2018年03月16日

●「吉田調書は『虚報』か『誤報』か」(EJ第4735号)

 2つの「吉田」関連記事──吉田証言と吉田調書の記事を朝日
新聞が取り消したことによって、朝日新聞は各方面から批判の総
攻撃を受けることになります。
 「虚報」と「誤報」という言葉があります。この2つはよく似
ていますが、その意味するところはまったく違います。まさに水
と油ほどの違いがあります。
 「虚報」は、虚偽の事実を真実として伝えることです。この場
合、虚偽であることを知っていたにもかかわらず、真実として報
道することや虚偽の事実を持ち込んだ者にだまされて、それを真
実として報道することも含まれます。これに対して「誤報」とは
調査報道などで、間違っている事実を真実と信じて報道してしま
うことです。
 メディアが「虚報」や「誤報」をしてしまった場合、どう対応
すべきかについて、大石泰彦青山学院大学法学部教授は、次のよ
うに述べています。
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 メディアが虚報を伝えた場合には、速やかな調査、記事の取り
消し・削除が必要になり、また関係者に厳しい処分が科せられる
のもやむを得ない。しかし、誤報の場合は違う。この場合にも、
適切な検証と必要な範囲の訂正は必要であるが、関係者の処分に
は慎重であるべきで、取り消しなどとんでもない。
                   http://bit.ly/2FPrkOn
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 朝日新聞の場合、「吉田証言」のケースは、吉田清冶という人
物に騙されて、真実でないことを報道したので、虚報といえると
思います。したがって、このケースでは朝日新聞が謝罪して、記
事を取り消したのは正しいといえます。
 しかし、吉田調書については、少なくとも虚報ではあり得ず、
調査報道ではよくある誤報に過ぎないといえます。むしろ、政府
が隠蔽していた772人分の400ページに及ぶインタビュー記
録である吉田調書の存在を明らかにしたことは、朝日新聞の功績
なのです。したがって、その関連記事を取り消すなどということ
は考えられないことです。この件について、大石泰彦教授は、次
のように述べています。
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 慰安婦報道のうち、文筆家の吉田清治が日本軍による強制連行
を告白した「吉田証言」報道は、虚報性が高いと思う。しかし、
吉田調書報道が虚報でないことは明白であり、百歩譲ってもそれ
は勇み足の誤報である。むしろそれは、日本という国の体制の根
幹に存在する暗部に肉薄する、まれに見る優れた調査報道であっ
た。しかし、それゆえにこそ――同じく権力の核心に迫った、か
つての沖縄密約報道が徹底的に弾圧されたように――原発再稼働
をもくろむ政治・社会権力は、これに捏造のレッテルを貼りつけ
抹殺したかったのであろう。それは、この国でこれまでにも繰り
返されてきたことであり、今さら驚かないが、朝日の内部の何者
かがこれに呼応し、味噌も糞も一緒にすることで事態をごまかし
同紙が権力者以外は誰も望まない記事の取り消しという“自殺”
に至ったことは驚きであり、本当に残念である。
                   http://bit.ly/2paQiOH
─────────────────────────────
 マーティン・ファクラー氏は朝日新聞が苦労して入手した「吉
田調書」を、他紙は朝日新聞のスクープ以後に労せず入手してい
ます。このとき、吉田調書は基本的には民間の発電所で起きた事
故であるのに、官邸はまるで国家機密であるかのように非公開文
書にしており、簡単には入手できなかったはずです。
 ファクラー氏は、あくまで推測と断って、吉田調書は官邸から
他紙にリークされたものであるといっています。これは「暗黙の
ディール」といいます。それは次のようなものです。
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 記者クラブメディアの新聞記者には、暗黙のディール(合意)
がしばしば見受けられる。特別な情報を与えてもらう見返りに、
情報源に都合が良い記事を書くという取引だ。日本経済新聞でも
この類の経済記事をよく見かける。Aという会社がBという会社
を買収しようとしており、同時にCという会社も買収を計画して
いるとしよう。このときAに有利になる記事である場合は、情報
源はBやCではなく、Aである可能性が高い。
               ──マーティン・ファクラー著
      『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』/双葉社刊
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 ファクラー氏が何をいいたいのかというと、官邸がリークすれ
ば、官邸はAであり、「暗黙のディール」に倣って、産経新聞や
読売新聞は官邸を攻撃しないで、批判はすべて朝日新聞に向うと
考えたからです。官邸の狙い通りです。
 それどころか、読売新聞は、朝日新聞の評価が落ちたことを利
用して、朝日新聞への攻撃を強め、朝日新聞の読者を奪う目的で
「慰安婦報道検証/読売はどう伝えたか」というパンフレットま
で作成し、朝日新聞の購読者宅に大量配布したのです。実に汚い
やり方です。
 しかしその結果は意外なものだったのです。読売新聞は前年同
月比6・1%減と朝日新聞以上に読者数を減らしたのです。20
14年7〜12月のデータです。
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 ▼読売新聞  926万3986部/前年同期比6・1%減
 ▼朝日新聞  710万1074部/前年同期比5・9%減
 ▼毎日新聞  329万8779部/前年同期比1・5%減
 ▼日経新聞  275万0534部/前年同期比0・9%減
 ▼産経新聞  161万5209部/前年同期比0・1%減
         ──マーティン・ファクラー著の前掲書より
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            ──[メディア規制の実態/049]

≪画像および関連情報≫
 ●池上彰氏/朝日叩きに走る新聞、週刊誌を批判
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   ありとあらゆるメディア、識者、ジャーナリストが問題の
  本質をネグって、“朝日吊るし上げ”に熱狂する言論状況。
  そんな中、本サイトは逆に朝日を叩く側、読売新聞や産経新
  聞、週刊誌、そして安倍政権に対して、「おまえたちも同じ
  アナのムジナだ!」と徹底批判を展開してきた。付和雷同、
  勝ち馬に乗ることしか考えていないこの国のメディアの中で
  こんな酔狂なまねをするのは自分たちくらいだろうと覚悟し
  つつ・・・。実際、いくら書いても孤立無援、本サイトの意
  見に同調してくれる新聞、テレビ、雑誌は皆無だった。
   ところがここにきて意外な人物が本サイトと同様、メディ
  アの“朝日叩き”への違和感を口にし始めた。その人物とは
  朝日新聞の連載で朝日の報道姿勢を批判するコラムを書いて
  掲載を拒否された池上彰氏だ。
   この問題は、朝日新聞による言論の封殺だとして読者から
  非常な不評を買い、朝日にとって「慰安婦問題」や「吉田調
  書」以上にダメ―ジになったと言われている。ところが、一
  方の当事者であるその池上氏が「週刊文春」(文藝春秋)9
  月25日号の連載コラム「池上彰のそこからですか!?」で、
  朝日を叩いている他のメディアも同じようなことをしている
  と指摘したのだ。    リテラ/ http://bit.ly/ZbHEQW
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朝日新聞/木村伊量社長(当時).jpg
朝日新聞/木村伊量社長(当時)
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | メディア規制の実態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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