2019年03月22日

●「中国の超大規模な『人狩り』作戦」(EJ第4972号)

 習近平政権がいかに留学生制度──とくに留学後に中国に帰国
させることに力を注いでいるかを示すデータがあります。遠藤誉
氏の本に出ているものですが、以下に要約します。
 1978年の改革開放後に中国を出国した中国人の留学生の数
は、516万4900人、そのうち、学業終了後に帰国した留学
生の数は、2017年の時点で、313万2000人です。つま
り、40年かけて約6割の人が帰国したことになります。
 ところで、習近平政権になってから帰国した中国人留学生の数
は231万3600人です。習近平政権は2012年に発足して
いるので、約6年間でこの人数が帰国したことになります。パー
センテージでは、40年かけて帰国した313万2000人の約
74%が6年間で帰国したことになります。
 このデータを発表したのは、中国共産党機関紙「人民日報」で
すが、習政権になってからの留学生の帰国率はきわめて高く、そ
れだけ中国人民が習政権に期待している証であると「人民日報」
は誇らしげに強調しています。
 中国は既に追いつき、追い抜くべきターゲットとして、はっき
りと米国を見据えています。それは、マラソンで、はるか後方か
ら追い上げてきて、トップを走る米国の背中が見えている状況に
よく似ています。習近平氏は、2012年11月15日に、中国
共産党中央委員会総書記に選出された半月後、中国国家博物館の
「復興の道」展を視察したときに、次の発言を行っています。こ
れが「中国の夢」といわれるものです。
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 誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在み
なが「中国の夢」について語っている。私は「中華民族の偉大な
復興」の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。
この夢には数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人
民全体の利益が具体的に現れており、中華民族一人ひとりが共通
して待ち望んでいる。        https://bit.ly/2HHClBQ
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 そして、2013年6月8日、習近平主席は、オバマ米大統領
と米カリフォルニア州サニーランドで非公式会談を行ったさい、
「中国の夢」について次のように説明しています。
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 中国の夢は国家の富強、民族の振興、人民の幸福であり、協力
発展、平和、ウィンウィンの夢でもある。それは、米国のアメリ
カンドリームや各国国民の夢とは共通している。
                  ──習近平中国国家主席
                  https://bit.ly/2HHClBQ
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 習近平主席は言葉を慎重に選びながらも、米国との「ウィンウ
インの夢」を実現し、二大大国としてやっていきたいという気持
ちに溢れています。それは、米国を射程にとらえたという自信か
ら来るものです。そのためには、何といっても「人」──頭脳を
集める必要があるということで、留学生として送り出したからに
は、中国に戻ってもらえるよう研究施設を増設し、そのための報
酬、研究開発費などの予算を積み増しているのです。
 優秀な人材をいかにして増やすか──これまで中国はこのこと
に力を入れ、とくに胡錦濤政権時代からは、具体的な人集め政策
を実施しています。それが2008年からスタートした「千人計
画」です。この計画の英語表記は次のようになっいます。
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    The Recruitment Program of Global Experts
      グローバル人材のリクルート・プログラム
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 3月18日のEJで述べたように、中国には、後にも先にもノ
ーベル賞受賞者は3人しかいないのです。これでは、二大大国と
して米国と肩を並べるにはほど遠い状態です。しかし、それは国
籍にこだわっているからであって、「中国系」まで含めるのであ
れば話は別です。
 楊振寧という学者がいます。1922年に安徽省で生まれてい
るので、中国人です。1957年にノーベル物理学賞を受賞して
いますが、楊振寧の国籍は「中華民国」であって、「中華人民共
和国」ではないのです。したがって、中国人が取得したことには
ならないのです。しかも1964年には、楊振寧はアメリカの国
籍を取得しています。
 これに目をつけたのが、胡錦濤主席(当時)です。胡錦濤主席
も安徽省であるところから、胡錦濤政権によるさまざまな働きか
けによって、2003年に、中国に呼び戻すことに成功していま
す。そして2008年に「改革開放30周年記念における中国に
最も影響を与えた海外専門家」として表彰を受けています。そし
て、最新の情報によると、2016年末において、中国籍に戻っ
ています。
 このことがきっかけになって、千人計画の対象者には「国籍を
問わない」という項目が入ったのです。国籍がどこであれ、親中
国の学者を中国に集めることに成功すれば、次世代を育てるのに
役立つからです。このことに関して、遠藤誉氏の本には、楊振寧
についての次のエピソードが出ています。
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 当時国家主席だった胡錦濤が直接楊振寧に会ったときに、彼は
大学院ではなく学部の学生に講義をしていた。それを目の当たり
にした胡錦濤は感動し、「こんなご高齢なのに」と言ったところ
「いえ、科学者は自分の知識を次世代に伝えてこそ、その役割を
果たすことができるのです。そうでないと、科学の発展は、そこ
で止まります」という回答が戻ってきたのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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           ──[米中ロ覇権争いの行方/053]

≪画像および関連情報≫
 ●楊振寧が昨年末に中国国籍に/理科系のノーベル賞は2人
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   1957年に中国系の物理学者、楊振寧と李政道の2名が
  ノーベル物理学賞に輝いた。研究対象は「パリティ対称性の
  敗れ」だが、詳しい事は分からない。楊振寧は中華民国安徽
  省合肥市、李政道は中華民国江蘇省蘇州市の出身だ。いまな
  ら大陸中国出身だが、当時は中華民国だから、大陸中国人の
  受賞ではない。
   というわけで理科系の学者で中国人として初のそして唯一
  のノーベル賞は、2015年に大村智と同時に医学・生理学
  賞の屠ゆうゆうだ。抗マラリア薬の開発が評価された。しか
  しなぜか彼女は中国では冷遇されている。
   しかし最近になって中国人ノーベル賞受賞者が一人増えて
  2人になった。先ほどの楊振寧が外国籍を放棄し中国籍にな
  り、中国科学院士になったのだ。
   ノーベル賞受賞者の国籍など本来はどうでもいいことだ。
  科学の発展に寄与すれば誰であっても構わない。どの国での
  受賞者が何人いるなどはノーベル賞の本来の趣旨からはそぐ
  わない議論だ。それでもある国から出ればその国の人は嬉し
  いし喜びだし誇りでもある。
   楊と李の受賞には、もう一人の中国系科学者の功績も大き
  い。パリティ対称性の破れを実験で確かめたのは呉健雄とい
  う女性科学者で上海出身だ。本来なら彼女も同時にもらって
  おかしくないところだ。     https://bit.ly/2Wh1cAO
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「中国の夢」を語る習近平国家主席.jpg
「中国の夢」を語る習近平国家主席
posted by 平野 浩 at 01:38| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする