2017年12月28日

●「Dウェーブを追う国産量子マシン」(EJ第4676号)

 Dウェーブのハードウェアはどうなっているのでしょうか。内
部を探ってみることにします。
 「Dウェーブ」と書かれた黒い大きな筐体のなかには、銀色に
輝く筒状の「希釈冷凍機」があります。そのさらに内部には、D
ウェーブマシンの心臓部である超伝導回路が収められています。
なぜ冷凍機を使うかというと、超伝導回路は、絶対零度(摂氏マ
イナス273・15度)に限りなく近い「20ミリケルビン」と
いう温度に冷やす必要があるからです。したがって、この冷凍機
のなかは「宇宙で一番冷たい場所」になります。
 Dウェーブは「磁束」を使っています。磁束は、磁石のエネル
ギー量子のことで、「磁束量子」と呼んでいます。何しろ目に見
えないし、手で触れることもできないので、ピンとこないでしょ
うが、子どもの頃に、やった遊びを思い出していただきたいので
す。紙の上に砂鉄を置き、紙の裏から磁石を当てるときれいな模
様ができる──これは磁束量子がそうしているのです。
 ところで、「超伝導」とは何でしょうか。超伝導は次のように
定義されています。
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  超伝導とは、ある種の金属や合金をきわめて低い温度に下
 げると電気抵抗がなくなる現象。MRIやリニア モーター
 カーその他に利用されている。    ──ウィキペディア
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 超伝導は面白い現象です。電気抵抗は摩擦と同じであり、電気
抵抗がゼロになると、電流は延々と回り続けます。ごくごく小さ
な超伝導物質の輪を作り、そこに電流を流すと、輪はいつまでも
周り続けます。輪の中心に目に見えない磁気が存在しているので
それを量子として利用します。磁束量子について、竹内薫氏は次
のように述べています。
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 磁束量子は、メチャメチャ小さな磁石みたいなものだ。それを
小さな超伝導物質の輪の中に閉じ込めると、輪の中を流れる電流
の回転方向(右回りと左回り)によって磁束の向きが反転するこ
とが分かるだろうか。つまり、それが今回の量子計算モデルに使
う「0」と「1」になる。ここでのポイントは、従来型の量子コ
ンピューター研究でデバイスに使おうとしていた、分子や電子、
光子ではなく、磁束だったことだ。他の方式には、大掛かりな装
置を使った難しい制御が必要だが、磁束は回路の電流の向きで制
御できる。           ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
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 添付ファイルの写真は超伝導回路です。ここには、量子コンピ
ュータにとって最も重要な「量子ビット」が実装されています。
量子ビットは、「ニオブ」という超伝導材料で作られたループで
ループに左回りの電流が流れると上向き、右回りに電流が流れる
と下向きの「磁束量子」が発生します。量子ビットのなかには上
向きまたは下向きの信号が流れるのです。なお、磁束量子とは、
物体に磁力をもたらすもので、磁束の最小単位です。
 Dウェーブマシンは、その後キュービット(量子ビット)の数
を大幅に増加させ、2015年には1152キュービット、20
17年には2048キュービットと、ほぼ2年ごとにその速度を
向上させています。
 Dウェーブ社はカナダを本拠地に持つ企業ですが、その技術の
中心である「量子アニーリング」は日本の技術です。これとは別
に国産の量子コンピュータの試作機も既にできています。国立情
報学研究所などが制作したもので、今年の11月20日の朝日新
聞によると、このマシンを無償で公開し、使ってもらう試みがは
じまっています。試作段階で公開して改良につなげ、2019年
度末までに国産での実用化を目指しています。記事の一部を以下
に引用します。
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 基礎研究は1980年代に始まり、日本の業績も世界的に評価
されている。国立情報学研究所や理化学研究所、NTTなどは、
内閣府の研究支援制度を使い、光ファイバーとレーザー光を組み
合わせた独自の方式を開発。計算速度は、理研にある小型パソコ
ンと比べて平均で約37倍速く、特定の計算では、Dウェーブよ
りも正答率は大幅に高かった。スパコンは冷却に多くの電力が必
要で、大規模な「京」では1万数千キロワットに及ぶ。今回の試
作機は、大型電子レンジ程度の1キロワットで済むという。
        ──2017年11月20日付/朝日新聞朝刊
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 この国産の量子コンピュータが実現すると、人工知能を実現す
る「機械学習」に必要な「組み合わせ最適化計算」を従来型のコ
ンピュータに比べて桁違いに高速化できる可能性があります。
 これは「2の5000乗回の繰り返し計算」を10マイクロ秒
で完了できるマシンです。2の5000乗は、10進数で約15
00桁の数になります。1秒間に1京回の計算ができる理化学研
究所のスーパーコンピュータ「京」を1京台集めて100億年計
算し続けたとしても完了しない回数の計算を一瞬で完了できる夢
のマシンとなる可能性をもっています。しかし、解決すべき課題
はたくさんあります。
 9月25日から書いてきた今回のテーマ「次世代テクノロジー
論」は今回で一応終了することにします。次世代テクノロジーと
いいながら、AI(人工知能)やブロックチェーンなどについて
は、取り上げていません。
 これらについては、新年において単独のテーマとして取り上げ
る予定でいます。長い期間にわたってのご愛読ありがとうごさい
ました。新年のEJの配信は1月5日からです。2018年も、
EJをよろしくお願いします。
        ──[次世代テクノロジー論/66]/最終回

≪画像および関連情報≫
 ●日本の「量子コンピュータ」に異議?果して本物か偽物か
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   内閣府の主導のもとで開発されたという日本発の「量子コ
  ンピューター」をめぐり、インターネット上で疑問が次々に
  沸き上がっている。その仕組みからして量子コンピューター
  と呼んでよいのかどうか、判断に困っている人が多い。
   量子コンピューターは、量子力学の原理を用い、従来のコ
  ンピューターでは難しい性能、機能を発揮する機器として期
  待が集まっている。以前は「量子ゲート方式」と呼ぶ仕組み
  の研究が主流として注目を浴びてきたが、最近は別の「量子
  アニーリング(焼きなまし)方式」で実用化したという製品
  も海外で登場してきている。
   大学のような研究機関だけでなく、グーグル、IBM、イ
  ンテルといったITの巨人も開発競争に加わり、また各国政
  府も動いている。米国などの存在感が強い分野だが、新たに
  日本発で登場したのが「量子ニューラルネットワーク」とい
  うもの。
   開発したのは内閣府総合科学技術・イノベーション会議が
  主導する革新的研究開発推進プログラムの山本喜久プログラ
  ム・マネージャーの研究開発プログラムの一環としてだ。参
  加しているのは、NTT物性科学基礎研究所、量子光制御研
  究グループの武居弘樹上席特別研究員、本庄利守主任研究員
  らのグループ、情報・システム研究機構国立情報学研究所、
  情報学プリンシプル研究系の河原林健一教授、加古敏特任准
  教授らのグループ、東京大学生産技術研究所の合原一幸教授
  神山恭平特任助教らのグループ。  http://bit.ly/2kUJClT
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Dウェーブの本体「磁束量子」.jpg
Dウェーブの本体「磁束量子」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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