2018年02月01日

●「なぜIS人質を救えなかったのか」(EJ第4695号)

 2015年、年初の安倍首相の中東訪問──事前に決まってい
た外遊ですが、2014年12月になって、後藤健二さんと湯川
遥菜さんがイスラム国(IS)に捕えられたという情報が入った
のです。正確にいうと、湯川さんがはじめに捕えられ、湯川さん
を救出しようと後藤さんがシリアに入り、後藤さんも捕えられた
ということになります。
 このような事態に、安倍首相はなぜ中東訪問を予定通り強行し
たのでしょうか。表面上は「テロリストとは交渉しない」とはい
うものの、どの国もウラでは救出に乗り出し、交渉し、救出に成
功したケースも多々あるのです。そういう意味で、中東訪問に合
わせてトルコを訪問し、親しいエルドアン大統領に救出の協力を
依頼する方法はあったと思うのです。
 古賀茂明氏は、このときの安倍首相の行動には、5つの疑問が
あると述べています。
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 前年の12月初旬までに後藤健二さんが捕虜になっていること
が夫人にメールで知らされたという事実を前提にすると、その後
の安倍総理の行動には、いくつもの疑問が湧いてくる。
 第一に、なぜ中東を歴訪したのか? 第二に、なぜ訪問国とし
て、エジプト、ヨルダン、イスラエルというアメリカの盟友ばか
り選んだのか? 第三に、なぜイスラム国と闘う周辺各国を支援
するなどといった誤解を招くスピーチを行ったのか? 第四に、
なぜ現地対策本部を、トルコでなくヨルダンのアンマンに置いた
のか? 第五に、なぜ政府は、後藤夫人のイスラム国との取引を
支援しなかったのか?       ──古賀茂明著/講談社刊
                    『日本中枢の狂謀』
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 私もそうですが、多くの日本人は、安倍首相が後藤さんたちの
誘拐を知らないで中東歴訪に出発したと考えていたと思います。
それなら、これまでの安倍首相の外交行動を知っている人であれ
ば、トルコに現地対策本部を置くのがベストな対応であると考え
たはずです。なぜなら、トルコは、イスラム国支配地域と国境を
接しており、イスラム国との裏取引ルートも多数持っていたから
です。実際に、トルコは、イラクのトルコ総領事館員ら49名が
イスラム国に拉致されたとき、彼らを無事に取り返すという実績
を上げているからです。
 しかし、安倍首相は、現地対策本部をヨルダンのアンマンに置
き、そこに中山外務副大臣を派遣しています。つまり、安倍首相
にとって最も頼りになると思われるトルコとは連絡をとっていな
いのです。古賀氏のいう4つ目の疑問です。
 ヨルダンのアンマンには、米CIAの拠点はありますが、それ
以外にイスラム国と交渉するうえでのメリットは、何もない場所
です。派遣された中山外務副大臣は、ほとんど救出のための行動
らしきことはほとんどしないまま、結局、後藤さんと湯川さんは
空しく殺害されてしまったのです。
 ここで後藤夫人の立場について触れておく必要があります。そ
もそもISからの身代金の連絡は、後藤夫人のところにメールで
届いています。後藤夫人が政府に連絡すると、「政府としては、
直接交渉に当たれないが、情報は速やかに上げて欲しい」といわ
れたといいます。官邸内に対策本部は置いたものの、政府は交渉
には直接タッチしていないと考えられます。ある意味において、
後藤夫人は“弱い立場”にいたのです。これについて、古賀茂明
氏は次のように述べています。
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 後藤夫人は、IICA(国際協力機構)という政府機関に勤め
ている。乳飲み子を抱えて、万一の場合、将来の子どもの養育の
ことを考えればその仕事を失うことは絶対にできない。したがっ
て、政府の命令には逆らえないし、批判めいた声を上げることす
ら許されない。
 中東専門の記者たちからの情報では、夫人はひたすら声を潜め
ながら、外国の支援者たちのサポートだけを頼りにそれこそ命懸
けといってもよい必死の交渉を行っていたのである。
                ──古賀茂明著の前掲書より
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 「テロリストとは交渉しない」──米国はこの姿勢を一応貫い
ています。しかし、米国以外の先進国ではそれはあくまで建前と
して、フランスやイタリアなどは、ISと裏取引して、人質を取
り戻しています。日本人の多くは、政府は何とかISと交渉して
後藤さんと湯川さんを救出してくれるだろうと期待していたと思
います。日本は、かつて「よど号事件」では「人の命は地球より
も重い」として、超法規的措置を講じてまで、人質を解放した国
です。2人の救出のために官房機密費を使ったとしても、それに
よって政権が支持を下げるとは考えにくいのです。むしろ、人質
を救出できなかった場合のリスクの方が大きいでしょう。
 しかし、後藤さんと湯川さんは空しく殺害されてしまったので
す。どうして、こんな結果になったのでしょうか。
 2014年12月初旬に、ISから後藤夫人に連絡が入って以
来、外務省を通じて米国防総省、国務省、CIAなどにその情報
は提供され、情報は日米で管理されることになったはずです。そ
の結果、日本の外務省は、「テロリストとは交渉しない」とする
米国の監視下で、ISと交渉せざるを得なくなったのです。当然
米国としては、裏取引によって巨額の資金がISに渡ることを警
戒したはずです。
 日本としては、これによって後藤さんたちの救出が非常に困難
になったことを意味します。身代金を支払わないで、ISが人質
を解放するとは思えないからです。逆に日本がトルコに現地対策
本部を設置した場合、米国は日本が水面下の身代金交渉で、人質
の救出をするのではないかと疑ったと思います。安部首相は、だ
から、本部をあえてガラス張りのヨルダンに置いたのです。
            ──[メディア規制の実態/019]

≪画像および関連情報≫
 ●後藤さん殺害で最悪の結末に、政府対応の検証に焦点
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   [東京/2月1日 ロイター]過激派組織「イスラム国」
  に日本人2人が拘束されていた事件は1日、湯川遥菜さんに
  続き、後藤健二さんも殺害されたとみられる動画がインター
  ネット上に投稿され、最悪の結果になった。日本政府は、2
  人の救出に最大限の努力をしてきたと強調するが、救出でき
  る道はなかったのか、今後は政府の対応の検証が焦点となり
  そうだ。
   政府が今回の動画を確認したのは、1日午前5時前後。後
  藤さんとみられる男性がオレンジ色の服を着せられてひざま
  ずき、そばに黒装束の男がナイフを持って立っている様子が
  映っている。その後、後藤さんが死亡したとみられる映像が
  続いている。
   動画の中で、犯行グループの男は、安倍晋三首相に対し、
  「勝ち目のない戦争に参加する日本の決定のせいで、このナ
  イフは後藤健二を殺害するだけでなく、さらなる日本人の殺
  りくを引き起こすことになる」と述べていた。
   菅義偉官房長官は1日午前の会見で、殺害されたのは後藤
  さん本人の可能性が高いとの認識を示したうえで「卑劣極ま
  りないテロ」とあらためてイスラム国を非難した。
   イスラム国の対応に対し、2人を惨殺するという「テロ行
  為」であると、国内では与野党を問わず、厳しく批判する声
  で一致している。ただ、2人の殺害は避けられなかったのか
  ──。その点については、政府に他の選択肢もあったのでは
  ないか、との声が一部で出ている。 http://bit.ly/2Erelzy
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在りし日の後藤健二氏.jpg
在りし日の後藤 健二氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | メディア規制の実態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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