2018年06月05日

●「人工脳『パーセプトロン』の理論」(EJ第4778号)

 現在のAI(人工知能)の中心は「ディープラーニング(深層
学習)」です。そのディープラーニングが何であり、どのように
役立つのかを知るためには、どうしてそこにいたったのか、AI
の歴史を知る必要があります。新しい技術を理解するには、その
技術が生まれた背景を知ることが不可欠だと考えています。
 グーグルは、検索精度の向上を図るため、「セマンティック検
索」の実現を目指し、その結果、自動的に作り出された「ナレッ
ジ・グラフ(知識ベース)」によって、検索の精度の大幅向上に
成功しています。これは、統計確率的AIの精度の向上に寄与し
たことになりますが、このナレッジグラフにストックされた知識
の件数は、2012年の時点で実に6億件を超えています。
 このナレッジグラフの構築作業は、グーグル開発による機械学
習プログラムによって日夜休むことなく続けられ、それは単に検
索精度の向上のみならず、機械翻訳など、AI全体の精度の向上
に貢献しつつあります。現在、グーグルがAIにおいて主導権を
握りつつあるのは、このナレッジグラフの存在と無関係ではない
といえます。
 しかし、1950年代から「ルールベースのAI」の実現を目
指してきた古典的AI派の学者や研究者たちは、統計確率的AI
の研究者たちに対して、次の疑問を突き付けています。
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 しかし、我々にも言いたいことがある。君達のように統計、確
率に従うAIは、人間の思考プロセスと明らかに別種のものだ。
そのような方法で、いずれ人間の知能や知性をコンピュータ上に
再現できると本気で信じているのか?つまり、今は結果を出して
いるからいいが、その先に未来はあるのか?
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
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 確かに統計確率知的AIは、ウェブサイトの検索や機械翻訳な
どの精度を大きく向上させたものの、それは、AIの一里塚に過
ぎないのです。このような状況の下で浮上してきたたのが「ニュ
ーラルネットワーク」です。最近この言葉をよく聞きますが、ニ
ューラルネットワークとは何でしょうか。これを真正面から取り
上げると、複雑な数式の世界に入ってしまうので、それを避けて
なるべく簡単な説明を試みます。
 ニューラルネットワーク(以下、NN)とは、機械学習や神経
科学などの分野で扱われる計算モデルの一種といってよいでしょ
う。この名前から想像されるように、脳の神経回路から知見を得
たモデルであり、「ニューロン」と呼ばれる最小の計算単位を、
ネットワーク状につなげた構成をしています。現在、話題になっ
ている「ディープラーニング」は、このNNを利用しています。
はっきりしていることは、NNは、機械学習の一分野であるとい
うことです。
 NNというと、ごく最近の技術のように思うかもしれませんが
大変長い歴史があります。そもそもAIの研究は、1956年の
ダートマス会議からはじまったのですが、その次の年である19
57年に「パーセプトロン」というシステムの概念が話題になっ
たのです。これは、米国のコンピュータ科学者であるフランク・
ローゼンプラットという学者が考案した概念です。
 簡単にいうと、人間の視覚と脳の機能をモデル化したもので、
それでいて、パターン認識を行い、シンプルなネットワークであ
りながら、自力で学習する能力を持つという理論です。
 この「パーセプトロン」についてネットで調べると、いずれも
数式を使った非常に難しい解説が出てきます。そこで、ここでも
分かりやすい小林雅一氏の解説を引用します。
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 パーセプトロンは、脳内におけるニューロンとシナプスによる
信号伝達メカニズムを極度に単純化したシステムでしたが、それ
でも幾つかの基本的な図形、たとえば三角形と四角形の違いを学
習し、それらを分類することができました。このように、コンピ
ュータが自力で学習することのインパクトは大きく、当時の米国
では『ニューヨーカー』のような知識人向けの一流雑誌が、「こ
れが今後進化すれば、いずれは人間のように感じ、記憶し、考え
る機械が生まれるだろう」と激賞するほどでした。
                ──小林雅一著の前掲書より
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 つまり、パーセプトロンは、コンピュータに図形を認識させよ
うとしたのです。今日でいうところのNN、すなわち、ニューラ
ルネットワークの原型になるような先進的な理論であったという
ことができます。
 ところが、このパーセプトロン理論に対して、ダートマス会議
のメンバーの一人であるマービン・ミンスキー氏と南アフリカ生
まれの数学者、シーモア・パパート氏の2人は、次の論文を書い
て、この理論の限界を指摘したのです。
─────────────────────────────
     マービン・ミンスキー/シーモア・パパート共著
  『パーセプトロン/計算機科学への序論』/1969年
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 この論文では、パーセプトロンには致命的な欠陥があり、この
理論では、今後どのように改良しても限界があることを指摘して
います。実は、ミンスキー氏らとしては、パーセプトロンに反論
したのではなく、問題点を指摘しただけなのですが、それでもこ
の2人の学者の指摘は正鵠を射ており、これによってパーセプト
ロンに対する世間の期待は一気にしぼんでしまったのです。
 このときから実に20年以上の歳月を経て、パーセプトロン理
論ではない別の考え方に基づくパーセプトロンのネックを解決す
る新理論が提案されたのです。それがNN、ニューラルネットワ
ークです。     ──[次世代テクノロジー論U/022]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能「冬の時代」が到来/牧野武文氏
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   1963年に、ミンスキーは、シーモア・パパートと知り
  合った。この南アフリカ生まれの数学者は、数学の学士号を
  とるためにイギリスのケンブリッジ大学で学んでいた。その
  ときにパーセプトロンに興味をもったが、パーセプトロンの
  機能については、ミンスキーを同じように限定的なものでは
  ないかという疑いを持った。
   パパートが、MITを訪れ、ミンスキーと面会すると、二
  人の考えはたちまち一致した。パーセプトロンがあまりに魅
  力的に見えすぎるため、人工知能研究者が誤った道に進もう
  としている。パーセプトロンを追求しても、それは袋小路に
  なっているのだ(現在のディープラーニングの基礎となって
  いるのもパーセプトロンだが、それには飛躍的な進化が必要
  だった)。
   パパートは、MITの数学科の教職を得て、さらにミンス
  キーのAI研の研究員となることで、ミンスキーといっしょ
  にパーセプトロンの限界を探る研究を始めた。パパートとと
  もに導きだした結論は、パーセプトロンは線形分離可能な問
  題しか学習できないということだった。線形分離可能という
  は、直線で集団をわけることができるような事象のことだ。
                  https://bit.ly/2J9EuZj
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フランク・ローゼンブラット氏/パーセプトロン.jpg
フランク・ローゼンブラット氏/パーセプトロン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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