2018年08月10日

●「体外離脱アイデア/人間ウーバー」(EJ第4825号)

 暦本純一東京大学教授は、サンフランシスコでの講演で、次の
ように話しています。
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 テクノロジーは、人と人とをつなげることもできる。人間の能
力を拡げる、非常に重要な方法である。「人間対人間ジャックイ
ン」(Human-Human JackIn)である。ある人の知覚を丸ごと他の
人に移し替えることであり、新しいタイプのコミュニケーション
や教育となりうる、非常に大きな機会である。
              ──暦本純一東京大学大学院教授
                  https://bit.ly/2Mi3fQp
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 この発言で思い出されるのは、映画『マトリックス』における
カンフーの技術や、ヘリコプターの操縦技術を脳にダウンロード
して修得するシーンです。「そんなことできるはずがない」と思
いながらも、「できたらいいな」と思ったものです。しかし、テ
クノロジーの発達によって、それに近いことはできるようになっ
ています。少なくとも「不可能ではない」といえます。
 「幽体離脱」という言葉があります。「体外離脱」ともいいま
す。暦本教授は、子どものとき、川で溺れかけた経験があるそう
です。そのとき、溺れようとしている自分の姿を上の方から見て
いる自分を一瞬ですが、自覚したといいます。自分自身を肉体か
ら離れた場所から見ることは、人が亡くなる瞬間に起きるといわ
れています。
 暦本教授のいう「人間対人間ジャックイン」とは、自分の存在
を離れた場所に移すことを意味しています。もちろん、本当の意
味での「体外離脱」は無理ですが、具体的なアイデアをいくつか
講演で話しています。
 既出の大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩博士は、自分と
そっくりのロボット(アンドロイド)を作っています。石黒博士
は、講演を依頼され、出張することが困難なときは、ロボットを
派遣し、自分は離れた場所から、ロボットを通じて話をするので
す。これも一種の体外離脱といえます。
 TBSの日曜日の番組『サンデーモーニング』で、スポーツ解
説者の張本勲氏がバーチャル映像で出演するときがあります。本
人は別の場所にいて、番組にはバーチャル映像で出演します。も
ちろん問いかけに対しても対応できるので、番組に出演している
のとほとんど変わりません。これも体外離脱です。
 しかし、こういうやり方では、講演や会議やテレビ番組などに
出演する場合はいいですが、立食スタイルのパーティーなどに参
加することは困難です。会ってゆっくり話したい人が何人も出席
するパーティーに、離れた場所から出席し、パーティー会場を歩
きまわりながら、いろいろな人と話をする──これを可能にする
アイデアを暦本教授は提案しています。
 添付ファイルの張本氏の右のロボットをご覧ください。自分の
顔の映っているタブレット付きのロボットです。このロボットが
パーティー会場を歩きまわるのです。
 かなり、異様なスタイルですが、暦本教授によると、タブレッ
トに顔が映っていると、人はその顔に向って話しかけてくるとい
います。「いやぁ、○○さん、お久しぶりですね」と話しかけて
くる人は結構多いそうです。もちろん離れた場所にいる本人は、
相手の顔は、ディスプレイに映るので、返事を返するとごく普通
の会話が成立するといいます。ロボットは、離れた場所から遠隔
操作できるので、会場を移動して話しかけることが可能です。
 しかし、このスタイルのロボットにも問題があります。階段を
上下できなかったり、人にぶつかって倒れてしまうなどのトラブ
ルが起きます。そこで暦本教授が考えたのが「人間ウ―バー」と
いう奇抜なアイデアです。これについて、暦本教授は、次のよう
に述べています。
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 「人間-人間ジャックイン」(Human-Human JackIn) は、自分
の存在を離れた場所に移すことである。人の顔が画面に映し出さ
れるフェイス・ロボットを遠隔から操作するという方法もあるが
これはロボット自身が動く上で困難があった。階段を登れないと
か、ドアを自分で開けられないといったことだ。すると、学生の
一人が「クレイジー」なことを思いついた。「人間ウーバー」を
やろうというのだ。自分の顔を映し出すタブレットをマスクにし
て、代理の者の顔に装着するのだ。
 驚いたことに、装着しているのは別人だとわかっているはずな
のに、多くの人が画面の人物の存在を信じたのだ。人間の存在感
や相手に対する信頼感は、その人の顔の表情に依存していること
の現れであろう。このシステムは非常にシンプルだが、非常に効
果的に人間の能力をどこかへ移す便利な方法なのだ。このマスク
は3Dプリンターで作成すれば、よりリアルな感じになる。
                  https://bit.ly/2Mi3fQp
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 「人間ウ―バー」とは面白いアイデアです。他人の顔が映って
いるヘッドマスクをかぶって一定時間会場を歩きまわるアルバイ
トです。人間ですから、ロボットと違って、階段も上下できるし
自由に会場を歩き回ることができます。話す方もヘッドマスクの
なかに別の人がいることはわかっていても、違和感なくディスプ
レイの顔に話しかけるそうです。
 このように暦本教授の話は、「人間の機械化」について、示唆
に富むものです。暦本教授は、ほぼ同じ話を「東大テレビ」でも
しており、動画も見ることができます。時間は約45分です。
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 仮想現実と身体「Human Augmentation 人間拡張とその未来」
                ──暦本純一/情報学環教授
                  https://bit.ly/2vpgvfy
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          ──[次世代テクノロジー論U/069]

≪画像および関連情報≫
 ●身体拡張という名のエンタテインメント/稲見昌彦氏
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   私はいま、身体に関わるテクノロジーが新しい局面を迎え
  ていると感じています。最先端のテクノロジーが、人間の身
  体をメディア化しつつあるのです。従来の身体に関わるテク
  ノロジーは、主に身体の「補綴(ほてつ)」に用いられるこ
  とが多かった。つまり義手や義足、車椅子にしても、移動の
  不可能や困難など、障碍者の方々の身体におけるマイナス要
  素を補い、いわゆる健常者に近づけるためのものとして研究
  ・開発されてきました。マイナス要素をゼロにしようとする
  ときのアプローチは、例えば、義手や義足がわかりやすいの
  ですが、健常者という「ゼロの水準」へいかに近づけるかと
  いうものになりますし、最適なアプローチの数は限られてい
  ます。しかし最先端のテクノロジーは身体のマイナス要素を
  補綴しながら、健常者をも超えるプラス要素、ときに超人的
  ですらある能力に拡張することを可能にしているのです。マ
  イナス要素からプラス要素を生み出そうとするときのアプロ
  ーチは無限にあります。人によって拡張したい身体部位や、
  どのように拡張するかが異なるためです。例えば右足を失っ
  た人がより速く走ることのできる右足を獲得することや、手
  を失った人が、サイボーグのような見た目にも斬新な義手を
  獲得することはその一例です。それは、エンタテインメント
  作品をつくるときと同じアプローチといえるでしょう。
                  https://bit.ly/2niko1w
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バーチャル出演と移動ロボット.jpg
バーチャル出演と移動ロボット
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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