研究センターは、次のように発表し
ています。
─────────────────────────────
 中国新幹線(高速鉄道)は、借金も「高速増殖」で、その累積
債務は707億ドル(約78兆円)に達している。
            ──北京交通大学都市化研究センター
─────────────────────────────
 78兆円といえば、日本の旧国鉄の累積赤字24兆円の約3倍
強になりますが、これがさらに積み重なると、恐ろしい近未来が
見えてきます。なぜ、このような赤字体質をさらに肥大化させる
愚劣なプロジェクトを中国は続けようとするのでしょうか。これ
について、中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、次の3つの理由
を上げています。
─────────────────────────────
 1.国有企業の救済のため、景気浮揚のためのプロジェクトの
   継続という至上命令がある。
 2.海外の新幹線工事受注が必ずしもうまくいっていないので
   内需でしのぐしかないこと。
 3.国有企業の宿痾ともいうべき余剰生産と失業対策であり、
   事業の継続が不可避である。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 まず、「1」について考えます。
 中国新幹線の工事を担う産業構造はピラミッド型になっていて
インフラ建設だけでも十数社があります。そのすべてが国有企業
です。これらの国有企業に従事する労働者、設計技師、エンジニ
ア、電気工事、運搬、発電事業など、中国経済の中枢を担ってい
ます。彼らに仕事を与えるためには、たとえコストパフォーマン
スが悪くても、仕事を与える必要があるのです。
 続いて「2」について考えます。
 そのためには、どうしても海外で新幹線受注を獲得する必要が
あります。しかし、海外で新幹線受注を競り落としても、親中派
の政権が変わると、事業が途中で頓挫してしまうこと多くなって
います。これについては改めて述べますが、いくつか取り上げる
と、ベネズエラは正式に中止、マレーシアは20%で中断、イン
ドネシアは用地買収ができず着工不能、タイは青写真のままであ
り、ベトナムはそっぽを向いてしまう、というように、トラブル
のオンパレードなのです。
 最後は「3」について考えます。
 これについては、宮崎正弘氏の著書から引用します。
─────────────────────────────
 中国の鉄道は、もともと軍の利権であり、守旧派が堅持する部
局でもあり、鉄道建設、下請け系列と傍系、さらには付随する研
究所や大学、高専など運転手予備軍を育ててきた。レール、電力
設備、砂利、セメント、ジャッキそのほか、あらゆる産業の裾野
が拡がる産業でもあり、プロジェクトをやめると、大量の失業者
が出るからだ。
 それにしても赤字を肥大化させる一方の事業を継続しなければ
ならないという、小学生が考えても分かるような明らかな矛盾を
全体主義国家では誰も咎めないのである。
                ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/051]

≪画像および関連情報≫
 ●中国が突き進む「一帯一路」とユーラシア鉄道網の思惑
  ───────────────────────────
   海外の鉄道ニュース記事をチェックすると「一帯一路」と
  いうキーワードをよく見かける。これは中国が進める広域経
  済圏構想で、中国国内にとどまる話ではなく、ユーラシア大
  陸全体に及ぶ構想だ。そのなかで、鉄道貨物輸送「中欧班列
  (チャイナ・レールウェイ・エクスプレス)」が交通インフ
  ラとして存在感を高めている。
   数年前まで、中国の鉄道の話題といえば高速鉄道網の延伸
  だった。日本の新幹線技術も取り入れた中国版新幹線は20
  08年に北京と天津を結ぶ京津城路として開業した。路線距
  離は約117キロ、最高速度は時速350キロだ。その後、
  既存路線の高速化や新路線の建設を着々と進めた。
   中国高速鉄道といえば、11年に起きた温州市の脱線衝突
  事故の記憶が残る。しかし、その後大きな事故は報じられて
  いない。安全対策と信頼の回復が適切に行われたようだ。結
  果、航空機より低価格で市民に支持された。中国高速鉄道は
  中国国土の東半分に網の目のような路線網を形成し、10年
  間で2万9000キロに達した。全てが同じ設計速度ではな
  く、時速200キロ、250キロ、300キロ、350キロ
  の4区分となっている。これとは別格の存在として上海リニ
  アモーターカーがあり、最高速度は時速430キロだ。ただ
  し、ドイツのトランスラピッド方式を採用したリニアモータ
  ーカー路線は、運行費用とドイツからの技術移転の交渉がま
  とまらず、中国大陸の高速鉄道の主流にはなれなかった。
                  https://bit.ly/2W663E5
  ───────────────────────────

中国の高速鉄道車両.jpg
中国の高速鉄道車両
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2019年07月24日

●「なぜ一帯一路計画に加盟したのか」(EJ第5053号)

 2019年3月のことです。21日から23日までの3日間の
日程で、習近平国家主席はイタリアを訪問し、コンテ首相と首脳
会談を行っています。そこで、イタリアは、中国の推進する「一
帯一路」計画に関する覚書に署名しています。これで一帯一路の
署名国は、124ヶ国に達しましたが、G7の署名国はイタリア
がはじめてです。
 イタリアは、ユーロ圏3位の経済大国であるものの、2018
年末から景気後退に苦しんでいるのです。イタリアは、リーマン
ショック後に起きたPIIGS危機で、もっとも大きなダメージ
を受けた国であるといえます。銀行の破綻が相次ぎ、経済が回復
していない。ちなみにPIIGSとは、ポルトガル、イタリア、
アイルランド、ギリシャ、スペインのことで、いずれも財政悪化
が懸念されていたのです。
 実は、EUには、経済の運営上、大きな問題があります。それ
は、EU各国には中央銀行はあるものの、統一通貨ユーロの金融
政策は、欧州中央銀行(ECB)だけが行い、EU参加各国では
独自の金融政策を行うことができないことです。
 景気が悪くなったとき、普通の国では中央銀行が金利を下げて
市中の通貨供給量を増加させると同時に、政府が適宜財政出動を
行うことによって、景気回復の処置が取れるのですが、EUの各
国は、統一通貨ユーロを勝手に刷ることはできないので、なかな
か景気を回復させることができないでいます。
 EUのなかで最も経済がしっかりしているのはドイツですが、
ECBがドイツ主導のEU全体の景気状況に合わせて金利を引き
上げたりすると、景気の悪い国は、さらに景気が後退してしまう
ことになります。イタリアは、まさにそういう状況に陥っている
といえます。したがって、現在、イタリアにとって海外の資金は
どうしても欲しいのです。
 中国は、そういう状況を見抜いたうえで、援助の手を差し伸べ
るのです。その目的は、事実上「港」を取得することです。やは
りPIIGS危機で破綻したギリシャに対して、EU側とIMF
(国際通貨基金)が支援の条件として国有資産の売却を求めたこ
とがあります。それを受けてギリシャ政府は、ピレウス港を運営
する国営会社の67%の株式を中国のコスコ・グループ(中国遠
洋運輸集団)に売却したのです。これは、中国の戦略──「海の
一帯一路計画」のはじまりです。
 これには、IMFが重要な役割を果たすのです。そこで中国は
IMFトップの専務理事に、クリスティーヌ・ラガルド氏を送り
込んだのです。なぜラガルド氏は中国寄りなのかについて、EJ
は、2017年に取り上げたテーマ『米中戦争の可能性』で書い
ているので、ご紹介しておきます。
─────────────────────────────
                2017年06月01日
  EJ第4532号『ラガルド理事はなぜ親中国なのか』
                https://bit.ly/2rlME4q
─────────────────────────────
 クリスティーヌ・ラガルド氏は、9月12日付でIMF専務理
事を退任し、さらに出世して、11月に欧州中央銀行(ECB)
総裁(現マリオ・ドラギ総裁)に就任することになっています。
そうなると、今後、ますます中国寄りの裁定が行われる可能性が
あります。
 そもそも一帯一路は、大航海時代の英国がとった戦略を意識し
ており、各地域の重要港をひとつずつ押さえていく戦略です。し
たがって、中国がイタリアを一帯一路に参加させた狙いは、アド
リア海に面した重要港であるトリエステ港とイタリア最大のジェ
ノバ港を取得する狙いがあると考えられます。
 実際問題として、トリエステ港もジェノバ港も、設備がボロボ
ロになっており、修復が必要なのですが、財政難でそれができな
いのです。2018年8月のことですが、ジェノバで高速道路の
高架橋が崩落して、走行中の車や人や、橋の下の住民を含め43
人の犠牲者を出すという大惨事が起きています。この事故につい
てロイターは次のように伝えています。
─────────────────────────────
 [ジェノバ14日/ロイター]イタリア北部ジェノバで14日
高速道路の高架橋が約80メートルにわたって崩落し、ANSA
通信によると、少なくとも35人が死亡した。現場は激しい雨に
見舞われていたという。崩落した高架橋は高さ約50メートルで
自動車35台が巻き込まれた。がれきは工場や他の建造物の上や
川に落下し、ソーシャルメディアには、がれきの下敷きになった
トラックの写真が投稿された。
 サルビーニ内相は「このような惨事は受け入れがたい」とした
上で、責任の所在を明らかにするつもりだと述べた。高架橋は、
1960年代後半に建設。トニネッリ運輸相は保守点検が行われ
ていなかった可能性があるとした。  https://bit.ly/2GpsKOF ─────────────────────────────
 こうした中国の「港」をひとつずつ押さえて行く戦略に関連し
て、「債務の罠」とか「債務トラップ」という言葉がよく聞かれ
ます。相手の弱みにつけこんで、借金のカタに港の99年間の租
借契約を結ばせるやり方です。「借金の罠」というと、私などは
シェイクスピアの喜劇「ベニスの商人」のシャイロックという高
利貸しを連想します。「中国=シャイロック」という印象を持っ
てしまいます。
 ちなみに、「ベニスの商人」の商人は、シャイロックを指すの
ではなく、アントーニオという商人のことです。いずれにしても
一帯一路の札ビラ外交はあまり良いイメージではなく、中国全体
のイメージダウンにつながってしまいます。それでも習主席は、
米国との貿易戦争さなかの3月にイタリアに行き、一帯一路の覚
書に調印しているのです。一体中国は、何を目的として、この一
帯一路計画を進めているのでしょうか。
              ──[中国経済の真実/052]

≪画像および関連情報≫
 ●イタリアの「一帯一路」参加/のっぴきならないその背景
  ───────────────────────────
   イタリアが中国の一帯一路のプロジェクトに参加すること
  になった。このことについて、欧州連合(EU)そして米国
  は、中国がこれを契機にヨーロッパを支配するようになるの
  ではないかと警戒感を表明している。
   しかし、イタリアにして見れば事情もあるようだ。 例え
  ば、イランとの核問題を発端に米国がロシアに制裁を科し、
  それに協力してEUもロシアに制裁を科した件だ。イタリア
  はそれまで積極的にロシアと貿易取引を伸展させていたのだ
  が、この制裁によって、ご破算になってしまったのだ。また
  EUに対する反感も育ちつつある。ユーロの導入によって、
  イタリアのリラは弱い通貨となり、しかもイタリア政府が輸
  出奨励金を支給していたことなどがユーロの導入で廃止せざ
  るを得なくなってイタリアはそれまで半世紀以上イタリア経
  済を支えて来た輸出立国から後退してしまった。現在長期に
  亘って景気が低迷している事態を前にポピュリズム政府は、
  財政赤字を幾分か増やしても景気回復に政府は公共投資を進
  めて行きたいと望んでいる。ところが、それに対してもEU
  は、財政緊縮策の適用を連立政権のイタリア政府に要求して
  いる。現状のイタリアは失業率10・5%、国の負債はGD
  Pの132%にまで及んでおり、非常に厳しい経済環境にあ
  る。それ故、外国からの投資は是が非でも必要とされている
  のである。           https://bit.ly/2YjZFOU
  ───────────────────────────

イタリア/ジェノバでの高速道路崩落.jpg
イタリア/ジェノバでの高速道路崩落

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2019年07月25日

●「イタリア一帯一路加盟とEU分断」(EJ第5054号)

 「一帯一路」とは、かつてのシルクロードの復活であるといわ
れます。ところで、「シルクロード」とは何でしょうか。一般的
には、シルクロードとは、ユーラシア大陸を通る東西の交通路の
総称です。しかし、この概念は漠然としています。具体的には、
次の3つに分けて考えるべきです。
─────────────────────────────
   1.北方の草原地帯のルート ・・   草原の道
   2.中央の乾燥地帯のルート ・・ オアシスの道
   3.インド南端を通る海の道 ・・    海の道
─────────────────────────────
 このうち、もっとも古くから利用されていたのが「オアシスの
道」です。中国からローマへは絹、アルタイ山脈から中国へは金
が重要な交易品となっていたことから、「シルクロード」といわ
れるようになったのです。
 このような前提に立って、福島香織氏は、「一帯一路」構想に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は一時期、海洋覇権を取らなければ世界制覇できない、自
分たちの野望は達成できないという考え方でしたが、おそらくい
ろいろな研究者からのアドバイスなどがあり、長期的なスパンの
中で、海洋国家文明と大陸国家文明の入れ替えが起こるだろうと
考えるようになった。また、宇宙時代がくると、もう海洋覇権の
時代ではないと思い至り、もう一度、陸路の軍事輸送網というも
のを見直すべきだという意見から、「一帯一路」の構想が始まっ
たという話を聞いたことがあります。
 もう一度大陸国家を再編成するとなると、そこで重要になって
くるのは、ロシアはもちろんですが、ヨーロッパです。だから中
国はヨーロッパと組もうとしている。そうなると、海洋国家であ
るイギリス、アメリカ、日本あたりと対立することになるという
イメージで世界を2分割して、新たな世界秩序の支配者となる。
そんなイメージでつくつたのが「一帯一路」構想なのです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 中国には古くから「天命思想」といわれるものがあります。有
徳の天子が天帝から命ぜられて天下を治めるというものです。そ
の天子のいるところが「中華」であり、すなわち、中国であると
いうものです。
 その外側には野蛮な「夷狄(いてき)」の世界があるのですが
それらの野蛮人も中華の徳にふれると、やがては人間になれる、
だから、中華の恩恵を施してやる、というのが、中華思想であり
冊封(さくほう)体制なのです。中国にとっては、日本も米国も
すべて夷狄なのです。
 「一帯一路」というのは、経済政策というよりも、かつてのシ
ルクロードを復活させ、ヨーロッパも含めて新しい冊封体制によ
る世界を作ろうとしているのです。
 それでは、冊封体制とは何でしょうか。
 冊封体制というのは、中国の歴代王朝が、東アジアの国際秩序
を維持するために用いた対外政策のことです。冊封体制について
は、中国史の専門家である西嶋定生氏の解説を引用します。
─────────────────────────────
 中国の皇帝が周辺諸国の首長を冊封して、これに王・侯の爵位
を授け、その国を外藩国として統属させる体制を私は冊封体制と
呼んでいる。冊封という形式は、本来は国内の王・侯に対する爵
位授与を意味するものであるが、その形式が周辺諸国に対する中
国王朝の統属形式に用いられたのである。そしてこの冊封体制を
基軸として、周辺諸国と中国との政治的・文化的関係が形成され
そこに東アジア世界が出現すると考えるのである。
        ──「世界史の窓」 https://bit.ly/2GnPKO4
─────────────────────────────
 かつてのシルクロードは、唐の都の長安からローマまで続く道
のりであり、今回、イタリアを一帯一路に加盟させたということ
は、ローマを落としたということで、中国にとって格別な意義が
あります。既に中国は、2017年に打ち出され、現在進行中の
高速鉄道網や高速道路は、ハンガリー、セルビア、そして、ギリ
シャのピレウス港を結ぶかたちで、バルカン半島を押さえつつあ
ります。これにイタリア半島も手に入れると、地中海の玄関を中
国は押さえたことになります。このように、中国は目下ヨーロッ
パを攻めているのです。
 ギリシャ、ハンガリー、セルビアは既に中国の「債務の罠」に
嵌っており、抜け出せなくなっています。それに加えてイタリア
も深入りしそうな情勢です。イタリアのマッタレッラ大統領やコ
ンテ首相は、一帯一路の参加についてかなり前のめりになってい
る感じです。中国としては、イタリアを取り込むことで、G7の
分断を仕掛けているのです。
 もちろん米国は、イタリアに警告を発していますが、イタリア
は、既に聞く耳を持っていないようです。香港英字紙サウスチャ
イナ・モーニング・ポスト(電子版)の伝えるところによると、
「イタリアのジュセッペ・コンテ首相が米国の警告を無視し、中
国が提唱する巨大経済圏構想『一帯一路』との緊密な協力を推進
している。消息筋によると、米国が近隣諸国の間でのイタリアの
声望を損なうと警告する中、コンテ政権は、中国企業にトリエス
テ港へのアクセスを拡大し、両国の大手電力会社間の協力を一層
強化することを計画している。そして、コンテ首相は、『一帯一
路』参加は、イタリアにとってチャンスとなる」と大きな期待を
寄せているのです。
 これでは、イタリアもいずれ「債務の罠」に嵌る危険性が増大
すると思われます。これは、事実上のヨーロッパの分断にもつな
がることになります。    ──[中国経済の真実/053]

≪画像および関連情報≫
 ●EUと中国 〜「新たな冷戦」での立ち位置を模索
  ───────────────────────────
   イタリア北東部のトリエステと聞いて、かつての東西冷戦
  において一つの象徴となった都市だった、と思い浮かべる方
  は、かなりの歴史通だと言えるでしょう。トリエステは、冷
  戦時代に西側陣営と東側陣営とを分断した「鉄のカーテン」
  の南端でした。もっとも、ベルリンの壁と違って、「鉄のカ
  ーテン」は実際に壁のような建造物が敷設されたわけではあ
  りません。1946年にイギリスの首相チャーチルが演説で
  用いた比喩です。いわく、「北はバルト海のシュテッティン
  から南はアドリア海のトリエステまで、鉄のカーテンが大陸
  に降ろされている」とし、その「カーテン」の東側にあるヨ
  ーロッパ諸国はソビエトの影響下にあると説明しました。冷
  戦の到来を予言した演説でした。
   それから長い年月が過ぎ、冷戦も終わりました。しかし、
  今、再びトリエステが注目を集め始めています。アメリカと
  中国の対立が、「新たな冷戦」の様相を呈する中、トリエス
  テが中国の「一帯一路」構想における「海のシルクロード」
  のヨーロッパでの到達地となったためです。従来からのパー
  トナーであるアメリカとの関係を維持しつつ、急速にヨーロ
  ッパにも進出する中国と、どう向き合うのか。EUはその立
  ち位置を模索しています。
         ──国際報道2019キャスター/池畑修平
                  https://bit.ly/2Z9dLjk
  ───────────────────────────

習近平主席とイタリア・コンテ首相.jpg
習近平主席とイタリア・コンテ首相
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2019年07月26日

●「スリランカとモルディブのケース」(EJ第5055号)

 「一帯一路」構想は、イタリアの加盟で、一見すると、中国の
思うように進んでいるように見えますが、必ずしもそういうこと
ではないのです。「一帯一路」に加盟して、その関連プロジェク
トの進行──高速鉄道や高速道路などの工事の進捗は、けっして
芳しいものではないからです。
 中国は、日本のように十分な調査に基づいて工事全体の設計を
していないので、その結果、工事が難航して遅延し、未完成の状
態で政権交代が起きると、前政権と中国の癒着が、必ずといって
よいほど発覚するのです。マレーシアのナジブ政権しかり、モル
ディブのヤミーン政権しかり、スリランカのラジャパクサ政権し
かり、パキスタンのシャリフ政権しかりです。これらはほんの一
部に過ぎず、まだたくさんあります。
 それにしても、モルディブとスリランカといえば、インドに近
い海の要衝です。まだあります。パキスタン、ヤンマーもそうで
す。もし、これらの国がすべて中国化すると、インドは安全保障
上深刻な事態になります。中国は、そういう場所をピンポイント
で選んで、「一帯一路」を仕掛けているわけです。
 スリランカは、ラジャパクサ大統領時代に「一帯一路」に参加
したものの、資金不足になって「債務の罠」に落ち、ハンバント
タ港を中国に99年間租借せざるを得なくなっています。これに
ついて、宮崎正弘氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 スリランカの対外債務は、531億ドル(2018年9月末時
点)。翌19年に償還期限が来る負債額は49億ドル。さらに、
2020年までにあと150億ドル。パキスタンと同様に、スリ
ランカがIMF管理になるのは時間の問題かもしれない。99年
の租借を飲まされ、ハンバントタ港を中国に明け渡す無惨な結果
を招いたのは、ラジャバクサ前大統領の強気の読みと中国との親
密なコネクションからだったが、結局は返済できず「借金の罠」
に落ちた。番狂わせで彼は落選し、無名のシリセナがスリランカ
大統領となった。
 コロンボからスリランカの名勝地キャンディに至るハイウエー
は、途中悪路、崖や河沿いを縫うように車で4時間近くかかる。
鉄道もあるが、1日2本程度で、しかも外国人観光客でほぼ満員
だ。この区間にハイウェーを通すのはスリランカの政治家なら誰
もが魅力と思うだろう。ましてや票に繋がる美味しいプロジェク
トと考えられた。ところが資金不足に陥り、現場労働者の日当が
支払えず、あちこちで工事が中断した状況になっていた。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 モルディブでも、スリランカと同じようなことが起きているの
です。当事者はヤミーン前大統領です。2019年2月18日、
ヤミーン氏に対して、マネーロンダリング容疑で正式起訴するた
めの予審が開かれ、検察側はヤミーン氏が証人の証言を妨害しよ
うとしたと主張。結局、証人に賄賂を渡して偽証するよう要請し
た容疑で逮捕されています。
 モルディブに中国はどのようにかかわっているのかについて、
宮崎正弘氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 モルディブ政府は現在、ヤミーン前政権が、中国からいったい
幾ら借りたのか、借金は全体で幾らあるのかを精査している。こ
の財務精査の過程で、ヤミーン時代の面妖な取引、その送金ルー
トの明細や不明瞭な使途などが明るみに出た。あたかもマレーシ
アの1MBDファンドから大金を横領していたナジブ前首相の経
済犯罪と似ているが、少額の汚職なので、世界の金融界は喋って
いるだけである。中国は空港と首都マーレを繋いだ海上橋梁を請
け負い、2018年9月の大統領選挙直前の8月31日に完成さ
せた。空港の拡張工事も中国が請け負っていた。インドはあたか
も下腹にナイフを突きつけられたような要衝にあるモルディブの
動向に神経を尖らせ、軍港に転用される可能性を監視してきた。
また新政権発足と同時にモルディブ重視に傾き、当面の金融シス
テムの安定、信用回復のために14億ドルの信用枠を供与した。
                ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 添付ファイルに、インドとモルディブ、スリランカの位置関係
を示す地図をつけています。宮崎氏の「インドはあたかも下腹に
ナイフを突きつけられたような要衝」と表現していますが、これ
ら2つの国は、まさにそういう位置にあります。中国は明らかに
場所を選んで「一帯一路」に引き入れ、「債務の罠」を仕掛けて
重要港を事実上手に入れようとしています。
 「一帯一路」によるインフラ建設は、中国は人も資材もすべて
中国から持ってくるのです。中国にとって「一帯一路」は、国有
企業に仕事を与える手段なので、現地では、まったく雇用を生ま
ないのです。これも「一帯一路」加盟国にとって、大きな不満に
なっています。
 そのため、現地では、中国語と英語の看板のみで、現地の言語
は全く使われていないのです。売り出しマンションの価格も人民
元で表示されています。これでは、現地が中国に占領されている
のと同じです。スリランカでは、シンハリ語とタミール語の表示
がないのは、ローカルランゲージ法に違反するとして、中国に改
善を求めたといいます。
 それに加えて、環境破壊がひどいのです。そのため、現地では
嫌中意識がすこぶる高まっており、中国人襲撃事件も多発してい
ます。これでは世界中に嫌中主義が拡大する一方ですが、中国人
はまったく歯牙にもかけないのです。あくまで中国の利益優先で
すから、「一帯一路」計画は、「新植民地主義」といわれていま
す。そういうことをある程度理解した上でのイタリアの「一帯一
路」加盟には、世界中が懸念を表明しています。
              ──[中国経済の真実/054]

≪画像および関連情報≫
 ●自爆テロのスリランカはインド洋に浮かぶ真珠
  ───────────────────────────
   「分割して統治せよ」。英仏が採用した植民地支配の原則
  だ。この政策では、植民地の多数派が排除され、少数派が優
  遇される。支配者にとって都合がいいからだ。
   少し脇道に入るが、イラク(イギリスが領土を決めて19
  22年にイラク王国を建国)では、人口の60%を占めるア
  ラブ人シーア派が権力から排除され、人口の20%を占める
  少数派のアラブ人スンニ派がサダム政権を経て、2003年
  のイラク戦争まで支配権を握る。またシリア(フランスが植
  民地にした)では、人口の12%のアラウィー派が軍隊で重
  用され、バアス党革命で権力を握り、苛烈なシリア内戦を経
  て、現在もアサド政権が続く。
   スリランカの場合、イギリスがシンハリ人よりも重用した
  のが、少数派のタミル人だ。タミル人は英語を積極的に受け
  入れる。多くのタミル人が植民地時代に官僚や法律家という
  公職に就いた。だが、スリランカ独立後は、多数派であるシ
  ンハリ人と仏教の巻き返しの時代に入る。
   シンハラ語のみを公用語とし、仏教に対し国教に準じた地
  位を与えたシンハリ人政権の政策によって、タミル人との対
  立は決定的になる。1983年に始まり、2009年にタミ
  ル人の敗北宣言で終わる内戦では、死者10万人で難民30
  万人という惨禍を招く。タミル人は、「タミール・イーラム
  解放のトラ」(LTTE)という武装組織を立ち上げ、政府
  に応戦したものの、大勢を覆せなかった。
                  https://bit.ly/2JNYyyN
  ───────────────────────────

スリランカとモルディブの位置関係.jpg
スリランカとモルディブの位置関係
















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2019年07月29日

●「オーストラリアはなぜ変貌したか」(EJ第5056号)

 「一帯一路」のことを「BRI」とか「OBOR」と呼ぶこと
があります。「一帯一路」の英語表記を示しておきます。
─────────────────────────────
   ◎「一帯一路」・・・
     BRI  The Belt and Road Initiative
    OBOR One Belt, One Road Initiative
─────────────────────────────
 さて、2018年11月のことです。18日と19日の2日間
にわたって、パプアニューギニアにおいて、APEC首脳会議が
開かれたのです。そのAPECについて、日本経済新聞は次のよ
うに伝えています。
─────────────────────────────
【ポートモレスビー=辻隆史】日米中など21ヶ国・地域が参加
して、パプアニューギニアで開かれたアジア太平洋経済協力会議
(APEC)首脳会議が、18日、2日間の協議を終えて閉幕し
た。米国と中国が互いの通商政策をめぐり対立。議長国のパプア
が首脳宣言の採択を断念する異例の事態となった。首脳宣言を断
念するのは1993年の第1回会議以来、初めて。
               https://s.nikkei.com/2YoEUlb ─────────────────────────────
 この会議で米国と中国は激突したのです。宣言の原案の「保護
主義と対抗する」という表現に米国が猛反発し、中国はトランプ
政権を念頭に「一国主義と対抗する」との文言を盛るよう求め、
米国が削除を強く要求するという具合です。
 加えて米国は中国を念頭に不公正な貿易慣行の撤廃を求める表
現を盛り込むよう主張し、中国が反発するというように、米国と
中国の主張が激突し、結局、首脳宣言の採択を断念せざるを得な
くなったのです。
 その背景には、中国が南太平洋を「一帯一路」の投資対象国に
算入したことにあります。これによって、中国は、米、英、仏、
豪、ニュージーランド(NZ)の利害と直接対峙することになっ
たのです。実際にこの地域における中国の投資は、オーストラリ
アを抜き去っています。2018年10月現在、南太平洋全域で
中国が推進中のプロジェクトは218件、金額は17億8120
万ドルに達しています。金額が大きい順に並べると、次のように
なります。
─────────────────────────────
  ◎南太平洋における中国の投資状況
   パプアニューギニア ・・・ 6億3250万ドル
   フィジー      ・・・ 3億5900万ドル
   バヌアツ      ・・・ 2億4250万ドル
   東ティモール    ・・・   5216万ドル
   クック諸島(NZ) ・・・   4986万ドル
   サモア       ・・・   2301万ドル
   トンガ       ・・・   1720万ドル
   ニウエ島(NZ)  ・・・     70万ドル
              ──2018年10月現在
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 これを見ると、飛び抜けて中国からの投資が大きいのが、昨年
APECの会場になったポート・モレスビーを首都に持つパプア
ニューギニアであることがわかります。ちなみに、この地域は、
太平洋戦争中、日本の多くの艦船が沈没し、多くの犠牲者を出し
た場所であり、なかでも激戦地といわれたラバウルとガダルカナ
ルもこの海域に含まれます。
 これらの国がもし中国による「債務の罠」に嵌ったら、大変な
ことになります。こういう状況を許したのは、かつての親中国国
家オーストラリアです。評論家の宮崎正弘氏は、オーストラリア
の中国傾斜ぶりについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 従来は中国の投資歓迎、シドニーは50万人もの中国人が住み
巨大なチャイナタウンが拡がって華僑の大活躍がなされてきた。
シドニーだけで、発行されている華字紙は5種、いずれもカラー
印刷で100ページ近く、求人や弁護士事務所、留学方法の広告
で埋め尽くされている。怪しげなマッサージパーラーの広告もあ
る。チャイナタウンのコミユニティ紙である。筆者もシドニーで
全部の華字紙を購入したが、日本で言えば全国紙5紙の正月特大
版を持つほどの重み。ずしりとその重量を感じたものだった。
 オーストラリアは鉄鉱石、石炭などに恵まれた資源王国だから
資源鉱区には次々とチャイナマネーが入り、鉄鉱石も石炭も中国
が買うので、資源関連企業はウハウハだった。そのうち軍港ダー
ウィンの埠頭を、オーストラリアは99年の貸与を中国企業に認
めたほど、親中路線だったのだ。 ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 このように、オーストラリアは親中政権だったのです。なぜ、
過去形なのかというと、現在は中国に対して要警戒に変貌を遂げ
ているからです。これについて理解するには、2015年以降の
オーストラリアの政権について知る必要があります。
 現在のオーストラリアの首相は、スコット・モリソン氏ですが
その前任者はマルコム・ターンブル氏です。2人とも、保守系の
オーストラリア自由党の議員ですが、このターンブル氏こそ「中
国はオーストラリアと抗日で戦った最も長い同盟国」であるとし
最大の貿易相手国である中国を最重視する政権だったのです。そ
して、中国によるダーウィン港の99年租借を認めたのも、ター
ンブル前首相なのです。
 そのターンブル氏の後任者が現在のスコット・モリソン首相で
す。この首相になってはじめて中国の危険性に気付くのです。し
かし、今年の5月の選挙において、モリソン首相は政権維持が危
なかったのです。      ──[中国経済の真実/055]

≪画像および関連情報≫
 ●「一帯一路」で南シナ海から中東で影響力行使
  ───────────────────────────
   中国は、空母打撃群の展開を通じて、南シナ海からインド
  洋、中東沖など広範囲の沿岸諸国への影響力行使を狙ってい
  る。また現段階で中国初の国産空母が米軍の直接的な脅威と
  なる可能性は低いが、長期的には、太平洋で米軍を排除する
  「接近阻止・領域拒否」戦略の実現に向けた足がかりとする
  構えだ。中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯
  一路」で、中東はその要衝にあたる。
   ただ、地域大国のサウジアラビアは米国の同盟国であり、
  イランはロシアが影響力を保持。中国が現在、アフリカ東部
  ジブチで中国海軍の「補給施設」を建設しているのは、海外
  基地として中東への軍事プレゼンスを高める狙いもある。
   一帯一路のうち「海上シルクロード」と呼ばれる東南アジ
  アから南アジア、中東沖につながるルートで空母を展開させ
  ることで、「沿岸諸国に影響力を行使できるプレーヤーとし
  て、米露に中国が加わる可能性」(東京財団の小原凡司研究
  員)も指摘されている。
   また、今後いずれかの国産空母が南シナ海を管轄する南海
  艦隊に配属される見通しで、領有権争いを抱える沿岸国への
  軍事的圧力も高まりそうだ。一方、中国にとっては太平洋で
  制海権を握ることも長期的な野望だ。中国初の空母「遼寧」
  は昨年12月、九州や沖縄、台湾などを結ぶ「第1列島線」
  を初めて越え西太平洋に進出した。https://bit.ly/2Mi5XrZ
  ───────────────────────────

オーストラリアのターンブル前首相.jpg
オーストラリアのターンブル前首相

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2019年07月30日

●「オーストラリア政権について知る」(EJ第5057号)

 私がオーストラリアの首相に関心を持ったのは、ターンブル首
相がはじめてです。なぜかというと、オーストラリアにほぼ導入
が決まっていた日本の「そうりゅう型」潜水艦導入をターンブル
首相が突如取りやめたからです。
 調べてみると、このマルコム・ターンブルなる人物は、親中派
の元実業家であり、それなら導入中止は当然と思ったし、日本の
潜水艦導入中止を「日本の技術が中国に渡らなくてよかった」と
いう趣旨のツイートを発信したので記憶に残っていたのです。
 ところで、安倍首相は、オーストラリアの首相と仲が良かった
はずです。だから、潜水艦の導入の話になったはずですが、安倍
首相と仲が良かったのは、ターンブル首相の前のトニー・アボッ
ト首相です。そのアボット首相は党内の政治クーデターで、政権
交代を余儀なくされたのです。直近のオーストラリア3代のデー
タを以下にまとめます。
─────────────────────────────
 ◎トニー・アボット
  2013年 9月18日〜2015年 9月15日
 ◎マルコム・ターンブル(首相就任前の役職:通信相)
  第1次政権
  2015年 9月15日〜2016年 7月19日
  第2次政権
  2016年 7月19日〜2018年 8月24日
 ◎スコット・モリソン (首相就任前の役職:財務相)
  2018年 8月24日〜在任中
                  https://bit.ly/2YnB1wZ ─────────────────────────────
 ごく大ざっぱにいってしまうと、アボット氏からターンブル氏
への交代と同じようなことが、ターンブル氏からモリソン氏への
交代において起きているのです。いずれもオーストラリア与党の
自由党のなかの政権闘争です。与党の自由党の政権運営がうまく
いかず、支持率が低迷した挙句の政権交代です。
 ちなみに就任直後のトランプ大統領がオーストラリアの首相と
の電話会談で、移民問題で意見が衝突し、トランプ大統領が途中
で電話をガチャ切りした相手はこのターンブル首相です。
 関心があるのは、あれほど親中派だったターンブル政権がなぜ
中国とうまくいかなくなったかです。これについて、ロイターは
2018年6月19日に「焦点:火花散らすオーストラリアと中
国、なぜ関係悪化したか」というレポートを出していますが、そ
の中心部分を以下に示します。
─────────────────────────────
 輸出ブームを駆り立てた画期的な自由貿易協定(FTA)を中
国と結んでからようやく2年がたとうとしている中、ターンブル
首相は、外国の影響を制限するのを目的とした新たな法案を提出
する理由として、中国による「干渉」を挙げた。
 ターンブル首相は昨年(2016年)、議会において、中国共
産党がオーストラリアのメディアや大学、政治に干渉していると
の報告に懸念を示した。その中には、野党議員が中国の利害関係
者と密接な関係を持ち、献金を受けていたとの報告も含まれ、後
にこの議員は辞職に追い込まれた。ターンブル首相率いる中道右
派政権は、外国からの政治献金を禁止したり、外国のために働く
ロビイストに登録を義務付けたりする法案を準備している。また
諜報の定義変更も提案されており、犯罪の対象となる活動が拡大
することになる。(中略)中国によるオーストラリアへの干渉問
題は同年、中国軍と近い関係にあるとされる中国企業に北部ダー
ウィン港を貸与する契約が浮上し、一段と批判されるようになっ
た。同契約を巡っては、米海軍兵士1500人超が駐留する基地
が近いことから、米国も懸念を示したとされる。
                  https://bit.ly/2ME522O ─────────────────────────────
 実は、2019年5月18日にオーストラリアでは総選挙があ
り、選挙前の予想では、野党の労働党が圧倒的に優勢だったので
す。中国が選挙資金などを含めて積極的に支援したフシがありま
す。しかし、結果は予想に反して、与党のモリソン政権が勝利し
たのです。大逆転勝利です。
 この勝利を世界のメディアは「奇跡」と報道し、それをトラン
プ氏の米国大統領の当選と英国のブレグジットと同様に予測する
のが困難な出来事に例えたほどです。これは、オーストラリアの
国民が、親中路線の労働党を嫌ったからであり、明確に中国に対
して「NO!」を突き付けたことになります。
 南太平洋を中国から守るには、何といっても重鎮のオーストラ
リアを親中派にさせないことであり、今回の総選挙は、それを実
現した選挙結果であるといえます。それに「ファイブ・アイズ」
という5つの国の諜報連携を機能させるためにも、オーストラリ
アが親中国では困るのです。ファイブ・アイズの5つの諜報機関
とは次の通りです。
─────────────────────────────
    ◎ファイブ・アイズ
     1.アメリカ
       アメリカ国家安全保障局/NSA
     2.イギリス
       政府通信本部/GCHQ
     3.カナダ
       カナダ通信保安局/CSEC
     4.オーストラリア
       参謀本部国防通信局/DSD
     5.ニュージーランド
       政府通信保安局/GCSB
                  https://bit.ly/2insxgt ─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/056]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏、豪首相との電話会談を「最悪」と打ち切り
  ───────────────────────────
   米紙ワシントン・ポストは2017年2月1日、ドナルド
  ・トランプ米大統領が先月28日にオーストラリアのマルコ
  ム・ターンブル首相と電話で会談した際、豪国内の難民を米
  国が受け入れるという両国の合意を批判し、予定時間を切り
  上げ会談を一方的に終わらせたと報じた。
   同紙によると、28日に、各国首脳と電話会談を相次いで
  行ったトランプ氏は、ターンブル首相との会談を「今までで
  最悪」と呼んだという。トランプ大統領は、会談後にツイッ
  ターで、難民の再定住計画について「この馬鹿な取り引きの
  中身を調べる」とコメントした。
   オバマ前政権時にまとめられた合意では、オーストラリア
  で難民申請した1250人を米国が受け入れることになって
  いた。オーストラリア政府に対しては、難民申請した人々を
  自国で受け入れずナウルとパプアニューギニアの施設に収容
  したことで、非難の声が上がっていた。
   トランプ氏は先月27日に、イスラム教徒が多数を占める
  特定7ヶ国の入国を一時的に禁止する大統領令に署名。ター
  ンブル豪首相は、難民の米国再定住の合意が実行されるのか
  説明を求めていた。28日にはターンブル首相のほか、ロシ
  アのウラジーミル・プーチン大統領など4人の首脳がトラン
  プ大統領と電話で会談した。ワシントン・ポスト紙は、電話
  会談について報告を受けた複数の米高官の話として、会談は
  1時間の予定だったものの、25分たったところでトランプ
  氏がいきなり打ち切ったと報じた。https://bbc.in/2JYz7KZ
  ───────────────────────────

トランプ米大統領とターンブル豪首相電話会談.jpg
トランプ米大統領とターンブル豪首相電話会談
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2019年07月31日

●「オーストラリアと華為技術の関係」(EJ第5058号)

 「ファイブ・アイズ」とは、米国、英国、オーストラリア、カ
ナダ、ニュージーランド(NZ)で機密情報を共有する5ヶ国の
枠組みのことです。安倍政権は、日本政府として、このファイブ
・アイズとの関係を深めつつあります。
 ファイブアイズについて知るには、「シギント」というものを
理解する必要があります。これは、普通の人にとって、全く知る
必要のない特殊なインテリジェントの用語です。
─────────────────────────────
 ◎シギント/SIGINT、signals intelligence
  シギントとは、通信、電磁波、信号などの主として傍受を
  利用した諜報・諜報活動のことである。
                  https://bit.ly/2RPoFv4 ─────────────────────────────
 要するに、シギントとは通信傍受手段です。あの元NSAの局
員であるエドワード・スノーデン氏によると、NSAは「世界最
強のシギント」であるといわれています。
 諜報活動における情報入手は、シギントを含めて、次の4つが
あります。ファイブ・アイズは、このうち、シギントを中心とし
て、5ヶ国が情報を共有するというものです。
─────────────────────────────
     1.イミント
      ・偵察衛星や偵察機による写真偵察
     2.シギント
      ・電波や電子信号傍受による情報収集
     3.ヒューミント
      ・人間による情報収集
     4.カウンターインテリジェンス
      ・防諜、外国の諜報活動への対抗策
─────────────────────────────
 ファイブ・アイズというのは、世界中に張り巡らしたシギント
の設備や盗聴情報を、相互利用・共同利用するために結んだ協定
のことです。このグループのコンピュータ・ネットワークは「エ
シュロン」と呼ばれています。もともと秘密協定なのですが、こ
のエシュロンの言葉とともに、その一部が知られるようになって
きています。
 2018年7月17日のことです。カナダのノバスコシア州の
どこかで、ファイブ・アイズは秘密会合を開いています。この会
合には、カナダのトルドー首相、オーストラリアのターンブル首
相、それに5ヶ国の情報機関のトップ全員が出席しています。
 この会議において、2001年9月のアメリカ中枢同時テロ以
降、テロ対策に力を入れる陰で、スパイ活動が疎かになっている
ことが指摘され、その間に中国がシギントを中心とするスパイ技
術を盗み、自国でウイグル族などの宗教弾圧にその技術を利用し
ているとの報告が行われています。
 もともとこのときの会合は、ロシアを敵として戦略を練る秘密
会議だったようです。というのは、この会合に出席した英国秘密
情報部のヤンガー長官が、英国南部でロシアの元情報機関員らが
神経剤で襲撃された事件について、ファイブ・アイズがまとまっ
て対応したことが大きな成果であることを報告したのですが、同
会議に出席していたジーナ・ハスペル米CIA長官は、現在、一
番危険なのは中国共産党の台頭であり、その中国共産党のスパイ
技術の中心になっているのは、ファーウェイとZTEであるとし
て、その会合で、ファーウェイとZTEを、5G──5世代移動
通信システムから排除するを提案し、了承されています。
 このとき、トランプ米大統領は、なぜ参加していなかったのか
というと、中間選挙の前であり、動けなかったのではないかと思
います。しかし、中国のリスクは最大であるということは、ハス
ペルCIA長官を通じてファイブ・アイズのメンバーには伝わっ
ています。この会合において、ファイブ・アイズの情報共有に、
日本とドイツも参加させることが決まったようです。
 注目すべきは、この会議に出席していたオーストラリアのター
ンブル首相です。彼は、トランプ大統領との電話会談で、トラン
プ大統領から電話をガチャ切りされた中国寄りの首相ですが、タ
ーンブル首相は、すぐにトランプ大統領に電話をかけ、オースト
ラリアは、5GからファーウェイとZTEを外すことをわざわざ
伝えています。イメージを変えたかったものと思われます。
 しかし、ファーウェイは親中のターンブル政権のときに、オー
ストラリアには深く食い込んでいたのです。宮崎正弘氏の本には
ファーウェイがターンブル政権に深く食い込んでいたことを示す
ことが書かれています。
─────────────────────────────
 豪政府高官だった3人をファーウェイは、「取締役」に雇用し
高給を支払って事実上の代理人を務めさせ、オーストラリア市場
の拡大に協力させてきた。豪政府は労働党のジラード政権から、
ターンブル保守政権まで、国家安全保障部門は、ファーウェイヘ
の警戒を怠らなかった。
 「ファーウェイ(豪)」は現地法人を装いながらも、事実上の
スパイ機関として、機密情報を入手していた。2011年から、
ファーウェイ豪社取締役になっていた3人の高官とは、ジョン・
ブルンピー元ヴィクトリア州副首相、ダウナー外相、そしてジョ
ン・ロード元海軍中将で、いずれもが「ファーウェイのスパイ行
為という陰謀論には証拠がない」と中国を擁護してきた。
 豪メディアは3人に疑惑の目を向けてきた。それというのも、
孟晩舟が2005年10月から、11年8月まで、中国と豪の間
を行き来していたからだ。   ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 この秘密会合の直後にオーストラリアには政変があり、ターン
ブル首相は、現在のスコット・モリソン氏に代わっています。
              ──[中国経済の真実/057]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ排除の内幕、激化する米中5G戦争
  ───────────────────────────
   オーストラリア通信電子局(ASD)のエージェントであ
  る彼らに与えられた課題は、あらゆる種類のサイバー攻撃ツ
  ールを使って、対象国の次世代通信規格「5G」通信網の内
  部機器にアクセスできた場合、どのような損害を与えること
  ができるか、というものだ。
   このチームが発見した事実は、豪州の安全保障当局者や政
  治指導者を青ざめさせた、と現旧政府当局者は明かす。5G
  の攻撃ポテンシャルはあまりにも大きく、オーストラリアが
  攻撃対象となった場合、非常に無防備な状態になる。5Gが
  スパイ行為や重要インフラに対する妨害工作に悪用されるリ
  スクについて理解されたことが、豪州にとってすべてを一変
  させた、と関係者は話す。
   電力から水の供給、下水に至るすべての必須インフラの中
  枢にある情報通信にとって5Gは必要不可欠な要素になる。
  マイク・バージェスASD長官は3月、5G技術の安全性が
  いかに重要かについて、シドニーの研究機関で行ったスピー
  チでこのように説明した。
   世界的な影響力拡大を目指す中国政府の支柱の1つとなっ
  た創立30年の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に
  対する世界的な締め付けを主導したのは、米政府だと広く考
  えられている。しかし、5Gを巡って実際に行動を促したの
  はオーストラリアであり、米国の反応は当初鈍く、英国など
  欧州諸国は、安全保障上の懸念とファーウェイの誇る低価格
  競争力の板挟みになっていたことが、ロイターの20人を超
  える現旧西側当局者への取材で明らかになった。
                  https://bit.ly/2YSDhIT
  ───────────────────────────

スコット・モリソン首相.jpg
スコット・モリソン首相

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