2018年08月08日

●「サイボーグ化が急速進行する人体」(EJ第4823号)

 8月1日から、京都大チームによって、iPS細胞を利用した
パーキンソン病の治療がスタートしています。その治験の内容は
次の通りです。
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 パーキンソン病は脳内で神経伝達物質ドーパミンを出す神経細
胞が減り、体のこわばりや手足の震えが起こる難病で、根本的な
治療法はない。治験は京大病院が京大iPS細胞研究所と連携し
て実施。計画では、京大が備蓄する、拒絶反応が起きにくい型の
他人のiPS細胞から作った神経細胞を脳内に移植し、ドーパミ
ンを出す神経細胞を補う。       ──産経フジWEST
                  https://bit.ly/2KePDUg
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 iPS細胞による再生医療は、一般的には、自分の身体の一部
から作ったiPS細胞で組織や臓器をつくり、それを移植するも
のですが、今回のパーキンソン病の治療では、他人のiPS細胞
から作った神経細胞を脳内に移植するので、当然のことながら、
拒絶反応が起きます。もし、これが成功すれば、世界初であり、
画期的なことであるといえます。
 このような再生医療の技術が進化すると、体内器官の交換は容
易にできるようになり、基本的には虚弱の人体「バージョン1・
0」は、さまざまなテクノロジーによって守られ、だんだん強靭
化して、「バージョン2・0」の人体になっていきます。これに
ついて、カーツワイル氏は次のように述べています。
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 人類はそのテクノロジーによってすでに本来の寿命を伸ばして
きた。この場合、テクノロジーとは、薬品、サプリメント、ほぼ
あらゆる体内器官の交換、その他人体へのさまざまな介入を意味
する。体の部分を交換する技術はすでに整っている。腰、ひざ、
肩、肘、手首、あご、歯、皮膚、動脈、静脈、心臓の弁、腕、腿
足、指、そして、つま先に至るまで。そして、さらに複雑な器官
(たとえば心臓)を取り替えるシステムも導入され始めている。
人間の体や脳が動く仕組みが明らかになるにしたがって、手持ち
のものよりはるかに優れた器官をじきに作りだせるようになるだ
ろう。それらは長持ちし、機能面でも優れており、弱ったり、病
気になったり、老化したりしない。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
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 人体を構成するパーツは、このように、心臓ですら取り替える
ことが可能になりつつありますが、唯一交換できないのが「脳」
ということになります。
 しかし、脳に関してもさまざまな研究が進んでいるのです。M
ITとハーバードの研究員は、傷ついた網膜ニューロンと交換可
能な神経移植組織を開発しています。人間の脳と神経系のリバー
スエンジニアリングに基づく移植組織であり、パーキンソン病患
者の症状改善に大きな効果を上げることが期待されています。専
門的ですが、脳の視床後腹側核および視床下核と直接作用するこ
とで、パーキンソン病患者のもっとも深刻な症状を改善させよう
としているのです。
 このようにして、「バージョン1・0」の人体は、「バージョ
ン2・0」に移行していくのですが、それは、人間がサイボーグ
化することを意味します。いい替えると、それは人間の本来持っ
ている生物的機能のなかに、後から加えられた非生物的機能が増
えて行くことになります。
 もちろん脳がしっかりしていれば、脳に非生物的機能が加えら
れない限り、あくまで人体における生物的機能の優位は揺るぎま
せんが、脳にまで非生物的機能が入ってくると、人間は、自らの
本質について問い直す必要が出てきます。
 カーツワイル氏は、シンギュラリティが近付くにつれて、人体
は、脳を含めて再設計され、「バージョン3・0」に進化すると
して、次のように述べています。
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 人体は──2030年代から2040年代には──さらに根本
的なところから再設計されてバージョン3・0になっているとわ
たしは想像する。個々の下位組織を作り直すというよりも、われ
われ(思考と活動にまたがる生物的および非生物的部分)はバー
ジョン2・0での経験をもとにして人体そのものを刷新する機会
を得るだろう。バージョン1・0から2・0への移行のときと同
様に、3・0への移行もゆっくりと進み、その過程では多くのア
イデアが競合することになる。
 バージョン3・0の特性としてわたしが想像するのは、人体を
変化させる能力だ。VR環境ではいともたやすく実現できること
だが、われわれは現実世界でもそれを可能にする方法を身につけ
るだろう。具体的にはMNT(マイクロ・ナノテクノロジー)ベ
ースの構造を体内に組み入れることによって、身体的特徴を好き
なようにすぐ変えられるようになる。
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
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 「バージョン3・0」の人体──これは、人間の機械化がさら
に進化した状態であるといえますが、3・0になると、「ヒュー
マン・オーグメンテーション」の動きが出てきます。
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      ◎ヒューマン・オーグメンテーション
              Human Augmentation
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 これは、人間と機械が一体化して、人間の能力を拡張させるテ
クノロジーのことで「人間拡張」といわれています。これは日本
においては、東京大学の暦本純一教授が提唱しているものです。
人間の機械化はどこまで進化するのでしょうか。
          ──[次世代テクノロジー論U/067]

≪画像および関連情報≫
 ●ヒトの能力はどこまで強化・拡張できるのか
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   コンピュータや人工知能(AI)の発達によって、特定の仕
  事や処理では人間をはるかに超える知的能力を実現する機械
  が登場するようになった。今さら数値計算でコンピュータを
  圧倒できると思う人はいないだろうし、将棋や囲碁でもAI
  には勝てなくなってきている。そのため、こうした機械は、
  人間の知的能力を強化する道具として生活や仕事の中で欠か
  せない存在になっていることは確かだ。
   コンピュータやAIの発達に伴って、いずれは人間の仕事
  の全てが奪われ、ひいては人間が支配される側に回るという
  ディストピアの現出を心配する声は根強い。しかし、これは
  杞憂かもしれない。確かにコンピュータやAIは、処理の対
  象範囲やルールが定まった状況下では驚異的な能力を発揮す
  る。しかし、何が起きるか分からない状況下では、理性や道
  徳性、倫理性など人間固有の価値観に基づいて、一定レベル
  以上の答えを出す人間にはかなわない。人間とコンピュータ
  やAIの間には、知的能力の質に明らかな違いがあり、人間
  にしかできない仕事は必ず残るように思える。
   人間と機械を主従関係や対立構図でとらえるのではなく、
  両者の知的能力の特長を融合させて、より高度な仕事を、よ
  り効率的にこなす方法を模索する取り組みが活発に進められ
  るようになった。大半の知的作業において、最高レベルのパ
  フォーマンスを発揮したいと思うのなら、人間、もしくはコ
  ンピュータのどちらかに全面委託するのではなく、両者が協
  調して作業を進めた方がよほど効果的だ。
                  https://bit.ly/2vtQ87o
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歴本純一東京大学教授.jpg
歴本純一東京大学教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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