2018年06月27日

●「スマホで将棋カンニングは可能か」(EJ第4794号)

 AIのディープラーニングには、ハードウェアとしてのGPU
が不可欠であることはここまでの説明でわかっていただけたと思
います。本来はその上の段階である「ライブラリ/フレームワー
ク」及び「プラットフォーム」の説明が必要ですが、プログラミ
ングレベルの話になり、難解な印象を与えてしまうので、これは
省略し、次の話題に進むことにします。
 2016年10月のことです。プロの将棋棋士が対局中に席を
離れ、スマホでAI将棋ソフトを使ってカンニングしたという疑
いをかけられ、年内の公式戦の出場停止処分を受けるという事件
がありました。調査の結果、その疑いを裏付ける証拠がないこと
がわかり、疑いをかけられた棋士は無罪放免になったのです。し
かし、その騒動の責任を取って、当時の日本将棋連盟の会長が辞
任しています。
 この話は、ワイドショーで連日取り上げられ、ちょっとした騒
ぎになったのです。このとき、あるコメンテーターがいった言葉
がとても気になったので、この記事を書いています。
 このコメンテーターは、Tさんといい、京都大学卒業で、とて
もよく勉強していて、どのような問題についても、なかなか鋭い
コメントをするので、大変人気が高い人です。そのTコメンテー
ターは、カンニングしたという疑いをかけられたプロ棋士を擁護
したのです。私が気になったのはその擁護の理由です。彼は次の
ようにいったのです。
─────────────────────────────
 スマホのような小さいコンピュータでは、素人の遊び程度のも
のは別として、プロ棋士の指し手を予測するのは困難です。だか
ら、彼はやっていませんよ。      ──Tコメンテーター
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 Tコメンテーターは、スマホのことを何もわかっていません。
確証はありませんが、おそらく彼はスマホを持っていないのでは
ないでしょうか。30代後半から40代で、コメンテーターが職
業である人が、今どきスマホを持っていないとは考えられません
が、どうやら彼はICTには関心が薄いようです。今やコンピュ
ータは、その大小では語ることはできないのです。
 スマホやタブレットは、つねにネットワークに接続されており
アプリケーションによっては、必要に応じて、自律的にサーバー
にアクセスして、情報を得ることができます。したがって、別の
場所に将棋のAIシステムが搭載されているコンピュータがあり
そこに現在の棋譜が入力されているとしたら、そこへスマホで問
い合わせれば、AIが予測する次の最良の指し手の情報を得るこ
とは十分可能です。スマホのアプリには、外部のサーバーにアク
セスして答えを得るものが少なくないからです。
 しかし、疑いをかけられた棋士は、そこまではやっていなかっ
たことがわかったので、事件は決着したのです。それ以来、将棋
連盟では、対局前にスマホなどの一切の電子機器は、ロッカーに
預ける決まりになっています。
 しかし、疑惑はあったのです。『ドキュメント・コンピュータ
将棋』(角川新書)などの著書のあるライター・松本博文氏は、
これについて、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 関係者の間で話題となったのが、7月26日、棋界最高位であ
る竜王戦の挑戦者決定トーナメントの準決勝です。終盤、M九段
は、離席から戻った後、『6七歩成』という一手を指します。
 その一手は、一見すると自玉が危うくなるように見えるものの
先の先まで読んでいくと勝ちにつながるという、プロでもなかな
か指せない一手で、その“超人的な読み”がきっかけで、対局相
手や周囲から疑念を抱かれるようになった。
                  https://bit.ly/2lzpk1c
─────────────────────────────
 これに関係してアップルのアイフォーンに搭載されている「シ
リ(Siri)」という音声アシスタントという機能があります。誰
でも利用できる身近なAI(人工知能)です。2011年に発売
されたアイフォーン4Sから標準装備されています。これは、一
体どういう仕組みになっているのでしょうか。ちなみに、アップ
ルからはその仕組みについての情報は一切ありません。したがっ
て、その仕組みについては推測するしかありません。
 「シリ」の開発には、間接的ではありますが、米国政府がかか
わっています。まず、次の2つの機関について、知る必要があり
ます。米国防総省傘下の機関です。
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    ◎ ARPA/高等研究計画局
     Advanced Research Projects Agency
    ◎DARPA/国防高等研究計画局
     Defense Advanced Research Projects Agency
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 1957年のことです。ソ連のスプートニク・ショックを受け
た米アイゼンハワー大統領の命令で、国防長官に進言する防衛科
学技術担当長官を国防総省内に設置したのがはじまりです。この
ARPAは、1969年に現在のインターネットの原型になるA
RPAネットの構築やGPSの開発に成功しています。
 1996年にARPAは、DARPAに改められ、現在も続い
ています。大統領と国防長官直轄の組織であり、軍隊使用のため
の新技術開発や研究を行う組織ですが、米軍から直接的干渉を受
けない組織になっています。
 「シリ」は、DARPAが資金を拠出した研究プロジェクトか
ら生まれたのです。そのプロジェクトは、「CALO」という名
前の史上最大規模のAI研究プロジェクトです。技術系シンクタ
ンクであるSRIインターナショナルが元請け業者として、この
仕事を受注したのです。全米の一流大学と研究機関から300名
以上の研究者が参加したといわれています。
          ──[次世代テクノロジー論U/038]

≪画像および関連情報≫
 ●カンニング疑惑/騒動の結末
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   思えば昨年の今頃、将棋界は凍り付いていた。たった1年
  前のことだ。その前年秋、渡辺明竜王が挑戦者に躍り出た三
  浦弘行九段と対局できないと言い出し、挑戦者が変わる前代
  未聞の出来事があった。いわゆるスマホカンニング疑惑事件
  である。三浦は竜王挑戦権を剥奪され、3カ月の対局停止と
  いう厳罰が下った。
   三浦はカンニングを全面否定し、調査委員会が開かれ、疑
  惑は完全に否定された。しかし3カ月の出場停止は解けず、
  三浦はA級順位戦で不戦敗に。疑惑が否定されたことで緊急
  的に降級は回避された。よって毎年2名の降級者はその年は
  1名、翌年3名が降級することで決着した。繰り返すがたっ
  た1年前の話だ。
   日本将棋連盟の理事会はほぼ総解散状態、将棋界は行方を
  危ぶまれた。そんなとき棋士生命をなげうってでも、と立ち
  上がったのが佐藤康光九段、現会長である。棋士生命をなげ
  うってでも、と書いたが私の想像で本人に確かめたわけでは
  ない。違ったらごめん。
   「将棋界の最も長い日」といわれるA級順位戦最終局は、
  今年は3月2日に全棋士が静岡に集結し、行われた。くじの
  関係ですでに6勝4敗で全対局を終えている羽生善治竜王が
  大盤解説会で解説役を務めた。いつものんきな羽生さんのこ
  とだからこの日もひときわ陽気に解説していた。まさか自分
  に何かが降りかかってくるとは微塵(みじん)にも思ってい
  なかったろう。しかし将棋界をめぐるドラマはあまりにもめ
  まぐるしい。          https://bit.ly/2KgEEdB
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将棋カンニング疑惑事件.jpg
将棋カンニング疑惑事件
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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