2018年02月26日

●「テレビ局はなぜ放送法を恐れるか」(EJ第4711号)

 安倍首相は、その第1次政権と現在の第2次政権にかけて、メ
ディア、とくにテレビ局を完全に制圧し、強い批判の封じ込めに
成功しています。もともと安倍政権に親密なメディアとしては、
NHKと読売新聞とフジテレビです。
 この読売新聞とフジテレビのトップは、いずれも社長に就任し
てからの期間が長いのです。渡邊恒雄読売新聞グループ本社会長
は27年、日枝久フジテレビ会長は30年です。トップをいつま
でも続けていられるようです。これにならってか、テレビ朝日の
早河洋会長もいつまでもトップを続ける体制を作っています。
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 ≪社長への就任年月≫
  渡邊恒雄・読売新聞グループ本社会長 ・・ 1991年
  日枝 久・フジテレビ会長      ・・ 1988年
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 ここまでテレビ局の安倍政権への傾斜ぶりについて述べてきま
したが、NHKはどうなのでしょうか。安倍政権はもちろんNH
Kに対して手を打っています。それでも安倍政権にとっては、N
HKとフジテレビと読売テレビは安全パイなのです。
 ところで、NHKについては、立教大学教授の砂川浩慶氏の本
に、次のきわめて興味あることが載っています。
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 2015年7月21日、NHKニュースは「安保法制、来週か
ら参議院で審議入り」と報じた。この中で隠し撮り風の映像で伝
えたのが、車から降りてフジテレビに入る安倍首相と、満面の笑
みを浮かべて出迎える日枝久・フジテレビ会長、そして局を去る
安倍首相をこれまた満面の笑みで見送る日枝会長の姿であった。
 前日の7月20日、安倍首相は、フジテレビ「みんなのニュー
ス」(15時50分〜19時)に一時間余りにわたり生出演し、
安保法制の必要性を語っていた。そのスタジオ入りの前の映像で
ある。だがNHKニュースは、首相が番組に出演して語ったこと
を紹介するわけではなく、総理大臣とフジテレビの最高権力者と
のツーショットを映像で紹介しただけである。また、この映像に
は日枝会長を説明するテロップはなく、一般の視聴者には、安倍
首相以外の人物は誰なのか分からないものだった。
      ──砂川浩慶著『安倍官邸とテレビ』/集英社新書
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 NHKが報道したのは、「安保法制/来週から参議院で審議入
り」なのです。そのバックの映像にフジテレビ入りする安倍首相
を満面の笑みで出迎え、テレビ局を去る安倍首相を丁重に見送る
日枝会長の姿が映っていたのです。しかも映像についての説明は
一切なく、テロップも出ないのです。
 砂川氏は、読売新聞の記者が教えてくれたのだと断って、この
映像を使った理由を次のように明かしています。
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 まるで、安倍内閣を支持しているのはNHKだけじゃない、フ
ジテレビなんて会長自ら出迎えているぞ、というメッセージだ。
それを読売新聞が言えた義理ではないけれど・・・。
      ──砂川浩慶著『安倍官邸とテレビ』/集英社新書
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 もちろん、この映像の意味がわかる人は、フジテレビの会長の
顔を知っている人だけなので、明らかに玄人向けのメッセージで
あるといえます。
 しかし、なぜテレビ局は、なぜこうも、政府の圧力に弱いので
しょうか。
 それは日本の放送法は「再免許制」だからです。米国などの放
送免許は「更新制」です。運転免許などと同様に、とくに違反な
どがない場合は、そのまま更新されます。
 しかし、日本の場合、テレビ局に重大な違反があると、放送免
許を取り消し、復活するには、すべての申請を一から行う「再免
許制」をとっているのです。したがって、テレビ局としては放送
免許を取り消されると、大変なことになります。放送局の免許は
親局だけではなく、中継局や中継用の無線局も含むので、その申
請のやり直しは膨大な申請書類が必要になるからです。
 実際に安倍政権では、高市早苗総務相が放送法4条の「政治的
公平」の解釈について、一つの番組だけでも、実際に放送局に電
波停止を命じる可能性に言及しています。これでテレビ局は震え
上がってしまったのです。
 しかし、高市総務相のこの発言には議論があるのです。なぜな
ら、地上波に関しては、本来番組内容を理由とした免許停止はで
きないのです。なぜなら、地上波の免許は、電波を発射する設備
すなわち「ハード」に対する免許であって、放送される番組(ソ
フト)に対する免許ではないからです。したがって、番組内容に
問題があるからといって、再免許を拒否できないからです。
 しかし、1993年のいわゆる椿発言問題(1月16日/EJ
第4683号参照)において、当時の郵政省は、設備免許でも電
波停止が可能であるとして、次のように発言しています。
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 もし政治的公平を定めた放送法違反があれば、電波法第76条
によって、電波を止めることもできる。    ──郵政省幹部
      ──砂川浩慶著『安倍官邸とテレビ』/集英社新書
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 高市総務相の発言は、この発言をベースにしたものと思われま
す。いずれにせよ、総務相がテレビ局に対し、「電波停止」を口
にすることは、テレビ局に対する最大の脅し以外のなにものでも
ないのです。まさにやってはならない露骨な圧力です。
 この椿発言によって、在京テレビ局各社は、自発的に社内に報
道のあり方を検討する組織を設けて、番組の自主管理に取り組む
ようになったのです。これは、完全にテレビ局の敗北であり、現
在のテレビ番組の惨状を招くようになったといえます。
            ──[メディア規制の実態/035]

≪画像および関連情報≫
 ●一番ガバナンスがないのは、新聞社だった/高橋洋一氏
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   世界基準で見てもこの日本のメディア構造は異常である。
  普通の国ではメディアも普通に買収される。経営者が代わる
  こともあるので、これが会社としてメディアとしての緊張感
  につながるのだ。
   たとえば2015年の11月に、日経新聞が、米フィナン
  シャル・タイムズを買収したことは記憶に新しい。日経新聞
  が、米フィナンシャル・タイムズの親会社だった英ピアソン
  から株式を買収して自らのグループに組み込んだのだが、こ
  れはごく普通の企業買収と言える。しかし日経新聞のほうは
  株式が譲渡できないから、決して買収されない仕組みになっ
  ている。そんなものは商法違反でないか、と憤る人もいるか
  もしれない。この状態を商法の適用除外にしているのが「日
  刊新聞紙法」なのだ。
   日刊新聞紙法はすごく短い法律で、正式には「日刊新聞紙
  の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する
  法律」という。名前に書いてあることがこの法律のすべてで
  「株式は譲渡されない」ということしか書いていない。新聞
  の既得権の最大のものと言っていい。普通に働いている人た
  ちには馴染みがないが、新聞社に務める人間ならみんな知っ
  ている法律だ。しかし、新聞社の人間でこのことを堂々と記
  事で書く人間はいない。新聞は企業の不祥事があった時に、
  「コーポレートガバナンスができていない」「社内制度が悪
  い」などと書き連ねるが、一番ガバナンスができていないは
  その新聞社なのだ。記者も、それが分かっているから日刊新
  聞紙法について恥ずかしくて書けないのだろう。
                   http://bit.ly/2sNJBGD
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日枝久フジテレビ会長.jpg
日枝久フジテレビ会長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | メディア規制の実態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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