2018年01月19日

●「TBSの編集を叱責する安倍首相」(EJ第4686号)

 2014年11月18日、安倍政権になってからのはじめての
解散の3日前のことです。安倍首相はTBSの「ニュース23」
に出演したのです。そのとき、番組では街角インタビューとして
次の質問をするVTRの映像を流しています。
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     景気が良くなっていると実感していますか
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 映像には、「景気が良くなったとはあんまり思わない」「景気
が悪いですし、解散総選挙して出直し」「アベノミクスは感じて
ない」「大企業しかわからへんのちゃうかな」という声が多かっ
たのです。これに対して、安倍首相は、次のように猛然と反論し
たのです。
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 これはですね、街の声ですから、皆さん(TBS)選んでおら
れると思いますよ。もしかしたらね。われわれが政権を獲ってか
ら、国民総所得はプラスになっています。マクロでは明らかにプ
ラスなんですよ。ミクロで見ていけば、色んな方々がいらっしゃ
います。中小企業の方々、小規模事業者の方々で、名前を出して
「テレビで儲かってます」って答えるのはですね、そうとう勇気
がいるんですよ。    ──安倍首相 http://bit.ly/2ENp6v0
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 これは明らかな首相の難クセです。街の声を聞いているのです
から、「マクロではプラスなんですよ」といってもはじまらない
のです。安倍首相にしてみれば、番組はVTRを編集して、「景
気の良さは実感していない」という人をわざと多くしているとい
いたいのでしょう。
 しかし、それは違います。2014年は、4月に消費税が8%
に増税されており、個人消費は大きく落ち込んでいたのです。景
気が良いと感じない人が多いに決まっています。質問された人は
正直に答えています。番組はそれを街の声として視聴者に伝えた
に過ぎないのです。
 問題なのは、官邸がこのTBSの番組作りを「放送法第4条第
4項」の違反であると、とらえたフシがあることです。おそらく
首相は相当怒って官邸に戻り、「テレビを何とかしろ!」と腹心
の議員に命じたと思います。これが、その直後の11月20日と
26日のテレビ局への圧力文書になったものと思われます。
 それでは、「放送法」第4条第4項とは、どのような条文なの
でしょうか。次に示します。
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(国内放送等の放送番組の編集等)
第4条
 一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 二 政治的に公平であること。
 三 報道は事実をまげないですること。
 四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角
   度から論点を明らかにすること。
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 「放送法」第4条は、確かにテレビ番組の制作者向けの条文で
す。TBSは街角インタビューで、おそらく正直に声をひろって
編集していると思います。首相が出演するからといって、まさか
安倍首相が怒るとは思っていなかったと思うからです。
 NHKテレビは、街の声をひろうとき、肯定的意見と否定的意
見の数を意識して揃えていると思われます。景気の実感について
は「実感しない」と「実感する」の声を何とか同数揃えようとす
るのです。なぜなら、同数であれば官邸から文句は出ないからで
す。しかし、そういう情報操作をすると、本当の声を吸い上げる
ことができなくなります。つまり、事実を事実として伝えること
ができなくなるのです。
 これは、第4条第2項の「政治的に公平であること」を守ろう
とした結果、第3項の「報道は事実をまげないですること」を守
れないことになります。そもそもテレビ局のVTRの編集にまで
総理大臣がクレームをつけるべきではないのです。そんなことを
すれば、「表現の自由」を冒すことになるからです。このことは
「放送法」第1条の違反になりかねないのです。これについては
来週のEJで取り上げて検討します。
 この安倍首相のTBSへの叱責について、古賀茂明氏は、著書
のなかで取り上げ、次のように述べています。
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 2014年には、安倍総理がTBSの番組に出演した際、街頭
インタビューの映像にクレームをつけている。「景気がよくなっ
ていると実感していますか」という質問に、「していない」とい
う答えが続出するVTRに怒ったのだ。そのことを国会で指摘さ
れると、安倍総理はこう答えた。「私にも言論の自由がある」。
 これは「迷言」どころか、ほとんどブラックジョークである。
そもそも、言論の自由は憲法によって国民に保障されたものだ。
「権力者によって言論の自由を抑圧されるということがあっては
いけない」と定めたものなのである。逆にいえば、権力者に対し
ては、言論の自由を抑圧してはいけない、権力を濫用してはいけ
ないという戒めなのである。
 安倍総理がTBSの番組に出演したのは、「安倍晋三という一
国民として」ではない。総理として、つまり、権力者としてであ
る。そんな立場の人間が、自分のいいたいことを思うがままに振
りかざしたら、それはすなわち権力の濫用であり、言論の自由を
抑圧することになる。総理が報道の内容にクレームをつけるとい
うことは、圧力をかけているということ以外の何物でもない。し
かし安倍総理には、そういう意識がまったくないのだ。
                      ──古賀茂明著
               『日本中枢の狂謀』/講談社刊
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            ──[メディア規制の実態/010]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相、TBS「街の声」に異議/「意図的な編集」
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   安倍晋三首相が、解散・総選挙を特集したテレビの報道番
  組で「街の声」を意図的に編集したのではないかと異議を唱
  えたことが、話題になっている。そのイライラぶりに、ネッ
  トでは批判的な声も出ている。
   解散表明の会見後、安倍首相は、テレビ番組などをハシゴ
  して精力的に説明行脚した。嫌いだとされる朝日系には出演
  せず、メディアを選んでいたようだ。TBS系の報道番組で
  ある「NEWS23」にも、安倍首相は一番最後になって出
  演した。父親で同じ政治家の故・晋太郎氏が毎日新聞記者出
  身であることから、毎日系のTBSも選ばれた可能性がある
  が、それは分かっていない。
   番組では、毎日新聞の岸井成格特別編集委員ら3人が安倍
  首相に対峙する形でインタビューが行われた。安倍首相はま
  ず、岸井氏らから質問を受けて、今衆議院を解散する理由に
  ついて説明し、アベノミクスはうまくいっていないとの指摘
  についても長々と反論した。しかし、岸井氏は、庶民の間で
  は景気回復が実感になっていないと指摘し、続いて、番組が
  事前に取材した「街の声」がVTRで紹介された。
   そこでは「株価が上がってきてアベノミクスの効果はあっ
  た」「解散・総選挙で民意を問うのはよい」といった好意的
  な声もあったが、「お給料は上がってない」「景気も悪い」
  「全然アベノミクスは感じていない」「大企業しか分からへ
  ん」など否定的なものが多かった。これに対し、岸井氏が何 
  か聞こうとすると、安倍首相はそれを制止し、次のようにま
  くし立てた。           http://bit.ly/2mLEiSD
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TBSを叱る安倍首相.jpg
TBSを叱る安倍首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | メディア規制の実態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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