2019年06月18日

●「一国二制度の深い闇の部分を探る」(EJ第5028号)

 予想したように、6月16日のメディアは、林鄭月娥香港行政
長官が「『逃亡犯条例』の審議を延期する」と発表したニュース
を一斉に伝えています。
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◎香港長官/強硬姿勢を転換/親中派・経済界の異論受け
 /逃亡犯条例改正「先送り」
 香港社会を揺るがした「逃亡犯条例」改正案について、香港政
府は15日、「先送り」を表明した。強気を貫いてきた林鄭月娥
行政長官だが、身内からもいさめる声が出て、方針転換に追い込
まれた。国際社会の注目が集まるなか、中国政府も危機感を強め
た。       ──2019年6月16日付、朝日新聞朝刊
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 一国二制度──本来この制度は、香港返還から50年間、20
47年まで守られることになっています。しかし、中国はそのよ
うなことを守るつもりは一切ないのです。そこで、香港基本法で
は、2007年以降に必要であれば改正できることになっている
ので、2014年に香港の行政長官を中国共産党が恣意的に選べ
る仕組みにしようとしたのです。これによって香港では「雨傘運
動」が起きましたが、中国政府の後押しによって、これを制し、
その仕組みの導入に成功しています。
 この仕組みによって行政長官に選出されたのが、現在の林鄭月
娥行政長官です。その後、香港の一国二制度を骨抜きにするスケ
ジュールは、中国政府から林鄭月娥行政長官に指示が出されてい
るはずです。この長官は中国政府の傀儡だからです。
 行政長官選挙の仕組み導入に続いて中国政府が行政長官に指示
していたのが、今回の「逃亡犯条例」です。実は正確にいうと、
「逃亡犯条例」改正案なのです。香港基本法23条には、次の記
述があります。
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【香港基本法第23条】
 香港特別行政区は、国家分裂や反逆、国家機密を盗み取るなど
の行為を禁じる法律を自ら作る。
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 香港政府は、この条文に基づいた条例を2003年にも導入を
試みたのですが、香港市民の猛反対に遭い、撤回を余儀なくされ
ています。日経ビジネスの池田信太朗氏によると、「2003年
当時といまとでは、中国の力、香港の国際的な地位ともに大きく
異なる。中国政府と、その意向を受けた香港政府が今回は強行す
るという可能性は小さくない」と述べています。
 習近平政権は、政権を批判する言説、とくに習近平氏に関わる
スキャンダルの報道をとくに嫌い、香港の書店を最初から警戒し
ていたのです。香港の書店では、中国政府を批判する書籍を多く
扱っていたからです。2015年には、そういう書店関係者が突
然失踪する事件が起きています。
 これについては、中国事情に詳しい福島香織氏による、次のレ
ポートがあるので、どのような事件であったのか、冒頭の書き出
し部分をご紹介することにします。
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 年明け(2016年)早々の私にとって一番衝撃的なニュース
は、銅鑼湾書店の関係者が次々と失踪したことだ。香港の出版界
にひしひしと圧力が迫っていることは承知していたが、まさか香
港内に住んでいる人間、しかも外国パスポートを持っている人間
が突然消えるほど、香港が物騒なことになっているとは。
 銅鑼湾書店関係者の失踪は5人。まず昨年10月17日に店筆
頭株主・桂民海の行方が分からなくなり、10月24日に同書店
の創始人で店長の林栄基が消え、10月26日に株主の呂波、書
店経理の張志平、そして最後に12月30日に店主の李波がいな
くなった。いったい何が起きたのか。     ──福島香織著
 『香港銅鑼湾書店「失踪事件」の暗澹』/香港の一国二制度を
  見殺しにするな』        https://bit.ly/2MOrTgd
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 これらの失踪者たちは、やがて全員戻ったものの、何があった
かについては口を閉ざしています。このように、言論の自由が守
られているはずの香港でも、一国二制度の壁を乗り越えて、法的
手続きを経ずに、中国当局は当事者を中国に連行し、取り調べを
やっているのです。
 当時、銅鑼湾書店の店主である桂民海氏には「双規」に対する
批判本を出版する計画があり、それが中国共産党の逆鱗に触れて
事実上の“拘束”をして取り調べられたものと思われるのです。
 「双規」とは何でしょうか。
 「双規」とは、中国共産党による強制捜査、逮捕、無期限拘束
自白強要、特定外の拷問、処罰のことで、司法とは別なのです。
福島氏は、次のような恐ろしい事実を指摘しています。
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 双規は、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度、司
法制度外の党規に基づく制度で、逮捕状も拘留期限も決められて
おらず、拷問による死者まで出す前近代的制度と知識人の間で非
難されている。人権派弁護士・浦志強が、微博などのつぶやきを
もって「民族の仇恨を扇動した罪」というわけの分からない容疑
で逮捕、起訴され執行猶予付き判決が出たことは記憶に新しいが
浦志強が本当に冤罪逮捕された原因は、彼が双規の違憲性を世論
に問おうとしたことではないか、と見られている。
                  https://bit.ly/2XgGTay ─────────────────────────────
 この福島氏の指摘は実に恐ろしい。司法で取り調べをするので
はなく、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度を使っ
ているのです。これなら、共産党当局としては何でもできます。
そういうことを、もっとやり易くさせるため、今回の「逃亡犯条
例」改正案を香港当局は成立させようとしたのです。
              ──[中国経済の真実/027]

≪画像および関連情報≫
 ●逃亡犯条例の改正延期/香港政府トップが記者会見
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   中国本土への容疑者引渡しを可能にする「逃亡犯条例」の
  改正をめぐって、多数のけが人が出る大規模なデモが続いて
  いた香港。香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官
  6月15日に記者会見し、改正案の審議を一時中断すること
  を発表した。会見を詳報する。
   現地メディア「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」
  は、会見をテキスト記事としてタイムラインで速報した。現
  地時間の午後3時10分すぎに始まった会見は約1時間半に
  及んだ。林鄭長官は改正案について、「もとは香港への愛情
  と香港人への配慮から進めたものだった」と釈明。「私たち
  が至らなかったせいで、香港で大きな対立を引き起こしてし
  まった。私たちは多くの人を失望させ、悲しませた。私もま
  た、悲しみ、後悔しました。私たちは誠意をこめて、そして
  謙虚に批判を受け入れます」と語った。
   問題となっている改正案のきっかけは、2018年に台湾
  で発生した殺人事件。香港人の男が犯行後に香港へ逃げ帰っ
  てしまったため、台湾当局による拘束を免れたのが問題視さ
  れた。今回の改正案は、香港が犯罪容疑者にとって「拘束さ
  れない地域」として逃げ場にならないように提案された側面
  もあった。林鄭長官は、「私たちは法の抜け穴を塞ぐ必要が
  あります。したがって、現段階では法案を撤回することはで
  きない」と述べた。       https://bit.ly/2XR3sQf
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「逃亡犯条例」審議延期を表明/林行政長官

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする