2017年12月26日

●「世界初の量子コンピュータの誕生」(EJ第4674号)

 量子コンピュータの研究は1990年から世界中ではじまって
います。量子コンピュータとは、量子力学の原理を応用して計算
するコンピュータのことです。
 しかし、研究は遅々として進まず、実現は21世紀後半といわ
れていたのです。それは「量子ゲート方式」の実現にこだわった
からといわれています。量子ゲート方式とは、いわゆる論理演算
の量子ビット版です。論理演算は、AND、OR、NOTを使う
2進数の演算です。
 ところが2011年のことです。カナダの新興企業Dウェーブ
・システムズ社が、量子コンピュータの発売を宣言したのです。
世界初の商用量子コンピュータです。このコンピュータは、量子
ゲートではない、まったく別のアプローチによる量子コンピュー
タです。Dウェーブ・システムズ社とは、一体どういう企業なの
でしょうか。
 Dウェーブ・システムズ(以下、Dウェーブ社)は、1999
年にカナダのブリティッシュ・コロンビア大学のヘイグ・ハリス
教授の出資した数千ドルを元にして、同大学で博士号を取得した
3人組、ジョーディー・ローズ、ボブ・ウィーンズ、アレキサン
ダー・ザゴースキンによって設立された企業です。
 ジョーディー・ローズ氏は、量子力学を専攻していますが、量
子コンピュータに関する独自技術を持っていたわけではないので
す。しかし、社名のDウェーブは「d波」を意味し、高温超電導
に関係する電子軌道のことであり、量子ビットに高温超伝導体を
想定していたとされています。
 2007年にDウェーブ社は、現在のシステムのプロトタイプ
に当たる「オリオン量子計算システム」のデモをやったのです。
このシステムは、16キュービット(量子ビット)であり、ノイ
マン型コンピュータでは、2の16乗回かかる計算を1回でやる
能力を持っていたのです。デモでは、似たようなかたちの分子を
パターンマッチングしたり、パズルを解かせたりしたのですが、
デモに見学にきていたグーグルの研究者たちが強い関心を持った
といいます。
 そして2011年にDウェーブ社は、128キュービットの量
子計算システム「D-Wave One」を発売します。価格は1000万
ドル、当時の為替レートは1ドル=80円だったので、8億円ぐ
らいの価格です。しかし、この1号機は、米国の航空機メーカー
ロッキード・マーティン社が複数年契約をしています。
 翌年の2012年には、後継機の「D-Wave Two」/512キュ
ービットを発売すると、グーグル、NASA(アメリカ航空宇宙
局)、USRA(アメリカ大学宇宙研究協会)がこのマシンを共
同購入しています。
 Dウェーブ社、まさに快進撃です。しかし、当初は、作動原理
や性能などについて強い疑いが持たれており、「本当に量子コン
ピュータなのか」という疑念もあったようです。しかし、その疑
いは現在は晴れつつあります。従来型の量子コンピュータの開発
思想とDウェーブマシンとは、発想が完全に異なるのです。これ
について、竹内薫氏は次のように述べています。
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 あっさり言い切ってしまおう。従来型は量子チューリング・マ
シンを目指しているのだが、「D-Wave Two」は違うのだ。従来型
の基本は、論理演算の量子バージョン・量子論理を駆使して、量
子演算回路(量子ゲート)を組んで、並列計算を実行することに
目標を置いていた(量子ゲート方式)。
 しかし、「D-Wave Two」は、最初から的を絞った演算に特化し
たのだ。ようするに、最適化問題専用の量子コンピューターを創
ろうとしたわけである。ちょっと極端な喩えでいえば、従来型が
バベッジの解析機関(汎用コンピューター)なら「D-Wave Two」
は階差機関(階差計算専用機)に当たるのだ。しかし、最適化問
題専用といっても、その応用範囲は、メチャメチャ広い!
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
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 他社に先駆けてDウェーブマシンを導入した企業が何にこのマ
シンを使っているかについて簡単に述べます。
 米ロッキードマーチン社は、航空機のプログラムにあるバグの
検出にDウェーブマシンを使っています。たかがプログラムのバ
グ取りに8億円は高いと考えるかもしれませんが、何兆円もかか
る戦闘機の開発費用の約半分は、このバグ取りにかかるといわれ
ています。航空機にとってミスは命取りになるからです。
 グーグルは面白い使い方をしています。コンピュータを仕込ん
だメガネ「グーグルグラス」から送られてくる「意図のあるまば
たき」と「意図のないまばたき」を判別するアルゴリズムの開発
用に使っています。これは「顔認証システム」に使えるのです。
 NASAは、火星探索ロボットの行動計画の最適化や、宇宙ス
テーション内での実験スケジュールの最適化、ある対象物に関す
る複数の画像を融合して、意味のある画像を作るデータ融合など
に使っています。
 要するに、今のところDウェーブマシンは、何にでも使える汎
用マシンではなく、特定の目的に使う専用マシンを目指している
のです。量子ゲート方式を実現しようとするこれまでの量子コン
ピュータ開発とは違うのです。専用マシンとして用途を拡大し、
汎用化を目指そうとしているのです。
 ところで、Dウェーブマシンには「量子アニーリング方式」と
いう技術が使われています。アニーリングとは「焼きなまし」と
いう金属加工の技術です。この技術には日本の技術が使われてい
ます。量子アニーリング理論は、東京工業大学理学部長を務める
西森秀稔教授が提唱しています。この「量子アニーリング方式」
について、明日のEJで紹介します。
            ──[次世代テクノロジー論/64]

≪画像および関連情報≫
 ●「Dウェーブマシン」の商用利用が開始
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   グーグルは、膨大な数のコンピューターをもっている。百
  万台規模のサーヴァーが相互に接続され、地球上で最も高速
  で、最も強力な人工知能をつくり上げてきた。しかし、昨年
  の夏、この検索エンジンの巨大企業がNASAと共同で手に
  入れたハードウェアは、さらにも増して最強かもしれない。
  少なくとも、これほど不可解なコンピューターはない。
   カリフォルニア州・マウンテンヴューにあるグーグルプレ
  ックス(グーグル本社)から数百マイル離れたNASAエイ
  ムズ研究センター内に設置されたその機械は文字通りブラッ
  クボックスだ。高さ10フィートほどの、巨大な冷凍庫のよ
  うなその黒い箱の中には、ある革新的なコンピューター・チ
  ップが収められている。それは、一般的に使われるシリコン
  の代わりにニオブ(耐熱合金として使われる金属)でつくら
  れた微小なループ状回路で構成され、宇宙空間の150分の
  1という極低温に冷却されている。箱の側面には、その名前
  ──それは、開発した企業の名前でもある──が、SFチッ
  クな大きな文字で書かれている。「D-Wave」。
   この黒い箱は、最先端の物理学を応用して、現存するどの
  コンピューターよりも高速にデータを処理できる、世界初の
  実用的な量子コンピューターだと、企業の幹部は説明する。
  もしそれが正しいなら、革命的なブレークスルーだ。しかし
  それは本当なのだろうか?     http://bit.ly/2BGPutb
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Dウェーブマシン/量子コンピュータ.jpg
Dウェーブマシン/量子コンピュータ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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