2019年03月05日

●「『大而不強』という中国語の意味」(EJ第4960号)

 日本政府が尖閣諸島を民間から買い上げ、国有化することを決
めたのは、2012年9月10日の閣議決定においてです。交代
直前の胡錦濤政権下のことです。これによって、中国各地では、
日中国交正常化以降最大の規模にまで、反日デモが膨れ上がった
のです。当然日本製品不買運動も起きています。
 しかし、ネットの一部には、構成する部品のほとんどが日本製
品であるスマホまで捨てるのかという意見が拡散したのです。こ
れについて、現代中国分析の第1人者である遠藤誉氏は、自著で
次のように述べています。
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 「まさか携帯電話まで、ボイコットするんじゃないよね?」と
いうコメントがネットに貼り付けられているのを発見した。それ
は北京にある某科学研究院の研究員が書いたもので、彼は、彼の
アイフォーン4Sの図をコメントに添えていた。そして「液晶画
面、フラッシュメモリー、ブルートゥースからカメラ・モジュー
ルに至るまで、裏には東芝、シャープ、ソニー、TDK、セイコ
ーエプソンなどのロゴがある。それでも、このアイフォンは日本
製品と言えないのだろうか?」という疑問を投げかけている。
 中国の視点から見てみると、たしかにほとんどのアイフォンは
中国大陸か台湾などで組み立てられている。そして驚くべきこと
に、1台のアイフォンの利潤に関しては、理念設計側のアップル
が80ドルほどを儲け、キー・パーツを製造する日本企業は20
ドルほどを稼ぎ、そして組立作業しかやっていない中国は、ほん
の数ドルしか稼ぐことができないのである。
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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 日本では、中国の反日デモは、中国政府がウラでコントロール
しているといわれていますが、「それは事実と異なる」と遠藤氏
はいいます。習近平体制になってからは、反日デモが起きないよ
う厳しく取り締まっているからです。しかし、それは日本のため
ではなく、反日デモが起きると、やがて、その批判の矛先は中国
政府に向けられる恐れがあるからです。
 確かに製品の表面には「メイド・イン・チャイナ」となってい
るものの、それらの製品、とくにハイテク製品の部品のほとんど
が、「メイド・イン・ジャパン」であることが多いからです。若
者が必ず持っているスマホはその典型です。
 そのため、習政権では、中国人民、とくに若者への監視体制を
強化させ、反日デモが起きないようネット言論を厳しく抑え込ん
だのです。中国が何よりも一番恐れているのは、米国でもロシア
でもなく、まして日本でもなく、自国の人民なのです。
 しかし、取り締まりには限界があり、中国自身の技術力自体を
向上させるため、2013年に入ると、習近平主席は中国工程院
に命じて「製造強国戦略研究」に着手させ、その成果物として、
2015年に「中国製造2025」が発表されています。
 中国工程院とは何か。中国工程院とは、中国政府(国務院)直
属のアカデミーの1つであり、技術分野の最高研究機関です。中
国政府には次の3つの院があります。
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      1.  中国科学院/1949年設立
      2.中国社会科学院/1977年設立
      3.  中国工程院/1994年設立
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 遠藤誉氏は、90年代半ばから2000年初頭まで、中国社会
科学院社会研究所の客員教授・客員研究員を務めています。この
社会科学院の社会研究所は、「中国政府のシンクタンク」と称さ
れている組織です。
 遠藤誉氏のテレビでの話や著作における言説には、習近平国家
主席をやや強く礼賛するところがあるような気がしますが、他の
中国ウオッチャーでは語られることのない新鮮な情報がもたらさ
れることがしばしばあるので、私は遠藤氏の著作や話を注目して
読んだり、聞いたりしています。
 2012年10月1日、国慶節ゴールデンウィークの中国のカ
ラーテレビ市場では、日本製品が駆逐され、中国製と韓国製だけ
になっており、それに大衆は歓呼の声を上げているとの報道に対
して、中国社会科学院全国日本経済学会理事の白益民氏が、ウェ
イボー(微博)で、次の投稿をして、報道に対して「冷や水」を
浴びせています。
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 日本の製造業経済は強大だ。ソニーや松下(原文ママ)、ある
いはシャープが必ずしも日本製造業のレベルを真に代表するとは
限らない。ニコン、川崎(原文ママ)、石川島播磨、京セラなど
の電子装備製造業こそが、実は日本製造業の象徴なのだ。
               ────遠藤誉著の前掲書より
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 中国には「大而不強」という言葉があります。「大きいが強く
ない」という意味です。1979年にケ小平は、ベトナムが中国
の友好国のカンボジアを攻撃したことを理由にして、ベトナムに
攻撃を仕掛けます。
 ケ小平は勝てると踏んで戦争を仕掛けたのです。軍の規模が圧
倒的に大きかったからです。しかし、当時ベトナム戦争で疲弊し
ていたはずのベトナムは滅法強く、勝てなかったのです。まさに
「大而不強」──「大きいが強くない」です。ケ小平は、「無駄
な兵がだぶついているだけ」として、中国人民解放軍の100万
人削減を断行しています。
 遠藤誉氏は、ちょうど日本が尖閣諸島の国有化をしたことを境
に、中国の製造業増強の考え方が大きく変化したといっているの
です。それは、ちょうど習近平体制が始まった時期と一致するの
です。        ──[米中ロ覇権争いの行方/041]

≪画像および関連情報≫
 ●2012年の中国で日本製品不買運動/尖閣国有宣言
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   中国と日本との尖閣諸島(中国名・釣魚島)領有権を巡る
  対立が激化している中、中国内での反日空気が、強まってい
  る。所々で反日デモが行われ、在中日本人たちが中国人らか
  ら攻撃を受けた。日本製品の販売が大幅に落ち込み、中国人
  の日本への旅行計画のキャンセルが殺到している。
   13日午後5時半ごろ、北京・朝陽区の日本大使館前では
  「釣魚島は中国の領土だ」と主張する中国人らにより突然、
  デモが行われた。帰宅途中の市民たちが加わり、デモ隊は一
  時、2000人にまで増えた。現在、中国のインターネット
  には今週末と休日の15日と16日、満州事変発生日の18
  日に、反日デモを繰り広げるべきだという書き込みが相次い
  で掲載されている。中国は、1931年9月18日、日本が
  満州に攻撃を加えた日を、国恥日と定めている。
   上海在住の日本総領事館は、日本政府による尖閣諸島国有
  化措置(11日)以降、日本人の被害事例が計6件寄せられ
  ていると明らかにした。中国政府が経済的報復可能性に触れ
  ている中、民間レベルでの日本製品の不買運動に、火が付い
  ている。13日、中国上海江楊北路にある日系自動車「ホン
  ダ」代理店前では、一人の中国人が自分のホンダ自動車を燃
  やした。彼は反日スローガンの書かれたプランカードを手に
  し、掛け声を叫んでいたが、公安によって制止された。その
  関連写真は中国のインターネット上で急速に広まっている。
                  https://bit.ly/2TbokU3
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遠藤誉氏.jpg
遠藤誉氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする