量子論を展開するつもりはありませんが、「量子通信」「量子暗
号」「量子通信衛星」については、量子の基本的なことを理解す
る必要があります。
物質を形成しているのは「原子」です。その原子は、「電子」
「陽子」、「中性子」からできています。その陽子と中性子は、
さらに「クォーク」という粒子からできています。クォークは、
物質の最小単位の一つとされており、この粒子のことを物理学で
は「素粒子」といっています。同じ素粒子の仲間には、「電子」
と「光子」などがあります。
これらの原子以下の電子、中性子、陽子などを「量子」と呼ん
でいるのです。単独に量子というものが存在するわけではないの
です。もうひとつ忘れてはならないのが「光」です。光は粒子と
しての性質と波としての性質がありますが、光を粒子としてみた
ときの「光子」や「ニュートリノ」などの素粒子も量子と呼んで
いるのです。
このような量子の世界には、われわれの世界の力学とは異なる
力学が働くのです。量子の世界とは、ナノサイズ、またはそれよ
りも小さい世界です。ナノサイズとは、1メートルの10億分の
1の極小の世界であり、この世界においては、われわれの身の回
りにある物理法則、ニュートン力学や電磁気学などは通用せず、
「量子力学」というとても不思議な法則によって物事が動くので
す。壁をくぐり抜けたり、瞬時に別の場所に移動したり、それは
まるでハリーポッターの世界です。
ここでいささか、わかりにくいことを理解しなければならない
のです。それは次のことです。
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量子は「粒子」と「波」の2つの性質を有する
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これは、光についてよく説明されるので、光を例にとって説明
を行います。なお、これについての説明は、2017年のテーマ
「次世代テクノロジー論」のなかの「量子コンピュータ」の部分
で取り上げていますので、そちらも参照してください。
量子は、物理の世界で最小の、これ以上は分割できない物質や
エネルギーの基本単位です。量子は、粒子(粒子性)と波(波動
性)の両方の性質を持ち合わせているので、次の性質を持つこと
になります。
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1.粒子性 ・・・ 最小物質
2.波動性 ・・・ エネルギーの基本単位
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2017年12月21日のEJ第4671号で、光を取り上げ
量子が粒子性と波動性を両方を持っていることを確認する有名な
実験を紹介しています。それをここに再現します。添付ファイル
を参照してご覧ください。
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最初に「波」について考えてみます。水を張った水槽があると
します。この水槽は2つの穴の空いた板で真ん中が仕切られてい
ます。この状態で、左側にコインを落としたとします。そうする
と、仕切り板に向って波が発生します。
穴に到着すると、波は二つに分かれ、仕切り板の右側で相互作
用を起こします。相互作用とは、2つの山が重なり合うと、山は
大きくなり、波の強度が増し、逆に山と谷が重なると、お互いに
打ち消し合う、そのさまをいうのです。その結果、「干渉パター
ン(干渉縞)」という模様ができ上がります。これは「波」の存
在を示す証拠といえます。これについては、添付ファイルを参照
してください。
続いて「粒子」の実験です。仕切り板で仕切られた2つの部屋
があります。仕切り板には2つの丸い穴が空いていますが、現在
は左の穴は塞がっており、右の穴だけ空いています。なお、右の
部屋の正面には、スクリーンが張ってあるとします。
この状態において、左の部屋から仕切り板に対して光を当てま
す。そうすると、光は空いている右の穴を通ってスクリーンの右
側に丸い像を結びます。続いて、今度は右の穴を塞いで左の穴を
空けます。そうすると、光は左の穴を通して、スクリーンの左側
に丸い像を結びます。当たり前ですが、これは光が「粒子」であ
ることを示しています。
問題は次です。今度は仕切り板の左右の穴を両方とも空けて、
左側の部屋から光を当てます。通常であれば、右の部屋のスクリ
ーンの左右に2つの丸い像が映し出させるはずです。しかし、実
際にはスクリーンには、干渉縞が映し出されるのです。これは光
が「波」であることを示しています。
2017年12月21日付/EJ第4671号より
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この量子の粒子性と波動性の性質の他に、量子には「重ね合わ
せ」という不思議な現象があるのです。現在のCPUのチップは
限りなく原子レベルに近づいています。反時計回りに自転する原
子を仮に「1」とします。それをひっくり返して回転軸が下を向
いて時計回りに自転するようすれば、その原子は「0」をあらわ
すことになります。もちろん、0と1は逆でもいいのです。この
場合、原子は極小のスイッチとして機能します。
原子のレベルまでは、現在の力学が作用していますから、物理
的に何の矛盾はないのです。現在、多くの人が、このクラスのコ
ンピュータを使っています。しかし、微細化がさらに進んで素粒
子レベル、量子レベルに達すると、量子力学が働くのです。そう
すると、何が起きるのでしょうか。
そうすると、量子は「0」と「1」の両方の状態をとるように
なります。これを量子の「重ね合わせ」といいます。実に不可解
な現象です。これについては、明日のEJで詳しく説明します。
──[米中ロ覇権争いの行方/061]
≪画像および関連情報≫
●波と粒子の二重性から粒子と波の二重性へ
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光が波であるのか粒子であるのかはニュートンの時代から
物理の大問題であった。この論争の決着には長い時間が必要
だったが、19世紀には干渉や回折、さらには偏光が発見さ
れ、ついに光が波であることが決定した。そして、一方で、
マックスウェルの電磁気学により光を電磁波として取り扱う
理論的基盤が構築されていた。
それに対して、アインシュタインは改めて光の粒子性を主
張したわけであり、そういう意味では、非常に大胆な提案で
あったわけである。アインシュタインが光の粒子性を主張し
たからといって、光の波動性を否定していたわけではないこ
とに注意しておこう。古典的には、あるものが粒子であり波
であるということはありえない。そして、私たちも、光は波
であるか粒子であるかのどちらかであると考えてしまいがち
だけれども、量子論の枠組みでは、光は波動的な面と粒子的
な面の両方を持ち合わせたものなのである。これを波と粒子
の二重性という。
1905年のアインシュタインの光量子モデルから、次の
話まで約20年の歳月が流れている。実際には、この歳月の
間に量子論に関連した多くの進歩があり、「前期量子論」と
呼ばれる時代を形成している。 https://bit.ly/2uCQubU
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「ヤングの実験/干渉縞」無題