すが、トランプ大統領が貿易戦争の宣言をしたのは同年3月のこ
とです。しかし、これだけのことで、中国の内部は大変なことに
なっていたのです。
米国への中国人留学生、客員学者、交換教授ら約400名が中
国に帰国しているのです。彼らは「海亀派(ハイグイ)」といわ
れ、必ず帰ってくるのですが、それにしても、まとまってドカッ
と帰ってきています。少し帰ってくるのが早いのです。
海亀派は、中国において、海外での留学・研究や就業を経て中
国に帰国する人々のことです。海亀が、成長して、産卵のため古
巣に帰ってくることからそう呼ばれるのです。
なぜ、帰って来たのかというと、米国当局は、彼らを米国のハ
イテク技術を盗取するために派遣されてきているとみなし、ビザ
審査などを厳しくしたので、今までなら認められた滞在延長が認
められなかったり、スパイ容疑で取り調べを受けたり、逮捕され
る恐れも出てきたので、早めに帰国したと考えられます。
トランプ大統領は、単に中国との貿易戦争を宣言するだけでな
く、いろいろな手を同時に打っているのです。もっと深刻なこと
は彼ら海亀派には、当然受け入れる企業や団体はあるはずですが
今回はそれがなく、金の卵といわれた彼らでさえ就職に難儀して
いるのです。中国メディアは一切伝えませんが、現在、中国では
未曾有の就職難に陥っているのです。
それは、外国企業の中国への投資が激減しているからです。天
津を例にとってみると、外国企業の天津への投資は、2017年
には106億ドルあったものの、2018年にはたったの48億
ドルに激減し、どの工場もレイオフを発表しています。加えて、
あの韓国経済の華といわれるサムスンも、アップルの売り上げ激
減が原因で半導体工場を閉鎖したのです。これでは、深刻な就職
難が起きても不思議はないといえます。
中国中でこういうことが起きた結果、2019年1月の貿易統
計では、対中輸出、つまり中国の対日輸入が次のように減少オン
パレードになっています。この統計は、日本の財務省をはじめ各
官庁が定期的に発表する信頼できる貿易統計です。
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対中輸出 ・・ 17・4%減
化学繊維、プラスチック ・・ 27・5%減
鉄鋼 ・・ 21・0%減
非鉄金属 ・・ 21・0%減
一般機械、機械全般 ・・ 26・6%減
電算機類、コンピューター ・・ 33・0%減
金属加工機器 ・・ 52・0%減
音響映像装置、記録再生装置 ・・ 49・0%減
電気回路等の機械 ・・ 38・5%減
通信機 ・・ 48・2%減
──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
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この統計を見るうえで知っておくべきことがあります。既出の
渡邊哲也氏によると、民主党政権当時の円高に苦しめられた経験
から日本のメーカーは、一般消費者向けの製品の生産(BtoC)
から、キーパーツの生産や設備投資のためのマシンの生産(Bto
B)にシフトしているのです。これは、きわめて賢明な判断であ
るといえます。
その設備投資のマシンの対中輸出が、30〜40%落ち込んで
いるということは、中国国内の新規の設備投資がほとんど起きて
いないことを示しています。もちろんこれは日本だけで起きてい
る現象ではなく、他国でも同じような現象が起きています。
こういう経済の急速な落ち込みの結果、前述のように、現在、
中国では深刻な就職難が起きているのです。この中国の就職難に
ついて、中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、近著で次のように
述べています。
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深刻な状況は若人の失業である。大学新卒は834万人(当初
860万人の大学新卒が見込まれていたが、26万人が中退した
ことになる。学生ローン不払いなどが原因だ)。苦労して大学を
卒業しても、まともな就労先がない。薔薇色の人生設計が暗転す
る。そこでまた中国政府は無理矢理なプロジェクトを謳い、巨額
を予算化する。一帯一路プロジュクトが世界各地で挫折、頓挫し
始めたので、国内で大型プロジェクトを拡大しょうとするのだ。
赤字構わず新幹線をさらに延長する工事が、あちこちで開始され
た。それこそ人の行き来より熊の数が多いような過疎地にも。
──宮崎正弘著/ビジネス社刊
『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機 が始まる』
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これと並行するように、中国人民銀行(中央銀行)によると、
中国の民間企業の債券発行が、通常の3倍から4倍に増加してい
るのです。設備投資が起きていないのに債券が大幅に発行される
ということは、実質的には資金調達のための融通手形を発行して
いるのと同じです。
しかも債券デフォルトラッシュの状況です。2018年の民間
企業の社債デフォルトは、42社、118件、総額1200億元
(約1兆9800億円)にも及んでいます。もともと中国の経済
の状況がよくなかったところに、米中の貿易戦争が起きて、それ
を契機に経済がクラッシュしたと考えられます。
しかし、当時のメディアが報じる海外の政治の話題は、11月
6日の米中間選挙一色であり、中国の経済の惨状についてまった
く取り上げていないのです。それに関連して中国の政界で極めて
異例の事態が起きていたことを報道する日本のメディアは皆無で
あったのです。 ──[中国経済の真実/007]
≪画像および関連情報≫
●40年前の日本とそっくりの中国経済/加谷珪一氏
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中国国家統計局は2019年1月21日、2018年の国
内総生産(GDP)を発表した。物価の変動を除いた実質成
長率はプラス6・6%となり、2017年の成長率(6・8
%)を0・2%ポイント下回った。中国の成長率は2000
年以降、8%を超える成長が続き、一時は10%を突破して
いたが、このところ成長鈍化が鮮明になっている。
2018年については、米国と貿易戦争が勃発したことで
輸出が低迷したほか、政府が進める債務削減策によって公共
事業が大幅に縮小し、これにともなって全体の成長率も低下
した。
中国のGDP統計は、日本や米国と異なり、生産面からの
推計が中心となっている。支出面からの比較が難しく、業界
ごとの成長率で間接的に状況を把握するしかない。
製造業による生産は、プラス6・2%となっており、20
17年を下回った。建設は以前から4%台の成長にとどまっ
ており、全体より低く推移している。製造業の多くは輸出に
依存している可能性が高いので、成長減速の主な原因は米中
貿易戦争である可能性が高い。貿易統計もそれを裏付けてい
る。中国の2018年12月における、ドルベースの輸出額
(ドルベース)は2213億ドル(24兆1200億円)と
前年同月比で4・4%のマイナスとなった。米国向け輸出が
大きく減ったことで輸出全体が低迷した。月別の動きを見る
と、輸出の低迷は年後半から顕著となっており、米国が課し
た高関税が影響したと考えられる。https://bit.ly/2V8C8uP
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宮崎正弘氏/中国評論家