2018年05月25日

●「人間のように考えるコンピュータ」(EJ第4771号)

 第1回「AIの冬」──1950年代に開始され、1970年
代で終息したAIブームです。終焉した原因は、天才によくある
「論理への過信」だったのです。
 このときのAIのレジェンドたちの楽観主義の言葉を以下に再
現しておきます。
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 ◎ジョン・マッカーシー
  考える機械は、今から約10年で完成できるはずである。
 ◎ハーバート・サイモン
  10年以内にデジタルコンピュータはチェスの世界チャンピ
  オンに勝つ。10年以内にデジタルコンピュータは新しい重
  要な数学の定理を発見し証明する。
 ◎マービン・ミンスキー
  一世代のうちに、人工知能を生み出す問題のほとんどは解決
  されるだろう。3年から8年の間に、平均的な人間の一般的
  知能を備えた機械が登場するだろう。
        ──ウィキペディア/https://bit.ly/2ki20V6
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 しかし、いったん終息したAIブームは、1980年代には復
活を果します。第2次AIブームの到来です。第1次ブームのと
きは日本は参加していませんが、第2次AIブームから日本が参
加します。それも積極的に参加したのです。このとき、私はマー
ケティングを担当する部署から情報システム部に異動になり、そ
のAIを担当することになったのです。
 第2次AIブームの中心は「エキスパートシステム」です。各
界の専門家(エキスパート)が持っている豊富な知識やノウハウ
をコンピュータに移植し、いわば専門家の分身をたくさん作り、
世の中の役に立てようというプロジェクトです。
 世界初のエキスパートシステムは 「デンドラル(Dendral)」
といい、1965年にその開発が行われています。開発メンバー
には、「エキスパートシステムの父」ともいわれるエドワード・
ファイゲンバウムが含まれており、この「デンドラル」から派生
したものが「マイシン(Mycin)」です。
 マイシンは、細菌感染の診断をする医学分野で最初に成功を収
めたエキスパートシステムで、スタンフォード医学部でも調査に
よると約65%の正解率を誇っています。これは、専門医の診断
の80%の正解率には及ばないものの、少なくとも細菌感染の専
門家でない医師の診断よりは優秀な成績だったといえます。しか
し、マイシンは、実用システムとして導入されていません。シス
テムの誤診の責任問題を恐れたからです。
 このAIによるエキスパートシステムブームに日本政府は、積
極的に参画し、世界のAI研究をリードする一大国家プロジェク
ト「第5世代コンピュータ開発プロジェクト」を立ち上げたので
す。1982年のことです。当時の通商産業省(現経済産業省)
が主導のプロジェクトです。そのきっかけは、ファイゲンバウム
のマイシンに触発されたからといわれています。
 当時の通産省は、エキスパートシステムの精度のカギを握るの
はコンピュータの性能にあると考えたのです。そこで、そのコン
ピュータの能力を1段階上げようとしたのです。その時点でのコ
ンピュータは、次のように第4世代に達していたので、第5世代
としたわけです。
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      第1世代:真空管
      第2世代:トランジスタ
      第3世代:IC/集積回路
      第4世代:LSI/大規模集積回路
      第5世代:AIを実現するマシン
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 「AIを実現するマシン」とは何でしょうか。
 このマシンに関して、小林雅一氏は、著書で次のように解説し
ています。
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 これに対し第5世代コンピュータでは、基本的に数字ではなく
言語のようなシンボル(記号)を処理することを前提とし、しか
も人間と同じように一度に複数の仕事がやれること(並列処理)
を目指していました。たとえば患者を診断するときに、瞬時に幾
つもの病因(可能性)を思い浮かべる医師のようなエキスパート
・マシンです。これをプロジェクトの担当者たちは、「並列推論
型コンピュータ」と呼びました。つまり、それまでの4世代とは
全く異なる、画期的なアーキテクチャのAI型コンピュータを開
発しようとしたのです。           ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
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 これは、日本にとって凄いことです。コンピュータの開発で世
界をリードしようとしたからです。1980年代といえば、ソニ
ーのウォークマンなど、日本製の家電製品や自動車が世界市場を
席巻し、「ハイテク・ジャパン」のイメージが拡大していた時期
です。したがって、日本の第5世代コンピュータ開発宣言は、世
界中で注目されたのです。
 しかし、ここで重要なのは、当時挫折していた音声認識や機械
翻訳などのソフトウェア的技術の発展ではなく、「人間のように
考える」コンピュータ、すなわち、ハードウェアの開発を目指し
たことです。これは、現在になって考えると、大きな失敗だった
といえます。
 それでは「人間のように考える」コンピュータとは、具体的に
どのようなマシンを指すのでしょうか。それは、三段論法的推論
をベースとする「ルールベースのAI」そのもので、1960年
代のAIの黎明期の発想と同じだったのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/015]

≪画像および関連情報≫
 ●「ルールベースアプローチ」とは何か
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   専門家の知識やノウハウを人間がルールとして記述し、そ
  のルールに従ってコンピューターに処理させようというアプ
  ローチです。「エキスパートシステム」と呼ばれています。
  例えば、計測結果から化合物の種類を特定する、複雑なコン
  ピューターのハードウェアやソフトウェアの構成を過不足な
  く組み合わせるなど、特定の領域に限れば、実用で成果をあ
  げられるようになりました。しかし、そもそも人間の知って
  いることが多すぎることや、それをどう表現するか、また解
  釈や意味の多様性に対応することは容易なことではありませ
  ん。そして、「知識やルールを入れれば賢くなるが、知識を
  すべて書ききれない」という限界に行き当たり、この取り組
  みは下火となってしまいました。その後、この考えを業務シ
  ステムに応用しようという取り組みは続き、BRMS(ビジ
  ネス・ルール・マネジメント・システム)とし、いまもこの
  考え方は生き残っています。例えば、規則の組合せが複雑な
  保険審査や保険料の算定、あるいは、携帯電話の割引条件や
  料金算定など、ルール変更が頻繁な業務システムに使われて
  います。このようなアプリケーションは、処理ルールをプロ
  グラムにロジックとして埋め込んでしまうと、ルールが変更
  されるたびにプログラム修正をしなくてはなりませんので、
  大変手間がかかります。     https://bit.ly/2kivNwU
  ───────────────────────────
 
エドワード・ファイゲンハウム.jpg
エドワード・ファイゲンハウム
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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