安倍首相に「貿易交渉を5月中に決着させよう」というようなキ
ツイことをいっていましたが、その後一転して、難しい交渉は参
院選後にやることで合意したようです。時事通信社は「タイム誌
によると」と断って、次のように報道しています。
─────────────────────────────
【ワシントン時事】米誌タイムは2日までに、新たな日米貿易協
定交渉について、今年夏の参院選後に本格化する見通しだと報じ
た。トランプ大統領が先週末の首脳会談で、安倍晋三首相に配慮
する姿勢を見せたという。日本政府は、農産物や自動車の市場開
放協議が選挙に及ぼす影響を最小限にとどめたい方針を伝えたと
みられる。
タイム誌によると、トランプ大統領は交渉責任者であるライト
ハイザー米通商代表部(USTR)代表らの助言を無視し、「本
格的な協議を先送りすることに応じた」という。両国は今月中に
も、個別品目の関税撤廃・引き下げに向けた事務レベルの調整に
着手するとされるが、最終決着は参院選後に持ち越される可能性
が高い。【時事通信社】 https://bit.ly/2ZZiTrh
─────────────────────────────
お互いに選挙が大事なのでこういう妥協が生まれたものと考え
られますが、こういうざっくばらんな交渉ができるのも、安倍首
相とトランプ大統領の個人的人間関係があるからなのでしょう。
しかし、これによって安倍首相は、農産品を含む重要交渉で大幅
に譲歩せざるを得なくなり、この参院選後への延期のツケは相当
高くつくものと思われます。
戦後から日本が選んできた道は、あくまで日米同盟を基軸にし
て、アジア大陸の脅威──冷戦時代はソ連、現在は中国と北朝鮮
──に対応するというものです。つまり、米国の軍事力を後ろ盾
にして日本はこれまで国を発展させてきたのです。そういう意味
で日本は米国の保護国であるといえます。
日本のこの選択は、日本の発展に大きく寄与したことは確かで
す。しかし、それは、米国が世界最大の覇権国であり続けること
が条件になります。覇権国とは、軍事力、政治力、経済力、文化
的影響力など総合国力において圧倒的に優越し、他国との力量の
乖離を前提に国際社会に秩序=国際公共財(たとえば、自由貿易
体制や国際金融の安定性)を供給する国家のことです。
確かにこれまで米国は、そういう覇権国であったし、現在もそ
の地位を維持しています。しかし、軍事力に関わる中国の技術的
レベルは急速に伸長し、米国に激しく迫っています。なかでも、
これからの主戦場になる宇宙の分野では、中国は米国のレベルを
超えています。なぜ、こういう結果になったのでしょうか。
それは、米国が中国に対する政策を誤ったからです。米国には
中国への対応に関して次の2つの考え方があります。それは、そ
れぞれ、一派を形成しています。
─────────────────────────────
1.中国の強化を奨励する一派
キッシンジャー派
2.中国の進出を警戒する一派
ブレジンスキー派
─────────────────────────────
今回は、第1の「中国の強化を奨励する一派」について考える
ことにします。
この一派は、中国を西側国際社会に引き入れ、国力を強化させ
ればやがては民主国家になると甘く考えていたのです。この考え
方に立って政策を進めたのはニクソン政権です。ニクソン政権は
現トランプ政権と同じ強烈な米国第一主義であり、米国の利益の
ためなら、他国はどうなってもいいという考え方です。
1972年2月、ニクソン大統領は、それまで一貫して中国封
じ込め政策をとってきたにもかかわらず、電撃的に中国を訪問し
たのです。「敵の敵は味方」という考え方です。これによって、
米国の中国封じ込め政策に全面協力をしていた日本の佐藤内閣は
窮地に陥ってしまいます。
ニクソン大統領は、泥沼化していたベトナム戦争を終わらせる
ため、当時ソ連と対立していた中国を味方につけるため中国を訪
問したのです。このとき、その絵図を描き、自ら中国を訪問し、
ニクソン訪中を実現させたのが、当時大統領補佐官をしていたヘ
ンリー・キッシンジャー氏です。以来、キッシンジャー氏といえ
ば、現在に至るまで、中国派といわれる存在です。
既出の日高義樹氏は、キッシンジャー氏と大変親しく、かつて
の日高氏のテレビ番組に、キッシンジャー氏はよく出演していた
のです。その日高氏は、最新刊書において、キッシンジャー氏の
ことを次のように述べています。
─────────────────────────────
「中国の指導者は頭が良い。優れた見識を持っており、あらゆ
る問題の解決策をうまく考え出す」
私が長く付き合っているアメリカのキッシンジャー元国務長官
が中国について口を開くと、必ずこう言う。キッシンジャー博士
だけでなく、私が付き合っているアメリカの政治家や学者たちは
中国の長い歴史と、そして地理的に占めている大きさに恐れと敬
意を抱いており、中国とはとても戦うことはできないという気持
ちを強く持っているようである。
こうしたアメリカの指導者たちの考え方が、中国共産党という
非人間的で非合理な政治体制をそのまま国際社会のなかに導き入
れてしまった。キッシンジャー博士やニクソン大統領の対中国政
策の裏には、当時アメリカを悩ませていたベトナム問題や冷戦を
戦っているソビエトをうまく処理するために、中国の力を利用し
たいという思惑も存在していた。 ──日高義樹著/悟空出版
『2020年「習近平」の終焉/アメリカは中国を本気で潰す』
─────────────────────────────
──[米中ロ覇権争いの行方/079]
≪画像および関連情報≫
●ヘンリー・キッシンジャーの「中国」
───────────────────────────
アメリカでのパンダハガー(親中派)筆頭であり、1969
年から75年まで特別補佐官・国務長官を務めたヘンリー・
キッシンジャー。1960年代のアメリカでは、中国をソ連
以上に、より切迫した脅威とみなす認識が一般的だった。中
国の文化大革命は狂信的なものであり、べトナム戦争は中国
の拡張主義の現われとみなされていた。
朝鮮戦争などもあり、20年以上にわたってアメリカと中
国はハイレベルでの接触を持たなかったが、1971年7月
キッシンジャーはパキスタン経由で秘密裏に訪中し、周恩来
と長時間の会談をした。(それ以来、キッシンジャーは中国
に50回以上訪れている)
その時のアメリカ側の動機は、ベトナム戦争の泥沼からの
撤退、冷戦の一つの戦術的側面(ソ連を封じ込めるため)。
中国側の動機は、文化大革命の混乱による疲弊からの脱却、
形の上ではソ連の同盟国だったが、モスクワの脅威に対抗す
るため。更にキッシンジャーは、ニクソンから、アメリカが
日本から撤退すると、日本が独自の軍事大国となり、中国に
とって脅威となることを周恩来に指摘せよ、というメモを渡
されて訪中している。「本書の主眼は、1949年に中華人
民共和国が建国されて以来の米中指導者の相互交流を描くこ
とにある。 https://bit.ly/2UZRkdt
───────────────────────────
ニクソン米大統領/中国を電撃訪問