ミットの最終日であり、午前11時頃から、注目の米中首脳会談
が行われます。これに関するコメントは、明日のEJですること
にします。
6月29日付、朝日新聞の「天声人語」は、中国をテーマにし
て、次のように書き出しています。
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中国は、ひそかに、世界一の座をかけたマラソンに挑み、建国
100年の節目になる2049年までに米国を追い抜こうとして
いる。数年前から折々に聞く「100年マラソン」論である。提
唱したのは米政府の中国専門家マイケル・ピルズビリー氏。4年
前に著した『チャイナ2049』で、野心を巧みに隠しつつ、米
国の弱点を射抜こうとする中国を描いた。米国は油断し、迫る影
にも気づいていないと指摘した。
──2019年6月29日付、「天声人語」/朝日新聞
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まさにその通りのことが、いま起きています。米国が、「中国
の迫る影に気が付いた」からこそ、現在米中の衝突が起きている
のです。「100年マラソン」でいえば、今年はちょうど「30
キロの壁」。急な疲れに襲われて米中が衝突し、世界中に緊張が
走っている状態といえます。
現在の中国を理解するうえで、絶対に抜きにしては語れない人
物がいます。それは次の2人です。
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毛沢東(1893〜1976)
ケ小平(1904〜1997)
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といっても、ここで中国論をやるつもりはないです。EJが追
及するのは、あくまで現在の中国がこの先どうなるかです。しか
し、それを探るにあたって、この2人について、基本的なことを
知る必要があるのです。
中国の近代化は、日本と異なり、次の3つの経過をたどってい
るという社会学者の橋爪大三郎氏の指摘です。
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1.スタートまでに多くの時間を要している
2.すべてを中国共産党が主導していること
3.欧米の近代化とは異なる独自の道である
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橋爪大三郎氏によると、中国の近代化のスタートが非常に遅れ
た原因は「儒教」にあるというのです。儒教とは、約2500年
前に、中国に生まれた思想家である孔子の思想を基礎にした考え
方です。橋爪大三郎氏は、儒教と中国の関係について、次のよう
に述べています。
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中国を解くカギは儒教にある。儒教は、中国の社会構造を規定
し、中国を生きる人びとの意識を規定している。何千年もの時間
をかけて、中国文明の深いところまで儒教は根を下ろした。ゆえ
に、西欧文明のほうがよさそうだと思っても、日本人のようにす
ぐ飛びつくことはできなかった。
儒教を解体して、中国を近代化のレールに乗せる。その大転換
を果たしたのが、毛沢東である。毛沢東は、中国革命を象徴する
人物だ。中国共産党を率い、旧体制を攻撃し、抗日戦争を戦い、
国民党を打ち倒し、共産党の幹部にも繰り返し牙をむいた。彼の
「革命的ロマン主義」は、しばしば現実から遊離し、中国にとっ
て危険でさえあった。
儒教を解体するためには、それに代わる思想が、外から来る必
要があった。それがマルクス主義である。マルクス主義は革命の
ための、普遍思想である。毛沢東はそれを、中国化した。毛沢東
は中ソ論争を通じて、マルクス主義の解釈権を握った。中国共産
党は、普遍思想の担い手から、ナショナリズムの担い手に変わっ
た。だから中国共産党は、ソ連の脅威を前に、アメリカと手を結
ぶことができた。 https://bit.ly/2Nm66ga
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ここで大事なのは、毛沢東が、ソ連とのマルクス主義について
の論争を通じてそれを中国化していることです。このマルクス主
義の中国化によって、中国共産党は、ナショナリズムの担い手に
なっています。中国は何かというと「核心的利益」といいますが
これはそこからきていると思います。
少し脱線しますが、中国人に「死は恐いものではない」という
ことを納得させたのも儒教です。人間を「精神」と「肉体」に分
けると、精神の主宰者は「魂」、肉体の主宰者は「魄(はく)」
になります。「生きている」というのは、「魂」と「「魄」が一
致して融合している状態です。死ぬと、魂と魄が分離して天上と
地下に行く──確かに、この考え方は日本にもあります。儒教は
中国、朝鮮、日本という東アジアに強い影響力を持っているので
す。ただ、それが一番弱いのが日本といえるかもしれません。
さて、毛沢東の死後、権力の空白を埋めて、外国との良好な関
係を築き、中国を経済超大国に導いたのが、ケ小平です。このケ
小平について、米国の社会学者で、中国と日本を筆頭に東アジア
の研究に従事したのはエズラ・F・ヴォーゲル教授です。ヴォー
ゲル教授は、ケ小平について次のように語っています。
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後世の歴史家が、20世紀半ばからの新中国の歩みをふり返り
もっとも大きな貢献をした人物を一人選ぶとしたら、それは毛沢
東ではなく、ケ小平である。 ──エズラ・F・ヴォーゲル教授
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毛沢東だけだったら、中国は崩壊し、分裂していたと思われま
すが、ケ小平がいたから、現在の経済大国の中国になったのは確
かです。しかし、習近平主席は、いま、そのケ小平イズムを壊そ
うとしています。 ──[中国経済の真実/036]
≪画像および関連情報≫
●「疑いのない歴史事実」だけを書いた禁欲的な本
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1999年から翌年にかけて私(橋爪大次郎氏)は客員研
究員としてハーバード大学で過ごし、エズラ・ヴォーゲル教
授の知遇をえた。ヴォーゲル教授はちょうど70歳で退職の
年にあたり、これからケ小平についての本を書くつもりだ、
と楽しそうに話していた。
それは楽しみですね。ヴォーゲル先生しか書けないと思い
ますよ。そして10年あまり、待ちに待った大作が書店に並
ぶと、たちまちこの分野では異例のベストセラーとなった。
中国語にも翻訳されて、大陸、香港、台湾の版を合わせると
100万部を越えている。
ヴォーゲル教授の仕事が画期的な点は、いくつもある。第
一に、信頼できるデータにもとづいた、包括的な研究である
こと。ケ小平のような近過去の指導者は、公開されない情報
も多い。ヴォーゲル教授は、公開された文献情報をしらみつ
ぶしにするのはもちろん、それを補うべく、可能な限り多く
の関係者(家族や元部下、共産党の幹部、外国の政府首脳な
ど、ケ小平を直接に知る人びと)をインタヴューして、裏付
けをとった。特に中国の人びととは通訳なしに、中国語で話
しあっている。
第二に、膨大なデータをまとめるのに、社会学の理論を下
敷きにしていること。ヴォーゲル先生の分析は、パーソンズ
(著名な社会学者で、ヴォーゲル教授の指導教員だった)を
思わせますね、と私がコメントすると、わかりますか、彼の
理論は役に立つんです、と種明かしをしてくれた。
https://bit.ly/31WH22p
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毛沢東とケ小平