2018年05月11日

●「AIトロールによる世論分断工作」(EJ第4761号)

 2018年2月のことです。第一線のAIの専門家26人が、
英国オックスフォード大学でAIの危険度についてワークショッ
プを開き、その結果を元にして次の報告書を発表しています。そ
の報告書は、指定のURLから、英文ですが、全文をダウンロー
ドして、読むことができます。
─────────────────────────────
         報告書「悪意ある人工知能の利用」
   The Malicious Use of Artificial Intelligence
          https://maliciousaireport.com/
─────────────────────────────
 この報告書には、非営利研究機関「オープンAI」、デジタル
権利団体「電子フロンティア財団」、米国立安全保障シンクタン
ク「新アメリカ安全保障センター」が参加しています。この報告
書の提言の要旨は次の4つです。
─────────────────────────────
 1.政策決定と技術研究の担当者は、連携して悪意あるAI
   使用について理解し、備えなければならない。
 2.AIは諸刃の剣の技術で、研究者や技術者は悪用される
   可能性に十分に留意し、対応する必要がある。
 3.善悪両方に使える技術を長く扱ってきた分野、たとえば
   コンピュータセキュリティを学ぶべきである。
 4.AIの悪意ある使用リスクを軽減し、防止しようと取り
   組む利害関係者の範囲を積極的に拡大させる。
                  https://bbc.in/2EXkFkK
─────────────────────────────
 ロシアは、現在、ウクライナの問題で経済制裁を受けているこ
ともあって、経済的に困窮しています。ロシアのGDPの順位は
既に韓国に抜かれて第12位ですが、人口においてその6分の1
しかないオーストラリアにも、あと数年で抜かれるといわれてい
ます。それほどロシアは経済的には苦しい状態です。
 しかし、ロシアは依然として軍事強国です。しかし、これまで
の軍事スタイルを大きく変更し、AIを核心とするハイテク戦力
分野での存在感を世界的に高めているのです。
 つまり、北米の主要都市をいつでも焦土化できるのに十分な戦
略核軍備に資金を優先的に手当てしておくものの、これまでのよ
うに、最新鋭の戦闘機や水上艦艇で、米軍やNATO軍と戦うこ
とは密かに諦めています。その代り、その余力をデジタルハイテ
ク戦力分野に注力しているのです。
 SNSの世界に「ボット」といわれるものがあります。ボット
とは「ロボット」の短縮形ですが、その正体はネットの世界で動
作するプログラムです。ツイッターでツイートを発信すると、そ
れに対して自動的に返信をしたり、リツイートしたりして、ある
特定情報を拡散する働きを行うのです。
 しかし、最近はポットにAIが搭載され、高度で複雑な動きを
するようになっています。ロシアのAIボットについて、軍事評
論家の兵頭二十八氏は、自著で次のように解説しています。
─────────────────────────────
 ロシアの地下工作部隊は、米国内に無数の「ボット・アカウン
ト」(半自動文章作成AIが常駐している、じっさいには無人格
のプログ・アカウント)を開設していて、たまたま米国世論を二
分するような事件(たとえば白人警官による黒人容疑者の射殺や
それに反発した黒人たちの抗議騒動)が起これば、待ってました
と黒幕の指令一下、AIが爆発的なペースで各種SNSに煽り発
言を連投するようです。
 しかもポットが、相互にそれを引用・言及し合うので、あたか
も非常にたくさんの米国人が、それぞれに不寛容な立場を固守し
ていがみあっているかのように、ネット上の空気が染め上げられ
てしまう。リアルには存在していない「多数意見」が、いきなり
ネット空間に出現し、大勢の人がそれを読んで心理的に影響され
ることになるのです。      ──兵頭二十八著/飛鳥新社
     『AI/戦争論/進化する戦場で自衛隊は全滅する』
─────────────────────────────
 ロシアでは、ボットのことを「トロール」といい、世界各国、
とくに敵対している米国に対して、間断なくネット攻撃を仕掛け
ています。ターゲットとしては、米国の世論を分断させるテーマ
をターゲットにしているようです。
 たとえば、2018年2月14日に起きたフロリダ州バークラ
ンドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で起きた
銃撃事件の後、ツイッター上には「♯guncontrolnow (今すぐ銃
規制を)」というハッシュタグが作られ、そこには瞬く間に多数
のツイートで溢れ返ったのです。その数は尋常なものではなく、
銃規制に反対する米国民がこんなにもいるのかと感じさせるに十
分です。しかし、これは米国世論の分断を狙ったロシアのトロー
ル工作だったのです。
 4月13日の米英仏共同で行ったシリアの化学兵器関連施設へ
の空爆についてもマティス国防長官は次のように発言し、その次
の日に米国防総省は記者会見で次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
◎われわれは、数日中にアサド政権支持者による虚偽情報キャン
 ペーンが急増すると予測している。  ──マティス国防長官
◎この24時間の間に、ロシアのトロールが、2000%増加し
 ている。                 ──米国防総省
─────────────────────────────
 このようなことが頻発しているところから考えても、2016
年の米大統領選でも、ロシアは米国に執拗なサイバー攻撃を仕掛
けていると考えられ、大統領選の結果に影響を与えていることは
間違いないと思われます。
 これはロシアによる現代における新しい戦争のスタイルである
といえます。そして、それにはAIがサイバー攻撃に密接に絡ん
でいるのです。   ──[次世代テクノロジー論U/005]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシアはは米大統領選にどう介入したのか
  ───────────────────────────
   フェイクニュース問題とは何だったのか――その核心部分
  の実相が少しずつ明らかになってきた。米大統領選へのロシ
  アの介入疑惑を調査中の特別検察官、ロバート・ムラー氏は
  2018年2月16日、その工作部隊とされてきた「インタ
  ーネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」を含む3
  社と、関連する13人のロシア人を起訴した。
   ソーシャルメディアを舞台としたフェイクニュース拡散の
  拠点とみられ、「トロール(荒らし)工場」と呼ばれてきた
  IRAと、その出資者である「プーチンの料理人」エフゲニ
  ー・プリゴジン氏が、米大統領選に何を仕掛けたのか――。
   ムラー氏の起訴状は、そんなフェイクニュース問題をめぐ
  る疑問の数々を解き明かす。その内容は、まるで「フェイク
  ニュースの教科書」のようだ。
   またロシアや米国のメディアも、改めて「トロール工場」
  の実態に迫っている。特にNBCはIRAによるフェイクア
  カウントによるツイートを独自にデータベース化。元データ
  を一般に公開しており、誰でもその足跡をたどることができ
  る。様々なアプローチの中から、フェイクニュースのメカニ
  ズムが、徐々に浮き彫りになってくる。今回の起訴の対象と
  なったのは、法人では、「インターネット・リサーチ・エー
  ジェンシー(IRA)」のほか「コンコルド・マネージメン
  ト・アンド・コンサルティング」、「コンコルド・ケータリ
  ング」の2社。         https://bit.ly/2wmAdf4
  ───────────────────────────

ロシアのトロールによる世論分断.jpg
ロシアのトロールによる世論分断
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
RDF Site Summary