2019年05月15日

●「中国のGDP数字の明らかなウソ」(EJ第5004号)

 向松祚氏は、2019年1月20日に上海で行われたある経済
フォーラムで演説を行い、次の発言をしています。
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  2019年はミンスキー・モーメントの到来に警戒せよ
                     ──向松祚氏
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 ミンスキー・モーメント──既に述べているように、中国の金
融官僚はよくこの言葉を使うそうです。ミンスキーモーメントと
は、すべての資産価値が急落する時を意味します。つまり、いつ
バブルが弾けてもおかしくないということでしょうか。
 このときの向松祚氏の講演について、石平氏は、渡邊哲也氏と
の共著で、次のように述べています。
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 講演のなかで彼はまず、2018年における中国経済減速の原
因について論じ、3つの国内要因と1つの国外要因を取り上げて
います。3つの国内要因とは、@政府の金融引き締め策による企
業の資金難。A企業負債の膨張。B「私有制消滅」などの国内の
「雑音」である。そして国外の要因はやはり米中貿易戦争である
と示しました。
 向氏はA「企業負債の膨張」について単刀直入に語りました。
これまでの経済成長の過程で、中国国内企業が主に行ってきたの
は、生産性を高めることで利益の増大を図るといった正当な経営
手法ではなかった。もっぱら銀行から借金、あるいは債券を発行
してむやみに規模拡大を図る経営を続けてきた結果、「債務の膨
張」を招いてしまったのだと。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
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 向松祚氏の演説の内容はそれは恐ろしいことを述べています。
ここでは企業の債務の拡張について述べていますが、中国では、
企業だけでなく、政府も個人も膨大な負債を抱えており、中国全
体の負債の総額は、実に「600兆元」に達しているといわれて
います。600兆元は、日本円に直すと、約9900兆円という
膨大な数字になるのです。
 ちなみに2018年度の中国のGDPは90兆元(約1485
兆円)であるので、600兆元はGDPの6倍以上ということに
なります。本当であるとしたら、これは世界経済史上、まさに前
代未聞のことです。日本はその債務総額がGDPの2倍以上であ
ることで「借金大国である」といわれますが、中国のそれは、日
本などまるで比較にはならないほど巨額な債務です。これを渡邊
哲也氏は次の言葉で表現しています。
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 中国の経済成長は、「債務膨張」という砂上に立つ楼閣その
 ものである。              ──渡邊哲也氏
            ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
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 向松祚氏は、この講演で、中国経済の今後の見通しについて、
次の2つの点から、かなり悲観的な見方をしています。
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  1.中国の上場企業の大半が多くの利益を上げていない
  2.中国国内の不動産バブルが極まっている状態である
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 「1」について・・・
 2019年の株価について、対米貿易戦争の拡大によって、中
国経済全体が低迷し、株価は落ちることはあっても上昇に転ずる
可能性は薄いとしています。上海総合指数が2000ポイントを
切る可能性もあります。この指数は、株価の上昇時には5000
ポイントを超えていたのです。
 「2」について・・・
 不動産バブルが凄いことになっています。中国国内の不動産時
価総額は、既に65兆ドルに達しています。日本円で示すと、約
7310兆円──それは、米国、日本、EUを合わせた不動産時
価総額60兆ドル(約6750兆円)を超えており、まさにバブ
ルは極まっていて、これが弾けると大変なことになると、向松祚
氏は、警告を発しているのです。
 中国のGDPの公表数字が大きく偽装されていることは世界中
が知っている事実ですが、これらの公表数字は国による自発的な
公表である以上、他国がその真偽をうんぬんできないのです。そ
れを向松祚氏はスッパ抜いたのです。なぜ、そんなことができた
のかについては明日のEJで取り上げます。
 中国のGDPデータの誤魔化しについては、中国に詳しい評論
家の宮崎正弘氏も近著で次のように述べています。
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 地方政府のGDP報告は、平均で、30%水増しされていた。
「日本の3倍」と豪語している中国の実態は、GDPはせいぜい
1000兆円程度、日本のGDPの1・8倍前後だろう。「息切
れ」はとうに確認されており、過去数年は数字を大胆に誤魔化し
国有企業の救援策を優先し、税法上の挺子入れをなし、在庫と失
業処理のため「一帯一路」で海外にゴミを輸出してきた。その数
字、データの誤魔化しも限界に達し、実態が透けて見えるように
なった。国有企業の資金繰りができなくなり、大量の失業者が街
に溢れ、物価は上昇し、政府への不満は高まる。そのうえ不動産
が暴落気配、株暴落、人民元安が追い打ちをかける。上海に住む
日本人の情報ではとうとう上海の高級住宅地のマンションが値崩
れを起こし、30%引きでも買い手がない状態だという。
                 宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
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              ──[中国経済の真実/003]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、成長率を年平均1.7ポイント水増しか
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   香港中文大学と米シカゴ大学の研究者は、中国が2008
  年から16年まで9年間の経済成長率を平均で年1・7ポイ
  ント過大に発表していたとの研究報告をまとめた。
   米ブルッキングス研究所が公表した論文草稿で執筆者らは
  成長と投資の目標を達成すれば高い評価を得られる地方政府
  による報告が成長率の水増しにつながったと分析。中国国家
  統計局はそうした統計操作を認識し、地方からの数値を調整
  しているが、2008年以降はそれほど十分に調整していな
  かったとしている。
   論文は「08年の後、地方の統計は数値をますます不正確
  に伝えるようになったが、国家統計局の調整ではこれに応じ
  た変更がなかった」と説明。その代わりに税収や電力消費、
  鉄道貨物動向、輸出入などごまかしにくい数字を基に中国全
  体の年間国内総生産(GDP)を予測するようになったとい
  う。研究者らは、見直した後の数値は「08年以降の中国成
  長鈍化が公式統計が示唆するよりも深刻だったことを示して
  いる」と指摘している。国家統計局にコメントを求めたが、
  今のところ返答はない。ブルームバーグ・エコノミクスのチ
  ーフエコノミストで中国経済指標に関する著書もあるトム・
  オーリック氏は、この論文の結論について「慎重」な見方を
  している。           https://bit.ly/2Hh96p4
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向松祚氏/2019年1月20日の講演.jpg
向松祚氏/2019年1月20日の講演
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする