日、米ロイターが、「グーグルはファーウェイ向けのソフトウェ
アの出荷を停止し、今後ファーウェイ製品では、グーグルプレイ
やGメールを利用できなくなる見込み」と報道すると、世界中で
ファーウェイ離れが起きて、拡大しつつあります。
とくに、携帯電話のOSとして広いシェアを持つ「アンドロイ
ド」のサービス──OSの最新版への更新や、Gメールをはじめ
グーグルマップ、ユーチューブなどのいわゆるグーグルアプリが
利用できなくなるとの不安が広がると、携帯大手などに続き、消
費者に身近なネット通販や小売の店頭においても、ファーウェイ
離れは一段と加速したのです。
アマゾンもファーウェイ販売のページにおいて、次の表示を行
い、ファーウェイ製品の事実上の販売停止を行っています。
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本製品は、OS(オペレーションシステム)などについて懸念
が発生しています。 ──アマゾンのファーウェイ製品ページ
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「アンドロイドOS」を使う機器は世界で25億台以上あり、
グーグルのソフトウェアの利用が制限されている中国国内向けを
のぞき、ファーウェイのスマホも基本的にすべて使っています。
ちなみに、ファーウェイは、2018年にサムスン電子、アップ
ルに次ぐ世界3位の2億600万台のスマホを出荷し、2019
年第1四半期にアップルを抜いて、世界2位に進出しています。
このアンドロイドが使えなくなるかもしれない事態を受けて、
日本のKDDI(au)とソフトバンク系のワイモバイルなどが
ファーウェイの新規機種「P30」の販売延期を決め、予約を中
止しています。改めてICTの世界におけるグーグルの影響力の
大きさを知る思いがあります。
ところで、ファーウェイの最新機種「P30」は、なかなか魅
力的な製品なのです。3つのカメラが搭載されており、高画質に
加えて、超広角・望遠機能を備えています。しかし、ハードウェ
アとしての機能がいかに優れていても、世界中で使われているグ
ーグルのソフトウェアが使えなくなる可能性があると知ると、世
界中で買い控えが起きてしまうのです。
このような事態になっても、ファーウェイの任正非CEOは、
傘下に半導体子会社「ハイシリコン」を有しているとして、半導
体に関しては世界レベルを超えるチップを自前で生産できるし、
OSをはじめとするソフトウェアに関しても、表向きは、独自制
作が可能であると、強気の姿勢を崩していないのです。
しかし、そのハイシリコンは、英国のARM(アーム)という
半導体設計情報を提供する企業から、多くの設計情報の提供を受
けています。アームは、自社では半導体の製造を行わず、開発や
設計に特化し、半導体メーカーからの技術使用料などを収益源と
する企業です。
そのアームが英国BBCの報道によると「ファーウェイとの取
引を中止する」と宣言したのです。これはファーウェイにとって
致命的な打撃といえます。高度な技術を持つハイシリコンといえ
ども、アームの協力なくしては、世界に通用する半導体チップの
生産ができないからです。とくにアームは、スマホ向け半導体の
設計では、90%の圧倒的なシェアを持っているからです。実は
このアームを英国のEU離脱騒ぎでポンドが急落したのを受けて
2016年にソフトバンクが買収しているのです。
アームについて、「日経ビジネス」の広岡延隆上海支局長は、
次のように紹介しています。
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ARMは、省電力半導体設計に強みを持ち、現在のスマートフ
ォン向け半導体チップの大半は、同社技術を採用している。米ク
アルコムや米アップル、韓国サムスン電子、台湾メディアテック
など、半導体チップメーカーはARMの設計情報のライセンスを
受けずには、事実上ビジネスを継続できない。そしてファーウェ
イの半導体開発を担う中核子会社、海思半導体(ハイシリコン)
もARMの技術に頼っていた一社だった。
英国はファーウェイにとって、西側諸国における「砦」のよう
な存在だった。ファーウェイは英国政府と比較的緊密な関係を保
ち、技術情報の提供を欠かさなかった。英国が、米国の意向に反
してファーウェイを「5G」から排除しなかったのは、こうした
取り組みがあったからだ。 https://bit.ly/2Mn1Sob
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そうすると、ファーウェイの命運を握っているのは、ソフトバ
ンクの孫正義CEOであるといえます。孫正義氏にとっては、悲
願である傘下の米携帯電話4位のスプリントと3位のTモバイル
との合併計画があり、トランプ政権とトラブルを起こせない立場
にいます。この合併に関しては、オバマ政権では実現できなかっ
たものの、トランプ政権になって米連邦通信委員会(FCC)の
承認を勝ち取っています。しかし、米司法省がまだ反対しており
孫氏としては、トランプ政権との関係は良くしておきたいという
思惑があり、ファーウェイとの取引を停止せざるを得ない状況に
あります。
トランプ大統領は、5月23日、このファーウェイ問題を米中
通商協議で、取引に使う考えを次のように示しています。
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G20で習近平国家主席と会談するが、そのさい、ファーウェ
イも何らかの形で、取引に含まれる。ただし、安全保障や軍事的
な観点から、ファーウェイのやってきたことは、非常に危険なこ
とである。 ──トランプ大統領
──2019年5月25日付、朝日新聞
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実際問題として、米中貿易戦争は、単なる通商協議ではなく、
安全保障の面における米国の基本戦略になりつつあります。
──[中国経済の真実/011]
≪画像および関連情報≫
●グーグルよりも深刻? 英ARMがファーウェイと取引停止
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ソフトバンクグループは2016年、3・3兆円をかけて
英半導体設計大手のARMを買収した。スマートフォン向け
CPUなどで豊富な実績を持つARMだが、ソフトバンクグ
ループはなぜ、それだけ巨額の資金を投じてARMを買収し
たのか。またARMの買収によって、ソフトバンクグループ
は、何を目指そうとしているのだろうか。
これまで、英ボーダフォンの日本法人や米スプリントなど
大規模な企業買収を繰り返して大きな驚きを与えてきたソフ
トバンクグループ。だがそうした中でも最も大きな規模の買
収となったのが、2016年買収した英ARMである。
ARMは、CPUなどの設計を手掛ける企業で、その設計
をCPUなどを開発・製造するメーカーにライセンス提供し
ロイヤリティを得るというビジネスを展開している。それゆ
え同社の設計を採用する企業にはスマートフォン向けのチッ
プセット「Snapdragon」シリーズで知られる米クアルコムな
ど、非常に多くの企業が名を連ねている。
ARMの設計を採用したチップセットは多種多様な機器に
搭載されているが、中でもよく知られているのは、やはり、
スマートフォンやタブレット向けのチップセットであろう。
今やスマートフォンの9割以上は、ARMの設計を採用した
チップセットを採用していると言われており、スマートフォ
ン開発になくてはならない存在となっているのだ。だが、A
RMの買収と、これまでソフトバンクが巨額で買収した企業
とを比べると、ある大きな違いが見られる。それは、ARM
が経営不振に陥っているわけではないということだ。
https://bit.ly/2Mn1Sob
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ソフトバンクARMを買収