2019年03月01日

●「当局と企業が一体化している中国」(EJ第4958号)

 「米中ひとまず休戦へ」―─26日の新聞の見出しです。貿易
不均衡に関しては、中国は、今後6年で大豆やLNGなど、1兆
ドル規模の輸入拡大を約束してきており、知財問題などでは進展
がなくても、休戦に意義あると米国は考えています。
 中国側としては、3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人
代)の直前に追加関税を10%から25%に引き上げられる最悪
の事態だけは避けたいと考えているので、休戦合意が成立したの
ではないかと思います。
 しかし、構造問題に関してはほとんど前進していないのです。
そのため、これについては「長期戦」に持ち込み、トランプ後を
見据える作戦です。とくにファーウェイやZTEなどのハイテク
産業の補助金や国有企業優遇策の撤廃には、中国は国家資本主義
の根幹ともいえる産業政策の撤廃には、まったく応じていないし
今後も応じるつもりはないようです。もともと、ファーウェイの
孟晩舟副会長の逮捕に関しては、北朝鮮とイランへの制裁逃れを
画策した容疑なのです。これについてのケビン・メア氏と冨坂聡
氏とのやりとりです。
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メア:ファーウエイ副会長の拘束は、米中対決とは違う文脈のも
 のではないですか。そもそも、国際法違反という別の理由があ
 るでしょう。彼らは、イランの制裁逃れのために組織的に密輸
 していたのだから、
冨坂:勿論その通りです。昨年4月にアメリカが中国の通信会社
 ZTEに取引禁止の制裁を課したのも北朝鮮とイランへの制裁
 逃れという同じ理由でした。彼らがなぜ制裁違反をするのか。
 私はこれも「田舎者の論理」で説明できると思うんです。「バ
 レなきゃいいでしょ」と考えてずっとやってきたら、「ゲッ、
 バレたか!」というような・・・。中国はこの辺の感覚が国際
 社会とズレているのです。
        ──メア氏/冨坂聡氏『文藝春秋』3月特別号
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 冨坂聡氏は、中国筋から情報を得ているジャーナリストですの
で、若干中国を庇うというか、優しいところがあります。田舎者
だから、国際ルールを守らないという論理です。しかし、田舎者
も都会に慣れてくれば、そのうち守るようになるという含みをも
たせています。
 2013年の中国海軍のフリゲート艦による自衛隊護衛艦に対
する火器管制レーダー照射事件や、その翌年の中国戦闘機の自衛
隊機への異常接近事件も、すべて「田舎者だから」の論理で説明
してしまっています。しかし、これらは、田舎者だからでは済ま
ない話です。
 宮家邦彦氏は、中国の南シナ海における人工島建設を巡る一連
の軍事活動は、満州事変を引き起こしたかつての日本陸軍の過ち
に酷似しているとして、次のように述べています。
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 中国の南シナ海での軍事行動を見ていると、1930年代の日
本の陸軍が犯した過ちを繰り返しているように思えるんです。例
えば、中国は南シナ海に油田開発のために人工島を建設しました
が、あれは言ってみれば、現代の満州事変″でしょう。
 そして南シナ海の資源について、国際仲裁裁判所が中国の主張
する管轄権を否定する裁定を出しましたが、あれは正に現代の
リットン報告書≠ナす。その意味で中国は、すでにレッドライン
は超えている。もしかするとかつての日本と同じように大破局の
道を歩むかもしれません。
           ──宮家邦彦氏『文藝春秋』3月特別号
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 満州事変とは、1931年9月18日、奉天郊外の柳条湖で、
南満州鉄道が爆破されことを受け、日本の関東軍は、それを中国
国民軍に属する張学良軍の犯行であると断定し、鉄道防衛の目的
と称して反撃し、軍事行動を拡大したのです。この柳条湖事件か
ら開始された、宣戦布告なしの日中両軍の軍事衝突が満州事変と
いわれるのです。
 リットン報告書というのは、リットンを委員長とする調査団が
満州事変に関して現地調査してまとめられた報告書のことです。
リットン報告書では、満洲国に対する日本の主張は認められず、
否認され、それをもって日本は、国際連盟を脱退し、戦争への傾
斜を深めていくのです。
 宮家邦彦、呉軍華、ケビン・メア、冨坂聡4氏による米中超大
国の覇権争いの分析の最後のところで、メア氏と宮家氏が次のや
り取りをしています。
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メア:ファーウェイやZTEが製造する通信機器には、「バック
 ドア(裏口)」が仕掛けられており、中国当局が世界中から機
 密情報を吸い上げているというのは、公然の秘密でした。
宮家:バックドアに関しては、2009年にアメリカ国家安全保
 障局(NSA)が「米政府はファーウェイ及びZTEの機材を
 使うな」と警告を出しています。近年になって表面化しただけ
 で、この話は情報のプロの世界では知られていました。
         ──メア氏/宮家氏『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 ここにきてファーウェイは、米国に対して開き直っています。
「バックドアというなら証拠を示せ」と。ファーウェイの副会長
の郭平副会長は、26日、スペインで開かれている世界最大の携
帯関連見本市「MWC19バルセロナ」において講演で、スノー
デン事件に関連して「米国の法律は、政府機関が国境を越えて、
データにアクセスすることを認めている」と批判しています。
 しかし、米国の場合、政府機関が捜査で入手した情報を民間企
業と共有することなどあり得ないのです。しかし、中国は情報当
局と企業は一体化しており、捜査で抜いた情報を共有しているの
です。        ──[米中ロ覇権争いの行方/039]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ問題の核心/丸山知雄氏
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  <ファーウェイが情報を盗んでいるという決定的な証拠は今
  のところない。世界有数の技術力を持ち、経済性にも優れた
  ファーウェイ製品が使えないのであれば、5Gへの投資をし
  ばらく猶予するというのも一つの選択肢ではないだろうか>
   ファーウェイ(華為技術)はいま中国でもっとも高い技術
  力を持つ企業である。スマホや、スマホでの通信を支える基
  地局、通信ネットワークの機器を作って、世界じゅうに売っ
  ている。
   ファーウェイは10数年前までは日本のNECや富士通の
  後を追いかける存在だったが、今では移動通信の基地局では
  スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアと並ぶ世
  界三強の一角を占め、直近では世界1位である。スマホでも
  最近アップルを抜いて韓国のサムスンに次いで世界2位であ
  る。こうした競争力は重厚な研究開発力に支えられている。
  従業員18万人のうち8万人が研究開発に従事し、2017
  年には売り上げの15%に相当する1兆5000億円以上を
  研究開発に投入した。
   アメリカは早い段階からファーウェイに対して疑いの目を
  向けてきた。民間企業だと言っているが、本当は政府や軍の
  息がかかっているのではないか、製品のなかに「裏口」が仕
  掛けられていて、中国がそこから、情報を抜き取れるように
  なっているのではないか、といった議論が議会で盛んに行わ
  れていた。           https://bit.ly/2C55F1R
  ───────────────────────────

冨坂聡氏.png
冨坂聡氏
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2019年03月04日

●「米国を追い上げる中国の先端技術」(EJ第4959号)

 今週から世界中で話題になっている「ファーウェイ」の問題を
取り上げます。ファーウェイはどのような企業なのでしょうか。
本当に通信機器に仕掛けを施し、情報を盗み取るような企業なの
でしょうか。
 2018年9月のことです。中国通信機器の最大手、華為技術
(ファーウェイ)の創業者の娘、孟晩舟副会長は、故郷である四
川省成都での講演会で、誇らしげに次のように述べています。
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 「十年一剣」を磨く。我々は既に5Gでの技術優位である世
 界標準を獲得している。  ──孟晩舟ファーウェイ副会長
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 けっして過大な表現ではないのです。次世代通信技術「5G」
関連の特許に占める割合でファーウェイは、断然トップであり、
実用化でも先行しています。
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       ◎5G関連特許に占める割合の順位
      1位:ファーウェイ ・・・ 29%
      2位: エリクソン ・・・ 22%
      3位:サムスン電子 ・・・ 20%
          ──2019年2月4日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、この講演会から3ヶ月後、孟晩舟氏は、米国からの要
請により、カナダ当局に逮捕されています。「米企業から秘密情
報を盗んだ疑い」などが逮捕容疑です。
 中国は、AI(人工知能)の分野でも、国と企業が一体となっ
て技術力を向上させ、世界レベルの技術を持ちつつあります。中
国には、AIの分野では、米国の「GAFA」に対応する「BA
TIS」という国家プロジェクト「AI発展計画」があり、次の
5つの企業がプラットフォーマーになっています。
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    B ・・ バイドウ        自動運転
    A ・・ アリババ     スマートシティ
    T ・・ テンセント      ヘルスケア
    I ・・ アイフライテック    音声認識
    S ・・ センスタイム       顔認識
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 習近平政権は、これら民営企業5社に対して、補助金や許認可
などの面で手厚い保護を与えています。つまり、国家ぐるみの巨
大プロジェクトなのです。
 米国の「GAFA」4社は、公正なルールに基づいて激しい市
場競争を勝ち抜いて現在の地位にいるのに対し、中国の「BAT
IS」は、国家が指名し、国家が資金を与え、場合によっては、
国家(軍)が、サイバー攻撃などによって入手した情報まで民営
企業に与え、国際的技術競争に勝ち抜こうとします。それはまさ
に「電子戦」そのものです。
 このように書くと、同じようなことを米国もやっているという
かもしれませんが、中国の場合は政治状況が異なるので、そこに
「自由な競争のルール」など、かけらもないのです。それは、ま
さに「戦争」であって、勝つためには手段を選ばないのです。こ
れについて、日本経済新聞は、次のように書いています。
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 米国の手も真っ白とは言いがたい。NSA元職員のエドワード
・スノーデン氏は、14年、NSAが中国の通信機器最大手、華
為技術(ファーウェイ)のシステムに侵入して機密情報を得たと
暴露した。米国法は外国人のデジタル通信を令状なしで監視する
ことを認めており、「中国のハイテク企業幹部はくまなくデータ
を調べられる」(米中外交筋)という。
 それでも西側軍事筋は「米国政府は、入手した情報を民間企業
に提供することはない」と強調。習近平(シー・ジンピン)国家
主席が掲げる「軍民融合」の掛け声の下、盗んだ先端技術を国有
企業に横流しする中国の活動は一線を越えていると主張する。
          ──2019年2月5日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 このように、科学技術の分野での中国の躍進を支えているのは
豊富な資金力です。次の数字の意味はわかるでしょうか。
─────────────────────────────
         51兆円 VS 45兆円
─────────────────────────────
 これは、米国と中国の研究開発投資の額です。米国の51兆円
に対し、中国の41兆円、あと10兆円まで迫っています。20
16年の中国の研究開発投資は、官民合わせて約45兆円、これ
は、2000年の約10倍、2009年に日本、2015年に欧
州連合(EU)を抜き去り、米国の51兆円に肉薄しようとして
いるのです。
 全米科学財団(NSF)の調査によると、研究論文の数におい
ては、2016年時点で既に中国は、次のように米国を上回って
いるので、このままでは、中国の研究開発投資は、米国を抜いて
世界一になる可能性があります。
─────────────────────────────
    ◎研究論文の数の比較
    米国:40万9千本 VS 中国:42万6千本
─────────────────────────────
 確かに、数の面では中国の勢いは圧倒的ですが、質になると、
いろいろな問題があります。党主導の計画に合わせたノルマもあ
り、中国系米国人のシュエイン・ハン氏は、次のように分析して
います。
─────────────────────────────
    トップダウンの研究環境がひずみを生んでいる
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/040]

≪画像および関連情報≫
 ●貿易で折れても、覇権争いでは決して折れない米国
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   米国と中国の貿易摩擦、そして、覇権争いがエスカレート
  している。その影響もあって、中国の経済指標の悪化が目立
  つ。中国の2018年自動車販売台数は28年ぶりの対前年
  比マイナスに沈んだ。1月21日に発表された2018年の
  実質GDP成長率は6・6%増と、こちらも28年ぶりの低
  い水準となった。日本に目を向けても、中国向け工作機械受
  注等が減速。1月中旬には、日本電産が中国の需要低下を背
  景に2019年3月期の業績予想を下方修正し、一転減益見
  通しとした。マーケットは、日本企業への影響を懸念してい
  る。海外投資家からは日本株は景気の影響を受けやすいと見
  られていることもあり、売りを浴びやすい地合にある。
   米国は、中国との貿易に関する協議で合意できない場合、
  2000億ドル分の制裁関税を10%から25%に引き上げ
  るとしている。これまで、制裁関税の応酬を繰り広げてきた
  が、実体経済に影響が見られ始め、金融市場にも、懸念が広
  がっていることもあり、米中の景気共倒れリスクを回避する
  方向で双方歩み寄る可能性もあろう。
   しかしながら、知的財産等、ハイテク覇権に関する事項に
  関しては、そう簡単に折り合うことは無さそうだ。米国のペ
  ンス副大統領が2018年10月にハドソン研究所における
  演説で、中国を痛烈に批判したことは記憶に新しい。中国に
  覇権は渡さない、対立も辞さないという強いスタンスは、ト
  ランプ大統領の「ご乱心」では決してない。
                  https://bit.ly/2HaFwBN
  ───────────────────────────

四川省成都での孟晩舟講演会.jpg
四川省成都での孟晩舟講演会
 
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2019年03月05日

●「『大而不強』という中国語の意味」(EJ第4960号)

 日本政府が尖閣諸島を民間から買い上げ、国有化することを決
めたのは、2012年9月10日の閣議決定においてです。交代
直前の胡錦濤政権下のことです。これによって、中国各地では、
日中国交正常化以降最大の規模にまで、反日デモが膨れ上がった
のです。当然日本製品不買運動も起きています。
 しかし、ネットの一部には、構成する部品のほとんどが日本製
品であるスマホまで捨てるのかという意見が拡散したのです。こ
れについて、現代中国分析の第1人者である遠藤誉氏は、自著で
次のように述べています。
─────────────────────────────
 「まさか携帯電話まで、ボイコットするんじゃないよね?」と
いうコメントがネットに貼り付けられているのを発見した。それ
は北京にある某科学研究院の研究員が書いたもので、彼は、彼の
アイフォーン4Sの図をコメントに添えていた。そして「液晶画
面、フラッシュメモリー、ブルートゥースからカメラ・モジュー
ルに至るまで、裏には東芝、シャープ、ソニー、TDK、セイコ
ーエプソンなどのロゴがある。それでも、このアイフォンは日本
製品と言えないのだろうか?」という疑問を投げかけている。
 中国の視点から見てみると、たしかにほとんどのアイフォンは
中国大陸か台湾などで組み立てられている。そして驚くべきこと
に、1台のアイフォンの利潤に関しては、理念設計側のアップル
が80ドルほどを儲け、キー・パーツを製造する日本企業は20
ドルほどを稼ぎ、そして組立作業しかやっていない中国は、ほん
の数ドルしか稼ぐことができないのである。
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 日本では、中国の反日デモは、中国政府がウラでコントロール
しているといわれていますが、「それは事実と異なる」と遠藤氏
はいいます。習近平体制になってからは、反日デモが起きないよ
う厳しく取り締まっているからです。しかし、それは日本のため
ではなく、反日デモが起きると、やがて、その批判の矛先は中国
政府に向けられる恐れがあるからです。
 確かに製品の表面には「メイド・イン・チャイナ」となってい
るものの、それらの製品、とくにハイテク製品の部品のほとんど
が、「メイド・イン・ジャパン」であることが多いからです。若
者が必ず持っているスマホはその典型です。
 そのため、習政権では、中国人民、とくに若者への監視体制を
強化させ、反日デモが起きないようネット言論を厳しく抑え込ん
だのです。中国が何よりも一番恐れているのは、米国でもロシア
でもなく、まして日本でもなく、自国の人民なのです。
 しかし、取り締まりには限界があり、中国自身の技術力自体を
向上させるため、2013年に入ると、習近平主席は中国工程院
に命じて「製造強国戦略研究」に着手させ、その成果物として、
2015年に「中国製造2025」が発表されています。
 中国工程院とは何か。中国工程院とは、中国政府(国務院)直
属のアカデミーの1つであり、技術分野の最高研究機関です。中
国政府には次の3つの院があります。
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      1.  中国科学院/1949年設立
      2.中国社会科学院/1977年設立
      3.  中国工程院/1994年設立
─────────────────────────────
 遠藤誉氏は、90年代半ばから2000年初頭まで、中国社会
科学院社会研究所の客員教授・客員研究員を務めています。この
社会科学院の社会研究所は、「中国政府のシンクタンク」と称さ
れている組織です。
 遠藤誉氏のテレビでの話や著作における言説には、習近平国家
主席をやや強く礼賛するところがあるような気がしますが、他の
中国ウオッチャーでは語られることのない新鮮な情報がもたらさ
れることがしばしばあるので、私は遠藤氏の著作や話を注目して
読んだり、聞いたりしています。
 2012年10月1日、国慶節ゴールデンウィークの中国のカ
ラーテレビ市場では、日本製品が駆逐され、中国製と韓国製だけ
になっており、それに大衆は歓呼の声を上げているとの報道に対
して、中国社会科学院全国日本経済学会理事の白益民氏が、ウェ
イボー(微博)で、次の投稿をして、報道に対して「冷や水」を
浴びせています。
─────────────────────────────
 日本の製造業経済は強大だ。ソニーや松下(原文ママ)、ある
いはシャープが必ずしも日本製造業のレベルを真に代表するとは
限らない。ニコン、川崎(原文ママ)、石川島播磨、京セラなど
の電子装備製造業こそが、実は日本製造業の象徴なのだ。
               ────遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国には「大而不強」という言葉があります。「大きいが強く
ない」という意味です。1979年にケ小平は、ベトナムが中国
の友好国のカンボジアを攻撃したことを理由にして、ベトナムに
攻撃を仕掛けます。
 ケ小平は勝てると踏んで戦争を仕掛けたのです。軍の規模が圧
倒的に大きかったからです。しかし、当時ベトナム戦争で疲弊し
ていたはずのベトナムは滅法強く、勝てなかったのです。まさに
「大而不強」──「大きいが強くない」です。ケ小平は、「無駄
な兵がだぶついているだけ」として、中国人民解放軍の100万
人削減を断行しています。
 遠藤誉氏は、ちょうど日本が尖閣諸島の国有化をしたことを境
に、中国の製造業増強の考え方が大きく変化したといっているの
です。それは、ちょうど習近平体制が始まった時期と一致するの
です。        ──[米中ロ覇権争いの行方/041]

≪画像および関連情報≫
 ●2012年の中国で日本製品不買運動/尖閣国有宣言
  ───────────────────────────
   中国と日本との尖閣諸島(中国名・釣魚島)領有権を巡る
  対立が激化している中、中国内での反日空気が、強まってい
  る。所々で反日デモが行われ、在中日本人たちが中国人らか
  ら攻撃を受けた。日本製品の販売が大幅に落ち込み、中国人
  の日本への旅行計画のキャンセルが殺到している。
   13日午後5時半ごろ、北京・朝陽区の日本大使館前では
  「釣魚島は中国の領土だ」と主張する中国人らにより突然、
  デモが行われた。帰宅途中の市民たちが加わり、デモ隊は一
  時、2000人にまで増えた。現在、中国のインターネット
  には今週末と休日の15日と16日、満州事変発生日の18
  日に、反日デモを繰り広げるべきだという書き込みが相次い
  で掲載されている。中国は、1931年9月18日、日本が
  満州に攻撃を加えた日を、国恥日と定めている。
   上海在住の日本総領事館は、日本政府による尖閣諸島国有
  化措置(11日)以降、日本人の被害事例が計6件寄せられ
  ていると明らかにした。中国政府が経済的報復可能性に触れ
  ている中、民間レベルでの日本製品の不買運動に、火が付い
  ている。13日、中国上海江楊北路にある日系自動車「ホン
  ダ」代理店前では、一人の中国人が自分のホンダ自動車を燃
  やした。彼は反日スローガンの書かれたプランカードを手に
  し、掛け声を叫んでいたが、公安によって制止された。その
  関連写真は中国のインターネット上で急速に広まっている。
                  https://bit.ly/2TbokU3
  ───────────────────────────

遠藤誉氏.jpg
遠藤誉氏
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2019年03月06日

●「なぜ中国ハイテク技術は伸びたか」(EJ第4961号)

 「大而不強」についてもう少し考えます。朱高峰という人がい
ます。中国工程院の設立に尽力し、2002年まで、工程院の副
院長を務めていた人物です。彼は、当時の中国製造(メイド・イ
ン・チャイナ)をどう表現するかと記者に聞かれ、次のように答
えています。
─────────────────────────────
 生産量は非常に大きいが、しかし価値はそれほど高くない。メ
イド・イン・チャイナは、全世界を覆っている。多くの国がメイ
ド・イン・チャイナなしに生活することができないほどだ。しか
しその中国製は、未だ中低級の製品であることを認めなければな
らない。つまりひとことで言えば「大而不強」(大きいが強くな
い)という4文字で表現するのが、最も適切だ。 ──朱高峰氏
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 習政権が成立した年である2012年の中国の製造業の状況は
どうであったかについて、遠藤氏の本からまとめると、次のよう
になります。
─────────────────────────────
      ◎2012年/製造業の対前年増加幅
       米国:1兆8533億ドル
       中国:2兆3307億ドル
                世界銀行の統計
─────────────────────────────
 上記の数字で分かるように、中国は、額としては米国を大きく
上回っています。それは、全世界の製造業の20%の生産量を占
めています。
 しかし、中国製造業の付加価値を調べてみると、そこには大き
な問題点を指摘できます。これについて遠藤誉氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 工業先進国の製造業付加価値は、平均35%強であるのに対し
て、中国製造業の付加価値は21・5%に過ぎない。製造業の増
加幅が中国のGDPの32・6%しか占めていないのに対して、
その製品を製造するためのエネルギー消費量は全国のエネルギー
消費量の58・0%を占めている。つまり、生産性は32・6%
しかGDPに頁献していないのに、その製品を製造するためのエ
ネルギーは、国家全体の58・0%を奪っているので、建設的で
なく、損をしているということだ。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 要するに中国は、表面からは見えないキー・パーツの部分に弱
く、それらを外国から輸入し、組み立てているに過ぎない中国製
品が数多くあるのです。中国は、人体大の原子爆弾を作ることは
できても、心臓大のエンジンを製造することができないでいる状
態にあるのです。とくにエンジンを作ることができないでいるこ
とは有名です。そのおかげで日本電産は大儲けしています。
 中国の製造業における問題点としては、次の3つを上げること
ができます。
─────────────────────────────
   1.イノベーション能力と核心のコア技術に弱い
   2.基盤技術(汎用性高い多目的技術)に欠ける
   3.製造に当って資源の浪費と環境汚染がひどい
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 2012年の中国の技術のレベルでは、米国のそれに追いつき
追い越すためにはあと「30年」はかかる状態だったのです。中
国は、2025年を起点として、第2段階を2035年、第3段
階を2045年として計画していたのです。
 問題は、少なくとも習近平政権ができるまでは、その程度の技
術レベルであった中国が、AIをはじめ、あらゆる技術のキー・
パーツになる半導体の分野において、信じられない速度で、米国
に追いついてきたことにあります。具体的にいうと、中国は、半
導体産業に関して、世界ベスト10に入る企業があらわれるほど
急激に成長してきているのです。
 それが果して事実であるかどうか。もし事実であったとすると
なぜそんなことができたのか。これらについては、これから書い
ていくことになりますが、それが事実であるからこそ、トランプ
政権は、中国に貿易戦争を仕掛けたのです。しかし、その真の狙
いは貿易問題ではなく、「中国製造2025」にあります。
 このトランプ大統領と習近平主席のバトルについて、遠藤誉氏
は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 トランプは、この10年の問に中国が成し遂げるであろう成果
にストップをかけ、中国にアメリカを凌駕させる足がかりを絶対
に与えてはならないと、米中貿易戦争という手段を通して挑戦し
ている。それを見抜いたトランプの目は鋭い。
 習近平は、この10年間で何としても中国のハイテク分野にお
けるコア技術の自国による自給自足を満たし、宇宙開発において
アメリカに追いつき追い越そうとしている。国家主席の任期制限
を撤廃してまで、自分の手で成し遂げようと死闘しているのであ
る。そうしなければ、彼が政権スローガンに掲げた「中華民族の
偉大なる復興」を成し遂げる「中国の夢」は実現せず、中国共産
党による一党支配体制は崩壊するという危機感を抱いているから
だ。「アメリカこそが偉大だ」とするトランプと「中華民族の偉
大なる復興」を叫ぶ習近平と、ここは「偉大さ比べ」になった格
好だが、どちらに軍配が上がるのか。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/042]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平の「自力更生」は「中国製造2025」の達成
  ───────────────────────────
   習近平が最近よく言う「自力再生」は、決して文革時の毛
  沢東返りではなく、「中国製造2025」によりコア技術の
  自給自足達成を指している。「中国製造2025」を見なけ
  れば、中国も米中関係も日中関係も見えない。
   その証拠に、2018年5月8日の中国政府の通信社「新
  華社」電子版「新華網」の報道を見てみよう。「中国製造2
  025:困難に遭い、自ら強くなる」というタイトルで「中
  国製造2025」と「自力再生」の関係が書いてある。文字
  だけでなく、写真に大きく「中国製造2025」とあるので
  一目瞭然だろう。なお、中国語では「製造」は「制造」と書
  く。小見出しには「2018年は絶対に普通ではない年にな
  る!」とあり、冒頭に、おおむね以下のような趣旨のことが
  書いてある。──いまわれわれは、国家戦略「中国製造20
  25」を推進しており、改革開放40周年を迎えようとして
  いる。ある国が、わが国に高関税をかけてわが国のハイテク
  製品輸出に徹底的な打撃を与えようとしている。どこまでも
  つきまとう執拗な封鎖を通して、われわれは「困難から抜け
  出すには、ただ一つ自力再生以外にない」ということを知ら
  なければならない!ここにある「ある国」とは、言うまでな
  く、「アメリカ」のことである。
                  https://bit.ly/2IMrpVL
  ───────────────────────────

習近平国家主席VSトランプ大統領.jpg
習近平国家主席VSトランプ大統領
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2019年03月07日

●「半導体市場における中国勢の躍進」(EJ第4962号)

 中国が「中国製造2025」という国家戦略を発布したのは、
2015年5月のことです。少なくともこの時点までは、中国の
製造技術は大したことがなかったのです。ところが2015年以
降、中国の製造技術に大きな変化が起きているのです。
 次の表をごらんください。
 この表は、「ファブレス半導体」の2017年度の売上高トッ
プ10ですが、そこに中国企業が2社入っているのです。これは
本当に驚異的なことです。「ファブレス」とは、「工場を持たな
い」という意味です。製造工場を持たないで製品の企画・設計を
行い、製品はOEM供給を受ける形で調達し、自社ブランドの製
品として販売する企業です。
─────────────────────────────
 ◎2017年のファブレス半導体トップ10売上ランキング
            企業名     本社 2017年
      1   クアルコム   アメリカ 17078
      2  ブロードコム シンガポール 16065
      3  エヌピディア   アメリカ  9228
      4 メディアテック     台湾  7875
      5    アップル   アメリカ  6660
      6     AMD   アメリカ  5249
   ★  7  ハイシリコン     中国  4715
      8  ザイリンクス   アメリカ  2475
      9    マーベル   アメリカ  2390
   ★ 10    紫光集団     中国  2050
                   単位:100万ドル
        2018年1月4日/米ICインサイト発表
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 第7位の「ハイシリコン」は、独立企業ではあるものの、現在
話題のファーウェイ(華為技術)にのみ半導体を収めているメー
カーです。ほぼファーウェイへの提供分だけで、売上高において
第7位を占めているのですから凄い実績です。
 第10位の「紫光集団」は、チンホワ・ユニグループといい、
1988年に精華大学の「校営企業/精華大学科技開発総公司」
として誕生しています。校営企業は教育機関に付設されている企
業のことです。校営企業については、遠藤誉氏の本に次の説明が
あります。
─────────────────────────────
 中国には、実は毛沢東時代から「校営企業」というのがあって
学校(専門学校や大学)に企業が付設されていた。というのは、
毛沢東時代は、まさに社会主義をそのまま地でいっていたので、
教育機関はすべて国営(地方は公営)で無料。学費が無料なだけ
でなく、学校のキャンパスには、必ず無料の宿舎があり、食堂も
完備していて、学生は国家の丸抱えで学園生活を送っていた。そ
の代わりに卒業したら、必ず国家が分配する国営企業に行って働
かなければならない。
 そのため、準備期間として、学生たちはその教育機関に関係す
る国営企業で実習を行っていた。その小型版を教育機関に付設し
これを「校営企業」、中国文字では「校弁企業」と称していた。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 精華大学はかつては「精華学堂」と呼ばれていたのです。少し
歴史を振り返る必要があります。清朝の末期のことですが、19
00年に「義和団の乱」という排斥運動が起きたのです。これを
利用して、清王朝の女帝の西太后は、中国を侵略していた帝国主
義列強に対して宣戦布告して戦争になったのです。
 しかし、当時の中国が欧米列強に勝てるわけがなく、2ヶ月も
しないうちに壊滅的敗北を喫し、莫大な賠償の支払いを余儀なく
されたのです。そのとき、米国のジョン・ヘイ国務長官は西太后
に同情し、条件付きで賠償を減額する案を提案します。その案と
は、優秀な中国人学生の米国への留学生派遣(1940年まで)
および、そのための教育施設の設置を行うというものです。これ
により、1911年に設立されたのが「精華学堂」です。精華学
堂は、中国の優秀な学生を米国に留学させるためのいわば予備校
としての位置づけです。
 精華大学といえば、1998年3月〜2003年3月までの朱
鎔基国務院総理、それ以後2期の国家主席、胡錦濤国家主席、習
近平国家主席は、いずれも精華大学出身です。これは大変珍しい
ことです。
 さて、1993年2月13日に中共中央・国務院が産学連携を
奨励すると、精華大学科技開発総公司は、「大学」の文字を外し
て「精華紫光(集団)総公司」に改称しています。その後、民間
企業の「北京健坤投資集団有限公司」と合併し、国有企業(ここ
では精華紫光(集団)総公司)との混合所有制になります。その
民間企業のトップを務めていていたのは、趙偉国氏という人物で
あり、その趙氏が、以後紫光総公司の菫事長(法人を代表する責
任者)を務めることになります。
 趙偉国CEOは、「半導体の虎」という異名を持つスゴ腕の持
ち主であり、紫光集団をファプレス半導体の第10位にランキン
グさせたのは、趙偉国CEOの力が大きいといえます。なお、趙
偉国CEOは、2013年には、当時ナスダック市場に上場して
いた「スプレッドトラム」(上海市)を買収しています。
 2011年にスプレッドトラムは、世界のファブレス半導体企
業のトップ17位に入っていたのです。このとき、ハイシリコン
は16位にランクされています。しかし、そのとき、スプレッド
トラムは、成長率(対前年比)で見ると、230%のダントツで
トップなのです。趙偉国CEOはそこを見逃さなかったのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/043]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国経済に打撃か、中国が半導体を大量生産へ―韓国紙
  ───────────────────────────
   2018年2月27日、韓国紙・亜州経済は、中国企業が
  2018年末から半導体の大量生産を始めようとしており、
  グローバル市場における韓国企業の立場に深刻な影響が生じ
  るのではないかとの懸念が深まっていると伝えた。
   記事によると、半導体にはリード・オンリー・メモリ/R
  OMとランダム・アクセス・メモリ(RAM)があり、RO
  Mは半導体市場の4分の3を占める。ROMの分野に限れば
  中国の技術はすでに韓国を上回っているという。
   半導体市場調査会社・米ICインサイトが25日に発表し
  た統計では、09年の時点ではファブレス半導体企業トップ
  50社のうち中国は1社だけだったが、16年になると11
  社にまで増え、シェアも10%を突破。一方、韓国は1社の
  みでシェアも1%にとどまっている。
   中国のファブレス半導体企業は、近年のモノのインターネ
  ット(IoT)や人工知能(AI)、自動運転車などの急成
  長を背景に業績を大きく伸ばし、韓国のサムスン電子と並ぶ
  総合半導体メーカーに成長。その影響力を拡大させている。
  記事は「中国が『自給自足』するようになって自国のシェア
  を高めれば韓国の半導体輸出にも影響が生じることになる。
  そうした中、中国の半導体企業は年内にも3ヶ所の工場を完
  成させ、大量生産をスタートさせる」と伝えた。
                  https://bit.ly/2HfRTwB
  ───────────────────────────

精華大学(中国).jpg
精華大学(中国)
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2019年03月08日

●「ファーウェイにハイシリコンあり」(EJ第4963号)

 ここで「ICとは何か」を明らかにしておく必要があります。
IC(アイシー)とは次のようなものです。
─────────────────────────────
 IC(integrated circuit)とは、トランジスタやダイオード
や抵抗、コンデンサなどの電子部品を集積し、シリコンなどでで
きている半導体チップのことをいう。集積回路とも呼称する。そ
こに使われている素子の数が、1000〜10万個程度のものを
LSI(Large Scale Integration)と称する。
─────────────────────────────
 米半導体調査会社のICインサイトによると、2017年のI
C市場におけるファブレスメーカーが占める割合は27%で、そ
の市場規模は1014億ドル、10年前の割合は18%であった
ので、10年間で9ポイント上昇したことになります。
 国別でみると、1位はアメリカ、2位は台湾、そして3位は中
国です。中国についてICインサイトは、添付ファイルのグラフ
を示し、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 3位となった中国は、近年、徐々に市場での存在感を増しつつ
ある。その結果、市場シェアも2010年の時点で5%に過ぎな
かったものの、2017年には11%へと増加しており、高い成
長を続けていることが窺える。ファブレス半導体企業トップ50
社中、中国のファブレス企業は、2009年の時点でハイシリコ
ンのみであったが、2017年には10社に増加している。
 中でも清華紫光集団(ユニグループ)は中国最大のファブレス
半導体企業であり、世界でも9位のファブレス企業として位置づ
けられるまでに成長している。また、ハイシリコンは、90%以
上の売り上げを親会社であるファーウェイに依存しており、これ
とZTE、デイタング両社の社内消費分を除外すると、ファブレ
ス市場における中国のシェアは約6%に低下するとのことで、中
国のシステムメーカーの勢いが強いことが窺える。
                  https://bit.ly/2H3gDJi
─────────────────────────────
 世界が「中国恐るべし」と最初に衝撃を受けたのは、2012
年のことです。それまでの中国のスマホは、製品自体は非常に優
れてはいるものの、チップセットに米国のクアルコムや、台湾の
メディアテックの製品を使っているなど、中身はまだ「中国」の
ものではなかったのです。
 しかし、2012年にファーウェイ傘下のハイシリコン(海思
半導体)という半導体メーカーが、突然「K3V2」というチッ
プを発表したのです。これは実に驚くべきものだったのです。
─────────────────────────────
       K3V2 ・・・ 150Mbps LTE Cat.4
             bps bit per second
─────────────────────────────
 なぜ、驚くべきかというと、当時このスピードのチップに対応
しているメーカーは世界中に1社もなかったからです。アメリカ
のクアルコムでさえ「100Mbps LTE Cat.3」 であったからです。
「150Mbps」 というのは、1秒間に150メガビットの情報を送
れる速度という意味です。
 その後、クァルコムが「スナップドラゴン/855」という新
製品を出すと、ハイシリコンも「麒麟/Kirin980」 という新
製品をぶつけて、対抗するという激しい競争が繰り広げられるよ
うになったのです。いつの間に、どのようにして、ハイシリコン
はこれほどのハイレベルに達したのでしょうか。そもそもハイシ
リコンという企業はどういう企業なのでしょうか。
 中国のネット上では、ハイシリコンに対して、次のようなメッ
セージが多く発信されています。
─────────────────────────────
   海思(ハイスー)よ、あなたこそが、中国の芯だ!
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 ここで「海思」というのはハイシリコンのことです。「海思」
の英語表現が「HiSilicon/ハイシリコン」 ということになりま
す。「海思」には、創業者の熱い思いが込められているのですが
これについては改めて述べるとして、ハイシリコンの営業の最大
の特色について、研究解析調査会社「テカナリエ」の清水洋治氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ハイシリコン社は外販をしていません。ファーウェイ社のため
のハーウェイ社によるハーフェイ社のためのチップなのです。こ
れほど高性能のチップを、中国の他のスマホメーカーに供給し始
めたら、クァルコム社もメディテック社も、あっという間に市場
を失ってしまう可能性があります。      ──清水洋治氏
                  https://bit.ly/2C9Gzi2
─────────────────────────────
 遠藤誉氏によると、ハイシリコンの総裁は女性で、1969年
生まれ、まだ50歳であり、とても若い。実に知性的で飾り気が
なく、研究にいそしんでいる印象を与える人だそうです。その名
前は次の通りです。
─────────────────────────────
        何庭波氏/ハイシリコン総裁
─────────────────────────────
 もともとファーウェイの社員であり、1996年に入社し、半
導体チップデザイン業務の総工程師を務めていたのです。そして
2004年10月に「海思半導体有限公司」を設立したのですが
あくまでファーウェイの研究開発部門としての位置付けを守って
おり、他のいかなるメーカーにも半導体を売らないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/044]

≪画像および関連情報≫
 ●わずか6年で世界トップに/中国半導体メーカーの実力
  ───────────────────────────
   「中国とどう向き合うか。真剣に考えるべき」。技術者塾
  「半導体チップ分析から見通す未来展望シリーズ」で講師を
  務めるテカナリエの清水洋治氏は、その重要性を指摘する。
  中国の強みといえば、かつては「コスト」や「人口・市場」
  と言われていたが、最近では技術やサービスの競争力が急速
  に高まっている。特にハイテク分野でその傾向が顕著だ。
   例えばフィンテック。スマートフォン(スマホ)を活用し
  た決済サービスの進化は、日本をはるかにしのぐ。また、電
  気自動車(EV)の普及でも世界をリードする存在になりそ
  うだ。こうした中国躍進の波は、技術力の根幹ともいえる半
  導体にも押し寄せる。
   日経BP社は「中国のNVIDIAは誰か?中国企業の技
  術力を探る」と題したセミナーを、上述の未来展望シリーズ
  の第1回として開催する。1年前の2017年2月に開催し
  たセミナー「半導体回路の分析から、中国エレクトロニクス
  企業の技術力を探る」の内容を更新し、中国の最新スマホチ
  ップやスマートスピーカーなどの新しい情報を盛り込む予定
  だ。本稿では、好評を博した17年2月開催のセミナーから
  中国のスマホ用半導体に関する内容の一部を紹介する。
                  https://nkbp.jp/2tVAPE0
  ───────────────────────────

中国のファブレスICサプライヤー.jpg
中国のファブレスICサプライヤー 

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2019年03月11日

●「米国政府によるZTE潰しの意味」(EJ第4964号)

 ハイシリコン(HiSilicon) とは、「海思(ハイスー)」とい
う中国語を英語表記したものです。なぜ、「海思」なのかについ
て、遠藤誉氏が追跡しています。大陸の中国で「海」という言葉
が出てくるのは、何か意味があると感じたからだそうです。
 ハイシリコンの総裁は、既に述べているように、1969年生
まれの何庭波氏という50歳の女性です。元ファーウェイの社員
で、2004年10月に独立して、ハイシリコンを創業していま
す。経営者になりたかったわけでなく、あくまで「自分は『工程
師』である」という精神文化を持っていて、半導体製品は外販せ
ず、ファーウェイのために研究し、ファーウェイのためにチップ
を開発しているのです。
 何庭波総裁とは、どういう人物なのでしょうか。
 何庭波総裁は、ハイシリコンの新入社員には、単なる挨拶を超
えて、いつも熱く語りかけます。そのなかで何庭波総裁は、次の
ように述べています。来月入社してくる新人に何を話すべきかの
参考になると思います。
─────────────────────────────
 私たちは国内各地だけでなく、世界とつながっています。そし
て必要が生じれば、どこにでも行きます。たとえば、私は(ファ
ーウェイ)入社したその日から、半導体チップの製造に取り掛か
りましたが、2年後の1998年には上海の研究所に行かなけれ
ばならない事態に迫られました。無線通信に関する研究拠点が、
上海にあったからです。
 そこで私は一人で上海に行き、そこのチームの仲間入りをして
研究開発に没頭しました。ようやく成果が出て、深せんに戻って
また半導体の研究開発に没頭しましたが、しばらくすると任総裁
にアメリカのシリコンバレーに行ってこいと言われたのです。
 私は、シリコンバレーに2年間出向しました。この2年間で私
が学んだものは多く、半導体設計の大きなギャップを思い知らさ
れました。その後、全世界から多くの多彩な人材を吸収するに至
りました。(中略)
 創造することに価値を見出して下さい。あなた方の技術と知識
をホァーウェイに注いでください。ホァーウェイは、あなた方が
いるからこそ美しく輝くのです。あなた方は高速鉄道のような動
力車に乗ったのではなく、あなた方がその先頭の運転席にいるの
です。運転するのは、あなた方なのです。
 ホァーウェイは、あなた方が輝かせるのです!自分の人生を美
しく輝かせることがホァーウェイを美しく輝くことにつながる。
期待しています!ありがとう!     ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 この何庭波総裁の新入社員への挨拶から遠藤誉氏は、「海思」
という社名は「海の彼方から祖国を思う」と意味ではないかと推
定しています。祖国の中国から遠く離れたアメリカから、多くの
ことを学び、それを祖国の中国に持ち帰る──そういう思いが、
「海思/ハイスー」という社名になったというわけです。
 社名はさておき、ハイシリコンの最大の特色は、既に述べてい
るように製品を「外販しない」ということです。半導体を提供す
るのはファーウェイ一社のみというわけです。つまり、ハイシリ
コンという企業は、独立企業でありながら、ファーウェイの専属
の研究開発部門であり、他社には一切製品を提供しないことをポ
リシーにしているのです。
 そのポリシーを守る姿勢は、米クアルコムから長く半導体の提
供を受けていたZTE(中興通訊)が、クアルコムから突然提供
を断られ、ピンチに瀕したときも、ハイシリコンは提供に応じな
かったことでも、ポリシーを守る頑固さがわかります。仮に習近
平政権が命令しても提供しないと思われます。
 ZTEは、米国で成功した数少ない中国ブランドといえます。
ZTEは、高機能なスマホを低価格で販売することに加え、NB
Aの試合のスポンサーを務め、ロビー活動に多額の費用を投じて
政治家やパートナー企業から信頼を獲得し、米国市場で4位とな
る11%のシェアを獲得することに成功したのです。そのような
親米企業でも、国防に懸念があるとなったら、米国は絶対に許さ
ないのです。
 中国の通信機器に関しては、2012年の議会報告書書──そ
のタイトルは「中国の通信機器企業ZTEとファーウェイによっ
て引き起こされたアメリカの国家安全問題」の段階から、中国へ
の警戒感は強くなってきており、この問題に関しては、大統領よ
りも議会の方が警戒感が強いのです。したがって、この問題でト
ランプ大統領が中国と取引しようとしたら、米議会は絶対に許さ
ないと思われます。
 遠藤氏は、この米国政府によるZTE排斥問題に関して、自著
で次のように述べています。
─────────────────────────────
 トランプ政権が2018年4月17日に、中国の国有企業であ
るZTE(中興通訊)に、向こう7年間の取引禁止を発表すると
中国のネットは燃え上がった。多くは「やるなら、やれ!中国に
は華為と中微がある!」と叫んでいる。
 「中微」は、中国人が「中微半導体設備(上海)有限公司」/
AMECを指して言うときの略語だ。中国の一般庶民の感覚とし
て、ホァーウェイ、特にその頭脳であるハイシリコンと中微(A
MEC)を応援する声が高い。誰もZTEには関心を持たないし
中国の青年を取材したときの「ZTEはバカだから」という、吐
き捨てるような反応が一般的だ。そして異口同音に言うことは、
「トランプが中国の半導体産業の猛進を加速させた」という視点
だ。それは、残念ながら、真実に近い可能性を孕んでいる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/045]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人が知らない中国「ZTE」の覇権/米スマホ市場4位
  ───────────────────────────
   米中貿易摩擦が悪化する中、最初の犠牲者となったのが、
  中国の通信機器大手「ZTE(中興通訊)」だ。同社の業績
  悪化は長期間に及びそうだ。
   米トランプ政権は深センに本拠を置くZTEが対イラン制
  裁に違反したとして、同社が米企業からスマートフォンや通
  信機器に不可欠な部品を購入することを7年間禁止すると発
  表した。
   この措置により、ZTEは主要事業の運営停止に追い込ま
  れている。トランプはツイッター上でZTEへの制裁緩和を
  示唆したが、同社の顧客の中には供給体制への不安から取引
  を縮小するケースが出ており、業績の影響は甚大だ。こうし
  た中、ライバル企業がZTEの顧客獲得に動いており、一度
  失った契約を取り戻すのは容易ではないとアナリストらは指
  摘する。トランプは、2018年5月14日に次のようにツ
  イートした。「巨大企業であるZTEが速やかに事業に戻れ
  るよう、習主席と方策を協議している。中国ではあまりに多
  くの職が失われた。既に商務省に対して指示を出した」。
   ZTEの中で打撃が最も大きいのは、スマートフォン事業
  だ。現在、アリババが運営する「Tモール」の、ZTE公式
  ショップは販売を停止している。また、オーストラリアの大
  手通信会社「Telstra」 は「米国の制裁により当社への商品
  供給が困難になった」と述べてZTE製スマートフォンの販
  売を取り止めた。        https://bit.ly/2Hq3aKY
  ───────────────────────────

ZTE(中興通訊).jpg
ZTE(中興通訊)

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2019年03月12日

●「任正非華為CEOは何を語ったか」(EJ第4965号)

 2018年8月13日のことです。トランプ大統領は、「20
19年度国防権限法」に署名しています。この法律で、中国のZ
TEとファーウェイに関して、向こう7年間の取引停止を命じて
います。この法律では、政府職員や政府とビジネスを行う可能性
のある企業は、両社の製品を使ってはならないとしています。
 その後、トランプ政権は、日本、英国、カナダ、ドイツといっ
た米国の同盟国に対しても、これを強制するようになり、ファー
ウェイ包囲網は、世界的な広がりを見せつつあります。そして、
2018年暮れには、ファーウェイの創業者である任正非氏の娘
である孟晩舟副会長が、イランとの不正取引容疑でカナダで逮捕
されてしまうのです。
 これに対して、2019年1月18日、ファーウェイのCEO
である任正非氏は記者会見を開き、「ファーウェイは各国の法令
を順守している」と強調してみせたのです。任正非CEOは、大
の記者会見嫌いで知られていますが、さすがに世界的な包囲網に
危機感を感じたと思われます。基本的な記者とのやり取りを再現
しておきます。
─────────────────────────────
記 者:中国政府や共産党から機密情報の提供を求められた場合
 反対できますか。
任正非:過去30年間、様々な顧客と向き合うなかで、安全上の
 問題が起きたことはない。顧客企業の不利益になる形でデータ
 を提出するように求められたとしても拒絶する。
記 者:娘である孟晩舟副会長が、イランとの不正取引に関わっ
 た疑いでカナダで逮捕されました。
任正非:大変な驚きだ。司法手続きに入っているので、コメント
 は控えたい。
記 者:米国の制裁で同業の中興通訊(ZTE)は、部品は調達
 できず、経営危機に陥りました。
任正非:当社はZTEのようにはならない。仮に、米国の制裁が
 あったら、自ら代替品を生産するが、そうなると米国にとって
 も不利になるのではないか。制裁があっても影響は大きくない
 だろう。
記 者:欧米や日本でもファーウェイ製品排除の動きが広がって
 います。
任正非:全体としてあまり影響を受けていない。今年も当社は大
 きく成長を続ける予定だ。ただ成長率は、2018年の20%
 を下回る可能性がある。個人としては、日本政府から排除され
 る動きがあるとは感じておらず、日本社会には今後も受け入れ
 てもらえると思う。
         ──2019年1月19日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 冒頭の記者の質問「中国政府や共産党から機密情報の提供を求
められた場合、反対できますか」は、2017年6月から施行さ
れた「国家情報法」を念頭に置いての質問です。任正非CEOは
「顧客企業の不利益になる形でデータを提出するように求められ
たとしても拒絶する」と答えていますが、これは国家情報法違反
の犯罪になってしまう恐れがあります。国家情報法第7条には、
次のように規定されているからです。
─────────────────────────────
 国家情報法第7条
 いかなる組織及び個人も、国家の情報活動に協力する義務を
 有する。
─────────────────────────────
 「国家情報法」に関する記者と任正非CEOのやり取りは、他
にもあります。記者は、かなり突っ込んで聞いており、任正非C
EOも詳しくそれに答えていますが、任正非CEOの答えは、希
望観測的なところがあります。そのあたりが限界なのでしょう。
そのやり取りを以下に示します。
─────────────────────────────
記 者:なぜ中国には、クアルコムのような知的財産を扱うこと
 によって発展していく企業が生まれないのか。
任正非:知的財産が、もしも物権法の一部に組み込まれていたな
 ら、オリジナルを発明した側にもっと有利だったろう。それで
 も西側諸国に言い訳するわけではないが、知的財産の保護は、
 国の長期的な発展にとって有利だ。中国もニセ札やニセ物を支
 持しなければ、ますます競争力がつく企業が現れるだろう。
記者:現在の世界は再び、人々に共産主義の帽子を被せて叩くと
 いう「マッカーシー(赤狩り)時代」に舞い戻っているのでは
 ないか。中国でも「国家情報法」、とりわけ第7条が施行され
 て、華為が国際展開する上で、何か障害が起こっているか。
任正非:まず、私は、そのような法解釈はしていない。外交部が
 はっきり述べているように、中国はどんな法律も、企業にすべ
 てを要求するようなことはしない。中国政府はまた、国連、ア
 メリカ、EUの輸出や制裁に関する法律も含めて、進出する企
 業はその国々の法律法規を遵守しなければならないと強調して
 いる。              https://bit.ly/2ENlE58
─────────────────────────────
 口では比較的のんきなことをいっている任正非CEOですが、
実は会見を開いてここまで語るのは、焦慮感に駆られている証拠
といえます。なぜかというと、ファーウェイは、1987年の創
業以来、非上場を貫いており、任正非CEOはめったに人前に出
ない厚いヴェールに包まれた「謎の経営者」といわれてきた人だ
からです。そのCEOが会見を開き、記者の質問にていねいに答
える──相当追い詰められているといえます。
 ファーウェイのバックには人民解放軍がいるといわれています
が、それは本当のことでしょうか。現在、中国では、アイフォー
ンから、ファーウェイに乗り換える人が増えており、アップルの
順位は5位にまでダウンしています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/046]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイCEOが米国に「証拠を見せろ」と反論
  ───────────────────────────
   ここしばらくの中国のファーウェイに関するニュースを見
  ると、メディアの種類によって報じ方が大きく異なることが
  わかる。テック系のメディアは、同社が2018年にリリー
  スしたスマートフォンやラップトップが高い評価を得ている
  ことや業績が予想を上回る見込みであることを報じている。
   一方で政治・経済系のメディアは、同社と米政府とのトラ
  ブルを盛んに報じている。ファーウェイのスマートフォンは
  この1年で販売数量だけでなく、評価の面でも大きな躍進を
  遂げた。かつては、中国製スマートフォンを見下していた欧
  米系メディアは、今やファーウェイ製品の革新性や性能の高
  さをアップルやサムスンと同等に評価している。
   筆者が住む香港の人々は、中国製品を敬遠する傾向がある
  が、最近では、ファーウェイ製品をよく見かけるようになっ
  た。ファーウェイのCEO、胡厚崑(同社のCEOは3人の
  交代制)は先日、同社の東莞市の施設で記者会見を開いた。
  胡によると、クリスマスまでにスマートフォンの出荷台数が
  同社史上最高の2億台を突破し、売上高は、1000億ドル
  (約11兆円)に達する見込みだという。
   欧米系メディアは、今回の記者会見を直前になって知らさ
  れた。会見では、12月1日に逮捕された同社の孟晩舟CF
  Oのことや、米政府が同盟国に対してファーウェイ製品の使
  用中止を求めていることについては全く語られなかった。
                  https://bit.ly/2TEQPc7
  ───────────────────────────

ファーウェイ任正非CEO.jpg
ファーウェイ任正非CEO

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2019年03月13日

●「華為技術の後ろに軍隊がいるのか」(EJ第4966号)

 「ファーウェイのバックには人民解放軍がいる」といわれるこ
とがあります。それは、本当のことなのでしょうか。中国研究家
の近藤大介氏のレポートを読むと、任正非CEOはファーウェイ
という企業を「軍隊」と捉えており、世界の市場を「戦場」と表
現してします。まさに「軍隊的経営」です。
 任正非CEOは、2019年の年明けに社員向けのメールを配
信していますが、そのなかのフレーズのいくつかを示します。
─────────────────────────────
 ・5Gは地雷であり、東でも西でも炸裂する。
 ・新たな戦闘で這い上がるのだ。
 ・管理部門の幹部から「将軍」を選抜する。
 ・自己革新と隊伍の「血液交換」を断行する。
 ・われわれは多くの派兵を惜しまない。
 ・チベットの将軍に空母を動かせといっても意味がない。
                  https://bit.ly/2EVBISf
─────────────────────────────
 なぜ、ファーウェイと人民解放軍が結びつけられるのかについ
て、遠藤誉氏は自著のなかで、任正非氏の生い立ちを含めて、詳
しく書いています。詳しくは、遠藤氏の著書を読んでいただくと
して、以下に要約することにします。
 背景としては、3月5日付のEJ第4960号において、「大
而不強」という言葉の説明として取り上げたケ小平によるベトナ
ム戦争(中越戦争)後の、人民解放軍の100万人削減がありま
す。「兵士はたくさんいるが、無駄な兵士が、だぶついているだ
け」と判断し、兵士の大幅削減を決断したのです。
 そして、職を失った解放軍兵士の技術兵を中心にして、ケ小平
は、かつて武器製造の根拠地だった内陸部のあちこちで「自動車
産業」を起こすよう指示したのです。重要なのは「技術兵を中心
として」という部分です。これを「軍民転換」といいます。19
80年代のことです。
 任正非氏は、1944年に貴州省の極貧の家に生まれ、成人に
なる時点で文化大革命に遭遇しています。任正非氏は、重慶建築
工程学院(現在の重慶大学)で学んでいたのですが、卒業の一年
前に文化大革命が起きてしまうのです。
 文化大革命については、表面的にはきれいごとをいっています
が、その本質は、大躍進政策の失敗によって国家主席の地位を劉
少奇党副主席に譲った毛沢東共産党主席が、自身の復権を画策し
紅衛兵と呼ばれた学生運動を扇動して政敵を攻撃させ、失脚に追
い込むための、中国共産党内部での権力闘争です。
 とくに大学教授などの知識層が狙われたといいますが、非常に
多くの人が、この文革によって被害を受けたのです。共産党の資
料に残されていないのですが、40万人から1000万人の人が
何らかの被害を受けたといわれています。
 しかし、「農工兵」に関しては迫害から逃れることができると
知って、任正非氏は人民解放軍入隊を選んだのです。なお、「農
工兵」とは、「農」は農民、「工」は工場従事者、「兵」は兵隊
のことです。任正非氏は人民解放軍を志願したところ、重慶建設
工程学院で学んだ経歴により、基礎建築兵に配属され、正式に兵
士になったのです。
 もともと技術レベルが高かったので、順調に出世し、技術員、
工程師になり、副所長にまでなっています。しかし、そこで突然
解雇され、深せんの南海石油後方勤務サービスに配置換えになる
のです。ケ小平による人民解放軍の100万人削減の影響です。
 しかし、新しい仕事には興味も関心もない任正非氏は、周囲か
ら、2万1000人民元(日本円で約30万円)をかき集めて、
ファーウェイ(華為技術)を立ち上げるのです。1987年のこ
とです。
 しかし当時は、雨後の竹の子のように小さい企業が立ち上がっ
ては消えていくという時代であり、事業経営が最も難しい時代で
あったといえます。ファーウェイはどのようにして生き残ったの
でしょうか。遠藤誉氏は、このちっぽけな企業、ファーウェイが
生き残ったの理由には次の2つあるといいます。
─────────────────────────────
  1.通信機器開発&サービスをメインの事業にしたこと
  2.当時としては珍しい従業員持ち株制を導入したこと
─────────────────────────────
 ファーウェイは、起業時期のタイミングが実によかったといえ
ます。中国は、固定電話が普及しておらず、ポケベルの時代を経
て、いきなり携帯電話の時代に突入しています。ファーウェイは
それを先取りしたのです。従業員持ち株制も画期的です。当初、
任正非CEO自身の持ち株は1・3%、残りの98・7%の株主
はすべて従業員なのです。従業員のやる気が起きて当然です。
─────────────────────────────
 起業当初のホァーウェイの顧客は、中国電信、中国移動、中国
網通(網はインターネット)、中国聯通などの、中国企業が中心
だったが、1997年に香港のハチソン・ワンポアと海外契約を
得たのを皮切りに、2000年代以降は、ブリティッシュ・テレ
コム、ドイツテレコム、テレフォニカ、テリア・ソネラ、アドバ
ンスト・インフオ・サービスおよびシンガポール・テレコムなど
全世界の大企業向け事業も大きく展開して、世界のホァーウェイ
として一気にグローバル化していく。
 2012年には売上高でエリクソンを超えて、世界最大の通信
機器メーカーとなっている。製品によっては世界シェア1位だ。
特にスマホにおいては、出荷台数、シェアともに世界3位であり
2017年には世界シェアでアップルを抜いて世界2位になった
こともあった。            ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/047]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ急成長の謎を解く/日経XTECH
  ───────────────────────────
   まずは、「ファーウェイ基本法」について。「ファーウェ
  イ基本法(以下、基本法と略)」とはファーウェイの基本理
  念や経営方針をまとめたものだが、驚くべきことにウィキペ
  ディアの中国版ともいえる「百度百科」にも一項目として記
  載され、全文が掲載されている。本書によれば、基本法は、
  1996年ごろから考案され、1998年に正式に発表され
  たものであり、基本理念のほかに、経営方針、組織編制、人
  材開発、管理方針、後継者およびその改正方法などからなる
  2万字に及ぶ「憲法」である。本書では事あるごとに「基本
  法」に言及され、いかにファーウェイにとってこの基本法が
  重要な存在かがわかる。
   また、本書では触れられていないが、「百度百科」ではこ
  の基本法について面白い解説を付けている。「この基本法が
  ほかの企業から大変な関心を寄せられているのは、普段低姿
  勢な(永井注:本書の中でも、任正非CEOについて何度も
  『低姿勢』『謙虚』といった表現が現れる)ファーウェイが
  このように高らかに自らの理念を謳い上げているからだ。こ
  のようなファーウェイの2面性がより人々に『ファーウェイ
  は理解できない』と感じさせるのである。」このように本稿
  の冒頭でも述べたとおり、中国人にとってもファーウェイは
  謎なのだ。なぜ、このように、ファーウェイは謎と感じられ
  るのか。            https://nkbp.jp/2u41PS8
  ───────────────────────────

ファーウェイ本社.jpg
ファーウェイ本社
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2019年03月14日

●「国家情報法第8条の内容とは何か」(EJ第4967号)

 遠藤誉氏によれば、ファーウェイのバックに人民解放軍がいる
といわれるのは、創業者の任正非CEO自身が人民解放軍兵士の
経験があり、ケ小平のいわゆる「軍民転換」によって、とくに技
術系の企業に軍の出身者が多くいるのは、当たり前であるという
のです。
 しかし、問題は先端企業に元軍人が多いか少ないかではなく、
ファーウェイが通信機器の開発メーカーであることと、2017
年6月から施行されている「国家情報法」があることです。とく
に問題があるとされる同法第7条を再現します。
─────────────────────────────
 国家情報法第7条
 いかなる組織及び個人も、国家の情報活動に協力する義務を
 有する。
─────────────────────────────
 この条文の意味するところは、中国の企業と個人は、国家が必
要と認めて命令すれば、いかなる組織や個人の持つ情報も提供し
なければならないというものです。この条文だけ見ると、国家が
命令すれば、中国人民と企業は必要に応じてスパイにならざるを
得ないことになります。
 これに対して任正非CEOは「私はそのような法解釈はしてい
ない。外交部がはっきり述べているように、中国はどんな法律も
企業にすべてを要求するようなことはしない」と述べています。
 わかったようなわからないような任正非CEOの発言ですが、
「外交部がはっきり述べているように」という部分に注目して、
外交部の発言を探したところ、2019年2月20日の耿爽(グ
ン・シュアン)報道官の次の発言が見つかったのです。
─────────────────────────────
記 者:一部のメディアからファーウェイ(華為技術)に関する
 情報が報じられています。米国およびその同盟国がファーウェ
 イが中国政府に協力して情報を摂取しているという確かな証拠
 を示せていないという内容がある一方、中国の「国家情報法」
 第7条の規定に憂慮を示し、ファーウェイの参入を制限すべき
 という内容もあります。これについて、どう評価しますか。
報道官:私の理解が間違っていなければ、これらを報じたメディ
 アは西側諸国のメディアですね?
記 者:(うなづく)
報道官:私たちはこれらのメディアが、米国などの国が情報窃取
 の証拠を示せていないという点を認めていることについて、肯
 定的に評価する。これは客観的な態度だ。ここで強調しておき
 たい。第7条では確かに「いかなる組織や公民も国家の情報活
 動を支持、協力し、知り得た秘密を厳守しなければならない」
 と書かれているが、続く第8条では「国家の情報活動は法に基
 づいて行われ、人権を尊重、保障し、個人や組織の合法的な利
 益を守らなければならない」とされている。この法律を批判す
 る人は、本当に詳しく条文を読んだことがあるのだろうか。こ
 の法律を一方的に、切り取って見るのではなく、全面的に見て
 正確に理解することを求める。   https://bit.ly/2CjWn1O
─────────────────────────────
 グン・シュアン報道官のいう通り、第8条を示されれば、それ
なりに納得はできますが、少なくともネット上で調べる限り、国
家情報法の詳細の情報はなく、専門家でない限り、私も含めて、
第8条の内容をはじめて知った人が多いはずです。
 しかし、第7条にしても第8条にしても、条文は抽象的表現で
あり、国家の意思によって、恣意的に判断される余地は大きく、
国家情報法という法律の存在自体が脅威です。
 なお、遠藤誉氏の著作「『中国製造2025』の衝撃」には、
「国家情報法」自体の記載は見当たらないのです。この本で述べ
ていることと、国家情報法は無関係ではないにもかかわらず、不
思議な話です。ちなみに、この法律の施行は2017年6月であ
り、本の発行は2019年1月11日になっています。
 これに関連して、ネット上には次のようなツイートが発信され
ているのを発見しました。やっぱり何かあると思います。
─────────────────────────────
 ◎北の遊び人/2018年12月16日:13:06
 今朝のフジテレビ「報道プライムサンデー」で遠藤誉オバチャ
ンは、なぜ「ファーウェイの社員には、中国共産党員が大勢いる
こと」を隠し、「ファーウェイ副会長がもっていた7通のパスポ
ート」には一切触れないし「中国の国家情報法」について説明し
ないのだろう?           https://bit.ly/2VU7HsO
─────────────────────────────
 遠藤誉氏の論文やレポートで、「国家情報法」について書かれ
ているものがないか探してみましたが、見つかっていません。そ
の代わり、中国の「反スパイ法」について、日本人として心得て
おくべき記事はあります。
─────────────────────────────
    中国「反スパイ法」の具体的スパイ行動とは?
                ――日本人心得メモ
              https://bit.ly/2qN3tos
─────────────────────────────
 この記事には恐ろしいことが書いてあります。中国に旅行に行
くとき、誰かから、どこそこの景色を写真に撮って送って欲しい
と頼まれたとします。そういうことはよくあると思います。
 実は、そこは撮影不可の場所なのですが、現場には、それが撮
影不可とわかる看板などの表示は、見当たらないことが多いので
す。たとえ看板が出ていたとしても、気が付かないことが多いと
思われます。そこで依頼されたようにそこの景色を撮影し、ネッ
トで送ったとすると、それは、「反スパイ法」による「スパイ行
為」に該当するのです。遠藤誉氏は、日本人に注意を喚起してい
るのですが、国家情報法については、どこにも書いていないので
す。         ──[米中ロ覇権争いの行方/048]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ、米国の企業秘密を盗んでいない可能性
  ───────────────────────────
   2018年12月1日に中国通信機器大手ファーウェイの
  孟晩舟・副会長兼CFO(最高財務責任者)が、米国の要請
  によりカナダのバンクーバーで逮捕されて以降、米国による
  ファーウェイへの攻撃が激しさを増している。
   今年1月16日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル
  は、米政府がファーウェイを米企業の企業秘密を盗んだ疑い
  で本格捜査していると報じた。また、1月21日にカナダ紙
  グローブ・アンド・メール(電子版)は、米政府がカナダに
  ファーウェイの孟副会長の身柄引き渡しを正式要請する方針
  を固めたと報じた(1月23日付日本経済新聞)。
   そして米国司法省は1月28日、ファーウェイと孟副会長
  を、イランとの違法な金融取引に関わった罪および米通信会
  社から企業秘密を盗んだ罪で起訴した。
   このように米国がファーウェイを攻撃する根拠として、筆
  者は以下のように考えていた。恐らく、多くの人も同じよう
  に理解をしていたのではないか。
  (1)通信基地局の売上高シェアで世界1位のファーウェイ
  は、中国政府の手先であり、17年6月28日に中国で成立
  した「国家情報法」に基づいて、中国政府の指示により米国
  の知的財産を盗んでいた。
  (2)上記の技術盗用の証拠をつかんだ米国が、カナダへ要
  請し、孟副会長を逮捕・起訴するとともに、18年8月13
  日に米国が制定した「国防権限法2019」に基づいて世界
  中からファーウェイを排除しようとしている。
                  https://bit.ly/2VP7QxI
  ───────────────────────────


グン・シュアン中国報道官.jpg
グン・シュアン中国報道官
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2019年03月15日

●「社会信用スコアという制度が始動」(EJ第4968号)

 英国のジョージ・オーウェルという作家の作品に、『1984
年』というのがあります。全体主義国家によって分割統治された
近未来世界の恐怖を描いた作品です。ちなみにこの作品は、19
48年に執筆されており、近未来とされている1984年とは、
「4」と「8」と入れ替えたアナグラムという説があります。
 現代はジョージ・オーウェルのいう社会が既に存在します。そ
れが現代の中国であり、いみじくもそれを指摘したのは、米国の
ペンス副大統領です。2018年10月4日、ペンス副大統領は
ハドソン研究所における演説で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今日、中国は、他に類を見ない監視国家を築いており、時に米
国の技術の助けを借りて、ますます拡大し、侵略的になっていま
す。彼らが「グレートファイアウォール(インターネット検閲)」
と呼ぶものも同様に厳しくなり、中国人への情報の自由なアクセ
スを大幅に制限しています。
 そして2020年までに、中国の支配者たちは、人間の生活の
事実上すべての面を支配することを前提とした、いわゆる「社会
的信用スコア」と呼ばれるジョージ・オーウェル式のシステムを
実施することを目指しています。同プログラムの公式青写真によ
れば「信用できない者が一歩も踏み出せないようにしながら、信
用できる者が天下を歩き回ることを許可する」というものです。
   ──ペンス米副大統領演説より https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
 中国という国家にとって一番大切なものは、中国共産党という
政治体制です。人民解放軍は、中国という国を守る軍隊ではなく
中国共産党を守る軍隊なのです。そのため、中国という全体主義
国家にとって一番警戒すべきものは、他ならぬ中国の国民であり
そのため、過度の監視体制を敷いています。最先端のICT技術
を使い、国民を監視しているのです。中国の軍事費は日本の4倍
といわれますが、それ以上のお金をかけて、約14億人の中国国
民の動向を監視しています。
 その具体的なシステムのひとつが、2014年からスタートし
た「社会信用スコア」という制度です。ペンス副大統領が、ジョ
ージ・オーウェルの世界と呼ぶのがこの制度です。この「社会信
用スコア」について遠藤誉氏は、自著のなかで、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 中国では「社会信用システム」という制度が2014年から動
いている。正確には2014年6月14日に国務院が「社会シス
テム構築の計画概要(2014〜2020年)」という通知を発
布している。
 これは所得やキャリアあるいは日常の社会的言動などからすべ
ての国民を評価してランキングを付けるもので、評価基準は「公
務の誠実性」「商業の誠実性」「社会に対する誠実性」だ。一見
「社会責任」に似ているように見えるが、実は似て非なるもの。
すべての人民および中国大陸に居住する外国人と外国企業を含め
たすべての「人間」と「組織」を一部始終監視するためのシステ
ムなのである。中国の商店ではどこでも電子決済が進んでいると
日本の一部のメディアでは中国を褒めている情報が散見されるが
顔認証も徹底的に進展させて、中国大陸上に居住するすべての人
間が「中国共産党に忠実であるか否か」「反政府的行動をしてい
ないかどうか」を完璧に監視するためのシステムなのだ。このよ
うな恐ろしいものが動き始め、中国に進出する日本企業とその従
業員も、監視の対象となっていく。喜んでいる場合ではない。
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 この遠藤誉氏の記述で注意すべきは、この制度が適用されるの
は中国人だけではないことです。その対象は「すべての人民およ
び、中国大陸に居住する外国人と外国企業を含めたすべての『人
間』と『組織』」となっている点です。中国から見て、外国人も
外国企業も対象になるのです。実際にこの制度で、どんなことが
起きるのでしょうか。
 2018年5月2日付の「ニューズウィーク」に掲載されたク
リスティーナ・チャオ氏による次のレポートがあります。
─────────────────────────────
 14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動
 へ準備           ──リスティーナ・チャオ氏
                 https://bit.ly/2jmQ03V
─────────────────────────────
 このレポートでは、中国で調査報道記者として活動している劉
虎(リウ・フー)氏は、自分の名前がブラックリストに載ってい
ることを知ったのは、航空券を買おうとして、航空会社から拒否
されたときです。劉氏は、航空会社が保有するリストに、中国政
府が航空機への搭乗を禁止する「信頼できない人物」として自分
の名前が載っていることを知って愕然としたといいます。
 その原因は、2016年に公務員の腐敗を訴える記事をSNS
で発信し、中国政府と衝突しています。中国政府から罰金の支払
いを求められ、劉氏はそれに従っています。劉氏としては、これ
で一件落着すると思ったからです。
 しかし、劉氏はその後も「不誠実な人物」として格付けされ、
航空機の切符が買えないだけではなく、その他にも多くの制約を
受けています。このように一度スコアを落とされると、なかなか
回復できないことが劉氏のケースでわかります。
 しかし、中国政府は、このシステムについて「このシステムの
目的は、調和のとれた社会を推進することである」としています
が、一方において、この制度は市場や政治行動をコントロールす
るツールに過ぎないとの批判も存在します。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/049]

≪画像および関連情報≫
 ●中国を変えた"信用格付けシステム"の怖さ
  ───────────────────────────
   広大な領土に多大な人口を擁する中国では、むかしから統
  治者は「いかに秩序をもたらすか」に頭を悩ませてきた。長
  い年月の中で、恐怖による圧政、寛容による仁政、教育によ
  る統制などさまざまな統治が試みられてきたが、ここにきて
  ついに統治者は画期的な方法を手に入れつつあるようだ。そ
  の方法とは、「予測アルゴリズム」という情報テクノロジー
  のことである。
   中国では、長年にわたり食品生産や医薬品製造の安全性は
  保たれておらず、偽装や偽造、詐欺、脱税に官僚の腐敗、学
  術上の不正も横行し、治安当局の取り締まりも十分な効果を
  発揮してはいなかった。そのため、企業や消費者の取引コス
  ト、経済秩序に関する行政のコストも大きく、人びとの規範
  意識を高めることは切迫した課題であった。
   そうした中で、新たな統治手法として注目されるのが「予
  測アルゴリズム」だ。これは、オンライン上の購買や、閲覧
  ・行動の履歴といったパーソナルデータや、企業の信用取引
  データなど、いわゆる「ビッグデータ」を分析し、対象とな
  る人物や企業の動向を予測する情報テクノロジーだ。中国政
  府は、いま、こうした技術を統治能力の改善に役立てようと
  している。           https://bit.ly/2VWNHG4
  ───────────────────────────

ジョージ・オーウェル.jpg
ジョージ・オーウェル
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2019年03月18日

●「なぜ、中国の技術は急進展したか」(EJ第4969号)

 このようにいうと失礼ではあるが、かつて中国の「技術」など
とるに足らないものであったはずです。少なくともそういう時代
が長く続いたことは確かなことです。
 しかし、「中国製造2025」を立ち上げた2015年以降は
中国は多くの技術面で米国を猛追する存在になりつつあります。
宇宙などの特定分野では、既に米国を抜いています。それをイヤ
というほど世界に見せつけたのは、今年の1月3日発表の中国の
宇宙技術での大成果です。
─────────────────────────────
 ◎月面争覇/中国「宇宙強国」掲げ巨費/軍関与
 月探査に本格参入して十数年という中国が、3日、半世紀を超
える歴史を持つ米ロ両国に先んじて月の裏側への着陸を成功させ
た。習近平指導部の大号令のもとで、「宇宙強国」の実現にひた
走る。資源の埋蔵が有望視される月を「主戦場」に、各国の競争
が激しくなるのは確実だ。
          ──2019年1月4日付、朝日新聞より
─────────────────────────────
 経緯を簡単にいうと、中国が月面の撮影を目的とする「嫦娥1
号」を打ち上げたのは、2007年のことです。その時点では、
中国は技術開発で出遅れ、月探査では、旧ソ連、米国、日本、欧
州に続く存在だったのです。
 しかし、2013年に中国は「嫦娥3号」を月の表側に着陸さ
せることに成功します。この時点で、中国は、旧ソ連、米国に続
き、3番目に月面着陸に成功した国に躍進します。
 そして、それから5年後、中国は「嫦娥4号」を月の裏側への
着陸に成功させ、月面探査の分野では、世界のトップに立ったの
です。さらに今年は、「嫦娥5号」を打ち上げ、月の裏側の表土
の試料を地球に持ち帰る計画を進めています。
 これだけではないのです。月探査に続いて、2022年に完成
を目指す中国独自の宇宙ステーション、中国版「GPS」の衛星
測位システム「北斗」の構築など、宇宙関連の技術開発は激しさ
を増しています。まさに「米中2強時代」が現実のものとなりつ
つあります。
 そういう宇宙技術開発の進展は、人類に寄与するのであればよ
い傾向といえますが、中国の宇宙開発には人民解放軍が深く関与
し、情報はほとんど開示されないのです。そういう先端技術の軍
事利用を目指しているからです。情報自体が開示されないので、
そういう分野でのノーベル賞受賞者が少ないのではないでしょう
か。これまでの中華人民共和国としてのノーベル賞受賞者は、わ
ずか3人しかいないのです。
─────────────────────────────
     2010年     平和賞/  劉暁波
     2012年     文学賞/   莫言
     2015年 生理学・医学賞/屠ユウユウ
─────────────────────────────
 注目すべきは、中国の技術開発の速度の速さです。どのように
してそのような高度な技術開発を可能にしたのでしょうか。
 遠藤誉氏によると、そのヒントは、1964年の中国の核実験
の成功にあるとして次のように述べています。
─────────────────────────────
 1964年10月16日、中国は初めての核実験に成功し、世
界を驚かせた。農民を中心とした革命戦争に勝利して、1949
年10月1日にようやく誕生した新中国(中華人民共和国)に、
科学技術などあり得るはずもないと、誰もが思っていただろう。
あのとき、中国における農民の割合は90%に近く、毛沢東は農
奴の屈辱的なエネルギーを味方に付けて革命に成功している。
 1917年のロシア革命は、都市の労働者が中心だったので、
旧ソ連のスターリンは毛沢東を「田舎バター」として軽蔑し、ロ
シア革命の中心となった都市労働者がいないような「文明的に遅
れた中国」で、革命など成功するはずがないとバカにしていたの
だ。ところが毛沢東は、その予想に反して中国の革命戦争に勝利
して新中国を建国しただけでなく、核実験に成功する。世界が驚
かないはずがないだろう。       ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 銭三強という人物がいます。1936年に精華大学を卒業して
フランスに渡り、マリー・キューリー研究所に留学します。あの
ノーベル賞を2回も受賞したマリー・キューリーの研究所です。
キューリー自身は1934年に他界していたものの、娘のイレー
ヌ・ジョリオ・キューリーがいたのです。銭三強は、彼女の下で
原子核の研究に没頭し、原子物理学で博士号を取得しています。
 1946年にウラニウムの核分裂において成功をおさめ、この
功績で、銭三強はフランスアカデミーの物理学賞を受賞し、19
48年に中国に帰国しています。その翌年の1949年10月1
日に新中国──中華人民共和国が誕生するのです。まさに絶妙の
タイミングだったのです。
 実は、毛沢東は、原子爆弾の製造に執念を燃やしていたといわ
れています。それは、当時中国から見て、戦争での圧倒的な強さ
を誇っていた日本が、米国による原子爆弾2発で降伏したのを見
て、これによって、自分が誕生させた新生中国を強国にしようと
考えたからです。
 1949年11月に中国科学院が設立されると、銭三強は、そ
の傘下の近代物理学研究所の所長に任命されます。朝鮮戦争が休
戦協定を締結した1955年、毛沢東は早速動き始めます。中国
の核の力を強めるために、プロジェクトチームを立ち上げさせ、
銭三強をそのリーダーに任命します。そして1956年、銭三強
は、40数名の科学者を引き連れて、毛沢東の命令でソ連に行き
原子爆弾についての調査と研究をスタートさせるのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/050]

≪画像および関連情報≫
 ●「毛沢東の狂気」が蘇る時/毛沢東 語録
  ───────────────────────────
   最近、中国の国内メディアで、「毛沢東」にまつわるいく
  つかの興味深い記事が見つかった。1つは、人民日報社の自
  社サイトである「人民網」が2011年1月17日に掲載し
  た記事で、1957年11月に毛沢東がソ連で開かれた社会
  主義陣営の各国首脳会議に参加したときのエピソードを紹介
  したものである。
   記事によると、毛沢東はこの会議で、当時のソ連共産党フ
  ルシチョフ第一書記の提唱する「西側との平和的共存論」に
  猛烈に反発して次のような過激な「核戦争論」をぶち上げた
  という。
   「われわれは西側諸国と話し合いすることは何もない。武
  力をもって彼らを打ち破ればよいのだ。核戦争になっても別
  に構わない。世界に27億人がいる。半分が死んでも後の半
  分が残る。中国の人口は6億だが半分が消えてもなお3億が
  いる。われわれは一体何を恐れるのだろうか」と。
   毛沢東のこの「核戦争演説」が終わったとき、在席の各国
  首脳はいっせいに凍りついて言葉も出なかったという。さす
  がの共産党指導者たちも、「世界人口の半分が死んでも構わ
  ない」という毛沢東の暴論に「圧倒」されて閉口したようで
  ある。毛沢東という狂気の政治指導者の暴虐さをよく知って
  いる中国の知識人なら、この発言を聞いても別に驚かないの
  だが、筆者の私が興味深く思ったのはむしろ、人の命を何と
  も思わない共産党指導者の異常さを露呈し、党のイメージダ
  ウンにつながるであろうこの「問題発言」が、他ならぬ共産
  党機関紙の人民日報社の自社サイトで暴かれたことである。
                  https://bit.ly/2HqfTOe
  ───────────────────────────

毛沢東総書記.jpg
毛沢東総書記
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2019年03月19日

●「銭三強と銭学森による核実験成功」(EJ第4970号)

 中国の核実験を成功させた立役者としては、銭三強の他にもう
一人の人物が必要です。それは、銭学森(センガクシン)という
人物です。銭学森は弾道ミサイルの専門研究者です。
 銭学森とはどのような人物でしょうか。
 銭学森は、世界的に有名な中国の科学者であり、アーサー・ク
ラーク原作の映画『2001年宇宙の旅』に出てくる中国の宇宙
船「チェン号」は、銭学森の名前からとられています。ネット上
に出ている銭学森の経歴を引用します。
─────────────────────────────
 銭学森は1911年、杭州生まれ。1935年に渡米してマサ
チューセッツ工科大学に留学後、カリフォルニア工科大学に移っ
て、数学者セオドア・フォン・カルマンの下で研究を始める。カ
ルテクでは後にジェット推進研究所(JPL)の母体となった学
生ロケット研究グループ「スーサイド・スクワッド」に参加して
いた。そのままフォン・カルマンが初代所長となったJPLに加
わり、陸軍の資金を受けて、JPL初期の活動である「コーポラ
ル」といったミサイル開発に関わる。
 銭自身が優れたロケット研究者であったのみならず、ナチス・
ドイツのロケット工学者ウェルナー・フォン・ブラウンが、ペー
パークリップ作戦後に合衆国に移送された際には、最初の面談を
行い、その技術をアメリカのミサイル(ロケット)開発に融和さ
せる役割も果たした。        https://bit.ly/2FcgPCz
─────────────────────────────
 ウェルナー・フォン・ブラウンについては、こんな話がありま
す。ドイツ軍が、連合軍に対して劣勢に傾いていた1943年、
ヒットラー総統の命令で、ナチス・ドイツにおいて、当時の究極
兵器として、長距離弾道ミサイル「V2ロケット」を開発し、ロ
ンドンを攻撃する準備をフォン・ブラウンが中心になって進めて
いたのです。
 しかし、根っからのエンジニアであるブラウンは、ロケットに
ついての壮大なプラン──地球を回る軌道に乗せるロケットや、
月ロケットのことをあちこちで話し過ぎるとして、SS(ナチ親
衛隊)とゲシュタポ(国家秘密警察)は、国家反逆罪としてブラ
ウンを逮捕してしまうのです。
 しかし、V2ロケットの開発中であり、ブラウンは必死に釈放
を求めましたがうまくいかず、最後にはヒトラー総統自身がSS
とゲシュタポを説得してやっと釈放されたのです。
 1945年5月になると、ドイツの敗戦は確実な情勢になった
ので、ブラウンたちの仲間は、亡命先としてどの国にするかを検
討したのです。彼らにはロケット技術があり、それを亡命先に高
く売ってよい条件での亡命を勝ち取ろうとしたのです。
 科学者たちのほとんどはロシアを恐れ、フランスは奴隷のよう
に扱うから嫌だという者が多く、英国はいいのだが、ロケット計
画を賄う資金がないということで、結局米国が一番良いというこ
とになったのです。そして、ブラウンが実際に米国に赴いたとき
銭学森はブラウンと面談し、彼らの有する技術を米国のミサイル
開発に融合させる技術的な貢献を果たしています。
 しかし、1950年、折からの「赤狩り」で、銭学森は共産主
義者のスパイであるとして逮捕され、米国の自宅に軟禁されてし
まうのです。それを知った毛沢東と周恩来は、あらゆる外交の手
立てを駆使し、銭学森の奪還を図ります。結局、1955年に朝
鮮戦争の米軍捕虜との引き換えに銭学森を取り戻し、中国に帰国
させたのです。
 毛沢東は、銭学森を銭三強のいるソ連に向わせ、合流させるの
です。これによって、中国としては、原子爆弾製造のための磐石
な体制を作ったことになります。しかし、ソ連との関係は最初か
らあまりよくなかったのです。おそらくスターリンは中国に原子
爆弾を保有させたくなかったものと思われます。そのため、ソ連
との関係悪化は加速し、1959年6月にはソ連から中国への援
助は完全に打ち切られています。
 一方、フランスとの関係はうまくいっていたのです。フランス
のキューリー研究所に留学していた放射能科学者、楊承宗は帰国
に当って、キューリー研究所から素晴らしいプレゼントがもたら
されたのです。遠藤誉氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 楊承宗は、1947年にフランスのキューリー研究所に留学し
て博士学位を取得したのだが、新中国誕生後、毛沢東の呼び掛け
に応えて中国に帰国しようとした。するとイレーヌ・キューリー
夫妻が、炭酸バリウムによって純化された10グラムのラジウム
標準資料を楊承宗にプレゼントしたのである。これは世界的に見
ても、誰もが喉から手が出るはど欲しいものだった。彼女は中国
の成功を祈ると言い、原爆成功と同時にフランスは中国と国交を
結ぶにちがいないと言って、毛沢東に1つの「言葉」を送ってく
れと頼んだのである。それは「もし原子爆弾に反対するのなら、
自分の原子爆弾を持ちなさい」という言葉だった。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 毛沢東は、1960年に中華人民共和国第9局(核兵器製造機
関)を設置し、チベット族自治区に核開発のための第9学会(北
西核兵器研究設計学会)を設立しています。第9学会のコードナ
ンバーは「211」です。そして、1964年に中国は、次の2
つの核に関する実験に成功しているのです。
─────────────────────────────
 1.第9学会で開発された初の中国核兵器(コードネーム=
  596)が、核爆発に成功したこと
 2.核弾頭を装備した東風2号Aミサイルが発射され、標的
  上空569メートルで爆発したこと
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/051]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩より恐ろしい核指導者は毛沢東―米外交専門誌
  ───────────────────────────
   2017年7月18日、米華字メディアの多維新聞による
  と、米外交専門誌ナショナル・インタレストはこのほど、北
  朝鮮の最高指導者である金正恩氏より恐ろしい核指導者は、
  中国の毛沢東だと指摘している。
   北朝鮮は、2017年7月4日、大陸間弾道ミサイル(I
  CBM)の発射実験を行った。米国、韓国、日本などは金正
  恩の核武装計画により絶え間ない脅威にさらされている。だ
  が歴史上、金正恩が及ばない核指導者が少なくとも1人は存
  在した。それが中国の毛沢東だ。
   毛沢東が数十年間戦争と混乱に陥った中国に統一をもたら
  した変容的で歴史的な指導者であることは疑いようのない事
  実だ。だが彼は権力を引き受けた瞬間から、核戦争に「無邪
  気な」態度を取るようになった。
   この中国の革命的指導者は、米国と敵対するだけでなく、
  重要な大国のソ連との力比べも惜しまなかった。中ソの紛争
  は1969年、中国軍がソ連の国境警備隊を襲い、50人の
  兵士を殺害した際に頂点に達した。毛沢東ははるかに強力で
  核武装した国との戦争の危険にさらされた。毛沢東の最も恐
  ろしい側面は、中国が1964年に最初に実験した核兵器に
  関する彼の見解であった。ソ連は当初、中国が独自に核兵器
  を建設するのを支援することに同意した。だが、毛の核戦争
  に対する「遠慮のない」態度に対する懸念から、支援を打ち
  切っている。          https://bit.ly/2Fijyvm
  ───────────────────────────

銭学森と毛沢東.jpg
銭学森と毛沢東
    
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2019年03月20日

●「『ヒト』において絶対優位の中国」(EJ第4971号)

 ヒト、モノ、カネといいますが、このすべてが揃わないと、科
学技術は発達しないのです。今の中国には、このすべてが揃って
います。それに、民主主義国にはある手続きやルールという面倒
なものが社会主義国にはない。トップが決断すれば、ヒト、モノ
カネはすべて揃うのです。
 この差が宇宙技術において、よく反映されています。1957
年10月4日のことです。ソ連が人類初の人工衛星「スプートニ
ク1号」の打ち上げに成功したのです。これによる米国をはじめ
とする西側諸国のショックは、計り知れないものがあり、それを
「スプートニクショック」と呼んだのです。
 それまで米国は、自国を「宇宙開発のリーダーであり、それゆ
えミサイル開発のリーダーでもある」と信じており、いささかも
疑っていなかったのです。米国も人工衛星計画「ヴァンガード計
画」を進めていましたが、うまくいっていなかっただけに、ソ連
の人工衛星計画の成功は、全米をパニックに陥れたのです。
 それ以来、宇宙技術、少なくとも月探査技術に関しては、米国
は、中国、ロシアに続く3位に甘んじています。中国は「宇宙を
制するものは全世界を制す」と考えており、ここ5年ぐらいでこ
の分野の真の覇者が決まると考えられます。
 中国が最大の競合相手の米国に対して、絶対的優位に立つもの
があります。それは「ヒト」、つまり人口です。現在、中国の人
口は次に示すように世界一であり、2位のインドとつば迫り合い
をやっています。
─────────────────────────────
     中 国 ・・・・・ 13億9008万人
     インド ・・・・・ 13億1690万人
     米 国 ・・・・・  3億2589万人
                  https://bit.ly/2udXprQ
─────────────────────────────
 中国と米国の人口の差は10億人以上あります。この差は絶対
的なものであり、米国は対抗不能です。もちろん数ばかりが多く
てもそれは必ずしも優位性にはなりません。「大而不強」という
言葉もあり、人材の質が問われます。そこで、カギを握るのは、
「留学生制度」です。
 どこの国も留学は国として奨励していますが、民主主義国の場
合、何を学び、将来留学で得た経験や技術を何に使うかはあくま
で本人の自由です。それらが結果として国のためになればよいと
いう考え方に立っているからです。
 しかし、中国のような社会主義国では、彼らが自ら学びとるこ
とに加えて、国が何らかの目的と任務を与え、それらの情報収集
をさせることも不可能ではないと思います。あくまで表向きは、
合法的な情報収集ですが、最初からそういう意識を持って留学す
れば、それは国として物凄い情報収集パワーになります。それも
数が多ければ多いほど効果的です。
 それでは、中国では、どのくらいの人が留学しているのかにつ
いて調べてみると、2017年の中国人出国留学人数は、60万
8400人、初めて60万人を突破しています。前年比11・7
%のプラス、留学生資源国トップの座を維持しています。
 博士号取得者は22万7400人、14・9%のプラスです。
出国留学の目的国は、欧米の先進国に集中しています。2017
年の特徴は、“一帯一路”沿線国家群への留学が増加しているこ
とです。合計6万6100人、前年比15・7%の伸びです。中
国人出国留学生の留学先トップ10を示すと、次のようになって
います。
─────────────────────────────
     1.韓国       6.ロシア
     2.タイ       7.日本
     3.パキスタン    8.インドネシア
     4.米国       9.カザフスタン
     5.インド     10.ラオス
                  https://bit.ly/2TSIMZj
─────────────────────────────
 ちなみに、日本人による海外留学数についても触れておくと、
文科省発表のデータによると、数は多くはないものの、増加はし
ています。2017年度は10万5301人であり、対前年度比
で8448人増えています。留学先・留学者数のベスト5は次の
通りです。
─────────────────────────────
      1.米国       19527人
      2.オーストラリア   9879人
      3.カナダ       9440人
      4.中国        7144人
      5.韓国        7006人
                  https://bit.ly/2TGJ3iR
─────────────────────────────
 国家としてハイレベルの人材を増やすには、基本的には2つの
方法があります。
─────────────────────────────
    1.自国の若い人材を優秀な人材に育て上げる
    2.諸外国から優秀な人材を積極的に招致する
─────────────────────────────
 どこの国でも上記の2つについては、当たり前のようにやって
いることですが、中国はこれらの2つを、かなり緻密な計画を立
てて積極的にやっています。
 「1」に関しては、中国は留学生制度を、他国よりも積極的に
活用し、緻密な計画を立てて優秀な人材づくりを行っています。
 「2」に関しては、2008年からの「千人計画」、2012
年からの「万人計画」によって、文字通り、国を上げて人を集め
ており、かなりの成果を上げています。何といっても「ヒト」な
のです。       ──[米中ロ覇権争いの行方/052]

≪画像および関連情報≫
 ●「世界中の留学生の4人に1人」を占める中国人
  ───────────────────────────
   飲食店やコンビニなど、日本の至る所でアルバイトに励む
  中国人留学生を目にする機会はすこぶる多い。独立行政法人
  日本学生支援機構(JASSO)が2016年3月に発表し
  た『平成27年度外国人留学生在籍状況調査結果』によれば
  2015年(平成27年)に日本に滞在した外国人留学生の
  総数が20万8379人であるのに対して、中国人留学生は
  9万4111人で、実に全体の45・2%を占め、国別で第
  1位となっている。第2位のベトナム人留学生が、3万88
  82人で18・2%であるから、中国人留学生の多さは突出
  している。
   12月12日に“中国社会科学院文献出版社”から出版さ
  れた『中国留学発展報告(2016)』によれば、2015
  年に中国は海外留学生が最も多い国になったという。同書は
  “中国与全球化智庫(中国グローバル化研究センター、略称
  :CCG)”が、2015年における中国の海外留学の動向
  を研究した結果を取りまとめた報告書である。報告書の要点
  は以下の通り。
  【1】2015年における中国の海外留学生は126万人で
  全世界の海外留学生総数の25%を占めた。これは、世界中
  の海外留学生の4人に1人が中国からの留学生であることを
  意味する。           https://bit.ly/2CptYrr
  ───────────────────────────

プートニク打ち上げ成功記念切手.jpg
プートニク打ち上げ成功記念切手
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2019年03月22日

●「中国の超大規模な『人狩り』作戦」(EJ第4972号)

 習近平政権がいかに留学生制度──とくに留学後に中国に帰国
させることに力を注いでいるかを示すデータがあります。遠藤誉
氏の本に出ているものですが、以下に要約します。
 1978年の改革開放後に中国を出国した中国人の留学生の数
は、516万4900人、そのうち、学業終了後に帰国した留学
生の数は、2017年の時点で、313万2000人です。つま
り、40年かけて約6割の人が帰国したことになります。
 ところで、習近平政権になってから帰国した中国人留学生の数
は231万3600人です。習近平政権は2012年に発足して
いるので、約6年間でこの人数が帰国したことになります。パー
センテージでは、40年かけて帰国した313万2000人の約
74%が6年間で帰国したことになります。
 このデータを発表したのは、中国共産党機関紙「人民日報」で
すが、習政権になってからの留学生の帰国率はきわめて高く、そ
れだけ中国人民が習政権に期待している証であると「人民日報」
は誇らしげに強調しています。
 中国は既に追いつき、追い抜くべきターゲットとして、はっき
りと米国を見据えています。それは、マラソンで、はるか後方か
ら追い上げてきて、トップを走る米国の背中が見えている状況に
よく似ています。習近平氏は、2012年11月15日に、中国
共産党中央委員会総書記に選出された半月後、中国国家博物館の
「復興の道」展を視察したときに、次の発言を行っています。こ
れが「中国の夢」といわれるものです。
─────────────────────────────
 誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在み
なが「中国の夢」について語っている。私は「中華民族の偉大な
復興」の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。
この夢には数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人
民全体の利益が具体的に現れており、中華民族一人ひとりが共通
して待ち望んでいる。        https://bit.ly/2HHClBQ
─────────────────────────────
 そして、2013年6月8日、習近平主席は、オバマ米大統領
と米カリフォルニア州サニーランドで非公式会談を行ったさい、
「中国の夢」について次のように説明しています。
─────────────────────────────
 中国の夢は国家の富強、民族の振興、人民の幸福であり、協力
発展、平和、ウィンウィンの夢でもある。それは、米国のアメリ
カンドリームや各国国民の夢とは共通している。
                  ──習近平中国国家主席
                  https://bit.ly/2HHClBQ
─────────────────────────────
 習近平主席は言葉を慎重に選びながらも、米国との「ウィンウ
インの夢」を実現し、二大大国としてやっていきたいという気持
ちに溢れています。それは、米国を射程にとらえたという自信か
ら来るものです。そのためには、何といっても「人」──頭脳を
集める必要があるということで、留学生として送り出したからに
は、中国に戻ってもらえるよう研究施設を増設し、そのための報
酬、研究開発費などの予算を積み増しているのです。
 優秀な人材をいかにして増やすか──これまで中国はこのこと
に力を入れ、とくに胡錦濤政権時代からは、具体的な人集め政策
を実施しています。それが2008年からスタートした「千人計
画」です。この計画の英語表記は次のようになっいます。
─────────────────────────────
    The Recruitment Program of Global Experts
      グローバル人材のリクルート・プログラム
─────────────────────────────
 3月18日のEJで述べたように、中国には、後にも先にもノ
ーベル賞受賞者は3人しかいないのです。これでは、二大大国と
して米国と肩を並べるにはほど遠い状態です。しかし、それは国
籍にこだわっているからであって、「中国系」まで含めるのであ
れば話は別です。
 楊振寧という学者がいます。1922年に安徽省で生まれてい
るので、中国人です。1957年にノーベル物理学賞を受賞して
いますが、楊振寧の国籍は「中華民国」であって、「中華人民共
和国」ではないのです。したがって、中国人が取得したことには
ならないのです。しかも1964年には、楊振寧はアメリカの国
籍を取得しています。
 これに目をつけたのが、胡錦濤主席(当時)です。胡錦濤主席
も安徽省であるところから、胡錦濤政権によるさまざまな働きか
けによって、2003年に、中国に呼び戻すことに成功していま
す。そして2008年に「改革開放30周年記念における中国に
最も影響を与えた海外専門家」として表彰を受けています。そし
て、最新の情報によると、2016年末において、中国籍に戻っ
ています。
 このことがきっかけになって、千人計画の対象者には「国籍を
問わない」という項目が入ったのです。国籍がどこであれ、親中
国の学者を中国に集めることに成功すれば、次世代を育てるのに
役立つからです。このことに関して、遠藤誉氏の本には、楊振寧
についての次のエピソードが出ています。
─────────────────────────────
 当時国家主席だった胡錦濤が直接楊振寧に会ったときに、彼は
大学院ではなく学部の学生に講義をしていた。それを目の当たり
にした胡錦濤は感動し、「こんなご高齢なのに」と言ったところ
「いえ、科学者は自分の知識を次世代に伝えてこそ、その役割を
果たすことができるのです。そうでないと、科学の発展は、そこ
で止まります」という回答が戻ってきたのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/053]

≪画像および関連情報≫
 ●楊振寧が昨年末に中国国籍に/理科系のノーベル賞は2人
  ───────────────────────────
   1957年に中国系の物理学者、楊振寧と李政道の2名が
  ノーベル物理学賞に輝いた。研究対象は「パリティ対称性の
  敗れ」だが、詳しい事は分からない。楊振寧は中華民国安徽
  省合肥市、李政道は中華民国江蘇省蘇州市の出身だ。いまな
  ら大陸中国出身だが、当時は中華民国だから、大陸中国人の
  受賞ではない。
   というわけで理科系の学者で中国人として初のそして唯一
  のノーベル賞は、2015年に大村智と同時に医学・生理学
  賞の屠ゆうゆうだ。抗マラリア薬の開発が評価された。しか
  しなぜか彼女は中国では冷遇されている。
   しかし最近になって中国人ノーベル賞受賞者が一人増えて
  2人になった。先ほどの楊振寧が外国籍を放棄し中国籍にな
  り、中国科学院士になったのだ。
   ノーベル賞受賞者の国籍など本来はどうでもいいことだ。
  科学の発展に寄与すれば誰であっても構わない。どの国での
  受賞者が何人いるなどはノーベル賞の本来の趣旨からはそぐ
  わない議論だ。それでもある国から出ればその国の人は嬉し
  いし喜びだし誇りでもある。
   楊と李の受賞には、もう一人の中国系科学者の功績も大き
  い。パリティ対称性の破れを実験で確かめたのは呉健雄とい
  う女性科学者で上海出身だ。本来なら彼女も同時にもらって
  おかしくないところだ。     https://bit.ly/2Wh1cAO
  ───────────────────────────

「中国の夢」を語る習近平国家主席.jpg
「中国の夢」を語る習近平国家主席
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2019年03月25日

●「人材を集めるにはその背景がある」(EJ第4973号)

 胡錦濤政権が2008年から実施している「千人計画」の募集
要領は次のようになっています。
─────────────────────────────
 ◎「千人計画」募集要領
  55歳以下で国籍を問わず、著名研究機関や大手企業で上
 級管理職を経験した人物、海外で博士学位を取得した人物、
 また、中国が求めるハイレベルイノベーション創造人材など
 を対象とする。
─────────────────────────────
 募集要領では、外国人を含め、幅広く人材を求めているようで
すが、当面中国籍で海外、とくに米国の大学や研究機関などで働
いている人物をピックアップし、説得して中国に帰国させようと
しているのです。そのさいの処遇に関しては次の通りです。
─────────────────────────────
 気になる処遇の方だが、まず着任時に100万元(執筆時のレ
ートで1645万円ほど)の一括補助金(所得税免除)が出て、
その後は、たとえば日本と比べるなら、ほぼ日本における給料の
2倍近い月収を出す。5年以内の中国国内における収入の内、住
宅手当、飲食手当、引越し代、票訪問にかかる経費、子女の教育
費などについて免税となる。毎招致人材の雇用機関が、招致人材
の帰国あるいは入国前の収入水準を参考に、本人と協議し、合理
的な賃金額を決めるとなってはいるが、中国人で「祖国愛が強い
人」は別だが、外国人は、表的には給料がよほど良くない限り動
かない。したがって、給料は「魅力的な程度に」いいと考えてい
いだろう。             ──遠藤誉著/PHP/
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 このような処遇もさることながら、研究者にとって関心がある
のは「研究費」です。これに関しては、高いレベルの人材を獲得
しようと、中国の各地方政府で競争になっています。これについ
て、遠藤誉氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 2017年3月24日付の「光明日報」(1949年6月に創
刊された中共中央宣伝部直轄の新聞)は、研究者に対する史上最
高の待遇として、「年収500万元(約8225万円)、科研費
3000万元(約5億円)」という金額が現れたと報じた。
 それも地方の大学で、たとえば華北水利水電大学、杭州電子科
技大学天津工業大学などで、天津は別だが、わりあい地方に分散
している。            ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「千人計画」に基づいて集めた各領域におけるハイレベル
の人材は、2012年7月の時点で、千人の倍以上の2263名
に達しています。そこで2011年8月からは、「千人計画」の
なかで「外専千人計画」を加えて、外国国籍の専門家の招聘にも
力を入れています。既に2014年の時点で、242人の招聘に
成功しているといわれています。
 国籍については、米国が最も多く、シンガポール、英国、カナ
ダ、ドイツ、デンマーク、オーストラリア、そして日本と世界中
から招聘しているのです。さらに、2012年8月には「万人計
画」が発足しています。「万人計画」は、向こう10年間と期限
が切られているので、2022年までに達成を目指すことになり
ます。2012年から発足した習近平政権は、「万人計画」の達
成には、強い意欲を示しています。
 それは、2012年11月に総書記に就任したばかりの習近平
氏が、12月5日に、中国で研究に従事している外国人専門家を
招集して、北京で座談会を開いていることでも習政権がこれに力
を入れることは明らかであったのです。
 このように、中国では、今や国を上げて、ハイレベルの人材集
めに狂奔していますが、これには、米国に追い付き、追い越すと
いう目標達成のためだけではなく、その背景として、中国の強い
危機感があるのです。それは、「人材の持続性」を将来的に確保
するための人材戦略です。
 それは、中国の文化大革命の結果生じたもので、遠藤誉氏はこ
れについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 なぜなら中国には、1966年から76年にかけて、教育機関
が閉鎖されていたという、人材育成に関する「空白の10年間」
がある。したがって政界だろうと経済界だろうと、年齢的にその
時期にさしかかった若者たちは教育を受けていなくて、「人材の
空白」があるのだ。1978年12月に改革開放が宣言され、中
国国内の大学も77年から再開されたものの、知的欲求に餓えて
10年間も肉体労働に従事させられていた頭脳たちは、まるで堰
を切ったように一斉に海外に出てしまった。国費留学生の出国が
認められたのは1981年で、私費留学生は83年からである。
 だから1996年の第9次5ヵ年計画から、海外に散らばった
頭脳たちを呼び戻す「中国全球人材信息網」というネットワーク
を形成して、留学人員創業パークに招き入れたのだが、これにも
やがては限界が来る。       ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 毛沢東の愚かな10年におよぶ文化大革命によって教育を奪わ
れた世代は、物凄い知的欲求に衝かれて海外に飛び出していった
人たちであり、根性があり、それぞれ優秀な人材に育った人が多
いのです。だからこそ、中国政府は、それらの人材を中国に帰国
させようとしてやっきとなっているのです。これが「千人計画」
「万人計画」の背景にあるのです。
 企業の人材の採用でもそうですが、景気が悪いからといって、
採用しなかったり、採用を大幅に絞ると、人材の持続性が切れ、
企業の成長力に支障をもたらすことになるのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/054]

≪画像および関連情報≫
 ●国内ハイレベル人材育成「万人計画」名簿第一弾発表
  ───────────────────────────
   中国中央人材工作協調グループ弁公室はこのほど、国家ハ
  イレベル人材特別支援計画(通称「万人計画」)の対象者名
  簿第一弾を正式に発表したことを明らかにした。人民日報が
  報じた。
   「万人計画」は、「千人計画(海外ハイレベル人材招致計
  画)」と並行して進められている、国家級重大人材誘致プロ
  ジェクトで、対象者第一弾に選ばれたのは、合計277人。
  277人の内訳は「傑出した人材」6人、「科学技術イノベ
  ーションのリーダー型人材」72人、「傑出した青年人材」
  199人。このほか「科学技術起業分野のリーダー型人材」
  「哲学・社会科学分野のリーダー型人材」「大学教学分野の
  優秀教員」「百千万プロジェクトのリーダー型人材」の4タ
  イプの人材についても、すでに第一回評定・選抜が終了して
  おり、最終評定・選抜や公示などの手順を経て近く公表され
  る。「万人計画」の対象者選抜は、国内外での実績を十分に
  考慮し、「成功の経験を参考とし、『ベスト・オブ・ザ・ベ
  スト』を選抜する」という原則にのっとり、度重なる推薦を
  通じ、厳しい篩分けによって進められた。今回選ばれた「傑
  出した人材」と、「科学技術イノベーションのリーダー型人
  材」は全員、「863計画」や「973計画」など国家重大
  科学研究計画のチームリーダーや、ハイレベル革新チームの
  リーダーを担当している。    https://bit.ly/2TwKzPO
  ───────────────────────────

中国文化大革命.jpg
中国文化大革命
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2019年03月26日

Electronic Journal 第4974号/「中国は米国に深く手を入れている」

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 □□□□□□□□ Electronic Journal  □□□□□□□□
 □□□□□□□□ No.4974 2019/03/26  □□□□□□□□
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 ■■■■■■■■■ Hirano Office ■■■■■■■■■
 ■■■■■■■ h_hirano@d1.dion.ne.jp ■■■■■■■
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 2016年の米国大統領選挙──習近平政権としては、選挙に
おいて、ヒラリー、トランプ、どちらの候補者が勝っても対応で
きるよう両様の構えをとっていたのです。とくにトランプ大統領
が実現したとき、何が起きるか、中国への影響はどうか、につい
て、慎重に分析し、準備していたのです。
 習政権は、トランプ氏が選挙中に次のようにいっていたことを
重視し、あらかじめ対策を立てています。
─────────────────────────────
        中国を為替操作国に指定する
─────────────────────────────
 このため習近平主席は、自身の母校である清華大学経済管理学
院にある「顧問委員会」に、米国の名だたる企業のトップに委員
になってもらうことによって強化し、トランプ大統領が本当に中
国を為替操作国に指定しようとしたときに、力になってもらおう
としていたフシがあります。この顧問委員会について、遠藤誉氏
は自著において、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この顧問委員会は、清華大学の出身である朱鎔基元首相(国務
院総理)が2000年に設立させたもので、もともとは90年代
後半に朱鎔基首相が強力に推進していたWTO(世界貿易機関)
に加盟するための経済貿易研究が目的だった。
 顧問委員会の名誉主席は今も朱鎔基元首相だが、そこにはアメ
リカの大手企業のCEOが数十名も入っている。たとえば、ゴー
ルドマンサックスの元CEOで、元米財務長官だったヘンリー・
ポールソンやJPモルガン・チエースのCEOであるジュイミー
・ダイモンなどがおり、習近平は2016年になって、さらに新
しくテスラ・モーターズやスペースXのCEOであるイ一口ン・
マスク氏を委員に入れた。ザッカーバーグも新委員だ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 遠藤氏の本には、顧問委員会の最新のリストが掲載されていま
すが、それを見ると、遠藤氏が上げた人たちの他にも、米国の著
名な金融企業、IT企業などのトップが、ズラリと名前を並べて
いるのです。
 ティム・クックアップルCEO、マイケル・デル/デルテクノ
ロジー会長兼CEO、インドラ・ヌーイペプシコ会長兼CEO、
ジニ・ロメッティIBM会長兼社長兼CEO、それに、カルロス
・ゴーン氏の名前まであります。
 遠藤氏によると、なかでもシュテファン・シュワルツマン/ブ
ラックストーングループ共同創立者およびCEOが委員にいるこ
とは重要であるといっています。ブラックストーングループは投
資ファンドです。シュテファン・シュワルツマン氏は「蘇世民」
という中国名を持つほど、親中国派の人物で、習近平氏とは大の
仲良しであり、トランプ政権が誕生してしばらくの間、「大統領
戦略政策フォーラム」という組織の議長をしていたほどです。
 ちなみに、イーロン・マスク氏もこのシュワルツマン氏がフォ
ーラム・メンバーに選んだのですが、イーロン・マスク氏がトラ
ンプ政権の移民政策を批判したことが原因で、フォーラム自体が
撤廃されてしまっています。しかし、2人とも顧問委員会の委員
にはしっかりと残っています。
 注目すべきことは、シュワルツマン氏は精華大学のなかに「蘇
世民書院」という名の機関を立ち上げていることです。この機関
は、各界のトップリーダーを目指すグローバル人材を育てること
を目的としています。これについて、遠藤誉氏の本には、次の説
明があります。
─────────────────────────────
 アメリカを中心として、世界トップの経営者を教授として招聘
し、書院を卒業したのちに関連したアメリカの大企業で実習させ
世界トップレベルの経営者に育てていく。顧問委員会の多くの委
員が、アメリカのCEOなどなので、その企業に行くケースが多
い。(中略)
 蘇世民書院で教えている教授陣の多くは、アメリカのハーバー
ド大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、イェ
ール大学、カルフォルニア大学などの名門大学や、イギリスのオ
ックスフォード大学やウェストミンスター大学あるいは、シンガ
ポールのシンガポール国立大学の教授や名誉教授など、錚々たる
メンバーが30名ほど揃っている。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、どうやら、習近平主席の目論見は外れたようです。ト
ランプ大統領は、規格にはまらない大統領であり、ボールは習政
権が予想していない角度から飛んできたのです。それは、米国の
知的財産の保護という視点からの中国批判です。それは、ペンス
副大統領の演説(以下、参照)に明確にあらわれています。
 この問題は、小手先の対応策では収めることは不可能です。ト
ランプ政権が続いて、この方向からの攻撃が強まると、上記蘇世
民書院などは確実に槍玉に上がります。
─────────────────────────────
 中国政府は、21世紀の経済の圧倒的なシェアを占めるために
官僚や企業に対し、米国の経済的リーダーシップの基礎である知
的財産を、あらゆる必要な手段を用いて取得するよう指示してき
ました。中国政府は現在、多くの米国企業に対し、中国で事業を
行うための対価として、企業秘密を提出することを要求していま
す。また、米国企業の創造物の所有権を得るために、米国企業の
買収を調整し、出資しています。最悪なことに、中国の安全保障
機関が、最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒
幕です。そして、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間
技術を軍事技術に転用しています。  https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/055]

≪画像および関連情報≫
 ●中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー/沈才彬
  ───────────────────────────
   シュワルツマンは、アメリカ人の名前で、ニューヨークに
  本社を置く米国最大の投資ファンド会社『ブラックストーン
  グループ』のCEOを務めるスティーブン・シュワルツマン
  氏のこと。蘇世民は氏の中国語名である。清華大学には20
  学院、54学部があるが、人の名前で学院や学部を命名した
  のは初めてである。
   外国人8割、世界名門校の教授陣による英語授業、全寮制
  食事無料、最高額奨学金支給、入学のための国際旅費全額支
  給など、清華大学に前例がない事柄が多く、神秘なる学院と
  言われる。なぜ米国人の名前で学院を命名したか?シュワル
  ツマン学院は一体どんな学院?何のために設立し、どんな特
  徴を持つか?筆者は今年7月下旬、多くの疑問を持ちながら
  清華大学シュワルツマン学院を訪れた。
   広大な清華大学キャンパス。周囲を歩けば、1時間以上か
  かる。正門から北方の奥に向かい、約40分歩くと、緑に囲
  まれる灰色のレンガ造りの低層ビルが見えてくる。入口付近
  の壁には「SCHWARZMAN COLLEGE」と「蘇
  世民書院」と書いてある。ここはまさに神秘なるシュワルツ
  マン学院だ。学院関係者の紹介によれば、2013年ブラッ
  クストーングループCEOを務めるスティーブン・シュワル
  ツマン氏は1億ドルの私財を清華大学に寄付し、毎年200
  名の外国留学生を支援する奨学金プロジェクトを設立した。
  これはこれまで中国の大学が海外から受け入れた最大規模の
  寄付金でもある。        https://bit.ly/2FxncSs
  ───────────────────────────

蘇世民書院交流午餐会
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2019年03月27日

●中国のある有名な教授の自殺事件(EJ第4975号)

 2018年12月1日のことです。この日、アルゼンチンのブ
ェノスアイレスで、米中首脳会談が開催され、米中貿易戦争の一
時休戦が決まっています。同時にこの日は、ファーウェイの孟晩
舟副会長兼CFOが、カナダで逮捕されています。
 これらのニュースは、世界中に大々的に報道されたので、誰で
も知っています。しかし、その同じ12月1日に、スタンフォー
ド大学の張首晟教授が亡くなっていることについては、一部の人
しか知らないはずです。死因は自殺と見られています。しかも、
これら3つの事件は、無関係ではなく、すべてがつながっている
のです。
 張首晟スタンフォード大学教授とは何者でしょうか。
 張首晟氏は、1963年に中国・上海で生まれ、15歳で上海
の名門・復旦大学に入学し、ドイツ留学後、ニューヨーク州立大
学で物理学博士号を取得しています。33歳で米スタンフォード
大学の教授になり、トポロジカル絶縁体と量子スピンホール効果
で画期的成果を上げ、「将来のノーベル賞候補」といわれるよう
になっていたのです。
 米科学誌「サイエンス」は、張教授率いるチームが2006年
に提唱した量子スピンホール効果について「世界10大成果」の
1つと評価するほど、価値のある素晴らしいものだったのです。
 ところが、12月1日、カルフォルニア州サンフランシスコ市
の大学構内で、飛び降り自殺をしたとされています。まだ55歳
の若さであり、研究者として前途洋々であっただけに、その死を
訝る人が多くなっています。
 2018年4月、グーグルでの張首晟教授の講演(英語)の映
像があります。
─────────────────────────────
 ◎ITの将来──量子コンピューティング、AI、ブロック
  チェーンについて  ──張首晟スタンフォード大学教授
                 https://bit.ly/2TSpsMT
─────────────────────────────
 これほどの実績を上げている学者を中国が放っておくはずがあ
りません。張首晟氏はスタンフォード大学教授とともに、習近平
主席の母校である北京・精華大学の客員教授や、江沢民国家主席
の長男が学長を務める上海科技大学の特任教授も務めていたので
す。したがって、当然「千人計画」のメンバーに選ばれていたこ
とは間違いないと思われます。
 それどころか、この張首晟教授こそ「千人計画」の発案者の1
人ともいわれているのです。それに加えて、単なる研究者とは思
えないこともあります。それは、習近平氏が副主席のときに創設
された「国家一等功」賞を次のメンバーとともに受賞しているの
です。この賞を授与されるということは、国家に多大な貢献をし
ていることの証になります。したがって、「千人計画」の対象者
になっていることは明らかです。
─────────────────────────────
  1.香港「フェニックステレビ」の劉長楽会長兼CEO
  2.「アリババグループ」ジャック・マー(馬雲)会長
  3.中国IT企業「テンセント」のポニー・マーCEO
  4.ファーウェイ(華為技術)の創業者/任正非CEO
  5.張首晟スタンフォード大学教授/精華大学客員教授
─────────────────────────────
 トランプ政権になってからは、FBIが「千人計画」の対象者
に対する捜索を開始し、「知財泥棒」として逮捕されるケースが
多くなり、海外にいる中国人の間では、「千人計画」ならぬ「入
獄計画」と揶揄されるようになったのです。
 2018年6月には、米国防総省は、下院軍事委員会の公聴会
で、次の警告を行っています。
─────────────────────────────
 超ハイレベル人材選抜プログラム(「千人計画」)の目的は
 米国の知的財産を獲得することにある。  ──米国防総省
─────────────────────────────
 一体何が起きたのでしようか。
 これに関連する情報は、ネットに散見されますが、「大紀元」
の情報を引用します。この「大紀元」というメディアは、米国の
華僑によって設立され、新聞のかたちで主に中国人に向けて配信
されますが、中国共産党に対立するスタンスでの、中国国内事情
の暴露報道が特徴的です。
─────────────────────────────
 サウスカロライナ大学の謝田教授は3つの情報源から得た話と
して、「ヒューストンの研究機関にFBIが訪れた。その直後、
複数の中国人研究者が解雇された」と大紀元に伝えた。在米学者
の間では「FBIは千人計画のリストに基づいて違反者を摘発し
ている」との話が広がっている。
 テキサステック大学は「千人計画に参加するアメリカ人教員を
処罰する」との声明を発表し、同大で客員教授に就任予定の中国
人教授の招へいをキャンセルした。
 そんな中、ネット上の複数の投稿によると、中国教育部は各大
学に対して、「千人計画」が含まれた情報をウェブサイトから削
除するよう通達したという。「友人が通う大学では、千人計画に
リクルートされたある教授に関する情報が全て削除された」「国
内では、(当局が)大規模に『千人計画』の4文字が含まれた投
稿や、リストに入っている研究者の情報を削除している。なぜだ
ろう」。SNS微信(ウィーチャット)の投稿によると、教育部
は、その後、各大学のウェブサイトを点検したという、徹底ぶり
だった。              http://exci.to/2HVy4e6
─────────────────────────────
 このようなFBIによる捜査のなかで、2018年12月1日
ファーウェイの孟晩舟副会長が逮捕され、FBIの追及に追い詰
められたと思われる張首晟教授が自殺をしているのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/056]

≪画像および関連情報≫
 ●「千人計画」のリクルーターになる/財経新聞
  ───────────────────────────
   日本のシリコンバレーと称される筑波で科学技術を学び、
  日本政府から6億円ほどの支援を得てハイテク分野の研究で
  日本と中国で成果を収めてきた中国人の科学技術者がいる。
  中国に帰国した彼は現在、中国共産党政府が、海外のハイレ
  ベルの人材を招聘するプログラム「千人計画」のリクルータ
  ーとなり、人材をスカウトしている。
   中国共産党中央組織部が率いる、海外ハイレベル人材招致
  「千人計画」は2008年にスタートした。当局が公開する
  資料によると、研究職、技術者、大企業での知的財産、技術
  保護の能力など、海外のハイレベルの人材を中国に高待遇で
  招き入れ、そのスキルを中国へ「輸入」する人材計画だ。
   人材の募集要項によると、55歳以下で国籍を問わず、著
  名研究機関の研究者や大手企業で上級管理職を経験した人物
  また中国が求めるハイレベルイノベーション創業人材などを
  対象としている。
   対象者はかなりの厚遇で迎えられる。中央財政からは対象
  人材に一人当たり100万元(約1400万円)の国家奨励
  金とする一括補助が受けられるほか、社会保障制度が適応さ
  れ、配偶者の就業先や子女の就学も希望に応じて手配される
  という。また収入水準も雇用機関と協議できるとしている。
                  https://bit.ly/2U69air
  ───────────────────────────

4975-ショーチェン・ザン博士.jpg
ショーチェン・ザン博士


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2019年03月28日

●「中国の留学生管理は徹底している」(EJ第4976号)

 1978年に改革開放を実施して、中国で「4つの近代化」を
成し遂げようとしたケ小平は、そのときから「諸外国から情報を
集める」ことを徹底しようと考えていたといいます。「4つの近
代化」とは次の4つです。
─────────────────────────────
        1.  「工業」の近代化
        2.  「農業」の近代化
        3.  「国防」の近代化
        4.「科学技術」の近代化
─────────────────────────────
 そのさい、外交方針としては、「韜光養晦」の方針を徹底させ
たのです。「韜光」とは名声や才覚を覆い隠すこと、「養晦」は
隠居するというのが本来の意味ですが、一般には、爪を隠し、才
能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容する言葉とされています。
そ-うでないと、情報は集まらないと考えたからです。
 具体的には、世界中に散らばる中国からの留学生を中心とする
情報収集、中国に進出する外国企業からのノウハウの収集です。
それは、実に巧妙なものであり、それが現代の中国を作ることに
貢献したのです。しかし、現代の中国の習近平政権では、「韜光
養晦」の方針のマントをかなぐり捨て、あらゆる方面に中国の力
を誇示するようになっています。
 それでは、留学生を通じて、どのようにして情報を収集するの
でしょうか。その具体的な管理方法について遠藤誉氏は、自らの
体験から、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 世界各国にいる中国人留学生は、各大学で、「中国留学生学友
会」というものを結成していて、学友会の会長は各国に駐在して
いる中国大使館教育処と連携を取り、大学における中国人留学生
の基本情報を提供している。つまり、どの国のどの大学における
中国人留学生も、全員が中国大使館教育処の管轄下にあるという
ことになる。
 この情報を一瞬で、中国中央政府の国家教育部に報告すれば、
中国政府中央は全世界にいる中国人留学生の情報を掌握し、監視
あるいは管轄することが可能となる。中国人留学生の安全を守る
ため、と言われれば何も言い返せないが、目的がそれだけではな
いことは、誰の目にも明らかだろう。小さな大学とか、その大学
にあまり多くの留学生がいない場合は例外だが、たとえば日本の
国立大学などは、すべてこの管轄下にあるということは言える。
それは大学院に進んでも同じで、教育機関を卒業し、その国の企
業で働いていたり、あるいはその国で起業している人たちは、国
家人事部という中央行政省庁が管轄する。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 これで分かるように、中国では、留学生が、どこで、どのよう
な研究をし、どのような仕事を得て、現在どのような地位に就き
どういう成果を上げているか、完全に把握しているのです。
 中国では、留学生のことは、「留学人員」、もしくは「海外学
子」という言葉で呼んでいます。遠藤誉氏によると、2001年
6月に次のようなイベントが開かれているのです。
─────────────────────────────
  期日:2001年6月29日
  内容:「留学人員科学技術交流会」
  主催:瀋陽市人民政府/科学技術委員会工業科学技術処
─────────────────────────────
 このイベントでは、事前にウェブサイトに出ている「難題招標
表」に基づいて、留学人員は招標する必要があります。「招標」
とは「入札」と同じ意味です。
 「難題招標表」には、瀋陽市にある重点企業が抱える「難題」
──文字通り、なかなか解決できないでいる課題が載っているの
です。留学人員は、そのなかで、自分が解決できると思われる難
題をマーキングし、提供できる技術、専門分野、連絡先、現職な
どを記入するのです。これが「招標」です。企業側は、応募して
きた留学人員を検討し、最も適切と思われる「頭脳」を落札し、
その留学人員には、科学技術交流会に出席する資格を与える仕組
みになっています。
 その交流会に実際に出席した遠藤誉氏によると、儀式は瀋陽体
育館に約7000人集めて行われ、中国人民解放軍儀仗隊による
国旗掲揚まであるものものしいものです。そして、別会場で行わ
れた交流会の様子を遠藤氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 盛大な開幕式が終わると、会場は藩陽市の国家ハイテク技術産
業開発区にある施設(文字が難しく表示できないのでこの表現を
使うことにする)に移った。「難題招標表」だけで何組かは海外
にいた段階で「落札」してしまったらしい。これを「得標」と称
する。地方政府が資金援助をするので、堂々と公開で技術提供の
調印式を行う。
 いかにも「羽ばたきます」ということを象徴したような、翼を
空に広げた造りの21階建ての施設には、インターネットで見た
「難題招標表」よりも詳細な人材募集のポスターが並んでいる。
あの「難題招標表」リストに載っていた以外の技術を求める人材
募集広告も新たに付け加えられていて、業績や能力により通常の
10倍以上の給料を出すというものもある。調印式は1階の国際
会議場で行われた。真紅の絨毯が敷き詰められた階段教室のよう
な大会議場には、大きな半円を措いた舞台があり、20人ほどが
横並びに座れる横幅がある。細いテーブルと椅子の後ろに、儀式
に立ち会う国や地方の指導層がズラリと立って並んでいる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/057]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の海外留学に変化の兆し/海帰族・海待族
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   中国経済が世界に大きな影響を及ぼすようになってきた。
  中国躍進の背景には、「海帰族」(海外留学帰国者)という
  大きなブレーン集団が貢献していることは間違いない。20
  05年までに「海帰族」は23万人を超えた。一方、最近に
  なって一部の「海帰族」が「海待族」(仕事が見つけられず
  家で待機する「海帰族」)に転化する現象が生まれている。
  同じ「海帰族」でありながら、その明暗がはっきり分かれて
  いる。しかしこれは、中国社会がさらに進化していく過渡期
  の現象であり、決して悲観する必要はない。
   1970年代以降、中国では改革開放政策が取られ、社会
  の各方面で改革が行われてきた。また、欧米諸国の先進科学
  技術を習い、文化大革命によって多大の影響を受けた欧米諸
  国との経済格差を取り戻すため、1978年に最初のアメリ
  カ留学組が派遣され、長い間、中断されていた留学生の海外
  派遣が再開された。
   しかしその後、長年にわたって海外に出る留学生の人数は
  大きな成長を見せず、1992年には、6540人に過ぎな
  かった。このような状況は1990年代後半まで続き、留学
  はいわゆる少数のエリート学生のみの特権になっていた。こ
  れらのエリートをいかに帰国させ国内で活動させるか。これ
  が中国の大きな課題となっていた。
                  https://bit.ly/2YnaVau
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国連で演説するケ小平.jpg
国連で演説するケ小平
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月29日

●「中国では政府に国家人事部がある」(EJ第4977号)

 中国の人口は13億9008万人ですが、現在中国人は世界中
に住んでいます。諸外国に住む中国人のことを「華僑」といいま
すが、中国共産党政府による定義では次のようになっています。
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 「華僑」とは、中国大陸・台湾・香港・マカオ以外の国家・地
域に移住しながらも、中国の国籍を持つ漢民族である。
                  https://bit.ly/1Nyl4Y4
─────────────────────────────
 華僑の他に「華人」という言葉もあります。華僑は、中華人民
共和国の国籍を保持したまま外国に居住する者と、現地国籍も有
する二重国籍の者の両方を意味します。この他に、もともとは中
国人であるけれども、現地国籍しか持っていない者がいます。こ
れを「華人」というのです。現在の中国は、国に役立つ技術を持
つ華僑はもちろん、華人も含めて帰国させようとしています。
 ケ小平が目標として目指した「4つの近代化」を達成するため
には、優秀で、将来中国の発展に役立つ人材は、どこにいようと
中央政府として把握しておく必要があります。
 世界各国には、「中国人博士協会」というものがあります。日
本にも「全日本中国人博士協会」があります。そのサイトには、
協会について次の説明があります。
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 全日本中国人博士協会(以下、博士協会と略記)は、1996
年7月に発足し、日本の教育機関・研究機関・民間企業などにお
いて、学術研究・技術開発・企業経営などに従事している中国人
博士ならびに日本から帰国された博士により構成されている団体
です。               https://bit.ly/2Wtdkib
─────────────────────────────
 これら各国の博士協会は、国家人事部(名称は頻繁に変更され
ている)という中央行政省庁が管轄しています。つまり、全世界
の博士協会が「できる華僑・華人」をウォッチングし、上層部に
報告しているのです。
 遠藤誉氏の本に、在日中国博士協会による中国人留学人員の現
況報告のメールの概要が掲載されています。これは、遠藤氏の筑
波大学での教え子からの転送メールです。タイトルは「広州科技
交流会の報告」になっています。
 このなかで、米国、とくにシリコンバレーに留学している留学
人員の意識の高さに比べて、日本に留学している留学人員の意識
の薄さが指摘されています。その部分を引用します。
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 いま、アメリカや世界各地で活躍している留学人員たちが帰国
して中国で創業するのがブームになっています。アメリカのシリ
コンバレーの中国人企業主の同胞たちは、ふつうの白人たちの収
入よりも何倍も多い収入を得ているようです。カリフオルニアの
シリコンバレーには2万社にのぼる企業が林立しているそうです
が、そのうち、中国人とインド人によって起こされた企業の割合
は、現地の白人が起こした企業数を遥かに上回り、白人はもはや
「少数民族」になりつつあると聞いています。そこでは、新しい
技術を持った創業者は、つねに新しい機会に恵まれているようで
す。日本にいる皆さんには、まだまだこのような意識が薄いと思
います。自分は日本人よりも優れていると自認している人は多い
でしょうが、それでも結局は日本人が経営する大企業とよばれる
会社に就職して、日本人と同じ給料がもらえれば、それで万々歳
と思う人が、それ以上に多いことは非常に残念な事実です。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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 在日の中国博士協会が焦っているのは、日本には高学歴の中国
人留学生の数が少なく、それを反映して在日の博士協会のパワー
も小さくなっているからです。現在、日本には観光レベルでは、
中国人が圧倒的に多いですが、学問や新技術の開発などにおいて
日本は魅力のある国ではなくなっているのです。ちなみに、日本
の筑波大学は、各国留学生にとって「日本のシリコンバレー」と
いわれているそうです。日本人のほとんどはそんなことは知らな
いと思いますが・・・。
 2000年頃からは、「SCOBA(スコバ)」という制度も
始まっています。「SCOBA」は次の略号です。
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  ◎SCOBA/硅谷留美博士企業化協会
  Silicon Vally Chinese Overseas Business Association
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 遠藤氏の情報が凄いことは、たとえば、この「SCOBA」に
してもウィキペディアには、中国のサイトを含めて、出てこない
ことです。つまり、最新の情報ということになります。
 SCOBAとは、「留学人員向けの短期帰国資金援助国家教育
部経費」というタイトルで始められた制度ということですが、制
度の詳細に関しては不明です。ただ、そのときのSCOBAの担
当は、国家教育部になっていて、国家人事部ではないのです。
 しかし、1999年に国家人事部が「グローバル・チャイナ・
タレンツ・ネットワーク」を立ち上げると、それ以後は、国家人
事部の担当になったのです。遠藤氏によると、当時国家人事部と
国家教育部の間には、相当根強い縄張り争いがあったのではない
かということです。
 そもそも企業のように、国家人事部とか国家教育部という中央
政府行政組織があることが異常であり、国家が人民を国家権力に
よって厳しく管理している実態が読み取れます。中国にとって目
下の「敵」は米国のみです。したがって、米国にマトを絞って手
段を選ばず、人材戦略を展開中です。しかし、これに「待った」
をかけたのはトランプ米政権です。これはトランプ大統領の大成
果であるといえます。これに対しオバマ前大統領は本当に何もし
なかったといえます。 ──[米中ロ覇権争いの行方/058]

≪画像および関連情報≫
 ●外国人留学生がガッカリする日本の就職事情
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   「就職の面接で『いずれは母国に戻る』と回答したら不採
  用になると聞きました。せっかく日本で勉強したのだから、
  まずは日本で仕事をしてみようというのが素直な気持ちです
  が、正直に答えてはいけないのは変だと思います」
   「日本で働きたいと思っても、大企業ならともかく、そも
  そも名前を知らない中小企業と出会うチャンスはほとんどあ
  りません」「大学の留学課は、生活や履修のことには相談に
  乗ってくれますが、就職のこととなると、まるで取り合って
  くれません。『キャリアセンターに相談してください』と言
  われ、キャリアセンターに行ったら、『留学課で相談してく
  れ』とたらい回しにあいました」「工場や小売り・サービス
  業で働くために日本へ留学に来たワケではないのですが、就
  職できそうな企業はそれらばっかりです」
   これは海外から日本へ学びに来ている外国人留学生の声で
  す。彼ら、彼女らの多くが日本国内で就職をしようと思って
  も、さまざまなハードルに阻まれ、うまくいく人は多くあり
  ません。日本政府は2008年に、当時14万人だった留学
  生を2020年をメドに30万人まで増やす「留学生30万
  人計画」を打ち出しました。
   首相官邸のウェブサイトによれば、同計画は、日本を世界
  により開かれた国とする「グローバル戦略」の一環だとして
  います。計画の実施から9年経ったいま、日本学生支援機構
  の高等教育機関などの外国人留学生在籍状況調査によれば、
  2016年5月1日現在の外国人留学生は、23万9287
  人。8年で約10万人増えた計算です。
                  https://bit.ly/2uvYz25
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遠藤誉氏/日本記者クラブ講演.jpg
遠藤誉氏/日本記者クラブ講演
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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