2019年05月10日

●「中国はミンスキーモーメント状態」(EJ第5001号)

 遠藤誉氏の本を読むと、中国の宇宙技術は既に米国を超えてお
り、このまま推移すると、「中国製造2025」は目標通り実現
し、今後中国は、これまで絶対磐石ともいえる存在の米国の安全
保障上の地位を脅かす存在になることがよくわかります。これは
西側自由諸国にとって脅威であり、とくに東アジアに位置する日
本にとって中国は、最大の脅威になります。
 どうして中国の技術力は向上したのでしょうか。
 千人計画、万人計画などによるに優れた人材の結集、必要な機
材の購入、豊富な研究開発費の投入、ネットを通じての機密情報
の窃取など──いずれも膨大なカネがかかる。しかし、中国は世
界第2位の経済大国であり、しかも社会主義国、トップの判断で
カネはいくらでも投入できるのです。これらを総合すれば、技術
力は向上できて当然といえます。
 しかし、その肝心な経済・財政の事情は、本当のところどうな
のでしょうか。
 これまで、中国を論ずる多くの書籍では、「中国経済は近い将
来破綻する」というトーンのものが多いのですが、当の中国は、
一向に破綻しないでいます。どうなっているのでしょうか。
 2018年の中国の経済事情について、中国事情に詳しい福島
香織氏は、中国国民が切実に感ずるレベルの厳しさであると指摘
して、次のように述べています。
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 2018年の中国経済を概観すると、経済鈍化は庶民が肌身で
切実に感じるレベルである。党大会後から始まった債務圧縮政策
は中国の雇用を支えてきた民営中小零細企業を直撃、報道ベース
でざっくり500万件が倒産し200万人が路頭に迷い、740
万人の出稼ぎ者が都市部から農村に戻った。その原因を習近平路
線にあるとする声は党内でも大きい。習近平の政策の一番強烈な
ところは「習近平を核心とする党中央」が一切を指導する独裁路
線であり、株式市場も為替市場も民営企業も債務も、党(習近平
の意向)が完璧にコントロールしてやろう、という点だ。そんな
ものを完璧にコントロールできる天才的指導者などいるか、とい
う話だ。これはケ小平の改革開放路線(資本主義を経済の手段と
して容認し、経済活動については政治的制約を極限まで減らし、
結果的に豊かになった企業家および中間層を党に取り込むことで
共産党の権力を強くする)とは真逆。だから、習近平路線の呼び
名は「逆走路線」あるいは「改毛超ケ」(毛沢東のやり方を改良
してケ小平を超越する)と表現される。    ──福島香織氏
                  https://bit.ly/2H3P4gf
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 この福島氏の記述によると、昨今の中国の経済事情は相当深刻
の度を増しています。それに加えて、製造業の高度化を推進する
「中国製造2025」や、国内余剰生産などの矛盾を国外に移転
し、解決しようとする「一帯一路」という戦略が覇権台頭主義と
して警戒され、米国から貿易戦争を仕掛けられます。それによっ
て、外資引き上げが加速し、経済は急減速しています。人民元は
急落し、不動産バブル、地方債務は、まさにはじける寸前の状態
になっています。
 2017年の暮れ頃から、中国の金融官僚たちは「ミンスキー
・モーメント」という言葉を口にするようになったのです。これ
は、何を意味する言葉でしょうか。
 バブル──バブル的な信用(債務)に支えられている経済にお
いて、長く隠れていたリスクが突然顕在化し、これに慌てふため
いた投資家たちによる資産の投げ売りが起きる──まさにその瞬
間のことを「ミンスキー・モーメント(ミンスキーの瞬間)」と
いいます。バブルがはじけるときの瞬間のことです。サブプライ
ムショックでは、これが起きたのです。
 ちなみに、ミンスキーというのは、米国の経済学者ハイマン・
ミンスキーの名前にちなんだもので、サブプライム・ショックは
「ミンスキー・クライシス」と呼ばれることもあります。
 バブルというものは、必ずはじけるものなのです。それが経済
の原則です。2015年7月に中国の株式バブルが崩壊したので
すが、中国政府は「サーキットブレーカー制度」を発動させるな
どして、株式市場をクローズし、はじけるのを抑えたのです。こ
れがよくないのです。
 もし、流れに任せてバブルをはじけさせ、リセッション(景気
後退)に突入すればよかったのですが、人為的にコントロールし
て抑えてしまったのです。しかし、何度もはじけようとするので
中国当局は、そのつど株価維持政策を行ったり、為替介入をした
りして凌いできていますが、そろそろ限界に達するはずです。
 先日、ジュンク堂書店に行ったとき、中国の経済の現況を探る
本が複数出版されており、購入して読んでみると、いずれもリア
リティーがあります。中国が今後どうなっていくのかを探るのに
役に立ちそうです。そこで、このテーマは今回をもって終了し、
来週の13日から、中国の経済の状況を追跡する新しいテーマに
挑戦することにします。
 既に何度も書いているように、中国──中華人民共和国はきわ
めて異常な国家です。建国は1949年ですが、中国人民の国家
ではなく、中国共産党の国家です。トップの習近平は、中華人民
共和国の国家主席ですが、同時に中国共産党の総書記も務めてい
ます。この中国共産党総書記は、中国国家主席の上に立つ存在な
のです。すべてに国家よりも中国共産党が優先するのです。
 中国の軍隊は「中国人民解放軍」といいますが、これは中国と
いう国の軍隊、すなわち国軍ではなく、中国共産党を守る軍隊な
のです。あの天安門事件のとき、中国人民解放軍は、中国人民に
発砲しましたが、これは中国共産党が危なくなったので、それを
守るために共産党の軍隊が発砲したのです。
 このように中国は非常に異常な国であるといえます。いま、こ
の国の経済は大きな危機に瀕しています。
       ──[米中ロ覇権争いの行方/082/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●成長率が鈍化した中国経済、実は「40年前の日本」と同じ
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   中国国家統計局は2019年1月21日、2018年の国
  内総生産(GDP)を発表した。物価の変動を除いた実質成
  長率はプラス6・6%となり、2017年の成長率(6・8
  %)を0・2ポイント下回った。中国の成長率は2000年
  以降、8%を超える成長が続き、一時は10%を突破してい
  たが、このところ成長鈍化が鮮明になっている。
   2018年については、米国と貿易戦争が勃発したことで
  輸出が低迷したほか、政府が進める債務削減策によって公共
  事業が大幅に縮小し、これにともなって全体の成長率も低下
  した。中国のGDP統計は、日本や米国と異なり、生産面か
  らの推計が中心となっている。支出面からの比較が難しく、
  業界ごとの成長率で間接的に状況を把握するしかない。
   製造業による生産は、プラス6・2%となっており、20
  17年を下回った。建設は以前から4%台の成長にとどまっ
  ており、全体より低く推移している。製造業の多くは輸出に
  依存している可能性が高いので、成長減速の主な原因は米中
  貿易戦争である可能性が高い。
   貿易統計もそれを裏付けている。中国の2018年12月
  におけるドルベースの輸出額(ドルベース)は2213億ド
  ル(24兆1200億円)と前年同月比で4・4%のマイナ
  スとなった。米国向け輸出が大きく減ったことで輸出全体が
  低迷した。           https://bit.ly/2V8C8uP
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ハイマン・ミンスキー氏.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする