2019年06月03日

●「米中貿易戦争はいつまで続くのか」(第5017号)

 米国と中国の通信を巡る貿易戦争は、米中協議が事実上破綻し
たことにより、激しさを増す一方です。6月28日〜29日に大
阪で開催されるG20サミットでのトランプ大統領と習近平国家
主席の米中会談で打開が図られる可能性はほとんどないといわれ
ています。実は、G20での米中会談が本当に開かれるかどうか
すら微妙になっているからです。
 こうした米中の衝突は、起きるべくして起きています。それは
単なる貿易問題ではなく、その本質は、米国をはじめとする資本
主義自由経済と中国の共産主義計画経済の対立であるからです。
このまま続ければ、おそらく中国共産党が倒れるまで続くことに
なります。この点について、既出の渡邊哲也氏の解説です。
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 本来、共産主義計画経済と資本主義自由経済は対立する概念で
す。政府資本と政府の統制による価格決定を基本とする共産主義
と民間資本と市場での価格決定を基本とする資本主義。「この2
つの概念のいいとこ取りをしたのが中国であり、政府主導による
資本の増大と、一部共産党資本家の投資により伸びてきたのが中
国経済です」(「」はEJ)
 そして、資産バブルにより拡張した「消費」が中国を支えてき
た半面、大きな矛盾を抱えたがために、他国との摩擦を生んでし
まったのはご承知のとおりです。資本主義のリーダーである米国
がこれを認めないとしたことで、歪(ゆがみ)が露見、中国の社
会構造を揺るがしているわけです。中国のこれ以上の経済拡張は
中国の軍事力の拡大を招き、同時に米国の覇権を脅かします。
 また、それは自由主義という価値観の敗北を意味します。この
本質があっての経済戦争であることから、米国は追撃の手を緩め
ないでしょう。        ──渡邊哲也著/ビジネス社刊
        『GAFAvs中国/世界支配は「石油」から
              「ビッグデータ」に大転換した』
─────────────────────────────
 この解説のなかで重要なのは「」の部分です。中国が体制を転
換していないのに米国は資本主義自由経済に引き入れ、それを最
大限に支援したのは、他ならぬ世界1位と2位の経済大国、米国
と日本であるといえます。そうすれば、中国が自ら体制変換をす
ると甘く考えたからです。
 かたちの上から見ると、中国にも民営企業があり、民主主義国
と同様の経営をやっているように見えます。実はそうではないの
です。何しろ中国は、国家主席、すなわち国のトップが共産党の
総書記に頭の上がらない国なのです。もちろん中国共産党総書記
と中国の国家主席では同一人(兼務)ですが、組織上どちらが偉
いかといったら、共産党の総書記の方が上なのです。
 同様に、民間企業といっても民間企業の取締役会の上に中国共
産党の支部があって、民営企業を含めたすべての企業が共産党の
支配下に置かれているのです。だから、外貨準備が不足した場合
政府の命令ひとつで、民間企業が海外に保有している資産を売却
してドルを獲得することが可能なのです。
 したがって、中国政府が国家情報法に基づいて、ファーウェイ
に情報提供を迫った場合、「それは拒否できる」といくらファー
ウェイの任正非CEOが断言しても、信用できるものではないの
です。ファーウェイのCEOも共産党員であるからです。
 共産主義と資本主義──本来、価値観の違う国同士が、経済運
営をうまくやっていけるはずがないのです。それぞれの文明社会
のなかで、別々にやっていくしかないのです。それなら、米国は
なぜ、体制変換のないまま、中国をWTO(世界貿易機関)に加
入させ、価値観の違う国との経済運営を許したのでしょうか。こ
れについて、石平氏は、次のように述べています。
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 アメリカの中国に対する考え方は蒋介石時代、毛沢東時代から
不変で、中国が経済的な繁栄をものにすれば、西側の価値観を受
け入れるようになるという自分勝手≠ネ妄想でした。アメリカ
はずっと妄想を抱きながら、中国の近代化を支援し、アメリカの
市場を中国のために開放しできた。中国製品を目一杯購入し、無
制限に中国人留学生を受け入れてきました。アメリカに留学した
中国人がアメリカの価値観を母国に持ち帰る。そういう人たちが
中国の政治の主導権を握ったら中国は変わるだろうと。しかし、
実際にはすべて裏切られてしまった。       ──石平氏
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 米国が「中国はきっと民主主義国になる」という“妄想”を抱
くようになった原因は、日本での成功体験にあるという意見もあ
ります。敗戦国の日本は、米国の価値観を素直に受け入れ、米国
からの経済支援を受けて、世界第2の経済大国にまで経済発展を
遂げています。米国人から見ると、同じ東洋人であり、見た目も
よく似ているので、中国人も日本人も同じように見えたのだと思
います。
 米国の日本における統治がうまくいったのは、日本はアジアで
ありながら海洋国家であり、基本的な価値観は、英国に非常に近
いのです。したがって、大陸国家である中国とは基本的価値観が
異なるのです。これについて、石平氏は次のように「アメリカは
価値観の押し売りはやめるべきである」といいます。
─────────────────────────────
 中国にしてみれば、アメリカは自分たちの価値観を押し付けて
中国の体制を転覆しようと企んでいる。そう受け止めていた。そ
れで逆に中国はアメリカに対抗心を持つようになった。だから、
アメリカは、価値観の押し付け、押し売りはやめるべきです。
             ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/016]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易摩擦激化で広がる中国メディアの「忖度」
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   トランプ大統領がツイッターでのつぶやきで予告した通り
  米国政府は5月10日、2000億ドル分の中国製品につい
  て関税をこれまでの10%から25%に引き上げた。米国に
  よる中国製品の関税引き上げは中国経済にどのような影響を
  もたらすのか。普段から付き合いのある中国国内の証券会社
  のアナリストに取材を申し込んだところ、返ってきたのは、
  「今回は応じられません」との答えだった。
   理由を問うと「みんなが答えていない中で、自分だけが話
  すのはちょっと・・・」。いつもの明快な口調が消え失せ、
  口ごもる様子には、はっきりと言えないが察してくれという
  空気がにじんでいた。
   米国政府は、10日の関税引き上げに続き、13日には、
  スマートフォンなど消費財を多く含む約3000億ドル分を
  制裁関税の対象とする「第4弾」の措置も発表した。それで
  も中国政府は外務省の耿爽副報道局長が「貿易戦争を恐れて
  はいない。最後まで付き合う」と述べるなど、強気の姿勢を
  崩さない。共同通信は、米中貿易交渉の緊張が一気に高まる
  キッカケとなった5日の米トランプ大統領のツイートの後、
  現地メディアに報道規制がかけられたと指摘している。指摘
  通り、主要紙やネットメディアではツイートを分析する記事
  を見ることはできなかった。その後、中国国内のメディアに
  よる報道は、基本的には中国政府の公式見解を繰り返すにと
  どまっている。         https://bit.ly/2YDFLLm
  ───────────────────────────

評論家/石平氏.jpg
評論家/石平氏
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2019年06月04日

●「中国国務院/長文白書で米国牽制」(EJ第5018号)

 6月2日のことです。中国国務院は、米国との貿易摩擦問題に
おける中国の立場を詳細に記述した白書を発表しています。
─────────────────────────────
【北京=西見由章】中国国務院(政府)新聞弁公室は2日、米中
貿易摩擦をめぐる中国の立場を詳述した白書を発表し、中国の核
心的利益に関わる「重大な原則的問題」については決して譲歩し
ない立場を改めて強調した。また貿易協議において米側が「中国
の主権に関わる強制的な要求を合意に盛り込むよう固執し、双方
の溝が埋まらなくなった」と非難した。
 白書は貿易協議に曲折を生じさせている原因を「米国の言行不
一致」と主張。中国側が既に約束した合意から後退したとのトラ
ンプ米政権の批判については「米側も要求を何度も変更した」と
反論した。さらに「対話のドアは開かれているが、戦いは徹底的
に受けて立つ」と言及。中国の内需は巨大で、「経済の見通しは
非常に楽観できる」とし、持久戦にも自信をみせた。
 中国当局は米物流大手フェデックスが中国の通信機器大手、華
為技術(ファーウェイ)の書類を無断で米国に転送したとされる
問題をめぐり、フェデックスの調査・立件を決定。また中国企業
に差別的措置をとった外国企業を「信頼できない組織」としてブ
ラックリスト化する方針も公表し、米企業を狙い撃ちにする姿勢
を強めている。           https://bit.ly/2KksW4t
─────────────────────────────
 この白書は、今後の米中関係について、きわめて重要なことを
訴えています。こういう白書が休日に発表されることはきわめて
珍しく、それだけ重要さを意味しています。中国のいわんとして
いることをまとめると、次の4つのポイントになります。
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 1.中国の体制変換に関わる重要な原則的問題については中
   国は絶対に譲らない。
 2.交渉決裂の原因は、要求を何度も変更し、エスカレート
   させた米国側にある。
 3.中国としては対話の窓口をつねに開けているが、戦うと
   いうなら受けて立つ。
 4.持久戦になっても、中国の内需は巨大で、経済の見通し
   は非常に楽観できる。
─────────────────────────────
 これによって大阪でのG20のさいの米中首脳会談の実現性は
きわめて困難になったといえます。首脳会談が実現できるかどう
かのボールはこれまで中国側にあったのですが、この白書の発表
で、ボールは米国側に戻されています。米国が首脳会談を求める
場合、白書の原則を認めることになり、会談が行われるかどうか
不透明な情勢です。
 しかし、2018年9月末にも中国は似たような白書を出して
おり、「関税のこん棒で脅されながらの交渉はできない」と王受
文商務次官は、エラソーに発言していましたが、その後中国経済
が悪化すると、11月には習近平国家主席がトランプ大統領に直
接電話を入れ、12月1日にブエノスアイレスで米中首脳会談が
行われたのです。10月に上海株が急落し、多くの中国企業が倒
産したからです。
 昨年末の会談の結果、数ヶ月の時間稼ぎができた中国は、増値
税(日本の消費税)を下げるなどの景気対策によって、一応経済
の減速が止まると、またしても白書によって自国の体面を保つ宣
言を行ったのです。しかし、4月の経済指標は軒並み悪化し、5
月の製造業の量況感は3ヶ月ぶりに50ラインを割っています。
とてもじゃないが、「経済の見通しは非常に楽観できる」という
状況ではないといえます。
 しかし、これとは別の見方があります。今回の白書はあくまで
国内向けであり、表向きの強気の姿勢のウラで、水面下で米国と
話し合い、米国寄りにかじを切る「プランB」を模索するという
ものです。何しろ相手は予測不能の行動を取るトランプ大統領で
あり、このまま抵抗を続けると、とことん最後まで追い詰められ
る恐怖を感じているからと思われます。
 中国は、最初は単なる貿易問題であると思っていたのです。そ
こで、習近平国家主席はトランプ大統領を国賓として中国に招待
し──どこかの国と似ていますが──米国から巨額の買い物をす
れば問題は解決できると簡単に考えたのです。
 しかし、そのこととは別ルートで、米国はファーウェイとの間
でいろいろトラブルになっていたのです。それがたまたまである
か、あえてであるかは不明ですが、18年12月1日の米中首脳
会談と同じ日に、ファーウェイ副会長の孟晩舟氏が、カナダで逮
捕されたのです。米国の要請のもとでの逮捕です。この時点で、
米中の貿易摩擦問題とファーウェイの問題が一緒になり、問題が
大きくなって、現在に至っています。ところで、ファーウェイの
孟晩舟容疑者は、何の容疑で逮捕されたのでしょうか。
 米国司法省は、孟晩舟副会長が、ファーウェイの秘密の子会社
「スカイコム」に米国が制裁措置を課しているイランとの取引を
実行させ、制裁逃れのために、米国の金融機関に虚偽の事実を告
げたとされる容疑です。現在も孟容疑者の身柄は、カナダにあり
ますが、米国に移送されると、30年の実刑をいい渡される可能
性があります。米国家経済会議のクドロー委員長は、これについ
て、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 対イラン経済制裁に関連してわれわれはファーウェイに、いく
ども警告してきた。アメリカはイランに経済制裁を課している。
イランはわれわれわの政策に反した行動を行っている。アメリカ
が制裁を課するのは当然だ。ただし、この(逮捕)がトランプ大
統領が決定した90日間の(対中制裁の)延期に影響を及ぼすと
は思わない。            https://tcrn.ch/2YWFC5Q
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/017]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ副会長、カナダで逮捕 米当局が要請
  ───────────────────────────
   カナダ司法省によると、孟容疑者は2018年12月1日
  にヴァンクーヴァーで逮捕された。米当局が孟容疑者の身柄
  引き渡しを求めているという。ファーウェイは、容疑に関す
  る情報はほとんどなく、「孟氏のいかなる不正も把握してい
  ない」と述べた。
   孟容疑者は、ファーウェイを創業した任正非氏の娘。同社
  によると、孟容疑者は航空便の乗り継ぎ中に拘束された。カ
  ナダ司法省の報道官は、7日に孟容疑者の保釈聴問会を開く
  としている。ただ同報道官は、孟容疑者からの要請を受けて
  裁判所が報道禁止を命じているとし、詳細については発言し
  なかった。
   米メディアは、米国のイラン制裁に違反した疑いでファー
  ウェイが捜査を受けていると伝えている。また、ファーウェ
  イの技術はスパイ目的で中国政府に利用される可能性があり
  米国の国家安全保障の脅威になるとして、米議員らも同社を
  繰り返し非難してきた。
   ファーウェイは声明で、「事業展開している地域の輸出規
  制や制裁に関する法律、さらに国連(UN)や米国、欧州連
  合(EU)の法規を含む、あらゆる関連法を」同社は順守し
  ていると述べた。「当社は、カナダおよび米国の法制度が最
  終的に公正な結論に至ると信じている」
                  https://bbc.in/2XmFH26
  ───────────────────────────

中国国務院/米中貿易摩擦問題のスタンス表明.jpg
中国国務院/米中貿易摩擦問題のスタンス表明

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2019年06月05日

●「孟晩舟氏はスパイの元締めである」(EJ第5019号)

 6月3日の「BSフジ/プライムニュース」では、後編で米中
問題が取り上げられました。そのテーマと出席者、要約ビデオを
ご紹介します。
―────────────────────────────
  「中期化か米中新冷戦」/6月3日/プライムニュース」
  出演者:小森義久/ 産経新聞ワシントン駐在客員特派員
      安井明彦/   みずほ総合研究所欧米調査部長
      朱 建栄/         東洋学園大学教授
      冨坂 聡/    拓殖大学海外事情研究所教授
                要約ビデオ:22分30秒
                 https://bit.ly/2WCAztT
─────────────────────────────
 この出演メンバーを見ると、小森義久氏は米国の視点から中国
問題を論ずる第一人者であり、、安井明彦氏は米国、中国のどち
ら寄りでもない中間派です。これに対して、朱建栄氏は中国人の
評論家であり、当然のことながら中国の立場の代弁者です。かな
りあくが強く、強引な発言をする人物です。
 冨坂聡氏は中国問題の専門家であり、中国に関する多くの著作
があり、私は何冊も富坂氏の本を読んでいます。しかし、中国の
評論家はほとんどそうですが、中国に対する発言のトーンは抑え
気味です。あまり、中国にとってきつい発言をすると、おそらく
情報の入手に影響が出るものと考えられます。
 ところで、要約ビデオではカットされていますが、ファーウェ
イの問題を巡って、小森氏と冨坂氏が激しく対立したシーンがあ
ります。それは、小森氏の「冨坂さんの情報は古い」という発言
に対して、冨坂氏が激しく反論したのです。
 小森氏によると、ファーウェイによる情報窃盗やスパイ行為な
どのトラブルは、目に余るものであり、米国議会では10年以上
にわたって問題視され、議論されてきた問題なのです。したがっ
て、米国はこの問題に関しては絶対に譲れないし、極端なことを
いうと、米中の安全保障をめぐる議論は、中国共産党が倒れるま
でつづくといっても過言ではないといいます。ちなみにこの問題
について与野党(共和党/民主党)の意見は一致しており、米国
の総意であることを小森氏は強調しています。
 朱建栄氏は、ファーウェイに関する複数の裁判がいずれも有罪
に認定されていないと主張し、5月30日のEJ第5015号で
も取り上げた米CNBC記者によるポンペオ国務長官への「証拠
を示せ」との質問にポンペオ長官が答えられない事実を指摘して
います。そして、中国に5G技術で先を越されて米国は焦ってお
り、同盟国にファーウェイ排除を呼びかけているに過ぎないと発
言しています。
 この朱建栄氏の発言には問題があります。国際法を順守し、同
じルールでの競争で、5G技術において中国が米国を上回ったの
であれば、米国はその技術を中国から積極的に受け入れ、活用す
るはずです。
 そうではないのです。ペンス副大統領の演説でも述べられてい
るように、南シナ海における人工島の建設のように、国際的なル
ールを守らず、自国の論理だけでものごとを強引に押し進め、あ
まつさえサイバー技術を駆使して、情報を窃取しようとする──
これでは、たとえ5Gのパーツにそういう細工がしていなかった
としても、中国政府にきわめて近い企業であるファーウェイの製
品を使うのを躊躇う国が多く出てくるはずです。要するに信用で
きないのです。
 カナダで逮捕された孟晩舟副会長についても、多くの謎があり
ます。新聞報道にもあったように、孟晩舟氏には離婚歴があり、
7つのパスポートを所有していたとされています。しかも、彼女
には4人の子供がいるのです。
 中国は一人っ子政策を執っているのに、なぜ4人の子供を持つ
ことができたのでしょうか。しかも、それらの子供たちは、世界
各国に分散して住んでいます。そのことひとつとっても、中国の
トップクラスでないと不可能なことです。これだけでも、ファー
ウェイという企業が普通の民営企業でなく、中国政府に近い特権
階級であることがわかります。
 7つのパスポートは、中国、香港、カナダとあと4つは、中国
のパスポートで別名だそうです。これは、国家安全部との関連で
しか発行されないので、これだけで孟晩舟氏がスパイの元締めで
ある可能性が濃くなります。これは、ファーウェイに関する重要
事実といえます。
 中国の専門家を自称するなら、こういう事実こそ明かして欲し
いものです。この事実を指摘したのは、中国ウオッチャーとして
知られる宮崎正弘氏です。宮崎正弘は、「ファーウェイという企
業は、謎だらけである」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 バンクーバーに孟晩舟は3軒の豪邸を持ち、不動産業界で「大
豪邸」のカテゴリーに分類されるほどの物件ばかり。広い庭付き
数台のガレージ、3階建ての英国風。ただし、夫名義で登記され
ている。孟女史はカナダ永住権を持ち、保険証を保持し、カナダ
で税金も納めていたとされる。また4人の子供たちは香港、探せ
ん、バンクーバー、マサチューセッツ州にばらばらに住んでいて
前夫との間にできた長男だけがバンクーバーにいるようだが、孟
晩舟とは別の住まいである。
 さて、孟晩舟の父親でもあり、ファーウェイの創業者の任正非
(74歳)、実は2日遅れて、バンクーバー経由でアルゼンチン
に向かう予定だった。娘の拘束を開いて任正非は海外出張を取り
やめた。つまり米国の狙いは娘ではなくファーウェイ最高経営責
任者(CEO)の任正非その人だったのである。──宮崎正弘著
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融機器が始まる』
                       ビジネス社刊
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/018]

≪画像および関連情報≫
 ●8つのパスポートを持つ孟晩舟を「スパイじゃない」と中国
  ───────────────────────────
   米国の要請を受けてカナダ当局に拘束された中国通信機器
  大手・ファーウェイの孟晩舟(モウ・バンシュウ)最高財務責
  任者(CFO)は、中国や香港のパスポートを計8通以上所持
  していたとされ、中国当局による「特別扱い」に、注目が集
  まっている。
   カナダ政府の訴追資料によると、孟CFOは過去11年間
  に、中国の旅券を4通、香港の旅券を3通、計7通発給され
  ていた。さらに、香港紙『明報』は、孟CFOが7通とは別
  に中国の「公務普通旅券」を所持していたと報道している。
   計8通のうち、香港旅券の2通は異なる名前とされる。孟
  CFOが海外での信用が低い中国のパスポートを使うことで
  その活動を捕捉されることを懸念し、中国政府の指示で複数
  の旅券を使い分けていた可能性がある。つまり孟CFOは、
  中国の諜報員(スパイ)であることを複数のパスポート所持で
  証明してしまっているわけだ。
   「中国外務省の陸慷(リク・コウ)報道局長は、12月10
  日の定例記者会見で、『孟氏が中国国民であることは明らか
  だ。(旅券は)この事件の核心でも根本の問題でもない』とし
  て、旅券の発給記録など事実関係の確認には応じませんでし
  た。要は旅券の複数保持を否定していないわけで、スパイと
  いう問題を不当逮捕=人権問題に置き替えようとしているわ
  けです」(国際ジャーナリスト)  https://bit.ly/2EQjVNk
  ───────────────────────────

6月3日/BSフジ「プライムニュース」.jpg
6月3日/BSフジ「プライムニュース」
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2019年06月06日

●「ファーウェイ排除と新COCOM」(EJ第5020号)

 「ファーウェイがスパイ工作をしているという証拠を示せ」と
いう問いに対して、米国は一切応じていません。先の「プライム
ニュース」で、朱建栄東洋学園大学教授は、米国がその問いに応
えていないという事実をもって、「ファーウェイはスパイではな
い」と主張していましたが、これはおかしな論理です。
 米国にいわせれば、ファーウェイが怪しいという事例は、過去
にいくつもあるからです。国際ジャーナリスト、山田敏弘氏のレ
ポートによると、2017年には、エチオピアに拠点を持つアフ
リカ連合(AU)の本部コンピュータシステムから、過去5年間
にわたって、毎晩、真夜中の0時から午前2時の間に、機密情報
が上海に送信されていることが判明しています。このシステムは
中国政府がファーウェイ製の機器やケーブルなどを使って、設置
したものといわれています。
 また、2014年には、オーストラリアの大手企業が、会社の
ネットワークから、ファーウェイ製品を介して不正にデータが中
国に送られていることを発見したといわれています。それ以降、
オーストラリア政府は、政府関係機関や大手企業などで、ファー
ウェイ機器を使わないよう通達を出しています。同じような事例
は、オランダでも、イタリアでも見られるのです。
 それでは、米国はなぜ証拠を示さないのかについて、国際ジャ
ーナリストの山田敏弘氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 そもそも必要とあれば、国民の代表である議会議員らが連邦議
会の委員会できちんとした捜査を行うことになる。現状、米国内
では、その必要性すら議論されていない。過去にファーウェイが
米国のメーカーなどから機密情報を盗んできた証拠もあるし、そ
れはファーウェイ側も否定しないはずだ。そんな背景からも、米
国側に言わせれば、今のところスパイ工作や中国政府とのつなが
りを証明するまでもない。
 さらに付け加えれば、ある元情報関係者は、こんな「可能性」
を筆者に話していた。「もし米国が新たにファーウェイによるス
パイ工作などのハードエビデンス(動かぬ証拠)を持っていたと
しても、それが米国側から中国に対するサイバー攻撃やハッキン
グなどで得たものならば、公表はできるはずがないですね。それ
自体が、機密作戦だからです」    https://bit.ly/2wBbWPp
─────────────────────────────
 米国は何といってもIT大国です。中国のサイバー攻撃を鋭く
批判しますが、米国もやっているのです。情報が盗まれたとなれ
ば、あらゆる方法を使って、それを確かめるために、サイバー技
術やハッキングを駆使することもあるはずです。仮にサイバー技
術によって、中国の不正を発見したとしても、それを証拠として
示すことはあり得ないのです。中国側もそれがわかっているので
あえて「証拠を出せ」といっている可能性があります。そうなる
と、裁判の結果もはっきりとしないものになります。
 既出の山田敏弘氏は、ファーウェイは相手に「証拠を示せ」と
いうのではなく、自身がさまざまな情報を開示して、同社の製品
には何の問題もないということを示すべきではないかといってい
ます。そして、それをきちんとやったケースとして、サムスンの
「ギャラクシーノート7」発火事件の後処理のケースを上げて、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 2016年に韓国サムスン電子製スマホである「ギャラクシー
ノート7」が火を噴いた事件を覚えているだろうか。当時サムス
ンは、その大打撃から挽回するために、客観的に調査を行う外部
の専門家を雇い、徹底した内部調査を開始。その結果を広く公表
することで、自社製品の安全性を訴えた。さらに、欧米などのさ
まざまなメディアをバッテリー工場に招き、取材もさせた。そう
することで、安全性と再発防止に向けた意思を対外的にアピール
した。ファーウェイも本部で開催する記者会見にメディアを呼ぶ
だけでなく、きちんと情報を開示するなどして「後ろめたいこと
はない」ということをアピールすべきではないだろうか。
                  https://bit.ly/2Z47cy7
─────────────────────────────
 このようなトランプ米政権によるファーウェイ排除の政策は、
かつてのソ連に対するココム(COCOM)の復活ではないかと
いう見方もあります。米ソ冷戦時代、ソ連が米国に追いすがらん
とするのを技術面で蹴落とすため、米国は共産圏諸国への先端技
術の輸出を規制しています。
 COCOMとは「対共産圏輸出統制委員会」のことで、100
品目以上の軍事技術関連物質で、特定の性能を超えるもののソ連
を中心とする共産圏への輸出を禁止したのです。これは先進国間
の紳士協定で、各国は制限品目をその性能とともに、自国の法律
に明記し、これを越えるものを企業が輸出する場合には、各国政
府の許可取得を義務付けたのです。
 1982年のことです。東芝機械は、制限を越える性能の工作
機械をソ連に輸出したことにより、東芝機械は、全米から袋叩き
にあったのです。なぜなら、東芝機械の工作機械の輸出によって
ソ連の潜水艦のスクリュー研磨精度が顕著に向上し、雑音が生じ
なくなったことで潜水艦の探索が難しくなったからです。
 このココムという仕組みは、結果として、ソ連経済の足を大き
く引っ張り、ソ連を崩壊に導いたのです。実は、ココムは、「チ
ンコム(CHINCOM)」というかたちで中国にも適用されて
いたのですが、米国や日本はソ連ほど厳しく適用していなかった
のです。なぜなら、当時の中国は、スポーツ・シューズを作るの
がせいいっぱいの技術レベルであり、安全保障的な脅威をぜんぜ
ん感じていなかったからです。この西側先進国の大いなる油断が
現在の化け物のような中国をつくってしまったのです。今の中国
を作ったのは、世界第一の経済大国の米国と当時2位の経済大国
の日本であるといっても過言ではないのです。
              ──[中国経済の真実/019]

≪画像および関連情報≫
 ●「徹底してエビデンスを出して排除すべき!」
  ───────────────────────────
   報道プライムサンデーのご意見番、落合陽一氏(ピクシー
  ダストテクノロジーCEO)がこう表現するのは、中国の通
  信機器大手、ファーウェイ(華為技術)の孟晩舟副会長逮捕
  を巡る問題だ。
   ファーウェイは現在、スマホの販売台数シェアでアップル
  社を抜き世界第2位のグローバル企業。1987年、中国人
  民解放軍出身の任正非氏が創業した。今回逮捕された容疑者
  は、任氏の娘で次期CEOの有力候補とみられる人物だ。落
  合氏は次のように語る。
   「これは国際的な貿易の対立なのか、経済的な対立なのか
  もしくは安全保障上のものなのか、三つ巴の関係になってい
  て、どうしようもない」
   今回の事件の背景に、いったい何があるのか?2018年
  12月16日放送の報道プライムサンデーでは、ファーウェ
  イの成長の軌跡から、問題の真相と今後に迫った。
   佐藤雅俊氏が入手した情報によれば、日本の、ある法人向
  けのファーウェイ製スマホを分析したところ、スパイウェア
  が発見されたという。これはユーザーが知らない間に、遠隔
  操作でネットの閲覧履歴情報などを盗んだり、マイクのスイ
  ッチを入れてユーザーの会話を盗み聞きしたりすることがで
  きるソフトで、スパイの様な動きをする“悪質”なものであ
  るという。佐藤氏は「ファーウェイが(情報を)取っている
  のではなく、中国政府が取っていると思われる。防衛関係の
  技術や日本の最先端の技術を搾取して中国の繁栄にいかそう
  と」と続ける。         https://bit.ly/2HUH7M0
  ───────────────────────────

山田敏弘氏/国際ジャーナリスト.jpg
山田敏弘氏/国際ジャーナリスト
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2019年06月07日

●「米議会は中国に怒りを溜めている」(EJ第5021号)

 ロシアと中国──米国は、これら2つの大国と事実上の「軍事
対立」を行っています。もちろん直接戦火を交えたわけではあり
ませんが、軍事的に対立をしていることは確かです。
 ロシアとは、2014年のソチのオリンピック直後に行われた
クリミア紛争において対立を深め、中国とは、中国が領有権を主
張する南シナ海で、2012年から航行の自由作戦を頻繁に行い
中国と対立しています。これらは、いずれも「軍事対立」であり
安全保障を全てのことに優先させる米国は、今後「冷戦」という
名の「平和」を求めて行くことになります。こうなった以上、米
国が新ココム的措置をとることは必然であるといえます。
 この新ココム的措置について、既出の宮崎正弘氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 米国の新ココム的な措置は、米議会が、2018年に可決した
「2019年度国防権限法/NDAA2019」が基本にある。
規制されるのはAI(人工知能)、バイオ、測位テクノロジー、
マイクロプロセッサー、次世代コンピュータ、データ分析技術、
ロボット、先端的材料など。その多くは日本企業に関連が深く、
ましてIC(集積回路)などは米国の基本特許であるケースやク
ロス・ライセンス契約による技術が目立つため、実際には米国が
国防権限法の運用を強めれば強めるだけ、日本企業の対中輸出も
自動的に縮小する。韓国、台湾も同様な影響を受ける。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融機器が始まる』
─────────────────────────────
 ホワイトハウスのなかには次の組織が誕生しています。共和、
民主を問わず、超党派の議員が要請して誕生したのです。
─────────────────────────────
           枢要技術安全室
─────────────────────────────
 「枢要技術安全室」とは何でしょうか。
 これは、共和、民主を問わず、超党派の議員──米上院情報特
別委員会のウォーナー副委員長(民主党)と同委に所属するルビ
オ上院議員(共和党)などが中心になって提出した法案です。別
にトランプ大統領が指示したわけではないのです。枢要技術安全
室は、中国などによる先端技術のスパイ行為や米国から中国への
技術移転など、米国の安全保障を脅かす行為に対抗するための関
係省庁の取り組みを統括する組織です。
 日本のメディアでは、一般的にトランプ大統領を、やることが
ハタメチャで、何をするかわからない予測不能な大統領と捉えて
います。中国に対する一連の厳しい姿勢も、そういう性格から出
てきているものと中国も考えています。したがって、次の大統領
選挙で民主党に政権交代したら、中国に対する姿勢も大きく変化
するだろうと甘く考えています。米国との貿易摩擦について中国
が、トランプの次の大統領を念頭に、持久戦に持ち込む戦略をと
ろうとしているのは、そのためです。
 しかし、これは間違っています。こと中国に関しては、トラン
プ大統領よりも議会の方がはるかに厳しいのです。その例として
トランプ政権が中国の通信機器メーカーであるZTEの制裁を解
除したことへの議会の強い反発があります。ZTEをめぐるいき
さつについて既出の山田敏弘氏は次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 米政府は18年4月、対イラン・対北朝鮮の制裁に関連する合
意にZTEが違反したとして、米国企業にZTEとの取引禁止措
置をとった。これによって、半導体など基幹部品を調達できなく
なったZTEは、スマホなどの生産ができなくなってしまった。
追い詰められたZTEは、習近平国家主席に泣きつき、トランプ
への口利きを要請。結局、ZTEはトランプに屈して、10億ド
ルの罰金を支払った上で、今後10年間、米国の内部監視チーム
を入れることにも合意した。     https://bit.ly/2Wtz4Pp
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、ZTEとビジネスをしたのです。しかし、
議会は「それは許さない」と怒っています。トランプ大統領は、
ファーウェイに関しても、ZTEのスタイルでビジネス的な解決
を考えているようですが、米議会ではそれに対し、強く警戒して
いるといわれます。これに関連して、渡邊哲也氏は、小森義久産
経新聞ワシントン駐在客員特派員のレポートを取り上げ、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 小森義久氏によると、ワシントンではこのところ中国に関して
「統一戦線」という用語が頻繁に語られているといいます。統一
戦線とは、「統一戦線工作部」という中国共産党内の内部組織を
指しますが、これは共産党が他国を侵略するために、その国のあ
らゆる組織に入り込み党の意図する方針へ誘導することが目的で
す。つまり、米国内における各界から中国による工作が行なわれ
ていることを指摘する声が高まっているわけです。たとえば、半
官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」によると、「米
国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育
や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてき
た」といいます。(中略)もはや中国の脅威が抜本的に取り除か
れるまでは、この路線は継続されると中長期的に見たほうがいい
でしょう。少なくとも、トランプ大統領だけの問題ではないこと
が明らかにされたのです。   ──渡邊哲也著/ビジネス社刊
        『GAFAvs中国/世界支配は「石油」から
              「ビッグデータ」に大転換した』
─────────────────────────────
 小森氏がこのレポートで訴えているのは、米国の主要大学にお
いて、中国政府工作員による中国に関する教育や研究の自由が侵
害されていることへの危機感です。それは、極めて深刻な事態に
なっているのです。     ──[中国経済の真実/020]

≪画像および関連情報≫
 ●海外に魔の手を伸ばす中国の「統一戦線工作」
  ───────────────────────────
   「統一戦線を組もう」とは、仲間内の日常会話でも使われ
  る表現である。しかし、国際政治の場において、外交戦、情
  報・世論戦、謀略戦、懐柔策などを複雑に絡めて展開される
  「統一戦線工作」は、奇々怪々として、国家に深刻な問題を
  投げかける。というのも中国が習近平政権になって、海外に
  おける「統一戦線工作」を一段と強化しているからである。
   先日、中国の「『統一戦線工作』が浮き彫りに」という米
  国からの記事(「古森義久のあめりかノート」、産経新聞、
  平成30年9月23日付)が掲載された。
   詳細は、この後に譲るとして、米国では、統一戦線方式と
  呼ばれる中国の対米工作に関する調査報告書が発表されたこ
  とをきっかけに、習近平政権が「統一戦線工作」によって米
  国の対中態度を変えようとしていることが明らかになった。
  そして、米国全体の対中姿勢が激変し、官と民、保守とリベ
  ラルを問わず、「中国との対決」が、米国のコンセンサスに
  なってきたというものである。「統一戦線工作」とは、本来
  革命政党である共産党が主敵を倒すために、第3の勢力に意
  図や正体を隠しながら接近・浸透し、丸め込んで巧みに操り
  その目的を達成しようとする工作である。
                  https://bit.ly/2HZCWPm
  ───────────────────────────


小森義久氏.jpg
小森義久氏


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2019年06月10日

●「孔子学院が次々と閉鎖されている」(EJ第5022号)

 2019年6月8日の朝日新聞は、第1面と第2面で、「孔子
学院」を次のような見出しをつけて取り上げています。
─────────────────────────────
 ◎第1面/米中争覇
  「孔子学院」米安保の脅威?/中国を警戒次々閉鎖
 ◎第2面/米中争覇
  FBI長官「スパイ活動懸念」
  孔子学院への圧力超党派に/米教授会「閉鎖は非合理的」
          ──2019年6月8日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 「孔子学院」排除は、新COCOMと関係があります。孔子学
院とは何でしょうか。ウィキペディアによると、孔子学院は次の
ように説明されています。
─────────────────────────────
 孔子学院(こうしがくいん)とは、中華人民共和国が海外の大
学などの教育機関と提携し、中国語や中国文化の教育及び宣伝、
中国との友好関係醸成を目的に設立した公的機関である。教育部
が管轄する国家漢語国際推進領導小組弁公室が管轄し、北京市に
本部を設置し、国外の学院はその下部機構となる。孔子の名を冠
しているが、あくまでも中国語語学教育機関であって、儒学教育
機関ではない。 ──ウィキペディア https://bit.ly/2Itf31p ─────────────────────────────
 孔子学院といっても儒教を教えるわけではなく、中国語や中国
文化を教える教育機関です。中国が海外の大学などと提携を結び
2004年から国家プロジェクトとして、スタートさせたもので
す。孔子学院が大学にとって魅力的なのは、米国のケースですが
孔子学園開設時に学校に10万ドル〜20万ドルを提供し、教室
の建設や講師の費用は中国が負担するという点です。つまり、中
国丸がかえの教育機関であり、中国語の授業を増やしたいが、資
金難で対応できない大学にとって、まさに渡りに船のおいしい話
なのです。2018年12月末の時点で、147ヶ国・地域に計
548校が開設されています。なかでも米国は、最多の105校
もあり、日本にも15校あります。
 ちなみに、孔子学院と似たような組織は、中国以外にもありま
す。ゲーテ・インスティテュート、ブリティッシュ・カウンシル
なども、それぞれの政府の運営するものです。他に、「フランス
学院」というのもあるといわれています。しかし、中国の孔子学
院は、他国のものといささか異なるのです。
 これらの孔子学院は、中国教育省傘下の国家漢語国際推進領導
グループ弁室(漢弁)の傘下の機関として、位置づけられていま
す。つまり、海外のすべての孔子学院は、中国政府によって、完
全にコントロールされているのです。こういう状況なので、教え
るカリキュラムやテキストなどはすべて中国主導で決められてお
り、大学に対しても一切開示されていないのです。
 中国から派遣される講師は、漢弁との間で「中国の国益を害す
る行為に関与すれば契約を打ち切る」とする誓約書にサインさせ
られているので、台湾独立問題や天安門事件などは、絶対に取り
上げることはないのです。要するに、孔子学院は中国政府による
政治宣伝のプロパガンダ機関なのです。
 中国共産党政治局常務委員の劉雲山氏は、孔子学院について次
のようにいっています。
─────────────────────────────
 孔子学院は、中国の文化戦争の戦場であり、かならず中国が使
用している教材を使用し、中国的社会主義を世界に拡大する目的
がある。             ──劉雲山政治局常務委員
                  https://bit.ly/2Itf31p ─────────────────────────────
 米中貿易戦争が始まる前にも、各国で孔子学院の閉鎖は起こっ
ています。これについては、2014年7月4日発行の「宮崎正
弘の国際ニュース・早読み」で宮崎氏が、カナダのケースを取り
上げ、次のように述べています。
─────────────────────────────
 カナダのトロントにある「孔子学院」の前でPTAがプラカー
ドを掲げて、反対運動を展開している。カリキュラムの偏向を問
題視しているのだ。
 そもそも「孔子学院とは孔子に名を借りて中国共産党の宣伝を
している。教育目的を逸脱し、子供らの教育に向上に役に立たな
い」とするカナダ市民、とくに中国系住民の抗議が教育委員会に
集中していた。カナダへ移住した中国人は共産党をきらって国を
捨てた人々が多い。トロント教育委員会は、「孔子学院の9月再
開」を暫定的に中止させる動機を圧倒的多数で可決させた(14
年6月25日、EPOCH TIMES)。決議案は、付帯条件
として「もし再開させるのであれば、教材の公開を義務付ける」
とした。
 トロントの孔子学院は2011年に37名の教職員が中国に招
待され、五星ホテルと豪華レストランで連日もてなされてきた。
そのあげくにカナダに孔子学院が開設された経緯がある。まるで
中国政府の出資による文化戦争の先兵として、利用されていると
批判が渦巻いていたのだ。      https://bit.ly/1qsFuWp
─────────────────────────────
 孔子学院をスパイ機関として決めつける見方もありますが、そ
うではないと思います。それは諜報機関の仕事であって、孔子学
院の仕事ではないのです。むしろ、中国の「中華思想」を指導す
ることによって、その国のなかに「中国の親派」をつくり、将来
のスパイ要員として育てようとしているのではないかと考えられ
るのです。
 しかし、米中の貿易戦争が起きると、いわゆる「統一戦線」の
一環として孔子学院がとらえられ、各大学での孔子学院の閉鎖が
次々と起きる事態となっているのです。
              ──[中国経済の真実/021]

≪画像および関連情報≫
 ●中国語学習の孔子学院、米で閉鎖続く 対立で排除の動き
  ───────────────────────────
   中国政府が米国内の大学と提携して設置した中国語学習の
  教育機関「孔子学院」の閉鎖が、相次いでいる。2018年
  12月10日には、ミシガン大が来年の閉鎖を表明。今年に
  入り、閉鎖決定は6校目となった。米政界では「中国共産党
  の宣伝機関」「学問の自由が脅かされる」などと、批判が強
  まっており、中国のソフトパワーを排除する動きが広がって
  いる。ミシガン大の担当者は朝日新聞の取材に対し、同大学
  は2019年に期限を迎える孔子学院との契約を更新しない
  ことを明らかにした。すでに中国側には大学の方針を伝えた
  という。
   全米学者協会(NAS)によると、米国内の孔子学院の設
  置は05年3月にメリーランド大を皮切りに始まり、12月
  現在、100の総合・単科大学に設置されている。米メディ
  アによると、孔子学院が米国の大学で増え始めたのは景気後
  退の時期と重なる。中国政府が資金提供をするため、大学側
  にとっては自己負担を抑えて中国語授業を提供できるとして
  重宝されてきた経緯があるという。
   しかし、14年になって風向きが変わり始める。米国大学
  教授協会(AAUP)は同年6月、孔子学院は、中国政府の
  政治的主張と強く結びついているとして問題視し、「孔子学
  院は中国政府の一機関であり、『学問の自由』を無視してい
  る」と批判。孔子学院をめぐって大学側と中国側が交わす契
  約の中で、中国側が「学問の自由」を認め、契約の透明性の
  向上に応じなければ孔子学院の契約を打ち切るよう求めた。
                  https://bit.ly/31gvWoH
  ───────────────────────────

孔子学院の開設.jpg
孔子学院の開設

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2019年06月11日

●「米議会のパンダハガーは殆ど消滅」(EJ第5023号)

 現在のFBI長官は、クリストファ・レイ氏です。そのレイ長
官は、ちょうど1年前に次の発言をしていたのです。
─────────────────────────────
 我々は孔子学院を注視している。いくつかの事例は捜査段階
 にある。              ──レイFBI長官
─────────────────────────────
 レイ長官のところには、孔子学院に関する不穏な情報が入って
いたので、このような発言をしたのです。それから1年が経った
4月下旬、レイ長官は、1年前よりもっと具体的に、次のような
警告発言をしています。
─────────────────────────────
 中国のスパイ活動ほど深刻な脅威はない。彼らは情報機関や
 国営企業、民間企業を始め、大学院生や研究者ら様々な人々
 を使って情報を盗んでいる。我々は、孔子学院を懸念してい
 る。         ──クリストファ・レイFBI長官
            2019年6月8日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 「パンダハガー」という言葉があります。「パンダを抱く人」
という意味です。「パンダ=中国」と考えると、中国の外交工作
の手中に嵌って親中に傾倒している国、外交官、国会議員、すな
わち、親中派のことを指す言葉です。
 孔子学院は、感受性の強い世界中の若者に、中国を否定せず、
中国にシンパシイを感ずる人になってもらいたい──そういう親
中派を世界中に作るのが孔子学院の狙いなのです。
 世界中の国に拡がるパンダハガー、とくに米国の現状について
渡邊哲也氏は次のように述べています
─────────────────────────────
 アメリカはトランプ大統領の対中政策に対して共和党で95%
民主党では3分の2が「まだ生ぬるい」と考えて、ファーウェイ
やZTEへの規制強化を求めているのが現状です。さらに昨年の
中間選挙後は親中国派というか、パンダハガーが壊滅的に減り、
全議員中で微々たるものになっています。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 トランプ大統領の支持率は、就任当時は30%台、しかし就任
直後の2月には46%に上昇しています。これはご祝儀相場とい
われています。案の定その後は大きく下がっています。
 その後は37%〜40%で推移していましたが、2019年に
入ると上昇をはじめ、米調査会社ギャラップが4月17日〜30
日に実施した調査で過去最高の46%になったのです。これには
ロシアとの共謀がシロだったことや、経済指標の改善などが原因
に上げられますが、中国に対する関税を使った強気の貿易交渉と
けっして無関係ではないのです。
 昨年11月の中間選挙において、キリスト教福音派のペンス副
大統領の活躍により、いわゆる「パンダハガー」の議員は、ほと
んど排除され、現状は微々たる状態になっています。ペンス副大
統領は、ガチガチの反中国派であり、それは、中間選挙前の10
月4日に行われた「ペンス演説」によっても明らかです。
 一見強硬にみえるトランプ大統領のやり方は、共和党、民主党
ともに生ぬるいと考えており、こと対中国に関しては、超党派な
のです。このように、中国にとっては、現在、誠に厳しい状況に
なっています。
 スパイ拠点といわれている孔子学院の排除に関して渡邊哲也氏
は、次のように述べています。米国の安全保障に基づき、関連す
る中国人の排除がはじまっています。
─────────────────────────────
 米国の留学生ビザはこれまで5年だったものが、1年の更新に
変わりました。特に米国の国防に関する技術や先端技術にかかわ
る部分に関しては、いっそうの中国排除が始まっています。米国
の国防技術を扱うすべての企業に対して、中国人の採用を制限す
るよう要請しています。また関係各国にも米国の「国防権限法」
に基づき、同様のことを要請し始めています。安全保障や軍事分
野から中国人がどんどん追い出されていることになります。これ
はもう完全に次のCOCOM前哨戦と言えるでしょう。
               ──渡邊哲也著/ビジネス社刊
        『GAFAvs中国/世界支配は「石油」から
              「ビッグデータ」に大転換した』
─────────────────────────────
 ここまでの米中貿易戦争によって、中国経済は今後どういう状
況になっていくでしょうか。
 物価高と株安、通貨安が起きています。通貨安については、中
国人民銀行(中央銀行)は、利下げを含めて大々的な金融緩和に
踏み切らざるを得ない状況にあり、しかも外貨準備は激減してい
るので、通貨の大量供給は必然的に人民元安へと導くことになり
ます。中国としては、資本規制、とくにドル送金やドルの持ち出
しが極度に規制されることになります。宮崎正弘氏も、次のよう
に述べ、中国発の金融恐慌が起こりかねない状況と懸念を示して
います。少なくとも市場はこのように判断しています。
─────────────────────────────
 中国人民銀行(中央銀行)は、ドルの裏付けのない人民元をじ
ゃかすかと印刷しているが、産経新聞の田村秀男氏の試算によれ
ば「外貨資産の64%しかドルの裏付けがない」という寒々しい
状態、暴落前夜の様相になってきた。つまり残りの36%は通貨
の垂れ流しをしていることになり、この意味するところは人民元
の大暴落である。       ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融機器が始まる』
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/022]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプはなぜ中国を貿易で追い込もうとするのか?
  ───────────────────────────
   日本の10連休が続いている間にアメリカの株価は上がり
  続けていました。どうもアメリカ経済は底堅いということで
  特に政府が3日に発表した前月4月の雇用統計は、驚異的な
  数字でした。農業部門を除く新規の雇用者数が26万人強の
  増加となり、予想を8万人近く上回ったのです。この結果、
  失業率は3・6%まで下がりました。
   リーマンショック後の株安に沈んだ2009年の秋には、
  10%の大台に乗っていたこともあることを思うと隔世の感
  があります。この3・6%というのは、1969年以来とい
  うのですから恐れ入ります。
   トランプ政権は、ここへ来て「弾劾訴追」を受けることは
  なかったものの、独立機関として設置された特別検察官のレ
  ポートが公表される中で苦境に立っていました。ロシアとの
  「共謀ほどではないが協調」をして、ヒラリーを陥れようと
  したこと、「司法妨害」として立件できるほどではないが、
  「FBIや司法省に圧力」を掛け続けたことを暴かれて、支
  持率が下がっていました。そんな中で、これだけ素晴らしい
  雇用を実現し、そうした実体経済の好調を受けて株価も好調
  というのはラッキーとしか言いようがありません。大統領は
  自分の政策の成果だと自画自賛していますが、本当に政策の
  成果なのかどうかはともかく、経済が結果オーライであれば
  2020年の大統領選での再選は視野に入ってきます。
                  https://bit.ly/2ZgV24Z
  ───────────────────────────

クリストファ・レイFBI長官.jpg

クリストファ・レイFBI長官
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2019年06月12日

●「G20で米中首脳会談はできるか」(EJ第5024号)

 米国の「中国排除」はかなり本気です。米中通商協議でも、知
的財産権などの構造協議への確実な対応を中国に求めており、そ
の実効性が担保されない限り、中国とは合意しないと、ライトハ
イザー米通商代表部代表は、3月12日に、上院財政委員会で証
言していることから、その本気度が読み取れます。
 それは、中国側も十分理解しており、当初はそれに対応するた
め、「外商投資法」を自主的に成立させるなど、米国側に大幅に
譲歩する姿勢を見せていたのです。
 しかし、米国はそれだけでは満足しないのです。中国と合意し
た場合でも、中国がそれをきちんと履行しない場合、いつでも中
国に制裁関税がかけられるようにし、それについても合意文書に
明記することを求めたのです。つまり、ルールの実効性の担保を
厳しく中国に求めたわけです。
 中国はこれに反発したのです。これは、メンツを重んずる中国
にとって屈辱的であり、つねに米国の監視下で行動しなければな
らなくなるとして、閣僚級協議の合意を蹴ったのです。この状況
では、G20での米中首脳会談の開催は難しいと思われます。
 米国の本気度は、国防権限法に合わせるかたちで、次の2つの
法律を成立させていることでもわかります。
─────────────────────────────
   1.外国投資リスク審査現代化法/FIRRMA
   2.    米国輸出管理改革法/  ECRA
─────────────────────────────
 これらの法律についての詳しい説明は避けますが、「1」は、
外国人による投資審査を実施する対米外国投資委員会の権限と範
囲を拡大するものです。
 具体的には、「外国人」の定義を変更し、外国人の範囲を経営
に影響を与える取締役会への参加などまで拡大し、安全保障の定
義に、先端技術や不動産を加えています。これによって、中国企
業や中国人による先端技術や安全保障に関わる企業買収や不動産
投資は不可能になります。
 「2」は、事実上のココム(対共産圏輸出規制)に匹敵するも
のです。これによって、米国の武器輸出禁止国──ロシア、中国
ベネズエラ、イラクやテロ規制対象──などへ米国の「最先端お
よび基盤技術」を輸出することを禁じています。これに該当する
分野は14ありますが、日本企業をはじめとする他国が、これら
を今後中国に輸出するさいには、この法律によって、米国の許可
が必要になります。
 ところで、このような状況で、6月28日〜29日のG20大
阪において、米中首脳会談が行われるでしょうか。
 今のところ、その気配はいっさい感じられないのです。もし、
首脳会談が実施されるとしたら、現在、水面下で事務方が交渉を
重ねているはずですが、そういう情報はないのです。6月2日に
中国側は、中国国務院として、米中貿易協議における中国の立場
を示す白書を発表し、米国の言行不一致によって、協議は曲折し
ていることを非難しています。
 6月2日発表の白書では、「米国への全輸出品目に高率関税が
かけられたとしても経済に問題なし」という強気の発表が行われ
ていますが、本当にそんなことになったら、中国の経済は大変な
ことになります。そこで、米国の要求を受け入れるとしても、米
国の要求する「ルールの実効性の担保」だけは外させ、その代わ
り「すべての追加関税の撤廃」だけは、中国としては習近平国家
主席のメンツを守るために勝ち取る必要があります。しかし、こ
れは、非常に難しい問題です。
 これに関して、渡邊哲也氏と石平氏の対談では、次のやり取り
が行われています。
─────────────────────────────
渡邊:アメリカ側が「すべての追加関税撤廃」という中国側の条
 件を呑むのはちょっと考えられない。合意に達したとしでも追
 加関税を部分的に保留して中国側に圧力をかけ続けることは、
 かねてよりアメリカ側の戦略であるからです。
石平:だから中国が望むような結果になる唯一の可能性は、要す
 るにトランプ大統領が習主席とサシで会ったうえで、トップダ
 ウン的に決断する以外にはない。
渡邊:しかし習主席がいつまでもトランプ大統領との会談を躊躇
 うならば何も始まらないでしょう。たとえ米中首脳会談が行わ
 れたとしでも、トランプ大統領が、「全追加関税撤廃」という
 中国側の要求を退けで席を立ってしまう可能性がある。いや、
 そちらのほうが濃厚ですよ。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、ツイッターで「習主席と会談したい」と会
談に意欲を示していますが、実現は困難であると思われます。中
国側も、中国人民銀行(中央銀行)の戴相竜元総裁は、5月31
日、6月末に大阪で開催されるG20において、米中首脳会談が
行われたとしても、進展が困難であるとして、次のように発言し
早くも煙幕を張っています。
─────────────────────────────
 いじめで「アメリカ・ファースト」だ。これらを調整するのは
困難だ。日本で6月に開かれる首脳会合で大きな進展を得るのは
難しいだろうと私は予想している。     ──戴相竜元総裁
                  https://bit.ly/2Z9UM7U ─────────────────────────────
 閣僚級の協議で決着がつかなかったら、トップ同士がサシで話
し合って解決する──これは常識です。トランプ大統領は「やろ
う」といっているのに、習主席の返事はありません。彼は、サシ
ではどういしても話し合えない事情があるからです。
              ──[中国経済の真実/023]

≪画像および関連情報≫
 ●対中関税めぐる決定は「G20後」/トランプ米大統領
  ───────────────────────────
  [シャノン(アイルランド)/北京/カーン(フランス)6
  日/ロイター]トランプ米大統領は6日、対中関税を「少な
  くとも」さらに3000億ドル分上乗せする可能性があるが
  中国もメキシコも米国との貿易交渉で合意を望んでいるとの
  認識を示し、対中関税措置については、28─29日に大阪
  で開催されるG20(20カ国・地域)首脳会議後に決定す
  ると述べた。
   トランプ氏はG20首脳会議期間中に中国の習近平国家主
  席との会談を予定。具体的な日程はまだ決まっていないが、
  実現すれば、2018年末にアルゼンチンのブエノスアイレ
  スで行われた米中首脳会談以来となる。
   トランプ大統領は、3000億ドルの中国製品に対する関
  税措置の発動を巡る決定は習主席との会談後になると表明。
  「決定はG20首脳会議後2週間以内に行う。習主席と会談
  するが、どうなるか見てみよう」と述べた。大統領は中国と
  の協議は続いていると述べたが、直接の交渉は5月10日以
  降行われていない。これに先立ちトランプ氏は、アイルラン
  ドのシャノン空港で大統領専用機に搭乗する前に記者団に対
  し、「中国との協議については多くの興味深いことが起きて
  いる。次に何が起きるか。少なくとも3000億ドルを上乗
  せする可能性がある。適切な時期に行う」と発言。
                  https://bit.ly/2WmPJPC
  ───────────────────────────

G20/大阪での米中首脳会談見送りか.jpg
G20/大阪での米中首脳会談見送りか
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2019年06月13日

●「『李鴻章』になりたくない習近平」(EJ第5025号)

 6月9日のことです。中国共産党機関紙の「人民日報」の伝え
るところによると、中国政府は「国家技術安全管理リスト」とい
う仕組みを設けるということです。新制度の詳細は明らかにされ
ていませんが、世界で競争力を持つ中国国内の技術をリストアッ
プし、研究開発を後押しするほか、国外への輸出を管理、制限す
る目的があるとみられます。
 具体的な対象技術について、人民日報は、次のように述べてい
るので、ご紹介します。
─────────────────────────────
 人民日報は、中国が航空宇宙や高速鉄道、モバイル決裁、次世
代通信規格「5G」でイノベーションを起こしたと強調し、こう
した分野が規制対象と示唆した。特に5G分野では、中国は必須
となる特許出願数で3割強を占めているとされており、ハイテク
分野で中国の存在感が急速に高まっていることは確かだ。
 ハイテク分野では、すでに米国は中国通信機器最大手、為華技
術(ファーウェイ)の排除に動いている。中国側が輸出を制限す
るだけでは、有効な交渉カードとならないとの見方もある。
         ──2019年6月11日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 米国には既に「エンティティー・リスト(EL)」というもの
があります。安全保障上の懸念のある外国企業を記載し、輸出を
規制するものです。既にELには、多くの中国企業が記載されて
います。中国も中国企業に不当に損害を与えた外国企業を列挙す
る「中国版EL」を創設する考えですが、いずれも米国の後追い
であり、米国に大きなダメージを与えるものではないのです。
 「目には目を」ではないが、いくら技術輸出を制限しても、中
国の技術が世界を上回っているものは限られており、この分野で
の制裁合戦では米国の方に利があります。中国としては何らかの
かたちで、米国と話をつける必要がありますが、中国はなぜ話し
合いをしょうとしないのでしょうか。
 石平氏は、「習近平主席は現代の『李鴻章』になりたくない」
ので、トランプ大統領とのサシの会談を本音では、避けようとし
ているといいます。李鴻章について石平氏は、次のように説明し
ています。
─────────────────────────────
 李鴻章というのは、清王朝晩期の重臣で約20年間、清国の外
交をつかさどった人物だ。日清戦争で清国が日本に完敗したのち
李鴻章は、下関で日本側との交渉に当たり「下関条約」に署名し
た。この条約によって遼東半島と台湾が日本に割譲されたため、
当事者の李鴻章は、「喪権辱国」(国権を喪失させ国を辱めるこ
と)の張本人にされて、現在に至っても、罵声を浴び続ける存在
である。              https://bit.ly/2KFc9tf
─────────────────────────────
 本来「現代の李鴻章」という責めを受けるのは、日中交渉を任
された劉鶴氏の方です。何かと口が悪いということで評判の良く
ない北京大の孔教授にいたっては、劉鶴氏を「李鴻章以下」と罵
倒しています。
 こういう状況の下で、習主席がトランプ大統領と直接会談を行
うことは、大きなリスクを負うことになります。それは、現在の
中国が習近平独裁体制であるからです。現在の中国共産党政権内
では、習主席が、政治、軍事、外交、経済などのすべてにおいて
決定権をもっています。したがって、国として決断するすべての
ことにおける責任は習主席にあります。「喪権辱国」──国権を
喪失させ、国を辱めることの意味ですが、これについても責任も
すべて習主席が追うことになるのです。
 ケ小平は、もし独裁制をとれば、こうなることがわかっていて
集団指導体制を敷いたのです。それを習近平主席がすべて壊して
独裁体制を弾いたため、全責任が自分にかかってきてしまう状況
に陥っているのです。
 それでは、かつての毛沢東の独裁体制では、なぜ、そうならな
かったのでしょうか。毛沢東独裁体制と習近平独裁体制の違いに
ついて、石平氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 かつての毛沢東独裁時代と比べると、習主席の独裁にはもう一
つ大きな欠陥があります。毛沢東は絶対的なカリスマとして共産
党と国家の上に君臨し、個人独裁体制を築き上げたが、その一方
で毛沢東には周恩来という非凡な能力を持つ首相がいて、毛沢東
体制を内部から支えていました。毛沢東体制下の周恩来首相は、
毛沢東の権威に絶対的に服従しながら、首相として経済・外交な
どの実務を一手に引き受けていたのです。
 周知のように、1972年の田中角栄訪中の際、田中首相との
難しい交渉も喧嘩もすべて周恩来が担当、それらが、すべてまと
まった後に、毛沢東が出てきて角栄と会談、「大所高所」の諸に
興じたのです。その際、もし日中交渉が不首尾に終われば、当然
周恩来一人がその全責任を負うこととなったでしょう。
 周恩来のような非凡な才能を備えて誠心誠意に仕えてくれる偉
大なる忠臣がいるからこそ、毛沢東独裁は彼が死ぬまでの27年
も続いたわけです。
 残念ながら、いまの習政権には周恩来のような有能な忠臣はい
ません。共産党政治局と政府中枢には、習近平氏の幼なじみや地
方勤務時代の元部下からなる側近グループはいることはいるけれ
ど、ほぼ全員が無能なイエスマンであって、周恩来のような傑物
は一人もいない。    ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 中国の皇帝は、自身のことを「孤家」または「寡人」と呼んだ
そうですが、現在の中国の“皇帝”である習近平主席は文字通り
そうなりつつあります。果して習近平主席はどう動くかが注目さ
れます。          ──[中国経済の真実/024]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易協議、習主席の苦境/石平のチャイナ・ウォッチ
  ───────────────────────────
   北京大の孔教授が劉鶴氏のことを「李鴻章以下」と罵倒し
  たことは、要するに、米中貿易協議における中国側の譲歩を
  「喪権辱国」だと批判したことである。それは、孔教授だけ
  の意見ではなく、国内一部勢力の声を代弁しているのであろ
  う。このような状況下で、トランプ大統領との首脳会談で貿
  易協議に決着をつけることは、習主席にとって大変難しいこ
  とであろう。劉鶴氏が当事者として米国側との合意に達した
  場合、国内で罵声を浴びるのは劉氏の方だが、習主席自身が
  米国へ出向いてトランプ大統領と「城下の盟」を結んだ場合
  「李鴻章」同様の汚名を背負って批判されるのは習主席自身
  である。
   「民族の偉大なる復興」を政治看板とする習主席はまさに
  「看板倒れ」となって、指導者としての威信に大きな傷がつ
  く。国内の反対勢力はそれを理由に巻き返しを図ってくる可
  能性もある。だから、トランプ大統領との屈辱的な首脳会談
  へ行きたくないのは習主席の本音であろう。
   しかし彼自身が行かなければ、貿易戦争に収拾をつけるこ
  とは不可能となり、中国経済は今まで以上の深刻な打撃を受
  けることとなろう。それでは習主席の政権基盤が大きく揺ら
  いでしまう。習主席にとって今の状況は、まさに進むも地獄
  退くも地獄なのである。それでも習主席は多大なリスクを覚
  悟して米中首脳会談に応じる以外に道はないだろうが、米中
  貿易戦争が、それで終息する保証があるわけでもない。彼に
  とっていばらの道はさらに続くであろう。
                  https://bit.ly/2MDdMu4
  ───────────────────────────

会談するのかしないのか/米中首脳.jpg
会談するのかしないのか/米中首脳
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2019年06月14日

●「人民元安に誘導し関税を相殺する」(EJ第5026号)

 6月10日、トランプ米大統領は、米CNBCテレビのインタ
ピューで、G20大阪での習近平主席との会談はあると思うし、
話し合えば一定の合意に到達することは可能であるとしたものの
会談が実現しない場合について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 もし月内の米中首脳会談が実現しなければ、中国からの全輸入
品に関税を課す「第4弾」を直ちに実施する。これが行われると
中国には一大事だが、米国は他国から製品を買えるので、問題で
はない。   ──2019年6月11日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 トランプ大統領のこの発言は、6月10日時点で、首脳会談に
ついて中国から何のメッセージもないことを示していて、少しイ
ライラしており、会談開催を中国側に呼び掛け、催促したものと
思われます。しかし、本日、14日になっても、中国は首脳会談
について何も米側にいってきていないのです。C20大阪まで、
あと2週間しかないにもかかわらずです。
 習近平主席は、そもそもこの米中貿易摩擦について、どのよう
な戦略を考えていたのでしょうか。この習近平主席のハラのなか
について、石平氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 いま習主席が考えているのは戦略ではない。今回の貿易戦争を
何とか軟着陸させないと、アメリカの関税の引き上げを止めない
と、自分の目の前で中国経済が潰れる。潰れたら自分は終わり。
だから、いまの習主席は延命策しか考えていません。
 危機から逃れるために、できるだけアメリカの関税の引き上げ
実施時期を延ばす。あるいは終わらせる。そのためには、アメリ
カが突き付けてくる要求をとりあえず呑んでいく。だが、呑んで
いくとしても、すべて実行するつもりなど毛頭ない。これが中国
の一貫したやり方、常套手段です。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 習近平主席は、この考え方で、昨年12月1日の首脳会談を受
け入れ、「第3弾」の関税引き上げを5月10日まで5ヶ月間延
期させたのです。なぜ、会談が決裂したかというと、米国は、中
国が約束ごとを履行しない場合のさまざまな懲罰的措置を合意文
書に盛り込ませようとしたからです。
 現在、トランプ大統領は、「第3弾」の関税引き上げを実施し
た上で、「第4弾」の実施を振りかざして、6月末のG20大阪
での米中首脳会談の実施を迫っているのですが、今のところ中国
に動きはありません。
 現在、中国は米国からの輸入品の約70%に報復関税をかけて
おり、実際に中国が今やれることは、次の2つぐらいしかないと
いわれています。
─────────────────────────────
     1.希土類(レアアース)の輸出管理規制
     2.   為替相場を人民元安に誘導する
─────────────────────────────
 「1」についてはまだ行われていませんが、「2」については
既にはじまっています。中国が米国に輸出する場合、輸出品のド
ル建ての販売価格は関税分跳ね上がりますが、この場合、人民元
が安くなれば、それだけ販売価格を下げる余地が生まれ、関税引
き上げ効果が緩和されます。中国はこれを狙っているのです。
 2019年6月12日付の日本経済新聞は、次の見出しをつけ
て、関連記事を掲載しています。
─────────────────────────────
 ◎中国危うい「元安カード」/G20にらみ米と神経戦
                1ドル7元試す展開に
 【上海=張勇祥】中国が人民元安を対米カードに再び使い始め
た。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁による元安容認発言を
を受けて、元の対ドル相場は1ドル=7元を試す展開となってい
る。米政権の制裁関税拡大をけん制する狙いがあるが、元安は資
本流出にもつながりかねない。6月末の20ヶ国・地域首脳会議
(G20大阪サミット)に向けて米中の神経戦が続きそうだ。
         ──2019年6月12日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 4月の終わりまでは「1ドル=6・7元」で推移していたので
す。このラインよりも人民元が上がると「元安」になります。そ
して、5月5日に、トランプ大統領が「制裁関税」を引き上げる
といった時点から「6・8元」という元安水準になり、5月19
日に、人民銀行潘副総裁が「人民元は合理的な水準で安定してい
る」と発言すると、元はさらに安くなり、「6・9元」の水準を
突破しています。そして、6月7日の人民銀行易総裁の「具体的
な為替の数字がより重要と思っていない」という元安容認発言が
飛び出したのです。
 こういう状況を分析してゴールドマン・サックスは、今後3ヶ
月で「1ドル=7・05元」までの元安進行を予想しており、こ
れを見る限り、中国は為替を操作することによって、米国との対
立長期化に備えていると思われます。
 この人民銀行易総裁とムニューシン米財務長官は、G20中央
銀行総裁会議のため訪れている福岡市で9日に会談を行い、「お
互いに関心のあるテーマについて率直に意見交換をした」とだけ
述べていますが、会談内容については不明です。
 理屈のうえでは、10%の関税引き上げは、10%の通貨安で
相殺できるのです。中国があからさまにこれをやると、米国は中
国を「為替操作国」に指定することは確実です。これは、きわめ
て危険なチキンゲームであり、これによって中国経済が破綻し、
金融危機が起きる可能性もありうるのです。
              ──[中国経済の真実/025]

≪画像および関連情報≫
 ●くすぶる「資本流出→人民元安」のリスク/唐鎌大輔氏
  ───────────────────────────
   あまり話題にはなっていないが、国際通貨基金(IMF)
  は、2019年4月に発表した春季世界経済見通しの中で、
  中国の経常収支が2022年には66億ドルの赤字になると
  予想している。金融危機発生から10年あまりで、一時は世
  界最大だった黒字が完全になくなってしまうという変化の大
  きさには驚きを覚える。
   同期間に一貫して高水準の黒字を維持し、世界最大の経常
  黒字国としての地位を確立したドイツとは対照的である。ア
  メリカのトランプ政権は通商政策上、中国を目の敵にしてい
  るが、これは貿易黒字(正確には対米黒字)の大きさを捉え
  たものである。しかし、貿易収支を含むより幅広な概念であ
  る中国の経常収支は黒字が激減しており、今や赤字化を展望
  するに至っているというのが現状なのである。
   中国の経常黒字がはっきりと減少し始めたのは2016年
  後半以降だ。背景には、貿易収支の黒字が頭打ちになる一方
  サービス収支の赤字が着実に増えてきたという構図がある。
   こうした流れの中、2018年は1〜3月期の経常収支が
  341億ドルの赤字となり、2001年4〜6月期以来の赤
  字を記録したことが話題となった。2011年以降、サービ
  ス収支赤字がじわじわ増えている一方、例年1〜3月期は春
  節(旧正月。中国の企業は一斉に長い休みに入る)の影響で
  貿易黒字が縮小するため、遂に、前者が後者を超える規模に
  至ったのである。        https://bit.ly/2WxerNj
  ───────────────────────────

中国人民銀行易綱総裁.jpg
中国人民銀行易綱総裁
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2019年06月17日

●「19年の香港デモは前回と異なる」(EJ第5027号)

 この原稿は、6月15日に書いていますが、本日以降どうなる
かわからない中国に関する重要な問題を取り上げます。それは、
香港における「逃亡犯条例」を巡る大規模なデモです。なぜ、こ
れが問題なのかについて分析します。
 香港は「一国二制度」が条件で、1997年に英国から中国に
返還されたのです。この制度は、香港では50年間守られること
になっているので、資本主義など中国本土とは異なる経済・政治
制度が維持されることが約束され、外交と国防をのぞく「高度な
自治」が認められています。
 香港の憲法にあたる香港基本法には、中国本土では制約される
言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由などが
明記され、それが2047年まで守られることになっています。
現在、香港に進出している日本をはじめとする世界各国の企業は
この一国二制度を前提として進出しています。
 この香港基本法は、「必要であれば、2007年以降に修正で
きる」と定められています。香港の民主派は、この年にある制度
変更を行うことを決めていたのです。それは、香港のトップであ
る行政長官を民意で選びたいということです。つまり、香港市民
一人ひとりが投票する「普通選挙」によって決めることです。
 このことはよく誤解があるのですが、実は政府の代表を民意で
選ぶ普通選挙は、英国統治時代からなかったのです。つまり、香
港は、英国統治時代から「法治主義」や「資本主義」はあっても
「民主主義」は最初からなかったのです。中国は、そういう香港
を英国から返還されたのであって、民主主義の香港を引き継いだ
わけではなかったのです。
 もっとも中国としては、50年間、当時の香港の制度を引き継
ぐつもりでなく、時間をかけて、少しずつ、骨抜きにして、なる
べく早く中国本土並みにし、スムーズに中国の一部に編入したい
と計算していたものと思われます。
 しかし、民主派は、制度変更が可能になる2007年に普通選
挙を要求してきたのです。そのとき、中国本部は香港行政長官に
指令を出して、「2007年に変更可能ではなく、2007年以
降に変更可能である」として、このさいは先延ばしすべきである
と時間稼ぎをしたのです。
 そして、さらに7年経った2014年、中国政府は次の新制度
を提案したのです。
─────────────────────────────
 1.一人一票の投票権を付与する
 2.行政長官候補は指名委員会の過半数の支持が必要である
 3.候補者は2〜3人に限定する
─────────────────────────────
 これは普通選挙とは程遠い内容です。香港の民主化団体の「学
民思想」などの団体は、指名委員会の多数は親中派で占められる
ため、中央政府の意に沿わない人物の立候補を事実上排除する方
針として、学生を動員して授業のボイコットを開始したのです。
これを契機として、「雨傘運動」は、このような経過で始まった
のです。なぜ、学生たちは雨傘を持っていたかというと、それは
催涙弾を防ぐのが目的であったといわれます。
 しかし、国際金融センター香港の中心部で、9月末に始まり、
79日間にわたって道路を占拠するという不法行為から、香港市
民の支持も失い、デモは失速してしまったのです。その結果、形
式だけの普通選挙すら行われず、1200人の指名委員による間
接選挙により、行政長官が選出されるようになったのです。
 しかし、雨傘運動の本当の原因は、何だったのかというと、日
経電子版開発長の池田信太朗氏は「それはすぐれて経済の闘争で
もあった」ことを指摘しています。
─────────────────────────────
 香港デモ(雨傘運動)とは何だったのか。もちろんそれは、民
主主義を手にしたいと願う香港市民の政治運動だった。あるいは
英国が、香港を返還した折に約束された「一国二制度」が失われ
つつあることに危機感を覚えた香港市民たちの抵抗だった。
 だが、「政治」の闘争であると同時に、すぐれて「経済」の闘
争でもあったと思う。デモ期間中、私は何度もデモ隊を訪れて話
を聞いた。なぜこの場にいるのか。何を勝ち取ろうとして闘争す
るのか。彼らはもちろん「民主主義」や「普通選挙」を答えに挙
げる。だが重ねて「なぜ民主主義が必要なのか」「なぜ普通選挙
を実現したいのか」と問うと、その答えはいつも経済問題に帰す
る。       ──池田信太朗氏 https://bit.ly/2Zs1Z34
─────────────────────────────
 この池田信太朗氏のレポートは、雨傘運動の本質をよく捉えて
おり、参考になるので、ご紹介しておきます。なお、タイトル中
の「香港デモ」は、雨傘運動のことです。
─────────────────────────────
                  池田信太朗著
    『不夜城の陥落、力を失いつつある香港デモ』
              https://bit.ly/2XeHmdf
─────────────────────────────
 そして、それから5年後の2019年、再び香港において大規
模なデモが起きたのです。池田信太朗氏は、雨傘運動と今回のデ
モの違いを次のように述べています。
─────────────────────────────
 「いまないものを求めた」のが雨傘革命だった。これに対して
今回のデモは「いまあるものが失われようとしていることを食い
止める」という闘争だ。          ──池田信太朗氏
─────────────────────────────
 今回の香港デモ「逃亡犯条例」は、もしこれが通ると、香港が
香港でなくなるとの危機感が香港市民には強いのです。それにこ
の条例は、香港市民だけに影響のある条例ではなく、香港に進出
している外国企業や香港への旅行者にも影響する可能性のある条
例といえます。       ──[中国経済の真実/026]

≪画像および関連情報≫
 ●香港デモで懸念される"天安門事件"の再来
  ───────────────────────────
   1989年6月4日の「天安門事件」から30年の節目を
  迎えた。事件後、中国は国民に対する監視の目を強化して言
  論の自由を奪い、共産党による一党独裁体制を貫いた。その
  体制の下で、経済発展を遂げ、世界第2位の経済大国になっ
  た。中国政府は国民に豊かさというアメをなめさせた。その
  結果、国民は監視というムチの痛みに鈍感になった。生活の
  水準の向上を喜び、いまの一党独裁体制を賛美する中国人も
  多い。日本や欧米は経済的に豊かになれば、中国は一党独裁
  体制を改めるとの見通しを立てていた。だが、中国は経済発
  展を遂げても政治改革には乗り出さず、一党独裁体制を堅持
  した。日米欧の見通しは間違っていたのだろうか。沙鴎一歩
  はその見通しが誤っていたのではなく、政治改革を経ていな
  い中国の経済発展がニセモノであると考える。
   中国の市場経済は閉ざされたまま解放されていない。中国
  政府は鉄道、エネルギー、通信、軍事という国の重要な基幹
  産業を握り、巨額の利益を上げる。地方政府も毛細血管のよ
  うに張り巡らされたネットワークで民間部門から富を吸い上
  げている。中国国民が味わっているのは、真の豊かさではな
  い。中国の経済発展には大きなほころびが生じ、中国経済は
  いつ何時、そのバブルがはじけてもおかしくない。
                  https://bit.ly/2RlFlH8
  ───────────────────────────

香港における「雨傘運動」.jpg
香港における「雨傘運動」
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2019年06月18日

●「一国二制度の深い闇の部分を探る」(EJ第5028号)

 予想したように、6月16日のメディアは、林鄭月娥香港行政
長官が「『逃亡犯条例』の審議を延期する」と発表したニュース
を一斉に伝えています。
─────────────────────────────
◎香港長官/強硬姿勢を転換/親中派・経済界の異論受け
 /逃亡犯条例改正「先送り」
 香港社会を揺るがした「逃亡犯条例」改正案について、香港政
府は15日、「先送り」を表明した。強気を貫いてきた林鄭月娥
行政長官だが、身内からもいさめる声が出て、方針転換に追い込
まれた。国際社会の注目が集まるなか、中国政府も危機感を強め
た。       ──2019年6月16日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 一国二制度──本来この制度は、香港返還から50年間、20
47年まで守られることになっています。しかし、中国はそのよ
うなことを守るつもりは一切ないのです。そこで、香港基本法で
は、2007年以降に必要であれば改正できることになっている
ので、2014年に香港の行政長官を中国共産党が恣意的に選べ
る仕組みにしようとしたのです。これによって香港では「雨傘運
動」が起きましたが、中国政府の後押しによって、これを制し、
その仕組みの導入に成功しています。
 この仕組みによって行政長官に選出されたのが、現在の林鄭月
娥行政長官です。その後、香港の一国二制度を骨抜きにするスケ
ジュールは、中国政府から林鄭月娥行政長官に指示が出されてい
るはずです。この長官は中国政府の傀儡だからです。
 行政長官選挙の仕組み導入に続いて中国政府が行政長官に指示
していたのが、今回の「逃亡犯条例」です。実は正確にいうと、
「逃亡犯条例」改正案なのです。香港基本法23条には、次の記
述があります。
─────────────────────────────
【香港基本法第23条】
 香港特別行政区は、国家分裂や反逆、国家機密を盗み取るなど
の行為を禁じる法律を自ら作る。
─────────────────────────────
 香港政府は、この条文に基づいた条例を2003年にも導入を
試みたのですが、香港市民の猛反対に遭い、撤回を余儀なくされ
ています。日経ビジネスの池田信太朗氏によると、「2003年
当時といまとでは、中国の力、香港の国際的な地位ともに大きく
異なる。中国政府と、その意向を受けた香港政府が今回は強行す
るという可能性は小さくない」と述べています。
 習近平政権は、政権を批判する言説、とくに習近平氏に関わる
スキャンダルの報道をとくに嫌い、香港の書店を最初から警戒し
ていたのです。香港の書店では、中国政府を批判する書籍を多く
扱っていたからです。2015年には、そういう書店関係者が突
然失踪する事件が起きています。
 これについては、中国事情に詳しい福島香織氏による、次のレ
ポートがあるので、どのような事件であったのか、冒頭の書き出
し部分をご紹介することにします。
─────────────────────────────
 年明け(2016年)早々の私にとって一番衝撃的なニュース
は、銅鑼湾書店の関係者が次々と失踪したことだ。香港の出版界
にひしひしと圧力が迫っていることは承知していたが、まさか香
港内に住んでいる人間、しかも外国パスポートを持っている人間
が突然消えるほど、香港が物騒なことになっているとは。
 銅鑼湾書店関係者の失踪は5人。まず昨年10月17日に店筆
頭株主・桂民海の行方が分からなくなり、10月24日に同書店
の創始人で店長の林栄基が消え、10月26日に株主の呂波、書
店経理の張志平、そして最後に12月30日に店主の李波がいな
くなった。いったい何が起きたのか。     ──福島香織著
 『香港銅鑼湾書店「失踪事件」の暗澹』/香港の一国二制度を
  見殺しにするな』        https://bit.ly/2MOrTgd
─────────────────────────────
 これらの失踪者たちは、やがて全員戻ったものの、何があった
かについては口を閉ざしています。このように、言論の自由が守
られているはずの香港でも、一国二制度の壁を乗り越えて、法的
手続きを経ずに、中国当局は当事者を中国に連行し、取り調べを
やっているのです。
 当時、銅鑼湾書店の店主である桂民海氏には「双規」に対する
批判本を出版する計画があり、それが中国共産党の逆鱗に触れて
事実上の“拘束”をして取り調べられたものと思われるのです。
 「双規」とは何でしょうか。
 「双規」とは、中国共産党による強制捜査、逮捕、無期限拘束
自白強要、特定外の拷問、処罰のことで、司法とは別なのです。
福島氏は、次のような恐ろしい事実を指摘しています。
─────────────────────────────
 双規は、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度、司
法制度外の党規に基づく制度で、逮捕状も拘留期限も決められて
おらず、拷問による死者まで出す前近代的制度と知識人の間で非
難されている。人権派弁護士・浦志強が、微博などのつぶやきを
もって「民族の仇恨を扇動した罪」というわけの分からない容疑
で逮捕、起訴され執行猶予付き判決が出たことは記憶に新しいが
浦志強が本当に冤罪逮捕された原因は、彼が双規の違憲性を世論
に問おうとしたことではないか、と見られている。
                  https://bit.ly/2XgGTay ─────────────────────────────
 この福島氏の指摘は実に恐ろしい。司法で取り調べをするので
はなく、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度を使っ
ているのです。これなら、共産党当局としては何でもできます。
そういうことを、もっとやり易くさせるため、今回の「逃亡犯条
例」改正案を香港当局は成立させようとしたのです。
              ──[中国経済の真実/027]

≪画像および関連情報≫
 ●逃亡犯条例の改正延期/香港政府トップが記者会見
  ───────────────────────────
   中国本土への容疑者引渡しを可能にする「逃亡犯条例」の
  改正をめぐって、多数のけが人が出る大規模なデモが続いて
  いた香港。香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官
  6月15日に記者会見し、改正案の審議を一時中断すること
  を発表した。会見を詳報する。
   現地メディア「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」
  は、会見をテキスト記事としてタイムラインで速報した。現
  地時間の午後3時10分すぎに始まった会見は約1時間半に
  及んだ。林鄭長官は改正案について、「もとは香港への愛情
  と香港人への配慮から進めたものだった」と釈明。「私たち
  が至らなかったせいで、香港で大きな対立を引き起こしてし
  まった。私たちは多くの人を失望させ、悲しませた。私もま
  た、悲しみ、後悔しました。私たちは誠意をこめて、そして
  謙虚に批判を受け入れます」と語った。
   問題となっている改正案のきっかけは、2018年に台湾
  で発生した殺人事件。香港人の男が犯行後に香港へ逃げ帰っ
  てしまったため、台湾当局による拘束を免れたのが問題視さ
  れた。今回の改正案は、香港が犯罪容疑者にとって「拘束さ
  れない地域」として逃げ場にならないように提案された側面
  もあった。林鄭長官は、「私たちは法の抜け穴を塞ぐ必要が
  あります。したがって、現段階では法案を撤回することはで
  きない」と述べた。       https://bit.ly/2XR3sQf
  ───────────────────────────

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「逃亡犯条例」審議延期を表明/林行政長官

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2019年06月19日

●「香港大規模デモについての3疑問」(EJ第5029号)

 「逃亡犯条例」改正案について、林鄭月娥香港行政長官は「先
送り」を表明しましたが、これについて、日経ビジネスの池田信
太朗氏は、次の「3つの疑問」を上げ、解説を行っているので、
EJスタイルでご紹介します。
─────────────────────────────
   第1の疑問:審議延期ということは「再開」するのか
   第2の疑問:今回の延期判断は中国政府の意向なのか
   第3の疑問:今後デモはどうなるのか、継続するのか
         ──池田信太朗氏 https://bit.ly/2KkW6kS ─────────────────────────────
 第1の疑問「審議延期ということは『再開』するのか」につい
て考えます。
 林鄭月娥長官は、この改正案は、北京政府から指示されたもの
ではなく、あくまで香港政府としての判断であることを強調して
います。そのためか、長官は撤回はせず、「期限を定めず、延期
する」と発表。混乱を招いたのは「説明不足」としており、この
文脈から考えると、再現の可能性は十分あります。
 しかし、池田氏は、2003年の「香港基本法第23条」条例
(EJ第5028号で解説)の頓挫に言及しています。2003
年のときも「撤回」ではなく、「延期」だったのですが、その後
この条例案は審議されていないことを指摘し、「延期」という言
葉で香港政府のメンツを保ち、現時点では、事実上の「廃案」に
なっています。
 第2の疑問「今回の延期判断は中国政府の意向なのか」につい
て考えます。
 林鄭月娥長官は、「香港政府の判断を北京政府は尊重してくれ
た」といっていますが、これを額面通りに受け取る人は少ないと
思います。なぜなら、今回の改正案は一国二制度の根幹にかかわ
る改正だからです。もしこれが成立すると、香港は中国本土と変
わらなくなる、つまり、香港が香港でなくなるぐらい重要な条例
になります。「逃亡犯条例」は、政治犯を対象にしていないと香
港政府はいっていますが、そんなことは、銅鑼湾書店の関係者の
失踪事件をはじめ、中国政府の強面(こわもて)を知る香港市民
は、香港政府のバックには中国共産党がいることを信じて疑う人
は誰もいないのです。
 池田信太朗氏によると、今回の延期の決定の前に、林鄭月娥長
官は深センに飛び、そこに滞在する共産党最高指導部で香港政策
を担当する韓正副首相と会談しているとの情報があり、複数の現
地紙がその事実を報道しています。会見では、記者から「韓正副
首相と会談したのか」と質問されていますが、長官は否定せず、
回答を拒否しています。そして、林鄭月娥長官は、「これは中国
にいわれてやっているのではない。香港政府の考え方である」と
の主張を繰り返したのです。
 それでは、中国政府は、なぜ、延期を容認したのでしょうか。
 それは、あまりにも時期が悪過ぎるからです。現在、中国は、
米国と貿易戦争の真っ最中であり、しかも6月末には、習近平主
席も出席するG20大阪サミットがあります。もしデモで死傷者
が多数出る事態になったら、中国は国際社会から非難を浴びてし
まいます。そこで事態の収拾を図ったものとおもわれます。
 今回の問題を受けて米国はさらに中国に圧力を加えようとして
います。米国は現在、「香港政策法」に基づいて、関税や投資で
香港を優遇していますが、上下両院の超党派議員は、同法の見直
しを視野に、香港の「高度な自治」に関する検証を毎年、米国務
省に義務づける法案を提出しています。
 第3の疑問「今後デモはどうなるのか、継続するのか」につい
て考えます。
 この原稿は、6月16日の夜に書いていますが、既に香港では
黒が基調の服を着た大勢の若者たちが大規模なデモを始めていま
す。今回のデモは、前回のデモの103万人を大幅に超えそうな
勢いです。デモは、香港政府が、「延期」ではなく、法案の「撤
回」を宣言するまで続くはずです。それにこの事態を招き、大勢
の負傷者を出した林鄭月娥長官の辞任も要求しています。デモは
200万人を超える、とんでもない規模になりつつあります。
 デモの様子を伝える毎日新聞の動画をご紹介します。デモは、
16日午後9時現在(日本時間)、まだ続いています。
─────────────────────────────
 ◎香港で再び大規模デモ 政府に「逃亡犯条例」改正の撤回
  要求(毎日新聞動画)     https://bit.ly/2WKRx50
─────────────────────────────
 これら3つの疑問の総括として、日経ビジネスの池田信太朗氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回のデモが異例の規模に発展したのは、64集会(天安門事
件への反対集会)などと異なり、政治的に強い「反中」意識を持
っている人たちだけでなく、香港が当たり前に享受してきた安全
と自由が脅かされることに危機感を持った市井の人たちも参加し
たからだ。今後も政府に対して強硬な要求を続ける勢力はデモを
継続する可能性が高いが、そうでない人たちの参加は減っていく
と思われる。
 今後の争点は、デモの主宰者に対する「処分」だ。雨傘革命の
首謀者たちは逮捕、起訴され、一部が入獄した。ただし、雨傘革
命については政府は強硬な姿勢を崩さず、デモの要求は退けられ
た。今回は会見で、行政長官が遺憾の意を表明し、改正案の審議
を延期するというアクションを取った。政府が誤りを認めたから
デモ活動は不問に付すのか、それとも道路占拠や破壊などの不法
行為について粛々と処罰するのか。どこまで強面(こわもて)の
処分を下すかに、中国政府の怒りの強さが表れてくるだろう。
           池田信太朗氏/https://bit.ly/2KkW6kS
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/028]

≪画像および関連情報≫
 ●【解説】 なぜ香港でデモが? 知っておくべき背景
  ───────────────────────────
   香港で市民が立法会(議会)や主要道路をふさぎ、抗議デ
  モを行っている。警察はこれに催涙ガスやゴム弾で対応して
  いる。この抗議活動は表面上、犯罪容疑者の中国本土への引
  き渡しを認める「逃亡犯条例」の改正案に反対するものだ。
  だが、そこには改正案以上の理由がある。何が起きているの
  かを知るには、数々の重要な、中には数十年前から始まって
  いる文脈を見ていく必要がある。
   思い出して欲しいのは、香港が他の中国の都市と大きく違
  う場所だということだ。これを理解するには、歴史を振り返
  る必要がある。香港はかつて、150年以上にわたってイギ
  リスの植民地だった。香港島は1842年のアヘン戦争後に
  イギリス領となり、その後、イギリスは当時の清朝政府から
  「新界」と呼ばれる残りの地域を99年間租借した。
   それからの香港は活気ある貿易港となり、1950年代に
  は製造業のハブとして経済成長を遂げた。また、中国本土の
  政局不安や貧困、迫害などを逃れた人たちが香港に移り住む
  ようになった。
   99年の返還期限が迫った1980年代前半、イギリスと
  中国政府は香港の将来について協議を始める。中国の共産党
  政府は返還後の香港は中国の法律に従うべきだと主張した。
  両国は1984年に、「一国二制度」の下に香港が1997
  年に中国に返還されることで合意した。香港は中国の一部に
  なるものの、返還から50年は「外交と国防問題以外では高
  い自治性を維持する」ことになった。
                  https://bit.ly/31Agynf
  ───────────────────────────

2019年6月16日の香港デモ.jpg
2019年6月16日の香港デモ

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2019年06月20日

●「林長官の事実上の『廃案』の宣言」(EJ第5030号)

 6月18日、「逃亡犯条例」改正案反対を訴えるデモは200
万人という空前の規模に達し、林鄭月娥香港行政長官は再び会見
を開き、謝罪しましたが、あくまで「無期限延期」を主張し、最
後まで「撤回」を口にしませんでした。林長官としては、自分の
意思で、撤回も辞任もできないのです。なぜなら、この改正案を
プッシュしたのは、中国政府であるからです。
 しかし、これ以上、改正案をゴリ押しすることは、中国政府は
今のところ考えていないと思われます。それは、林行政長官と記
者とのやりとりによくあらわれています。
─────────────────────────────
 記者:なぜ、「撤回」ではなく、「無期限の延期」なのか。
 長官:改正案の審理はもはや困難であり、事実上の「廃案」
    と同じである。
 記者:そこまでいうなら、なぜ「撤回」と明言できないか。
 長官:言葉の問題はもう繰り返したくない。どうか理解して
    ほしい。
─────────────────────────────
 改正案に対する抗議の声は経済界を巻き込み、デモの規模は中
国側の予想をはるかに超えるものだったからです。それに加えて
6月末には習主席も出席するG20大阪サミットがあり、中国政
府としては、香港騒動が争点化するのを避けるため、早期に幕引
きを急ぐ必要があったのです。したがってこの改正案は「事実上
の廃案」です。林行政長官は、中国政府のパペット(操り人形)
であり、これ以上の発言に踏みこむことはできないのです。
 それにしても、なぜこの時期に香港政府は、「逃亡犯条例」改
正案をゴリ押ししようとしたのでしょうか。
 中国政府に政策提言をする研究機関の研究員は、この改正案に
ついて次のように述べています。
─────────────────────────────
 中央政府は、香港が反体制派の基地になることを警戒し、国家
国家安全上の「穴」をふさごうとした。
           ──2019年6月19日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この林鄭月娥という人物は、第1次習近平政権で香港を主管す
る中国政府の最高機関である「中央香港マカオ工作協調小組」の
当時トップの張徳江氏が推して、2017年3月に任命し、7月
に就任させたのです。張徳江氏は、当時中国共産党序列第3位の
大物です。
 もともと香港マカオ工作は、江沢民元国家主席派の曾慶江元国
家副主席が担ってきたのですが、習近平政権になって、張徳江氏
が引き継ぎ、現在の第2次習近平政権では、韓正筆頭副首相(序
列7位)がその地位にあります。林長官の「事実上の廃案」宣言
は、韓正副首相が出させたものと考えられます。
 しかし、習近平氏は、もともと江沢民派に属していたのですが
習近平氏は権力を握ると、態度を豹変させます。いわゆる「トラ
もハエも」の掛け声とともに、腐敗防止運動と称して、江沢民一
派の利権や資産を根こそぎ奪取し、江沢民派の幹部らを汚職で逮
捕・摘発してきているだけに、香港とマカオは習近平政権にとっ
て「危険地帯」になっているのです。
 したがって、今や権力絶大の習近平国家主席でも、最大限の警
戒レベルをひかないと、香港入りできないのです。習近平主席は
2017年6月に香港入りしていますが、保安当局や警察当局は
安全保障レベルでは最高級の「反テロ厳戒態勢」をとり、加えて
中国本土からも事前に人民解放軍や武装警察が大量投入されて警
戒にあたったのです。習主席は暗殺に怯えているのです。
 香港がこういう状況であるため、外国人も含む反習近平政権勢
力が、中国本土で反政府行為を行い、香港に逃げ込むケースが多
くなっており、香港マカオが反政権の基地になりつつあります。
そこで、それらの逃亡犯を逮捕し、中国政府に引き渡せるように
する「逃亡犯条例」の改正案を、何としても早期に成立させよう
としたのです。
 「逃亡犯条例」が成立すると、別に逃亡犯でなくても香港で逮
捕・起訴された犯罪人についても、何らかの理由をでっち上げて
中国政府に引き渡し、中国の裁判にかけることができることにな
ります。これは「一国二制度」であるのに、事実上香港も中国と
同じになってしまうのです。つまり、今回の改正案は「香港を香
港でなくする」ものといえます。
 それにしても上述のように今回の香港デモの規模は、中国政府
の予想をはるかに超えるものです。200万人というと、香港市
民の4分の1が参加したことになり、習近平政権にとって大きな
衝撃です。改正案の無期限延期は、事実上これに屈してしまった
ことを意味し、政権にとっては大打撃といえます。しかもデモは
まだ収まっていないのです。中国政府は、これをどのようにして
収めるつもりなのでしょうか。
 中国政府は、水面下で香港の経済界などへ説得工作を行い、デ
モの収束を図ると思われますが、それでデモが収まる保障は何も
ありません。彼らは、林行政長官の辞任も求めているので、デモ
を収めるのは容易なことではないといえます。
 この香港デモの収拾に失敗すると、同じ一国二制度を提案して
いる台湾問題に大きな影響を与えることになり、今年の秋に行わ
れる台湾総統選挙にも大きな影響を与えることになります。習近
平政権にとってアタマの痛い問題です。
 6月18日、トランプ米大統領は、28日〜29日に行われる
G20大阪サミットで、米中首脳会談を行うことになったことを
ツイートしています。ポンペオ米国務長官は、この国際会議の場
で香港問題を正式議題として取り上げると宣言していましたが、
首脳会談が行われることで、それはなくなると思われます。取り
引きをしたのでしょう。いずれにせよ、今回の香港デモは、習近
平政権の足元を揺さぶる大問題になっています。
              ──[中国経済の真実/029]

≪画像および関連情報≫
 ●米中首脳、G20で会談へ 電話協議で合意
  ───────────────────────────
   【ワシントン=鳳山太成、北京=原田逸策】トランプ米大統
  領は18日、中国の習近平国家主席と電話協議をし、28〜
  29日に大阪で開く20ヶ国・地域首脳会議(G20サミッ
  ト)に合わせて会談することで合意したと明らかにした。米
  中両政府の代表者で事前協議を始めるとも述べた。5月以降
  の対立激化で途絶えていた米中交渉が再開する見通しだが、
  妥協点を見いだせるかは不透明だ。
   トランプ氏はツイッターで「広範囲な会合を開く」と指摘
  し、貿易問題だけでなく、対北朝鮮外交を含む幅広い議題を
  扱う方針を示唆した。中国国営中央テレビも18日、米中が
  首脳会談の開催で合意したと伝えた。習氏は電話協議で「米
  中は対等に対話し、問題を解決すべきだ」と中国の主権への
  配慮を求めた。「米国が中国企業を公平に扱うことを望む」
  とも語り、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)へ
  の米制裁解除も暗に要請した。
   トランプ米政権は制裁関税の対象をほぼすべての中国製品
  に広げる「第4弾」の準備を進めている。トランプ氏は米中
  首脳会談の結果を踏まえて、発動の是非を判断する構えだ。
  中国の産業補助金の扱いなどを巡る意見の隔たりは大きく、
  貿易戦争に歯止めがかかるかは予断を許さない。トランプ氏
  と習氏は2018年12月の首脳会談で貿易問題の打開策を
  探る方針で一致した。   https://s.nikkei.com/2FfDrmf
  ───────────────────────────
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意.jpg
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意

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2019年06月21日

●「2019年は『逢九必乱』に該当」(EJ第5031号)

 習近平国家主席は、6月末の大阪サミットにおいて、トランプ
米大統領と首脳会談を行うことで合意しています。しかし、これ
までの交渉経緯をみる限り、合意できることはきわめて限られて
います。米国としても中国からのほぼすべての輸入品に高関税を
かける「第4弾」は、米国にとってもダメージが大きく、本心で
はやりたくないのです。
 それに、トランプ大統領は、18日に次期大統領選への出馬を
表明しており、なるべく国内にダメージを与えることはやりたく
ないし、米中交渉が決裂した場合、交渉をうまく取り運べなかっ
た大統領の責任も問われることになります。ところが、中国側か
らの首脳会談の諾否の連絡はなかなか来なかったのです。
 米中貿易交渉の難しさについて、20日付の日本経済新聞は次
のように報道しています。難問山積です。
─────────────────────────────
 米中貿易交渉の行方は世界経済の先行きも大きく左右するが、
主要論点を巡る双方の主張は隔たったままだ。特に産業補助金の
巡る溝は深い。米国が地方政府も含む全国規模での補助金全廃を
求めているのに対し、中国は「経済体制の根幹」にかかわるとし
て撤廃には慎重だ。発動済みの追加関税についても、中国は合意
時全廃するよう求め、一部を残したい米国との歩み寄りは見られ
ない。      ──2019年6月20日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ところが、中国側は、G20の10日前になって、首脳会談に
応ずると返事をしてきたのです。習主席はなぜ、会談に応じたの
でしょうか。
 中国が米中首脳会談の実施に慎重だったのは、交渉が決裂した
ときに習近平国家主席が受けるダメージの大きさです。それは計
り知れないものがあります。そのため、中国側としては、何か米
中が合意できるカードを持つ必要があります。
 習主席は、トランプ大統領との電話会談のさい、貿易問題にと
どまらず、米中関係の根本的な問題で意見を交わす、拡大会合を
やりたいということで、両国は合意したといいます。そして、中
国側が切って来たのが、北朝鮮カードです。北朝鮮問題は、現在
の中国が対米交渉で主導権がとれる数少ないカードだからです。
本稿執筆時の20日、習主席は北朝鮮を訪問しています。
 中国としては、米中首脳会談にはアタマを痛めていたのです。
会談を行わなければ、「中国は逃げた」といわれるし、実施して
決裂すれば、習政権へのダメージが増幅します。しかし、このよ
うな拡大会合であれば、中国側は貿易問題で一切譲らなくても、
他の問題での合意ができれば、会談自体が決裂という結果にはな
らないわけです。
 なぜ、中国が慎重なのかというと、中国には「逢九必乱」とい
う言葉があり、末尾が「9」の年は、中国という国全体を揺るが
しかねない「必乱の年」になりかねないからです。福島香織氏の
最近著の冒頭に説明があったので、ご紹介することにします。
─────────────────────────────
     1919年 ・・・ 五四運動
     1949年 ・・・ 中国建国
     1959年 ・・・ チベット動乱ピーク
     1969年 ・・・ 珍宝島事件
     1979年 ・・・ 中越戦争
     1989年 ・・・ 天安門事件
     1999年 ・・・ 法輪功弾圧
     2009年 ・・・ ウィグル騒乱
               ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 1919年の「五四運動」というのは、第一次世界大戦が終り
1919年のパリ講和会議で、西欧列強が山東半島の権益につい
て、日本の主張を擁護する側にまわったことに憤激し、同年5月
4日、北京大学の学生デモを皮切りに、反日運動が中国全土に拡
大したことをいいます。
 この五四運動がきっかけになって、1021年に中国共産党が
誕生することになります。そして、1949年に中華人民共和国
が建国されます。国共内戦が激化し、国民党政府は台湾に追い出
され、翌年から血みどろの反革命鎮圧、土地改革が行われ、多く
の国民党関係者や地主が殺害されたといわれます。
 1959年にはチベット動乱が起きています。中国共産党政府
によるチベット統治・支配に対し、民主改革や社会主義改造の強
要などをきっかけに1956年に動乱が起き、1959年に頂点
に達します。これがチベット動乱です。この動乱によって、ダラ
イ・ラマ14世はインドに亡命することになったのです。
 1969年に中ソ国境紛争が起きます。中国とソ連の国境にな
っているウスリー川上の珍宝島の領有をめぐって中ソ国境警備隊
同士が衝突したのです。これが珍宝島事件です。あわや中ソ全面
戦争に発展するかという危機に直面したのです。
 1979年には中越戦争が起きています。ケ小平は、文化大革
命でガタガタになった軍隊を立て直すため、米国との戦争で疲弊
しているベトナムに攻め込みます。相手がベトナムなら絶対に負
けないと考えたからです。
 ところが人民解放軍の弱いこと、60万人の1割の死傷者を出
す惨敗を喫したのです。ケ小平は、「無駄な兵士がだぶついてい
る」として、人民解放軍の100万人削減を断行します。もちろ
ん、国内的には「ベトナムに勝利」ということで、敗戦を隠して
いることは、この国ではいうまでもないことです。
 そして、1989年は天安門事件が起きています。中国人民に
よる民主化を求めるはじめての本格的デモです。そう、天安門事
件も末尾が「9」の年に起きているのです。ここまで一致すると
偶然とは思えなくなります。天安門事件以降については、来週取
り上げます。        ──[中国経済の真実/030]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「逢八必災、逢九必乱」の法則/澁谷司氏
  ───────────────────────────
   中国では、「末尾が8の年」には必ず災害が起き、「末尾
  が9の年」には必ず動乱が起きるという言い伝えがある。こ
  れが本当かどうか、順番が逆だが、まず、後者(「末尾が9
  の年」)から検証してみよう。
   1949年には、中国共産党が国民党を大陸から追い出し
  政権を樹立した。1959年にはチベットで動乱が起きた。
  そして、ダライ・ラマ14世がインドへ亡命している。19
  69年には、「中ソ国境紛争」が勃発した。1979年には
  ケ小平がカンボジアに政治介入したベトナムを“懲罰”する
  として、「中越戦争」を起こしている。
   1989年には、中国共産党は「民主化」運動を弾圧し、
  「六・四天安門事件」が起きた。その後、中国の「民主化」
  は後退している。
   1999年には、法輪功修練者が、天安門広場で静座して
  中国共産党に抗議を行った。そこで、江沢民政権は「610
  弁公室」を立ち上げ、法輪功を邪教として弾圧を開始してい
  る。2009年には、新疆・ウイグルで「7・5事件」が起
  きた。確かに、1959年以降、これらの事件は全て中国共
  産党政権を揺るがす大事件だったと言えるだろう。今年(2
  019年)は、その年に当たる。おそらく、習近平政権は、
  ピリピリしているに違いない。  https://bit.ly/2WUEiPw
  ───────────────────────────

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習近平国家主席の訪朝を伝える労働新聞/北朝鮮
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2019年06月24日

●「共産党を守るため国民を監視する」(EJ第5032号)

 今回のテーマは、主として経済の面から、現在の中国が持続可
能であるかどうかを検証しようとしています。しかし、経済以外
の面でも、中国の国家体制の維持を脅かすファクターは数多くあ
ります。政変やクーデターが起きたり、中国各地では農民の反乱
や動乱の兆しも漂っています。なかでも深刻なのは、宗教による
対立であり、下手をすると、これが原因で中国は、分裂国家にな
る可能性すらあります。
 「逢九必乱」の続きですが、1999年に「法輪功弾圧」とい
うのがあったのです。「法輪功」というのは、もともと宗教では
なく、気功学習を目的とするクラブ活動のようなもので、共産党
員も多く参加していたのですが、だんだん共産党中央の規制が強
化されるようになります。
 これに対して、法輪功学習者は、1万人が天安門広場に集まり
時の首相である朱容基氏に対し、不当な弾圧をやめるよう平和的
な抗議行動を起こします。朱容基首相は、法輪功学習者の訴えに
一定の理解を示し、当初は、今後の法輪功の活動も認める方針で
あったといいます。
 しかし、当時法輪功の学習者は、中国全土で共産党員を上回る
7000万人といわれ、その数の大きさに怯えた江沢民国家主席
は、法輪功を強引に「邪教」と位置付け、徹底的に弾圧せよと命
令を出したのです。とにかく中国は「数」を恐れるのです。共産
党政権にとって脅威であれば、何でも取り締まるし、それには手
段を選ばないのです。これが1999年です。
 そして、2009年にウイグル騒乱が起こります。広東省で起
きた中国人によるウイグル人の襲撃・殺害事件の真相を求めて、
ウイグル人がウルムチ市でデモを起こしたのです。このデモに対
し、中国の治安部隊が発砲したことから騒乱に発展します。この
とき、国営通信社である新華社も、2000人近い死傷者が出た
と発表しているので、実際にはもっと多くの死傷者が出ているも
のと思われます。天安門事件と同じです。実はこの騒乱も宗教深
く関係するのです。
 そして、今年、2019年です。既に、年の前半だけで、米中
貿易戦争が過熱化し、香港では「逃亡犯条例」を巡り、香港市民
の4分の1が反対を表明するデモが起きています。G20大阪サ
ミットでも米中貿易摩擦が解決するとは思えません。あと6ヶ月
あるので、このあと何が起きても不思議ではないのです。
 中国におけるICTの発達、とくに通信ネットワーク技術の向
上は、中国共産党体制を中国人民から守る目的で発達したもので
あり、動機がおかしいです。なぜ、自国人民を中国政府は警戒す
るのでしょうか。
 自国人民だけではありません。中国を仕事をしている外国人や
観光客にいたるまで、中国の監視システムは働いているのです。
福島香織氏は、記者として中国で仕事をしていたことがあります
が、次のような異常な体験を語っています。
─────────────────────────────
 中国で記者として取材していた時代は、いろいろと不自由なこ
とがありました。たとえば、軍事管制区に近づくと、見知らぬ人
から携帯に電話がかかってきて、「お前は今どこにいるんだ?」
と詰問されたり、人権派弁護士と喫茶店で待ち合わせていると、
斜め後ろにどこかで見たことある顔の、でもどこの誰かははっき
りしないカップルが座っていて聞き耳を立てていたり。
 あるいは友人と普通に電話していて、「南京大虐殺記念館の展
示物はみんな出鱈目だよ」なんて話をしていると、突然電話回線
がジャックされて「嘘を言うな!」と怒鳴られて、一方的に電話
を切断されたこともありました。──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 なにしろ、地球規模のレベルで膨大な情報が飛び交うこのネッ
トワークの時代に、中国は、中国共産党にとって都合の悪い情報
をすべて中国の人民から遮断する、いわば「情報の鎖国」を行っ
ていますが、それには、とてつもない膨大な人員と、当方もない
コストがかかっています。それは、中国を訪れる外国人にまで及
んでいます。
 問題は、それが生産性のない、経済にとって何のプラスにもな
らない、膨大な労力であることです。そんなことをしても、テク
ノロジーはどんどん進化し、やがて情報の遮断が不可能になるこ
とは目に見えています。なにしろ中国には、約14億人の人民が
いるのですから。
 既に述べているように、中国の人口は3億人の都市戸籍を持つ
人たちと、3億人の農民工の人たち、それに8億人の昔ながらの
貧農の人たちで成り立っています。全部で14億人です。
 都市戸籍を持つ3億人の人たちは中国共産党員やその親派であ
り、生活も豊かであるので海外にも出られますし、本当の情報が
把握できますが、反政府的な行動を起こさない人たちです。した
がって、中国政府にとって一番怖いのは、農民工と昔ながらの貧
農の8億人が組んで反政府行動を起こすことです。
 そのため、これらの8億人に対してとくに厳重に情報の遮断を
行っています。これに加えて中国の監視体制は徹底しており、街
中に設置されている監視カメラは、顔認証カメラも含めて、その
台数は、2022年までには、27億6000万台に達するとい
われています。つまり、中国人1人につき、2台の監視カメラが
設置される計算になります。途方もない監視社会です。
 そこまでして、中国政府は中国共産党を守ろうとしています。
現在、中国政府が一番警戒しているのは宗教です。なぜなら、宗
教のグループの結束力は非常に強く、どのような弾圧も跳ね返す
からです。とくに習近平主席の宗教政策は、歴代の中国共産党指
導者のなかでも最悪といわれており、その異常性は習近平主席の
数ある政策のなかでも突出しているといわれています。そのキー
ワードは「宗教の中国化」です。
              ──[中国経済の真実/031]

≪画像および関連情報≫
 ●「監視社会」として先進国の先を行く中国
  ───────────────────────────
   頻発するテロ事件や犯罪、災害、事故などを未然に防いだ
  り、被害を小さくしたりするために、ITなどの技術を使っ
  て、都市の安全性や効率性を高める動きが世界で広がってい
  る。こうしたパブリックセーフティー(公共安全)の向上を
  一気に推し進めようしている国の一つが中国だ。
   北京や上海といった大都市は、地方からの人口流入で渋滞
  や大気汚染などが慢性化し、都市機能は、限界に近づいてい
  る。中国政府は内陸部の小都市などの発展を促して大都市の
  問題解決を図るとともに、農村と都市の住民の間にある格差
  を解消しようとしている。テクノロジーを活用した公共安全
  の向上は、大都市の問題解決と小都市のレベルアップの双方
  に役立つ。さらに、インフラへの投資によって経済の活性化
  につなげる狙いだ。
   広東省深せん市や江蘇省南京市、山東省済南市などでは、
  顔認証技術を使い、信号を無視して交差点を渡る歩行者を撮
  影し、大型のディスプレーに映し出す仕組みが登場した。中
  国政府は公共安全の技術を使って、国民のマナー向上にまで
  つなげようと考えているようだ。ここまで来ると監視社会を
  感じさせるが、こうしたことができるのは社会主義国の中国
  だからこそだろうか。中国の信号無視対策はやりすぎだとし
  ても、テロなどの脅威が以前にも増して高まっている以上、
  より安全な都市を作りたいという要望が高まるのは自然な流
  れで、日本を含む民主主義国であっても同様だろう。
                  https://bit.ly/2FrkFJ3
  ───────────────────────────


国民を監視する中国の監視カメラ.jpg
国民を監視する中国の監視カメラ
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2019年06月25日

●「習近平/宗教の中国化をはじめる」(EJ第5033号)

 習近平主席の宗教政策について、中国に詳しいジャーナリスト
福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平の宗教政策は、おそらく歴代中国共産党指導者のなかで
最悪であり、その異常性は習近平の数ある政策のなかでも突出し
ていると思います。             ──福島香織氏
               ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 習近平主席の宗教政策は、2018年4月発行の宗教白書「中
国の宗教信仰の自由を保障する政策と実践白書」にあらわれてい
ます。そこで示されるキーワードは「宗教の中国化」です。
 「宗教の中国化」とは何でしょうか。
 この白書によると、中国には、次の5大宗教があり、その人口
は2億人を超えています。
─────────────────────────────
           1.   仏教
           2.キリスト教
           3.イスラム教
           4. ユダヤ教
           5.ヒンドゥ教
─────────────────────────────
 この「2億」という数字は、中国共産党が認める宗教者数のこ
とです。2億まではコントロールできると考えているのです。中
国には、中国共産党が認める宗教と未公認の宗教がありますが、
未公認の宗教は「邪教」とされ、排除・迫害の対象となっていま
す。「法輪功」は、江沢民主席の命令で「邪教」に指定され、迫
害を受けています。宗教人口の実際の数は不詳ですが、実数はこ
の2倍以上いるといわれています。キリスト教だけでも1億人以
上、仏教は3億人以上いるといわれます。
 中国は、宗教による結束を危険なものと考えています。これが
一定の数を超えると、なかなか解体させるのが困難になります。
そこで、これらの宗教は「国家宗教事務局」が管理してきました
が、2018年4月からこの事務局は、党中央統一戦線部という
組織の傘下に組み入れられています。これは、党中央が直接、宗
教を指導・管理できるようにしたことを意味します。
 これについて、元国家宗教事務局副局長の陳宗栄氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 我が国の宗教の中国化方向を堅持し、統一戦線と宗教資源のパ
ワーを統率して宗教と社会主義社会が相互に適応するように積極
的に指導することを党の宗教基本工作方針として、全面的に貫徹
する。        ──元国家宗教事務局副局長の陳宗栄氏
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 党中央統一戦線部とは、正式には「中国共産党中央統一戦線工
作部」といい、中国共産党中央委員会に直属し、中国共産党と党
外各民主党派(中国共産党に協力する衛星政党)との連携を担当
する機構です。チベットや台湾に対する反党勢力への工作を行い
祖国統一を実現することを目的とする部署です。
 この党中央統一戦線部の傘下に国家宗教事務局が入るというこ
とは、祖国統一の工作と、宗教を一体化することを意味していま
す。具体的にいうと、台湾統一問題とカトリック教、チベット問
題とチベット仏教、ウィグル問題とイスラム教をそれぞれ一体で
考えるという発想です。
 つまり、宗教へのコントロールを強化して、それぞれの信者た
ちの思想のパワーを祖国統一へのパワーに結びつける。これこそ
が、中国共産党の任務であるというのです。これが「宗教の中国
化」の考え方です。この宗教の中国化について、福島香織氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 “宗教の中国化≠ニは、”宗教の中国共産党化″あるいは宗教
の社会主義化″といえるかもしれません。ですが、宗教の社会
主義化など、本来ありえません。宗教を否定しているのがマルク
ス・レーニン主義なのだから。中国共産党規約によれば、中国共
産党員は信仰を持ってはいけないはずです。宗教が社会主義化す
るということは、つまり宗教が宗教でなくなる、ということなの
です。そもそもキリスト教の人道主義と、中国の一党独裁体制の
実情は相反しています。     ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「宗教の中国化」の政策のもと、習近平政権下で、激しい
宗教弾圧が始まっています。なかでも異常なほど厳しいのが、イ
スラム教を信仰するウイグル人への弾圧です。その弾圧は、他の
宗教に比べても異常なほど厳しく、残酷なものです。それは、習
近平政権になって強化されています。
 ウイグル人は、中国北西部の新疆ウイグル自治区に住んでいま
す。中国に5つある自治区の1つです。新疆ウイグル自治区は、
カザフスタンなどと国境を接し、希少金属など鉱物資源が豊富と
されています。もと新疆省であり、古来、シルクロードが通じる
交通の要衝であり、もと新疆省、古来、シルクロードが通じる東
西交通の要路、区都はウルムチ、別名、東トルキスタンとも呼ば
れています。新疆とは「新しい土地」という意味です。
 中国は「宗教の中国化」政策の遂行に当って、国際社会からク
レームがこないように、次のメッセージを出しています。
─────────────────────────────
 中国の宗教団体と宗教事務は外国勢力の支配を受けないし、い
かなる方法でも絶対干渉は受けない。中国の宗教は自立し、自主
的原則を堅持するものである。  ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/032]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平、宗教の「中国化」を標榜/上野景文氏
  ───────────────────────────
   欧州ではカトリック教徒数の減少に歯止めがかからない。
  かかる悩みを抱えるローマ・バチカンにとり、人口13億人
  を抱える中国は、信徒数拡大と言う観点から高い魅力を有す
  る。このため、ローマは、中国との関係改善「外交関係復活
  教会関連懸案改善」を目し、かねてより、北京との協議を続
  けて来ている。特に、フランシスコ法王就任後、熱意と協議
  の頻度は高まっている。
   ところが、最近、中国で、法王に「冷水」を浴びせるよう
  な展開があった。すなわち、昨年10月の第19次共産党大
  会における活動報告の中で、習近平総書記は、国政全般にわ
  たり統制色を強める中で、宗教についても、「宗教が社会主
  義社会に適応するよう導く」、「宗教の『中国化』の方向を
  堅持する」と明言――つまり党による宗教への「締めつけ」
  を強めると共に、外国の影響を抑えるということ――して、
  内外宗教関係者を憂欝にさせた。
   以下本稿では、中国カトリック教会に焦点を絞り、同教会
  の「中国化」にこだわる北京と、ローマと中国の教会の間を
  繋ぐ絲を守りたいローマとの間の「せめぎ合い」が、習政権
  下どう展開するか、占う。
   先ず、教会の現状につきおさらいしておこう。中国のカト
  リック教会には、北京政府系の中国カトリック愛国会(CC
  PA)に属し、その管理に服する「公認教会」と、CCPA
  に属さず、あくまでローマ法王に従うことを旨とする「非公
  認教会(地下教会)」の二つの「異質な教会」が併存する。
                  https://bit.ly/2Xvrsvi
  ───────────────────────────

新疆ウイグル自治区.jpg
新疆ウイグル自治区
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2019年06月26日

●「ウイグルを徹底的に弾圧する理由」(EJ第5034号)

 中国は、共産党一党独裁という国家体制を敷いている特殊な国
家です。国内には、多くの不満分子もいることから、国のトップ
である総書記/国家主席は、つねに命の危険にさらされていると
いえます。
 実際に中国の指導者はよく暗殺未遂に遭っています。ケ小平は
7回、胡錦濤元主席は3回遭っていますが、習近平氏は、総書記
になる前に2回、1期目の任期の5年間で10回、2期目に入っ
てからも2回遭っています。合計14回という多さです。
 習近平主席は、とくにウイグル人については、かなりひどいこ
とをやっています。福島香織氏の本によると、ごく最近のことで
すが、次のようなことがあったのです。
─────────────────────────────
 2019年2月5日。中国でいうところの春節″の日、中国
新彊ウイグル自治区グルジャ市(伊寧市)で一つの悲劇が起きて
いました。漢族役人たちが、春節祝いをもって、「貧困少数民族
救済」という建前で、ウイグル家庭に新年のあいさつにきたので
す。その春節のお祝いの品とは、ムスリムにとって禁忌の豚肉と
酒でした。役人たちはあたかも善意を装って、ウイグルの人たち
に豚肉を食べろと強要し、彼らが嫌がるそぶりを見せると、20
17年4月に制定された「脱過激化条例」に違反した、と言って
再教育施設に強制収用するつもりなのです。RFA(ラジオ・フ
リージア)という米国政府系資金が入ったメディアが報じていま
した。            ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 「再教育施設」というのは、正式には、「再教育職業訓練セン
ター」といい、習近平政権2年目の2014年に、新疆地区を中
心に造り始めています。その実態は、職業訓練などではない、思
想の再教育をする強制収容所です。
 問題は、なぜ、新疆地区を中心に造ったのかというと、明確な
理由は分からないものの習近平主席自身が、2014年4月30
日に、ウルムチ南駅での爆破テロに遭っているからです。これに
ついて中国共産党は、ウイグル人全体が、祖国である東トルキス
タンを侵略されたと恨みに思っているせいであるとしています。
そのためウイグル人が持つ民族の思想、伝統、文化を丸ごと破壊
し、再教育をして、中国共産党に忠実な愛国者にしなければなら
ないと考えています。無茶苦茶なことです。
 この再教育職業訓練センターに収容され、奇跡的に生還したオ
ムル・ベカリ氏という人がいます。この人は、新疆ウイグル自治
区の地方都市トルファンで生まれ、民族的にはカザフとウイグル
の混血で、成人後はカザフスタンで国籍を取得したカザフスタン
人です。彼は、ビジネスマンとしてウルムチに出張し、たまたま
両親の住むトルファンに立ち寄ったところ、いきなり武装警察に
よって連行され、再教育職業訓練センターに収容されたのです。
 カザフスタンにいるオムル氏の妻が国連人権委員会に手紙を書
いて救いを求め、カザフスタン大使館からカザフスタン政府にも
訴えたのです。これに人権NGOやメディアも動き、2017年
11月4日にオムル氏はやっと釈放されています。カザフスタン
国籍であったからこそ、釈放されたといえます。
 オムル氏は、現在のウイグルの現状について、ある講演会で次
のように話しています。
─────────────────────────────
 ウイグル問題は、見方によってはシリアの内戦などよりも残酷
です。戦争が起きていれば、世界中の誰もが同情する。でも東ト
ルキスタンは新彊ウイグル自治区として、観光客が普通に訪れる
ことができる一見すると平穏な地域なんです。でも、ウイグル人
は厳しい監視下に置かれ、家族がある日忽然と消えても、収容先
で急死しても、何事もなかったかのような幸せなふりで”日常
を営まねば、今度は自分が収容されかねないという恐怖を抱えて
いるのです。          ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ウイグル人弾圧は、習近平主席の3大悪代官の筆頭とされる陳
全国氏が、新疆ウイグル自治区の党委員会書記の地位に就いてか
ら一層ひどくなったのです。2016年8月のことです。この陳
全国は、泣いている子供に「陳全国が来るよ」というと、泣きや
むといわれるぐらい悪辣なことを平気でやる人物のようです。
 陳全国書記は、新疆地域を徹底的な監視社会化し、ウイグル人
が何をしているかを管理しています。おびただしい数の監視カメ
ラを設置するだけで満足せず、住民のスマホに追尾機能が付いて
いる「監視アプリ」を強制的にダウンロードさせ、その行動の監
視を始めたのです。それに加えて、12歳〜65歳の全ウイグル
人に対して、DNAや虹彩などの生体情報を含むあらゆる個人情
報を提出させ、スマホのGPSとAI付き監視カメラをリンクさ
せ、個人の行動、言論、人間関係などのすべてを監視することが
出来るようにしたのです。
 したがって、ウイグル人が、日常生活と少しでも違った行動を
すると、すぐに公安が訊問に訪れるといいます。これが、オムル
氏のいう「家族がある日忽然と消えても、収容先で急死しても、
何事もなかったかのような幸せなふりで”日常≠営まねば、今
度は自分が収容されかねない」という言葉の真の意味です。
 陳全国氏の悪辣さはこれに止まらないのです。2016年から
17年にかけて、警察官3万人、警察協力者9万人の大増員を行
い、とんでもないことをはじめたのです。それが、監視のための
「ホームスティー制度」です。
 ホームスティー制度とは、警察協力者が定期的にウイグル家庭
に泊まり込み、行動を監視する制度です。このように、家庭のな
かまで入り込んで、ウイグル人の全行動を把握しているのです。
つまり、ウイグル人のあらゆる「自由」を奪い、国家の監視下に
置いています。こんなことが許されていいのでしょうか。
              ──[中国経済の真実/033]

≪画像および関連情報≫
 ●日本で「ウイグル問題を報じづらい」3つの深刻な理由
  ───────────────────────────
   最近、中国が新疆ウイグル自治区でおこなっている少数民
  族ウイグル人への弾圧問題が、世界でのホットなトピックに
  なっている。国連人種差別撤廃委員会は2018年8月末、
  最大100万人のウイグル人が強制収容所に入れられている
  との指摘を報告。米中両国の政治的対立もあり、最近は米国
  系のメディアを中心に関連報道が続いている。
   トルコ系のウイグル人が多く住む新疆は、チベット・内モ
  ンゴルなどと並び、20世紀なかば以降にやっと中国政府に
  よる直接支配が確立した地域なので、少数民族の間では独立
  や自治獲得を望む意向が強い。
   だが、中国では1989年の六四天安門事件後、国家の引
  き締めのために漢民族中心主義的なナショナリズムが強化さ
  れ、また経済自由化のなかで辺境地帯の資源・都市開発や漢
  民族による移民が進んだ。結果、2010年前後からは追い
  詰められた少数民族による大規模な騒乱が増えた。少数民族
  のなかでも、イスラム教を信仰するウイグル人は、中国共産
  党にとっては「党以外の存在」に忠誠を誓っているように見
  える。彼らは人種や文化習慣の面でも漢民族との隔たりが大
  きく、中央アジアや中東との結びつきも強いことから、他の
  少数民族以上に強い警戒を持たれている。
                  https://bit.ly/2LhwViG
  ───────────────────────────

陳全国新疆ウイグル自治区党委員会書記.jpg
陳全国新疆ウイグル自治区党委員会書記
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2019年06月27日

●「今年はチベット動乱60年である」(EJ第5035号)

 習近平政権になって、強力に推進されている「宗教の中国化」
は、その実態を調べてみると、あるわ、あるわ、5大宗教すべて
において、深刻な問題がたくさんあります。これを一つずつ、て
いねいに書くと、これだけでひとつのテーマになってしまうので
福島香織氏の本にしたがって、チベット(チベット仏教)の現状
についてのみ、述べるにとどめることにします。
 今年、2019年は、1956年から始まった、いわゆる「チ
ベット動乱」がピークに達した1959年3月10日の「ラサ蜂
起」から60年目に当ります。「ラサ蜂起」については次の【A
FP=時事】の記事をご覧ください。
─────────────────────────────
 中国の支配に対して武装蜂起し、ラサのポタラ宮前に集まった
チベット民衆。この日、ダライ・ラマ14世が中国側に拉致され
ると疑ったラサ市民数万人が解放軍と全面対決するに至った。ダ
ライ・ラマ14世はチベットを3月17日脱出した。中国当局は
動乱制圧後、「民主改革」(社会主義化)を推進。65年に自治
区を設立した(チベット・ラサ=当時)
        ──1959年3月10日/【AFP=時事】
                  https://bit.ly/2LbVOfX ─────────────────────────────
 ダライ・ラマ14世は、1935年生まれで、4歳のときに活
仏の転生者として認定されましたが、1959年のチベット動乱
のさい、身の危険を感じて、数万人の民とともにインドに亡命し
ています。おそらく彼は「世界一有名な難民」でしょう。
 チベット動乱では、正確な数字は出ていないものの、解放軍の
鎮圧による犠牲者は、120万人を超えるといわれます。これは
チベット人口の5分の1に該当します。
 習近平政権は、今年がチベット動乱から60年目であることを
警戒し、この3月から4月は、外国人のチベット地域への立ち入
りを制限しました。とくにダライ・ラマ14世の生まれ故郷のタ
クツェル村には、大勢の武装警察が出動し、厳重警戒をしていた
といわれます。
 それに加えて、中国当局は、今年の3月、「チベット民主改革
60周年白書」を発表しました。その内容はこうです。1959
年のチベット動乱は、中国共産党がチベットの人々を農奴制から
解放し、チベット地域の統治権確立を宣言して60年になるが、
中国共産党による「民主改革」は大きな成果を上げている。
 これに関連して、ダライ・ラマ14世は自身の政治的特権を守
るために、チベットの発展を阻害してきた害悪である。しかし、
中国共産党のおかげで、この60年の間に、チベットのGDPは
191倍になっている──こういう内容です。
 これは、中国共産党の立場に立ったときの意見ですが、チベッ
ト動乱以後のチベットについて、福島香織氏は、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 このチベット騒乱の鎮圧以降、ダライ・ラマ14世の中道路線
を求める希望もあり、チベットには大きな抵抗運動は起きていま
せんが、代わりに絶望したチベット仏教の僧侶や尼僧、信者らの
焼身自殺が相次ぎました。
 2018年暮れまでに150人以上が自らを燃やし、中国共産
党によるチベット弾圧の悲劇を世界に訴え続けてきました。です
が、世界的にはチベット問題に対する関心は依然と低く、チベッ
トの状況はますます厳しくなりました。    ──福島香織著
   /『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』ワニブックス
─────────────────────────────
 チベット人は、ウイグル人と違って、政権サイドへの対応はお
となしいように見えますが、これは、ダライ・ラマ14世が説く
「中道路線と非暴力」によるものです。チベット人は、忠実にそ
の教えを守っています。だから、おとなしいのです。
 既にダライ・ラマ14世は、2011年に政治から引退を表明
していますが、現在でも、彼はチベット人の精神的な支えになっ
ているのです。
 しかし、ダライ・ラマ14世は現在84歳、今年に入ってから
も、持病の肺感染症で入院するなど、健康がいまひとつ思わしく
ない。問題はダライ・ラマ14世が亡くなったときが大変です。
チベット人に何が起きるか。これについて、福島香織氏は次のよ
うに述べています。
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 もし、ダライ・ラマ14世が入寂されたら、残されたチベット
人たちはどうなるのでしょう。私は、ダライ・ラマ14世の入寂
がきっかけで、チベット人たちの忍耐が切れるのではないか、あ
るいはそれを懸念しすぎる習近平政権が、先に今以上に徹底的な
チベット弾圧を展開するのではないか、と心配でなりません。ダ
ライ・ラマ14世は転生しないと宣言していますが、中国はダラ
イ・ラマ15世を自らの手で探し出し、あるいはでっち上げて育
て、チベット仏教そのものを中国化しようと試みるでしょう。
 そのような宗教への冒涜が行われたとき、これまで、おとなし
かったチベット人も立ちあがるかもしれません。チベット人は、
700万人程度と決しておおきな人口ではありませんが、ウイグ
ル人やモンゴル人ら、やはり自治と独立を望む人々が一斉に連動
して蜂起し始めたら、制度疲労を起こしかけている中国共産党体
制の屋台骨が揺らぐかもしれません。
                ──福島香織著の前掲書より
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 同じようなことがキリスト教にも仏教にもあります。習近平政
権は、2018年9月にバチカンと司教任命権をめぐる対立に対
して、暫定合意をし、国交回復に動き出す構えを見せていますが
これも「宗教の中国化」の話です。もし、これに失敗すると、中
国分裂も十分起こり得ることになります。
              ──[中国経済の真実/034]

≪画像および関連情報≫
 ●チベット暴動/中国はダライ・ラマ派との「人民戦争」宣言
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  [北京/2008年3月16日/ロイター]中国チベット自
  治区ラサで発生したチベット仏教僧らによる大規模な暴動を
  受け、中国の当局者らは、チベット仏教の最高指導者ダライ
  ・ラマ14世の支持者らとの「人民戦争」を戦うとの姿勢を
  強調した。同暴動をめぐっては、数十人の死者が出ていると
  の情報もある。
   ラサでは14日、けさをまとった者や独立を求めるスロー
  ガンを叫ぶ者が商店を破壊したり、銀行や政府関連の建物を
  攻撃、警官に石や刃物を振りかざしたりして、大規模な暴動
  に発展した。
   16日付のチベット・デーリー紙によると、中国政府当局
  者は15日の会合で「今回の乱闘や破壊、略奪、放火の憂慮
  すべき出来事は、国内外の反動的な分離派勢力が慎重に計画
  したもので、最終目的はチベットの独立だ」と指摘。「分離
  主義に反対し安定を守るため、人民戦争を戦う。こうした勢
  力の悪意ある行為を暴き出し、ダライ派の醜い面を明るみに
  さらけ出す」としている。
   住民らによると、ラサでは16日現在、鎮圧部隊が道路を
  管制した上で住宅を厳重に監視している。今回の暴動につい
  て、中国は少なくとも10人の「罪の無い市民」が、主にデ
  モ参加者の放火による火事で死亡したと発表した。これに対
  し、ラサとつながりの強い外部関係筋は、ロイターに対し、
  犠牲者はそれよりもはるかに多いと指摘。暴動とその後の鎮
  圧行為での被害者の遺体を実際に目の当たりにしたという人
  物の話として、「ある遺体安置所だけでも67体あったそう
  だ」と語った。         https://bit.ly/2IJftC0
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ダライ・ラマ14世.jpg
ダライ・ラマ14世
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月28日

●「習近平主席とはどのような人物か」(EJ第5036号)

 今後中国はどうなるのでしょうか。現在の中国は、内外に深刻
な“火種”を抱えており、危機的状態にあります。この危機を乗
り越えられるかどうかは、トップである習近平という人物の手腕
にかかっています。それでは、習近平とはどのような人物なので
しょうか。
 中国に詳しいジャーナリストの福島香織氏は、習近平氏につい
て、次のように表現しています。これは、福島氏の著書の小見出
しに出ている表現です。
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 高いプライドと強いコンプレックス。小学生レベルの傲岸不
 遜。それが習近平である。        ──福島香織氏
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 一国の、それも約14億人のトップに対する評価としては、か
なりひどいものです。トランプ米大統領も似たような評価をされ
たことがありますが、それでもトランプ氏の場合は、実業家とし
て一応成功を収めており、現在の大統領職でも、それが生きてい
る面があります。しかし、習近平氏にはそれがないのです。
 学歴は、精華大学大学院法学課程、法学博士号取得──立派な
学歴であるといえます。しかし、福島氏によると、習近平が入学
した1975年は、中国は文化大革命の最中であり、まともな大
学入試がなかったといいます。カネがあって、毛沢東のコネがあ
れば、誰でも入学でき、法学博士号論文も、代筆であったといわ
れています。
 習近平氏の父親の習仲勲氏は、建国八大元老の一人であるとい
うそれなりの政治家です。福島香織氏は、現在の習近平氏につい
て、次のように述べています。
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 「習近平は無能だ、頭が悪い」と言っている人は実はすごく多
いのです。改革派、開明派と呼ばれる知識人や官僚はもちろん、
保守派、左派の重鎮たちからも、私の知るかぎり、どちらからも
能力的な評価は低くみられています。彼を誉めちぎるのは、ヒラ
メ官僚(自分の出世と保身だけに気を使っている習近平の限られ
た取り巻き連中)だけという印象です。    ──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
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 中国の指導者としては、まず、毛沢東が上げられますが、この
人は、大変優れた軍事戦略家です。日中戦争後の国共内戦では、
蒋介石率いる中華民国を台湾に追放し、中国大陸に現在の中国で
ある中華人民共和国の建国を成し遂げた人物です。
 しかし、毛沢東は経済のことはまるでわかっていないのです。
嫉妬深く、権力欲が強いので、彼の生涯は権力闘争に明け暮れた
といっても過言ではありません。しかし、死去するまで同国の最
高指導者の地位にあった人物です。
 この毛沢東とは少しタイプが違いますが、ケ小平も稀代の天才
政治家です。この人は、権力闘争に3度も敗れますが、3度とも
復活するという不屈の精神の持ち主です。この人は経済のことが
よくわかっていて、社会主義国家であるのに、経済特区を設けて
自由主義経済体制を取り入れるという奇想天外な改革開放路線を
推し進めたのです。
 主として米国と日本を訪れ、視察を重ねた結果、中国が科学技
術の面において大きく遅れていることを知り、両国の力を借りて
改革開放に取り組んだのです。この外資導入による輸出志向型工
業化政策は、その後、きわめて大きな成果を収め、やがて現在の
ような中国になるのです。しかし、改革開放といっても、政治体
制だけはそのままのかたちで温存したのです。
 ケ小平のプラグマティズム(功利主義哲学)は、次の2つの言
葉によくあらわれています。
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   ◎白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である
   ◎窓を開けば、新鮮な空気とともにハエも入ってくる
                      ──ケ小平
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 そのケ小平にも危機が訪れます。1989年6月4日の天安門
事件です。天安門事件は、中国共産党体制転覆の危機といっても
よいほどの大事件だったのです。ケ小平は、時の優れた政治家で
ある胡燿邦、趙紫陽と一緒に、中国を立て直そうとしたのですが
失敗し、天安門事件が起きてしまいます。これについて、福島香
織氏は次のように述べています。
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 天安門事件については、学生たちの民主化運動の側面は広く理
解されていますが、実は、ケ小平、胡燿邦、趙紫陽の権力闘争が
背後にあります。最初はこの優秀な三人の政治家がトロイカ(三
頭立て馬車)のように仕事を分担して、国を立て直そうとしてい
たのですが、胡耀邦の人気が非常に高いので、ケ小平と趙紫陽は
嫉妬し、胡を失脚させました。すると今度はケ小平と趙紫陽が対
立することになりました。趙紫陽は学生運動を利用しようとし、
部小平は学生運動を鎮圧したのです。
                ──福島香織著の前掲書より
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 ここでケ小平は、文革経験と天安門事件の経験から、中国を治
めるのは、1人に政権を託すのではなく、何人かの集団指導体制
を築く必要があると考えます。そして、才能がとくに優れている
わけではないが、江沢民氏に総書記、国家主席、中央軍事委員会
のトップの権限を与え、「5年2期/10年」という任期を定め
たのです。そして、江沢民政権の後で、後継者争いが起きないよ
う、次の指導者は胡錦濤氏であるとの指名を行っています。
 この流れのなかにおいて、胡錦濤政権の次に、習近平氏にトッ
プの座がまわって来たわけです。しかし、習近平氏は、現在、こ
のケ小平ルールを壊そうとしています。
              ──[中国経済の真実/035]

≪画像および関連情報≫
 ●李登輝が語る「天安門事件」が台湾の民主化に与えた影響
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   天安門事件から30年を迎え、台湾や香港では大規模な追
  悼集会が開かれた。特に台湾は、言論の自由が保障されてい
  ることもあり、台北市内中心部の中正紀念堂で、戦車の前に
  立ちはだかった学生を模したモニュメントが展示されたほど
  である。
   奇しくも天安門事件の発生から9ヶ月後の1990年3月
  台湾でもまた自由や民主化を求める学生運動が起きていた。
  当時の総統は李登輝。これまで何度も書いてきたが、88年
  に蒋経国が急逝して総統職を継いだものの、すぐに権力をふ
  るうことなど不可能な環境だったといえる。周囲は李登輝を
  つかの間の代打と捉えるか、あるいは形ばかりの「ロボット
  総統」に仕立てて背後からコントロールすればよいと考える
  者ばかりだったそうだ。
   また、李登輝自身も「急進的な民主化」は望んでいなかっ
  た。もちろん頭のなかには「人々が枕を高くして安心して寝
  られる社会を実現したい」という青写真があったものの、と
  にもかくにも最優先させたのが、「社会の安定」だったとい
  う。それまでの台湾は戦後40年あまり、良くも悪くも国民
  党による強権統治の支配下にあった。蒋介石から息子の蒋経
  国へとバトンタッチされ、いちおうは国民党が一枚岩となっ
  てこの台湾を統治してきたのである。
                  https://bit.ly/2IQzPcD
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胡燿邦氏と趙紫陽氏.jpg
胡燿邦氏と趙紫陽氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする