2019年02月01日

●「中国に現在何が起こっているのか」(EJ第4939号)

 2018年は、中国の最高指導者習近平主席にとって特別の年
といえます。2018年3月11日、全人代は、国家主席と国家
副主席の任期を2期10年とする制限を撤廃して習近平思想を盛
り込む中華人民共和国憲法改正案を賛成2958票、反対2票で
成立させ、習近平氏は中国の事実上の皇帝になったのです。
 ところで、習近平主席の誕生日は6月15日です。この日にな
ると、習近平派の側近たちは、中南海の習近平宅に参集し、お祝
いをするのが常ですが、不思議なことに、習近平氏の誕生日には
ロクなことが起きていないのです。
 習近平国家主席は、サッカーが趣味だそうです。そこで、20
13年の誕生日には、還暦祝いとして、側近がタイの代表チーム
を招いて、中国代表と親善試合をさせたのです。タイは中国より
も格下であり、中国が勝つという想定のもとに、わざわざタイの
チームを招いたのです。しかし、結果は「中国1対タイ5」で、
中国が完敗してしまったのです。
 2015年の誕生日は、株式バブルの真っ只中だったのです。
前日まで上海総合指数は5178ポイントと高値をつけており、
さらなる上昇が期待されていたのです。個人投資家としては、習
主席の誕生日には、きっとご祝儀相場があると信ずる者が多く、
勝負に出たのです。ところが、上海総合指数は、5048ポイン
トまで急落し、その後3週間で32%も暴落したのです。この下
落によって、540兆円が消え、「習近平暴落」という不名誉な
ネーミングがついてしまったのです。
 そして、2018年6月15日、トランプ米大統領からの次の
メッセージが届いたのです。
─────────────────────────────
 これ以上、対中貿易赤字の拡大を看過できない。そのため、中
国の知的財産権侵害に対する制裁措置として、500億ドル(約
5兆5000億円)分の中国製品に、25%の追加関税を課す。
まず、7月6日に、産業ロボットや電子部品などハイテク製品を
中心に、計818品目、340億ドル分の制裁関税を発動する。
残りの160億ドル分は、これから発動時期を検討していく。
             近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 まさか、習近平主席の誕生日を狙って、トランプ大統領が貿易
戦争を仕掛けたわけではないでしょうが、中国にとっては、6月
15日にトランプ政権による爆弾が炸裂したのです。
 しかし、最初のうちは中国は威勢が良かったのです。2018
年7月7日、人民日報社の発行する国際紙「環境時報」は、「ワ
シントンの貿易覇権主義は必ず敗れる」と題する次の社説を掲載
したのです。
─────────────────────────────
 アメリカが貿易戦争の最初の一撃を放った。だが中国を倒すに
は及ばず、必ずや強力な反撃を食らうだろう。
 まず第一に、アメリカは世界の貿易の歴史に、永久に残る汚点
を刻んだ。ワシントンはWTOの規則に完全に違反した史上最大
規模の貿易戦争を故意に発動し、世界経済を全面的に破壊する影
響を与える可能性がある。それは、ワシントンのちっぽけなソロ
バンで弾き出したものとはかけ離れた規模であり、この一点だけ
をとっても、アメリカは世界貿易史に残る犯罪国家だ。
 第二に、ワシントンの貿易覇権主義が敗北に終わることは疑い
がない。ワシントンは、自分たちが勝つと無理やり思い込んで開
戦したが、「戦場」で痛い目に遭って初めて、理性を取り戻すか
もしれない。
 グローバリゼーションが深く浸透した21世紀にあって、各国
の経済は、とりわけ中国とアメリカの経済は、「自己の中に相手
がいて、相手の中に自己がいる」関係にあり、切り離すことはで
きない。アメリカが中国を叩いて、自分だけ無傷ということはあ
り得ない。
 現在ワシントンが踏んでいるのは、二本のレッドラインだ。一
本は多国間の規則というレッドラインであり、もう一本は中国が
発展していく権利というレッドラインである。前者によって全世
界の反対に遭い、後者によって中国からの反撃に遭っている。ワ
シントンは、世界の反対と中国の反撃が巨大なパワーとなること
を見くびったのだ。       ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 「環境時報」はなかなかうまい表現を使っています。現在の中
国と米国の関係については、「『自己の中に相手がいて、相手の
中に自己がいる』関係にあり、切り離すことはできないと述べて
います。つまり、争えば共倒れになるといっているのです。確か
にその指摘は当っています。世界1位の経済大国と世界2位の経
済大国が貿易で争えばどちらも経済がおかしくなるし、どちらも
傷つき、それによって世界経済にも大きな影響が出ます。
 しかし、米国としては、自国の安全保障上の問題があって貿易
戦争を仕掛けており、両方とも傷つくことは確かですが、今なら
国力の差によって勝つと読んで、米国は、この貿易戦争を仕掛け
たのです。
 果せるかな、中国国内では、トランプ爆弾によって大きな地殻
変動が起きつつあり、3つの方面から「習近平政権批判」が続々
と出てきたのです。
─────────────────────────────
  1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判である
  2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判である
  3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判である
─────────────────────────────
 時の国家主席である習近平主席を批判するということは、中国
では考えられないことです。しかし、米国との貿易戦争によって
その考えられないことが起きているのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/020]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ中国共産党指導者の誕生日は国家機密なのか?
  ───────────────────────────
   日本であまり知られていないことだが、中国では共産党指
  導者の誕生日は国家機密になっている。中国政府は公式ホー
  ムページなどで指導者の略歴を発表しているが、生まれた年
  と月しか公表しておらず、誕生日がない。例えば習近平国家
  主席の場合「1953年6月生まれ」となっている。
   そのため記事を書く際、指導者の年齢をめぐり困るときが
  ある。例えば2013年の全国人民代表大会(国会に相当)
  で、副首相に任命された汪洋氏の場合、「1955年3月生
  まれ」となっており、人事が決まったのは3月16日で、そ
  のときに誕生日が来ていたかどうかが分からない。57歳か
  58歳そのどちらかの可能性があるため、年齢を省いて記事
  を書かざるを得なかった。
   中国人は指導者の誕生日については関心が高く、性格から
  星座を推測するなど、長文を書いて論証する人さえいるほど
  だ。インターネットで、習近平主席の誕生日は「6月1日」
  と「6月15日」と2つの説が有力だが、それぞれ根拠があ
  り、どれを信じればいいのかわからない。しかし、李克強首
  相の誕生日が「1955年7月1日」であることははっきり
  している。それをばらしたのはインドのモディ首相である。
  2015年7月1日、モディ首相は自身のツイッターに「中
  国の李首相、お誕生日おめでとうございます」と書き込んだ
  ことが、インターネット上で話題となった。
                  https://bit.ly/2WCqc6u
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トランプ大統領と習近平国家主席
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2019年02月04日

●「中国内で習近平批判が巻き起こる」(EJ第4940号)


 当初くみしやすいと考えていたトランプ米大統領からの貿易戦
争ですが、それによって中国国内では、大きな地殻変動が起きる
ことになったのです。それは、次の3方面から巻き起こった「習
近平批判」です。その3つの方面を再現します。
─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
   2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「1」の習近平批判について考えます。
 近藤大介氏によると、中国の学者には、次の3つのタイプがあ
るといいます。
─────────────────────────────
 1.中国共産党や時の政権に媚びて、政権の目指す方向の正
  当性を主張し、立身出世を目指す御用学者
 2.中国共産党や時の政権から助成金などの支援は受け入れ
  るが、表面的、国際的なことを論ずる学者
 3.中国共産党や時の政権から距離を置き、中国にとって悪
  いものは悪いと一刀両断するタイプの学者
─────────────────────────────
 習近平政権が、当初トランプ政権からの貿易戦争をくみしやす
しととらえたのは、上記1のタイプの御用学者たちから、中国経
済はやがて米国を抜いて世界一になるとか、米国の方こそ中国を
恐れているなどの政権幹部にとって耳ざわりのよい提言を多少な
りとも信じていたからであるといえます。
 しかし、米中の貿易戦争が過熱化すると、中国国務院傘下のシ
ンクタンクから、一編の経済論文が提出されたのです。このシン
クタンクは、2015年6月に設立された研究員約120名を擁
する国家金融・発展実験室のことであり、金融政策を政府に提言
するのが仕事です。ここに属する学者は上記2のタイプの研究者
たちであるといえます。その論文の要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
 中国では今年に入って、債券の不履行、ボラティリティ(流動
性)の緊張、為替の下降や株価の下落などが相次いで起こり、し
かもそれらはますます勢いを増している。通貨総量の増大は縮小
し、企業への融資環境はあまりに先細りしている。
 それらに加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げと
中米貿易摩擦の長期化に伴って、不確実性が高まっている。そう
した中、いまや中国に金融恐慌が起こる確率は極めて高い。
 中国発の金融恐慌への対応は、大規模で、かつ明確に世間に宣
布しなければならない。主要な措置は、第一に、直ちに国務院金
融安定発展委員会の内部に応急処置を取る機構を立ち上げる。第
二に、対策を制定し、適宜果断に、違約や破産事件を処理してい
く。第三に、いち早くわが国の通貨供給制度を、米ドル、為替、
外貨準備と切り離し、不可避になってくる外部との衝突を防ぐた
めの準備を、周到に取り行うことだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 この論文は、シンクタンクを率いる李揚理事長と部下の3名の
研究者の連名になっています。李揚理事長は、中国社会学院で、
金融研究所長、副院長などを歴任し、中国人民銀行(中央銀行)
で通貨政策を決める通貨政策委員も務めた経済学者であり、習政
権の金融ブレーンの一人です。しかし、仕事であるとはいえ、論
文の内容は、結果として習政権の貿易戦争への対応の甘さを指摘
しており、学者生命を賭けて警鐘を鳴らしたのです。習政権下で
政策を批判するのは、大変なことなのです。その結果、実態に基
づかない政権におもねる情報を吹き込んだ御用学者たちが非難の
対象となったのです。
 「2」の習近平批判について考えます。
 中国では、8月上旬に「北載河会議」というものが開かれるこ
とになっています。北載河というのは、渤海湾に面した中国河北
省の保養地です。この北戴河において、毎年7月下旬から8月上
旬ごろにかけて、共産党の指導部や引退した長老らが避暑を兼ね
て集まり、人事などの重要事項を非公式に話し合うことが毛沢東
時代から行われているのです。重要なことは、この会議では長老
たちに強い発言権があることです。したがって、現政権が北載河
会議で批判されると、他の長老たちの担ぐ一派との間で毎年のよ
うに権力闘争が起きるのです。
 7月6日に米国との貿易戦争がはじまった直後の北載河会議で
す。まして、「下手をすると中国発の金融恐慌が起きる」と指摘
された状態で北載河会議に臨むと、習近平主席は長老たちから批
判のマトにされることは火を見るよりも明らかです。そこで、習
近平政権は、党中央宣伝部に命じて、国内の全メディアに対して
「官製報道」以外の米中貿易戦争関連の情報を一切禁止したので
す。禁止されたのは、次の7つの報道です。
─────────────────────────────
       1.       中米貿易戦争
       2.     中国経済の不景気
       3.        消費の低迷
       4.        家賃の高騰
       5.特定の国家元首に対する批判
       6.       離職率の増加
       7.      政府の税制批判
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、いかに官製報道を行っても、年初3307ポイントを
つけていた上海総合指数は6月末には2847ポイントと14%
も下落してしまったのです。この数値は隠しようがないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/021]

≪画像および関連情報≫
 ●金融ブレーンが告発!「中国発の金融恐慌は必ず起こる」
  ───────────────────────────
   いよいよ世界中が注視する運命の7月6日がやって来る。
  サッカー・ワールドカップの話ではない。世界の2大経済大
  国であるアメリカと中国が、共に相手国に対して340億ド
  ル規模もの経済制裁を課す米中貿易戦争の火ぶたが切って落
  とされるのだ。「米中冷戦時代」の始まりと言い換えてもよ
  い。これによって米中両国はむろん、世界中が大なり小なり
  巻き込まれていくことになる。あのリーマン・ショックから
  丸10年を経て、またもや人類は懲りずに人為的な巨大リス
  クを背負い込んでしまうのだ。
   中国中央テレビ(CCTV)はこのところ、2018年上
  半期に、中国経済がどれほど好調で、どれほど各種のデータ
  が伸びているかを連日これでもかというほど報道している。
  これまでは、7月中旬に上半期の速報データが発表された際
  に、この種の報道は行われてきた。それが1ヵ月前倒しで報
  道されるということは、本当は中国経済が悪化しているから
  それを覆い隠すために、いわゆる「豊作報道」を連発してい
  るのではないかと勘ぐりたくなってくる。そもそも、毎年6
  月下半期は、中国経済のアキレス腱となる時節だ。なぜなら
  銀行など金融機関が、上半期のデータを遜色なくするため、
  一斉に貸し渋りに走るからだ。2015年6月下半期の株式
  暴落も、そのような中で起こった。おそらく、そのような周
  期を見越した上で、米トランプ政権は6月15日に、対中経
  済制裁の7月6日からの発動を宣言したのではないか。
                  https://bit.ly/2MPNsJO
  ───────────────────────────

北載河会議.jpg
北載河会議
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2019年02月05日

●「周到に準備して北載河会議に臨む」(EJ第4941号)

 米中戦争をきっかけに中国国内で起きた地殻変動ともいうべき
習近平政権批判騒ぎについて説明しています。批判の起きた3方
面を再現します。
─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
 ⇒ 2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 トランプ米大統領が仕掛けてきた貿易戦争について、御用学者
の意見を聞いて初期の対応を誤った習近平政権が北載河会議前に
必死になってその取り繕いをやっています。北載河会議で問われ
る可能性のある習政権の「失政」とは次の3つです。
─────────────────────────────
◎第1の失政
  中国があまりにも強国路線を前面に出したことにより、トラ
 ンプ政権が貿易戦争で中国を叩く口実を与えたこと。
◎第2の失政
  米国と中国との間にはまだ経済では大きな差があり、貿易戦
 争によって、中国経済が本当に傾いてしまったこと。
◎第3の失政
  周辺諸国を含む国際社会が米中貿易戦争で自由貿易の推進と
 いう「正論」を説く習政権を支持してくれないこと。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 上記の3つの失政ですが、これは当然の話です。誰も本当の意
味で、中国が自由貿易やグローバリズムの旗振りを任じても支持
などしないでしょう。中国は、南シナ海の領有権の問題で、ハー
グの常設仲裁裁判所が下した「中国の主張には国際法的根拠はな
い」という判決に対して、「そんなものは紙くずと同じ」といっ
て、聞く耳を持たなかったのです。自国主義を掲げるトランプ米
政権も狂っていますが、自分たちの意に沿わない国際法など歯牙
にもかけない中国が自由貿易を推進するといっても、どこの国も
本心では支持などしないと思います。
 近藤大介氏によると、2018年7月31日、習近平主席は中
央政治局会議を開き、次の「6つの決定」を行っています。これ
も北態河会議対策です。この会議は、中国共産党トップ25人が
集まって、ほぼ毎月行っています。
─────────────────────────────
 1.「穏中有変」
  ・経済の評価をこれまでの「穏中有好」を「穏中有変」に改
   めている。安定したなかに変化が見られるの意。経済が変
   化のあることを認めている。
 2.「積極的財政政策と穏健的貨幣政策」
  ・金融引き締め政策を改め、人民元を緩和し、公共投資を拡
   大し、内需を喚起する。
 3.「六穏」
  ・六穏とは、就業、金融、貿易、外資、投資、決済期日のこ
   とで、この6つを安定させる。
 4.「補短板」
  ・「補短板」とは、短所の補強・補填のことである。地方の
   インフラ投資を拡大させる。
 5.「レバレッジ率低下策の堅持」
  ・レバリッチ率とは負債率のことである。これ以上レバリッ
   チ率が上がると、リーマンショックのときと同じになるの
   で、これを鎮める。
 6.「不動産価格統制の堅持」
  ・中国経済にとって、最大のリスクは不動産バブルの発生。
   これを防止する。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 こうした対策を施した結果、北載河会議は、いつ行われ、どう
なったのでしょうか。何しろ、会議の開催日をはじめとして、内
容は一切公開されないので、明確には分からないのです。
 しかし、2018年9月以降の習近平政権の動きを見ていると
米国の要求をかなり受け入れる方針に変化し、12月のアルゼン
チンのブエノスアイレスでの米中首脳会談の開催に漕ぎ付けてい
ます。その米中首脳会談の結果、2019年1月1日に予定され
ていた2000億ドル(約23兆円)分の中国製品に対する現行
10%の関税の25%への引き上げを90日間遅らせることに同
意しています。
 現在、ネット上で、情報を集めていますが、習近平主席は、北
載河会議での長老の反撃をうまく乗り切ったようです。これにつ
いては、改めて書くことにします。
 しかし、それでも習近平批判はなかなか鎮静化しないのです。
なぜ、全体主義下の中国において、任期のない終生トップの権限
を手に入れた習近平主席を批判できるのでしょうか。それは、長
老たちを中心として、一定の数の習近平批判勢力が存在するから
です。長老たちは、習近平派が提案する中国のトップの任期10
年を撤廃する改正は認めても、憲法にあたる党規約、第10条6
項の改正は死守したのです。
─────────────────────────────
     党規約/第10条6項
     党はいかなる形式の個人崇拝も禁止する。
─────────────────────────────
 しかし、2018年3月の全国人民代表大会で国家主席の任期
撤廃を行うと、習近平総書記への「個人崇拝」は、激しさの度を
増していったのです。メディアも連日、習近平礼賛報道に行い、
党規約第10条6項に違反する事態になっていったのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/022]

≪画像および関連情報≫
 ●北戴河会議控え・・・スローガンから「習近平」消えた
  ───────────────────────────
   【北戴河(河北省)=西見由章】中国共産党の指導部や長
  老らが河北省の避暑地に集まり、人事や重要政策について非
  公式に議論する「北戴河会議」が間もなく始まる。米中貿易
  摩擦の激化を受けて習近平総書記(国家主席)への批判が党
  内外で表面化しつつある中、重要会議の拠点でも党のスロー
  ガンから習氏の名前が激減し、習指導部の苦しい立場をうか
  がわせている。
   2018年7月31日、北戴河にある党幹部専用ビーチ沿
  いの道路は約3キロにわたって封鎖され、党や軍の関係者を
  乗せたとみられる当局ナンバーの特別車両が、相次いで出入
  り。周辺道路は武装警察や警察、私服の当局者が目を光らせ
  沖合では中国海警局の公船が警戒していた。複数の地元住民
  によると7月中旬には警戒態勢が強まったという。
   党幹部らが宿泊するのは、ビーチそばの森に点在する瀟洒
  (しょうしゃ)な西洋風別荘だ。前日に保養地を一望する聯
  峰(れんほう)山公園の展望台に向かったところ、数人の当
  局者が記者を尾行・撮影していた。
   北戴河の厳戒態勢は例年通りだが、“異変”もある。「新
  時代の中国の特色ある社会主義思想の偉大な勝利を勝ち取ろ
  う」。街中では会議のために新設した真新しい看板が目につ
  く。              https://bit.ly/2GgV1b4
  ───────────────────────────

街中に設置されている中国共産党スローガン.jpg
街中に設置されている中国共産党スローガン
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2019年02月06日

●「習近平主席北載河会議を乗り切る」(EJ第4942号)

─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
 ⇒ 2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「2」の検討を続けます。長老たちも集まる北載河会議で何が
あったかが注目されています。北載河会議では、大規模な「習近
平降ろし」が画策されているという噂もあって、この会議が注目
されていたのです。習近平政権は、北載河会議をどのようにして
乗り切ったのでしょうか。
 そもそも北載河会議がいつ始まったかもわからないのですが、
多くのメディアが8月3日に続々と北載河入りしているので、そ
の日かその日以降に会議が始まったものと推測されています。
 8月4日には、中国社会科学院・工程院院士62人を招いた座
談会が開かれています。科学院、工程院は、中国の科学技術系エ
ンジニアの母体であり、「中国製造2025」の具体案を支える
提言機関であるので、北載河会議と関係があるかもしれないので
す。「中国製造2025」には、米国が強く反発しているので、
その対応策を協議した可能性があります。
 中国の事情に詳しい福島香織氏の情報によると、習近平主席は
アラブ・アフリカ歴訪から帰国すると、7月31日に北京で中央
政治局会議と集団学習会を開き、それに参加した政治局員を引き
連れて北載河会議入りしています。
 結果として、2018年の北載河会議は、完全に習近平主席の
ペースで進み、「習近平降ろし」は大きくトーンダウンしたと伝
えられています。実は、これにはワケがあるのです。それは、長
老一人ひとりの懐柔策が功を奏したのです。
 習近平主席の前の主席である胡錦濤氏に対しては、その子息の
胡海峰氏に手厚い処遇をし、習主席に反対できないようにしてい
ます。胡海峰氏は、いわゆるできのわるい子息であり、政治家と
してもビジネスパーソンとしても成功できなかったといいます。
そこで習主席の計らいで、浙江精華長江デルタ研究員の党書記職
を与えられたのです。これによって、胡錦濤氏は習近平主席に頭
が上がらなくなったといわれます。
 李鵬氏の子息である李小鵬氏も同様です。李小鵬氏は、李鵬氏
の跡を継いで、電力利権にからんでおり、腐敗の噂の絶えない人
物です。習近平主席としては、腐敗一掃運動の一環で摘発するこ
ともできますが、現在交通運輸部長職に就いています。そして8
月7日から、習近平主席の特使として、コロンビア大統領就任式
に出席しています。
 このように習近平主席は、長老たちの弱点であるできの悪い子
供たちをうまく取り込んで、長老たちを分断するとともに、「習
近平降ろし」の流れを封じ込めるのに成功しています。腐敗防止
キャンペーンを巧みに使い、アメとムチで長老たちを身動きでき
ないようにしているのです。これについて、福島香織氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 長老、太子党、党中央、メディア、軍部、知識人層にアンチ習
近平派が存在するのは間違いない。清華大学法学院教授の許章潤
が7月24日、天則経済研究所のサイト上に「我々が目下抱いて
いる恐懼と期待」というコラムを発表したが、この中ではっきり
と習近平の現政策を「逆行」と批判し、天安門事件の再評価、国
家主席任期の復活、個人崇拝の制止、公務員財産開示法の施行な
どを訴えている。個人崇拝は知的レベルの低い行為、といい、ま
るで習近平の知的レベルが低いといわんばかりだ。
 また国務院発展研究センター金融研究所総合研究室副主任の高
善文が7月28日、地方の証券会社の講演で、習近平がケ小平の
韜光養晦戦略を放棄したことが米中関係の破壊の原因だ、と指摘
したと伝えられている。           ──福島香織氏
                  https://bit.ly/2Tqxicg
─────────────────────────────
 福島香織氏が指摘する上記の高善文氏の講演での指摘、「習近
平がケ小平の韜光養晦戦略を放棄したことが米中関係の破壊の原
因」は重要であると思います。ここで「韜光養晦(とうこうよう
かい)戦略」というのは、国力が整わないうちは、国際社会で目
立つことをせず、じっくりと力を蓄えておくという戦略です。と
ころが、習近平主席は、その戦略を捨てたことで、米国が貿易戦
争を仕掛けてきたのではないかといっているのです。これはその
通りであると思います。
 米国が仕掛けた貿易戦争は、単に貿易の問題だけではなく、習
近平政権の「中国製造2025」潰しにあるといわれます。した
がって北載河会議で何らかの検討行われたと考えられます。それ
を裏付けるのが、前述の8月3日に北載河会議と並行して行われ
た中国社会科学院・工程院院士62人を招いた座談会です。この
座談会には、副首相の胡春華氏も出席しているのです。
 胡春華氏は、中国共産主義青年団(共青団)中央書記処第一書
記を務めた人物で、胡錦濤派です。今後、「中国製造2025」
についての米国との協議においては、この胡春華氏が前面に出る
代わりに政治局常務委員の王滬寧氏が責任を取らされる可能性が
あります。福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 秋の四中全会で、ひょっとすると政治局常務委員のポストが王
滬寧から胡春華に入れ替えられるのではないか、というのは、ア
ンチ習近平派の期待をこめただけの噂にすぎない。だが、党内ア
ンチ習派の不満を抑えるために、後継者として胡春華を政治局常
務委員に迎え入れ、個人崇拝・独裁化の印象をやや薄めようとい
うのは、習近平の立場に立ってみれば決して無理な妥協案ではな
いとも考えられる。         https://bit.ly/2GmDqP1
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/023]

≪画像および関連情報≫
 ●内憂外患の習近平政権/軍の威光をバックに「北戴河」突破
  ───────────────────────────
   【北京=藤本欣也】中国共産党大会を秋に控え権力闘争が
  激化する中、習近平指導部は内憂外患を抱えている。孫政才
  政治局員の失脚で、近く始まる非公式会議の「北戴河会議」
  も波乱含みだ。習氏としては、中国人民解放軍建軍90周年
  の8月1日に大規模な軍事演習を挙行して軍の存在をアピー
  ル、最高司令官である自らの立場を強めて北戴河会議を乗り
  切る構えだ。
   北京の中国人民革命軍事博物館周辺は7月21日、厳重な
  警備態勢が敷かれた。この日、習氏が李克強首相ら党最高指
  導部メンバーを引き連れて訪問、建軍90周年の特別展を見
  学。その模様は国営メディアを通じて全国に放映された。
   習指導部を取り巻く内外の環境は厳しい。国内では、ノー
  ベル平和賞を受賞した民主活動家、劉暁波氏の死去の影響が
  広がるのを押さえ込むのに躍起だ。24日には慈善組織と称
  する「善心匯」メンバーらが大規模抗議集会を強行した。
   対外的には、中印国境付近で両国の軍部隊が1カ月以上対
  峙する異常事態となっている。中朝国境付近では、中国側が
  朝鮮半島の危機に備え、軍事力を増強したと米紙が報じてい
  る。南シナ海では、ベトナムが始めたガス田の掘削作業に中
  国が猛反発し、中止させた。東シナ海では23日、上空で中
  国軍戦闘機が米軍機の飛行を妨害。中国の軍艦・公船による
  日本の領海への侵入も相次いでいる。
                  https://bit.ly/2DaOQ52
  ───────────────────────────

王滬寧政治局常務委員と胡春華副首相.jpg
王滬寧政治局常務委員と胡春華副首相

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2019年02月07日

●「習近平のポスターに墨汁をかける」(EJ第4943号)

─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
   2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
 ⇒ 3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「3」の習近平批判について考えます。
 国内の3方面で起きた「習近平批判」の3つ目は、何と市民に
よる習近平批判です。習近平体制にとって、こういう動きが一番
警戒すべきことなのです。たった一人の反乱でも、それがSNS
で拡散されると、あっという間に中国全土に拡散される恐れがあ
るからです。
 2018年7月4日、午前6時40分過ぎにその事件は起きた
のです。湖南省出身の29歳女性が、上海の海航ビルの前で、壁
に大きく貼られた習近平主席のポスターに墨汁をかけ、それを自
撮りして、SNSにアップロードしたのです。まさに習近平政権
が最も恐れることをやったわけです。
 そのときの貴重な動画があります。中国国内では動画は完全に
消去されていますが、これは中国外に流出した動画のひとつと思
われます。墨汁をかけた女性の名前(とうようけい)もわかって
いますが、メールでは表示できないので、省略します。
─────────────────────────────
◎「墨汁事件」の動画        https://bit.ly/2UIxSCu
 女性は中国語で話していますが、その内容は次の通りです。近
藤大介氏の本から引用します。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 尊敬する皆さん、おはよう!いまは7月4日の午前6時40分
頃で、私はいま上海の陸家囁(浦東新区にある金融街)にいて、
後ろにあるのが海航ビル(習近平主席や王岐山副主席と関係が深
いとされ、経営危機に陥っている海南省の巨大グループ)。まだ
朝早いから、皆さんはきっと出勤途中でしょう。後ろにあるのは
習近平のパネル写真よ。私が言いたいのは、絶対に習近平の独裁
専制の暴政に反対だということ。中国共産党が私にやっている圧
迫にも反対だ。
 反対!(と叫んで墨汁を習主席の大判の顔写真にぶっかける)
この人を恨んでいる!見たでしょう、これが私の行動よ。習近平
に反対!専制と暴政に反対!共産党が、私にかけている圧力に反
対!国際組織が調査して正してくれることを要求する。私をダメ
にするのは、中国共産党と政府だということを調査してほしい。
 そうよ、今日は、この男に墨汁をぶっかける日。私がやったの
よ。この男はどうするでしょうね。習近平よ、私はここで待って
いるから、捕まえに来なさいよ。私はたった一人で、中国共産党
の独裁、暴政、専制に反対し、あなたが捕まえに来るのを待って
いるのよ。
 後ろはまさに海航ビル。習近平、あなたが一番好きな会社よ、
そうでしょう?私はあなたの顔に墨汁をぶっかけた。見たでしょ
う?醜くなった自身の顔を見たでしょう?さあ、今日のニュース
はこれでおしまいよ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 この動画について、次のような多くの書き込みが行われていま
す。しかし、それらは時間が経過するにつれて、当局により次々
に削除されていき、中国の国内では、完全に見られなくなってし
まっています。そういうことをするために、中国という国は、防
衛費を上回る莫大な人材とコストをかけているのです。
─────────────────────────────
◎あなたは誰もがやりたいと思っていてもできないことを実行に
 移したのだ。
◎誰もが、この息詰まりしそうな空気のなかで、沈黙し続けるこ
 とに限界を覚えている。あなたは、われわれに勇気を与えてく
 れた。あなたこそが英雄である。
◎この暗黒の中国大陸では能力や学問がどんなにあっても役に立
 たない。独裁政治に抗議する勇気を持ってこそ英雄になれる。
                  https://bit.ly/2UAmZlU
─────────────────────────────
 習近平のポスターに墨汁をかけた女性は、その後家に戻り、家
の周辺に私服や制服の公安局員の数が増える様子をスマホで撮っ
て、ネット上に流していましたが、やがて映像はプツリと消えた
といいます。そして、誰も彼女とは、連絡がとれなくなっていま
す。その日のうちに拘束されたものと思われます。その後、父親
も拘束されています。
 こうした一連の動きが、今後中国の民主化につながるのかどう
かを中国国内の民主活動家に意見を聞いてみると、次のような絶
望的な返事が返ってきました。中国の民主化は、今後20年経っ
ても実現しないだろうというのです。
─────────────────────────────
 考えてみてください。中国には200万人の軍隊がおり、数百
万人の警察がいます。彼らは自国の人民を鎮圧するために存在し
ているのです。中国人民は少なくともあと20年間は不民主の中
で生きていくしかないのです。中国人は、考えることさえコント
ロールされています。微信(ウィチャット)も、微博(ウェイボ
ー)も全て監視されているのですから」
 しかも中国で何が起きているのかを知るために、特殊な方法を
使って海外から情報を入手するしかないのです。人民が絶対に横
につながらないように、政府は最大の工夫をしているのです。
 こんな環境下で民主化運動など、夢のまた夢。われわれに前途
はない!              https://bit.ly/2TxjKLQ
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/024]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平の顔写真ポスターに墨汁かける運動拡大
  ───────────────────────────
   中国では今月(2018年7月)に入って、習近平国家主
  席の肖像画が印刷されたポスターに墨汁や黒インクをかける
  運動が北京や上海を中心に全土に拡大しており、中国共産党
  中央弁公庁は最近、地方の党機関に対して、街頭や建物内に
  ある習氏の肖像画入りのポスターや掲示板、宣伝塔、彫像な
  どを撤去する指示を出していたことがわかった。
   習近平指導部が国家主席などの任期を撤廃したり、習氏を
  批判する人権活動家や弁護士らを多数逮捕するなど独裁体制
  の強まりに反発する声が多くなっているためで、指導部は習
  氏の個人礼賛キャンペーンを停止するなどの措置をとってお
  り、今春以降、加速していた個人崇拝の動きに、歯止めがか
  かったかたちだ。
   また、2012年に現指導部が発足してから最大の失点と
  目される米中貿易問題の影響もあるとみられ、7月下旬から
  の中国共産党の重要会議「北戴河会議」で習指導部への批判
  が集中する可能性もある。
  習氏の肖像画に墨汁などをかける運動が広がったきっかけは
  上海在住の董瑶けいさん(29歳=女性)が今月4日早朝、
  中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に、生配信したパ
  フォーマンスだった。董さんは「私は習近平とその独裁主義
  に反対です」と言うと、背後にある街頭の習氏の肖像画入り
  ポスターに墨汁をかけたのだ。その動画は、ウェイボー上で
  シェアされ、瞬く間にインターネット上で拡散した。
                  https://bit.ly/2RCcMUc
  ───────────────────────────

習近平主席への個人崇拝が問題化.jpg
習近平主席への個人崇拝が問題
 
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2019年02月08日

●「墨汁事件は海航集団と関係がある」(EJ第4944号)

 墨汁女子について、近藤大介氏は、次の3つの点が気になると
しています。
─────────────────────────────
         1.撮影場所が上海である
         2.海航集団ビル前である
         3.海外組織に対しSOS
─────────────────────────────
 第1は「撮影場所が上海である」ことです。
 上海は、習近平主席の最大の政敵といわれる江沢民元主席のお
膝元であることです。上海では、習近平主席に対して反感を持つ
人が多いといいます。近藤大介氏が旧知の上海人の社長に米中貿
易戦争の感想を求めると、次のように述べたというのです。
─────────────────────────────
 皮肉な話だが、トランプ大統領に対する支持者が最も多いのは
ラストベルト(錆びた地帯)と呼ばれるアメリカ中西部ではなく
て、上海ではないか。中米貿易戦争が勃発して以降、「特朗普、
加油!」(トランプ頑張れ)という声をよく耳にするからだ。上
海ディズニーランドも南京路にある世界最大規模のスターバック
スも、連日大盛況だ。7月10日には、上海市政府と米テスラ社
とが、上海新工場の建設に関する調印式を行った。
 習近平政権は政治的な締めつけが厳しく、上海人が望む自由な
ビジネスができない。上海が「自由貿易区」に指定されたのは、
習近平政権が発足した2013年のことだったが、5年経った現
在でも、ほとんど恩恵を受けていないのだ。現政権は明らかに、
過去の江沢民政権や胡錦濤政権ほどの経済的センスを持ち合わせ
ていない。そこにトランプが、ドカンと雷を落とし、中国を真の
開放に向かわせるかもしれない。だからわれわれは、トランプの
外圧に期待しているのだ。今年は改革開放40周年なのだから、
本来ならもっと経済を開放したらよいのだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 第2は「海航集団ビル前である」ことです。
 犯人の女性が習近平主席のポスターに墨汁をかけたのが海航集
団の前であったことは象徴的です。偶然であったかもしれないし
何か意味があったとも考えられます。海航集団は、習近平政権と
浅からぬ関係があるからです。
 まず、海航集団とは何かについて知る必要があります。ちょう
どこの時期(2018年7月)、海航集団は中国国内で、大きな
話題になっていたのです。海航集団については、ネット上に次の
解説があります。
─────────────────────────────
 海航空集団は航空運輸業務を主力とするが、それ以外に空港サ
ービス、ホテル、小売業、物流、金融など多くの事業に携わって
いる。同集団傘下の海南航空は、中国の航空会社として異色だ。
中国では中央政府系の中国南方航空、中国東方航空、中国国際航
空が「中国三大航空会社」とされる。
 保有する運用機材(航空機)で見ると、前記三大航空会社はい
ずれも400機台〜500機台。海南航空は200機強と半分程
度の規模だ。ただし、三大航空会社の場合、購入を予約している
機材が現保有機数の半分程度なのに対し、海南航空は260機以
上と、機材の倍増計画を明確にしている。しかも、予約機のうち
200機が、中国が「大型旅客機」として開発中のC919であ
るなど、「チャレンジング」な姿勢が目立つ。
                  https://bit.ly/2UHhmCs
─────────────────────────────
 この時期において、海航集団に大変なことがあったというのは
2017年7月のことですが、海航集団の王健会長が出張先のフ
ランスで客死したからです。トップが亡くなっているのです。公
式には、「事故死」ということになっていますが、そのことを額
面通りに受け取る人は少ないといいます。なぜかというと、海航
集団は、この時点での負債総額が6000億元(約10兆円)に
達し、事実上の破綻状態にあったからです。そのため、自殺では
ないかともいわれたのです。
 それに「海航集団は習近平政権の政商である」といわれており
王健会長の突然の死に強い疑いの目が向けられていたのです。そ
れを暴露したのは、中国の元富豪といわれる郭文貴という人物で
す。彼は、米国に亡命し、ニューヨークから習近平政権のスキャ
ンダル情報を暴露し、流していたのです。郭文貴氏のバックには
江択民元主席がいるといわれててます。
 海航集団と習近平政権の関係──というよりも習近平主席の盟
友である王岐山副主席と海航集団との関係ですが、郭文貴氏は、
米国からユーチュープを使って暴露情報を流したのです。王岐山
氏は、党中央紀律検査委員会(中紀委)を率いて汚職摘発で辣腕
を振るい、とくに、江沢民派の幹部の多くを刑務所に送っている
ので、大きな恨みを買っています。
 近藤大介氏は、上海での墨汁事件は、郭文貴氏と何らかの関係
があるのではないかと推測しています。
─────────────────────────────
 墨汁事件では、「郭文貴全世界フォロワーチーム」なる名義の
アカウントから、ユーチューブを通じていくつもの「スクープ報
道」がなされていた。例えば、8月2日には、菫瑶けい(墨汁を
かけた女性)の父・菫建彪が「娘は精神病などではない」とする
声明を発表したと報道していた。郭文貴が滞在するニューヨーク
といえば、トランプ大統領のお膝元であり、そのトランプ大統領
は、墨汁事件が起こった2日後の7月6日に、習近平政権に対し
て貿易戦争を「開戦」したのだ。この2日間の近似は、単なる偶
然だろうか。          ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/025]

≪画像および関連情報≫
 ●海航集団をめぐる2つの事件
  ───────────────────────────
   数日前ドイツ銀行の話題を振った際、海航集団が同行の株
  主だと申し上げました。また同集団は12兆円とも言われる
  負債で経営危機に陥っており、背後に中国ナンバー2の王岐
  山副主席がいるとも申し上げました。
   さて、今日のニュースをみていると海航集団に関する新た
  な2つの事件が報じられています。
   1つは韓国アシアナ航空で一部航空機が機内食を提供でき
  なくなり、大混乱に陥った事件。そして、もう一つは、海航
  集団の傘下の海南航空の王健会長がフランス出張中に「事故
  死」したことであります。
   まず、アシアナ航空の事件ですが、これには背景がありま
  す。アシアナはもともと機内食提供会社をLSG社と契約し
  ていました。しかし、アシアナが海航側と取引をし、1年半
  ほど前に海航と4:6の比率で機内食提供会社、ゲートグル
  メコリアを設立します。ところが新工場建設中の今年3月、
  その現場が火事となり、6月30日のLSG社との契約終了
  に機内ケータリングが間に合わないことが判明します。その
  ため、LSG社に短期契約更改交渉をするものの決裂、アシ
  アナはやむを得ず、小さなシャープDo&Coという会社に
  委託をします。残念ながら、初日から供給がうまくできず、
  大きな混乱を招いたとうストーリーです。更にシャープ社の
  社長は自殺するという痛ましい展開になっています。
                  https://bit.ly/2DfEK2Q
  ───────────────────────────

米国から放送する郭文貴氏.jpg
米国から放送する郭文貴氏
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2019年02月12日

●「なぜ中国はガチンコ勝負に出たか」(EJ第4945号)

 習近平主席に墨汁をかけた女性(菫瑶けい氏)は、故郷の湖南
省の精神科病院に強制的に入院させられたといわれています。上
海市内で働く女性の弟に警察から連絡が入り、上海市政府当局者
から「お姉さんを精神鑑定にしたが、精神を病んでいるとの診断
結果が出た」と告げられたそうです。
 弟は警官らの求めに応じ、手続きのため、入院先の精神科病院
に行き、姉の入院に立ち会っています。この病院での精神鑑定で
も姉は精神を病んでいるとの診断結果が下されたといいます。
 米政府系報道機関「ボイス・オブ・アメリカ/VOA」は、犯
人の女性の精神病院入りについて次のように報道しています。
─────────────────────────────
 本当の精神病患者は入院させずにほったらかしだが、当局に都
合がいい健常者は、逆に精神科病院に強制入院というのが、中国
の実態である。    ──―ボイス・オブ・アメリカ/VOA
─────────────────────────────
 一応民主的な手続きがとられているようにみえますが、中国で
は、犯罪を犯し刑務所に入れられるよりも、精神病院に入れられ
る方がずっと恐ろしいのです。薬物などで本当の精神病にされる
可能性もありますし、入院後何をされるかわからないからです。
VOAの記者は、湖南省の董さんの実家を訪ね、董さんの母親に
取材したところ、「娘が精神を病んでいるはずがない」などと頑
強に否定したといいます。なお、7月13日には菫瑶けい氏の父
親も拘束されています。
 問題は、この墨汁事件の背景です。果して単独犯なのか、それ
ともバックがあるのかです。事件の起きた場所が江沢民元主席の
地元である上海であるので、いろいろな憶測を呼んでいます。そ
れに彼女が中国のSNSではなく、あえてツイッターを使ってい
るので、海外組織に助けを求めているように見えます。
 中国では、ツイッターの使用が制限されていますが、VPNな
どを通せば使えるのです。習近平のポスターに墨汁をかけた後、
菫瑶けい氏にアドバイスを与えていた民主活動家の華桶という男
性がいるのですが、この男性も当局に拘束されています。しかし
この事件はニュースとして世界中に拡散され、海外に知られてし
まったことは確かです。
 さて、トランプ米政権によって仕掛けられた貿易戦争に対して
中国の習近平政権は「ガチンコ勝負」に出たのです。この対応に
ついて中国国内では多くの反対意見があるのです。習政権が米国
に対して強気に出た理由について、近藤大介氏は次のように説明
しています。
─────────────────────────────
 中国が、トランプに対して強気に出た背景には、2つのことが
あった。1つは、昨年11月にトランプが訪中した時の印象がと
てもよかったため、トランプが本気で、中国に牙を剥いてくると
は想定していなかった。あの時、2535億ドルものプレゼント
(中国からアメリカへの投資や購買)を与えて、それでもう貿易
摩擦問題は解決したと思っていたのだ。
 ところがトランプは、北京から戻るや態度を一変させた。中国
からすれば、「あの時の2535億ドルは一体何だったのだ?}
という怒りがあった。
 もう一つの背景は、習近平政権の第1期5年が、何もかもうま
く行き過ぎたことだ。政治的には習主席の一強体制が確立し、経
済的にはアメリカの3分の2の規模までGDPが拡大した。外交
的には「一帯一路」に多くの国が賛同し、軍事面でも科学技術面
でも世界ナンバー2の地位を確立した。
 そんな中、今年3月20日に全国人民代表大会が閉幕した。習
主席は憲法改正で自らの任期を取っ払い、省庁を改編し、ほしい
がままの幹部人事を断行した。つまり2期日の習近平政権が始動
した時点で、死角はゼロだったのだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 中国に「樹大招風/シュータージャオフン」という言葉があり
ます。読んで字のごとく、「樹が大きくなれば風を招く」という
意味になります。これは、日本の諺「出る杭は打たれる」と同じ
意味です。つまり、習政権は、早く前に出過ぎたのではないかと
いう声が中国国内に少なからずあるということです。もう少し辛
抱して、ケ小平の遺訓である「韜光養晦」を守るべきだったので
はないかという意見です。
 一方、トランプ米政権は中国に対して、一向に手を緩めなかっ
たのです。9月25日、トランプ大統領は、国連総会でスピーチ
していますが、その席で中国を次のように攻撃しています。20
17年のデビュー時の演説の敵役は「北朝鮮」でしたが、201
8年は、中国を敵役に替えてとして批判しています。
─────────────────────────────
 アメリカは、中国がWTOに加盟してから、300万人の工場
労働者を失った。そのうちほぼ4分の1は鉄鋼関連だ。そして6
万の工場もだ。その結果、過去20年で、13兆ドルもの貿易赤
字を抱え込んでしまったのだ。
 だが、もうそんな日々とはオサラバだ。これ以上、そのような
乱用は容赦しない。われわれの労働者が、犠牲になるのを許さな
い。アメリカ企業は騙され、アメリカの富は略奪され、移管され
たのだ。アメリカは自国民を守るため、決して躊躇しない。
 アメリカはさらなる2000億ドルの中国製品に対する追加関
税を宣言した。トータルで2500億ドルになる。私は習主席に
対して、大いなる敬意と愛情を抱いている。だが、貿易不均衡は
看過できないことを明らかにしておきたい。中国市場の歪みと彼
らの商習慣は、許されるものではない。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/026]

≪画像および関連情報≫
 ●ケ小平が主導した外交の特徴
  ───────────────────────────
   本日は中国の外交方針の変遷について語ることになってい
  るが、焦点はここ数年の方針転換であり、毛沢東時代まで振
  り返る余裕はない。しかし、ケ小平が主導した中国外交の特
  徴をおさらいすることでポイントを把握することは出来る。
   ケ小平外交の第一の特徴は、現実的な国際情勢判断に基づ
  いていたことにある。ケ小平は、世界では平和と発展が主な
  潮流となっており、世界大戦は回避可能だと考えた(毛沢東
  はそう考えていなかった)。そこで、目下の第一の任務は発
  展であり、資本主義国との間でも経済的な相互依存関係を築
  いていった。
   第二の特徴は客観的な自己認識を有していたことである。
  ケ小平においても大国意識は強かったが、それと同時に、中
  国は小国でもあると認識していた。後に「社会主義の初級段
  階」にあるとも言われたが、要するに科学技術や工業化が遅
  れた発展途上国だという自覚が強かった。
   第三には、イデオロギーより国家利益を重視したことが挙
  げられる。国際共産主義運動から次第に足を洗い、平和な国
  際環境を実現して四つの近代化を追求することを外交の目標
  に据えた。
   そして第四に、「韜光養晦」の外交方針の採用が挙げられ
  る。表現は時代によって異なり、80年代の方針は「同盟せ
  ず、覇を称えず、突出せず」というものであった。
                  https://bit.ly/2tdPxWP
  ───────────────────────────

トランプ大統領国連演説/2018.jpg
トランプ大統領国連演説/2018
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2019年02月13日

●「アリババ会長はなぜ退任するのか」(EJ第4946号)

 事の発端はこうです。2018年9月8日付の「ニューヨーク
・タイムズ」が次の趣旨の報道をしたのです。
─────────────────────────────
    アリババのマー会長が10日にも会長を退任する
    ──2018年9月8日付、ニューヨーク・タイムズ紙
─────────────────────────────
 しかし、翌日の9日、アリババ傘下の香港メディアがこの報道
を否定します。これによって、少なくとも日本では誤報と判断さ
れ、騒ぎにはならなかったのですが、中国メディアは、万一に備
えて、Xデーの10日に向けて臨戦態勢をとったのです。
 そして10日午前、マー氏が1通の手紙を公表します。その趣
旨は次の通りです。
─────────────────────────────
  2019年9月10日に私はアリハバの会長を退任する
                   ──ジャック・マー氏
─────────────────────────────
 2018年9月11日、マー会長はロシアのウラジオストクに
姿を現しています。同地で開催された「東方経済フォーラム」に
出席したのです。その席には、ロシアのプーチン大統領も同席し
ており、プーチン大統領は、マー氏に対し、次のように質問して
います。
─────────────────────────────
プーチン:そこに座ってロシアのお菓子を食べている若い方に質
 問したい。馬雲さん、あなたは、まだ若いのに、なぜ引退する
 のか。
J・マー:大統領閣下、私は若くありません。昨日ロシアで54
 歳の誕生日を迎えました。私は創業して19年間、一生懸命働
 いてきました。でも、もっと多くの好きなことを、やりたいと
 思っています。例えば、教育や慈善事業です。
プーチン:あなたは私よりも若い。私はすでに66歳。なぜ、現
 役を退くのか。          https://bit.ly/2SnRz5P
─────────────────────────────
 プーチン大統領の疑問は当然です。アリババは3万6000人
もの従業員を抱え、時価総額4200億ドル(約46兆円)の巨
大企業です。その企業のトップが、そんなに簡単に辞めてもいい
のか──誰でもそのように考えるからです。
 ジャック・マー氏の退任にはいくつもの説があります。アリバ
バの創業は1999年3月。今年はちょうど19年目。マー氏は
創業19年のうち、できるだけ早く後継者を発見し、約10年間
を後継者育成に充てるという方針を立て、後継者づくりを行って
きたといいます。そして、実際に現在のCEOダニエル・チャン
(張勇)氏に経営を任せてきています。
 コラムニストの浦上早苗氏は、後継者のチャンCEOについて
次のように紹介しています。いまわれわれの知っているアリババ
は、既にチャンCEOのアリババだと、マー氏はいうのです。
─────────────────────────────
 チャンCEOは、米会計事務所プライスウォーターハウスクー
パース(PwC)の上海拠点やゲーム会社のCFOを経て、20
07年にアリババに入社した。今やブラック・フライデーを上回
る世界最大のセールに成長した11月11日の「独身の日」セー
ルを2009年に始めたのも、日本の大企業が多く出店する、B
toCサイトの「天猫」の立ち上げを担ったのもチャン氏。20
13年にはマー氏からアリババグループのCEOを引き継ぎ、最
近では、スターバックスとの提携など、マー氏が提唱する「新小
売」のコンセプトの具現化に手腕を発揮している。
                  https://bit.ly/2SrgepV
─────────────────────────────
 それでは、ジャック・マー氏は、退任したら何をやるのでしょ
うか。マー氏の手紙には次のようにあります。
─────────────────────────────
 私は教育に戻りたいと思う。私が最もやりたいことをするのは
私を非常に興奮させ、この上もない幸福を感じさせるのである。
私は皆さんに請け負うことができる。アリババは馬雲だけに属す
るものではないが、馬雲は永遠にアリババに属していることを。
              ──馬雲/2018年9月10日
─────────────────────────────
 しかし、これは表面上の理由であると思います。教育ビジネス
をやりたいのであれば、アリババとしてやってもいいし、アリバ
バから離れる必要はないと思います。では、どうして退任するの
でしょうか。
 「マー氏は逃げている」──ジャーナリストの相馬勝氏はいい
ます。何から逃げているのでしょうか。それは、中国政府、すな
わち、中国共産党から逃げているという指摘です。
 というのは、このところ、党中枢の幹部と関わりを持つ有能な
若手経営者が、次々と職を追われているからです。ジャーナリス
トの相馬勝氏は、これについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 例えば、中国最高指導者だったケ小平の孫娘と結婚した安邦保
険の呉小暉元会長は、のちに離婚したものの、その関係を利用し
て同社を巨大化させた。呉氏は派手な海外投資でニューヨークの
著名なホテルなどを買収していったが、いまや詐欺と職権乱用な
どの罪で懲役18年の実刑判決を受け、個人資産105億元(約
1800億円)を没収された。
 また、曾慶紅元国家副主席と親しいとされる政商の郭文貴氏は
現在、米国に事実上の亡命状態だ。同じく、曾氏と親密な関係に
あった実業家の肖建華氏は香港の最高級ホテルのスィートルーム
に滞在中、何者かによって拉致され、中国大陸に連れていかれた
と伝えられる。           https://bit.ly/2BvnRRU
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/027]

≪画像および関連情報≫
 ●沈みゆく船を見切ったジャック・マーが電撃退任
  ───────────────────────────
   馬雲(ジャック・マー)といえば、中国ビジネス界の超大
  物。英語教師を務めていたが、ネット通販最大手アリババ・
  ドットコムのカリスマ創業者となり、アマゾン・ドットコム
  の創業者ジェフ・ベゾスの中国版とも呼ぶべき存在に上り詰
  めた。そんな中国の起業家精神を象徴するマーが、来年9月
  にアリババの会長を退任すると表明した。このニュースは投
  資家を驚かせただけではない。中国に築いた輝かしい地位を
  投げ出す理由は何なのかと、さまざまな臆測を呼んでいる。
   マーが語った退任の理由を、軽く考えるべきではないだろ
  う。推定380億ドル以上の資産を持つ54歳の大富豪は、
  退任後は慈善活動、特に教育事業に、時間と精力を注ぐとい
  う。中国の教育環境を向上させるのは結構だが、この言葉を
  額面どおりに受け取るわけにはいかない。優れたビジネスマ
  ンが想定外の行動を取るとき、凡人には分からない何かを見
  据えていることがある。
   例えば、香港の著名な実業家である李嘉誠(90)がそう
  だった。彼が13年に中国から資産を引き揚げたとき、表向
  きには売却が必要という説明だった。だが今にして思えば、
  中国経済が浮き沈みの激しい段階に入ると見越して早めに撤
  退を図ったのだ。その後の展開は、李の判断が正しかったこ
  とを示している。マーがアリババを離れる理由は自分の評判
  を守ることかもしれない。会社が順調なうちに側近も社員も
  残して去れば、サクセスストーリーに傷が付かない。
     ──「ニューズウィーク」 https://bit.ly/2Dv5lZQ
  ───────────────────────────

アリババ会長/ジャック・マー氏.jpg
アリババ会長/ジャック・マー氏 
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2019年02月14日

●「中国国有企業改革は進んでいない」(EJ第4947号)

 アリババ創業者、ジャック・マー(馬雲)氏の突然の引退宣言
についてもう少し追及することにします。どう考えてもこの引退
宣言は不自然であると考えるからです。
 その前に、習近平氏が国家主席になってからの中国の経済運営
について知っておく必要があります。そのため、少し歴史を振り
返ることにします。1949年の初代皇帝である毛沢東が建国し
た現在の共産党政権は、1989年に学生たちが政治の民主化を
求めて蜂起した天安門事件によって転覆させられる一歩手前まで
いったのです。時の国家指導者のケ小平は、軍隊の力で学生たち
を押さえ込み、共産党政権を死守しています。
 ケ小平は、天安門事件を契機として、国民に「民主」の代りに
「金儲けに走る自由」を与えたのです。そうでもしないと、第2
第3の天安門事件が起こりかねなかったからです。ケ小平は、毛
沢東の死後2年が経過した1978年から改革開放を進めていた
のですが、1992年に改革開放の加速命令を出しています。
 ところで、「改革開放」とは何でしようか。
 常識的には、政治が「社会主義」であれば経済は「計画経済」
であり、経済が「市場経済」であれば、政治は「資本主義」のは
ずです。それをケ小平は、両方のいいところをとって「社会主義
市場経済」を推進したのです。これが「改革開放」です。
 この場合、国のトップ2人が、「政治」と「経済」のバランス
をうまく取る必要があります。
─────────────────────────────
     共産党総書記(主席) ・・・・・ 政治
      国務院総理(首相) ・・・・・ 経済
─────────────────────────────
 この「社会主義市場経済」が現在の中国を作ったことは確かで
す。しかし、ケ小平時代のように中国の経済規模が小さいときは
舵取りを誤らなければ、うまく経済を運営できますが、現在のよ
うに経済規模が巨大化した場合は、その舵取りはきわめて困難に
なります。それに加えて、ナンバー1の共産党総書記とナンバー
2の国務院総理が、それぞれの役割分担をバランスよく行う必要
があるのです。江沢民時代と胡錦濤時代はそれが奇跡的といって
よいほどうまくいったのです。
─────────────────────────────
    ◎江沢民時代 ・・ 1989年〜2002年
     【政治】江沢民主席 【経済】朱鎔基首相
    ◎胡錦濤時代 ・・ 2003年〜2012年
     【政治】胡錦濤主席 【経済】温家宝首相
    ◎習近平時代 ・・ 2013年〜2018年
              2019年〜
     【政治】習近平主席 【経済】李克強首相
─────────────────────────────
 しかし、2013年3月に発足した習近平主席と李克強首相の
新政権は、2人がライバル同士であったことに加えて、信頼関係
がなく、互いに疑心暗鬼の関係だったのです。しかも、習主席は
「政治」だけでなく「経済」の役割も李首相から取り上げて、独
占するという愚を犯したのです。その結果、中国の経済は、習近
平時代から混乱に陥ってしまったといえます。
 この習近平政権について、近藤大介氏は、中国にとって2つの
不幸が重なったと述べています。
─────────────────────────────
◎第1の不幸
  習近平という政治家が、稀代の経済オンチであり、中国経
 済を2度まで崩壊させた毛沢東に匹敵する。
◎第2の不幸
  社会主義と市場経済の矛盾からくる軋轢が、もはや、抜き
 差しならないところまできてしまっている。
─────────────────────────────
 「第1の不幸」については、習近平主席が自らの経済オンチを
自認し、李克強首相に「経済」を信頼して任せれば、ある程度解
決できますが、現在もそうしていないので、経済は、深刻な情勢
になりつつあります。
 「第2の不幸」については、もともと矛盾している社会主義と
市場経済の軋轢が限界に達しつつあることです。それが顕著に見
られるのが「国有企業」です。中国の国有企業について近藤大介
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では、基幹産業のすべてを、1100社あまりの国有企業
が独占しており、この1100社で中国の富の6割強を握ってい
る。ところが、地方自治体や、やはり国有企業である銀行が、国
有企業に乱脈融資を続けた結果、習近平時代が始動した2013
年の時点で、国有企業を中心とした国家の負債額がGDPの2倍
以上に膨れ上がってしまった。国有企業の改革は「待ったなし」
の状況だったのだ。             ──近藤大介著
          『中国経済「11OO兆円破綻」の衝撃』
                講談社+α新書711−1C
─────────────────────────────
 これに対し、李克強首相は、いわゆる経済プラン「リコノミク
ス」による解決プランを示していますが、その本丸も「国有企業
改革」だったのです。
 しかし、習近平主席は、この解決プランに乗らず、これまで江
沢民一派が牛耳っていた国有企業利権を引きはがし、自派の利権
に組み替えようとしたのです。江沢民派で石油利権を握っていた
周永康元常務委員を腐敗摘発の名の下に逮捕したのがそれです。
「国有企業改革」は完全にほったらかしです。
 なぜなら、国有企業改革をすれば利権がなくなってしまうから
です。習主席は、国有企業改革を議論し、まとめる「公報」起草
委員会から、本来担当であるはずの李克強首相を外す措置まで、
とっています。    ──[米中ロ覇権争いの行方/028]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会主義市場経済」はファシズムの一形態に過ぎない
  ───────────────────────────
   中国の「抗日戦争勝利記念日」(9月3日)が近づいてき
  た。昨年の同日、天安門広場で大々的に繰り広げられた「世
  界反ファシズム戦争勝利70周年記念」軍事パレードは記憶
  に新しい。
   「歴史を鑑(かがみ)に」と居丈高に迫る中国の歴史戦に
  は、3つの狙いがある。第1は潜在敵国、とくに日本に贖罪
  (しょくざい)史観を浸透させ、その精神的武装解除を図る
  ことである。第2は「反省しない日本」への、敵愾(てきが
  い)心をかき立て独裁体制の維持を正当化することである。
  第3は自由、民主、法の支配、人権といった「現在」の問題
  に焦点が当たらぬよう、注意を過去にそらすことである。
   従って、とりわけアジアの自由主義大国・日本が誤った贖
  罪意識から脱して、正しく「歴史を鑑」とすることが、日本
  自身にとってはもちろん、自由世界全体にとっても戦略的に
  極めて重要となる。
   まずファシズムという言葉だが、これはイタリアのムソリ
  ーニが、共産主義でも資本主義でもない「第三の道」として
  打ち出したものである。国家主義的な独裁を永遠の統治原理
  としつつ、資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のために
  用いるというのがその「第三」ないし折衷策たる所以(ゆえ
  ん)である。       ──島田洋一福井県立大学教授
                  https://bit.ly/2I7bTDB
  ───────────────────────────

改革開放の推進者/ケ小平.jpg
改革開放の推進者/ケ小平
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2019年02月15日

●「経済発展を無視した国有企業改革」(EJ第4948号)

 中国経済を正常軌道に乗せるには、国有企業改革に手を染める
必要があります。2012年に発足した習近平体制は、それに着
手する絶好の機会だったのです。なぜなら、中国の社会主義市場
経済の「経済」を担当する国務院総理の李克強氏が、経済にすこ
ぶる詳しいプロであったからです。
 李克強氏は、早速「リコノミクス」を策定し、国有企業改革プ
ランを作っています。その内容は概略次の通りです。
─────────────────────────────
 第1段階は、国有企業の市場化だ。市場に合わない、いわゆる
親方日の丸的な制度は、すべて削ぎ落としていく。第2段階は、
市場の多元化だ。中国の市場は、国有企業、民営企業、それに外
資系企業を、すべて平等に扱うようにして、競争の原理を働かせ
る。そして第3段階が、国有企業の民営化だ。民間にできること
はどんどん民間に権限を委譲し、市場の活性化を図っていく」。
        ──近藤大介著/講談社+α新書711−1C
          『中国経済「11OO兆円破綻」の衝撃』
─────────────────────────────
 しかし、「3中全会」において採択された「公報」で示された
国有企業改革に関する記述は、次のようなものです。この公報を
作成する起草委員会から、肝心の李克強首相を外しているので、
この考え方に李克強首相の意見は反映されていません。
─────────────────────────────
 揺るぐことのない公有制経済の発展を強固なものとし、公有制
の主体的地位を堅持し、国有経済の主導的な作用を発揮し、国有
経済の活力、コントロール、能力、影響力を不断に増強させる。
公有制を主体とした多種所有制の経済は、中国の特色ある社会主
義制度の支柱である。      ──「公報」/3中全会より
─────────────────────────────
 抽象的にボカされ、何をいっているのか明確ではありませんが
国有企業の民営化どころか、強化とも取れる宣言であるといえま
す。公有、公有、公有と公有が強調されています。これは、習近
平公有企業改革の伏線だったのです。習近平氏は、かねてから、
トップに就いたら必ずやると決めていたことがあります。これに
ついて、近藤大介氏は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 習近平主席は、2012年11月に中国共産党のトップに立っ
て以来、決して表には出さないが、一貫した「政治目標」を持っ
ている。それは最大最強の長老である江沢民元主席及びその一派
を壊滅させるというものだ。なぜなら、石油、鉄道、電力、資源
・・といった多くの利権を、江沢民一派が手放さなかったからで
ある。そして、こうした利権の温床こそが、基幹産業を寡占する
国有企業に他ならなかった。   ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 習主席は、2012年の年末から、「腐敗防止キャンペーン」
の名の下に、かねてからの計画を実行に移します。まず、やった
ことは、周永康前・中央政治局常務委員の失脚です。周永康氏は
「江沢民の金庫番」といわれた人物です。2013年12月に身
柄を拘束し、2015年6月11日に無期懲役を科しています。
 そのうえで習近平主席は国有企業改革に着手します。2015
年8月24日のことです。習主席は、「中国共産党と国務院の国
有企業改革を深化させるための指導意見」と称する長文の通達を
共産党および政府として決定しています。その「目的」について
は、次のように書かれていたのです。
─────────────────────────────
 中国の偉大なる社会主義の御旗を高く掲げ、党の国有企業への
指導を強化させ、強大で優秀な国有企業を作り、中華民族の偉大
なる復興という中国の夢の実現に、積極的に貢献することを目的
とする。揺るがない公有制経済、社会主義市場経済、監督管理強
化、党の指導などを基本原則とする。
         ──「中国共産党と国務院の国有企業改革を
              深化させるための指導意見」より
─────────────────────────────
 何を狙っているのかというと、国有企業を分類し、そのうち優
秀な国有企業を中心に、党の指導強化の下で、他を淘汰していく
というのです。そしてその改革を2020年までに完了させると
しています。
 リコノミクスでは、国有企業の市場化→多元化→民営化の3ス
テップで進めるというまともなものです。経済を発展させるには
「民営化」は欠かせないのです。しかし、その姿勢はカケラもな
く、「焼け太りによる市場の寡占」を目指すものといっても過言
でぱないのです。この指導同意見に対して、市場は敏感に反応し
ています。
 9月14日月曜日、上海総合指数は先週末に比べて2・67%
安い3114ポイントまで急落しています。これは、習近平就任
以来、7回目の暴落で「第7次習近平暴落」といわれます。
 こういう市場の反応を完全に無視し、2015年5月19日付
国営新華社通信は次の論評を出しています。あくまで国有企業重
視の姿勢が鮮明なのです。
─────────────────────────────
 習近平総書記はこれまで何度も、国有企業の強大化と優良化を
強調してきた。国有企業は国有経済の核心であり、支柱である。
国有企業がなければ、国有経済はなく、これまでの経済成長の重
大な成果もなく、中国の特色ある社会主義制度もなく、国民の共
同の富もない。そのため、国有企業改革とは、国有企業をなくす
ことではなく、その主体的な地位をさらに高めることなのだ。わ
れわれはそのことを自覚し、国有企業の各種私有化への反対を、
旗臓鮮明にしなければならない。 ──2015年5月19日付
                    国営新華社通信より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/029]

≪画像および関連情報≫
 ●【中国を読む】国有企業改革の変遷と課題/日本総研
  ───────────────────────────
   中国の国有企業政策は、1980年代の「経営請負制度の
  導入」、90年代の「民営化」、2000年代入り後の「強
  大化」という3つのフェーズに分けることができる。いまも
  政府は不良債権問題をコントロールするため国有部門を拡大
  している。これは、企業活動全体の効率を低下させ、潜在的
  な不良債権を増やすという副作用を持つ処方箋だ。国有企業
  の強大化は、当面の政権安定に寄与するものの、将来の問題
  を大きくする。
   中国の国有企業改革はさまざまな試行を経て、経営請負制
  度の導入から本格化した。1984年10月、中国政府は、
  国有企業の経営効率が大変低いと指摘したうえで、国有企業
  を活性化させる基本方針を打ち出した。この具体策として、
  経営請負制度が全国規模で導入されるようになった。経営請
  負制度とは、国有企業が国庫に上納する利潤額などの目標を
  達成すれば、自らの裁量によって利益を設備投資や従業員の
  給与に充てることが可能となるなど、経営の自由をある程度
  認めるという制度であった。
   もっとも90年代初めには、経営請負制度に対する否定的
  な見方が広がった。納得性の高い3〜5年先の上納利潤額な
  どの目標を設定するのは至難の業であり、目標が現実的な数
  値でないことが多々あったのである。「国有企業の所有者は
  政府」という原則に全く手を付けなかったことも大きな問題
  であった。           https://bit.ly/2N611Vt
  ───────────────────────────

周永康氏と習近平氏.jpg
周永康氏と習近平氏
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2019年02月18日

●「中国の民間企業を気にする習体制」(EJ第4949号)

 習近平国家主席にとって、国有企業ほど重要なものはないと考
えられます。国有企業は共産党の利権の巣窟であり、もし国有企
業が弱体化すれば、共産党も弱体化するからです。そのため、市
場での企業の優遇状況が以下のようになるようにしていますが、
これでは、他国、とくに米国とまともな投資協定などは結べない
のです。現在米国との間でまさにこれが問題になっています。
─────────────────────────────
    外資系企業<中国の民営企業<中国の国有企業
─────────────────────────────
 それに、習近平主席は、経済問題を政治問題の延長線上でとら
えています。つまり、自己の権力と利権が増大する経済政策こそ
が、習主席にとって正しい経済政策なのです。
 その習主席の経済ブレーンの筆頭格が劉鶴氏です。2018年
3月19日に、第2次李克強内閣の国務院副総理に就任していま
すが、劉鶴副首相は習主席の意向を踏まえて、国有企業改革をめ
ぐっては縮小を目指す李克強総理より、拡大を掲げる習近平総書
記の立場を代弁しています。いわば、李克強首相の経済政策にブ
レーキをかける役割を劉鶴氏が担っているといえます。
 このように、習主席にとって社会主義は何よりも大事なもので
あり、就任以来イデオロギーの引き締めを図っています。米国と
しては、中国経済が発展すれば必ず市場経済に移行すると考えて
いたものの、習主席は中国を真逆の方向に引っ張っていこうとし
ています。それがまさに米中貿易戦争というかたちで激突してい
るといえます。
 このことについて、北海道大学大学院公共政策学研究センター
の西本紫乃研究員は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 2016年12月中旬、教育部の陳宝生部長(大臣に相当)が
共産党の機関誌『紫光閣』に教育機関におけるイデオロギーの徹
底強化に関する記事を発表した。教育機関のイデオロギーを徹底
することで体制の維持を強固にするとともに、次世代を担う若者
に対して正しい思想教育をしなければならない、という趣旨の文
章である。この陳宝生部長の文章で注目すべきは、「敵対勢力」
の中国への攻勢を防ぐ必要があると述べている点である。「敵対
勢力」が中国に侵入するときは、まず教育システムに入り込み学
校を乱すのだという。「敵対勢力」が具体的に何を指すのか明確
ではないが、国外からの脅威というより、おそらく内なる敵を指
しているのだと思われる。つまり、中国国内の西洋の哲学や価値
観を教える教員や体制批判的な意見をもつ人を「敵対勢力」と見
ているのだ。中国国内の有識者はこの文章を、教育機関内部の体
制に従順でない人たちを排除するための、クリーンアップキャン
ペーンの開始宣言だと見ている。   https://bit.ly/2SNgmQb
─────────────────────────────
 西本紫乃研究員は、習近平主席の独特の人事について解説して
います。習主席は、自身の政権をつくるに当って、自分が歴任し
たポストでのかつての部下を中心に要職に起用しています。安倍
首相と同じいわゆる「お友だち人事」です。そして、その人物に
対し「クライエンテリズム的人間関係」を強く求めるのです。
 「クライエンテリズム的人間関係」とは、いわゆる「親分子分
関係」のことです。コトバンクには次のように出ています。
─────────────────────────────
 人から受けた好意に対してはお返しをするという社会的交換の
一種で、互酬的関係という。ある特定の人から何かを頼まれたと
きに、過去にその人から受けた好意に照らして断りきれないとい
う感情。親分・子分の関係,パトロン・クライエントの関係はこ
うしてできあがる。クライエンテリズムは,このような特定の人
間に結びつく影響力の関係である。一般に前近代的なものといわ
れるが,現在でも政治や国家を「好意の源泉」とする政治的なク
ライエンテリズムは,南イタリアのキリスト教民主党などにみら
れる。    ──ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より
─────────────────────────────
 習近平主席に取りたててもらった部下たちは、子分として習主
席の掲げる左派イデオロギーを受け継ぎ、それをさらに加速させ
る旗振り役を任じなければならないのです。それが、引き立てて
もらった恩にお返しすることになるのです。
 習近平体制ではさまざまな規制が強化されています。2016
年11月には「国民教育促進法」の修正案が可決され、2017
年以降、私立の小中学校の設立ができなくなっています。教育機
関のイデオロギーによる囲い込みの一環であり、こうした規制は
今後、ますます強化されていくと考えられます。
 こういう中国の習近平政権において、いちばん頭の痛い問題は
中国の民間企業、それも成功をおさめ、急速に伸びつつある民間
企業のCEOです。彼らの多くは、外国からの資本提供を多く受
けている多国籍企業であり、表面上はともかく、ハラの中では、
自由市場を望んでいる──これは、現在の中国の社会主義市場経
済とは本質的に相いれないからです。
 それにしても、このところ中国では、安邦保険、海南航空集団
万達集団などの民営企業のトップが失脚したり、世間からバッシ
ングを浴びることが相次いでいます。
 「安邦保険」に関しては、創業者の呉小暉氏を詐欺や職権乱用
の罪で懲役18年とする判決が出されています。習近平指導部は
個人資産105億元(約1800億円)を没収し、呉氏を厳罰に
処しています。「海南航空集団」は、中国最大の民間航空コング
ロマリットですが、海南航空集団の会長、王健が旅先の南フラン
ス・プロバンスで客死しています。「万達集団」は中国最大財閥
・王健林率いる企業ですが、経営危機に陥っています。
 こういうことが現在中国では、相次いで起きているのです。こ
れらの事件に関し、アリババのジャック・マー会長が、強い不安
を感じたとしても不思議はないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/030]

≪画像および関連情報≫
 ●ケ小平一族の企業「安邦」、急ブレーキの意味
  ───────────────────────────
   中国の代表的“紅色企業”安邦保険集団が揺れている。紅
  色企業とは、革命に参加した主要ファミリーが経営や資本に
  かかわっている企業を指すが、この企業のCEOはケ小平の
  孫娘の婿・呉小暉。つまり、ケ小平一族の企業という、中国
  最強と見られる免罪符を持っていた。しかも、中国建国十大
  元帥のひとり陳毅の息子・陳小魯も董事を務めている。ケ小
  平と陳毅という最強の革命ファミリーの名前を背景に、呉小
  暉は“中国のバフェット”と呼ばれる手腕で一民間企業・安
  邦集団を巨大化し、中国2位の保険収入を誇るまでに成長さ
  せた。だが、この安邦の躍進に習近平がブレーキをかけてい
  る。その意図はどこにあるのだろうか。
   2017年5月5日午後、中国保険監督管理委員会(保監
  会)は安邦保険集団傘下の安邦人寿保険株式会社に対して、
  3ヶ月の新規製品の発売禁止処分を決定した。これは安邦人
  寿の発売する安享5号というハイリスクユニバーサルライフ
  保険が、規制・監督を逃れて市場秩序を乱しているなど、2
  種類の保険商品に違反が見られたことに対する処罰というこ
  とになっている。その前の4月、安邦による米保険会社のフ
  ィデリティ・ギャランティ生命買収などに保監会がストップ
  をかけた。香港紙によれば、安邦の海外資産比率が高すぎる
  のが理由という。キャピタルフライトを食い止めるために、
  中国当局が海外投資を抑制しているにもかかわらず、安邦が
  言うことを聞かないので、本格的に圧力をかけ始めた、と見
  られている。          https://bit.ly/2tqMc6S
  ───────────────────────────

安邦保険集団.jpg
安邦保険集団
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2019年02月19日

●「京東集団CEOが米国で逮捕報道」(EJ第4950号)

 2018年8月31日のことです。中国の電子商取引(EC)
企業では、アリババに次ぐ2位の「京東集団」の創業者、劉強東
CEO(45歳)は、出張先の米国ミネソタ州ミネアポリスで地
元警察に逮捕されるというニュースが流れたのです。
 容疑は強姦罪で、裁判で有罪になれば、最低でも懲役12年、
最高の場合、懲役30年が科されるといわれます。しかし、劉C
EOはすぐ保釈され、北京の本社に戻っていますが、ミネアポリ
スでの裁判の決着はまだついていないのです。
 このように書くと、EC企業の若手経営者の単なる性犯罪じゃ
ないかといわれますが、事件のバックに習近平指導部の影がちら
ついており、ハニートラップの疑いもあるので、少し詳しく見る
ことにします。
 京東集団は、なかなかの有力企業で、米IT大手グーグルと米
小売り大手ウォルマートを後ろ盾につけ、世界進出を加速する計
画を持っています。劉強東CEOは、インタビューで、グーグル
から数ヶ月前に5億5000万ドル(約610億円)規模の出資
を受け、中国外の顧客を獲得するため、グーグルと戦略を立てて
いる初期段階にあると表明しています。習近平主席は、このタイ
プの中国の民営企業を最も警戒するのです。
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 財経ネット報道を参考にすると、劉強東はミネソタ州立大学と
清華大学経済管理学院の合同DBAプログラムに参加するために
訪米した。8月27日に妻子を連れてプライベートジェットでミ
ネアポリス入りし、29日夜には家族でミネトンカ湖上の遊覧船
で晩餐会を行った。この晩餐会に被害を主張する25歳の中国人
女子留学生も参加していた。
 事件は30日夜に発生した。市内の日本食レストランで、劉強
東は清華大学経済管理学院教授の崔海濤が引率してきた学生、留
学生らも招いて晩餐会を開き、例の女子留学生も参加。この席で
は32本の葡萄酒が空けられ、かなり乱れた酒宴となった様子が
レストランの従業員らに証言されている。
 この晩餐会のあと、酔った女子留学生は、劉強東に学生寮まで
送ってもらった。だが、その女子留学生からその夜午前2時ごろ
警察に通報があった。女子留学生は男友達の助けを借りて警察に
連絡をしたというが、警官が駆け付けてみると「間違いました。
すみません」と言うだけだった。
 31日夜も有名イタリア料理店で留学生たちを招いた宴会が開
かれ、その女子留学生も参加。9月1日午前1時ごろ、その女子
留学生は学校職員の助けを借りて警察に通報した。警察が呼び出
されたのはミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で、そこ
にいた劉強東が、性暴行既遂として逮捕されたのだった。劉強東
はそこで女子学生と会う約束をしていた、と主張した。
                  https://bit.ly/2BEkA2N
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 話が複雑なので整理します。この事件の主役は、米国に出張し
た劉強東京東集団CEOと、米国の大学に留学している中国人の
女子留学生です。劉強東氏は、現地の日本食レストランで、中国
人留学生を招いてパーティーを開催しています。それらの留学生
を連れてきたのは、清華大学経済管理学院の崔海濤教授です。劉
強東氏は、そのパーティーの席で、崔海濤教授からその女子留学
生を紹介されます。おそらくパーティーは他にも女子留学生が参
加していたと思われますが、崔海濤教授はその留学生を特定して
紹介しているのです。
 パーティー終了後、劉強東氏は酒に酔ったその女子留学生を学
生寮まで送っています。初対面の女子留学生に、なぜそこまです
るのかというと、崔海濤教授からその女子留学生を特定して紹介
されたからでしょう。そこで何かがあったとみるべきです。おそ
らくその女子留学生は性被害に遭ったと考えられます。
 学生寮に戻ったその女子留学生は、事情を聞いた寮の男友達、
おそらく米国人の友達の助けを借りて、深夜に警察に通報します
が、警察官が来ると、何でもないとして警察官を帰しています。
 次の日も劉強東氏は、別の中国人留学生を招いてパーティーを
開いていますが、その女子留学生も参加しているのです。その席
で、劉強東氏はおそらくその女子留学生に「後で会おう」といい
ミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で会うことを約束し
ます。約束の時間に、その小教室に女子留学生と学校職員と警察
官が踏み込み、劉強東氏は逮捕されるのです。女子留学生は、昨
夜は思いとどまったものの、翌日になって警察に通報することを
決めたと思われます。誰かの強い勧めがあったからです。
 怪しいのは、留学生を引率した崔海濤教授です。この重要証人
は早々に帰国しています。彼が中国共産党とつながっていた可能
性は十分あります。しかも、崔海濤教授の授業は9月から休講に
なり、彼のプロフィールが掲載されている所属する精華大学長江
商学院のサイトから消えているのです。
 この事件について中国の事情に詳しい福島香織氏は、中国で今
も行われている「性賄賂」について、次のように述べています。
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 男尊女卑の根強い中国には「性賄賂」が横行している。それは
大学においても同じで、金主や政治家にさまざまな資金援助や便
宜を得る見返りに女子学生にキャバクラ嬢やそれ以上の真似事を
させることがある。女子学生は単位や奨学金、留学チャンスなど
と引き換えにそれに応じることもある。崔海涛は昨年のDBAプ
ログラムでもよく似たことをやったという匿名証言が一部で流れ
た。そう仮定すると、引率の教授が特定の女子留学生を何度も劉
強東に引き合わせたことも、彼女の名前が劉強東の初恋の人と同
じであったというのも偶然ではなかったかもしれないし、彼女が
警察に通報しながら逡巡したのも納得できよう。
                  https://bit.ly/2IjcUbJ
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           ──[米中ロ覇権争いの行方/031]

≪画像および関連情報≫
 ●性的暴行容疑で逮捕の中国大手ECトップ/米紙
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   2018年9月6日、中国ネット通販大手・京東集団(J
  Dドットコム)の劉強東(リウ・チアンドン)最高経営責任
  者(CEO)が訪問先の米ミネソタ州で女性に性的暴行を加
  えたとして逮捕された問題で、新聞は米紙ウォール・ストリ
  ート・ジャーナル(WSJ)が逮捕前後の詳細について報じ
  た記事を取り上げた。
   WSJによると、被害を訴えたのはミネソタ大学に通う中
  国人女性で、女性は先月30日夜、同州ミネアポリスにある
  日本料理店で開かれたワインと料理を楽しむ食事会で劉氏と
  同じテーブルに着いた。問題は食事会の後に起きたという。
   記事はまた、店にいた人の話として「出席者は20人余り
  だった」と説明。出席者の中に劉氏がいたかどうかは不明と
  のことだが、「周囲からボスと呼ばれる人がいた」「食事会
  は9時ごろ終わったが、何人かは酔いつぶれていた」とのコ
  メントが寄せられたことも報じた。
   新聞はこのほか、「事件発生は31日午前1時。劉氏の収
  監までに約22時間を要した。この間、一体何が起きたのか
  情報は明らかにされていない」と説明し、WSJの報道とし
  て「警察は事件の因果関係やその他の側面について議論する
  ことを拒んでいる」とも伝えている。 (翻訳・編集/野谷)
                  https://bit.ly/2GNLUiu
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劉強東京東集団CEO.jpg
劉強東京東集団CEO
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2019年02月20日

●「馬雲会長は先を読んで逃げたのか」(EJ第4951号)

 一連の急成長企業の若手経営者、「安邦保険集団」の呉小暉C
EO、フランスで急死した「海航集団」の王健会長、そして米国
で逮捕された「京東集団」の劉強東CEO、いずれも不可解な事
件で失脚させられています。
 一般的な観測では、これらの若手経営者は、これからの中国を
支える重要な人材であり、国のトップである習近平主席としては
交流を密にしているとされていましたが、そうではなく、むしろ
警戒心を高め、敵対しているのです。習近平政権にとって最も重
要な国有企業の存在を脅かす存在としてとらえているようです。
中国の民営企業の位置付けはあくまで次の通りです。
─────────────────────────────
    外資系企業<中国の民営企業<中国の国有企業
─────────────────────────────
 このうち、安邦保険集団の呉小暉CEOと、海航集団の王健会
長のケースには共通点があります。
 呉小暉CEOは、ケ小平の孫娘の婿であり、安邦保険集団はケ
小平一族の企業なのです。中国建国十大元帥のひとり陳毅の息子
・陳小魯も董事を務めています。ケ小平と陳毅という最強の革命
ファミリーの名前を背景に、呉小暉は“中国のバフェット”と呼
ばれる手腕で一民間企業・安邦集団を巨大化し、中国2位の保険
収入を誇るまでに成長させています。
 故王健氏が率いていた中国複合企業、海航集団(HNAグルー
プ)は、江沢民派が後ろ盾といわれています。HNAの大株主で
ある海南省慈航公益基金会のトップが海南省元高官である一方で
HNAが89年創業当時から、資金調達で当時の劉剣峰・海南省
省長のバックアップを受けていたのです。
 劉剣峰氏は、1984年に中国電子工業部の副部長兼規律検査
組の組長を務め、1997年には、国有通信大手のチャイナ・ユ
ニコムの会長に就任しています。これに対して、江沢民氏は19
83年〜85年まで電子工業部部長(大臣クラス)を務めており
劉剣峰氏の上司の関係です。それに加えて、チャイナ・ユニコム
は、江沢民氏の長男である江綿恒氏が実質オーナーを務める江沢
民一族の利益基盤であり、そういう関係もあって、HNAのバッ
クには江沢民一族がいるのです。
 習近平主席は、成功した若手経営者のバックには大物の政治が
いるとして、とくに警戒しています。なかでも、江沢民元主席の
勢力がバックにいる民営企業に対しては、さまざまな方法を駆使
して潰しにかかります。
 ジャック・マー(馬雲)氏は、江沢民元主席の孫で、投資ファ
ンドを運営する江志成氏と近い関係にあります。江志成氏は、江
沢民氏の孫です。これは、アリババの「潜在的リスク」といわれ
ジャック・マー会長も、十分それを意識していたのです。
 中国に詳しい宮崎正弘氏は、アリババのジャック・マー会長と
江沢民派の関係について、次のように書いています。
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 アリババは中国最大のネット通販、そのシェアは8割を超え、
筆頭株主は孫正義の「ソフトバンク」である。つまり最大の裨益
者は日本企業という皮肉!
 創業者の馬雲は通販ビジネス成功の勢いに乗って盛んにM&A
作戦を展開し、映画製作、百貨店、サッカーチームにまで経営の
手を広げた。馬雲は世界的なビジネスリーダーとなり、神話も生
まれた。本社は浙江省杭州市。ハイテク団地に近い川岸に巨大な
本社ビルがある(筆者も何回か目撃しカメラに収めた)。
 中国の通信ビジネスで大成功を収めたのは、このアリババと、
「騰訊」、そして「百度」だ。アリババのCEO馬雲は個人資産
が218億米ドルといわれ、江沢民の孫、江志成と「親密」な関
係が指摘されている。江志成は米国留学後、香港へあらわれて、
「博裕ファンド」を設立した。
 この江沢民の孫ファンドが、アリババの相当数の株主であるこ
とが分かっている。また、このファンドが、馬雲のすすめるベン
チャー・ビジネスに出資しているとも云われ、持ちつ持たれつの
ズブズブ関係がある。おりから江沢民の子分だった周永康ら「石
油派」が失脚し、江沢民は、捲土重来を期していると囁かれてい
る。                https://bit.ly/2SGdtkD
─────────────────────────────
 つまり、アリババは、早い時点から、習近平政権に睨まれてい
たし、ジャック・マー氏自身も十分それを認識していたのです。
2015年には、中国人民大学公共管理学の劉太剛氏が次のコラ
ムを書いてからは、アリババに対する風当たりは一層厳しくなっ
たのです。
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     アリババのビックデータは国家安全を脅かす
─────────────────────────────
 2017年には、中国人民銀行(中央銀行)がアリババのアリ
ペイはじめ、電子マネーを傘下に収容する通達も出しています。
建前は、スマホ決済の安全性を高めるためとなっていますが、こ
れによって、2019年以降、年換算で1000億円相当のアリ
ペイ金利収入が、人民銀行に接収されることになっています。
 こうした状況を踏まえて、時代の空気に敏感なジャック・マー
会長は、逃げを打ったのではないかと考えられます。
 福島香織氏は、これは終生国家主席を続けようとする習近平主
席への痛烈な、最後の当てこすりであるとして、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 野心の強い劉強東がはめられ、賢い馬雲は逃げを打った、と言
う噂が本当なら、声高にスゴイと叫ばれる中国のIT業界の前途
は、けっこう暗雲が垂れ込めているという気もするのだ。
                  https://bit.ly/2tonYtV
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/032]

≪画像および関連情報≫
 ●上場後のアリババを「やっつける」か/北京指導部情報
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   【大紀元日本9月19日】中国の電子商取引最大手、アリ
  ババ集団(BABA)は19日に、ニューヨーク証券取引所
  (NYSE)に上場する見通し。米紙ニューヨーク・タイム
  ズ(NYT)は今年7月、謎めいた政治的背景を持つアリバ
  バの投資会社や「紅二代」株主について報じた。香港メディ
  アは最近、北京指導部の情報筋の話として、中国当局は米国
  上場後にアリババを「やっつける」可能性があると伝えた。
   NYT紙は7月21日、長篇評論「アリババの背後にある
  多くの「紅二代」株主が米国上場の真の勝者」を掲載し、深
  い政治的背景を持つアリババの投資会社の状況を明らかにし
  た。報道によると、江沢民元国家主席の孫、江志成氏が設立
  した「博裕ファンド」や、陳雲元副総理の子息、陳元氏が、
  15年間率いた「国開金融」(CDBキャピタル)、中国共
  産党序列5位の劉雲山政治局常務委員の息子、劉楽飛氏や中
  国共産党の革命元勲、王震・大将の息子、王軍氏に関係する
  「中信資本」(シティック・キャピタル)など、いずれもア
  リババに投資しているという。NYT紙はまた、「今や、ア
  リババを倒すためには巨大な衝撃を与える必要がある。・・
  ・諸々の国家部門では多くの密接な政治的同盟者を有する」
  と、北京ベースの証券分析会社美奇金投資コンサルティング
  会社の共同創立者楊思安氏の話として述べた。
   香港誌「中国密報」の最新号は、「アリババと四大太子の
  黄金の宴」と題する記事では、北京の情報筋の話として「N
  YTの分析は根も葉もない話ではなく、目下の中南海(北京
  指導部)の情勢に関する一つの客観的論述である。
                  https://bit.ly/2UXX7Aw
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江志成氏/江沢民元主席の孫.jpg
江志成氏/江沢民元主席の孫
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2019年02月21日

●「米中貿易戦争で中国経済失速拡大」(EJ第4952号)

 2月14日のEJ第4947号から書いてきた中国のEC企業
の雄、アリババのジャック・マー(馬雲)会長の突然の退任の話
はこのくらいにして、米中貿易戦争の話に戻ることにします。
 2月20日現在、ワシントンにおいて、次官級の貿易協議が続
いていますが、本日と明日の22日にかけて開催する予定の閣僚
級の会合に向けての地ならしをやっています。3月1日まで今日
を含めて8日しかありませんが、トランプ氏は次のように延長の
可能性をほのめかしています。
─────────────────────────────
 タイミングは正確にはいえないが、3月1日は「魔法の日(マ
ジカル・デイト)」ではない。多くのことが起こりうる。
                   ──トランプ米大統領
       ──2019年2月20日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 そもそも中国は米国に経済では絶対に勝つことは困難です。そ
の国力の差が謙著だからです。2017年の時点で、中国のGD
Pは米国の63・2%であり、約3分の2です。したがって、両
国がガチンコでぶつかれば、その体力差は歴然としています。
 もうひとつ、中国は、金融システムが米国に比べて脆弱です。
自由市場のなかで150年もの間、もまれ抜いてきている米国の
金融システムに比べて、中国のそれは、1992年に始めた社会
主義市場経済という独自のシステムであり、その強靭さは比較に
ならないでしょう。ソ連が崩壊したことからわかるように、国家
が経済をコントロールできるかどうかはきわめて疑問です。しか
し、中国はできると固く信じているようです。
 米中貿易戦争がはじまってからも、秋ぐらいまでは中国経済は
きわめて好調だったのです。しかし、今にして思うとそれは駆け
込み需要であり、12月には遂に前年同月比4・4%減少の失速
になったのです。中国の経済は次のように誰の目にも明らかなよ
うに、目下失速しつつあるのです。
─────────────────────────────
 中国経済に関して、足元で最大の衝撃は、昨年の自動車販売が
2・8%減の2808万台と前年比マイナスに転落したことだろ
う。日本の新聞は「28年ぶり」と書いているが、28年前とは
89年6月の天安門事件の翌年で、中国経済は国際制裁を受け、
過去最悪と言われた年であり、昨年の自動車販売は事実上、史上
初のマイナスなのである。
 それが年間3000万台を前にした足踏みでないことは年明け
の動きでわかる。北京、上海ともに自動車販売は「ディーラーが
一部の店舗の閉鎖を始めた」(中国の自動車業界関係者)ほどの
不振。2月5日の春節を前に例年なら盛り上がる高額商品の消費
は真逆の様相を示している。
            ──『選択』/2019年2月号より
─────────────────────────────
 「小米(小米科技)」という中国の企業があります。スマホ会
社として創業し、現在、スマホの世界シェア4位のIT大手企業
です。中国のIT企業というと、どちらかというと、習近平主席
から睨まれている企業が多いのですが、小米は習近平主席のお気
に入りといわれています。
 中国当局は、中国国内の株式市場を活性化させるため、すでに
海外市場で上場している中国の有力企業や「ユニコーン」と呼ば
れる中国の新興企業群を中国国内でも上場させる計画を立ててい
ます。ちなみに「ユニコーン」と呼ばれる企業とは、次のような
企業のことです。
─────────────────────────────
 「ユニコーン企業」とは、創設10年以内、評価額10億米ド
ル以上、未上場、テクノロジー企業といった4つの条件を兼ね備
えた企業を指す。アメリカの調査機関の集計によれば、2017
年12月1日時点で、世界に220社のユニコーン企業が存在し
それらの多くはアメリカもしくは中国の企業だ。アメリカ発の企
業は109社で全体の49・5%を占めている。これに続いて中
国発の企業が59社で全体の26・8%を占める。日本は(当時
上場が決まっていなかった)メルカリの1社のみ。
                  https://bit.ly/2BL6MDq
─────────────────────────────
 中国には、CDR(中国預託証券)という制度があります。ア
リババやテンセントなどの中国のIT企業は、中国ではなく、米
国や香港で上場しているので、中国国内の投資家がそれらの企業
の株式を購入するにはカベがあるのです。そこで、他国で上場さ
れている株式を人民元建てで取引できるようにする制度です。中
国国内の信託銀行に証券を預けて、受領書を発行してもらうこと
で、実質的に株式を保有できるのです。これをCDR(中国預託
証券)といい、CDRは次の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
        CDR
        Chinese Depositary Receipt
─────────────────────────────
 中国当局としては、CDRの最初の適用事例としようとしたの
は、小米だったのです。小米もこれを受け入れ、香港市場と上海
市場に同時に上場する計画を立てていたのです。資金調達予定額
は、それぞれ50億ドルで、香港と上海で100億ドルを狙って
います。
 しかし、小米は、6月19日になって、突然上海での上場を延
期し、香港でのみ上場したのです。小米は、中国当局との約束を
破ったことになります。これは相当勇気のいることです。
 小米の創業者の雷軍CEOは、米中貿易戦争による中国経済の
不安定さに懸念を抱いたのです。ビジネスマンとしては、当然の
判断であるといえます。これは、中国内外の有力企業の「中国離
れ」を意味しています。中国経済は現在どんどん不安定化を増し
ています。      ──[米中ロ覇権争いの行方/033]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が中国に「ユニコーン企業」数で大敗北を喫した理由
  ───────────────────────────
   グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという4
  大IT関連企業は、それぞれの頭文字を取ってGAFAと呼
  ばれることがある。一方、百度(バイドゥ)、アリババ、テ
  ンセントの3社の呼称であるBATに、ファーウェイのHを
  付け加え、私はこれら4社をBATHと呼んでいる。
   BATHの成長はきわめて著しく、GAFAを猛追してい
  る状況だ。特に上場済みのBATの時価総額は2017年の
  1年間で倍増し、2017年12月末時点の額を合計すると
  1兆米ドルを超えている。
   個別で見た場合、GAFAの時価総額に続くのは、アメリ
  カ企業を除くと6位のテンセントと8位のアリババのみだ。
  米中企業以外を見ていくと、ヨーロッパ企業の最上位は18
  位の英蘭企業のロイヤル・ダッチ・シェルで、時価総額は、
  2746億米ドルである。トヨタは42位にランクインして
  おり、時価総額は1891億米ドルだ。ヨーロッパ勢も日本
  勢も、米中のトップ企業からは大きな差をつけられていると
  見ていいだろう。では中国のBATHがアメリカのGAFA
  を追い越す日はやってくるのだろうか?利益額ではすでにア
  リババはアマゾンを大幅に上回っている。時価総額ではアマ
  ゾンに及ばないアリババだが、いずれアマゾンを凌ぐことに
  なるだろう。          https://bit.ly/2BL6MDq
  ───────────────────────────

中国内の「小米」の店舗.jpg
中国内の「小米」の店舗
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2019年02月22日

●「発展途上国が遭遇する2つの要因」(EJ第4953号)

 中国は、ある意味において、非常にタイミングの悪いときに米
国から貿易戦争を仕掛けられたといえます。それは、ちょうど中
国の経済が減速しているさなかの貿易戦争だったからです。
 それは、発展途上国が必ず遭遇する次の2つの要因による経済
の減速のさなかだったのです。
─────────────────────────────
          1. 中所得国の罠
          2.ルイスの転換点
─────────────────────────────
 1は「中所得国の罠」です。
 中所得国の罠は、自国経済が中所得国のレベルで停滞し、先進
国(高所得国)入りがなかなかできない状況のことをいいます。
これは、新興国が低賃金の労働力などを原動力として経済成長し
中所得国の仲間入りを果たした後、自国の人件費の上昇や後発新
興国の追い上げ、先進国の技術力などの先端イノベーションの格
差などに遭って競争力を失い、経済成長が停滞してしまう現象を
指しています。
 2は「ルイスの転換点」です。
 「ルイスの転換点」は、英国の経済学者、アーサー・ルイスに
よって提唱された概念です。これについては、2013年に執筆
したEJのテーマ「新中国論」で一度説明しているので、それを
引用することにします。
─────────────────────────────
 「ルイスの転換点」という言葉があります。農業を中心として
きた低開発国が、高度成長期になったとき、農村の未活用の余剰
労働力が都市部に移動して製造業などに投入されるため、人件費
は上昇しないのです。
 中国も外資系大手企業の間で「魔法のような国」といわれたこ
とがあります。人を雇おうと思って広告を出すと、広告枠の何倍
もの内陸の若者たちが次から次へと出稼ぎに来るので、いくら人
を雇っても人件費が上がらない国という意味で、「魔法の国」と
呼んだのです。
 しかし、労働力移動が峠を越えて完全雇用に近づくと、人件費
は向上し、人出不足になってくるのです。それに既に職に就いて
いる労働者たちは賃金値上げのためのストを頻繁に行い、人件費
が高騰してくるのです。そのターニングポイントを「ルイスの転
換点」と呼んでいます。
     ──2013年4月11日付、EJ第3525号より
─────────────────────────────
 これら「中所得国の罠」と「ルイスの転換点」は、新興国は必
ず遭遇しますが、日本では1960年代後半ごろにこの転換点に
達しています。中国の場合、国が広いので、完全雇用とはいえな
いものの、既に2006年頃にはこの転換点に達しているものと
考えられます。
 ルイスの転換点を過ぎると、求人難が起こり、それは人件費の
高騰を招きます。全国各地で法定最低賃金が引き上げられ、そう
いうところから、もはや現在の中国では「ものを安く作れない」
状況が生まれているのです。
 2013年時点の日本総研の湯元健治氏(シニアエグゼクティ
ブエコノミスト)のレポート(「中国は中所得国の罠を回避でき
るか」)によると、やはり中国は、ルイスの転換点を超えている
として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では農村から都市への労働力移動がストップし、労働力不
足と賃金上昇が経済成長を抑制する「ルイス転換点」をすでに通
過した可能性が高い。このままでは、今後10年間の潜在成長率
が5〜6%に低下しかねない。労働や資本に依存した成長パター
ンからイノベーション・生産性主導型成長への転換が急務だが、
国有企業による基幹産業の独占の弊害、外資依存の低賃金加工組
立型経済モデルの行き詰まり、民営企業の活力低下などが指摘さ
れている現在、「国進民退」のトレンド転換は容易ではない。国
有企業の民営化や先進的な民間企業の育成によって、イノベーシ
ョン能力を高めなければならない。  https://bit.ly/2Xf1uJx
─────────────────────────────
 このように、中国は、ルイスの転換点は既に達していますが、
中所得国の罠からは、まだ抜け出せていないのです。これから抜
け出すためには、一人当たりGDPがもっと上昇していかなくて
はなりませんが、中国の2017年の一人当たりGDPの順位は
74位(日本は25位)と低迷しています。
 中国は、こういう状況で、米国から貿易戦争を仕掛けられたの
です。この貿易戦争がこのまま続くと、今後中国から外資の大量
撤退をもたらし、グローバルな産業再配置を促しています。こう
した産業の連鎖構造再配置の過程で、中国で発生するのは資本の
流出と失業の増加です。
 中国では、現在メディアでの「報道禁止事項」が増え続けてい
ます。この数ヶ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流失、
株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に加えられ
ました。失業率も報道禁止事項に入っているのです。
 2018年8月に、「7月の全国の都市の失業率は5・1%で
あり、前年より0・3%上昇した」と発表されましたが、誰もこ
の数字を信用していない状況です。現在、日本でも統計不正が問
題になっていますが、本当の失業率は、実に22%ともいわれて
いるのです。
 日本の共同通信によると、現在までに6割の日本企業が、中国
から他の国へ撤退、あるいは撤退中で、残る4割もいかに撤退す
るか考慮中だとしています。もともと中国の失業率は高かったの
です。これに大量の外資撤退による失業を加えると、そうでなく
ても深刻だった傷口に塩を塗られるようなものであり、失業問題
は今後さらに深刻の度を加えることは確実です。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/034]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のますます深刻化する失業状況/2018年10月
  ───────────────────────────
   中・米貿易戦争は、外資の中国からの大量撤退をもたらし
  グローバルな産業再配置を促しています。こうした産業の連
  鎖構造再配置の過程で、発生するのは中国などの新興国家か
  らの資本流出と失業増加です。米国は税制改革と規則の緩和
  によって経済発展を促進させ、グローバルな投資家の避難港
  となりました。8月だけで、全米の雇用は20万1千人増え
  失業率は3・9%です。しかし、中国では大量の外資撤退に
  よって、もともと深刻だった失業問題の傷口に塩を塗られた
  ようなものです。
   中国では、現在ますます「報道禁止事項」が増え続けてい
  ます。この数カ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流
  失、株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に
  加えられました。しかし、そんなことをしても、様々な方法
  で中国の失業問題の深刻さを計算することは出来ます。国家
  統計局は、8月中旬に「7月の全国の都市の失業率5・1%
  であり、前年より0・3%上昇した」と発表しました。
   こういったデータは中国経済のアナリストたちは信用して
  いません。まず、この統計規格そのものが「中国的特色」を
  帯びており、今年の4月以降に、中国政府は発表する失業率
  を「都市登記失業率」から「調査失業率」に改変しました。
  政府に委託を受けた専門家グループは「調査失業率の全面解
  析における9つの問題」として、まことしやかに、調査失業
  率は以前の都市失業率より信用できると”論証”しています
  が、専門家たちはみなこの中国的特色の調査は本当の失業率
  ではないことを承知しています。 https://bit.ly/2SSJtlK
  ───────────────────────────

不可解な中国の失業率.jpg
不可解な中国の失業率
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2019年02月25日

●「米中貿易戦争で今まで起きたこと」(EJ第4954号)

 米中貿易戦争で、米国と中国において、これまで何が起きたか
重要なポイントについて、ていねいに見る必要があります。
 2017年6月のことです。6月3日にシンガポールにおいて
「アジア安保会議」が開催されたのです。トランプ政権のアジア
政策がみえないなか、ジェームズ・マティス国防長官(当時)が
どんな話をするか注目されたのです。このとき、マティス長官は
中国を名指しして、次の趣旨の非難演説を行っています。
─────────────────────────────
 中国の国際法に反する海洋進出や軍事拠点化に対し、米国は
 断固反対する。     ──マティス米国防長官(当時)
─────────────────────────────
 実はこの会議に中国は大物を送っていないのです。過去数年人
民解放軍の副参謀長クラスを送っていた中国が、そのときはずっ
と位の低い軍事科学院副院長の何雷中将の派遣にとどめているの
です。何があったのか理由ははっきりしませんが、当時、中国と
シンガポールの間はトラブル続きであり、そういうことが影響し
たとも考えられます。
 2017年6月28日、中国において「国家情報法」が施行さ
れます。これについての「産経ニュース」の記事を引用します。
─────────────────────────────
 中国で28日、国家の安全強化のため、国内外の「情報工作活
動」に法的根拠を与える「国家情報法」が施行された。新華社電
によると、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で昨年
12月に審議に入りし、今月27日に採択された。国家主権の維
持や領土保全などのため、国内外の組織や個人などを対象に情報
収集を強める狙いとみられる。
 習近平指導部は反スパイ法やインターネット安全法などを次々
に制定し、「法治」の名の下で統制を強めている。だが、権限や
法律の文言などがあいまいで、中国国内外の人権団体などから懸
念の声が出ている。       ──2017年6月28日付
       ──「産経ニュース」 https://bit.ly/2U1Lf0B
─────────────────────────────
 この法律の成立によって、「いかなる組織および個人も国家の
情報活動に協力する義務を持つ」ことになります。ビジネスなど
で得られた情報も、国家がそれを要求すれば、国家に提供しなけ
ればならなくなります。この法律がある限り、中国以外の国は、
中国との取引に慎重にならざるを得なくなります。
 2018年3月のことです。3月11日、中国は、全国人民代
表大会で、ケ小平の定めた国家主席の「2期10年」の再選制限
が撤廃されたのです。権力ポストは、長くやっていると、必ず腐
敗すると見抜いたケ小平が「2期10年」の制限を設けたのです
が、習近平主席はこの制限を外し、フリーにしたのです。自ら腐
敗防止キャンペーンの先頭に立っていながら、自分だけは大丈夫
と考えているのでしょうか。これによって、習近平国家主席は、
終身国家主席でいることができるのです。
 2018年3月22日、米国は、通商法301条に基づき、中
国の知的財産侵害に制裁関税を課すことを表明しています。これ
によって貿易戦争の戦端は開かれたといえます。
 2018年4月4日のことです。中国は、米国産の自動車や綿
花などに25%の関税を課すと発表しています。中国が先に仕掛
けてきたのです。これに対して米国は、2018年4月16日、
米企業に中国ZTEとの取引を禁じる制裁を発効させます。
 2018年7月6日、米国は、中国製品340億ドルを対象に
制裁関税第1弾を発動し、続いて、8月に第2弾、9月に第3弾
を発動します。はじめのうちは、中国も米国に合わせて報復関税
をかけていましたが、やがてそれもできなくなります。
 2018年8月13日、米国で「国防権限法2019」が成立
します。これに基づき、2020年8月から、ファーウェイなど
中国5社の製品を使用している企業は、米政府との取引が禁止に
なります。
 そして、2018年10月4日、ペンス副大統領はハドソン研
究所で演説します。その演説は、対中冷戦への決意を述べる、中
国にとって、きわめて激しい内容ですが、これは米国政府のコン
センサスであると考えるべきです。その一部を引用します。
─────────────────────────────
 過去17年間、中国のGDPは9倍に成長し、世界で2番目に
大きな経済となりました。この成功の大部分は、アメリカの中国
への投資によってもたらされました。また、中国共産党は、関税
割当、通貨操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗、外国人投
資家にまるでキャンディーのように手渡される産業界の補助金な
ど、自由で公正な貿易とは相容れない政策を大量に使ってきまし
た。中国の行為が米貿易赤字の一因となっており、昨年の対中貿
易赤字は3750億ドルで、世界との貿易赤字の半分近くを占め
ています。トランプ大統領が今週述べたように、大統領の言葉を
借りれば、過去25年間にわたって「我々は中国を再建した」と
いうわけです。
 中国政府は現在、多くの米国企業に対し、中国で事業を行うた
めの対価として、企業秘密を提出することを要求しています。ま
た、米国企業の創造物の所有権を得るために、米国企業の買収を
調整し、出資しています。最悪なことに、中国の安全保障機関が
最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒幕です。
そして、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間技術を軍
事技術に転用しています。      https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
 2018年12月1日、アルゼンチンで、米中首脳会議が行わ
れ、次の段階に進むのを90日間(2019年3月1日)延期す
ることで双方合意しています。しかし、その同じ日、米国の依頼
でカナダ当局によって、ファーウェイ創業者の娘の孟晩舟副会長
が拘束されます。これは中国に大きなショックを与えたのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/035]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争で一段と進む中国の景気悪化/産経新聞
  ───────────────────────────
   中国の景気悪化が一段と進み、2018年末の上海株式市
  場は前年末比約25%安、12月の景況感指数は2年10ヶ
  月ぶりの低い水準となった。米中貿易戦争の痛みの顕在化は
  米アップルをも直撃している。中国経済への逆風は今後さら
  に増すとの見方が強く、米国との貿易協議にも影響を与えて
  いるもようだ。
  「1年を通じて低迷が続いた」
   中国の経済メディア「東方財富網」は18年の上海株式市
  場をこう振り返った。同市場の代表的な指数である総合指数
  の18年末の終値は2493・90と、前年末(3307・
  17)比で24・6%下落した。米中貿易摩擦の深刻化とと
  もに低迷基調を強め、12月27日には終値が約4年1ヶ月
  ぶりの安値を記録している。
   中国経済では消費の冷え込みが目立つ。11月の消費動向
  を示す小売売上高の伸び率は、03年5月以来15年半ぶり
  の低水準。年明け早々の今月2日に米アップルが中国での販
  売不振を理由に業績予想を下方修正したのも、消費者の財布
  のひもが固くなったことが大きい。中国メディアによると、
  18年の中国の新車販売台数も1990年以来28年ぶりの
  前年割れになる見通しとなっている。悪影響は製造現場にも
  広がる。政府が昨年末に発表した12月の景況感を示す製造
  業購買担当者指数(PMI)は49・4と、好不況の節目の
  50を割り込んだ。2016年2月以来2年10カ月ぶりの
  低水準だ。           https://bit.ly/2IvvnSI
  ───────────────────────────

中国を糾弾するペンス副大統領演説.jpg
中国を糾弾するペンス副大統領演説
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2019年02月26日

●「ペンス演説は米政府の意向である」(EJ第4955号)

 『文藝春秋』3月特別号で、次のメンバーによる中国について
討論を特集しています。なかなか中身があるので、そのコアな部
分をご紹介します。
─────────────────────────────
     「トランプVS習近平/『悪』はどっちだ」
     宮家邦彦/キャノングローバル戦略研究所研究主幹
     呉 軍華/日本総研理事
    ケビン・メア/NMVコンサルティング上級顧問
     冨坂 聡/ジャーナリスト
               ──『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 米国はアジアをどう見ているのか──トランプ政権は、明確な
形でアジア戦略を発表していませんが、今回の貿易戦争でそれは
見えてきています。
 通常であれば、そういう国家戦略は、大統領の一般教書演説で
発表されるものですが、トランプ大統領は、アジア戦略を中国へ
の貿易戦争というかたちでそれを示したのです。だが、トランプ
大統領が気にしているのは、対米貿易赤字だけです。しかし、ペ
ンス副大統領が、昨年10月の演説で米国の考え方を表明し、ト
ランプ発言を補っています。これについて冨坂聡氏は次のように
解説しています。
─────────────────────────────
 現在のアメリカの考え方は、昨年10月のマイク・ペンス副大
統領の演説によく表れていました。端的に言えば、アメリカが、
「西側的な価値観、国際ルールの中での(中国の)台頭ならば歓
迎する。しかし、今の習近平のやり方は間違っている。それを修
正するのか、しないのか」と、中国に決断を迫ったのです。
        ──冨坂聡氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 トランプ大統領のツイートを見ていると、混乱することが多い
と思います。あれほど、ファーウェイ排除に強硬姿勢を見せてい
たのに、このところ、一転「排除見直し」にも言及しています。
中国は、これには徹底抗戦の構えです。米国の排除の呼びかけに
乗ろうとする米国の同盟国に対して露骨な嫌がらせを執拗に繰り
返しています。
 米国と諜報活動などの機密情報を共有する5ヶ国で作る「ファ
イブアイズ」という協定があります。米国、英国、カナダ、オー
ストラリア、ニュージーランドの5ヶ国です。これら5ヶ国は、
米国の呼びかけに対して、ファーウェイ排除を決めています。秘
密情報を共有するのですから当然です。
 これに対し中国は、カナダ以外の4ヶ国に対して、露骨な嫌が
らせをやっています。英国のハモンド財務相は訪中を突然キャン
セルされ、ニュージーランド航空機は理由もなく上海着陸を拒否
される。ニュージーランド首相の訪中は延期され、オーストラリ
ア産の石炭の輸入禁止などの露骨な嫌がらせです。
 こうした中国の嫌がらせに屈したのか、英高官は「ファーウェ
イ製品の安保上のリスクは管理可能」と発言し、ニュージーラン
ドのアーダン首相は、「われわれはまだファーウェイ製品を排除
すると決めたわけではない」と発言するなど、足元の乱れが起き
ています。ファーウェイ幹部を逮捕したカナダについては、カナ
ダ人複数名の身柄を確保するなど、中国はやりたい放題の圧力を
かけています。
 そのせいか、ファーウェイの創業者の任正非氏は、「我々を宣
伝してくれて本当に感謝している。いまわれわれは5Gを売りは
じめているが、すぐに6Gを迎えることになる」と米国に対して
皮肉を交えつつも自信をのぞかせています。
 しかし、宮家邦彦氏は、トランプ大統領が何をいおうとも、ペ
ンス副大統領の演説が米国政府のコンセンサスであるとして、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 ペンス副大統領の演説は、アメリカ政府のコンセンサスだと考
えていいと思います。ペンスはオーソドックスなワシントンの論
理を知る政治家です。あの内容は、突然思いついたわけではなく
何ヶ月もの間、各省庁が議論や協議を行い、一枚のペーパーにな
った演説だと見るべきでしょう。
 アメリカは、自国の脅威となるものは、すべて潰してきた国で
す。不正義と見なしたものはどんな力を使ってでも変えるという
国ですから、。日本も1930〜40年代にかけて脅威とみなさ
れ、潰された。だから今回も中国に対してとことんやる気とみた
ほうがいい。 ──宮家邦彦氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 米国内には、中国に対する姿勢について、次の2つの人種がい
るのです。
─────────────────────────────
     1.   パンダハガー(対中融和派)
     2.ドラゴンスレイヤー(対中強硬派)
─────────────────────────────
 宮家邦彦氏は、現在のワシントンは、パンダハガーが政策の決
定過程から激減しているといっていますが、これを呉軍華氏は次
のように肯定しています。
─────────────────────────────
 2015年あたりが転換期だったと思います。元CIAのマイ
ケル・ピルズベリーなど、代表的なパンダハガーたちが相次いで
公の場で反省の弁を吐露し始めた。流れが変わると思っていたら
やはりドラゴンスレーヤーが増えたのはもとより、対中融和を訴
える声がほぼなくなっていきました。トランプ政権はこの流れを
受け継いだ形で対中アプローチをしているといっても過言ではあ
りません。   ──呉軍華氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/036]

≪画像および関連情報≫
 ●欧州のパンダハガー(独仏英)が中国警戒に急傾斜
  ───────────────────────────
   英国政府筋はチャイナバッシングの開始を示唆している。
  欧州はこれまでパンダハガーとして、やみくもに中国とのビ
  ジネスを拡大してきた。そのためにもAIIBにも率先して
  加盟した。
   しかし買収されやすく、他方で欧州企業の中国企業買収に
  は高い壁がある。見えない条件があって、うまく行かないと
  いう不満が拡がっていた。ロンドンの豪華住宅地やマンショ
  ンの不動産価格は中国の爆買いによってつり上がり、庶民か
  ら不満が突出し始めた。
   中国と異常なほどの「蜜月」を享受してきたドイツ政府も
  EU加盟国に、「不公平な中国からの投資を警戒するよう」
  に呼びかけた。EU全域には中国の企業買収などの過激な投
  資進出に不快感が拡がっていたが、中国贔屓と見られたドイ
  ツでも、とうとう中国への堪忍袋の緒が切れた。メルケルの
  中国傾斜路線に黄信号が灯ったのだ。
   直接の理由は中国の国家安全保障に直結するハイテク技術
  やロボット企業を片っ端から買収し始めたことへの不安から
  である。シグマ・ガブリエル独副首相は中国と香港を五日間
  に亘って訪問したのち、「EUは中国のIT企業や最先端技
  術の企業買収を許可してきたが、われわれEUのメンバーが
  中国の企業や思案買収は対等ではなく不公平である」と不満
  をぶち挙げた。「中国の通商関係を切る意思はさらさらない
  が」としてミカエル・クラウス駐中国独大使も発言を補強す
  る。              https://bit.ly/2IxgTlj
  ───────────────────────────

宮家邦彦氏.jpg
宮家邦彦氏

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2019年02月27日

●「ドラゴンスレイヤーが米国を守る」(EJ第4956号)

 米国は、現在、本当の意味で中国を「脅威」と位置づけていま
す。それは「脅威」というより、「恐怖」に近い感情になりつつ
あります。「このままでは自分たちのヘゲモニー(主導的地位)
を奪れるかもしれない」という恐怖です。これについて、NMV
コンサルティング上級顧問のケビン・メア氏は、次のように表現
しています。
─────────────────────────────
 確かにアメリカ政府は、中国を「脅威」と位置付けています。
南シナ海・東シナ海における人民解放軍の軍事的な脅威、サイバ
ー攻撃の脅威、人工衛星破壊実験など宇宙開発における脅威、人
工島建設でサンゴ礁を破壊した環境に対する脅威・・・中国はア
メリカにとって、さまざまな意味で「脅威」となりつつある。
 しかし、私が強調したいのは、「脅威」である一方、巷間言わ
れている「中国が台頭したからアメリカが衰退した」という見方
は間違っているというものです。アメリカは中国が発展すること
は歓迎します。容認できないのは、国際ルールを無視し、「中国
のルール」を押し通そうとしていることなのです。
        ──ケビン・メア氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 現在のトランプ政権の対中国政策は、大統領選挙中のトランプ
陣営の政策顧問だったピーター・ナバロ氏とアレックス・グレイ
氏による次の論文に基づいています。なお、ピーター・ナバロ氏
は、現在、国家通商会議委員長の職にあります。
─────────────────────────────
       ピーター・ナヴァロ/アレックス・グレイ共著
「ドナルド・トランプのアジア太平洋への『力による平和』」
            ビジョン」/2016年11月発表
─────────────────────────────
 この共同論文では、「アジアの自由主義的秩序を保つためには
中国の軍事覇権を抑える力の実効が欠かせない」ことを強調して
おり、これに基づき、トランプ大統領は、アジア主体に海軍艦艇
の274隻から350隻への増強、そして、海兵隊の18万から
20万への増強計画を発表しています。
 心配の種は、トランプ大統領のむらっ気です。果して計画通り
実行できるかどうかです。北朝鮮の非核化問題でも、ノーベル平
和賞がちらつくと、大きく北朝鮮に譲歩してしまう可能性すらあ
ります。このトランプ大統領について、宮家邦彦氏は、次のよう
にコメントしています。
─────────────────────────────
 トランプの存在がトランプ政権の最大の変数ですからね。彼は
戦略家なのか。戦略がないのか。私はこの2年間ずっと自問した
けど、結局答えは出ませんでした。トランプは「自己愛性人格障
害」の傾向があり、人から賞賛されることが最優先される。内政
も外交もその手段に過ぎません。だから常識では考えられない判
断もします。
 しかし、多くのドラゴンスレイヤーがホワイトハウスにいる限
り、戦略的警戒感は解けないでしょうし、トランプも本能的に警
戒心は抱いていると見ています。
       ──宮家邦彦氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 続いて、習近平体制について考えます。「2期10年」の任期
を撤廃し、事実上終身の国家主席になったことについて、どう見
るかです。
 米国の大統領の場合は、「2期8年」が限界であり、これ以上
大統領を務めることはできないのです。貿易戦争を仕掛けられて
慌てている中国にしても、じっと我慢して、トランプ後を待つ戦
略だってあるのです。
 習近平は権力欲にとりつかれているという見方もありますが、
宮家邦彦氏は「習近平は相当悩んだ末に権力の集中をしたのでは
ないか」という見方をしています。
 これと同じ考え方をするのは、元伊藤忠会長の丹羽宇一郎氏で
す。丹羽氏は、2010年、民間出身では初の中国大使に就任し
現在は、公益社団法人日本中国友好協会会長を務めています。尖
閣諸島国有化(2012年)当時の中国大使であり、大変苦労を
されています。その丹羽氏は、「私が習近平でも、改革のために
は権力を一手に掌握したかもしれない」といって、習近平主席に
よる憲法改正について理解を示しつつ、習近平氏について次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 終身権力者の立場という利己主義的発想だけで、憲法を改正し
たと見ることは、習近平を見誤ることにつながる。習近平には、
いや大部分の国や組織の指導者の心底には、国民のためという大
義があると私は確信している。
 たしかに、憲法改正直後に散見した中国系メディアの「中国に
とって、社会主義の現代化を実現するにあたって重要なステージ
で、中国と中国共産党は安定した、強力で、一貫したリーダーシ
ップを必要としている」という主張は、いかにもご都合主義に映
る。だが、その一方で中国が世界の大国・一流国になるには、強
く優れたリーダーの存在が欠かせないというのも事実だ。
 習近平を一方的に独裁者と切り捨てるのではなく、政治の本道
に立って、もう少し彼の言葉と行動に注目してもよいだろう。
 習政権において権力が腐敗するか否かは、習近平の退き際にか
かっている。私は多くの日本のメディアや有識者が考えているよ
りもずっと早く、習近平本人による退任の宣言があるものと考え
ている。そのときは、盟友、王岐山も一緒かもしれないし、王岐
山のほうが少し早いかもしれない。人の真価は、結局その退き際
で決まるものだ。    ──丹羽宇一郎著/東洋経済新報社刊
          『習近平の大問題/不毛な議論は終った』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/037]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、習近平終身主席か/文化大革命再来の懸念
  ───────────────────────────
   中国共産党中央委員会は2月下旬、国家主席の任期の上限
  に関し、連続2期10年までとする条文を憲法から削除する
  改憲案を全国人民代表大会(全人代:日本の国会に相当)に
  提出した。3月5日に開幕する全人代で可決され、正式決定
  する。中国の改憲は2004年以来14年ぶり。習近平国家
  主席(党総書記=64)は13年に国家主席に就任しており
  今回の全人代で再選される。任期の上限撤廃により23年以
  降の3期目はおろか、終身主席も可能となる。
   国家主席は国家機構のトップで、国家元首に相当する。党
  トップである総書記の任期については党規約に明確な規定は
  なく、習氏に党、国家、政府、さらに軍という中国の4大権
  力が習氏に集中することになり、実質的に習近平独裁体制が
  始動する。
   また、今回の全人代では、習氏の指導理念を憲法に明記す
  ることも決まるほか、国家と政府の最高指導部人事にも習氏
  の側近が多数任命される見通しだ。党内外で習氏への個人崇
  拝の動きが広がっており、かつての毛沢東張りの独裁者の誕
  生となり、党内外では1000万人以上が殺害された文化大
  革命(1966〜76年)の悲劇が繰り返されることを懸念
  する声も出ている。       https://bit.ly/2IxERNl
  ───────────────────────────

ケビン・メア氏.jpg
ケビン・メア氏 
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2019年02月28日

●「習近平体制は簡単には崩壊しない」(EJ第4957号)

 事実上の終身国家主席の地位と権限を手に入れた習近平体制は
その直後に米国から貿易戦争を仕掛けられ、中国経済に大きなダ
メージを与えています。現在、中国国内で何が起きているかにつ
いて、日本総研理事の呉軍華氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 現状のままでは、習近平政権は続くでしょう。唯一、習近平政
権の阻害要因になりうるのが「アメリカ」という要素なんです。
今後アメリカがどの程度、中国に圧力をかけるか。それによって
中国国内にどのくらいの影響が出るか。
 現に最近、中国国内で現行政策への批判が表面化しつつあるの
です。習近平は、2014年頃からケ小平以来の中国の国家方針
であった「才能を隠して好機を待つ」という意味の「韜光養晦」
(とうこうようかい)を葬り、強硬な「対米主戦論」を前面に打
ち出した。ところが、昨年夏、米中貿易戦争が始まると、「習近
平は韜光養晦を止める時期を見誤った」という批判の声が出始め
たのです。これもアメリカが国内に与えた影響の一つです。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 2018年8月21日と22日の2日間、習近平主席は北京で
全国宣伝思想工作会議を招集し、社会主義思想の引き締めを図っ
たのですが、その席上、幹部たちに対して、次のように釈明して
いるのです。
─────────────────────────────
 私に対する個人崇拝が進んでいることは知らなかった。自分が
青年時代に7年間、下放されていた狭西省の寒村・梁家河が「革
命の聖地」となっていることを、中国中央電視台のニュースで、
はじめて知って驚いた。           ──習近平主席
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 これによって、党の指導部は方針を変更し、習近平主席のポス
ターを撤去したり、終身国家主席の誕生のために用意されていた
国威発揚映画『すごいぞ、わが国』の公開の中止を決めたりして
います。個人崇拝が進むのはまずいのです。
 現在のところ米中貿易戦争の3月1日の交渉期限は延期され、
3月中に米中首脳会談が行われる可能性が大です。しかし、これ
によって通商協議は解決する可能性がありますが、知財侵害や国
有企業への補助など、米国が問題視する中国側の「構造問題」は
落としどころはまったく見えない状況にあります。
 もしこの問題がこじれて、経済が悪化すると、中国はどうなる
のでしょうか。
 冒険投資家のジム・ロジャーズ氏は、リーマン・ショックから
10年が経過し、「次の経済危機は既に静かにはじまっている」
と述べ、その経済危機はリーマン・ショックをはるかに上回る規
模になるとし、次のような不気味な予言をしています。
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 中国での想定外の企業や地方自治体などの破綻が火種になるだ
ろう。中国では、この5年、10年に債務が膨張した。足元では
債務削減を進めているが、その影響で景気は減速し、世界経済も
停滞に陥る。            ──ジム・ロジャーズ氏
           2019年2月24日付、日本経済新聞
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 中国政府にとって一番怖いのは国民の反乱です。外部には伏せ
られていますが、現在中国の失業率は最悪の状態です。もし、米
国との交渉がうまくいがず、経済がさらに悪化した場合、共産党
体制に何らかの影響が出るのでしょうか。中国は、北朝鮮などと
違って、世界中に中国人は住んでおり、米国をはじめとする自由
な国の様子を見ています。それで自分の国の独裁政治は誤ってい
るとは考えないものでしょうか。
 これについて、呉軍華氏は、「共産党体制はそんなに簡単には
壊れない」として、次のように述べています。
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 共産党への反発は今もすでにあるんです。しかし、共産党への
反発=政治不安定とはならない。歴史を紐解くと、1960年代
文化大革命で何千万人が餓死し、人民の不満は募りました。しか
し、あれだけ酷い状況でも共産党は権力を維持した。「共産党や
習近平は気にいらない。でも彼らがいなければ国が大混乱に陥り
もっと大変なことになる」と考えていてる人が大半なのです。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
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 一党独裁で、政治的自由は与えないが、経済は自由で、金儲け
は賛成という国は中国以外にもあります。その典型はシンガポー
ルです。基本的にはベトナムもそうです。米朝首脳会談で、北朝
鮮が、その会談場所としてシンガポールやベトナムを選ぶのは、
そこにシンパシイを感じているからでしょう。
 しかし、シンガポールは小さな島国で、統治が簡単ですが、中
国のような大きな国で一党独裁制をとると、どうしても無理が出
てくるのです。呉軍華氏は、もし、中国の体制の危機について、
次のように述べています。
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 体制が揺らぐという意味で中国にとって最も脅威になるのは、
アメリカによる「ピンポイント・アタック」。つまり、有力者や
企業、機関を対象とした制裁だと思います。昨年9月、アメリカ
は人民解放軍の兵器管理部門である李尚福中央軍事委員会装備発
展部部長を制裁対象にしました。個人が対象になったのは初めて
です。12月には通信機器企業ファーウエイ創業者・任正非CE
Oの娘、孟晩舟副会長がカナダ当局に拘束されました。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
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           ──[米中ロ覇権争いの行方/038]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は5年以内に"隠れ不良債権"で壊れる/関辰一研究員
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   金融は各種の経済活動を下支えする社会インフラであるが
  ゆえに、容易に、経済と社会の危機を誘発する導火線にもな
  る。経済成長を続け、GDPでは日本を抜き去り、米国に迫
  る中国経済の「罠」とは、水面下で、金融リスクが大きく高
  まったことである。金融リスクの核心が不良債権問題である
  ため、その実態に迫った。後述するように中国の公式統計は
  信頼性に欠けると思われる点がいくつもあるからだ。
   中国の不良債権の実態を知るために、筆者は中国上場企業
  2000社余りの財務データを基に、中国の潜在的な不良債
  権の規模を推計した。結論を先に述べれば、推計額は公式の
  不良債権残高統計の約10倍となった。中国の不良債権問題
  は深刻であり、何らかのきっかけで金融危機が発生する可能
  性は払拭できない。
   不良債権とは、一般的に、金融機関にとって約定どおりの
  返済や利息支払いが受けられなくなった債権、あるいはそれ
  に類する債権を指す。中国では、金融機関がリスクを軽視し
  た融資審査のもと、過剰な融資を行ってきた。利息の支払い
  余力が不十分な企業に対しても、追加で資金を貸し続けてい
  るケースも多い。その結果、金融機関は巨額な不良債権を抱
  えるようになったとみられる。  https://bit.ly/2U7aTAQ
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呉軍華日本総研理事.jpg
呉軍華日本総研理事
 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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